仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ   作:大ちゃんネオ

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魔弾 後編

 盛岡に滞在するため樹羅に割り当てられた部屋は、極々普通のマンションの一室であった。

 御守衆が管理し、遠征で来た装士のために使われている部屋だ。

 そんな部屋なので、当然生活感のない物寂しい部屋である。

 簡易ベッドに寝転んだ樹羅は今日一日のことで頭がいっぱい。整理のためにぼうと天井を眺めていた。

 化神と戦い、取り逃がし、最低限、事件は起こせなくしてやったと思ったら狙撃事件は起きて、でもそれは盗まれた疑似退魔道具のせいかもしれない。

 情報量は多いが、一個一個整理して、取捨選択していく。

 やはり、自分が考えるべきはバケテッポウのことだ。

 リンガならば飛び道具にも強いと箔を押されて、いざ戦ってみれば弾には当たりまくり、取り逃がしてしまった。

 この件をサポートしてくれている平装士の面々は手傷を負わせただけ上々。気にするなと励ましてくれたが、やはり気分は良くない。

 取り逃がせば、また被害が出るかもしれない。

 だから早急に見つけて、倒さなければいけない。

 夜通しあちこち駆け回ってバケテッポウを探そうとしたが、平装士達から休んでいてと言われ、強引に部屋に押し込まれてしまった。

 

 捜索は自分達が行うから、ゆっくり休んで備えていて。

 

 なんだそれは。

 役立たずみたいじゃないか、自分が。

 やはり自分も捜索に加わろう……と思うのだが、それは仲間を信頼していないようだ。

 分かっているのだ。彼等の好意というのは。

 決して邪険にされて、何もするなと言われたわけではない。

 

「……あー!!! もうなんなんだよ!」

 

 髪を乱暴にかきむしり、行き場のない感情を身体を動かすことで発散させる。

 自分は頭を使うより肉体派なことなど、よく知っているのだ。

 

「……気晴らしに親父にでも連絡しよ」

 

 どうせこの時間はどこかで女と酒を飲んでいるだろうから邪魔してやる。そんな気持ちも一緒に電話をかけた。

 何コールで出るだろうか。待たせたら余計怒ってやると考えていたら、存外すんなりと竜は電話に出た。

 

「おおー樹羅。どうした」

 

 いつも通りの竜の声に、樹羅は肩透かしを食らった。

 酒が入っているようでもなければ、どこか静かな場所に恐らく一人でいるようだ。

 この時間に電話をすると、大抵はどんちゃん騒ぎが聞こえてくるのだが。

 しかし、話すのにはこれ以上ない環境である。

 

「あ、あー……ちょっと、リンガのこと、聞きたくて」

「おう」

 

 もっとくだらない話から入りたかったのだがと、樹羅は変に寂しくなった。

 

「親父はさ、見えない攻撃とか、化神とかと戦ったことあるか?」

「え? そんなんしょっちゅうだよ。なんせリンガは感覚が鋭いからな」

「うん……」

「なんだ? しょげてんなぁ。いいか、見えないものを見ようとするな」

 

 どこかで聞いたようなフレーズだが、今の樹羅にとっては大先輩からの大切なアドバイスであった。

 

「見えないものは見えないんだ。目だけに頼るな。匂いを嗅げ、音を聴け、手で触れろ、食らいついて味を覚えるのもいいぞ。第六感も大事だ」

「んだよそれ、勘じゃ……」

「────そうやって身体と神経を全部使って、初めて見えてくるものがある」

「え……」

「この世の全て、森羅万象を受け止めろ。今見えないのは、本当に見ようとしてないからだ。身体全部が目、鼻、耳、舌、手、神経になったと思え。集中だ集中。いいな?」

 

 なんと頼もしく力強い言葉だろうか。

 くそ親父だの、スケベ親父だのなんだのと呼んできたが、それでも三葉竜は立派な樹羅の父であり、師匠である。

 

「……ありがと」

「ははっ、しおらしいな。化神に負けたか~?」

「うっせー! 次は絶対に倒す!」

「ああ、その意気だ。頼むぜ、リンガ断絶なんてなったら、俺ぁ死んだ師匠に殺されちまう」

「んなことさせねえよ」

「お、言ったな。じゃあ結婚して子供産めよ」

 

 あまりに突然の話題の飛躍に、樹羅は開いた口が塞がらなかった。

 数秒の沈黙。

 自分が誰か(妄想相手は薫)と結婚して、子供を産む姿なんてものを想像したら、頭が沸騰してしまった。

 

「な、な、な……なに言い出すんだよ!?」

「だってさ~お前、どこにいるかも分からん鱗牙の後継者を探して引っ張ってくるよりさ、手前で子供産んだ方が絶対速いぞ」

「だからなんでそうなるんだよ! け、結婚とか、こ、子供とかそんなん早いっつうか……。あ……でも薫は高校卒業したらあいつと……」

 

 樹羅ちゃん……お先に失礼します……。

 

 イエーイ樹羅ちゃ~ん! 薫と幸せになりま~す!

