仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ   作:大ちゃんネオ

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父子 後編

 顎門の開発区画にはその時、矢口技師一人のみでいた。

 谷山は薫から預かったアラシレイダーの研究、分析に一夜を明かすつもりで夕食、夜食等の買い出しに出かけて不在。

 矢口は一人残ってアラシレイダーの自我の制御に関して解析を進めていたところだったのだが。

 そこへ、足音が近付いてくる。

 谷山が帰ってきたものだと思い、振り向きながら少し怒ったように演出して口を開いた。

 

「もう〜帰ってくるの遅すぎで……」

 

 しかし、そこにいたのは谷山ではなかった。

 行方が分からなくなっていた技師の一人、原であった。

 原は失踪前と変わった様子はなく、怪我などもないようで厳つめの顔をニコニコとさせていた。

 

「は、原さん……。今までどこに……ッ!?」

 

 原の拳が矢口の鳩尾を打つ。気絶した矢口を支えると、原の背後から続々と黒い戦闘服の集団が現れる。原は矢口を戦闘員の一人に預け、意識のない矢口の顔の目の前でにこやかに言った。

 

「矢口くん、君も来たまえ。君も我等の思想に共感するはずだ」

 

 戦闘員は矢口を連れて行き、他の戦闘員達は顎門とそれに関する物品を全て運び出そうとしていた。

 だが、原には見慣れない物が鎮座していた。

 アラシレイダーである。

 

「見慣れない式神ビークルだ……。だが、これはいい物だ。ちょうどいい、これも持って行こうか」

 

 原が指示を出した瞬間、アラシレイダーのライトが点灯し車輪が唸る。

 原を轢き飛ばしそうな勢いでアラシレイダーは発進すると、一人でに工場内を駆け巡って戦闘員達を妨害していく。

 そこへ、黒い戦闘服を着た女が現れる。

 肩にかからないショートヘアは毛先が切り揃えられ、厳格な印象を女に与えており、事実彼女が指揮官のようであった。

 

「なにが起きている! 原!」

「わ、分かりません! こんな式神ビークルがあるなんて、私は一切聞いてない!」

「面倒な……。だが、ちょうどいいか」

 

 女は首に提げたドッグタグを引き千切るように手にする。ドッグタグに重なるように、紅い怨面がつけられていた。

 女は怨面を呼び起こし、紅い怨面は元の大きさに戻る。

 牙を剥く、怒りに顔を赤くした狗を思わせるような怨面に女は呪いを唱えた。

 

「オン・ガミエ・コウコウ・ギャン」

 

 女の身体に赤い紋様が駆け巡り、苦痛に顔をしかめる。

 厳しい訓練を耐え抜いてきた彼女ですら苦しむほどの痛みだが、声を絞り出し……。

 

「変身……ッ!」

 

 女が纏う朱色と紫の装束は全身に鎖の意匠が組み込まれた修験者のような姿。首輪をし、鈴を提げた戌の仮面は耳が真っ直ぐと立ち、唸り声が聞こえてきそうなほどの形相。

 彼の御伽装士の名は祈戌。

 御伽装士キジュツ。

 

「顎門の性能テストに使わせてもらうぞ。退魔道具、呪禁の瑞鈴」

 

 キジュツの手に握られる小さなハンドベル。

 顎門の元へ歩み寄り、その上で鈴を鳴らすと顎門のライトが妖しい紫の光を放ち、自律稼働を始めた。

 人喰い鮫の頭のようなカウルが鋼の牙を備えた巨大な口と化し、咆哮を上げる。アラシレイダーを標的に定めた顎門はブースターに火を灯し驀進。

 

「資材を運び出した者は下がれ! 巻き添えを食らうぞ!」

 

 キジュツは部下達に指示を出し、顎門とアラシレイダーの戦闘の余波で飛来した瓦礫を払った。

 式神ビークル同士の戦い。とは言うが、御伽装士の移動や機動力を補助するのが主目的なアラシレイダーと最初から戦闘を目的として造られている顎門では戦いにもならない。

 小回りと機動力に優れるアラシレイダーが顎門の攻撃を掻い潜ってはいるが、顎門の武装が火を吹き、牙で噛み砕こうと迫り続ける。一方的な戦いに、アラシレイダーはジリ貧。

 

「時間をかけるのはあまり良くないか……。はっ!」

 

 キジュツはそう呟くと跳躍し、顎門へと乗り込むとタッチパネル式のコンソールを操作し武装を選択。鮫の目のように配置されていた黒いカバーがスライドし、無骨な銃身が二本現れると円形の操縦桿を両手で握り締め、アラシレイダーへと狙いを定め引鉄を引いた。

 

【⬛︎⬛︎⬛︎ッ!】

 

 放たれる神通力の弾丸を回避し続けたアラシレイダーであったが、いよいよ回避が間に合わなくなり掠り始め、やがて一発の光弾が駆動部を貫いた。

 横倒れるアラシレイダーはぴくりとも動かなくなり、顎門はカウルの大口を開き、アラシレイダーを噛み砕かんと吼えた。

 

「充分だ。もういい」

 

