TSヤモリ娘のいる日常   作:潮見ヤシ

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原作10話時空です。
誤字修正、ありがとうございます。


エックスゼロ

 改装の確認作業に追われる旦那。

 一方で、如何にして密入国スライムを国家権力たる墨須さんから守るか協議するミーア達。

 いつの間にスーを保護する側に立ったのやら。

 

「私もあのスライムが子供を身を挺し守る姿を見たのでな、理性や良心がないとは言うまい。何より…………ハッ私は何を!」

 

 頬を赤らめ、その後豹変し頭を搔きむしるセントレアの姿を見ると、何よりの先の方が気になってしまう。

 間違いなく旦那に関することだろうが、本人から話を聞こうにも業者とのやり取りで旦那は手一杯なようだし、セントレアの様子からして聞いても話してくれそうにない。

 

 ともあれ、人を遊び感覚で窒息させるようなタイプではないと判断した訳か。

 当たりが強くないことを考慮すると、俺みたいな恋敵モドキのようなものにはならないと判断したのだろうか。俺はそんな気は全くないのだが、ミーアはまだどこか納得していない節がある。

 セントレアは、内なる欲望と矜持に挟まれている、ということは言動で良く分かった。

 

 対してミーアは何かのコスプレをし、この良く分からない状況を打破すべく皆を纏め上げようとしている。

 

「だぁりん参謀、何か解決策は!」

「いきなり僕に振るなよ……」

「ん、んー、じゃあゲッコウ参謀は何か!」

「何で俺も参謀に……」

 

 纏め上げることは出来ていないようだ。

 

 徐々に改装が行われる領域が拡大する中、ギャアギャアと騒ぎ始めるミーア達を遠巻きに運び込まれる機材を眺める。確か俺の部屋と、元々予定していた改築だったか。

 一応リザード族という訳で爬虫類的性質を持つ訳ではあるが、先客としてミーアがいるためそこまで必要な工事はないだろう。あるとすれば、ヤモリの飼育本に書いてあったシェルターくらいか。

 隠れ家、あれば楽しいだろうが今の俺に必要なのか。

 

 元々持っていたのか、同居するうえで参考にしているのか、旦那は様々な動物の本を持っている。その中の一つを一つ読んでみたわけだが、俺自身知らなかったことも書かれていて非常に参考になった。

 多少知識として知ってはいても、飼育目線では無知だった訳だ。

 ふーん、とペラペラ本を捲っていると旦那に物凄く珍しそうな目で見られたが。

 確かに、自分に似た動物の飼育法をマジマジと見ると言うのは変かもしれない。

 思わずうんうんと頷いてしまったが、そんな話ではなかった。

 

 ふと視線を旦那の方に戻してみれば、作業員に何かを聞いているようだった。

 周囲の轟音がついに本格的な改築の開始を合図していて、旦那らの会話も聞き取ることができなくなる。

 話が終わった旦那は俺が気にしていたことに気づいたらしい。流石に近づけば声は問題なく聞き取れた。

 

「ゲッコウの部屋と、防水仕様の特別室が増える……んだってさ。墨須さんも言ってくれればいいのにね」

「……元々予定してた改築の方が防水仕様の部屋ってことじゃないのか?」

「あれ、そういえば確かに……皆は?」

 

 俺たちが目を離していた隙に影も形もなくなってしまっていた。

 作業員らに話を聞くも、屋内にいる様子はない。そもそも壁や床、天井を剝がしてしまった状態でうち二人が屋内を移動できるとは到底思えない。

 玄関は開け放たれたままだった。

 

 

 

 そもそも、何故俺は置いていかれたのか。

 仲間外れにされたのが不満だからというような子供っぽい理由ではなく、単純に皆で逃げたのなら旦那はともかく種族的に「皆」に含まれる俺は何故一緒でなかったのか。

 

