仮面ライダービャクア外伝 仮面ライダーマイヤ   作:大ちゃんネオ

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第七夜 戦いの刻

 変身を解除すると、咲希が駆け寄り抱きついてきた。

 まだそこら中燃えてるので危なっかしくて肝が冷える。

 

「薫ッ!」

「咲希……。ごめん、心配かけた」

「ほんとだよ! 薫がなんか蛹になってる間に薫のおばあちゃんやられちゃったりしたんだよ! バケガラスが運んで今はお屋敷で治療してもらってるはずでバケゲンブがどうたか化神がどうたかで~」

 

 知識もないし、起きたことをとにかく説明しようとするからまるで意味が分からないけど事態は大体把握している。

 とりあえず、まずは……。

 

「バケガラス」

 

『……なにかな』

 

「礼を言う。祖母のこと、それから咲希のこと。守ってくれたんだろう」

 

『僕はお前の弱ってるところを見に来たんだぞ。だってのに、お前。だいぶ調子良さそうだな。僕と戦った時以上に』

 

「……まあな」

 

 バケガラスに背を向け、アラシレイダーを呼ぶ。

 一旦、屋敷に戻っておばあ様の容態を見たい。

 

「よし、来たな……。咲希、後ろ乗れ」

「うん……って、着物でバイク乗るの?」

「下、これ着てる」

 

 咲希に足を見せる。

 着物の下に特殊な革製のボディースーツを纏っているのだ。なので帯を外せば着物はロングコートのように羽織る形となる。

 ……さて。

 

「……おい、バケガラス」

 

『今度はなんだ……』

 

「怪我して飛べないってんなら、咲希送ったあとで迎え来てやろうか」

 

『いらねぇ。絶対にいらねぇ』

 

 あっそとだけ返してアラシレイダーを走らせる。

 ははっ、してやったり。

 

「ねぇ、なんで薫もバケガラスもお互い突っかかるようなことするのさ」

「なんでって、そりゃ……恋敵、だから」

「えー? なに? 聞こえなかった!」

「なんでもない!」

 

 アクセルを吹かし、音をかき消す。

 屋敷まで、アラシレイダーなら一瞬だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薫様ッ!」

 

 私を見つけた真姫がこれまた駆け寄り、抱きついてきた。

 おい、結構な人に見られてる。

 

「ご無事なのですよね? いやご無事? いやご無事。いやいやあれだけの怪我をなさっていたのに……」

「真姫、今はいいから。おばあ様の容態は?」

「はい……。正直、危険な状態です。清水医師が処置にあたっていますが医療施設ではありませんから……」

「……そうですか。おばあ様には、会えますか?」

 

 こちらですと真姫に案内されついていく。

 特に使われていない部屋におばあ様が寝かされ、医者である清水と医療の心得のある平装士が数名。

 処置は終わった……というより、出来る限りのことはやり終えたといった様子。

 清水も平装士の人達もこちらの顔を見て一斉に駆け寄ってくる。

 

「薫くん……! 無事だったんだね」

「はい。ご心配をおかけしました……。その、おばあ様は……」

「……現状、出来る限りのことはした。正直、センさんの生命力に驚いたよ。普通の人ならもう死んでるって状態だった。あとは、センさん自身の力に賭けるしか……」

「……分かりました。ありがとう、清水。……二人きりにさせてもらってもいいか」

 

 分かったと、清水は平装士を連れて退室。真姫も廊下で待機すると言い、襖を閉めた。

 怨面の待機形態であるネックレスを外し、握り締めた手で意識のないおばあ様の手を取る。

 

「おばあ様……」

「かおる……」

「おばあ様!」

 

 意識が戻ったのかと思ったが、目は閉じたままで夢現といった様子。

 

「かおる……すまない……」

「おばあ様……。薫は、おばあ様を憎んでなどおりません……。だからどうか謝らないで……目を開いてください……」

 

 おばあ様から返事はない。

 だが、穏やかな顔にはなった。

 大丈夫。

 おばあ様はきっと、大丈夫。またいつものように厳しく叱りつけるようになる。

 だから……。

 

「行って参ります」

 

