仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ   作:大ちゃんネオ

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第三夜 合うか、合わないか 前編

 気温も上がり、外で身体を動かしたくなってきた頃、我が校では全校球技大会が開かれていたっ!

 

「1ーA勝つぞぉぉぉ!!!」

「うおおおおお!!!!!」

 

 クラスの熱気は凄まじい。

 一年生ながらに優勝を狙い、運動部を中心とした陽キャ達が盛り上げ、熱気にあてられた他のクラスメイト達も燃えている。

 

「ねえねえ()はなに出るの?」

 

 盛り上がるクラスメイト達を教室の後ろの方から穏やかな表情で眺める薫に訊ねる。

 そういえば、『夜舞さん』と前は呼んでいたのだけれど真姫さんから「名前で呼んであげた方が喜ぶ」と言われたので名前で呼ぶようにしたのだ。そうしたら薫も私のことを名前で呼ぶようになり、より仲良くなれた気がする。

 はじめて薫って呼んだ時の薫の顔は今でも覚えている。

 全機能が停止してしまったようなあの顔と来たら、今でも思い出して笑えてしまう。

 

「バドミントンに、出ることになっております。咲希は、何に出られるのですか?」

「私はバレーとバスケとサッカーとソフトボールと必要に応じて助っ人かな。ていうか薫、バドしか出ないの? 少なくない?」

「その……一応、男なので団体競技は控えようと思いまして……」

 

 小声で周りに聞こえないように説明してくれたがなるほど。実は男の子な薫が女子に混ざって何かするというのはやはり思うところがあるみたい。

 不公平かもしれない……いや、男子に混ざっても不公平になるだろう。

 薫の身体能力の高さはその細身で小柄な身体からは想像がつかないもので何をやらせても人並み以上になるだろう。

 薫が全競技に参加すれば優勝する確率は極めて高いと私は勝手に思っている。

 

「それに、蝶祭りも近いので、怪我をするようなことは控えるようにとも言われております」

「怪我することは控えろってそれ薫に言う? いっつもあいつらと戦ってるのに。そっちの方が断然怪我する確率高いじゃん」

 

 怪物、化神達との戦いは薫の日常となっている。

 最近は化神の出現頻度も増えているようで、お祭りの準備や練習、学校も普通にあってとここのところの薫は忙しそう。

 疲れている、とは薫は言わないが間違いなく疲労は溜まってきているはず。そういう事情もあっての判断か、バドミントンのみ出るということにしたのかもしれない。

 

「女子だけで写真撮るよー! 男子は廊下出ろー」

 

 このクラス一番のイケイケ女子である早川さんがそう号令をかけた。

 思い出作りの時間だ。

 

「薫行こ」

「はい」

「折角だし全員ジャージの裾結んでお腹出しちゃお」

 

 え。

 

「お腹出すの!?」

「うん。加藤もやろ。かわいいべ」

「い、いや~……最近ちょっと太っちゃって……。ねえ?」

「どうして私に伺いを立てるのです……?」

「夜舞はやれるでしょ。太ってないもんなぁ加藤と違って」

 

 本人に悪気はないのだろうが今のは流石にカチンと来たぞ。

 

「べ、別に言うほど太ってないしぃ! 全然お腹出せちゃうしぃ!」

「さっすが東京もんノリがいい! さてさてそれで夜舞はどうするのかなぁ?」

「わ、私はその……」

「薫もやるよ! ほら!」

 

 ばっ!と薫のジャージをめくり上げるとそこには白い美肌の大地が広がって……。

 

「え……待って夜舞ヤバ!? 腹筋割れてんじゃん!?」

 

 早川さんがそんなことを大声で言うものだからクラスの女子達が集結。

 薫の腹筋鑑賞会が始まってしまった。

 

「ほんとだ! うっすら割れてる!」

「意外! 夜舞さんて筋トレ女子?」

「うう……その、軽い運動を心掛けてるだけで……咲希も早く下ろしてください!」

「あ、うん」

 

 意外だった。

 いや、その、だって薫が変身する時は上脱ぐからお腹見られるのは平気だと思ってた。

 けどなんだその恥じらう表情は。えっちだぞ。

 

