仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ   作:大ちゃんネオ

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魔弾 前編

 狙撃事件、発生。

 自衛官や警察、猟師、反社会的勢力等、特殊な場合を除き、一般的には銃とは縁遠い日本において、狙撃事件はセンセーショナルな話題となった。

 被害者は秋田市在住の50代の男性。

 心臓を撃たれ、即死。

 銃声は聞こえなかったという。

 白昼、コンビニまで買い物に出かけたというところを狙撃された。

 即座に秋田県警が捜査を開始。

 まず疑われたのは、男性が反社会的勢力と関係があったのではという可能性。

 しかしこの男性は秋田市の職員で勤続30年。

 遅刻や欠勤もなく、真面目で誠実が服を着て歩いていると評されるような人物であった。

 他人から恨みを買うようなこともなく、狙われた理由は不明。

 無差別殺人の線が浮かび上がったが、何よりも大きな謎が現れた。

 狙撃地点と思われる場所から硝煙反応が検出されなかったのだ。

 更に、司法解剖の結果を聞いた捜査員達は耳を疑った。

 弾丸は摘出されなかった。

 そんなこと、普通はあり得ない。

 弾丸は正確に男性の心臓を穿っていたが、貫通はしていない。

 弾丸は男性の体内に残っていなければおかしいのだ。

 それがないとはどういうことか。

 捜査は難航し、一週間後。

 

 二射目が放たれた。

 場所は秋田県仙北市にある田沢湖。

 観光客が賑わうなか、30代の女性が撃たれ即死。

 またも司法解剖では硝煙反応なし、弾丸はないという結果に終わった。

 しかし、犯人が狙撃したと思われる地点を特定することは出来た。

 そこで捜査員は不思議なものを目にする。

 木に貼り付けられた東北地方の地図。

 秋田から岩手を横断するように描かれた線。五等分するように点が打たれ、二つ目の点だけ赤で打たれていた。

 犯人の残したものと思われ、秋田市でも同様のものが発見され、それは左端の点が赤。

 犯人の挑戦状であった。

 この地点で、人間を撃つと。

 つまり、あと三ヶ所で三人の人間が狙われる。

 秋田県警と岩手県警は合同捜査本部を設置し、捜査に乗り出す。

 そんな中、人間による犯行ではない可能性を考え、御守衆秋田支部と岩手支部も動き出していた────。

 

 

 

 狙撃事件のニュースは全国放送で連日取り上げられていた。

 消えた弾丸という不可解さが、マスコミからすれば格好のネタであった。

 そんなニュースを夜舞家の屋敷、執務室で見ていた咲希が報告書作成に追われる薫に訊ねた。

 

「ねーねー。これ、樹羅ちゃんが今行ってるけど、こんな報道されちゃって大丈夫かな?」

「よくは……ないな……」

 

 薫は若干不機嫌そうにパソコンとにらめっこしているが、リラックスしているようでもあった。頬杖をつき、指で頬を叩きながら薫は咲希の問いかけに答える。

 久しぶりに咲希と二人きりということもあり、すっかり男口調である。

 

「この事件が人間の仕業なら警察が逮捕して、裁判にかけて終わり……だが」

「だが?」

「化神だった場合、人知れず犯人は討たれるわけだ。ということはつまり?」

 

 手を咲希へと向けて、答えをどうぞと薫は振った。

 突然のことに慌てながらも咲希は考えて、少しずつだが返答していく。

 

「えーと、化神が倒されて、一件落着~……」

 

 笑顔を浮かべつつちらりと薫の顔を見るが、どうもこれは答えではないらしいと咲希は言葉を続けた。

 

「ええっと……化神が倒されて事件は解決……。あっ、犯人は警察には捕まらない?」

「そういうことだ」

「それって、あんまり良くないの?」

「全国ニュースにもなってる注目度の高い事件の犯人を取り逃がした……なんて聞いたら、咲希はどう思う?」

「うーん、私は化神のこととか知ってるからあれだけど、もし知らないままだったらやっぱり怖いと思う。もしかしたら、またどこかで事件起こすんじゃないかって思うし……」

 

 二人も撃ち殺した狙撃犯がどこかにまだいるかもしれない。

 それがもしかしたら近くにいるかもしれないと、特に事件が起きた秋田、これから起こるかもしれない岩手の住民はより恐怖を身近に感じるだろう。

 

