仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ   作:大ちゃんネオ

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一手 終

 永世竜王バケリュウマはその名に違わず竜と馬を組み合わせたかのような姿に黄金の大具足を纏っていた。

 並の化神よりも巨大。とはいえこれまで薫と静久が相手したことのあるバケゲンブやバケイカヅチといった大型の化神に比べれば小柄なもの。

 しかし、その絶妙な体躯の差が向かい合うといやに威圧的。

 いっそ規格外な大きさの方が開き直ることも出来るのだがと平装士達は身体を強張らせる。

 

『ぬぅぅぅん!』

 

 バケリュウマが後肢で立ち上がり、勢いよく前脚を地面へと叩きつける。それだけで大地震が起きたかのように装士達は体勢を崩す。明確な隙である。バケリュウマが今の彼等を仕留めることなど容易かったであろう。

 しかし、バケリュウマの眼前で蝶が舞う。

 紅い破魔の槍の穂先が煌めき、バケリュウマの喉元を狙った。

 速く、鋭く。突き出された槍は必中と思われた。いや、たしかにバケリュウマへと命中した。命中こそ、した。

 

「っ!? 堅い……!」

『何か、触れましたかねぇ?』

 

 竜の顔がニタリと笑ったかのように見えた。

 槍を伝い衝撃がマイヤの腕へと響き一瞬の痺れと硬直。その隙をついてバケリュウマの口から電撃を纏う黒炎が吐き出されマイヤを燃やし尽くさんとする。

 

「よっと……!」

 

 マイヤに黒炎が直撃したと思われた時、間一髪ゲットがマイヤを抱えて跳躍。素早さと跳躍力に優れた兎らしい能力によりゲットとマイヤは黒炎から逃れる。

 

「ありがとうございます……!」

「いいのいいの! 先輩らしいとこ見せなきゃ!」

「おいゲット! さっさと戻れ!」

「たく、人遣い荒いんだから。ねぇ?」

「ふふ……」

 

 緊迫の戦場にありながらもテイガとゲットはいつも通りの厳しい先輩と後輩のやり取りをしている。その自然体な姿にマイヤも肩の力が抜けたようであった。

 

「薫ちゃん大丈夫〜?」

「ええ、なんとか」

 

 メイユウの問い掛けに答え、再びバケリュウマへと向かって行こうとするマイヤであったが舞夜が薫とメイユウ二人に聞こえるように語りかける。

 

『薫。分かっていると思いますが連戦の疲れとバケリュウマの支配下に置かれ力をかなり消費しています。私も無理矢理力を引き出され今はボウゲツとアカツキには……』

「ええ。ですが、今は皆さんがいらっしゃいます。アカツキにならずとも勝ってみせます。……多少、無茶は覚悟ですが」

『薫……!』

 

 薫を諌めようとする舞夜。だがそこへメイユウが口を挟む。

 

「それなら静の出番〜。退魔道具・溟渤の錫杖~」

 

 瑠璃色の錫杖を手にし、メイユウは錫杖で砂利の地面を突く。

 

「仙術・生天時雨」

 

 澄んだ雫が生み出され、マイヤへと吸い込まれていく。マイヤを水面に浸透していったかのように見えたその雫の力は癒しの力。

 マイヤは自らの身体に纏わりついていたかのような倦怠感が消え去るのを感じた。

 

「効いた〜?」

「はい……。これは、すごい術です……」

「ふふ〜。元々は痛み止めの術ぐらいしかなかったんだけどね〜。静が新しく作っちゃいました〜」

『とはいえ、戻ったのは体力ぐらいですからね。くれぐれも無茶は……!』

 

 舞夜の忠告を聞き流しながらマイヤは戦線へと戻っていく。

 バケリュウマは今、テイガとの力比べに興じている様子。

 両手で掴み合い、どちらが上か試しあっている。しかし、四つ足のバケリュウマの方がやはり優勢であった。

 