 キジュツは顎門を完全に支配下へと置き、そのまま工場を後にした。

 先程まで轟音響き渡る様から一転、静寂に包まれる工場の中。谷山が慌てた様子で駆け込んできた。

 買い出しに出ていた谷山は、ちょうど近くまで戻ってきていたところで襲撃に気付き、身を潜めていたのだ。

 

「くそ! 矢口くん! 無事か!? ……! アラシレイダー!」

 

 倒れていたアラシレイダーに気付き谷山は駆け寄る。顎門にやられ、ぴくりとも動かなくなっていたアラシレイダーであったが、ライトを点灯させてカウルを谷山へと向けた。

 

「もしかして、死んだふりをしてたのか?」

【⬛︎⬛︎】

「ははっ……。君は、頭がいいんだなぁ……!」

 

 この惨劇の中で無事だったものを見つけて思わず笑顔を溢す谷山。

 しかし、アラシレイダーがそうせざるを得なかった理由に気が付き、改めて気を引き締めた。

 

「この損傷は……顎門にやられたのか! くそ、修理は……」

 

 アラシレイダーは自力で起き上がれず、走ることが現状では不可能であった。

 それに気付いた谷山は工場中を駆け回り、瓦礫をどかし、工具箱や持ち去られていないパーツを持ち寄ってアラシレイダーの修理を始めようとした。

 技師ゆえの行動であったが、修理に取り掛かろうとした瞬間に優先順位の整理がついた。

 

「夜舞さんに連絡を……!」

 

 そして、今に繋がる。

 

 

「アラシレイダーが……そんな……。すぐに向かいます!」

 

 とにかく緊急事態。恐らく、擬似退魔道具盗難と技師連続失踪、そしてお父様を連れ去ろうとした連中が一気に動き出した。

 今やるべきことはまず、あちらの工場へと向かって状況を確認して、こちらの支部の方々……いえ、もう近隣の支部へは緊急要請を出して警戒を……。

 

「おる……薫!」

「っ……お父様……」

「アラシレイダーに何かあったのか?」

 

 お父様は私を落ち着かせようとしてくれているのか、優しくゆっくりと訊ねてくれた。そのおかげで、私も少し落ち着くことが出来たと思います。

 

「お父様……。恐らく、お父様達を襲った連中の別働隊が近隣の工場を襲撃して、式神ビークルの強奪と技師一名の誘拐を……。そして、アラシレイダーが破損したと……」

「なっ……」

 

 アラシレイダーの生みの親たるお父様にとってもショックが大きい報せ。けれど、お父様は強さを宿した瞳で私を見つめていました。

 

「薫、俺も行く」

「なっ……あなた!」

「お父様……! お父様はもう御守衆では……」

「そうよ! あなたはもう普通の人でさっき襲われたばかりなのよ!」

「そうです……。お父様が関わるようなことでは……」

 

 そうだ。

 お父様はここで幸せに暮らしていたのだ。

 化神とも、御伽装士とも関わりのない。普通の暖かな家庭を持つ父親として。そんな方を、私達の世界へと関わらせるのは、良くないこと。

 

「そうかもしれない……。けど、そいつらが奈緒と香織を襲った奴等と同じだっていうなら俺は家族を守るためにそいつらを捕まえなきゃいけない。それに、薫とアラシレイダーは俺の子だ。子供を助けるのは、親として当たり前のことだ」

「お父様……」

「奈緒、香織を連れて今日はお義父さんのところかどこかホテルに泊まってくれ。車を出してくる」

 

 お父様は有無を言わさぬうちに部屋を出てしまった。

 残された奥様とカオリちゃんはそんなお父様の背中を見つめていました。そんな御二方を見つめていると、カオリちゃんが私の方へと歩み寄って来ました。

 

「お姉ちゃんは、カオリのお姉ちゃん……なの?」

「……そうですね。半分はそうです。それと、実はお姉ちゃんじゃなくて、お兄ちゃん。なんです」

 

 そう言うと、カオリちゃんは首を傾げていました。

 仕方ありませんが、微笑ましくて笑ってしまいます。

 

「お父さん、危ないところに行くの? お姉ちゃんも?」

「……ええ」

「お父さんのこと、守ってあげて。たぶん、お姉ちゃんの方がお父さんより強いから!」

「……ふふ。はい、承知いたしました」

 

 それではと背を向けると、今度は奥様に呼び止められる。

 

「待って……。あの人のこと、お願い……」

「ええ。必ず、お父様は皆様の元へお帰しいたします……」

 

 一礼し、今度こそ外へ。お父様の車の助手席に乗り込み、工場へと急いだ。

 車内で近隣の支部への連絡を行い、緊急配備を要請。

 忙しなくしている間に工場へと辿り着き、お父様は自前の工具箱を手に工場内へと足を踏み入れた。

 

「ひどい……」

 

 激しい戦闘が行われた跡の中、谷山さんが懸命に作業を続けていた。

 急いで駆け寄り、父と共にアラシレイダーの様子を確認する。

 

「アラシレイダー……!」

「夜舞さん……それに、あなたは……」

「俺は薫とアラシレイダーの父です」

「あなたが……!」

 

 憧れの人との対面に目を見開く谷山さんを気にも留めずお父様は冷静にアラシレイダーの状態を訊ねた。

 