 あ、子供デキちゃった☆

 

 ふふ……とても、幸せにございます……。(大きくなった咲希のお腹を撫でながら)

 

「ぐおおあああぁぁぁぁっ!!!!!」

「やばい、やりすぎたか? まあ、これで緊張とか諸々解れたか。ヨシ!」

「なにがヨシなんだよぉ……」

「お前も相変わらず乙女っつうか、なんつうかさ……。ほんとマジ、男装やめたら? 口調も直してさ、もう薫は咲希ちゃんと一緒になるって決めたんだからさ、お前も新しい恋を探してだな……」

「うっせぇバーカバーカ! どうせアタシはいつまでも失恋引き摺ってるめんどくさい女だよ!」

「よーしよしよし、そうだ、樹羅は女の子だ。今度、屋敷にプレゼント送るから。女の子が喜ぶやつ。だから、頑張ってな。じゃあな」

 

 ブツっと、足早に通話は切られた。

 あのくそ親父!と樹羅はスマートフォンを投げ捨てようとすると、着信。

 どうせ親父がテキトーなことを付け加えにかけたのだろうと思いながら画面を見ると、相手は薫だった。

 妙な話題のせいで変に意識して慌ててしまい、スマートフォンがドジョウかウナギのように手から抜け落ちてしまいそうになる。

 改めてしっかりスマートフォンを持ち直し、電話に出る。

 

「も、もしもし?」

 

 気持ち、声が高くなってしまった。 

 ダメだ、いつもみたいな低い声の出し方忘れた────。

 

「樹羅ちゃん……」

「ひぁっ!? うん、なに……?」

 

 うん、なに……?

 なに言ってんだ、そんな女々しい声なんか出して。

 でもいつもの感じが出てこなくて……。

 待って待って落ち着け落ち着け────。

 

「濡れましたか?」

「濡れ!?」

 

 なに言ってるんだ薫は!?

 待ってそんないくら薫とはいえ、でも薫なら……。

 

「樹羅ちゃん? 聞こえてますか?」

「か、薫……オレ……アタシだって、その……一応、女なわけで……」

「……? もう一度言いますね。バケテッポウに撃たれた時、濡れたりしましたか?」

「……へ?」

 

 バケテッポウに撃たれて濡れる?

 そんなこと、万にひとつもあり得ない。

 薫は何言ってるんだ?

 

「いや、濡れてないけど……」

「そうですか。やはり、水ではありませんか」

「ん?」

「ありがとう樹羅ちゃん。参考になりました。ゆっくり休んでくださいね。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ……」

 

 通話が終わり、少し煮だった頭が冷めてきた。

 ……。

 

「……変態だ、オレ……」

 

 夜の街に、獣が唸るような声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんでしょう、樹羅ちゃん……」

 

 樹羅との通話を終えた薫が心配そうにしていた。

 化神を取り逃がしてしまったことを、かなり気にしているのではないかと推測した薫。何か励ましの一つでもかけてあげればよかったと悔いた。

 しかし実態は樹羅の勘違いからの墓穴である。

 

「水鉄砲ではない……というのは、早々に予想していましたが……」

「水だったら絶対分かるもんね。服とか濡れちゃうし」

 

 高圧水流によるものという線は薄いだろうということは最初から予想済み。

 しかし、何かが引っかかると薫の勘が告げていた。

 ゆえに、咲希と勝人を連れて物置小屋で探し物をしているのだ。

 

「あ、水鉄砲!」

 

 勝人が開けた段ボール箱の中から緑色のプラスチック製水鉄砲が出てきた。いわゆる拳銃に似せたものではなく、アサルトライフルに似せた大型のもの。

 早速勝人は手に取り、目を輝かせている。

 

「来年の夏はみんなで海かプールだね!」

「うん!」 

「ふふ……」

 

 もう既に来年の夏を楽しみにする咲希と勝人が微笑ましく、薫は小さく笑みを浮かべていたが、水鉄砲と一緒に段ボール箱の中に入っていた物に気付いて、薫はそれを手に取った。

