泥棒達の協奏曲 前編
――あぁ、きっとこれは夢なんだろう
あたりが警告灯で赤に染まり、警報が鳴り響く中で僕はそう思った
白昼夢でも胡蝶の夢でも夢遊病でもなんでもいいけど、これは現実の出来事じゃない
今まで散々非現実な出来事を体験してきたけど、これは群を抜いてバカげている
そう、そうなんだ
だってそうじゃなきゃ――
「さぁてと…初対面で申し訳ないけんどよ、共同作業と行きましょうか?怪盗ルナさん?」
――モンキー面した世紀の大怪盗と手を組んで大脱走するわけがないんだから
――――――――――――――――――――
さて、いきなり身の上話から入ろうか
僕の名前はルナ、苗字は知らない
生まれつきフランスの貧民街で生活してたんで親の名前はおろか顔すら知らない
僕は所謂『転生者』ってやつらしい
とはいっても前世をぼんやりと覚えているだけで、死んだ経緯や今世にやってきた過程もさっぱり覚えていない
もしかしたら前世の記憶ってやつも自分の妄想なのかもしれないけど、それはどうでもいい
僕はこの世界でもう15年生きている
けれどもどうやら僕自身はこの世界では異端に属しているらしい
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚――要するに五感であるが――、さらに身体能力に第六感まで滅茶苦茶研ぎ澄まされている
どれくらい凄いかって言うと説明が難しいんだが、僕はこいつのおかげで今までほぼ一人で生きてこられた
さて、そんな僕だがある日片田舎にあった貧民街である噂が流れた
『オルレアン朝時代に紛失した王家の宝物が金持ちに売られた』と
ぶっちゃけものすんごく眉唾物だった
こんな貧乏人しかいないような街で流れる噂なんて、地方紙の誤報をゴシップ紙が面白おかしく書き換えたものくらいしかない
実物を見たわけでもないし、そんな情報に興味なんて――
――そう、誰かが持ってきた新聞で、そのお宝を見るまではそう思っていた
鮮やかなアメジストとルビーに彩られたイヤリング
かつて嫁いできた王女たちが付けていたとされるそのお宝を見て
僕は今の道を歩み始めた
まあ要するに泥棒になったってことだね☆
その顛末については、色々込み入った事情があったので割愛するとして
とにかく僕は最初のお仕事を見事大成功で締めくくった
そのあとはもう自分の感覚に身を任せて盗みまくった――と言いたい所だけど、実はまだ5回しか盗みに入ってなかったりする
いやーフランス出るのにもお金がかかってねぇ、EU同士のつながりが無かったらとてもじゃないけど国外活動なんてできなかった
フランスのほかにはイタリア・ドイツ・オーストリア・ベルギーでお仕事をさせてもらった
そのすべてが個人蔵、要は公営の施設にないお宝である
だって国相手にするのはちょっと怖いし(本音)
まあ、マフィアのお宅に家庭訪問させてもらったりもして結構恨み買ってるらしいけどね
僕のお仕事はとってもシンプル
1.前日に下見をする
2.予告状を送る
3.盗む
4.逃げる
とまあこんな感じだ
…一つだけシンプルじゃ終われないところもあるんだけども
さて、そんな僕だけど次の狙いはベルギーのお隣オランダと決めていた
オランダ王国のオラニエ=ナッサウ家は今のインドネシアを植民地として統治していた時、様々な貴重品をヨーロッパ本国に送らせていたらしい
その中で特に欲しくなったのが「太陽の輝石」だ
コーラルアゲート(サンゴの化石)でできているそうで、本来は見たまんま化石な色なのだがこの太陽の輝石は何と全体が真っ黄色なのだ
理由は不明だが、サンゴの模様と合わせて輝く太陽に見えたことからこの名が付いた
もともとは王室保管物だったのだが戦争やらなんやらでごたごたした結果、とある製薬会社がこの度新たな所有者となったという経緯がある
個人所有物なら、盗ってもいいよね!ということで速攻オランダに不法入国(パスポートなんてあるわけないので)
んで軽ーく下見をした結果盗まれるとは露ほど思ってないのか警備は結構薄いことが判明
仮拠点を見つけて予告状を送り付けてお仕事開始
無事目的のブツが置いてある保管庫まで潜り込み
そして冒頭に戻る
――――――――――――――――――――
いやー油断したねぇ
まさか他の人とダブルブッキングしちゃうなんて
ルナったらおドジさん☆
…って言ってる場合じゃねぇ!!
え?なんで?なしてルパン三世?え?転生は転生でもアニメ世界に転生とか想定外だYO!