「状況は?」

「想像よりも損傷は大きくありませんでした。致命的な部位への攻撃は外れていて……」

「外れたんじゃない。外したんだ、アラシレイダーが。恐らく攻撃を避けられないと判断して、一番ダメージが少ないようにしたんだ。お前は頭がいいからな……!」

 

 お父様が笑顔でアラシレイダーを撫でると、アラシレイダーも嬉しそうにライトを点滅させる。

 

「ここからは俺が。助手をお願い出来ますか?」

「はい……!」

「お父様……」

「安心しろ薫。すぐに直る。交換パーツは?」

「一通り揃っています!」

「よし」

 

 お父様の作業スピードは早い。迷いがない。アラシレイダーを知り尽くした人であるからこそ。十年ぶりに触れるというのに、まったく衰えた様子はない。

 

「薫、アラシレイダーの優れているところはなんだ?」

「それは……悪路での走行性能、小回り、機動力でしょうか」

「ああ。まあ、言ってしまえばオフロードなら皆そうなんだがアラシレイダーはその究極を目指したと言ってもいい。それじゃあ、式神ビークルとしての優秀さは何だと思う?」

 

 式神ビークルの優秀さ?

 

「頭の良さ、でしょうか?」

 

 アラシレイダーは従順で、咄嗟の判断も正確。

 アラシレイダーの技術を取り入れたフブキホッパーは少々やんちゃというか、悪戯好きというか、どこか子供じみたところがあるように思ったのもあってか、この子は頭が良いと私は思うのです。

 

「それもある。山道や林の中を突っ切るのに、アラシレイダーの頭の回転と判断力は欠かせない」

「それも、ということは他にも?」

「ああ。簡単に言えば、アラシレイダー自体は既存の技術の塊ということだ。式神ビークルは御守衆独自の技術力で開発されたものがほとんど。それに、管轄ごとに分かれて各御伽装士にあった式神ビークルが開発されていった。すると、どうなる?」

「地域ごとに特色のある式神ビークルが生まれたということですね!」

 

 谷山さんの解答に満足いったのか、お父様は笑顔を浮かべる。それでもやはり作業の手は止まらない。

 故障箇所を流れるように分解していく。

 

「そういうことだ。豪雪地帯なら雪道に強いマシンが求められるし、都市部なら舗装された道向きのマシン。総本山付きのあちこち駆け回るような御伽装士には長距離向き。他にも、御伽装士の特色によっていろんなマシンが生まれるわけだ。ガラパゴス的って言うのかな、こういうのは。そうすると整備にそれぞれ専門の技術が求められるわけだ」

「その点、アラシレイダーは私でも難なく修理作業が行えていました。整備性は最高ですよ!」

「山道、林、川、岩場、海辺、冬には雪も降る。悪路と呼べるものはほとんど経験するようなところを走るアラシレイダーだ。整備はとにかくしやすい方がいいと思って設計したんだ。それが、薫が総本山付きになってこういう場面で役に立つとは思わなかったけどな」

 

 そう言ってお父様は私に微笑みかけてくださいました。

 それがなんだか、お父様に認めてもらえたような気がして、たまらなく嬉しくなるのです。

 

「若い頃、あちこちの支部を回っていろんなマシンに触れて思ったんだ。もしも自分が式神ビークルを作るなら、未来の御伽装士や技師、御守衆に何かを遺せるようなものにしようって」

「お父様……」

「烏滸がましいとは思うが、教科書みたいなマシンを作りたいって思ったわけだ。……よし、これでどうだアラシレイダー!」

 

 お父様はアラシレイダーの車体を起こすと、アラシレイダーはライトを激しく輝かせ、唸りを上げた。

 アラシレイダー、復活……!

 

「アラシレイダー……!」

「すごい……こんな短時間で!」

「さっきも言ったけど、アラシレイダー自身が攻撃を喰らっても軽く済むような場所で受けたからこれぐらいで済んだんだ。……薫」

「はい……!」

 

 アラシレイダーに跨がると同時に、アラシレイダーに備わる無線に連絡が入る。

 

「顎門強奪グループの車は港方面へ進行中。人避けの範囲を沿岸部へと集中し……」

「港……。まさか、船で逃げるつもりですか……」

「このあたりは貨物船も多いからな……」

「夜舞さん頼む! 矢口と顎門をどうか……!」

「承知……。オン・ビシャテン・テン・モウカ。舞え、マイヤ……」

 

 舞夜の怨面を右手に持ち、両腕を大きく内へと回し、顔の横で手首を交差させ手の平で蝶を象る。

 

「変身」

 

 そして、右の手首を橈屈させ舞夜の怨面を顔へと纏わせる。

 紫光が溢れ、蝶の群れが羽ばたいて御伽装士マイヤが姿を現すとアラシレイダーを走らせ、夜の闇を切り裂いていく。

 周辺の道路は街の平装士達によって人払いが行われている。ゆえに、車も人の姿もない。

 無線で伝えられる情報を頼りにアラシレイダーを走らせ、港までの最速最短のコースを取る。矢口さんと顎門が運び出されてしまう前に、一刻も早く追い付かねばならない。

 ならば。

 

