『ぼくはサイレンススズカのような馬にもう一度出会いたくてジョッキーを続けていました。
ストレイトクーガーはまさにスズカの生まれ変わりのようなもので、取れたのなら全力で屋根を取りに行っていました。昔のぼくが乗ってましたから、泣く泣く断念しましたけどね』
『ディープインパクトは物凄い馬で、きっとストレイトがいなかったら無敗で三冠を取っていたと思います。メグロといい、ストレイトといい、私は伝説になる競走馬と走れてとても光栄でした』
【競馬新聞 ディープインパクト、ストレイトクーガー引退特別号
過去と今、伝説の騎手の対談より対談の一部を引用】
「あと3周、いくわね」
「はい!」
チームスピカ全体がディープインパクトの特訓に力を入れるようになって3日が経った。特訓の為に貸し切られた練習用ターフでディープインパクトはサイレンススズカと併走していた。
ストレイトクーガーと同じ逃げを得意とするスズカとの訓練はディープにこれまで以上の経験を積み上げる事ができる。この3日間はこうしてスズカと併走しているので、いつもの走りとは全く違うペース配分で走っている。それ故額に汗を浮かべ、顔にも辛さがにじみ出ている。しかし弱音は決して吐かない。全てはライバル、ストレイトクーガーに勝つためだ。
その練習用ターフを見下ろせる校舎の屋上から、双眼鏡を使い覗き見る人影があった。
メガネをかけた人影は双眼鏡から眼をはなすと、後ろの壁に背を付け読書をしているもう一つの人影に話しかけた。
「ディープインパクトは、ダービーの敗北の動揺から完全に抜け出したようです。思ったより早く抜け出してしまいましたね。」
「ノンノンノンスゥロォリィだよ遅すぎる。キープなら1日で立ち直ると思っていたんだから」
「彼女はダービーでの勝利を確信していましたから、そこから1日で立ち直るのは不可能ですよ。あなたとターボとハルウララくらいですよ。負けても動揺が極端に短いのは」
「勝ち負けに気を取られて無駄な時間を過ごすなんて時間の無駄使いでしょう。それよりも敗因を最速で把握し最速で修正して訓練に取り入れる方がよっぽど有意義だ。そうでしょう?ヤクノ先輩」
そう言いながら彼女、ストレイトクーガーは本を閉じて校舎内に向かう。双眼鏡を持つウマ娘、イクノディクタスもイクノですと彼女の発言を訂正し、彼女に続いて校舎へ入る。向かう先はチームカノープスの部室だ。
「これから一気にディープは伸びて行きますよ。スズカとの併走もそうですが、他のメンバーの支援はとても強い」
「伸びてもらわなくちゃ困る。私と肩を並べるのは彼女だけだからね」
「いつも思うんですが、ストレイトはディープの事をやけに押してきますね。」
「当たり前さ。私は彼女に惚れているんだから」
その言葉にイクノディクタスは思わず立ち止まってしまう。顔は少し赤い。
「ほ、惚れているとは…」
「言葉のとおりさ、負けても膝を折っても、それでも自分に向かって全力で我武者羅に追いかけてくる彼女に私はぞっこんなのさ。強い人だ。惚れがいがある」
だからこそ、とストレイトクーガーは立ち止り、イクノディクタスの方に振り向きながら続けてこう言った。
「私は最速で逃げ続ける。彼女が追いかけ続ける
にやり、といつもの自信に充ち溢れた笑みを浮かべ、また歩き出す。イクノディクタスもハッとして後を追った。
彼女たちが向かうチームカノープスの部室。そこではすでにチームメイトの3人とトレーナーが揃っている。
「スピカの偵察ごくろー」
カノープスのキャプテンであるナイスネイチャは部室に入ってきた2人をねぎらう。
「遅いよクーガ!今日こそはターボがクーガに勝つんだから早くターフに行こ!」
クーガーの手を引いてカノープスに割り当てられた練習用ターフに行く事を催促するツインターボ。
「ターボ、まだターフの整備が終わる時間じゃないから走れないよ!」
そうターボを止めるのはマチカネタンホイザ。
「それに今から来月末から行われる合宿の説明がありますので、もう少しここに残ってくださいね」
そう言って手に持つ合宿のしおりを机の上に並べるのはカノープスを率いる南坂トレーナーだ。
ターボは渋々といった風にクーガーの手を放して椅子に向かう。イクノディクタスとストレイトクーガーも空いている席に座ると、南坂トレーナーが合宿の説明を始める。
「えー来月末から始まる合宿ですが、ストレイトクーガーの強化をメインに進めたいと思っています。具体的なスケジュールは各自しおりを読みこんでおいてください。では大まかな流れを説明します。」
そう前置きし、合宿で行う訓練の内容を大まかに説明していく。やがて説明が終わり、何か質問はありますかと南坂トレーナーが聞くとイクノディクタスが手を挙げた。
「合宿から菊花賞トライアルの神戸新聞杯までにストレイトがレースに出る予定や要望などはありますか?場合によっては合宿の訓練も軽くする必要があると思いますが」
「いえ、神戸新聞杯までにレースに出走する予定は組んでおりませんし、ストレイトからもそういった要望は出ておりません」
そう南坂トレーナーは返答し、ストレイトクーガーをちらりと見る。クーガーもいつもの笑みを浮かべながら軽く頷く。
「わかりました。ではこちらから提案したいのですが、もう少し訓練内容を重くしてはどうでしょうか。ディープインパクトの特訓を見る限り、かなり力を付けて菊花賞に望んてくると思われます。」
「やーでも今の合宿内容も結構キツイよ?ディープが力を付けてるからって焦って無茶な訓練しても意味がないとネイチャさんは思うんですよ」
イクノディクタスの提案に反論するナイスネイチャ。マチカネタンホイザもそれに賛同するように頷いている。
「そうですね…こればかりは本人の意思を尊重しようと思うのですが、ストレイトクーガーはどう思いますか?」
そう南坂トレーナーはストレイトクーガーに問いかける。
「ん~、私はこう思っているんです。無茶な訓練で負傷するリスクとより速くなるリターン。それらは結局は運が絡んでおりリスクとリターンがつり合っているかで人は選択する。だけど今はそんなことはどうでもいい重要な事じゃない。必要なのはただ一つ最速でより強くなることでそれ以外の事は些事なんですよ。」
私はより早くなる事を望む。ストレイトクーガーはそう言った。
これってガーズルラブタグ付けた方がいいかな…
一応つけておこう、うんそうしよう。