 

 

 

 

「薫ごめんって~」

「なんですか加藤さん。また、セクハラしに来たんですか」

 

 このとおり薫はまだ怒っている。

 ここまでの帰り道もずっと謝っているが許してもらえそうにない。

 

「変身する時は上脱ぐくせに」

「それとこれとは話が違え!」

 

 急に男口調になった。

 ということはつまり、周囲には誰もいないか薫が信頼している人物しかいないということ。

 それにしたって帰り道、外で男口調になるのは珍しいが。

 

「どう話が違うのさ」

「それは、その……あれだろ」

「どれなの」

「……だから、その、女子にあんな見られるのは恥ずいだろ……」

 

 ……。

 

「な、なんだよ黙って」

「ごめん。一瞬ムラッてきた」

「ムラッ……!? 女がそんなこと言うな!!!」

「あ、見てこれ綺麗な石!」

「話を聞け! まったく……」 

 

 ごめん、ごめんと謝罪をいれる。

 それにしてもこんなに青くて綺麗な石を拾うなんてラッキー。

 石を拾うなんて子供っぽいというかなんというかではあるけど本当に宝石みたいで綺麗だ。あと私、パワーストーンとか大好きだし。

 

「ねえ薫、このあとの予定は?」

「夜から夜舞神楽の練習がある。それまではまあ、鍛練とか……。あ」

「あ?」

「今日は華の先生が来る日だ……」

「はな? 耳鼻科?」

「そっちじゃねえ華道の華だ」

 

 あ、そっちかぁと石を見ながら思っていたが、え、華道?

 

「生け花やってみたい! 今日行っていい!?」

「駄目だ。初心者の体験教室みたいんじゃないんだぞ。そんじゃ、時間がちょっとヤバいから俺は急ぐ。また明日な」

「うん。またね~」

 

 走り去る薫を見送る。

 時間がちょっとヤバいと言っていたのは本当のようでだいぶスピードを出して走っている。

 それどころか森の中を突っ切って……カラスが数羽飛び去った。もしかしたら木の枝から枝へ飛び移っているのかも。

 相当急いでいると見た。

 

「さーて、私も帰ろ~っと」

 

 石はポケットにしまって歩き出す。

 私の家まではもうすぐだ。

 

 

 

 鼻歌を歌いながら歩く咲希を見つめる者がいた。

 茜色の空に浮かぶ影法師はニタリと笑みを浮かべ、薄暗い森の影へと姿を隠したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蝋燭の炎が照らす境内の中、舞う。

 手に持つのは木の棒。本番では夜舞神社に祀られている『厄除の槍』を持って踊ることとなる。

 厄除の槍は初代のマイヤがこの地で大暴れしていた化神を封印するのに用いた槍。最も古い退魔道具のひとつであるとされている。

 夜舞家の家宝でもあるこの槍を使いこなすことは真にマイヤとして一人前であると認められるために必要なこと。

 では何故、槍を使いこなすために槍術を習うのではなく神楽を舞うのか。それはこの神楽の中に()()()()()()()()()からだ。厄除の槍の力を真に引き出す技が。

 ゆえに、夜舞神楽の練習は先代マイヤと当代のマイヤ二人きりで行われる。当代のマイヤに神楽を教え伝え、当代のマイヤは神楽の中から技を見出だす。直接教えてはならない。あくまで、当代のマイヤが気付かなければならない。そして先代はその気付きに近付くための指導を、気付いたあとの適切な使用法を授ける。

 他者を介在させないのは神楽の中の隠された技を漏洩させないため。

 親から子へ、正しく一子相伝の技。

 

「薫、お前の舞いはかてぇ(固い)あれぇ(荒い)。もっと綺麗に、舞いなさい」

「はい、お婆様……!」

 