「退魔道具 風神の風袋」

 

 アラシレイダーの後部に風神の風袋が備わり、吸い込んだ大気を風として放出しアラシレイダーは一気に加速。遮るものがない舗装された道路はアラシレイダーにとっては易しすぎる道。

 一気に走り抜け、黒い影を捉える。

 

 

 

 

 

 

 

 顎門を強奪したグループはトラックとハイエース二台、計三台で国道を走っていた。搬送用のトラックに顎門を納め、キジュツに変身した女は助手席から外の様子を眺めていた。

 人払いは済んでおり、御守衆が追撃に出てくるのは時間の問題。しかし、御守衆が追い付くには時間が足りないだろう。仲間が待機している港まではもう目と鼻の先。逃げ切るのは確実————そう思っていた。

 サイドミラーに映る、迫る影に女は愕然とした。

 

「御伽装士……! それにあのマシンは!?」

「真島さん、どうしました?」

 

 運転手の男が、女……真島結衣子の様子に気付いて問い掛ける。

 

「さっき倒した式神ビークルで追撃してきた……!? それに追い付いてくるなんて、奴は何者……」

「御守衆の追撃ですか」

「ああ。だが、ただの追撃じゃない。顎門で出る」

「分かりました」

 

 真島はコンテナへと移動すると顎門へと跨り、キジュツの怨面を手にし変身するとコンテナに乗っていた部下数名に指示を出す。

 

「顎門出撃中の援護を頼む」

「了解しました。土師、小野の二名は小銃用意」

「弾こめ良し!」

「弾こめ良し」

 

 土師と小野の二名はコンテナに立て掛けていた89式小銃を手にし、各部のチェックを行い、マガジンを装填し射撃の準備が整ったことを伝達。

 

「よし、出せ」

「はっ! ハッチ開放と同時に射撃開始。出撃の邪魔はするなよ」

「了解!」

「了解」

 

 土師は声の感じ年若い精力に漲った人物と推察されるのに対して小野は低く落ち着いたベテランの風格を感じさせる声で命令を復唱していた。

 

「ハッチ開放!」

 

 

 

 

 

 

 強奪グループのトラックの後ろにアラシレイダーでつけた時、トラックに動きがあった。

 後部ハッチが開き始めたのだ。

 そして、二人の黒い戦闘服の人物がライフルを構えていたのを目視し、ハンドルを切ってすぐにトラックの真後ろから逸らした。

 それと同時に銃口が火を吹き、弾丸が発射される。

 地面に着弾した弾丸の雨が火花を散らしていく。

 一人はフルオートで撃ち、もう一人は三点射で撃っているようだ。連射の音に混ざって、パパパン、パパパンとリズムが刻まれているよう。

 あの銃剣からして、使われているのは恐らく89式小銃。

 

「土師、撃ち過ぎるな。弾の無駄だ」

「了解です小野さん!」

 

 くっ……こんなところであんなものを撃つなど……。

 しかし、それよりも留意しなければならない事が。開いたハッチから、タラップが降りている。

 

「あれは、何を……」

 

 弾丸を回避しながら注目していると、背中を向けたままタラップを下ってくるマシン。

 あれは……いや、それよりもだ。

 何者が顎門を操っているのか。搭乗者は顎門の円形操縦桿を操ると、タイヤが90度回転。前の二輪は鮫の胸鰭のように左右に広がると空中に浮遊し、その凶暴な顎門の顔をこちらへ向ける。それと同時に操縦者の姿が鮮明に露わとなる。

 

「御伽装士……!?」

 

 紅と紫の御伽装士。犬か狼を模したかのような仮面は怒りに牙を剥いているかのよう。

 怒髪天を衝くとでも言うように立った耳のような部位も合わさって、余計に怒っているようだ。

 

「はっ!」

 

 犬の御伽装士は顎門を前進させる。このままでは、正面衝突を免れない。

 だが、回避するのは衝突直前となってからだ。

 すれ違い様に、槍で攻める。

 しかし、その考えはすぐに捨てなければいけなくなる。

 カウルから伸び出た二本の銃身から、紫の光弾が放たれる。

 

「くっ……!」

 

 アラシレイダーは急ブレーキからの後退。着弾のタイミングをずらし、光弾は仮面すれすれを通り過ぎて後方に着弾。

 更にこちらを轢き飛ばそうと迫るが、車体を地面すれすれまで倒しながらスライドし、顎門の腹の下を潜り抜けて回避する。

 

「なにっ!?」

 

 躱しざまに犬の御伽装士が驚嘆の声を漏らしたのを聞いた。

 相手は女のようだ。

 回避し切ると車体を起こしてそのまま前進。顎門は急制動をかけて空中で反転し、こちらを追尾する。あまり、よくない状況だ。ドッグファイトで後ろを取られるというのは。

 相手の尻尾に噛みつこうとする犬同士の喧嘩になぞらえてドッグファイトと名付けられた戦闘機同士の戦いではあるが、なんにしろ後ろを取られるのはまずい。

 

「このまま追い詰める」

 

 紫の光弾が背中に迫るのをひしひしと感じる。だが、後方の状況はアラシレイダーが把握しているし、私も殺気を感じ取れる。

 ジグザグに動き回って狙いをつけさせず、回避もし、反撃の機会を窺う。

 

