原作ではリザード族、今は亡きオンラインゲームではリザードマン族という種族がありますが、原作でリザード族の尻尾は自切可能と説明されていて、ヤモリも尾を自切できるのでリザード族ということにしています。ただリザードマン族の表記方法(リザードマン族トカゲ種)も利用しています。
リザード族ヤモリ種がヤモリ娘。
ヤモリ娘は瞼自体はありますがほとんど閉じません。気を失おうと眠ろうと瞼は完全には閉じないです。元ネタのヤモリが瞼がなく鱗で目が覆われていることの反映なので、涙も出なかったりします。
原作8〜9話時空です。
「ゲッコウも料理が苦手だったなんてねー、ちょっと意外だったかも」
「レトルト美味いし。まあ旦那の料理にゃ負ける」
「ふっふっふ、だぁりんは凄いんだから!」
何故ミーアが得意顔なのか。
以前の旦那とのやり取りを盗み聞きしていたらしい三人、特にミーアは急に当たりが良くなった。婚姻に興味がないとかその辺が深く関わっているのだろう。
敵は少ない方が良い。自明である。
おまけに、特に俺自身デメリットを感じなかったため同盟を組んだ。同じ爬虫類の特性を持つ同士、協力しようということだ。主にミーアのバックアップを俺がするという感じなのだがさして問題はない。
名付けて、レプタイル同盟。果たして俺たちは分類的に爬虫類なのか。
今現在、ミーアと俺は料理の勉強をしていた。
ミーアは旦那の胃袋を掴むため、俺はミーアの補助をするためと旦那の苦労を減らすため。旦那に監督されている以上、あまり苦労は減らせている気がしない。
「うーんまだ薄いな……。味見してる?」
「ゲッコウがしてる」
「どうしてそこをヒト任せに?」
「俺の方がミーアより人の味付けに慣れてるから……」
慣れているというより元々人だったから。
その辺の言葉は飲み込みつつ、シチューの味見をする旦那を尻目に、もう一度味の調整をしようと鍋に向かう。
決して、料理ができないという訳ではないのだ。俺の手先が物理的に不器用になった上、経験不足が相成ってミーアに引けを取らないレベルのものになってしまっただけである。
まさか卵すら満足に割れないようになっているとは思わなかった。あれのせいで俺まで料理下手という認識になってしまっている。
人間の手が生えていたらカレーと目玉焼きくらいは作れるというのに。
「旦那、何足したら良いんだ?」
小皿を持つ旦那の方を向きつつ、鍋の蓋を開けた。
その瞬間、顔が何かに包まれた。
「ゴボガバババッ!?」
液体の怪物に顔を飲み込まれたのだと、何となく理解する頃には肺の空気は全て吐き出してしまっていた。
夢を見ていた。男の時の夢だ。
内容は覚えていないが、悪夢ではなかった。楽しくもあり、そして悲しくもあるものだった。薄ぼんやりとしたピントを合わせ続け、ようやく覚醒に至った頃そういう結論に至る。
「うげ、何だったんだアレは……」
「……物理攻撃の効かないスライムだ。おまけに人型になる」
体温のせいかそれとも風呂上りなのか、湯気立たせたセントレアはやや遠い目をしながらそう話す。
スライム。間違いなく、小さい頃に自由研究と称して硼砂と洗濯のりを混ぜて作ったものではないだろう。いわゆるモンスター、この場合、他種族と分類するのだろうか。そんな感じのものだったのか。
……鍋から?
「俺って、そんなに料理下手だったのか……? 生きたスライム錬成するレベル……?」
人体錬成のような禁忌に知らず知らずのうちに一歩近づいてしまったのだろうか。
思わず声が震える。
「鍋の中の水分を求めて何処かから侵入したのだろう。……く、おのれ最弱だと侮ったばかりにッ」
俺が気絶している間に一体何があった。
非常に悔しそうな表情で模造刀を握りしめつつ、スライムの実在をさも当然のように話すセントレア。スライムは実在していたのか、しかもあの国民的RPGの雑魚仕様ではなく、TRPGの厄介仕様で。
他種族という存在を認め、奇跡を目の当たりにした今なら息をするように受け入れられることではあるが、それでも液体状の他種族というものが存在していたとは一度たりとも思わなかった。
額に乗っていたタオルをどかし起き上がると、何やら体の内に見覚えのあるものをいくつか蓄えた半透明の少女が座り込んでいた。
「ふ、二人とも~」
名称しがたき液体でベトベトになったマグカップを持ったミーアが涙目でこちらを睨んでくる。確かアレはミーア愛用の旦那とお揃いなマグカップ。
件の「スライム」であろう半透明の少女の腹の内を眺めるも、幸い俺の荷物は含まれていなかった。第一、あのキャリーバッグの中身が全て、リビングにまだ私物は一切持ち込んでいないのだから当然ではある。
パピが「スー」と名付けたスライムは少女の姿をしていて、青みがかった半透明の体だった。俺の時もそうだったが、名前がやや安直すぎやしないだろうか。