「ああ。こんなに報道されれば余計にだ。社会不安は穢れの大きな要因になる……。だからこういう、人間の事件か化神の事件か分からない案件は難しいんだ。初動対応が遅れてな」

「そっか……。でも、これ以上誰かが死んじゃうよりは……」

「ああ。だから一刻も早く、化神なら倒さなければならない。化神じゃなかったら……」

「なかったら?」

「ボコって警察につき出す」

 

 その言葉に咲希は苦笑いを浮かべた。

 この、見た目には大和撫子と清楚の申し子のような薫が、狙撃犯をポコポコと殴って行動不能にし警察に渡すところを想像してしまったからだ。

 とはいえ、実際にこの案件を担当しているのは樹羅なのだが。

 

「そういえば、なんで樹羅ちゃん担当になったの?」

「オレが行こうと思ったけど、ばあさんが樹羅にも経験を積ませろって、県内だから行かせるってさ。それに、リンガはマイヤより感覚に優れてるから、飛び道具相手には有利だと」

 

 事件が起こる三ケ所目である盛岡市内に樹羅は赴き、化神の反応を探っていた。

 そして……今まさに戦闘中であった。

 

「でやぁぁぁ!!!!」

 

 林の木々をリンガが飛び抜けて、化神バケテッポウと取っ組み合い、枯れ草と黒土を巻き込んで地面を転げていく。木々の間からはダムが伺える。

 リンガとバケテッポウは共に立ち上がり、再び格闘戦を繰り広げると間合を離して睨みあった。

 バケテッポウは名の通り右腕が火縄銃のような形状で、それ以外の身体の部位は細身のエビのよう。

 白と褐色の迷彩模様のような体色のバケテッポウは、確かに一連の狙撃事件の犯人であった。

 

『チッ……しつこい。僕のゲームの邪魔をしないでよね』

 

 気だるげな若い男のような声でバケテッポウは言った。

 

「ゲームだと……! 人を殺すのがゲームなんて、ふざけんな!」

 

 怒り滾るリンガの鱗状の装甲が蠢き、血気を盛んに巡らせる。

 一度距離を取ったリンガとバケテッポウは睨み合い、互いの出方を見ていた。

 血の巡りが速く、身体が火照る。

 だが、この熱に支配されてはいけない。

 憎しみと怒りに囚われてはいけない。

 熱いまま、冷静に。

 鋭い爪をバケテッポウへと向けて、ジリジリとにじり寄り……。

 リンガはその高い瞬発力を活かして、バケテッポウへと急接近。 

 バケテッポウの左肩から袈裟懸けに爪による裂傷を刻み込むが、想像以上にバケテッポウの体表は硬く、あまり深い傷とはならなかった。

 

『ウザいんだよ』

  

 右腕の銃口が向けられた瞬間、リンガの胸部から大きな火花が散り、リンガは後ろへと吹っ飛んだ。

 

「ぐあっ!? ……マジで銃声がしねぇ、火薬の匂いも……!」

 

『見えない弾丸、避けられるかな?』

 

「調子に乗るなぁ!」

 

 リンガはバケテッポウが放った二発目を飛び起きて回避すると、高い運動能力を活かした疾走でバケテッポウに狙いを定めさせなかった。

 木々を飛び交い、地面を這うように駆け……。

 

「退魔覆滅技法! 飛爪森羅!」

 

『チッ!』

 

 地面を抉るようにリンガの爪がアンダースローから振り上げられる。

 飛爪森羅はこの世の様々なものを刃と変えて撃ち出すリンガの飛び道具。

 今回の刃は……土と落葉達であった。

 バケテッポウへと真っ直ぐ向かっていく飛爪森羅。だが、技を放つ時は場所が固定され狙いを定めやすい。

 バケテッポウもまた、不可視の魔弾を放っていた。

 

「ぐっ!?」

 

『ギッ!?』

 

 リンガは右肩から火花が上がり吹き飛ぶ。バケテッポウは飛爪森羅によって刃と化した落葉が身体に突き刺さっていた。特に、銃でもある右腕に。

 

『これじゃあ……くそっ! 仕切り直しだ!』

 

「っ……待てっ! ……うっ」

 

 逃げるバケテッポウを追跡しようとしたが、リンガは右肩を押さえて膝から崩れて変身が解除された。

 憎々しげにバケテッポウが去っていった方を睨み付けながら樹羅は左手でスマホを取り出し、操作。

 仲間達に連絡を入れた。

 