 走る旦那を追いかける形で街に出る。

 この身体になってから周囲の視線が気になることもあり個人的な理由で外出したことはなかったが、筋力が衰えているようなこともなくどことなく男の時よりも足は軽く感じた。明らかに男の時より「脚」は細く、「足」は太く大きいにも関わらず。

 種族的な身体能力だろうか。

 ただ手足に物と接着できる能力があったとしても、他の筋力がなければ体を支えることも持ち上げることもできまい。流石にこの手足の毛が飾りというのならば、あまりに邪魔な飾りだ。

 

 人間の時ならもうこれほど走れば疾うに息切れを起こしていただろうに、と身体機能を静かに驚いていた時、ふと妙案が浮かんだ。

 

「全く、皆どこに行ったんだ?」

「旦那、ちょっと待ってくれるか。もしかしたら見つかるかも」

「え?」

 

 高所恐怖症の気はない筈。

 そう思いながらも一応の覚悟を済ませ、素っ頓狂な声を上げる旦那の隣にある電柱へ向けて助走を始めた。

 

 体にそういう機能があるとは知っていても使ったことがないと、案外と不安が残る。人がやっているものは見ていても実践したことがない指パッチンと似たようなものか。

 指パッチンのように、力加減を間違えて悶絶するようなことはないと良いのだが。

 

 かくして、俺は電柱に張り付いた。

 流石アマガエルと同様に指先に吸盤がついていたと思われていたただけある。何度か確認で電柱に手と足を動かすが、問題なく張り付く。分子間力というミクロの御技が、しっかりと俺自身の手足を固定させていた。

 

「おぉ……良し、行けそうだ」

「あーなるほど、高いところから。でも何でゲッコウが驚いてるんだ?」

「で、電柱に張り付くのが初めてだったから……」

 

 張り付くのが初めてだったのは何も電柱だけではないのだが。

 旦那からの突っ込みに思わず顔を背けそうになるが、今は早急にスーを連れ出した奴らを見つけねばならない。

 

 ペタペタと、そんな効果音は一切鳴らず想像以上に静かに電柱を上り切り、電線に触れないよう気を付けながら周囲を見渡す。

 スーやパピはともかく、ミーアやセントレアはその下半身具合で割と簡単に見つかりそうな気はするのだが。

 

 一通り見まわしたところで、街中にはいないことが分かった。

 そして、電柱は思ったほどの高さはないということも理解する。樹の向こうは電柱の高さが足りず確認ができていない。全員セントレアにしがみついていればかなり遠くに行っていること考えられるが、セントレアのことだしそれはなさそうだ。

 聞けば、「(あるじ)」と認めた相手しか背に乗せないという。

 呼び方の通り、旦那が主という訳か。

 

 黒服の人間があちらこちらにいる事がやや気にはなったが、見つからないとなると、樹の向こうにある公園、あるいはその公園よりもっと向こうに逃げたかもしれない。

 上る時より降りる時の方が覚悟が必要だったことを降り始めてから後悔し、元々顔には出にくい性分ではあったが細心の注意を払い恐怖を隠し陸に降り立った。

 見栄を張り頭を下に向けて降りたのは失敗だった。

 

「見つからなかった。取り合えず確認できなかった公園の方に行ってみよう」

「了解。ゲッコウがそれで上ってるの初めて見たけど、やっぱり凄いね」

 

 俺もそう思う。慌てて言葉を飲み込み、駆け出した旦那を追いかけた。

 そう言えば、元々想定していた工事は防水仕様の部屋だったか。

 

「なあ、スーを連れてきたのが墨須さんって可能性あるか?」

「僕もいまそれを考えてたよ……有り得なくはない、と思う」

 

 パピには攫われたし、セレアには交差点で撥ねられたし。

 そう呟く旦那は非常に苦悶に満ちた顔をしていた。思い出すのも辛い程の事件でもあったのだろうか。

 そういえば、セントレアはセレアという愛称を旦那にしか呼ばせていない。

 

 そんな話をしていると女性の悲鳴が聞こえてきた。

 少なくとも、探し人のものではない。

 