 終わらせよう。

 この戦いを。

 夜舞家因縁の敵、バケゲンブ。

 お前を、夜舞薫の全身全霊をもって打ち倒す。

 

「薫」

「薫様」

 

 部屋を出ると咲希もこの部屋の前に来ていた。

 

「真姫、お前は避難してきた人達の面倒を見ていてくれ。雨は止んだが朝になるまで外には出ないように引き止めておくんだ」

「分かりました」

 

 真姫は指示を受け、早速動き出す。

 仕事が早くて、本当に優秀な従者だ。

 そして……。

 二人きり。

 月光の青い光に包まれて、咲希は俺の言葉を待っていた。

 

「……家族は無事だったか」

「うん。さっきみんなと会えた。ちゃんと避難出来ててよかった……」

 

 涙声で話す咲希に微笑みかける。

 そうか、よかったなと。

 家族がみんな揃っているならば、どこにいたって大丈夫だろう。

 

「咲希……」

「うん……」

「……正直なところ、帰ってこれるか分からない。援軍はバケガラス一人で、敵はバケゲンブが率いる軍勢だ。奴の力を受けて、一体一体の強さも増してるだろう」

 

 こんな状況で、生きて帰ってきたらそれこそ奇跡だろう。新たな力を手に入れたとはいえ、数の暴力には敵わない。

 そんな絶望的な話を、咲希は黙って聞いてくれていた。

 ……きっと、これから話すことを分かっているからだろう。

 本当に、こいつは強い。

 

「それでも俺はバケゲンブに勝って、生きて帰ってくるつもりだ。……お前と共に生きるために」

「うん……。そうだよ、約束だよ」

「ああ、約束だ。だから、お前には……咲希には、夜舞薫が帰る場所になってもらいたい」

「────はい」

 

 月光に咲く笑顔は美しかった。

 夜舞薫はこの笑顔を生涯忘れることはないだろう。

 

 夜舞薫は君に憧れていた。

 この町の外からやってきて、いろんな話をしてくれた。

 夜舞薫は君に救われた。

 夜舞家という家柄から、違う世界の人間だと周りから思われ、そういう風に扱われてきた。だけど君はそんなものを知らないから、夜舞薫に遠慮なくいてくれた。

 そのことが、なによりも嬉しかった。

 だから……。

 

「朝には戻る。必ず帰ってくる。だから、いってくる」

「いってらっしゃい」

 

 背に送り出す言葉を受けて、戦いに赴く。

 君とまた、いつもの日常に帰りたいから。

 絶対に、生きて帰ると誓って────。

 

 

『行くのか』

 

 門に背もたれるバケガラス。

 当然、俺は行けるわけだが。

 

「ああ、お前こそ行けるのか?」

 

 先程の負傷があり、さっきは援軍として数にいれたが正直戦力として怪しいところがある。

 

『舐めてくれるな。僕はお前に実質勝ってるんだぞ。僕より弱い奴に心配なんてされたくないね』

 

「は? あの時、勝ったのは俺だ。それに、お前が勝負を投げ出さなくても俺の方が勝ってただろうさ」

 

『なんだと?』

 

「やるか?」

 

 睨みあう。

 バケガラスのが無駄に、無駄に背が高いので見上げる形で睨み付ける。

 見下ろされて睨まれんのは滅茶苦茶、腹立たしいが……。

 

「それだけ減らず口叩けんなら大丈夫そうだな」

 

『最初からそう言っている』

 

 御伽装士と化神。

 決して相容れない者同士、並んで歩き始める。

 相容れないが、同じ人を愛した者同士ではある。

 そんないらない共通項だけの繋がり。

 こいつは自身の美学に則って、夜舞薫は使命と誇りのため。

 そのために戦う。

 

「戦いの前に、寄る場所がある」

 

『これ以上、どこに寄り道する気だ?』

 

「夜舞神社だ」

 

 

 

 

 境内の中に散らばる木片と金属片。

 木片は木箱のもの。そして、この金属片は……。

 

『なんなんだ、これ』

 