「チッ……やるな、御守衆!」

「……退魔道具、雷神の雷鼓」

 

 風神の風袋を一旦納め、代わりに雷神の雷鼓を召喚し背中に装備する。

 神通力を高め、雷を後方へ向けて撃ち放つ。

 黄金の稲妻が閃いて、光弾を相殺しながら犬の御伽装士を狙う。

 

「退魔道具、呪禁の瑞鈴!」

 

 鐘の音が鳴り響く。直撃するはずだった雷撃は、犬の御伽装士の目の前で結界に阻まれて歪曲。

 後方へ受け流されていった雷は、道路に大穴を穿った。

 

「厄介な……」

 

 並大抵の結界ではないことは確実。結界破りの月影舞を繰り出したいところだが、あれは黄泉さん=ゲツエイがいなければ無理。

 しかし、あの結界を発生させている間はあちらも攻撃が出来ないらしい。あの光弾も神通力の弾丸となれば、結界とは同時に撃てないことにも納得がいく。

 なれば、手はある。

 雷神の雷鼓を戻し、再び風神の風袋を召喚しアラシレイダーに装着させる。機動力を高め、一気に顎門を突き放す。

 

「すばしっこい奴! だが、顎門の加速なら」

 

 飛行形態から走行形態へと戻り着地した顎門はブースターを最大出力にしてアラシレイダーとの距離を徐々に詰めていく。

 これでいい。追いついて来い。

 眼前には先程のトラック。ハッチは開いたままだ。

 

「小野さん!」

「待て。今はまずい」

「チッ……これでは撃てない!」

 

 追い付いたはいいものの、直線上に並んでしまえば味方への被弾を気にして引鉄は引けなくなるだろう。

 まあ、私にとっては敵なので撃ちますが。

 

「退魔道具、八咫烏の羽……」

 

 右手にクナイを二本召喚し、トラックの戦闘員が持つ小銃へと向け投擲。

 

「うわっ!?」

「ちっ……」

 

 小銃に突き刺さる八咫烏の羽。戦闘員二名が怯んだ隙に一気にトラックへと接近。両手にクナイを逆手で持ち、トラックのコンテナへと飛び移る。アラシレイダーは自走し、顎門と御伽装士を撹乱する。先程のこともあり心配ではありますが、今は目の前のことに集中。

 

「こいつっ!? うっ……」

 

 コンテナへと飛び移った勢いそのままに鳩尾に掌底を喰らわせ一人目制圧。

 ここには矢口さんは乗っていない。前のハイエースの方に捕らわれているのか。

 

「くそ!」

 

 拳銃を向けられるも、銃口にクナイを突っ込み暴発させる。その隙に背後へと回って首筋へ軽く手刀。三人目の戦闘員もまた拳銃を向けたのでクナイを放ち、拳銃を弾き飛ばしこちらの方にも当身。

 三人の戦闘員を無力化し、コンテナと運転席が繋がっていたのでそのまま運転手にも気絶していただいて……。

 

「ブレーキを……」

 

 運転手の足の間に足を入れ込みブレーキを踏む。

 急ブレーキ気味とはなりましたが、トラックは制圧。

 残るはハイエース二台。うち一台はお父様を襲撃した犯人達のもの。そちらとは別の方に矢口さんは捕らわれていると見て良いでしょう。

 ひとまず援護射撃してくる連中の制圧は出来た。あとはあの御伽装士を撃破し、捕縛する。

 トラックから降り立ち、口笛を吹いてアラシレイダーを呼び寄せる。

 アラシレイダーは顎門達に目もくれずこちらへと向かい疾走。アラシレイダーに乗るタイミングは敵に隙を与えることになってしまうため、アラシレイダーへと背を向けて私も走り出す。

 アラシレイダーが私に追いついたタイミングで飛び乗り、加速するも顎門と御伽装士は振り切れない。距離はどんどん詰められている。

 

「顎門を奪還する……あの御伽装士も倒す……。両方やらなくてはならないのが、総本山付きのつらいところ……でございます……」

 

 まずは、優先度の高い方から行いますか。

 

「風神の風袋、外しますね」

 

 ハンドルから手を離し、風神の風袋を手にする。

 両手で腰溜めに構えて袋の口を正面へと向け……強風を放つ。

 身体は浮き上がりアラシレイダーから離れ、大の字に手足を広げて風に乗る。

 

「なにっ!?」

 

 後方へと吹き飛ばされ、一気に顎門へと接近し、風袋で風を操り姿勢制御を行う。顎門のカウルの上へと着地し立ち上がる。

 呆気に取られる御伽装士を蹴りつけようとするも、顎門の意思が行ったのだろう。私を振り落とそうと左右に揺らし、バランスを崩そうとしてくる。

 

「ふっ、馬鹿め! それでは身動きも取れないだろうに!」

「いいえ。この距離まで私を近付けたことが、あなたの敗因です」

 

 風神の風袋は消えている。

 代わりに、この背に電流を帯びた雷神の雷鼓を顕現させて電撃を直接浴びせる。

 御伽装士に、ではなく。

 

