ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。



第三次決戦 新時代のための新たな自分への新生 -摩天楼燦めく夏越の大祓-

-西暦20XY年06月22日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

――――――明日の『宝塚記念』で時代が動く。

 

いや、そんな当たり前のことは先月の令和改元で実際に世界がガラリと変わったことを誰よりも実感しているのだから、元々が皇宮護衛官の家系の出身の“斎藤 展望”にとっては改まって言うほどのことでもない。

 

なぜなら、現実世界では令和元年の御即位恩赦によって恩赦が実施されることが決定されており、現時点ではまだどれほどの数になるかは確定していないが、

 

少なく見積もっても10万人以上の軽微な犯罪で罰金刑を受けて資格を制限された人を救済する政令恩赦の復権令が10月22日:令和即位の礼に伴って公布されるのだ。もちろん、この恩赦には犯罪被害者に配慮して重大犯罪が含まれる懲役刑や禁錮刑となった者は対象から除かれている。

 

 

そして、それは早くも目に見えない非現実世界においても赦された者たちが令和改元によって浮かび上がることになった。

 

 

そう、喜ばしいことなのである。世間にとっては。人類にとっては。神々にとっては。まさしく世界に冠たる日本国の国を挙げての慶事であった。

 

しかし、その恩赦によって6桁もの人間の恩赦が認められたということは、それと同じぐらいの割合で目に見えない世界での恩赦も認められていたことに他ならず――――――。

 

私はトレセン学園に染み込んだウマ娘やトレーナーたちの無念が絶え間なく木霊する学園裏世界でトレセン学園の思い出の中に心を残すことでずっと立ち尽くしている元トレセン学園生徒たちの助霊を令和改元の日から体感でこれまでの20倍はやらされ続けていた。

 

学園裏世界の1分間は現実世界ではいくらでも伸び縮みするため、私がどれだけ見たくもないし聞きたくもないしやりたくもないトレセン学園に蟠る生霊・死霊・悪霊・妖怪たちの助霊をやりきった後、心身共に擦り減らしてヘトヘトになりながら現実世界に戻ってきたら裏世界に突入してわずか1分足らずだったことに驚愕させられたこともあった。

 

その数分後に やる気・意欲・積極性・愛想・管理能力・元気・気力・集中力・体力・霊力を回復させるために近くのベンチに身を投げ出しながら精神統一を図って再び目を開いたら またもや学園裏世界だったなんてこともあり、

 

令和改元で世界中が祝福に包まれ、家族連れが全国各地へ行楽に一斉に出かけ、ウマ娘レースにおいては2年目:クラシック級マイル路線『NHKマイルカップ』で大盛りあがりのゴールデンウィークは私にとってはいつまでも終わらない残業地獄と化していた。

 

現在の地球の1日は24時間という計算のはずなのに これまでの助霊の20倍に思える 令和改元の恩赦でわっと溢れ出した 赦された彷徨える霊魂を救済するのに永遠に思えるような過重労働をやっとの思いで乗り切って数分だけ現実世界に戻されたら、またすぐに助霊のために学園裏世界に連れ戻されることをゴールデンウィーク中に数えるのも嫌になるぐらいにやらされていたわけなのだ。

 

このゴールデンウィーク中に開催されることで有名な東京・芝・1600m『NHKマイルカップ』は1996年に春のクラシック級マイル王決定戦として新設され、創設時は『マル外ダービー』とも持て囃されたほどに今日の日本ウマ娘レース界を盛り上げた名勝負の数々を生み出してきた。

 

その『NHKマイルカップ』と同時期にあったのが、同じ府中市にある近隣の大國魂神社で行われる関東三大奇祭の一つに数えられる例大祭“くらやみ祭り”であり、

 

毎年のゴールデンウィークの府中市はこの『NHKマイルカップ』と“くらやみ祭り”の開催によって大いに盛り上がっていたわけなのだが、

 

『NHKマイルカップ』のレース時間と重ならないように2003年より“くらやみ祭り”の渡御開始が午後6時に変更となっていた。

 

そうなるに至った経緯が武蔵国の国府たる府中市の例大祭“国府祭”の伝統と土地神への崇敬を踏み躙ったとして人々の傲慢さが戒められた結果、トレセン学園に暗黒期がもたらされたというのが『春のファン大感謝祭』で明かされた真実であった。まさに府中にあって不忠を働いた報いを人々は受けたのだ。

 

実は、そのゴールデンウィークに開催される大國魂神社の例大祭“くらやみ祭り”で現れるという 見ることを許されないがためにかつては真夜中に御祭が執り行われていた 貴い祀神が令和改元の恩赦で溢れかえった魑魅魍魎の渦の中の私をずっと護ってくださっていたようなのだ。私にはその存在を視ることはできなかったが、確実にその貴さを感じることはできていた。

 