「……かつて、バケゲンブを封印した際に初代のマイヤは厄除の槍を用いて封印を施した。これはその、バケゲンブを封印した時に用いられた厄除の槍の刃だ」

 

 封印するにあたり夜舞神社が建立され、夜舞神社の御神体として厄除の槍の刃は剣として鍛え直され奉納されたという。

 そして、この刃に封印の力をこめるのが夜舞神楽でもある。

 

『封印の力、ね。今じゃ残滓も感じられない、ただの金属だ。化神の僕が触れてもなんともない』

 

「……そうだな」

 

『験でも担ごうってか? 弱気なことで』

 

「言ってろ。とにかく、一度はバケゲンブを封印したものだ。奴にとって、苦手なものだろう」

 

 散らばる破片の中から一番大きなものを見つけて拾い上げる。ちょうどよく、切っ先が形を保ったままでいてくれた。

 

「今度こそ行くぞ」

 

 夜舞神社を後にして戦場へと赴く。

 邪気で満ち満ちているがそれでもバケゲンブのものはよく分かる。

 強く、硬く、鋭く、常人なら容易く恐怖で支配してしまうだろう。

 

 夜舞神社のあるちょうど反対側の山が崩されている。

 あそこが、化神達の陣地。

 

『有象無象はまともに相手しなくていい。バケゲンブの力で蘇っている奴等だ。バケゲンブを倒せば消える』

 

「……いいのか、お前も消えるぞ」

 

『僕はあそこで美しく終われた。美しく弔ってもらった。────今の僕は、その美しさを裏切っている』

 

「……そうか。じゃあ、行くぞ」

 

 怨面を手にする。

 最後の変身にはさせない。

 最後なのはバケゲンブ、お前の方だ。

 

「オン・ビシャテン・テン・モウカ。舞え、マイヤ────。変身ッ!!!」

 

 纏うは美しき戦闘装束。

 蝶を模した面、引き締まった肉体を強調させるスーツは薄い紫。紫は高貴なる色。夜舞家という誇りある高貴な一族の当主であることを示し、全身に散りばむ光は星々のよう。

 御伽装士マイヤ、見参。

 

『フッ……』

 

 黒い翼で覆われるバケガラスの身体。

 翼が開かれると美丈夫は消え、黄金の瞳を輝かせる美しい異形が現れる。

 

「参るッ!!!」

 

 アラシレイダーに乗り込んだマイヤは神社の石階段を駆け降りていく。

 バケガラスは翼を広げ、空から敵地へ侵入する。

 

 

 

『来たか、マイヤ……!』

 

『御伽装士と裏切り者。たった二人だ! 即潰せ!』

 

 バケイザリが化神達に指示を飛ばす。

 化神の群れが波を打つ。

 まず第一陣が迎え撃つ。

 荒野を駆け抜けるマイヤ達に向かい火炎が、魔弾が放たれる。

 アラシレイダーを操るマイヤはその尽くを回避し、敵陣に向かい突っ込んでいく。

 

「退魔覆滅技法 鉄馬咆哮!」

 

 アラシレイダーは宙を舞う。駆動音をけたたましく吼えさせて。

 その音に耳を塞ぐ化神達。

 身動きの取れない化神達の中央にアラシレイダーは着地。その衝撃で化神は砂埃と共に吹き飛ばされる。

 マイヤは気にせず疾駆し、バケゲンブのもとへ向かう。

 

 バケガラスは上空で空を飛べる化神の相手をしていた。

 黒羽の刃を放ち、バケガラスを追う化神達を次々と撃ち落としていく。

 そして、上空から化神達を制圧していく。

 マイヤの道を作るために。

 

『たかだか二人になにをしている!』

 

 バケイザリが檄を飛ばす。

 その様子を見ていたバケゲンブは腰掛けていた大岩からおもむろに立ち上がると肩の砲に光が灯り、放たれる。

 

『ふん……』

 

 弾速は遅く、ゆったりとしたものでバケガラスは容易く回避することが出来たがそもそもバケガラスを狙って放たれたものではない。

 そして、バケガラスは一度これを食らったことがあるので分かる。分かるから、叫ぶ。

 