「ごめんなさい、顎門……!」

 

 電撃の拳が顎門を打つ。

 駆動系を犯し、顎門は各部から火花を上げて機能を停止させていく。

 スリップしていく顎門から飛び退いて着地すると、あの御伽装士もまた同じように顎門から飛び降りていた。

 

「おのれ……!」

「……何者なんです、あなた。御伽装士で同士討ちなどしたくはありません。投降してください」

「ふっ……これだから甘いのだ。お前達、御守衆は。この国を護るに値しない!」

 

 御伽装士は吼えると同時に、右手におどろおどろしい赤い犬の頭部を模した手甲が装着された。右腕全体を覆い、梵字が刻まれる紫の襤褸もあるせいか見た目にはどこか獅子舞のようなものを思わせるが、そのような吉兆のものではないだろう、あれは。

 皮を剥がれ、腐敗し、恨めがましい目をしたような犬の手甲からは何とも言い表せない邪気が漂っている。

 

「退魔道具、狗嚙神……!」

 

 イヌガミという名には聞き覚えがある。主に、四国や九州で用いられたという呪術のことだ。犬を首まで埋めて、目の前には食物を置いて餓死する寸前で首を斬り落とすのだという。そうして初めて成立する憑き物。そんなものの名がつけられた退魔道具など、ろくなものに違いない。

 剥き出しとなった牙を鳴らし、御伽装士が距離を詰める。

 ならば、こちらは破魔の力を。

 

「厄除の槍よ……!」

 

 繰り出された手甲を槍で受け流し、蹴飛ばして距離を取る。穂先を犬の御伽装士へと向けて、間合を保つ。距離ならば、こちらが有利。

 速さでもこちらに分がある。攻めるも守るも、余裕を持てる。

 だが、やはりこの手甲への警戒心が強すぎるくらいに強い。あれの攻撃を喰らうわけにはいかないと直感が訴えかけて止まない。

 

「やああッ!」

「ッ!」

 

 犬の口から紫の炎が放たれ、咄嗟に回避。

 なるほど、あのような技も……!

 間合で勝っていると思うのは、早計でした。

 しかし、早いうちに手のうちのひとつを明かしてくれたのは幸いだ。今後はあの火炎放射も計算に入れて戦闘に臨む。

 あとは時間との勝負。他の仲間達を逃すわけにはいかない。

 ならば、次で決める。

 

「はッ!」

 

 一気に踏み込み、槍を振るう。高速回転させた槍の攻撃にも対応してくる。やはり、なかなか出来る人だ。

 けれど!

 繰り出すハイキック。敵も同じくハイキックを放ち、脛と脛で拮抗し合う。

 

「獲った!」

 

 この間合で動きを止めるのは致命的。

 奴の手甲が牙を剥き、私の首筋に噛みついて————。

 

「な、に……?」

 

 マイヤの姿が崩れ、羽ばたく蝶の群れ。その群れを切り裂くように、飛び蹴りが炸裂。

 相手は身を捩って回避しようとしたが、右の脇腹を掠めた。直撃とまではいかなかったが、ダメージにはなったはず。

 アスファルトの上を滑るように着地し振り向くと、犬の御伽装士は右腕をおさえてよろめいていた。

 

「おとなしく投降を」

「くっ……投降などするかぁ!」

 

 右腕の手甲が消え、小さなハンドベルのような退魔道具を手にした犬の御伽装士を止めようとしたが、鈴の音が響き渡る。小さいというのに、よく響く。

 夜の闇を伝播させていくような音に警戒していると、霧がかり、犬の御伽装士の姿が隠れていく。まずいと駆け出すも既に犬の御伽装士の姿はなく、気配も感じ取れない。

 

「逃げられた……」

 

 逃走用の煙幕のためか、早々に霧は晴れていく。犬の御伽装士を逃したのは失態であるが、まだやることはある。

 アラシレイダーが駆けつけ、急いで跨がる。まだあの連中を取り押さえていないのだ。こんなところで失態を悔いている暇などない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 矢口梓が意識を取り戻すと、周囲には工場を襲った黒ずくめの戦闘員達がいた。

 車に乗せられて、どこかへと向かって走っている最中。手足は縛られ、口もガムテープで塞がれており、声を発することが出来ず唸るばかり。

 そんな様子に、隣に座っていた技師の原が口のガムテープを剥がした。

 

「やあ矢口君。お目覚めのようだね」

「原さん……これは一体どういうことですか! 私達を裏切ったってことですか!」

「矢口君、君も我々の思想を知ればその素晴らしさに感銘を覚えるはずだ! 御守衆なんかよりも、よっぽどこの国のことを真剣に護ろうとしている!」

 

 熱弁する原に矢口はついていけていなかった。

 

「い、言ってる意味、全然分からないんですけど……!」

「御守衆はもう古い。我々が新たな護国の担い手となるんだ! はーはっはっ、うおっ!?」

 

 突然、大きく揺れる車内。

 右の後部ドアが切り裂かれると、ドアの中央に煌めく刃が突き立てられ、串刺しとなる。

 ドアはぶち破られ、道路に打ち捨てられるとアラシレイダーを駆る御伽装士マイヤが現れる。

 