 透明なプラスチックの筒と棒。そして黄色い硬めのスポンジである。

 

「あ! 懐かしいそれ! 空気鉄砲!」

「なにそれ?」

「勝人も進級すればもらえるよ。理科の授業で出てくるやつで……」 

 

 咲希が説明し、薫が実演する。

 筒の両端に弾を嵌め込み、押し棒を押し込む。

 すると、小気味の良い音と共に弾が撃ち出された。

 

「このように空気の力で撃つもので……」

「わー! ししょーこれちょうだい!」

「薫?」

 

 薫は勝人に空気鉄砲を手渡すも、どこか上の空。というよりも、考え事に夢中といった様子。

 勝人が持つ空気鉄砲を見つめ、ある可能性が一つの説として完成しつつあった。

 

「……とりあえず、屋敷に戻りますか。冷えてきましたし」

「……そうだね」

「勝人、くれぐれも人に向けては撃たないでくださいね」

「はーい」

 

 水鉄砲と空気鉄砲を両手に構える勝人の気分はガンマン。

 薫と咲希に銃口を向け、口から銃声を放った。

 

「バン! バン!」

 

「「うっ!」」

 

 二人とも、ノリは良い。

 

 

 

 

 翌朝。

 事件に進展はないまま夜が明けた。

 早朝は冷え込むが、そんなことは関係ない。

 黒い墓石に上から水がかけられる────否。鼻腔をつんざく香りが周囲に満ちた。

 

「酒を呑めば温まる」

 

 梶家の墓の上、傾けられる酒瓶。

 とくとくと音を立て、注がれる。

 

「まったく、妙なことになった」

 

 センは夜も眠らずあれこれ考えてみたが、答えとなるものには辿り着けなかった。

 無理もない。証拠も何もかも足りていないのだから。

 ゆえに、最悪の想像ばかり浮かんできてしまう。

 

「お前が作ったものが、人を傷つけてしまったのか……?」

 

 人を護るためのものを造る。

 目を輝かせながら語る源三の姿を覚えている。老いてもなお少年のような瞳で真っ直ぐと己の夢へと向かっていくところをセンは買っていたのだ。

 だからこそ、源三の夢の結晶とも言えるものが、護るべき人を傷つけてしまっていたとしたらと考えると……。

 

「夜舞さん……」

「秀夫か……。どうした、こんな早朝に」

 

 秀夫はセンに近付き、墓へと視線を向けると意を決し、センに驚くべき事実を告げた。

 

「夜舞さん、そこに父はいないんです……」

「なに? どういうことだ?」

「盗まれたんです。遺骨を……!」

 

 流石のセンもすぐには飲み込めなかった。

 遺骨を盗むような輩が存在するのかと。

 また、どういった状況で盗まれたことを知ったのか。

 センはとにかく冷静に努め、秀夫に訊ねた。

 

「どうして、盗まれたと?」

「一週間前、ここに来た時に手紙が置いてあって、納骨室も開けられていて、中を見たら父の骨壺がなくなっていて……手紙には、口外したら父がお前を殺す、と……」

「……」

「きっと、祟りですよ、これは……」

「祟り?」

「僕は親父の跡を継がなかった! だから親父は……」

「馬鹿なことを言うな!」

 

 センは声を張り上げていた。

 あと十年若ければ手も出ていたかもしれない。

 

「昨日も言ったけど、源三はお前が選んだ道に進むことを認めたんだ。それをなに死んでから祟るだとか……お前の父はそんな器の小さい男だったか!」

「……ッ!」

「源三を信じろ。あと、私達もな。こんなことをした犯人を絶対に捕まえる」

「はい……!」

 

 力強く頷いた秀夫を見て、センは決意をより固めた。

 こんなことをする輩を絶対に捕まえ、何故こんなことを企てたのかを吐かせてやるのだと。

 そんな時に、センのスマートフォンが着信音を鳴らした。

 最新機種を慣れた手つきで操作し電話に出る。

 相手は早池峰だったが、ひどく焦った様子でいた。

 

「夜舞さん大変だ! 犯人が!」

 

 

 

 

ゲームの変更を告げる。

 これからは盛岡市内で無作為に狙撃事件を起こす。

 その証拠に、まず一人。

 

「盛岡市内にあるテレビ局や新聞社に同様の内容の手紙が送られ……」

「源三の弟子が、また一人……」

「現在、手術中です」

 