『マイヤ避けろ! 余波だけでもとんでもない威力だ! 離れろ!』

 

「ッ!?」

 

 空より迫る、二つの砲弾。

 弧を描き、マイヤを狙う。

 アラシレイダーのアクセルを全開にして最高速で駆けるマイヤであったが、その砲の威力はバケガラスの時のものとは違った。

 背後からの衝撃、強風にアラシレイダーごと吹き飛ばされるマイヤ。

 着弾地点とその周囲にいた化神達は焼却され、塵すら残らない。

 

 バケゲンブの肩の砲から放たれる砲弾は二種類ある。

 ひとつは弾速を高めた『ジャダン』

 もうひとつはいま放たれた威力に特化した『キダン』

 

 起き上がるマイヤに無数の化神が群がる。

 幻術を用いて躱すも、ここはどこもかしこも化神だらけ。

 どこに逃げようと、化神に囲まれる。

 アラシレイダーも先程の衝撃で駆動系が破損し走行不能。

 機動力を失ったマイヤには、バケゲンブへの道が果てしなく遠くなったような気がした。

 

「くっ……」

 

『御伽装士の首を獲れ!』

『討ち取るのだ!』

 

 次々と襲いくる化神。

 さばいてもさばいても湧いてくる。

 

「退魔道具! 雷神の鼓! 風神の風袋!」

 

 二つの退魔道具を装備し、風と雷で化神を圧倒していくマイヤ。

 風で道を開けさせ、雷の檻で化神を近付けさせない。

 そうして開いた道を、風を推進力に駆け抜ける。

 

「バケゲンブ!」

 

 目視出来る距離まで近付き、このまま一気に近付いてやろうと風袋を最大出力にする。

 だが、それはバケゲンブに好機を与える。

 バケゲンブの砲口がマイヤに向く。

 そして、放たれるはジャダン。

 高速の砲弾がマイヤと正面衝突しようとしている。

 マイヤも最高速で直進しており回避は出来ない。

 砲弾が当たれば消滅するのはマイヤである。

 白い光がマイヤを包む……。

 

『夜舞ッ!』

 

 勝利を確信する化神達。

 その叫びを聞くまでは。

 

「────超/蝶変身(ちょうへんしん)ッ!!!」

 

 砲弾を打ち消し現れるは月の蝶、マイヤ・ボウゲツ。

 風を背に受け、頑健な鎧を纏う自身を砲弾としてバケゲンブへと拳を放つ。

 

「おらぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 肉壁となる化神共を消滅させ、その拳はバケゲンブへと届く。

 バケゲンブの手の中に、であるが。

 

『ほう……』

 

「ッ……!」

 

 並みの化神であれば一撃で粉砕するマイヤ・ボウゲツの拳を受け止めるバケゲンブの怪力。

 二者の腕力は、拮抗していた。

 

『我が見えたマイヤはそのような姿をしてはいなかった。面白い。力比べだ、殴り合おうぞ!』

 

「うおおおお!!!!!」

 

 四方を化神の観客達が囲むリングが生まれ、バケゲンブとマイヤ・ボウゲツによる拳の応酬が始まる。

 互いの拳が、互いの身体を打ち続ける。

 防御はしない。

 それぞれの肉体はこの世界屈指の鎧で包まれているからだ。

 また、マイヤ・ボウゲツは高い回復能力を備えており負傷もたちどころに完治する。

 そんな二者に防御の必要はなく、ひたすらに拳を打ち続けるのみ。

 

「バケゲンブゥゥゥ!!!!!」

 

『面白い! 面白いぞ! 今宵のマイヤは骨があるッ!』

 

 化神達の歓声を割いて、マイヤとバケゲンブの叫びがぶつかり合う。

 

『我を封印したマイヤは正面から戦いはしなかったからな。嬉しいぞ!』

 

「てめぇを封印はしない! 倒す!」

 

 雄々しい肉弾戦に化神は躍る。

 それを一人、冷めた様子で見下ろすバケガラス。

 羽を両手で一枚ずつむしると黒き剣となり、二刀を振りかざし急降下。

 

『はぁぁぁぁッ!!!!!』

 