「すいません取り逃がしました! でも、右手の銃は使えなくしてやりました! ……はい。オレは大丈夫なんで、はい。このまま追跡します。はい、失礼します」

 

 立ち上がり、右手を軽く叩いてから追跡を始めようとする樹羅であったが。

 

「うわ!? サラシがさっきので破けて……くそこんな時に……ん?」

 

 どこかでサラシを直してあまり見せたくない本来の胸のサイズを隠そうと思った時であった。

 スマホに着信。

 今回の戦いをサポートしている平装士からかと思いきや、薫の祖母のセンからであった。

 

「もしもし? ……え? は? はぁ!?」

 

 センからの電話は、樹羅からすれば驚愕するしかない内容。

 電話を切った樹羅は行動予定を変更し、センのもとへと急ぐのであった。

 

 

 

 

 

 場所は戻り、夜舞邸の執務室。

 

「ふ~ん。そういえば、おばあちゃんも盛岡に行ったんだよね? お葬式だっけ?」

「葬式はもう終わってるから、線香あげにだな」 

「御守衆の人?」

「ああ、腕利きの技師で、ばあさんの旧い知り合い」

「ふんふん。おばあちゃん意外と知り合い多いな……」

「それ聞かれたら拳骨だぞ」

 

 本気の顔で薫が言うので、咲希は思わず自分の脳天が心配となり、さすった。

 聞かれていなくても、何故か後から拳骨を食らいそうな予感がしたからだ。

 恐怖に頭をさすりながらも、咲希は気になったことを質問した。

 

「技師さんってことはバイクの整備したりする人ってこと?」

「ま、最近はそっちが主流だけど、疑似退魔道具の製造、整備、改良で有名だった人だ」

 

 疑似退魔道具?と、咲希は聞き返した。

 

「退魔道具って、マイヤが使う武器とかだよね?」

「ああ。退魔道具は怨面と一緒で固有のものだから、もう新しく作ることは出来ないんだが……疑似退魔道具は別だ。こっちは平装士が扱うためのもので……まあ、量産品だな。真姫のクナイとかもそうだ」

「へえ~私にも使えるかな?」

「鍛練しないことにはな」 

「じゃあ鍛練する!」

「ダメ」

 

 あまりの即答に咲希は絶句した後、抗議した。

 

「なんでー!?」

「なんでって……」

 

 薫が言い淀んでいると、薫のスマートフォンが着信音を鳴らした。

 薫が画面を覗き込むとセンからであった。

 

「はい、薫です。はい……はい?」

 

 センからの電話を受けた薫の声には、困惑が滲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 リンガとバケテッポウが戦うよりも前に遡る。

 センは盛岡市材木町の住宅地の中にある町工場を訪れていた。

 一見普通の町工場であるが、御守衆に属し、御守衆からの仕事を請け負う工場。梶製作所という看板が懸けられていた。

 そこに隣接している民家の仏間にて、センは仏壇に手を合わせていた。

 線香の匂いが、部屋に満ちる。

 仏壇には最近撮られたであろう溌剌とした色黒の老年男性の写真。遺影が立てられていた。

 合掌を終え、振り向いたセン。振り向いた先には、30代ほどの青年が正座していた。

 梶秀夫。

 遺影の男性の一人息子である。

 

「すいませんわざわざ来ていただいて……」

「こちらこそ、葬式に出られなくて申し訳がない。体調があんまりね……。それにしても、源三には世話になった……」

「父もよく夜舞さんのこと話してました。自分が知るなかで一番の御伽装士だったと」

「じゃじゃ……まったく、私よりも若いのに先に死ぬなんてね……」

 

 仏壇の写真に目を向け、センは早々に立ち去ろうとした。

 そんな時に、ふと、気になった。

 

「もう納骨したのかい」

「えっ……え、ええ……」

 

 どこか歯切れの悪い返事であったが、センは特に気にすることはなかった。

 

「最近はアクセサリーにしたり、ダイヤモンドにしたりするんだってね」

「遺骨を、ですか。でも、遺骨って簡単に崩れるじゃないですか」

「大半の骨はね。でも、硬いところもあるんだそうだ。二割ぐらいは。……あ、そうだ」

 

 聞くべきことを思い出したセン。

 廊下を歩き、玄関口で言葉を交わす。

 