『なかなかの力ですねぇ』

「うるせぇ……!」

 

 徐々に押し負けていくテイガ。

 加勢しようとするゲットと他の御伽装士達であるがバケリュウマの羽撃きに吹き飛ばされ、接近を許してくれない。

 

「風ごと貫く……! 退魔覆滅技法 翔槍蝶閃!」

 

 マイヤが槍を投擲。紅い閃光と化した槍がバケリュウマ目掛けて一直線に飛ぶ。

 

「む……」

 

 バケリュウマの羽撃きにより生じた風の結界を貫きバケリュウマの身体へと直撃した槍であるが激しい火花を散らし、やがて弾かれる。

 

「この身にそんな攻撃が通るとでも?」

 

 黄金の鎧に身を包むバケリュウマの前にはどんな攻撃も効かない。その自信があるゆえにバケリュウマは攻撃を回避することはしない。

 それは既にマイヤも身をもって理解している。

 理解しているからこそ、攻撃したのだ。

 

『何回でも攻撃してくれて構いませんよ。何度やっても同じ……っ!?』

 

 驕るバケリュウマの両腕が徐々に捻り回されていく。

 

「俺を忘れんじゃねぇぞカス……!」

『なに……!? 押し返されている!?』

 

 バケリュウマとの怪力対決で押し負けていたテイガが押し返し始める。

 既に全力は出し切ったはずとバケリュウマは驚愕しながらも再びテイガを捻り潰そうと力をこめる。だが、もはやこの力比べの結果は決まっていた。

 

『どこから、こんな力が!』

「さぁな? うしろの奴に聞いてみたらどうだ?」

 

 テイガの後方へと目を向けるバケリュウマ。

 そこには、メイユウがいた。

 

「仙術・剛力命水」

 

 赤い雫がテイガへと注ぎ込まれる。

 力を与える術により、テイガはバケリュウマを押し返していたのだ。

 

「まずはこいつを総本山から離すぞ! ぬおおおお!!!!!」

 

 他の御伽装士達も力を合わせ、バケリュウマの巨躯を持ち上げると大空へと向かい投げ飛ばす。

 そこへマイヤとテイガがそれぞれの退魔道具を呼び出す。

 

「退魔道具、風神の風袋」

「退魔道具、大筒化神崩し」

 

 マイヤは小型の筒を脇に抱え、テイガは巨大な大筒を中央に配しその左右に副砲二門を備える「大筒化神崩し」を背負いバケリュウマへとそれぞれの砲口を向ける。

 そして放たれる猛烈な突風と破魔の砲弾。

 時が許す限りテイガは連射を続け、空中で体勢を崩したバケリュウマに隙を与えない。マイヤもまた風の力でとにかく遠くへと吹き飛ばす。

 そして、バケリュウマは最初期の作戦の目標地点だった場所へと落下していった。

 

「おい! 急ぐぞ!」

「分かってますって!」

 

 テイガはゲットの肩を掴んで跳躍。

 あれでバケリュウマが倒れたとは思わない。誰よりも速く追撃に向かう。

 それに続きマイヤが護符を手にして相棒の名を叫ぶ。

 

「アラシレイダーッ!」

 

 召喚されし愛機アラシレイダーに飛び乗りアクセルを噴かす。いざ発進しようという時、マイヤの後ろに重みが。

 

「化神のところまでお願いしま〜す」

 

 そう言ってメイユウが縁側で佇むかのようにアラシレイダーに腰を下ろしていた。

 

「アラシレイダー。二人ですがいけますね」

【⬛︎⬛︎⬛︎】

「静は足がないからごめんね〜」

「いいえ。しっかり捕まっていてください」

 

 アラシレイダーを発進させ、二人は道なき道を駆けバケリュウマのもとへ向かう。

 このような悪路をものともせず疾るアラシレイダーに乗りながら、メイユウは何かを思いついた。

 