 頭上からの一撃をバケゲンブは回避も防御もせずに食らう。

 宵に咲く火花を目眩ましにしてマイヤ・ボウゲツは駆ける。

 

「おらおらおらおらぁ!!!!!!!」

 

 巨躯の懐に入り込み、マイヤ・ボウゲツの拳が乱れ打たれる。

 

『ぬあああッ!!!!』

 

 これには流石のバケゲンブも堪えたようで膝を地につかせた。

 その光景に化神達はどよめく。

 自分達の大将が膝をついたぞと。

 

「しゃあッ!!!」

 

『ぬう……』

 

『バケゲンブ様!』

『バケゲンブ様をお助けしろ!』

 

 四方を囲む化神達が雪崩れ込む。

 マイヤ・ボウゲツを飲み込まんと迫る。

 

「チィッ!」

 

『よおマイヤ! 随分と不細工になったじゃないか!』

 

 バケイザリの鋏がマイヤ・ボウゲツの首を鋏み、押し出していく。

 だが、即座に鋏を掴んだマイヤ・ボウゲツは踏み止まる。

 

『だいぶ調子がいいみたいだな! なんだ? 婆さんの仇でも討つか? あ、婆さんだけじゃなく母さんの仇もか。ハッハッハッ!』 

 

「こいつッ!」

 

 鋏を押し退け、バケイザリへと拳を向けるが次々と立ち塞がる化神達が壁となりバケイザリは化神の群れの中に消えていく。

 

『ァァァァ……アアッ!!!』

 

 地に膝をついていたバケゲンブが唸ると、バケゲンブの身体に巻き付いていた黒い蛇が動き出し、マイヤの前に立つ化神達を丸呑みにしていった。

 

「化神を……!」

 

『良き闘争だ……。本腰を入れてかからねばならん』

 

 そう言いながら立ち上がるバケゲンブに歓声が上がる。

 第二戦目の始まりは、バケゲンブの拳からであった。

 先程と変わらぬ肉弾戦ではあるが、ここで初めてマイヤ・ボウゲツは腕を交差させ防御の構えを取った。

 

 そう、マイヤ・ボウゲツが防御したのだ。

 

「ぐっ……!」

 

 後退るマイヤ・ボウゲツ。

 それほどまでにバケゲンブの拳は重い。

 

『フッ……ハァァァ……ハァッ!』

 

 二刀に黒き邪気を滾らせ、バケガラスの斬撃刃が放たれる。だが、その刃はバケゲンブの蛇が呑み込み、打ち返される。

 

『ぐっ……!?』

 

 剣で防御するも腕が痺れ、剣を握るので精一杯。

 飛びながら羽を撃ち出すもバケゲンブは最早、意にも返さない。

 

『我が兵よ! 我が具足となれ!』

 

 バケゲンブの号令で化神達は黒い靄となり、バケゲンブのもとへ集結していく。

 バケゲンブの巨躯を覆うほどの穢れ。

 それが脈を打つように数度震えると穢れは霧散し、空は赤く染まり、バケゲンブ本来の姿が顕現する。

 

『■■■■■■■!!!!!!!』

 

 その咆哮が大気を震わせる。

 マイヤ・ボウゲツとバケガラスはそのあまりの巨躯を見上げる。

 

「亀っつうか……。戦艦だろ、これ……!」

 

 大地を震わす四本の足。

 奇岩を思わせる禍々しい棘の生えた甲羅。

 巨体全体に巻き付く大蛇。

 名に違わぬ、玄武。

 暗天の赤き世界にその姿を現した。

 

『来るぞッ!』

 

 幾つか甲羅にある穴、これは砲門であった。

 放たれた砲弾は放物線を描いて次々と着弾していく。

 大地は次々と爆ぜ、燃え上がり、その中でマイヤ・ボウゲツはもがく。

 なんとか反撃を試みるも最早それどころではない。

 

「くそッ! ぐぁぁぁ!!!!」

 

 バケガラスも助けに行きたいが、行ったら自分が爆発に巻き込まれ消滅してしまう。

 バケゲンブの砲撃を止めることは出来ないかと、痺れが治まった両手を握り直し剣を構える。

 だが、攻撃の意思を察知した大蛇がバケガラスも己が血肉に変えようと牙を向く。

 