「誰か、誰かお助け下さいましー!! 車椅子が坂道で……っ!」

 

 女性の言葉も状況も切迫したものだった。

 件の坂道がすぐ側どころか目の前であったため、迷いなく旦那もその女性の元へ駆け出した。

 その女性の乗った車椅子はどんどんと加速する。制御不能の車椅子、もとい女の人を旦那は受け止める気なのか。

 

 俺は俺で先程登った電柱のことを思い出し、旦那の後を追いかけるのではなく坂の側面を可能な限り最大速度で駆け上った。きっと人間の体だとこの速さでは登れなかっただろう。

 そして俺の方はギリギリ、車椅子のグリップを手で掴むことが出来た。

 

「アバッ!?」

 

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 多少車椅子の速さを緩めることが出来るだろうと、旦那の方ではなく直接女性の方へ向かった訳だが、理解が追いついて血の気が引いた。

 顔面が滅茶苦茶に痛いのは、足を除く全身が車椅子に引っ張られつんのめったからだろう。

 手足のくっつく力を舐めたばかりに足が地面から動かず、全身を大地に打ちつける代わりに車椅子を止めた。車椅子だけを、完全に。

 

「げ、ゲッコウーッ!?」

「ひゃ、きゃあああああッ!!?」

 

 頭を打ち付けたことで朦朧とする視界を彷徨わせ、車椅子に乗っていた筈の女性を探す。

 桃色の髪をした女性は、確かに宙を舞っていた。

 旦那の俺を呼ぶ声と、空を飛べない女性の悲鳴が交差する。その後数秒と待たないうちにぐしゃりと音がした。

 

 慌てて起き上がり駆け寄れば、旦那と女性が絡み合っていた。

 

「や、柔らかいエアバッグが……ッ」

「あら……?」

 

 状況も状況なので仕方ないとは言えるが、旦那が女性の胸に顔を埋めている様子はミーア達が見たら発狂していたかもしれない。

 思い切り後ろ向きに倒れ込んでいるが大丈夫だろうか。なんて思っていたが、俺と目があった旦那はヒラヒラと手を振り問題ないことをアピールしていた。

 

 車椅子を取りに戻っている間に、旦那は女性を抱き起こしていた。

 旦那がお姫様抱っこで持ってきた車椅子に戻すと、女性はこちらに目を向ける。吸い込まれるような、畏れを抱かせる何かがある不思議な瞳だった。

 

「止めて頂きありがとうございます。あのようになるのは予想外でしたが……」

「非常に申し訳ない」

「いえ、貴女もお怪我がなくて何よりです」

 

 どこかのお嬢様だろうか。

 あのようなことがあったばかりにも関わらず落ち着いた物言いからそんなものを想起させる。ただ、車椅子のお嬢様を付き人なしで街を歩かせるなんてことは多くはないだろう。

 

「申し遅れました。私、メロと申します」

「あ、どうも来留主です……じゃなくて! すみません、多種族の子探してるんでこれで失礼……」

「ひょっとしてラミアとハーピーとケンタウロスの方々でしょうか」

「分かるんですか!?」

「ええ、先程お見かけいたしましたわ」

 

 お礼も兼ねて道案内を、と続けるメロさん。

 話を聞く限り見立て通り公園の方で見かけたという。

 半透明の人型は見ていないと言うのだから、スーとは一緒に逃げていないのだろうか。あるいは姿形を変えられるということで何か別のものに擬態しているのだろうか。

 

「ここを右に曲がってください!」

「ここ!? ここって路地裏じゃ……」

「すみません勘違いでした。やっぱり公園の方へ」

 

 そしてメロさんは時々見当違いな方へと曲がろうとする。すぐに間違いに気づくのだが、そこまで方向音痴なのだろうか。

 箱入り娘という場合、外に出た経験がなさすぎて土地勘がないということもあり得るかもしれない。

 

 幾度となく曲がったりを繰り返して、やっとのことメロと名乗る女性が三人を見かけたという公園にたどり着いた。

 そこには険しい表情をしたミーアと、何やら様子のおかしいスーの姿が。

 