ゲッコウと名乗ってからは「クー」とは呼ばなくなったが、本名を知らない相手にはどんどん名付けて勝手に呼んでいるような気もする。
「これで、よし!」
「……良いのか?」
実質全裸だったスーの姿をどうにかしようと最終的にレインコートを着せた旦那だが、その分余計に煽情的になってしまった気がする。俺の問いかけに旦那は何も言わず視線をそらした。
「うーん、どこから来たんだろう。基本的に外出はホストファミリーと一緒にいなきゃダメだし……」
「主殿、彼女の特性からして正規のルートで来たのではないでしょう。何かと一緒に紛れ込んだのか」
「不法入国じゃんソレ」
不法入国といえば、と俺のことをこんなのにしたあの他種族の子を思い浮かべる。不法入国する輩は総じて奇想天外な能力を持っているのだろうか。
一瞬だが目の合った旦那は、俺の事情も不法入国に関係すると考えているのかもしれない。
あの少女は一応隔離され保護管理下にいると聞くが、何はともあれスーとやらの処遇だ。
名付けたパピはスライムと何やら話をしていた。パピはピパだとか。
姿かたちを変えられるだけでなく、声を発せられるようで「パピ」と名前を呼ぶことは出来ている。言葉を教えていたという感じか、それとも遊んでいるのか。
色合い的にも、体の大きさも似通っているからシンパシーを感じているのだろうか。
「どうするのだぁりん、墨須さんに連絡した方が」
「そうだな、墨須殿に任せてしまった方が良いだろう」
「墨須さんに引き渡すとすると、良くて軟禁かな。知り合いがそんな感じらしい」
例の子は地元というものが突然変異のこともあり不明で本人の記憶も頼りなく帰そうにも帰せないという事情もあるが、帰して大惨事を引き起こす前にこちらで一応の教養を身に着けさせたいとも言っていた。
「げ、ゲッコウの交友関係が滅茶苦茶気になる……。でも、あんな小さい子だしさ」
「ただ匿ったとなると主殿にも罰が……」
「俺もさっき窒息しかけたし、あのスライムが間違いを起こさないとも限らないだろ。無自覚に周りに迷惑をかけるってこともあるしさ」
「うーん、それはそうなんだけど」
「あれ、何か静かじゃない?」
ミーアのそんな言葉でパピ達がいた方を見てみれば、閉じていたはずの窓は開け放たれ、遠くの空に飛んでいくのが見えた。
「「「「ああッ!!!?」」」」
無断外出。
他種族になったばかりの俺でも、「くそヤバイ」の五文字くらいは分かった。
「ちょ、パピ!? スライム連れてどこ行く気だーッ!?」
パピ達を追いかけて玄関から飛び出していく旦那。
流石に追いかけているだけとは言え二人の近くに世帯主たる旦那がいれば多少気は楽になる。今度は旦那を追いかけてセントレアとミーアが外に出ようとして、狭い玄関に群がっているが。
「くぅ、私たちも追いかけねば……ゲッコウ、何している!?」
「そうよ、追いかけるんでしょ!」
「いや、行くにしてもセントレア一人で良くないか? 旦那乗せれば早いだろ」
少しの沈黙ののち、片方は赤面し、片方は苦虫を嚙み潰したような表情になった。
やけに上機嫌になったセントレア、こちらを恨めしそうに睨んでくるミーア。少なくともミーアにとって良くないことを言ったということは分かった。
「そうだなッ、私が行けば主殿の助けにもなる! 恩に着る、ゲッコウよ!」
主殿~、と駆け出して行ったセントレア。旦那一人で走るよりは確実にパピ達のところへ向かえるだろう。
旦那がセントレアの背に乗ったのを確認し、ほうと溜息をついた。
さっきまでの喧騒は何処へやら、二人きりになって気づいたがミーアの視線が痛い。自分が蛙だという訳ではないが、考えてみるとミーアと同盟を組んでいるにも関わらず敵に塩を送ってしまった気がしてきた。
ほんの少し居たたまれなくなって、視線を反らす。自分が蛇に睨まれた蛙ではないということの証明にはなった。
「セントレアはヘタレだしこっちは同盟組んで最強だと思ってたのにッ、どうしてセントレアの手助けしたのよー!」
どうしてと言われても、ガクガクと頭を揺さぶられても、パピ達が旦那と離れ離れにならないようにするには最適だと思ったからとしか言いようがない。
「というか仮にもヘタレって」
「だって、セントレアは一線超えないし……」
他種族間交流法においては一線を越えないことこそが評価されるのでは。
肩を掴まれてひたすら揺さぶられていると、ふと見知った顔がやってきた。
「あら、コウ……ゲッコウちゃんにミーアちゃんじゃない。だぁりんクンは?」
「……パピと、セントレア連れて」
「散歩、みたいな?」
墨須さんはふうん、と呟きながらもごく自然に家に上がってきた。家主がいないことはさっき自分で確認していたが、大丈夫なのかそれで。
目配せでひとまずあのスライムのことは黙っていようということになった。