「御伽装士!?」

「真島さんはやられたのか!?」

「おとなしく投降してください。危害を加えるつもりはありません」

「し、知るか! 振り切れ!」

 

 原が運転手に指示すると、ハイエースは蛇行運転を始める。だが、まったく怯む様子は見せず再び車内へと呼びかける。

 

「矢口さんはいらっしゃいますか」

「は……はい! ここにいます!」

「申し訳ありません。こちらの方々が抵抗なさるので、少々乱暴に止めざるを得ません。しっかり掴まっていてください」

「えっ!? 掴まれったって手縛られてるんですけどー!」

 

 マイヤはアラシレイダーを加速させてハイエースを追い抜くと50m先で停止し、アラシレイダーから降りてしまう。

 ハイエースを運転する戦闘員は轢き飛ばしてしまえと加速する。だが、それは下策である。

 

「すぅ……ハアッ!」

 

 ハイエースの鼻っ面に蹴込を一撃。

 ボンネットはひしゃげ、フロントガラスは蜘蛛の巣状にひび割れ、ほとんど真っ白といった具合。

 激しく揺れる車内で矢口は悲鳴を上げた。

 気絶した運転手を降ろし、他の戦闘員達も無力化してハイエースから降ろしていく。

 

「大丈夫でしたか?」

「え、ええ……おかげさまで死にかけましたけど!」

「おやおや……。それだけ元気そうなら、安心です」

 

 皮肉も気にせず、マイヤは矢口を救出するのだった。

 

 

 ほどなくして、近隣の支部の平装士の皆さんが駆けつけて戦闘員達を捕縛して連行していく。

 その最中、現場の責任者らしき方から報告を受けました。

 

「もう一台の方も、無事に確保することが出来たと先程報告が上がりました」

「そうですか……。ご協力、ありがとうございます……」

「いえ、むしろほとんどあなたにやらせてしまって。こちらこそ、ありがとうございました」

 

 ひとまず、状況終了といった様子で変身を解く。今の報告がなければ、そのまま追撃に出るつもりでいました。

 ……流石に、少し疲れました。

 まさか、御伽装士と戦うことになるなんて。

 汗を拭い、頬に貼りついた髪を離していく。久しぶりに、これだけ汗を流したような気もする。普段の化神と相手をする時とはまったく違う疲労に襲われてしまったようだ。

 

「大丈夫、です?」

「矢口さん……ええ、特に問題はありません……」

「夜舞さん、お疲れでしょう。こちらの車にお乗りください」

 

 ……そんなに目に見えて疲れているとは、私もまだまだ……。

 それに、折角の申し出ではございますが……。

 

「ご厚意を無碍にするようで申し訳ないのですが……。私は、この子と帰りますので……。今は、この子と……静かに走りたい気分なのです……」

 

 傍らのアラシレイダーを撫でて言うと、責任者の方は微笑んで理解を示してくださいました。

 矢口さんはあの方と共に行かれるようです。

 その背中を見つめていると、矢口さんは振り返って何かを言いたげにしながら視線を逸らすと、どこか諦めがついたような笑顔を私に向けられました。

 

「助けてくれて、ありがとうございます」

 

 照れ笑いだったようです。

 感謝の言葉に礼で返し、去っていく車を見送りました。

 現場のことはこちらの平装士と御伽装士の方々に託し、一度引き上げることに。あの犬の御伽装士のことが気がかりですが、流石に限界が近い。

 

「アラシレイダー……。私が寝ても、しっかり運んでくださいね……」

【⬛︎⬛︎】

 

 居眠り運転は駄目と注意されてしまいました。

 自動運転で楽が出来ることはともかく、バイクなので寝てしまったらそのまま体勢を崩して事故になってしまうかもしれません。あの方の言う通り、送っていただいた方が良かったかもしれません。

 それでも、お父様が直したアラシレイダーに少しでも乗りたかったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦を失敗した場合の合流ポイントに辿り着いたのは、私だけだった。黒い海面を岸から見下ろし、仲間の到着を待ったがもう限界の時刻である。

 他の仲間達はみんな、奴等に捕えられてしまったのだろう。

 悔しい。

 御守衆の御伽装士になど負けるつもりはなかった。けれど結果はこの様だと痛む右腕が嘲笑う。

 

「無事なのはお前だけか、真島」

「……! 高浪さん、どうして」

 

 凶暴な光を宿した瞳が、真夜中に燦々と煌めいていた。

 鋭く、見つめられるだけで切り刻まれるような瞳に惹かれた者は多い。私もその一人であった。

 高浪武蔵。

 我々、大和の牙の司令。

 

「いいから乗れ。島に帰るぞ」

 

 漁船にカモフラージュした船を親指で指差し、高浪さんの後をついて船へと乗り込み、夜の海を突き進んでいく。

 沖へ出ると何も見えない。真の暗闇の中を進むようだ。

 

「なるほどな……なかなかの実力者に見つかってしまったわけだ」

「申し訳、ありません……」

「別に責めてるわけじゃない。いずれ、御守衆とやり合うとなれば覚悟はしていたことだ」

「しかし、こんな……。計画はあの御伽装士さえいなければ……」

「蝶の面と言ったか?」

「はい……。紫の蝶の怨面です」

 

 忌々しいあの蝶の御伽装士が脳裏に浮かぶ。

 あの地域にあんな御伽装士がいるなんて情報にはなかった。奴さえいなければ、顎門も入手出来たはず。

 そうすれば、大きな戦力になったはずなのに。

 

「蝶……たしか、マイヤとか言ったか」

「ご存知なのですか?」

「ああ。話に聞いた程度だが、東北のどっかの小さな町を護ってるとかいう奴だ」

 

 ……そんな田舎者の小娘に私は負けたというのか……!