「バイクにもいけるかな〜……?」

「静久さん……?」

「いいや、やってみよ〜。仙術・早足命水」

 

 錫杖から新たな雫が生み出され、マイヤとアラシレイダーに術がかけられる。

 次の瞬間、まったく想定していない加速がマイヤとメイユウを襲った。

 

「うわわっ!」

「ちょっ……!?」

 

 アラシレイダーの最高速を超えた加速に二人は振り回される。ハンドルを握るマイヤは無事であったがメイユウは乗車姿勢が悪く、なおかつ錫杖を片手に持っていたので危うく吹き飛ぶところであった。咄嗟にマイヤの腰にしがみついて事なきを得たが今度は逆にしがみつかれたマイヤがバランス取りに慌て、あわや大惨事。

 早々に山道を抜けたのでなんとかなったが、あのまましばらく山道を走っていたら危なかった。

 

「静久さん?」

「まあまあ怒らないで〜……。それより、あれ」

 

 メイユウが見据えた先、到着したテイガとゲットもまたそれに釘付けとなる。

 

「おうおう……。わざわざ待ってやがったとは見直したぜ」

 

 吹き飛ばされたバケリュウマはやはり健在。だが、その迫力は先程以上のように思えた。

 

『私が逃げるとでも? どうせお前達は来るのだ。それを迎え討てば良いだけのこと』

「討たれるのはバケリュウマ。あなたの方です」

『大した力も残っていないくせに、いけしゃあしゃあと。我が鎧に傷ひとつ付けられない者共がいくら集まろうと……』

「じゃあ、これはどうかな〜?」

 

 メイユウが錫杖を消し、もうひとつの退魔道具へと持ち替える。

 黄染めの三叉に分かれた刃の槍。その名は。

 

「退魔道具、狂濤の三叉槍」

 

 海神が保有しているかのような槍を手にメイユウはバケリュウマへと臨む。

 マイヤ達の前に立ち、その三叉槍の業を放たんと力をこめる。

 穂先に光が募り、繰り出されるは光の刃。

 

「退魔覆滅技法、波蝕」

『その程度の攻撃など!』

 

 バケリュウマにはどんな攻撃も無意味。自身の鎧は最高の防御力を誇ると信じて波蝕を正面から喰らう。

 叩き込まれた光の刃はバケリュウマに命中すると同時に砕かれるも、バケリュウマの全身に光の罅を走らせる。

 

「かかったね〜。波蝕はどんな鎧も蝕み破壊する……」

『ぬぅん!』

 

 メイユウが得意気に語る最中、バケリュウマは自身の身体を一瞥してから身体を大きく震わせて自らに刻まれた罅を振り払うようにして砕いてみせた。

 

「なっ!?」

『このような小細工ばかり……やはりお前は誰よりも惨たらしく殺してやる』

 

 そしてバケリュウマは四脚で跳び上がり、その手に大太刀に似た武器を握りしめメイユウへと振り下ろした。

 

「静久さん!」

 

 マイヤがメイユウを突き飛ばし回避させる。だがそれも予測済みとバケリュウマは刃を横薙ぎに振るう。

 マイヤが槍で受け止めるも、圧倒的な力の前に容易く弾き飛ばされてしまう。

 否、あえて弾かれるようにして無駄な体力消耗を避けながらバケリュウマから再び距離を取る選択をしたのだ。

 着地したマイヤは即座にバケリュウマへと向けて槍を構える。

 

「なにあれ……薙刀〜?」

「いえ、あれは長巻でしょう」

 

 大太刀を扱いやすく発展させたものだという長巻は腕力に優れた者が扱えば恐るべき破壊力を持った武器となる。

 薙刀のようなリーチと大太刀の破壊力。好んで使った武将も多く存在するというそれを化神が扱うとなれば、心して掛からねばならない。

 

『うおおお!!!!!』

 