 御守衆岩手県本部の南部曲がり屋の中でセンは早池峰、青山からそう伝えられた。

 テレビも今はどこも同じ内容を放送している。

 

「無作為と言っていますが、これは明らかな御守衆への攻撃です」

「分かってるよ青山君……」

「梶製作所の人間は身柄を預かっていたのではなかったのか?」

「聴取の後、しばらくここで滞在することになったため着替え等を取りに行かせたところ、事件が発生しました。……迂闊でした、バケテッポウのやり方に合わせてくると思いましたから」

 

 謂わば、バケテッポウのゲームは乗っ取られてしまった。

 また、御守衆の人間を続けて二人も狙撃したとなれば御守衆に対する怨恨による犯行とも推測される。

 人を護る組織で、恨まれるようなことなどしていない御守衆ではあるが、善からぬことを企む呪術師を捕らえることもある。

 そこから恨みを買っている可能性もある。

 

「犯人像がまるで分からんなぁ……」

 

 困り果て、頬の汗を拭う早池峰に背を向けセンは薫へと電話をかけた。

 薫はすぐに電話に出て、こちらからもかけるところだったと前置いた。

 

「何か分かったのか?」

「小さな一歩、かもしれませんが……硝煙反応の出ない銃の仕組みが分かりました」

「なに?」

 

 これからちょうどその実験を行うところだと言うので、センは電話ではなくビデオ通話で話そうと提案した。

 電話は切り、ビデオ通話が可能なチャットアプリを開いてテーブルの上にスマートフォンを置き、早池峰と青山にも見えるようにした。

 電話向こうの薫はカメラ越しに早池峰達に挨拶をすると、カメラを外に向けた。夜舞家が所有する修行場である山の中にいるようだ。

 

「これは?」

 

 早池峰が映し出された黒い箱のような機械を指差し言った。

 

「エアーコンプレッサーのようですね」

「そうです。ごく一般的な業務用のものです。これにこの鉄パイプを組み合わせています。鉄パイプの中は専用の工具でライフリングを施してあります」

「ライフリング?」

 

 早池峰の疑問にまた青山が答える。

 

「銃の中に彫られる溝のことです。これがあることで、命中精度が上がっています」

「はい。そしてこの工具もまた、入手することは簡単です。……お願いします」

 

 薫は夜舞家勤めの技師にそう言って離れると、技師の全身が映るようにカメラを構える。

 また、技師の向こう数十メートル先には木の板が的として置かれていた。

 技師は薫にライフル用の銃弾を見せると、鉄パイプの中に入れる。エアーコンプレッサーを起動させ、重い駆動音をスマートフォンのマイクが拾う。そうして、狙いを定め……技師は、引き金を引いた。

 的は割れ、たしかな威力があることを示して見せる。

 早池峰達は驚きの結果に言葉を失った。

 

「これであれば、疑似退魔道具でなくとも、硝煙反応を出さずに狙撃出来ます」

「……ただ、これでは弾丸が見つからないことの説明はつかない。やはり、開発されていたという疑似退魔道具による犯行なのでは……」

「ずっと、気になっていたのです。犯行のタイミングについて」

「犯行のタイミング? どういうことかな薫くん?」

「犯人はバケテッポウの仕業に見せかけるために同じような狙撃事件を起こしたとしてです。肝心の犯行のタイミングでバケテッポウにアリバイが出来てしまっているのです」

「つまりバケテッポウに罪を擦り付けるのなら、バケテッポウにアリバイがないことが必要になる。しかしその時、バケテッポウはリンガと戦闘をしていた……そういうことですか」

 

 青山は薫が言いたいことに気付いたようだった。

 しかし、早池峰はまだ気付いておらず説明を要求する。

 

「仮に、御守衆内の人間が犯人であればバケテッポウとリンガが戦闘中ということを知ろうと思えば知れるのです。そして、バケテッポウにアリバイがない時を選ぶでしょう。しかし、恐らく犯人はバケテッポウとリンガが戦闘中であることを知らない。知る術がなかった」

「つまり、御守衆外部の人間が!?」

 

 薫は画面越しに頷いた。

 

「疑似退魔道具の性能が定かでないので断言は出来ませんが、いくら新型とはいえ鍛練せずに使える武器を造るとは思えません。外部の人間が犯人であると考えれば、疑似退魔道具を使いたくても使えない。ですので改造銃を使用したと考えるのが自然かと思われます」

 