「そういえば、後継ぎは」

「それが……実はちょっと揉めてるところで。遺言も遺書もなくて……。あ、揉めてるって言っても全然で。弟子の皆さんで話し合いしてるところで……」

「そうかい。お前さんは……ああ、そういえば民間で働いてたね」

「ええ……」

 

 梶源三の息子、秀夫は父の跡を継ぐことを選ばなかった。

 一般人として、建築デザイナーという道を選んだのだ。

 

「自分で選んだ道で、源三もそれを認めたんだ。胸を張って生きろ」

「……はい」

 

 センの言葉に、少しばかり曇っていた秀夫の顔に晴れやかさが取り戻される。

 すると、秀夫は何か意を決したようにセンにあることを伝えようとしたが、間が悪く来客があった。

 

「こんにちはー!」

 

 明るい女の声と共に、戸ががらがらと開けられる。

 女は白洋社と胸元に書かれたシャツを着ており、センはクリーニング屋かと一人納得。

 丸顔で、たれ目。たぬきのような顔でニコニコとしており愛嬌がある顔立ちをしていた。

 

「晴美……ちょっと今お客さん」

「あ! すいませ~ん」

 

 秀夫から晴美と呼ばれた女はセンを見てバツの悪そうな顔を浮かべた。

 

「クリーニングならいつものとこだから」

「OK! じゃあ持ってくね!」

 

 そう言ってクリーニング屋の晴美は家にあがりクリーニングに出す衣服を回収して出ていった。

 梶製作所に勤める技師達の分もあるので結構な量である。

 

「それじゃあまたね!」

「ああ、よろしく」

 

 慣れた様子でやり取りし、大量の衣服を抱えて晴美は家を出ていった。

 そんな様子を見ていたセンが口を開いた。

 

「知り合いかい?」

「えっ?」

「気安い仲のように見えたからね」

「ああ、いや……幼馴染なんです。近所に住んでて、昔はよく父の工房に忍び込んだりしてて……。あっ、もちろん御守衆のこととかはバレてないです!」

「そうかい……。それじゃあ、失礼するよ」

「……はい。すいません、ありがとうございました」

 

 頭を下げる秀夫に目を向け、センは梶家を後にした。

 近くの駐車場に待機している真姫の父、五十鈴正人の車に乗り込む。

 

「お疲れ様でした奥様。まっすぐ帰られますか?」

「……なに、もう昼だ。盛岡に来たんだ焼肉でもどうだ」

「承知しました」

 

 黒のセダンが動き出す。

 センの要望を叶えるべく、焼肉屋へと向けて。

 車窓を眺め、流れ行く町の景色を眺めるセン。盛岡でも、センにとっては大都会。

 人生のほとんどを地元で過ごすセンは、こうしてたまの遠出で訪れる街の景色を眺めるのが好きだった。

 ちなみにこれまでで一番の遠出は京都の御守衆総本山。これは完全に仕事である。

 プライベートでの一番は修学旅行の東京。

 あの頃は修学旅行の費用を養蚕などのアルバイトをして学生自身が用意していた。センは別にアルバイトなどしなくてもいいぐらいお金のある夜舞家の一人娘だったが、母の百子が修学旅行に反対して金を出さなかったので、自分でなんとか用意して百子を黙らせたのだ。ちなみに舞夜の怨面は修学旅行中は百子に押し付けた。

 学友達と学校以外で何かをするという経験が少なかったので、アルバイトも修学旅行もいい思い出であるとセンは振り返っていた。

 ふと目に止まった、反対車線に停まっている白洋社と書かれた車。

 先程、梶家で出会った女と同じところか。なんなら先程の晴美という女かもしれない。

 よく働く、いい女だとセンは勝手に評価した。

 内心で他人を勝手に評価している最中、信号で車が停まった。

 センが窓の外に目を向けた時であった。

 歩道を歩いていた小太りの中年の男が突然腹をおさえて倒れたのだ。

 

「……正人、車寄せろ」

「はっ……?」

 

 正人に告げると、センは車から降りて倒れた男のもとへと駆けよった。

 男を仰向けに起こすと、腹部からは出血。

 それを確認したと同時に正人が駆け寄ってきたので即座にセンは正人に救急と警察に連絡するよう伝え、出来得る限りの応急処置、止血を始めた。

 膨れた腹を清潔なハンカチで押し付け、男に声をかけ続けた。

 意識は朦朧としており、危険な状態に見える。

 そうして10分ほどで警察と救急車が到着し、男は搬送されていった。

 そうして、手が空いた隙にセンはスマートフォンを操り樹羅へと電話をかけた。

 