「ゲッコウちゃんもこの家に馴染んできてるみたいね! 結構結構!」
我が物顔でコーヒーを催促する墨須さんに慌ただしく対応しつつ、そんな発言を聞き流す。小声でゲッコウだけに、とか聞こえたからやはり真面目に対応しないで正解だったようだ。
ともあれ、俺の様子を確認しに来ただけであれば手ぶらなのだろうが、今回の墨須さんはそうでもない。
「ゲッコウちゃんの健康診断の話もしたいんだけど、今日はちょっと別件でね。だぁりんクン早く帰ってこないかしらー、だぁりんクンの入れるコーヒー飲みたーい」
「コーヒー飲みに来たんですか」
「流石に違うわ。そろそろ改装業者さんとか色々来ると思うから、それの連絡……みたいな?」
バサバサとバッグの中から書類、書類。俺の手では一枚一枚確認することは難しそうなものだ。
一応保護者と言うべき存在なのでこうして墨須さんの対応をしているものの、正直俺ができることはほぼない。この手が邪魔で細かな作業に支障が出てしまう。マグカップを持つ動作が摘まむである以上、他の動作も大体の予想がつく。
ちなみにミーアは廊下に立ち、例のスライムが墨須さんにバレないよう旦那が帰ってくるのを待っていた。
「それで、どう?」
「どう、とは」
ミーアに手伝ってもらったとはいえ水の分量を大雑把にしすぎたことで、くしくも俺の分のコーヒーも出来上がってしまった。だいぶ薄味だ、墨須さんも不味そうな表情を表情をしていたことだし、練習が必要かも知れない。
それをちびちびと飲みながら墨須さんの話に耳を傾ける。
「あれ、聞いてない結婚の話? 別にゲッコウちゃんがだぁりんクンと結婚しても良いからね?」
「ブフゥッ」
「結婚!? 結婚って言ったいま!?」
コーヒーを噴出した。そしてミーアが飛び込んできた。結婚よりもあのスライムが目下の大問題だというのに。
聞けば、他種族の留学生側の任意ではあるのだが、対象として認められているのは旦那本人なので旦那とお互い合意の上ならば誰でも問題ないという。
ほかの三人は既に合意が取れていると判断して、旦那に選ばせる体を取っているとのこと。
咽ているのにミーアはまたもガクガクと肩をゆすり始めている。気管に入ったコーヒーがその勢いで多少飛び出したが、見栄えが良いとは決して言えない。
口の端からコーヒーを垂らしながら、今にも俺を食い殺しそうな表情をしているミーアを見る。
「どどどどういうことよ! 興味ないって言ってたよね!」
「俺が結婚したいって言って旦那が俺を選んだら出来るって話だろ。滅茶苦茶結婚まで遠いし、俺は興味ないから大丈夫だって」
「ウギギギギ……! だぁりんのことだし、全然大丈夫じゃないんだけどぉ」
とか何とかやっていると、自宅と墨須さんの携帯電話がほぼ同時に鳴り出した。
手の都合上自宅の方はミーアに出てもらうことになったが、残りのコーヒーを飲み干していると目の前で電話に相槌を打っていた墨須さんが急に慌て始めた。
「ご、護衛対象を見失ったぁ!? ああもう、私も直ぐに向かうわ!」
残っていたコーヒーを飲み干し、テーブルにぶちまけていた書類をまとめ始める墨須さん。よほどの急務だろうか、あまりこういった姿を見た覚えがない。
ごちそうさま、と走らないギリギリの速さで廊下に飛び出し、廊下途中のミーアとすれ違う。若干惚けた表情だったのできっと通話相手は旦那だろう。
「……あ、だぁりん。今墨須さん来てるから、帰ってくる時にはバレないようにね」
「ゴメン、ミーアちゃん、急用出来たから帰るわね!」
「ただいまー」
示し合わせたかのように、一番合わせたくない人たちが玄関に集まった。
当然のようにスライムを連れて帰ってきた旦那、そしてそのスライムを見てピシリと固まった墨須さん。
墨須さんは先程の電話が余程の事態だったのか「話は後で聞くから!」と残し何処かへ駆けていき、入れ替わるようにして改装業者がやって来た。
あれよあれよという間に改装は開始され、辺りは轟音に包まれる。
渋い顔をしたまま硬直している旦那を他所に、ミーアが気まずそうにこちらへ視線を寄越した。
「今の、アウト? セーフ?」
「アウトだと思う」
原作で起こったイベントはほぼ同様に発生しますが、スーに襲われるのがゲッコウ、パピを追いかけるのが主殿&セントレア、自宅待機組がゲッコウ&ミーア…というように参加メンバーが変更したりします。
独自解釈タグはこの辺りの差異や、原作で描写されていない部分を描写しているため付けています。必要なさそうであればまた消します。
他者視点
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ほしい
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ほしくない