 続けて、舞う。

 夜舞神楽は何年もかけて完成させるものだという。

 私ももう夜舞神楽の鍛練を始めて四年目になるが、未だに完成には至っていない。

 お婆様は三年でものにしたらしい。

 母様は二年でものにしたらしい。

 既に、私は母様の倍の時間をかけてしまっている。

 そのことで特にお婆様から小言を言われたりはしていない。むしろ、「あいつはここ数代の中でも神楽の筋が良かったからな。気にするな」と言われている。

 母様を越えたい、という思いはまったくないわけではないがそちらは気にしていない。

 むしろ、気にするのはお婆様の方だ。

 もしも、私がこのままずるずると夜舞神楽の中の技を完全に習得出来なかったら。

 お婆様とて、いつまでこうして指導にあたれるか分からない。

 最近また薬の量が増えた気がする。

 私の前で薬を飲むことは決してしないが、袋の数は明らかに増えている。

 それに、お手伝いさんの話だと私が学校に行っている間は寝ていることが増えたという。

 年の割にはしゃんとして背筋も真っ直ぐ凛とした立ち姿をしていたが、最近腰が曲がってきた。

 いくら殺しても死ななそうなお婆様とはいえ、人はいつか死ぬ。

 必ず、死ぬ。

 お婆様が今すぐ死ぬということはないだろうが、だとしても、時間はかけられない。

 あまり好いているというわけでもないし、かといって嫌っているというわけでもないが、早く一人前として認められて、お婆様には楽してもらいたいのだ。

 

「薫、集中しな」

「はい……!」

 

 雑念が出た。

 そうだ、今は神楽に集中しろ、神楽と向き合え。

 そうしなければ、技を見出だすことなど出来ないのだから……!

 

「……今日はここまで」

「そんな、お婆様。私はまだ」

「夜舞神楽は焦ってやるもんでねえ。どれだけ時間かけてもええ。ちゃんと、確実に身に付けることが大切なんだ。むしろ、時間をかけるほどええんだ」

 

 時間をかけるほど、いい……?

 その言葉の意味を探ると、戸が叩かれた。真姫か。

 

「入れ」

「失礼します。警察から行方不明者が出たと連絡が。山菜を採りに山へ入ったとのことで迷ったのだろうというのが向こうの見解ですが、いかがいたしましょう」

「ふん……。念のため、うちの者を出すかね。正人に任せる」

「承知しました」

 

 命令を受けると真姫はその場から消え、任務に向かった。

 お婆様の言った正人とは真姫のお父さんのことで夜舞家の支援にあたる五十鈴家の現当主。

 真面目な人で、お婆様が捜索について任せると言うほど信頼されている。

 

「薫。お前もいつでも出れるようにしておけ」

「はい」

 

 こうして、夜舞家の夜が始まる。

 化神が関わっていなければいいけれど……。

 

 

 

 

 

 

 朝が明けても、行方不明者発見の報は入らなかった。

 真姫も学校を休んで捜索にあたっているけれど……。

 

「五十鈴を動かしても見つからないなんて、やはり化神が……。だけど、それなら化神の情報をなにかしら掴んでくるはず……」

 

 五十鈴家はこの地まで逃げ落ちた忍び達が集まり生まれた家であり、彼等を世話したのが夜舞家のご先祖様ということで夜舞家に仕えるようになった。

 人探しなど朝飯前でこれまでもそういった山の行方不明者に関しては警察やレスキュー隊よりも先に保護しているという確かな実績がある。

 そんな彼等が一日近く時間をかけても見つけることが出来ないなどというのは何かがおかしい。

 

「かーおーるー!」

「咲希……」

「もう。声かけたのに一人でさっさと行っちゃうんだもん。一緒に帰ろ」

「え……それは、申し訳ありません……。ずっと、考え事をしていて……」

「また化神絡み?」

「その可能性が高いと、私は思っていますが、手掛かりもなく……」

「そっかぁ。けど大丈夫でしょ」

「え……?」

 

 大丈夫でしょって、まだ化神かどうかも確定出来ていないというのにどこが大丈夫だとこの子は言っているのだろう。

 

「だって、薫が倒してくれるんでしょ? だから大丈夫だよ」

「それは……。しかし、絶対に化神に勝てるなんて保証はどこにも……」

「薫は勝つよ。ヒーローでしょ? 正義は必ず勝つ! だよ!」

 