 薫の推察に青山と早池峰はそれぞれ考えを巡らせていた。

 そんな中、センが口を開く。

 

「……薫。源三の遺骨が盗まれていた」

「遺骨が……」

「夜舞さん、どういうことですか」

「今朝、秀夫が教えてくれてね。言ったら父がお前を殺すと脅されていたんだ」

「それも犯人の仕業だとして……何故、源三氏の遺骨を……」

 

 センから遺骨を盗まれていたと聞いた薫は一つの仮説を思いつき、目を見開いた。

 

「弾は、無くなったわけではなかった……」

「ど、どういうことだい?」

「まさか……。病院に連絡! 摘出された骨をDNA鑑定に回すように手配を!」

 

 青山が控えていた平装士にそう伝えたことで早池峰も大まかに理解した。理解したと同時に、おぞましさから青ざめた。

 

「なんて罰当たりな……」

「しかし、遺骨は簡単に砕けるものでは。発射と同時に砕け散るはず」

「ほとんどの骨はね。ただ、硬いところもどうしたって残るんだよ、二割ぐらいは」

「体内で砕け散った骨と混ざりあって、消えたように見えていた。これが、魔弾の真相……」 

「突き止めなければ分からないがな。それに、犯行理由も分からない」

 

 まだ全てが仮説の段階。

 今まで推察関係なく疑似退魔道具による犯行であるかもしれない。

 疑似退魔道具ではない可能性をセンは欲していた。

 可能性は高まったが、しかし、思わぬ方向に最悪の可能性が出てきてしまった。

 いずれにせよ、犯人をこの手で捕まえなければ気が済まない。

 

「梶製作所の人間は」

「被害にあった二名以外は既に全員ここに。……いや、梶秀夫だけ仕事道具を取るため職場に!」

 

 センは即座に立ち上がり、襖を開けて出ていった。

 梶秀夫は御守衆ではないが、梶製作所の関係者ではある。狙われる可能性は充分にある。

 

「正人、車を」 

「はっ!」

「おばあ様」

「なんだ」

「もし、犯人がこの改造銃を使っていた場合、これだけの設備を持って即座に逃げることは不可能です。なので、犯人は車を使用している可能性があります」

「頭に入れておく。切るぞ」

「はい。お気を付けて」

「車、か」

 

 正人の車に乗り込み考える。

 車。

 盗難された疑似退魔道具、源三の遺骨。

 もしも、そうなのだとしたら。

 残る疑問は、今はやはり犯行理由だけ。

 逸る気持ちを抑えながら、センは流れる街の景色を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宛がわれたマンションのベランダで目を閉じ瞑想する樹羅。

 心地よい風に当たり、睡魔を呼び起こしそうだが、今の樹羅にそんなものは来ない。

 極度の集中。

 神経を研ぎ澄まし、潜む化神バケテッポウを探っていた。

 必ず、まだこの街に潜伏していると信じて。

 夜明けからずっとこうして数時間。

 その時が────。

 

「来た……!」

 

 風に乗る邪気を感じた樹羅はベランダからジャンプして隣のビルの屋上へと着地。

 更に建物づたいに追跡を開始。

 バケテッポウの銃口が火を噴こうとしている。誰かが犠牲となる前に、討つ!

 今度こそ、必ず。

 強い決意を胸に、樹羅は駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 路上に停められた白と青のバン。

 白洋社という知られたクリーニング屋の車を怪しむ者などいない。

 回収されたクリーニングに出された衣類。クリーニングが終わり返却される衣類。これだけが後ろのスペースにあったならば。

 松木晴美は、エアーコンプレッサーの電源を入れた。

 鉄パイプの銃身に、手製の骨の弾丸を装填し、助手席の扉を開けて狙いを定めた。

 梶秀夫が勤める事務所の前。秀夫が、外に出てきた。

 狙われているとも知らず。

 

「すぅ……っ……」

 

 引き金に指をかけ、深呼吸。そして、呼吸を止める。

 この、僅かな呼吸止めている間が、晴美の射撃タイミングであった。

 これまで、二人を狙撃した。

 これもまた当たる。

 そう確信し、引き金が引かれる。

 弾は……斜め上を飛んでいった。

 

「やはりお前が、魔弾の射手か」

 

 銃身が槍の穂先で無理矢理上を向かされた。

 白髪を結い上げた身なりのいい和装の老婆。しかし、その目は紅玉のように赤かった。

 晴美はこの老婆に見覚えがあった。

 昨日、梶家で会っている。

 

