ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
第0話 自称:未来人の頭のおかしい新人トレーナー
-西暦20XX年07月31日の航星日誌- GAUMA SAIOH
私の名前、正確にはこの身体の持ち主の名前は、
この年の春に日本ウマ娘トレーニングセンター学園に所属することになった新人トレーナーということなのだが、
我が事ながら他人事のように感じられてしまうのは、私の意識が西暦23世紀の未来人だからというのもあるのだが、
一番の原因は 不慮の事故でウマ娘に撥ねられて 3ヶ月間 意識不明の重体となっていたからなのだろう。
しかも、どうにも評判が悪かった男らしく、男のことを知る周囲のヒトやウマ娘たちの反応はよろしくない。
一応、状況が全く飲み込めずにいたところを見かねた親切な先輩トレーナーに引き取られて、
今は新人再研修を兼ねてその先輩トレーナーのチームで副トレーナーをさせてもらって日銭を稼がせてもらっているが、
ヒトによく似た知的生命体であるウマ娘とのふれあいの日々は非常に興味深いものであった。
そして、天文学的には私の知る地球そのものである地球型惑星だが、地球の歴史とはまったく異なる進化と歴史を持つ地球であるため、
本来の自分の身体を失って見知らぬ何者かになって右も左も分からない状況ではあったものの、
私は一足先にプロキシマ・ケンタウリへの惑星移住がなされたものとして、この状況を大いに歓迎することにした。
そのため、私はここでの日々を”航星日誌”として観察記録をまとめておくことに決めた。
私の本職は波動エンジンなどの宇宙船エンジニアなので、アスリート養成施設のトレーナーは畑違いもいいところなのだが、
データ分析や耐久試験、スケジュール管理などの根気が必要な専門技能がウマ娘たちの面倒を見るのに活かせるのではないかと思って前向きに取り組んでいる。
実際、先輩も私のそういった能力を評価して連れ回してくれているので、私も非常に助かっている。まさに『芸は身を助ける』というわけだ。
しかし、そういった方面に転職した方が断然いいと思われているのも事実であり、
いずれは本職として宇宙時代になる前に波動エンジンをこの世界で開発するのも悪くないと思っている。
トレセン学園のトレーナーはこの地球のヒトにとっては人気の職業の1つであるらしく、
宇宙船エンジニアだった頃と比べると格段に安い給料ではあるが、
男がトレセン学園のトレーナーを目指していた理由の1つであったことはわかっている。
そんなわけで、この世界で自立できるまでは花形職業の1つであるトレーナー業に打ち込んでいこうと思う。
斎藤T「……先輩、1つ訊いていいですか?」
桐生院T「はい、何でも訊いてください、斎藤さん」
斎藤T「どうして、レースの後にウイニングライブをするんですか?」
桐生院T「よくぞ聞いてくれました!」
桐生院T「実は、トレセン学園のトレーナーにはウイニングライブの指導も必須の技能ではあるんですが、」
桐生院T「その起源や意義について おざなりになっているトレーナーが多いので、これは大変いい質問ですよ!」
桐生院T「まず、ウイニングライブの最古の記録はなんと紀元前2万年前のラスコーの壁画とされているんです」
斎藤T「ラスコーの壁画――――――、そこからして歴史がちがうんだ……」
斎藤T「でも、それなら短距離走選手と長距離走選手とでは必要なトレーニングや能力がちがうのに、よく同じステージで踊らせようとしますね?」
桐生院T「そうなんですよ! そこです! 目の付け所がちがいますね、斎藤さん!」
桐生院T「実際、ヒトと同じようにウマ娘にも【短距離】【マイル】【中距離】【長距離】の適性があるのはわかりますよね」
桐生院T「そして、それに加えて【脚質】【バ場】の相性を鑑みて出走するレースを決めるわけなんですが、」
桐生院T「考えてもみてください。ヒトが出走するフルマラソン:42.195kmと比べたらウマ娘の【長距離】も大したことはないですよね」
斎藤T「たしかに、ウマ娘の力強さと足の速さならフルマラソンの世界新記録なんて余裕では?」
桐生院T「普通に考えればそうなんですよ!」