 再びマイヤとメイユウに襲い掛かるバケリュウマ。二人はそれぞれの槍で応戦するも、やはり腕力の差は歴然。 

 まともに打ち合うことも出来ず、圧される一方。

 そんな激しい攻防の最中、バケリュウマの足元が爆ぜる。

 

『チッ!』

「俺達忘れちゃいねぇか!?」

 

 テイガの大筒が連射され、バケリュウマを爆煙が包み込む。

 その隙にマイヤとメイユウはバケリュウマから離れて態勢を立て直す。

 

「どうしよう……波蝕が効かないなんて……」

「アカツキが使えれば……」

 

 決定打に欠ける二人の拳が強く握られる。そんな時、ゲットが二人のもとへ舞い降りた。

 

「そう悲観することもなさそうだ」

「ゲットさん……」

「どういう意味〜?」

「君の技、まったく聞いてないわけじゃないみたいだよ。先輩に言われて気付かれないようにバケリュウマの近くを跳び回って様子を探ってね」

 

 持ち前の機動力と隠密性を活かし、バケリュウマへと接近しながら弱点を探っていたというゲットは見たという。

 波蝕の効果は完全に無効化されておらず、まだ罅が残っている箇所があると。

 

「胴体に八箇所、罅が入ってる。そこにさえ攻撃を命中させればいける……と思って攻撃してみたんだけど、俺の生半可なやつじゃ駄目みたい。先輩の砲撃も狙撃は出来ないし。二人ならどう?」

 

 ゲットの問いかけにマイヤとメイユウは顔を見合わせた。

 

「私の槍の投擲であれば……。けれど、未だに防御力が高いとなると……」

「静はちょっと不安かな……。薫ちゃんみたいに槍の扱いが上手いわけじゃないし、術なら……」

 

 メイユウの言葉に、マイヤは閃いた。

 

「ならば、術でいきましょう」

「えっ、どうやって〜?」

「静久さんは水を、私がそこに雷と風を足しましょう」

 

 そしてマイヤが退魔道具を召喚する。

 

「退魔道具、雷神の雷鼓。風神の風袋」

 

 マイヤは風神の風袋を左手に、背には雷神の如く装備される雷鼓。右手には厄除の槍が握られている。

 その様を見てゲットが忠告する。

 

「退魔道具の同時使用はリスクが高い……! チャンスは一度きりってとこだぞ!」

「ええ。必ずや、決めてみせます」

 

 力強く頷くマイヤ。ゲットは一瞬思考し、決断する。

 

「分かった。頼んだよ。俺達は時間を稼ぐから、確実に決められるって時にやってくれ」

「分かりました。……静久さんも、よろしいですか?」

「よ〜し、やったるか〜」

 

 重要な役を任されたというのにやはり自然体なメイユウにマイヤは仮面の下で微笑んだ。

 ゲットが跳躍し、バケリュウマのもとへ向かっていったのを見送り二人は技の発動へと取り掛かる。

 

「八つの罅を全て狙い撃ちします。確実に、貫きましょう」

「おっけ〜」

「風神の風袋、解放」

 

 マイヤの言葉に反応し、筒のような形状であった風神の風袋が変化。雷神の雷鼓と同様にマイヤの背中へと装備された風袋。その姿は風神雷神の二柱を掛け合わせたよう。あるいは、羽衣を纏う天女の如く。

 

「おお〜。そんなこと出来るんだ〜」

「雷はまだ制御が効きますが、風は広範囲に被害が及ぶ可能性がありますからね……。普段は控えめにしていますが、この状況ならいけます。いきましょう、静久さん」

「うん〜」

 

 二人は並び立ち、己の力を高めていく。

 メイユウは狂涛の三叉槍を天に掲げ、水を練り上げていく。

 マイヤは雷神の雷鼓と風神の風袋を同時に稼働させ、風が吹き荒れ天空の雷雲が稲妻を迸る。

 そして二人が高めた神通力を今度は重ね合わせる。

 水、風、雷。

 二人を包み込むように竜巻が巻き起こり、頭上では雷鳴が唸る。

 メイユウが作り上げた水球を竜巻が削るようにして水を巻き込んでいき、そして天へと舞い上がった雫に雷が紫電を纏わせていく。

 