「なんで、あなたが……」

「奇遇だな。私もそれが聞きたかった」

 

 槍が下げられ、銃身はセンが握り締めた。

 老婆とは思えない、力強さで、

 

「私達は警察じゃないからな。逮捕は出来ないが、その罪は償ってもらうぞ」

「……御守衆」

「ほう? 知っていたのか。秀夫は知られていないと言っていたが」

「おじさん……源三さんにこっそり教えてもらってたんです」

 

 それも、まだ小学生の頃にと。

 源三の工房に忍び込んでは摘まみ出されていた少女時代の晴美は、源三が何を作っているのかを知りたかった。

 何度も忍び込み、いくら叱ってもはぐらかしても訪ねてくる晴美に源三は折れたのだという。

 

「物作りにずっと興味がありました。源三さんが真面目に、だけどとても楽しそうに物を作る姿に、私は憧れていました。源三さんの夢の、人を護るための武器を作る手伝いを、私もしたかった! なのに源三さんはそれを断って! 御守衆にも入れてもらえなかった……。そうしたら、秀夫君は源三さんの跡を継がないし、源三さんのところで働いてる人達は源三さんほどの腕もないし! 腹立たしかった……」

「だから、殺そうとした」

「私なら……私が源三さんの娘だったら、よかったのに……」

「ふざけたことを抜かすな。お前は源三を、源三の夢を汚したということが分からんのか!」

 

 センが声を荒げると、晴美は己が所業の意味を突き付けられ涙を流すしかなかった。

 泣いたとて、罪は洗い流せない。

 ともかく連行しようとセンがした瞬間、化神の気配を察知した。

 

『そいつか、僕のゲームの邪魔をしたのは』

「バケテッポウか!」 

 

 銃である右腕を弾ませながら歩くバケテッポウは不意打ち気味に見えない弾丸を放った。

 晴美が乗るバンに迫る不可視の、本物の魔弾。

 しかし、ここにはかつての御伽装士がいる。

 

変若(おち)蓬莱(ほうらい)……!」

 

 結っていた髪がするりと落ちて、白髪が赤みを帯びていく。

 皺だらけの肌にはハリが戻り、一瞬にしてセンの肉体年齢は二十代のそれに戻った。

 

「はあっ!」

 

 槍で不可視の魔弾を打ち払い、晴美を護るセン。晴美は一瞬で起こった信じられないことに身を固めていた。

 

「正人! 彼女を頼む!」

「御意。人払いは済んでおります」

 

 正人が晴美を連れて行くのを背後で感じながらセンはバケテッポウを睨み付けていた。

 

『若返りやがった……!?』

「さぁて、老婆と思って侮ってくれるなよ?」

 

 そうは言うものの、内心は思考速度を速めていた。

 まず当然ながら怨面はなく、変若蓬莱の術で若返っていられるのも制限時間がある。

 戦わなければ長時間保てるが、戦闘となれば保てて三十分が限界。それよりもっともっと早く限界が来るだろう。

 なので、なんとか早急に樹羅が来ることを願いたい。

 

「オン・バサラ・ソウシン・ソワカ! 唸れ、リンガ!」

『なにっ!?』

「ッ……変身! らぁっ!!!」

 

 バケテッポウを頭上から奇襲して現れたのは御伽装士リンガ。

 爪で頭部を斬りつけられたバケテッポウは悲鳴をあげて地面を転げる。

 樹羅=リンガ登場のまさかの速さにセンは驚いていた。

 

「樹羅! どうしてここが!」

「若いばあさんだ……。っと、気配辿って来ただけだ!」

 

 そんな真似が樹羅に出来たのかと、センは樹羅の成長ぶりに感心した。

 経験を積ませるために薫ではなく樹羅を寄越した甲斐があったと思うと、笑みを溢さずにはいられない。

 しかし、相手は難敵。油断禁物である。

 

「樹羅! 分かっていると思うが」

「見えない弾丸だろ! 昨日は見えなかったけど、今なら!」

『お前程度に破られるわけないだろ』

 

 放たれる魔弾。

 センはこれを殺気で正確に探知していた。

 今の樹羅に同じことが出来るとは思えない。

 そう、センのようには出来ない。

 だから、樹羅は樹羅のやり方で魔弾を攻略した。

 

「たあっ!!!」

 

 魔弾発射と同時に駆けるリンガをバケテッポウは笑った。

 やけっぱちかと。

 否。

 リンガは、放たれた二発の魔弾を掻い潜りバケテッポウへと肉薄した。

 