『チィッ! 邪魔だよ!』

 

『どうした! なにも出来ぬか! もっと食らいついてこい!』

 

 戦場に、バケゲンブの笑い声が木霊する。

 蹂躙されていく二人に、なす術はあるのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨は止んだんだべ、家さ帰ってもええべ?」

「駄目です。土砂崩れの危険がありますので明るくなるまではここに留まってください」

 

 深夜三時ほど。

 眠れない夜を過ごす。

 真姫さんのお父さんが主体となってこの臨時の避難所を運営している。

 バケゲンブの出現により降りだした豪雨は止んだ。だからもう家に戻ってもいいではないかという不満が高まってきてはいるが、脅威は雨だとか土砂崩れではなくバケゲンブ。

 いま、薫とバケガラスが必死に戦っている。

 

「バケガラス……。薫……」

 

 祈る。

 どうか、無事に帰ってきてと。

 私は、いつまでも待ち続けるから、だからどうか……。

 

 大きな音と共に、屋敷が揺れる。

 

「なんだ!? 山でも崩れたべか!?」

「ここは大丈夫なんだべか?」

「昔から神社があるところは災害に強い場所だから大丈夫だぁ。それにここは夜舞さん家だもん。平気平気」

 

 一人のおばあちゃんがそう言って、不安がる人達を宥める。

 すごいね、薫の家は。

 夜舞の、薫の家だからってみんな納得して落ち着いたよ。

 みんな、信頼してるんだよ。

 だから、薫……。

 

「薫……」

 

 ポンと肩に手が乗せられる。

 真姫さんの手だ。

 

「薫様を信じろ」

「真姫さんは……不安じゃない?」

「不安じゃないと言えば嘘になる。だが、自分の主を信じると、そう決めている」

「そっか……。じゃあ、私も信じる」

 

『ええ、信じてあげて。それが、薫の力になるから……』

 

 聞き覚えのない女の人の声がした。

 真姫さんには聞こえていなかったみたいで首を傾げる。

 とても、優しい声だった。

 仮に幽霊の声だったとしても、悪い幽霊でないことだけは確かなので真姫さんと声の人も信じて、薫を信じる。

 

「薫────!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薫────!」

 

 爆音の中にあっても、その声は確かに聞こえていた。

 

「薫様!」

 

 真姫の声も、平装士達の声も、清水の声だってした。

 避難していた町の人達の声もした。

 守るべき人々の声がした。

 

「負けてたまるか……!」

 

『ああ、今度こそ倒すぞ』

 

「誰……?」

 

 知らない声。 

 けれど、ずっと前から知っているような気がする。

 

『我が名は……。いや、我等が名は御伽装士マイヤ。マイヤを受け継ぐ者に、力を────』

 

 力が、注ぎ込まれる。

 これは、なんて、あたたかい────。

 

『最大火力! これで終わってくれるなよ』

 

 特大の砲弾がマイヤ・ボウゲツ目掛けて放たれる。

 マイヤ・ボウゲツはその場に佇み、静かに着弾を受け入れるかのように見えた。

 

 大爆発。

 これまでとは比べ物にならぬほどの威力。

 まさしく、最大火力。

 

『夜舞ぃぃぃ!!!!!!』

 

 バケガラスの叫びは爆音にかき消される。

 だが、なにか様子がおかしいことにバケガラスは気付いた。

 爆発が、収束していく。

 ある一点へと集まり、人一人を包み込むほどの大きさへ。

 

 そして、蝶が羽化の時を迎える────。

 

「────蝶力朝来(ちょうりきちょうらい)

 

 衝撃波が、バケゲンブを襲う。

 収束していった爆炎が、バケゲンブを襲ったのだ。

 炎だけではなく、マイヤ・ボウゲツの銀色の装甲も砕け散り、飛び散った破片がバケゲンブの肉体を傷付ける。

 

『な、なんだと言うのだ!?』

 

『あれは……』

 