「もしもし、樹羅か。狙撃事件が起こった。場所は材木町近くの……なに? 狙撃事件の化神と今戦ったばかり? それは本当か?」

 

 センは耳を疑った。

 恐らく、状況からして男は撃たれたのだ。

 しかし、銃声もしなければ硝煙の臭いもしなかった。となれば、樹羅に任せていた案件。

 そう思い連絡してみれば樹羅はたった今まで、狙撃犯である化神と戦闘を行っていたという。

 樹羅は今、綱取ダム周辺で戦っていた。

 この地点まではおよそ10kmの距離である。それが、たった今まで戦闘していて、取り逃がしたというが腕の銃には傷を負わせたという。

 それで、どうやって狙撃が出来る。

 化神のことだから人間の想像を上回ることなど容易い。だが、状況的にこの狙撃は人間の仕業なのか……。

 

「すいません事情をお聞かせいただきたいので署までよろしいでしょうか? その、お着物も汚れてしまっているようですし……」

 

 一人の若い女の刑事がセンにそう話しかけてきた。

 第一発見者なので当然かと、センは申し出に了承。

 だが、その前に家の者に連絡してもいいかと断りを入れて、薫へと電話したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 執務室のテーブルに盛岡市の地図が広げられていた。

 セン、樹羅からの情報をもとに、地図にピン代わりとして薫のバイブルとも言える漫画に登場するキャラクターのフィギュアが置かれていた。全員筋肉質で奇抜なファッションである。

 

「樹羅ちゃんがバケテッポウと戦ったのがここ、綱取ダム。そして、おばあ様がいたのはここ……。材木町から盛岡駅方面への道路」

「ダムから事件現場はおよそ10km。樹羅が化神を取り逃がして、先々代が樹羅に電話をかけるまで1分もあったかどうかという話です」 

 

 真姫の報告を聞き、薫は顎に指を重ねた。

 そして、バケテッポウ役のフィギュア、変わった拳銃を持った西部劇のガンマンのような男を綱取ダムから狙撃事件の位置まで動かすが、すぐに元の位置へ戻した。

 

「瞬間移動……なんて、出来るのなら樹羅ちゃんとの戦闘で使っていそうなものですね」

「じゃあじゃあ! ダムから狙撃したんじゃない!」

 

 咲希はダムから事件現場まで、指で直線を引いた。

 そんな咲希の意見に真姫が難色を示した。

 

「なんの障害物もない平地だとしても、8kmなんて距離を狙撃出来るとは思えない」

「それに第一、第二の事件の際の狙撃地点と被害者までの距離は二百メートルほどだったと」

 

 ここに来て超長距離とも言えるような狙撃をわざわざ行うだろうか。

 それもバケテッポウは手負いという状態で、と薫は付け加えた。

 

「まあ、そうだよね~。あ! 化神は2体いたんじゃないかな!」

 

 咲希の推測は真姫と薫もしていたところであった。

 真姫としてはその可能性が一番高いと思ったが、薫は別の可能性もまた考えていた。

 

「樹羅ちゃんは戦闘中、バケテッポウと言葉を交わしたようですが……。その時、バケテッポウはこの狙撃をゲームと言ったそうです」

「狙撃地点に地図を置いて、わざわざ予告までしていますからね……。人間を舐めてる……!」

「ゲームだから……もしかして2体の化神で競ってるかもってこと?」

「その可能性もありますが、樹羅ちゃんが聞いた言葉をより正確に言うと、"僕のゲームの邪魔をするな"という趣旨の発言をバケテッポウはしたようです。複数で競っている場合、僕のゲームなんて言うでしょうか?」

 

 言葉の綾かもしれない。

 しかし、僕のゲームという言葉を字面通りに受けとれば……。

 

「これまでの事件はバケテッポウの一人遊び。ということですか」

「その可能性が高いと私は思います」

「じゃあ、この事件は……」

 

 薫はテーブルの端に置かれた、もう一体の拳銃を握る、ヘルメットのように頭を覆う特徴的な帽子を被った男のフィギュアを事件発生現場へと置く。

 更にその傍らにマスコットキャラのような小さなフィギュアを並べ、薫は言い放った。

 

「模倣犯によるものと、私は考えています」

「しかし、それは……」

 