「げ、ゲッコウ!? だぁりん連れてきてって言ったのに遅いわよ!」

「……え、聞いてない」

「何でよー! うんうんって頷いてたじゃない! もうみんなスーにやられっヒャアッ!?」

 

 何故かミーアに襲いかかるスー。

 ミーアの顔からして何故襲われるのかは察しているらしいが、俺には手が出せない。旦那も車椅子の女性もそうだった。

 

 苦しみ悶える声というより嬌声を上げているミーアの姿に何やら如何わしい気配を感じる。

 瞼がまともに機能しない俺は、知り合いのあられもない姿をせめて見ないようにと顔を手で覆った。

 というか服だけ溶かすとかそういう様子はなさそうだったが、スーはエロゲ寄りのスライムだったりするのだろうか。

 

「っと、何度も同じ手は食らうか!」

 

 再び目を晒したときに見えたものは旦那がビニール袋にスーらしきものを詰め込んでいる姿だった。

 決定的瞬間を見逃し、ミーアからの視線が物凄く刺さった

 

 気絶していたセントレアやパピを起こして回り、水分を求めたスーが汗を舐め回していたと聞き、そういえば初め以外スーの被害を受けていないなと気づく。

 まあ、ミーアのあの様子を見る限り被害を受けたくないという思いが

一層強くなったが。

 

 車椅子の子は何やら含みのある言い方で旦那の家へ着いていくつもりのようで、それに気づいたセントレアがこちらに寄ってくる。

 

「アレは一体何者なのだ? ただならぬオーラを感じるのだが」

「俺もよく分からん」

 

 旦那の家に着いてくる理由は、保護者等に連絡を入れるため。そう考えると妥当ではある。

 珍しくミーアはそんな女性のことを気にかけている様子はなく、先程の現場を旦那に見られたことがよほど堪えているらしい。

 気持ちは分からないでもない。

 パピは普段以上にふわふわとしていた。

 

 

 

 来留主家に戻ると墨須さんと黒服に囲まれ、部屋の中へ通され車椅子の女性の正体が明かされた。

 

「私、人魚のメロウヌ・ローレライと申します。よろしくお願いしますね、だんな様」

 

 固まる一同。若干理解が追いついた旦那と俺は納得こそすれ、受け入れられるかは全く別の問題だ。

 人魚ということは生きることに水は必要だろう。そしてそのためには防水加工が必要になる。

 墨須さんが当初から予定していたことというのは、この子のホームステイだったと言う訳か。

 

 そんなことを考えていると、ツカツカとヒールを鳴らせて旦那に迫る墨須さん。こうしてみると背が高い。

 

「だぁりんクン、このスライムのこときちんと指導教育できる?」

「え、えぇまあ……一応、そのつもりではいましたが」

「なら良し!」

 

 そう告げるとブハァ、と盛大な息を付き椅子に腰掛けた。

 そして語る。ホームステイ先を探したり、交流法を破ってないか監視したり、新種の密入国多種族を保護したり。そして最後の項目にこのスライムは最後の項目に入るのだと。

 

 ゴクリ、と誰かが唾を飲む音がした。

 

「もう……もうね、休みたいの。ゲッコウちゃんの案件で、もう私のキャパシティは完全にオーバー」

「げ、ゲッコウの案件?」

「だから、今の私にはそのスライム型の他種族は見えないから! ヨロシク! 後ゲッコウちゃんの健康診断の連絡渡しておくわね」

 

 俺のせいなのか。いや、俺のお陰だろうか。

 スーは墨須さんの職務怠慢で見逃され、俺は健康診断の冊子を受け取った。一番良い結果なような気もするが、公務員的には良いのだろうか。

 

 メロウヌさんは、部屋の隅で居心地が悪そうな表情で佇んでいた。




メロとスーが加入。



(申し訳ありませんが作者の都合により完全エタということになります)

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