 ああ、もう、簡単に言ってくれるんだから……。

 こっちがどんな気でいつも戦っているのかまるで分かっていない。

 ただ……それが、いい。

 咲希に理解してもらう必要はない。

 咲希に理解されたくない。

 咲希に私の背負ってるものを知られたくはない。背負わせたくはない。

 この子は、謂わば私にとっての平和の象徴だから。

 自由で、明るくて、仲良くしてくれて。

 本当は化神のことだって知られたくはなかったけれど、それでも少しでも自分(俺/私)のことを知っていてほしくてという矛盾もあって。

 

 加藤咲希。

 この子には私の近くにいてほしいし、遠くにいてほしい。

 

「あ、見て見てこんなところにバス停! 休んでこ! さっきおばちゃんからお菓子もらったから食べよ!」

 

 まったくどこまでも自由なんだから。

 それにこの道にバス停はないし、きっとまたなにか別のものをバス停と勘違いしているのだろう。

 

「咲希。この道にはバス停なんて─────咲希?」

 

 おかしい。

 なにかが、おかしい。

 すぐ隣にいたはずの咲希が、いない。

 そんな、馬鹿な。

 この一瞬で私が気付かないほどに気配を消してどこかに隠れるなんて一般人の咲希には無理だ。

 咲希がふざけて冗談でした~と出てくるだろうという考えが浮かばないのが不幸だ。

 さっきも言ったが彼女に私を欺いて気付かれずどこかに隠れるなんてことは不可能だからだ。

 ともすれば、こんなことを可能とするものは……化神。

 しかし、その化神の気配すらなかった。 

 では、一体どうやって……?

 

「薫様!」

「真姫……」

 

 どこから途もなく私の傍に着地した真姫は既に異常を察知しているようだ。

 

「下校中の薫様を見つけて、しかし様子がおかしかったので何かあったのかと……」

「咲希が……咲希が突然いなくなって……。私の隣にいた咲希が!」

「薫様落ち着いて。まずは、加藤がいなくなった時のことを思い出してください」

 

 私は冷静だと思っていたが真姫の目には違って見えたらしい。

 ならばきっと真姫の方が正しく私を見れているのだろうと深呼吸して心を落ち着かせ、ついさっきまでのことを話した。

 そしてやはり、真姫も同じところに疑問を持った。

 

「バス停……? この道にはなかったと思いますが」

「ええ。私も同意見です。この道はもう10年以上歩いてるから間違えるはずがない。ここにバス停はない」

 

 更に考察していこう。

 ここにバス停があるから休んでいこうと咲希は言った。

 休めるバス停となればベンチつきのバス停だろうけれどこの町にあるのはそんなものではなく古い木造のバス停である。入れて精々3人か4人といったぐらいの大きさの。

 国道に出れば見られるものだ。

 しかしそんなものと間違えるようなものはここにはない。

 あるのはガードレールと雑草、雑木。

 道幅もギリギリ車2台分ほど。

 バス停やバス停と見間違えるようなものはやはり……ない。

 では一体、咲希が見たものとはなにか。

 咲希はどこに行ってしまったのか。

 この謎を一刻も早く解かなければ……!

 

 

 

 

 

「ほら薫も座ろうよ。ちょっとボロっちいけどさ! ……ってあれ? 薫?」

 

 薫は周囲をキョロキョロと見渡している。

 なにをしているんだろう?

 私はここにいるというのに。

 

『────彼女は、僕とは波長が合わなかったんだ』

 

 その声の主は、いつの間にか私の隣に座っていた。

 驚きのあまり声も出せなかった。

 男は座高が高い。そして脚も長い。

 立ち上がった時、彼の身長はどれほど高いのだろうか。

 目鼻立ちもくっきりとして美しく、全身黒い衣装。首までかかった黒髪も美しい。

 第一印象はカラスのような人、であった。

 

『ようこそ僕の世界へ。ここには美しいものしかないんだ。この世界に入門することが出来た君は美しく、僕と美的センスが同じでそして……()()()()()()んだ』

 

「い、言ってる意味が分からないよ……」 

 

『あれをご覧』

 

 男は薫を指差し言った。

 

『彼女は僕らと波長が合わなかった。だから、僕らが見えていない。ほら、もう一人来たけど彼女もまた僕らと違ってセンスのない奴なんだ』

 

 真姫さん……!