『なにをする気だ……!』

「ぐわっ!?」

 

 技の発動に時間がかかりバケリュウマに勘づかれてしまった。

 長巻による強烈な一撃に吹き飛ぶゲット。鬱陶しい敵をようやく引き剥がしたバケリュウマはマイヤとメイユウに向かって駆け出した。

 

「くそっ!」

 

 テイガが大筒化神崩しを連射するも足元で爆ぜたところでバケリュウマは止まらない。さらにこのまま撃ち続ければ自分の砲撃がマイヤとメイユウに向かってしまう危険性すらある。

 砲撃を止めざるを得ず、テイガは叫んだ。

 

「マイヤーッ! メイユウーッ! 決めろぉぉぉ!!!」

 

 真正面から迫るバケリュウマを見つめながら、マイヤとメイユウは澄んだ心持ちであった。

 

「近付いてきてるよ〜。狙いやすいね〜」

「ふふ、ええ……。決めましょう、静久さん」

「うん〜。あ、そうだ技の名前は〜?」

「そうですね……では————」

 

 マイヤの告げた技の名にメイユウはいいねと賛同した。

 穏やかに談笑しながらも三つの属性が混ざり合い、融け合い、ひとつとなっていく。

 共鳴する力は凄まじき力を宿しながらも圧縮され収束。そしてマイヤとメイユウの周囲に八つの光球が浮かび上がる。

 藍と紫を帯びた光の結晶。

 二人は頷き合い、槍を舞わせた。

 

「「退魔覆滅技法・襲(たいまふくめつぎほう・かさね)!!」」

 

 二人同時に迫るバケリュウマへと向けて槍を突き、交差する穂先。そこへ光球から藍と紫の光流が放たれ槍の先に力を注ぎ込む。

 そして、槍から再び八岐に分かたれ放たれるは————。

 

「「大荒天・八岐大蛇(ダイコウテン・ヤマタノオロチ)!!」」

 

 藍と紫の八つの鋭い光線が駆けるバケリュウマを真正面から貫く。

 否、それは光線ではなく風雷を纏う超高圧水流であった。風が竜巻いて水流を回転させ貫通力を高め、雷撃が水流を加速させ威力を高める三位一体の業。水流はただの水流ではなく八つ首の龍、八岐大蛇の如き災厄となって化神バケリュウマへと襲い掛かった。

 

『な、にぃぃ!?』

 

 波蝕の影響が残る僅かな罅を正確に撃ち貫き、退魔の力の奔流をバケリュウマへと流し込む。

 やがて八つの水流はバケリュウマの身体を焼き切りながら胸の中心で束ねられ、バケリュウマの胴に風穴を開け————。

 

『私が、負け……』

 

 大爆発。バケリュウマの肉体は木っ端微塵に吹き飛びながら、穢れた瘴気は雲間から射した日の光に当たると霧散。

 ここに、御守衆総本山へと挑戦状を叩きつけたバケリュウマは敗北したのだった。

 そしてバケリュウマを討ち取り勝利を掴み取ったマイヤとメイユウを太陽が照らす。

 

「勝ったんだ……静たち……」

「ええ……」

 

 変身を解いた二人がそう言葉を交わすと薫が立ち眩み、咄嗟に静久が薫を支える。

 

「無理しちゃダメだよ〜。とんでもなく疲れたでしょ〜?」

「……これしきのこと、と言いたいところですが……。流石に、限界……」

 

 そう言い残し、気絶したかのように眠りに就く薫。その寝顔を見て静久は悪戯っぽく微笑んでいるとテイガとゲットの装士達も喜びを露わにしながら合流した。

 