『なんでっ!?』

「企業秘密だ! らぁっ!!!」

 

 リンガはバケテッポウの胸部を爪で袈裟に切り裂き、その場で跳躍し両足で思い切り斬りつけた胸部を蹴飛ばした。

 近くの廃工場のフェンスを破り、転げるバケテッポウをリンガは追撃する。

 零距離でのインファイトを得意とするリンガは敵を捉えればその間合の内に入り込み、激しく攻めたてる。

 睨み付けた獲物は逃がさない。

 それが、リンガである。

 

「おらっ! おらっ!」

 

 マウントを取り、バケテッポウの顔面を殴り付けるリンガ。だが、バケテッポウは負けるつもりはない。

 この距離ならばと魔弾を密かに放とうとする。

 

「たあっ!」

『なに!?』

 

 魔弾は空を穿った。

 発射直前になって、リンガはその場から跳躍し廃工場を支える鉄骨に跳び移ったのだ。

 リンガには、魔弾どころか発射タイミングすら察知出来ていた。

 それは何故か。

 答えは簡単、温度である。

 僅かにだが魔弾は熱を帯びる。発射時には銃口周囲の温度が上がる。それをリンガは敏感に感じ取り、撃たれるより早く回避行動に移れる。

 竜の助言通り、集中し様々なものの変化などを感じ取れるリンガの前に、魔弾敗れたり!

 

『当たれよぉぉぉ!!!!!』

「乱射したって無駄だ! 退魔覆滅技法!」

 

 廃工場の鉄骨や壁を蹴り、飛び交いながらリンガは両手を合わせ、右手の甲を上にすると龍の口が開かれるかのように開帳。

 鋭い爪は、今は牙となる。

 緑色の揺らめくオーラがリンガから溢れ、やがてリンガを巻き込んで、龍が生まれる。

 

『な、なんだこれは!?』

「すぅぅ……牙龍纏成(ガリョウテンセイ)!」

『うああああ!!!!!!』

 

 龍を纏い龍と成ったリンガはバケテッポウへと突撃。バケテッポウを飲み込み、その牙によってバケテッポウは砕かれ爆発。

 着地したリンガは小さくガッツポーズすると、廃工場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 御守衆岩手県支部が所有する某所の地下牢で松木晴美の聴取が行われていた。

 早池峰や他数名も見つめるなか、青山が取り調べを担当している。

 動機はセンに語ったとおりだが、まだまだ謎は多かった。

 なにより、盗まれた疑似退魔道具が見つかっていない。

 

「改造銃を造ったのはあなたですか」

「……」

 

 滴る水の音と、どこからか吹き込む風の音しか聞こえなかった。

 

「……狙撃も、素人とは思えませんでした。しかし、あなたは自衛隊等の銃を扱う組織にいた経歴もなく、海外旅行先も銃を撃つことが出来る国に行ったわけではなかった。才能でもあったんですかね」

「……」

「黙秘、ですか。梶源三氏が知ったら、どう思うでしょう」

「……くん……」

 

 震えた声で、晴美は言葉を紡いだ。

 

「なんです?」

「訓練……したんです……」

「訓練? 一人で、このためにですか」

 

 青山の問いかけに、晴美は首を横に振った。

 

「ある時、誘われたんです……化神と戦う術を身に付けないか?って……」

「誰に誘われた!」

 

 晴美は質問に答えようとしたが、言葉に詰まっている様子だった。

 そして、なんとか絞り出した言葉は。

 

「あ、熱い……」

「熱い?」

 

 何を言っているのかと青山は訝しんだ。

 ここ地下牢は少し冷え込むぐらいで熱さなど感じる要素はない。

 ただ、晴美の様子がおかしいのは確かであった。

 

「痛い、かゆい……痛い痒い痛い痒い痛い痛い痛い痛い!!!!!!」

 

 叫びながら左肩を掻く晴美を取り押さえようと二人の平装士が駆け寄る。

 掻きすぎて晴美の左肩からは出血していた。

 

「どうしたんだ……!」

「ひっ……水……!? いやぁ!!! いや! 来ないで! やめっ……ひぃっ!? がっ……か、はぁ、ヒィ……」

 

 晴美は糸の切れた操り人形のように倒れる。平装士の一人が近付き、抱き起こす。

 平装士は、青山に向かい首を振った。

 

「何が、起こったというんだ……」

 