 どうして、どうして私が見えないの!?

 こいつの言ってること全然分からな……そうか、この人はもしかして……。

 

「あなた、化神なの……?」

 

『へえ、化神のこと知ってるんだ。そう、僕はバケガラス。趣味は美しいものを収集すること』

 

 やっぱり、化神……!

 どうしよう、食われてしまう……。

 

『安心してよ、君は食べないからさ』

 

「え……?」

 

『折角波長があった仲間を食べて失うなんてもったいないだろう? 僕が人を食べる時は決まっていてね、()()()()()()()()()()()()()()。そう決めてるんだ。これまでずっとそうやって僕は生きてきた。だから、君も食べられたくなかったら美しさを保つことだね。けど、どうせだったらもっと美しくなろうよ』

 

「なにそれ……そもそも波長が合うってなに!? そんなの合ったつもりなんて全然ないんだけど!」

 

 そうだ、いつ、どこで、どうやって波長が合ったなんてこいつは知ったんだ。

 そもそも波長が合っているつもりなんて微塵もないけど!

 

『石、拾っただろう。青い石。あれ、僕が見つけたものなんだ。それを道に落として、誰かが拾うのを待っていた。けど、大抵の醜いセンスのない奴等は見向きもしないか見つけても道端の石ころとしか認識しない。けど君はそれを美しいと手に取り拾った。僕が美しいと感じたものを君も美しいと感じたんだ。これを波長が合ったと言わずしてなんて言う?』

 

 そんな……あの石がそんな……。

 じゃあ、あの石を捨てるとかすれば……もしかしたら!

 

『おっと、その石を捨てようだなんて考えるなよ。考えるまでならセーフだが行動に移したらアウトだ。君を醜い存在として始末するよ。そうして美しい僕に取り込まれ再び君は美しくなるんだ』

 

 イ、イカれてる……!

 化神なんて化け物にイカれてない奴がいるとは思えないけれど、その中でもこいつは特にイカれてる変態なんじゃないだろうか。

 化神のことは詳しくないけれど、薫だってきっとこいつを目の当たりにしたらそう思うに違いない。

 お願い、薫……助けて!

 

『君の友達は御伽装士だったか。見てよ、戦闘態勢に入った。周囲を警戒しているよ、ここに僕はいるのにね』

 

 愉快そうにバケガラスは笑う。

 なんとか、なんとかして薫と真姫さんに気付いてもらわないと!

 なにか……癪だけど、こいつと波長を合わせられれば!

 

『無理だよ。もう、この二人が僕と波長が合うことはない』

 

「え……どうして!?」

 

『さっきも言ったけど二人は戦闘態勢に入ったからだ。仮に君が彼女達の立場だったとして、そんな状態で美しいものを美しいと思えるかい?』

 

 それは、確かに緊迫した事態にそんな余裕なんて……。

 

『そう、余裕だよ。余裕こそ、美しいものを美しいと感じる心になる。君だって分かるだろう。余裕のない奴は醜いって。余裕のない奴はとにかく必死で、ひとつのことしか頭になくて、すぐキレる。余裕のない奴はこんなだから美しいものに気が付かない。世界にはこんなにも美しいものが広がっているというのに……。ああ、ここはいい場所だ。これまでいたどの場所よりも美しいもので広がっている』

 

「それには同意するけど……! 私を解放して! 人が一人消えるって大事なんだよ! あなたと美しいものについて語り合うことぐらいならいくらだってしてあげるから!」

 

『駄目だよそんな。この土地は美しいけど、人はやはり醜いから。そんなのにまみれてたら君も醜くなってしまう。だから、君を連れていくよ』

 

 バケガラスはゆらりと立ち上がる。そして、男の背中から翼が生えた。

 漆黒の翼が私を包むように迫る。  

 逃げ場はない。

 黒い、黒い闇が視界を覆い尽くし、私の意識もまた闇の中へと吸い込まれていった……。

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