 真姫は薫の説に否定的であった。

 化神が起こした事件を模倣するなど、誰が出来ようか。

 弾丸なき狙撃事件など、たとえ化神でも。ましてや人の手で行えるわけがない。

 

「……なんにせよ、現場にいるおばあ様と樹羅ちゃんからもっと詳細を聞かなければ何も分かりませんが……」

「……そうですね。ところで薫様」

「なに?」

「フィギュアがまた増えているようですが?」

 

 真姫がまっすぐ薫を見つめる。

 薫は、目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警察の事情聴取を終えたセンと正人は病院へと向かっていた。

 狙撃された男性が搬送された病院に。

 何故わざわざそんなことをしているのかというと、驚いたことに被害者は御守衆の人間だったのだ。

 それも、梶製作所に勤める。

 御守衆の人間が被害にあい、それを御守衆の人間が救護したということもあり、岩手県本部の部長からセンに連絡があったのだ。

 そうして、到着した病院の待合室では御守衆の人間が集まっていた。

 

「あぁ、どうも夜舞さん!」

 

 人の良さそうな眼鏡の老人が御守衆岩手県本部の部長、早池峰清彦。

 かつては御伽装士としても活躍していた人物である。

 

「いやぁ、まさか夜舞さんが救護してくださったなんて」

「よもや撃たれたのが御守衆の人間だったとはね。……どういう奴だ?」

「ええ、技師で源三さんの後任に指名する予定でした」

 

 後任に指名する予定?

 たしか弟子達の間で話し合っているのではなかったか?

 秀夫の言葉をセンは思い出し、引っ掛かっていた。

 そのことで少し考えていると、御守衆の人間が三人新たに現れた。うち二人は格好からしてすぐに源三の弟子と分かった。

 そして、もう一人は明らかに技師ではなかった。

 年の頃は40代といったところ。

 髪はオールバック。スーツを着こなし、角型の眼鏡が見るものを貫く鋭い眼光をより強めていた。

 この場に彼が現れただけで、空気が張り詰めたものに変わるよう。

 しかし、早池峰はそんなこと関係なしに穏やかな調子でその男に声をかけた。

 

「あれぇ、青山君。どうしたのぉ」

「お疲れ様です部長。夜舞さんも大変でしたね」

「別に。で、お前さんが何の用だ」

 

 男の名は青山博也。

 御守衆岩手県本部で装士を取りまとめる部署の主任である。

 その彼が単に見舞いに来たというわけでもないだろうとセンは勘繰った。

 

「実は、彼から通報がありまして」

 

 梶製作所の一番若手の青年を指しながら、青山は言った。

 

「通報?」

「ええ。源三氏が生前、秘密裏に開発していたという疑似退魔道具が無くなっていると」

 

 それを聞いた早池峰と秀夫は当然驚いた。センですら、衝撃に目を見開くほど。

 

「そ、それは本当なんだね? どんなものなんだい、それは」

 

 早池峰が焦りを隠せぬ様子で源三の弟子達に訊ねる。

 弟子達は顔を見合わせると、通報したという若手の弟子が答えた。

 

「それが……対化神用の火縄銃だったんです……見た目は」

「見た目は?」

「でも、オヤジさんはほとんど別物だって。詳しいことは話してくれなかったんですけど、これがあれば御伽装士も戦いが楽になるって言ってて……。でも、まだ秘密にしておけよって言われたから、ずっと黙ってて……」

 

 申し訳ありませんと若手の弟子が頭を下げて平謝りするのを早池峰が宥めていた。

 その横で、センは思考を巡らせる。

 狙撃事件。盗まれた疑似退魔道具。

 タイミングが、出来すぎている。

 それを見越したからこそ、青山が直々に出てきたのだろう。

 

「例の連続狙撃事件は化神の仕業であった。しかし、今回の狙撃事件発生時には、御伽装士リンガがその下手人たる化神と戦闘をしていた」

「まさか、青山君……」

「今回の狙撃は、盗まれた疑似退魔道具によるものではないかと、私は考えています」 

 

 緊張が走る。

 化神と戦うための道具で、人に危害が加えられた可能性がある。

 今回は御守衆の関係者が被害にあったが、もしも、その銃口が世間一般の民間人に向けられるようなことがあれば……。

 人を守るための物が、人を殺めるかもしれない。

 

「青山君」

 

 人の良いほんわかとした雰囲気が、早池峰から消え去った。

 