「お前達よくやった!」

 

 テイガが静久と眠る薫の頭を力強く撫でる。静久はあまりの強さに最早撫でるではなく頭を振り回されているかのようだと思った。

 

「先輩それセクハラっすよ?」

「うるせー! なんでもかんでもハラスメントハラスメント言いやがって。俺達御伽装士には関係ないね」

「うわ、パワハラ」

「うるせっ! とりあえずお前は夜舞を運べ」

「了解です」

「いいな〜。静も疲れたからおんぶ〜」

「お前は気ぃ失ってないだろ!」

「あ〜目眩が〜」

 

 わざとらしい演技をする静久であったがなんだかんだでテイガのおじさんにおんぶしてもらい総本山まで戻った静久は後に語っている。

 

 

 

 

 

 

 

 薫が目を覚ましたのは翌朝のことであった。

 身体検査が行われ、バケリュウマに囚われていたこともあり呪術的な影響がないかも含めて検査をした。

 検査のために薫が衣服を脱ぐ度、医療担当者達が声には出さずとも驚いていたが薫にとっては慣れた光景。淡々と検査を行い、昼前には解放されいつもの着物に袖を通した。

 休む間もなく薫は上役達が待つ間へと向かう。襖の前で名乗り、入室するとそこには上役達だけでなく静久の姿もあった。

 

「あ、薫ちゃん〜」

 

 上役達がいる前でもやはり静久はいつも通りのペースで気楽にしている。

 静久の隣に敷かれた座布団の上に座るよう促され、二人並んで上役達と向かい合う。

 

「静久には先に言っていたが二人揃ったところで改めて此度の騒動、二人の活躍あって無事に始末をつけることが出来た」

「バケリュウマに拐われた方々は……」

「怪我や命に関わるような呪いの類いは見つからなかったよ。記憶の処理を施して昨日の内に警察に引き渡したよ」

「あの警察庁の及川という男が色々と取り計らってくれてな。後の事はひとまず気にしなくていいとのことだ」

「及川様が……」

「おじさんやる〜」

 

 気にしなくていいとは言うが、昨日及川が言っていたことを思い返すと後処理はかなり面倒なことになるのではないかと薫は想像した。四十もの人が拐われ、警察を動かしたのだ。マスコミだって動いたであろう。事情を知らない彼等に整合性のある嘘をつかなければいけない。

 これから及川雅也が背負うであろう気苦労はきっと自分では想像し切れないと薫は心の中で雅也を労った。

 

「ひとまず、先に本題を話す。大和の牙の件だ」

 

 強面の上役がそう切り出したのを聞いて薫は驚いた。大和の牙についての話題を静久がいる場で話そうというからだ。

 大和の牙については一部の者達にしか情報が入らないようになっている。それは静久も例外ではない。たまたま総本山を訪れた時期が重なっただけで静久自身は大和の牙とは無関係であるからだ。

 その困惑が顔に出たのか、上役が説明する。

 

「薫が来る前に静久には大和の牙について教えておいた」

「保護者である高天原の雪蔵にも話を通してな。彼奴め、孫可愛さに喚き散らしておったわ……」

「そういうわけだから〜」

「そういうわけだからと言われましても……」

 

 それから話がどう転がるか薫には想像がつかずにいた。

 

「バケリュウマとの戦いでの二人の息の合いようはテイガ、ゲットの二人から聞いておる。そして、相手にはキジュツという術に特化した御伽装士もいる。脅威はキリサメだけではない」

「そこで同じく術に特化したメイユウ、高天原静久を対大和の牙先鋒隊に加えることに決めた」

「それは……! 静久さんは、いいのですか? 危険な任務になりますが……」

 

 薫は静久に訊ねた。

 大和の牙はこれまでとは違う敵。御伽装士が敵なのだ。化神を相手にするのとは全く違うことであるのだ。最悪の場合、人の命を奪う可能性すらある。そんな戦いに静久を巻き込んでいいものかと薫は危惧したのだ。