 

「真島。英雄は田舎から生まれるらしい。お前、出身はどこだった?」

「……横浜です」

「はっはぁ……じゃあ、英雄の資格はないな」

 

 悪戯っぽく笑う高浪さんは冗談を言っているつもりのようだが、私には気休めにもならない。

 

「そういうものに興味はありません。第一、私の英雄はあなたです。高浪さん」

「俺が英雄に見えるか」

「はい。国を護ることを使命とした真の英雄に」

 

 私がそう言うと、高浪さんはどこか皮肉っぽい笑みを浮かべ、真っ黒な水平線を見つめる。

 遠い目をする時の高浪さんは、今後のことを考えている。

 

「……近いうちに、御守衆の奴等が乗り込んでくるかもなぁ」

「……はい」

「窮地にこそ活路がある。それさえ凌いでしまえば、こっちのもんだ。気合入れていけよ、真島」

「はっ!」

 

 暗闇を突き進む船の中で、彼だけが光。

 たとえ、どんな暗闇の中でも高浪さんなら道を切り拓いて、示してくれる。

 尊い理想のためにも、私は彼についていくと決めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日の調査の後、犬の御伽装士の足取りは掴めなかった。いいえ、それだけではない。敵に関する情報もまた、何も掴めずにいる。

 捕縛された者らが頑なに口を閉ざしている。そして、こちら側から情報を引き出すこともしないでいる。

 それは何故か。

 あの、盛岡で起きた事案と同じことが起きたのだ。

 若い土師という男に事情聴取を行なっていた時のこと。

 

「絶対にてめぇらぶっ殺してやる……俺達、()()()()がてめぇらの喉笛に噛み付いて! うっ……!?」

 

 盛岡の時と、まったく同じ事が起こってしまった。

 無闇に情報を引き出せば、彼等の命を奪ってしまう。そうと知って情報を引き出そうとする者は御守衆にはいない。

 とにかく、もうこの街で得られる情報は現時点では無い。

 判明したのは、敵の組織の名は「大和の牙」ということだけ。

 

「お姉ちゃん、帰っちゃうの?」

「はい……。私にも、帰る家が、ありますゆえ……。あと、お兄ちゃん、です」

 

 香織ちゃんに別れを告げなければいけないのは寂しいですが、連絡先も交換したのでいつでもお話が出来ます。

 まさか、妹が出来るとは思ってもみず……ここ数日、香織ちゃんとは兄妹らしいことが出来たようにも思えます。

 それはそれとして、お兄ちゃんと呼んでくれないことが気がかりです。

 

「奈緒様も……滞在を許していただき、ありがとうございました……」

「もう、様はやめてって言ったでしょ」

 

 困った笑みを浮かべる奈緒様は、私がここ数日の宿泊先としてこちらに泊まることを許してくださったのです。先日、あんなことがあったにも関わらず、夫の前妻との子をこうして迎え入れてくれるなど、そう出来ることではないだろうと思います。

 

「それでは、お父様も……。()()()()()()()()、よろしくお願いしますね」

 

 ここ数日で変化が一番大きかったのはお父様だろう。ある意味では、元に戻っただけなのかもしれませんが。

 先日の一件もあり、特に谷山さんの熱烈なお誘いにお父様は御守衆に復帰することを決められたようです。

 今後は整備工場と御守衆の技師の二足の草鞋。顎門開発計画にも携わるようで、回収された顎門の修復と改修が現在行われています。顎門に残された課題が解決する日も近いやもしれません。

 

 

「ああ。薫も、アラシレイダーに何かあればこっちに来るんだぞ」

「それはどうでしょう……。整備性が優秀なので、どこでも誰でも整備出来てしまいますから。お父様のお手を煩わせるまでもないかと……」

「そんな風に言わなくてもいいだろ……?」

「ふふ……」

 

 つい、お父様には甘えてしまいます。

 今はまだ、名残り惜しく。もっと長い時間、お父様達と共にいたいとも思うけれど……私には私の帰るべき場所と、為さねばならぬ使命がありますから……。

 今生の別れでもないのです。

 人と人が容易く繋がれる時代ですから、話そうと思えばいつでも話せる。

 ですから、今は……また。また会いましょうと、別れの寂しさと再会と新たな出会いの暖かさを胸に、背中を向けるのです……。




御守衆を狙う新たな脅威、大和の牙に対抗すべく御守衆総本山は精鋭を全国から招集した。
だが、大和の牙だけが御守衆の敵ではない。
京の都を揺るがさんとする化神に今、天才と称される少女が挑む。

次回 一手

「ふっふ〜。静の出番ですかね〜」
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