「至急、人員を動員し調査にあたってくれ」

「了解しました」

 

 一礼し、青山は病院を後にした。

 早池峰は梶製作所の面々にも、命令を下す。

 

「梶製作所は活動を凍結。……秀夫君。君も、しばらくは身柄をこちらで預からせてもらうよ」

「……はい」

 

 何か言いたげだったが、秀夫は飲み込み、了承した。

 その様子を横目で見ていたセンは、ある決心をし、一度その場を離れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執務室はすっかり本格的に刑事ドラマで見るような捜査本部といった様相に様変わり。

 ホワイトボードには、関係者の顔写真と簡単なプロフィールが記載され、逐一情報が真姫の手で更新されていく。

 今も真姫は電話を取っているところだ。

 その様子を薫と咲希が眺めている。

 

「おばあちゃん、まさかしばらく盛岡に泊まるなんて。びっくりだね」

「ええ……。緊急事態ではありますが、そこまでとは……」

 

 薫もセンには驚いていた。

 まさか、本格的に調査に加わるとは。

 本来であれば監察のやることではあるが、センという岩手県内では影響力のある人物が動くとなっては断れなかったらしい。

 センから送られてきた情報を資料に纏め、薫達はセンの第二の頭脳となる。

 

「ええ、ええ……分かりました。ありがとうございます。……薫様」

 

 通話を終えた真姫が薫に報告した。

 

「なにか情報が?」

「県警にいる五十鈴の縁者から。事件発生現場近くのビルの屋上から地図が見つかったそうです」

「そう……」

 

 バケテッポウが予告に使っていた地図が出てきた。

 しかし、犯人はバケテッポウではない可能性が極めて高い。そうなれば……。

 

「模倣犯……」

「やはり、疑似退魔道具を盗んだ者の犯行なのでしょうか」

「それはまだ、なんとも……。その火縄銃型疑似退魔道具の能力が分からない以上、断定は出来ません」

 

 慎重に調べましょうと、自分にも言い聞かせるように薫が言うと薫のスマートフォンが鳴った。

 センからであった。

 

「はい、薫です」

「手術が終わったぞ」

 

 前置きもなくセンは始め、薫は息を飲んだ。

 会ったこともない人物の手術結果ではあるが、同じ御守衆の仲間。共に戦う者である。無事でいてほしいと、胸の内で祈る。

 

「成功だ」

 

 ひどく端的に伝えられたが、吉報である。

 薫は内心でガッツポーズすると、センが一本調子で続けた。

 

「弾は肋骨に当たったおかげ内臓には届かず致命傷とはならなかったらしい。……その弾は、摘出されなかったがな」

「……! そう、ですか……」

「硝煙反応も出なかったようだな。こうまでバケテッポウの犯行を再現するとは、源三め、とんでもないものを……」

 

 センは言葉に感情を乗せないように努めていたが、薫は哀しみを感じ取っていた。

 

「……おばあ様」

「……源三はね、最初はうちにいたんだ。技師見習いで入って、仕事覚えるのも早くて、可愛がられてたんだ。源三が来た時には楓も生まれてたねぇ」

 

 ご当主!

 俺、すっげぇ武器作って御伽装士を助けるのが夢なんです!

 

 ほう?

 なら、娘が後を継ぐ頃には完成させてくれ。

 

 ご当主が現役中にやってやりますよ!

 

 ふっ……私は間に合っているよ。

 

 センの脳裏にかつての源三とのやり取りが再生される。

 結局、この約束が果たされることはなかったなと寂しさを覚えた。

 

「源三は化神から人を守るための武器を造ろうとしていた。あいつの造った武器で人を傷つけるなんてことはね……」

「……ええ、そうでございますね……」

「……こっちは、梶製作所の人間の仕業という線で取り調べをしているよ」

「……そう、ですか」

「……また何か分かったら連絡する」

「お願いします。……おばあ様」

 

 家は任せたよと言って、センは電話を切った。

 幾何かの思考の後、薫は振り返り真姫達に告げた。

 

「撃たれた方は、助かりました」

「……! よかったぁ……!」

「それで、弾の方は」

   

 真姫の問いかけに、薫は首を横に振った。

 

「そうですか……。……盗まれた疑似退魔道具がこうもバケテッポウと同じ能力を備えているなんて……」

「……本当に、そうなのか?」

 

 ふと、薫はそう呟いていた。

 