 だが、静久はそんな薫の不安を払い除けるかのように語る。

 

「実はメイユウと戦ったことあるんだ」

「メイユウと、ですか?」

 

 メイユウは静久が変身する御伽装士であり静久が保有する怨面である。しかし、その怨面はつい最近発見されたもの。その情報自体は薫も知っていた。

 

「敵がメイユウの怨面を……?」

「敵……。ううん。最初は敵だと思ったけど、その人は静達にとって大切な人で。だから御伽装士と戦うのは慣れてるってわけじゃないけど、いや、なんていうのかなぁ」

 

 静久は少し照れ臭そうに微笑みながら、答えを出す。

 至極単純で、明快で、だからこそ難しい。けれど、それはきっととても簡単なことでもあるだろう。

 

「困ってる人がいるなら、助けたい」

 

 そう思ったんだよ。

 はにかむ静久が眩しく映る。それはいつか、静久自身が眩しいと思い、自分はそうでないと日陰に隠し憧れた思い。

 正義の味方。

 そのようと在りたいとまっすぐ進むために、静久は大和の牙との戦いを受け入れた。

 

「まあ〜北海道には霞澄ちゃんも日依ちゃんもいるから心配ないし〜。おじいちゃんには子離れじゃなくて孫離れしてもらわないと困るし〜。キジュツって御伽装士のことも気になるし〜。総合的に判断してみたいな〜」

 

 いつもより早口で話す静久の姿に薫は思わず笑みを浮かべる。

 やはり真っ直ぐな気持ちを伝えることは気恥ずかしいもの。それでも、同じ想いを宿す人がいることは心強いというもの。

 

「本来であれば総本山の人間から決めるところなのだが、バケリュウマによって負傷した者も多い」

「この隙をついてバケリュウマのように総本山を攻めようとする化神が現れないとも限らない。京都周辺の化神の活動が活発になる可能性もあるため人員を割くことが今は難しいのだ。まだ年若い二人にこのような重責を背負わせたくはないが、改めて頼む」

 

 頭を下げる上役達。その返礼に薫もまた頭を下げ、それに静久も続いた。

 

「いえ、御伽装士となった時から如何なる覚悟も出来ております」

「うむ……」

「あと一人の仲間も今こちらに向かっている。合流次第、三人には東京に向かってもらうことになる。士練館学園を拠点にし現地の者達と協力して情報収集、作戦立案。大和の牙との戦いに備えてくれ」

「我々も最大限のサポートをする。何かあればすぐに伝えるんだぞ」

「承知いたしました」

 

 話は終わりと二人は部屋を後にした。

 いよいよ本格的に大和の牙との戦いになる。気を引き締めてかからねばと薫がしゃんと立つと静久が薫の左手を取ってずんずんと歩き出した。

 

「あの、静久さん……?」

「まあまあ薫ちゃん。今すぐ東京向かうってわけじゃないんだしリラックスリラックス〜。もう一人のお仲間が来るまで時間もあるみたいだし〜おじさん捕まえて昨日の続き、京都観光しよ〜」

「えぇ……?」

「親睦を更に深めると思って〜。それにしても薫ちゃん」

「はい……?」

「男の子と思えない手だね〜」

 

 その言葉に薫は目を丸くした。

 まさか、気付かれるとは思わなかったからだ。今まで薫から明かさずに男だと気付いた者はほとんどいない。

 

「気付いていたのですか……?」

「そう言いたいところだけど〜。実は、薫ちゃんが電話してるところ聞いちゃって〜」

 

 それは二日前の晩のこと。

 静久が薫を将棋に誘おうとすると電話で話しているようだったので終わるまで待っていたのだ。

 その時、薫は。

 

「ふふっ、そうですか……。ええ……あと、私はお姉ちゃんではなくお兄ちゃんですよ……」

 