…ふう、落ち着こう
状況の整理だ
まず僕は床下の通気口から侵入
↓
お目当ての石がある保管庫を開けて中に
↓
センサーやらなんやら掻い潜って目標を捕捉
↓
やったぜと思いながら盗ろうとしたところでルパン三世が登場
↓
初対面なのにワルサー突き付けられて固まっていると、警備に気付かれたらしく警報が鳴る
↓
ワルサー仕舞ったルパンからお誘いを受ける←今ここ
どういうことなの…
百歩譲ってルパンに脅されるのはいいとしよう
多分ルパン自身も同じお宝かそれに近いお宝を狙っているんだ
だから僕を脅した、筋は通ってる
でも共闘を持ちかけるのはよく分からない
彼ならば自力で脱出できるはずだ
相棒の(本人は否定するが)次元大介や同じく仲間の(これまた本人は否定するが)石川五右衛門がいるはずなんだ
お宝奪って僕をおいてはいさよなら~できるはずなんだ
「あんまり余裕がなくてねぇ、女の子には乱暴しないってのが俺のポリシーなんで――返事を聞かせてもらうぜ」
めっちゃすごまれた、きゃーかっくいーなんて言う余裕もない
ワルサー早撃ちされて仏様にはなりたくないなぁ
ま、脅されなくてもお受けするんですけどね
漫画・アニメ界屈指の大泥棒との共闘なんて心が躍るZE!
…あ、そうだ。もう1つ言い忘れてた
僕の欠点、というか癖というかそんな感じのあれだ
僕は盗みに入る時――
「仕方ありませんわね…では、エスコートをお願いいたしますわ――名無しの泥棒さま?」
――なんか人格変わっちゃうんだよねぇ
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~Side:Lupin III~
怪盗ルナ
ここ最近裏世界で名を上げ始めた女怪盗の名だ
フランス王家に伝わる王女のイヤリングを白昼堂々と盗み出し一躍有名になった
――いや、有名になった理由は別にあるけどな
同じ泥棒家業を営む者として俺様――ルパン三世はこいつに興味を持ち始めた
カリオストロ公国の一件でドジ踏んで以来、いろんな奴と組んできたがどうもしっくりこねぇ
そんな折目に入ったのがこの女怪盗だ
調べていくうちにこいつはどうも面倒な奴だと感じた
手口は俺に似てるが予告は必ず前日にしか入れない
個人が所有しているもの――中には表に出せないような代物も盗んでやがる
そしてこいつは盗みに入る前後以外の足取りを一切残していないときたもんだ
接触できないんじゃあ勧誘もできやしない
だったら直接会いに行くしかねぇ
次に予告状が届いたのはオランダにある製薬会社だ
ちょいと探ってみるとこの会社もなかなかにきな臭い
怪盗ルナが入るところは基本的に裏社会と何かしらつながりのある連中だ
この会社は人体実験のうわさだけじゃなく、アフリカや中東あたりでも人体強化薬の試験を行っている
バレりゃ速攻お縄だろうに、会長は次の欧州議会に出馬するとか
んふふふ、世の中金ってことか
そこにある太陽の輝石っていうお宝がルナの次のターゲットだ
予告状出してねぇのに忍び込むってのは上品じゃないが、仕方がない
さて、お手並み拝見と行こうか――怪盗ルナさんよ
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床下の通気口から出てきたそいつを見た時、俺は最初想像よりも小柄なことに驚いた
てっきりスレンダーな美女だとばっかり思ってたもんだからなぁ
しかし手口は見事の一言
無駄は一切なく、目的のお宝まで必要最低限の手順だけ踏む
同業者ながら目を奪われちまった
流れるようにお宝の目の前まで進む――おいおいそこに行くまでに何本赤外線センサーあると思ってんだ?
手に取る前にごたーいめーん、暗がりだった怪盗ルナがよく見えるようになった
身長は155㎝くらい、マジで小柄だな
だけんどそのキャットスーツはいけませんねぇ、目の毒だぜ
機能美追求すればそれが一番なんだろうけども、ピッチリしすぎってのも考えもんだぜ
ま、いい女なのは認めるとしてここで最後の仕上げ
わざと警報鳴らしてすたこらさっさだぜぇ~
ちょっと深刻そうに話してみれば、怪盗ルナはこちらの提案に乗ってきた
ま、言いくるめたとも言うけどな
さぁて、そんじゃ始めるとしますか
キャラクター紹介
・ルナ(15)
転生者っぽい感じで二度目の生を受けた主人公
泥棒に運命感じちゃった系女子でそれを補うチート設計の体で世界を飛び回りお宝を狙う
なお大泥棒からは逃げられん模様
・ルパン三世(??)
世紀の大泥棒――として名を馳せる前のルパン
ガンマン・サムライ・ガールフレンドと出会う前で、カリオストロ公国から逃げてちょっと後くらい
どうにかいい感じの相棒探してルナちゃんをターゲットにしたが、時代が時代なら事案ですよルパンさん