「薫?」

「……あっ、いえ、なんでもありません……」

「ま、情報も少ないわけだし、あんまり考えてたら熱出ちゃうよ?」

「加藤の言うとおりですね。少し休まれた方が……時間的にも、ご入浴でも」

 

 薫は壁にかけられた時計に目をやる。時刻は夜8時になるところであった。

 

「……そうですね。勝人とお風呂にします」

「それではご準備を……」

「着替えの準備ぐらい自分でやりますから。真姫はここで待機していて。いつ、どんな情報が入るか分からないから。私が戻ってきたら、交代でお風呂に行って?」

「……承知しました」

 

 薫は執務室を出て、風呂へと向かった。

 部屋には咲希と真姫の二人が残る。

 

「加藤は泊まりか」

「そうだよー。薫と久しぶりにゆっくり過ごす予定でした」

 

 過去形で話しているが、嫌味は感じなかった。

 

「……すまないな」

「真姫さんが謝る必要ないでしょー。仕方ないことだし」

「仕方ないって……流石に嫌になるだろう。せっかくの時間もこうして潰されて」

「……まあ、そうかもしれないけどさ。私、好きだよ。薫が誰かのために頑張ってるところ。だから今回は近くで見れてラッキーって感じ」

 

 その言葉は紛れもない本心からであった。

 それを真姫もよく理解しているから、内心では咲希に頭が上がらない。

 御伽装士という闇に紛れ、孤独に戦う自分の主に生涯共に歩くことを誓った良き理解者が現れたことが、真姫にとって何よりの幸福であった。

 ゆえに、少しでもこの二人には時間を大切にしてほしいのだが、化神がそれを許さない。

 前にもまして多忙な薫を、真に癒せるのは彼女だけなのだから。

 その事実にほんの少し嫉妬もあるが、真姫はそれをそっと胸の内に秘めた。

 

「まったく、大した奴だ。加藤」

「もう~いい加減名前で呼んでよ~。名前で~」

「安心しろ。そのうちどうせ嫌でも咲希様って呼ぶことになる。それか奥様か?」

「うわぁ、やめて~。せめて真姫さんだけでも気軽に接して~」

 

 顔を見合せ、二人はリラックスした様子で笑いあった

 

 

 

 

 

 

 広い風呂に薫と勝人が一緒に浸かっていた。

 本来であれば事務作業をさっと終わらせて、咲希とゆっくり過ごすはずだったが結局慌ただしい一日となってしまった。

 とはいえ、自分は現場には出ていないので大したこともしていないのだが、頭を使ったせいか普段とは違う疲れを感じる。

 暖まっていく身体は解れていくが、頭の方は依然として謎に絡まっていた。

 薫はずっと違和感を覚えていた。

 もちろん、今日の狙撃事件についてだ。

 薫が気にしているのは、銃弾が見つからない、硝煙反応が出ないこと。

 そして、犯人の動機。

 何故、バケテッポウを模倣したのか。

 世間を震わすバケテッポウによる狙撃事件。当然、公には化神による事件とは知られておらず、犯人。つまり人の仕業として報道されている。

 梶製作所の人間が疑似退魔道具を盗み、バケテッポウの仕業と見せかけ同僚を狙撃した……。

 本当に、そうなのだろうか。

 何かが、引っかかる……。

 

「……きゃっ」

 

 思考の海に沈む薫の顔面に、お湯が飛んできた。

 手で拭うと、薫の正面で湯に浸かる勝人が手の水鉄砲で遊んでいた。

 

「こ~ら」

「わっ!」

 

 二発目を撃とうとしてくる勝人に向かって、すかさず薫は撃ち返した。

 

「へへっ! くらえー!」

「ふっ……」

  

 薫は首を傾げてお湯を避けると反撃。

 勝人の頬にお湯の弾が命中する。

 

「よけないでよー!」

「動体視力の訓練です。これぐらい避けられるようにならないといけませんよ。……それっ」

「わー!」

 

 微笑み、弟子との平穏な日常を楽しむ薫であったが、ふと自分の手に目が向いた。

 

「……水鉄砲も、弾は消えて硝煙反応も出ない……」

「……? ししょー?」

「……勝人。お風呂を出たら、私と探し物をしましょうか」

「? なにさがすの?」

「そうですねぇ……玩具箱を、ひっくり返します」

 

 玩具箱と聞いて、勝人の目が輝いた。

 これに目が輝かぬ子供はいないのだ。

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