 そう言っていたのを静久は聞いていたのだ。

 

「それにテイガとゲットのおじさん達も〜」

 

「まったく、大和撫子みたいな顔して実は相当気性激しいぞこいつ」

「いやぁ女の子おんぶしてるぐらい軽いんですけどねー」

 

 バケリュウマとの戦いが終わった後にそう語っていたという。そういえば、人質交換の際に怒りのあまりに人目を気にせず男口調になっていたと今更右手で口元を覆った。

 

「いえ、その……。申し訳ございません……。隠していたわけでは……」

「謝ることはないよ〜。静的には男の子でも女の子でも関係ないから〜。でも男の子な薫ちゃん見てみたいかも〜」

「それは、そうですね……」

 

 薫は足を止め、静久は振り返った。

 

「薫ちゃん〜?」

 

 静久が薫の顔を覗き込む。

 

「それは、親睦が深まれば見れるかもしれませんね」

 

 満面の笑みを浮かべ言うと薫は静久を置き去りにして歩き出す。

 その背を見つめ、静久もまた笑う。

 

「やっぱ面白いな〜薫ちゃん」

 

 表と裏、光と影。二つの相反するものを携えていた二人は馬が合った。どこか似た二人の影法師が板張りの廊下に伸びて、小気味良い音を鳴らしながら子供らしく肩を並べて歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇の中、何者かが怪しく言葉を紡いでいた。

 焦りでもあるのか早口気味に、誰にも聞かれないようにと話しているようだった。

 

「ええ、今回のバケリュウマ襲撃騒動で総本山……御守衆に落胆したものは多いでしょう。求心力を失くした今こそ表舞台に出る時かと……高浪さん」

 

 電話越しに男は口角を上げ、笑みを浮かべる。浅黒い肌と白い歯のコントラストが際立って、どこか獰猛さを滲ませた。

 木造の壁と古びた窓ガラスを横殴りの雨が叩くのを眺めながら男は感慨深い様子で語り始める。

 

「十年か……長かったような、短かったような……。だが、ここから先の十年はきっと短いぞ」

「それは、何故です」

 

 何者かが問い掛けると男……高浪武蔵は立ち上がる。黒いランニングシャツにネイビーブルーの迷彩柄をしたミリタリーパンツを着用し、半長靴という黒いブーツのような靴を履くその姿はさながら現役の自衛官。

 だが、高浪は自衛官と評するには血の気が多すぎるようであった。

 高浪は机に突き立てていたサバイバルナイフを手に取り壁にかけられたダーツの的へと投げつける。

 

「忙しくなるからだ。俺達、大和の牙がこの国を護るために働くようになるからなぁ」

 

 ナイフは的の中央に突き刺さり、高浪は満足そうに頷いた。

 

「総本山は我々を壊滅させるためにまずは先鋒隊、三人の御伽装士を送り込むようです」

「三人か……。ちょうどいい人数だ」

 

 的からナイフを抜いて、再び的に向かう高浪の左手には今度は三本のナイフが握られる。電球の黄色みがかった光を反射する刃を眺めながら通話を続ける。

 

「三人のうち二人は子供。もう一人はシンザンとのこと……。シンザンは侮れません」

「どうかな……」

「え?」

「子供は未来があるからなぁ……。俺達と共に来てほしいが」

「……やはり、あなたはお優しい」

「はっはっ、それはどうかな……」

 

 片手で三本のナイフが一斉に投擲される。

 ナイフは三本綺麗に横並びになって突き刺さり、高浪武蔵は近くのソファにどかっと座り込む。

 

「仲間になるなら受け入れる。敵なら斬る。それが俺の優しさだ」

 

 狂気を宿す瞳。

 三本のナイフが突き刺さったのは的ではない。

 高浪にとっての敵の姿に映っていた。

 嵐に包まれる絶海の孤島で、十年という時の中で研ぎ澄ました牙が剥かれる————。

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