 魔弾事件の犯人はバケテッポウ、松木晴美。二人の死亡で幕を閉じた。

 まだ、多くの謎を抱えたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏も終わったというのに、ここはやけに暑かった。

 湿度も高く、じめっとした熱帯地域を思い起こされる。日本国内だというのに。

 まもなく二三〇〇。

 消灯の時間、だが。

 床の軋む音、かつかつとリズム良くこちらの部屋に向かって歩いてくる音が聴こえる。

 扉の前まで来ると、これまた明朗なノックの音が響いた。

 

「入れ」

「失礼します」

 

 凛とした声。

 髪は短く切り揃え、迷彩服の似合う美人がやって来た。

 きびきびとした動作で入室、扉を閉め、十度の敬礼。

 

「なんだ」

狗嚙神(イヌガミ)が発動しました」

「そう、か」

「対象は松木晴美。御守衆に気付かれたのやもしれません」

 

 御守衆に気付かれた、か。

 

「あんな温い組織でも、流石にあれだけやれば気付くか。だが……」

 

 机上に置いていたダガーナイフを投擲する。

 この女も慣れたものでピクリともしない。

 事務的に壁に突き刺さったダガーナイフを取りに行こうとするのを手で制して立ち上がる。

 突き刺さったダガーナイフを壁から抜き、その場でしゃがむ。床には、真っ二つに切り裂かれた蝿が一匹。

 上々だ。

 

「御守衆が俺達に辿り着く頃には、もうタイムオーバーだ」

 

 松木晴美。

 死んでしまったのは残念だが、最大の目標は果たしてくれたので問題はない。

 木箱の中に納められた火縄銃に似た疑似退魔道具を構える。

 なかなかしっくりくる。

 名工の逸品というやつか。

 

「銃型疑似退魔道具、業火……。これを量産すれば、我々は最強の隊に……」

「ああ。御守衆と俺達、この国を護るのに相応しいのはどちらかな」

 

 狙いを定める。

 まずは、本気で国を護る気のない無能な連中達からだ。

 雌伏の時は終わりにしよう。

 邪魔する奴等は尽くを斬って棄てる。

 ドッグタグと共に結ばれた蒼い怨面が、熱くなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いい穢れだね~』

 

 夜の盛岡市を、盛岡城跡から眺める人影があった。

 人影とはいえ、人の形をしている者が大半というだけだ。

 言葉を発したのは美しい顔の青年。少年とも呼べそうだ。

 透き通るような美白の肌に、冬の澄んだ夜空のような瞳。濡羽のような黒い長髪を一つ束に結い、黒地に椿が描かれた着流しを着こなす色男。だが腰には白鞘の長刀と短刀という現代社会には似合わない物騒なものを差していた。

 

『ツバキ、私ここ気に入ったわ! 穢れで満たしてやりたい!』

『バケテッポウってのは、案外役に立ったんだな』

『あの程度のに倒されては意味ないがな』

『えー? ユリは結構好きだなー。あのオトギゾウシ』

 

 ツバキと呼ばれた青年を中心に、ライダースーツを着こなす妖艶な女、ワインレッドのジャケット越しにも分かる鍛え上げられた肉体を持つ男、眼鏡と白いロングコートに身を包んだ青年、ニコニコと笑顔を絶やさない黒いセーラー服姿の白髪の少女。

 五人は、化神であった。

 

『君はどう思う、リンドウ』

 

 五人の背後にいた黒衣で全身を覆い隠し、紫の仮面で顔を隠すリンドウと呼ばれた人物にツバキが問う。

 

「……そうだな。ここを、バケザクラ開花の地とする」

 

 リンドウと呼ばれた人物は男であった。

 妖しく輝く仮面の瞳が五体の化神を見つめる。

 

「バケツバキ」

『ええ』

「バケハス」

『ふふっ』

「バケヒガン」

『おう!』

「バケアジサイ」

『ああ』

「バケユリ」

『あはっ、はーい』

「バケザクラが花弁(はなびら)桜花伍化神(おうかごけしん)よ。バケザクラ復活、開花の時は……近い!」 

 

 リンドウが宣言すると同時に雲が晴れ、研ぎ澄まされた鋭い刃のような下弦の月がリンドウと桜花伍化神を照らし出す。

 新たなる脅威が、胎動を始めた。




突然の来訪者。
少女達の戦いを見つめた瞳は更なる世界を見つめようとしていた。

次回「旅人」

「俺、丑川内人っていいます」





今回トリックの元ネタは相棒season2の第4話から
いつかちゃんとミステリーに挑戦したい!
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