 バケガラスはマイヤ・ボウゲツのいた場所を見つめていた。

 パッと見ただけではマイヤは消滅したかのように見えた。

 だが、マイヤはそこにいる。

 透き通る姿に少しずつ白が流し込まれていき、やがてマイヤの色である薄紫が全身を彩る。

 各部には金色の装飾が施され、淡い桃色の光が腕と足に纏いつく。

 そして虹色に煌めく巨大な光の翼を広げ、その背に夜舞家の家紋であり、マイヤの紋章である蝶の紋様が現れ、その威光を示した。

 

『美しい……』

 

 バケガラスはその美しさに息を溢す。

 暗天の、穢れに満ちた世界にあってなおそのマイヤは美しい。

 

『なんだ、その姿は……!』

 

 バケゲンブはそのマイヤに脅威を感じた。

 あきらかにこれまでのマイヤとは違う。

 

「────マイヤ・アカツキ」

 

『なに……!』

 

「マイヤ・アカツキ。それが、あなたを倒すマイヤの名でございます……」

 

 赤い空に、紅い光の軌跡が流れる。 

 厄除の槍が、マイヤ・アカツキの前に降り立った。

 

「私を、認めてくれるのですか……?」

 

『ああ。槍を手にしろ、薫』

 

 御伽装士マイヤの声に従い、厄除の槍を手に取るマイヤ・アカツキ。すると、夜舞神社で手にした刃の欠片が反応し、厄除の槍と融合。

 厄除の槍はマイヤ・アカツキの力を受けて、進化を遂げる。

 

 禍穿天照槍(がせんてんしょうのやり)

 

 刃は巨大化し、中央には小さな太陽のようなもの『陽真珠』が燦々と煌めいている。

 

『さあ、唱えるのだ。戦いの時は来た!』

 

 唱えよ。その術は、この姿となった時既に脳に叩き込まれた。

 槍をくるりと回し、穂先を地へと向ける。

 

「当代マイヤ 夜舞薫が奉る────」 

 

『なにをする気だ!』

 

 バケゲンブの砲撃が再開される。

 だが、砲弾は全てマイヤ・アカツキの光の翼によって防がれ、妨害とはならない。

 

「其は魔を祓う風 其は魔を断つ雷 其は魔を討つ炎」

 

「遥かなる古より魔を滅す血脈よ」

 

「今宵 時の大河より浮上し 再び夜に舞う蝶となれ」

 

「────英霊舞夜(えいれいまいや)ッ!」

 

 空を薙ぐマイヤ・アカツキ。

 そして召喚されるは、英霊達。

 

『ば、馬鹿な……! お前は……!』

 

「久しいな、バケゲンブ。今宵こそ、貴様を滅する時だ!」

 

 そう叫ぶはかつてバケゲンブを封印した張本人、夜舞美羽。

 初代マイヤ。

 マイヤ・アカツキを中央に、現代まで続くマイヤがバケゲンブの前に立ちはだかる。

 総勢、35人のマイヤである。

 

「まったく、人使いの荒い孫だ」

「おばあ様……!」

「この術のおかげか、傷も治った。なんなら全盛期並に調子がいい」

 

 マイヤ・アカツキの右隣に立つマイヤは夜舞セン。

 死の淵より舞い戻り、戦列へと加わった。

 

「薫」

「お母様……」

 

 優しい声でマイヤ・アカツキに声をかけ、隣に並ぶは夜舞楓。先代マイヤ。

 

「再会を喜びたいところだけれど、今は戦いの時。行くわよ薫。母さんも、ついてきてくださいね」

「はっ。親を嘗めるな親を」

「ほう。お前そんなこと言える立場かセン?」

「か、母様……」

「曾孫の危機に駆けつけてやったよ!」

 

 センの母にして薫の曾祖母である32代目のマイヤ。

 センがこのように立場的に弱くなっているのを初めて見た薫は心の中で微笑んだ。

 そう、ここに集うは歴代夜舞家当主達。

 脈々と受け継がれし血の絆で結ばれてきた者達なのだ。

 今宵、その血に刻まれてきた因縁を断ち切るために蘇りし気高き戦士達。

 決着の時が来る────!

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