桐生院T「でも、長い地球の歴史をヒトと共に歩んできたウマ娘は、時には戦場を共に駆ける戦友として活躍してきましたが、」
桐生院T「残念ながら、戦場で活躍したウマ娘たちはヒトよりも遥かに短命で生涯を終えているんです」
桐生院T「つまり、ウマ娘という生き物は
桐生院T「そして、日本最高峰のトレセン学園であっても、夢半ばで故障によって引退を余儀なくされた子たちがたくさんいるんです」
斎藤T「なるほど、アスリートが短命になりやすいのが種族レベルで起きているわけか……」
斎藤T「そうなると、基本的な身体能力が高い種族はそれに反比例して短命になりやすいのが自然の摂理なのか……」
桐生院T「ウマ娘にだってトレセン学園を卒業してからのそれぞれの人生があるのに、」
桐生院T「自分のトレーナーとしての箔付けのために担当のウマ娘を使い潰すようなことはあってはならないんです!」
斎藤T「なるほど。だから、先輩は担当のウマ娘のことをあんなにも気を遣っているわけなんですね」
斎藤T「あれですか? トレセン学園のモットーである――――――」
――――――
桐生院T「そうです、斎藤さん!」
桐生院T「私の場合は“ハッピーミーク・ファースト”を肝に銘じているんです」
斎藤T「つまり、本来ならばロードレースもできるはずのウマ娘が種族レベルで早死しないようにあえてハコの中だけでレースをさせているわけですね」
斎藤T「そして、ありあまった体力でウイニングライブをやるようになったのが、近代ウマ娘レースの興りとなるわけですか」
桐生院T「逆です。近代ウマ娘レースは宮廷舞踊をしていたウマ娘がレースをするようになったものなんです」
斎藤T「だから、目の届く範囲でのレースになっているわけですか。なるほど」
斎藤T「そして、出走するレースがちがうウマ娘でも踊れるようになっているのは、宮廷舞踊の歴史に根ざしているわけだからなんですね」
斎藤T「勝利したレースの格でウイニングライブで上演できる曲が決められているのも、宮廷舞踊にならった許可制というわけですか」
桐生院T「そういうわけで、その成り立ちからウイニングライブは勝者となる義務と責任として欠かせないものとなっているわけなんです」
斎藤T「非常に興味深かったです。ご教授 感謝いたします、先輩」
桐生院T「いえいえ、こちらこそ。一人でも多くのトレーナーがウマ娘のことを大事にするようになってくれたら、教えた甲斐があります」
斎藤T「私にもG1レースを制覇するウマ娘の担当ができますかね?」
桐生院T「そうですねぇ……」
桐生院T「間違いなく斎藤さんの能力は一流ですけど、記憶喪失で初心者以下の知識となっているのは大きなマイナスです」
桐生院T「でも、あまり口数が多くないミークと会って数日で信頼関係を築き上げることができたんです」
桐生院T「記憶を無くす前の斎藤さんの悪い噂は聞かないわけじゃありません」
桐生院T「私も最初はその悪い噂が本当なのかを見極めようと思ってましたし」
桐生院T「けれど、私たちトレーナーがウマ娘の才能を見抜くことが必要なのと同じく、ヒトの良し悪しも噂で決めつけちゃダメだと思いましたよ」
斎藤T「そうでなかったら、私は桐生院先輩のチームに拾われてませんからね」
桐生院T「そうですよ。これでもヒトを見る眼はあると思ってますから」
桐生院T「ですから、まずは来年度まで私のチームで経験を積んでから、トレセン学園での立ち回りを考えればいいと思います」
斎藤T「ありがとうございます。何から何まで」
桐生院T「代々優秀なトレーナーを輩出してきた名門:桐生院家の一人娘としてはこれぐらいは」
――――――私は実に運がいい。2期先輩である桐生院 葵という出会えたのは幸先の良いスタートであった。
●プロフィール(20XX年当時)
名前:
年齢:20代前半
所属:トレセン学園トレーナー 1年目
血統:父親(ヒト)-皇宮警察騎バ隊 / 母親(ウマ娘)-皇宮警察騎バ隊
誕生日:06月30日
身長:185cm
体重:3ヶ月間の意識不明の重体によって減量気味
体格:ガタイが良い
好きなもの:唯一の肉親である妹
嫌いなもの:妹を苦しめるありとあらゆるもの全て
得意なこと:妹のためになること全て
苦手なこと:妹のためにならないこと全て