そう、それこそが5月5日の『NHKマイルカップ』が終わった後に始まった神輿発御;八基の神輿が本殿前お白州から御旅所に渡御していた頃だったらしく、令和改元から始まる終わりなき悪霊との霊能力勝負はようやく終わりを告げたのであった。

 

 

――――――そうか、5月に目白押しとなる東京競バ場の春季のG1レースがこれほどまで清々しく盛り上がるのは“くらやみ祭り”で府中市に蟠る穢れが祓われていたからなのか。*1

 

 

それから“くらやみ祭り”の神威発動によって清々しく盛り上がるマイル路線『NHKマイルカップ』に続いて『ヴィクトリアマイル』を挟んで東京競バ場ではティアラ路線『日本オークス』とクラシック路線『日本ダービー』が連続し、その裏でトレセン学園では『春の選抜レース』1日目と2日目が開催されていたわけなのである。

 

私はゴールデンウィークの間はずっとトレセン学園に残って裏世界で果てしなき魑魅魍魎との戦いに明け暮れていたわけで、それだけに『日本オークス』『日本ダービー』『春の選抜レース』によって、また更に裏世界に夢破れて落ちぶれた霊魂が蟠ることになることを危惧して身構えていたのだが、

 

“くらやみ祭り”で姿無く現れた祀神の神徳によって常に魑魅魍魎が跋扈していたトレセン学園の学園裏世界は綺麗に祓われており、そのおかげで5月後半の妖怪退治は程よくこなすことができていた。

 

しかも、過渡期からずっと連綿と暗黒期の闇を祓ってくれている“シラオキの愛し子”がそうとは知らずにクラシックレースを盛り上げることで“くらやみ祭り”の神徳を日本中に広めてくれているのだから、

 

私は『日本ダービー』においてティアラ路線の最強候補:ウオッカがクラシック路線の最強候補:エアシャカールと一着同着で優勝を分かち合った意味を本人たちが理解している以上にめでたく感じることができていた。

 

また、ティアラ路線のウオッカと優勝を分かち合うことになったことでたとえ『菊花賞』を優勝しても“準三冠バ”と揶揄されることになるエアシャカールではあったものの、G1レースで一着同着という奇跡のような確率の事象にありついたことで大きな心境の変化があったように見える。

 

だからなのだろう。『日本ダービー』での一着同着によって明らかにウオッカとエアシャカールを取り巻く環境が大きく変わることになったのだ。

 

それは奇しくも、まさに令和改元という世界に冠たる日本の慶事に馳せ参じることになったアイルランドからの麗しの留学生との出会いであり、それが私を新たな境地へと誘ったのだった。

 

 

――――――その始まりはポットヌードル(The Slag of all snacks)からであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――目標:6月30日の夏越の大祓を完遂せよ!

 

 


 

 

 

●2周目:06月22日/エクリプス・フロント

 

 

スカーレットリボン「さあ、『宝塚記念』を前に始まりました日英愛友好記念パーティーの次の部! 『熱いぜ ラーメン対決!』ぅ~!」パチパチパチ!

 

ソラシンボリ「いよっ! 待ってました~!」パチパチパチ!

 

ファインモーション「わーい! 待ってました~!」パチパチパチ!

 

SP隊長「殿下、あまり食べ過ぎませんように」コホン

 

スカーレットリボン「それでは皆さんに極上のラーメンを披露する匠たちの入場です!」

 

スカーレットリボン「1番! もはやトレセン学園で知らぬ者はいない! ウマ娘の育成も美味しい料理もなんでもござれ! ああ、あいつこそはまさに世界を知る正真正銘の驚異の天才トレーナー!」

 

 

――――――美味しい料理とは(いき)なもの。さりげなく気が利いていなければならない。

 

 

才羽T「ミホノブルボンの担当トレーナーの才羽です」

 

才羽T「日本料理が世界一であること、その証明のために僕はウマ娘レースで世界一を目指しています」

 

スカーレットリボン「ありがとうございます」

 

スカーレットリボン「続きまして、2番! 黄金期開闢のシンボリルドルフ最強伝説に先駆けた最強世代の一角! 10度の敗北を超えて不屈の精神でついに愛バをG1勝利に導きましたノブレス・オブリージュの体現者にしてイギリス名門トレーナー一族:ディスカビル家の御曹司!」

 

 

――――――美味しい料理とは(すい)なもの。煌びやかで最高の素材を使わなければならない。

 

 

神城T「俺は日本ウマ娘レースにおいても頂点に立つ男だ。ラーメンにおいてもそれは変わらない」

 

神城T「それこそが神城Tだ。再びトレセン学園を神の城にしてやろう」

 

神城姉「そんなこと言って『高松宮記念』でG1勝利するまで同期のライバルたちに負けまくっていたくせに」

 

神城姉「『有馬記念』を長距離に含めたら、担当ウマ娘に全ての距離のレースで走らせるとか、迷走しているとか思えないじゃない、素人から見たって」

 

神城T「だが、俺たちはついに栄光を掴んだ。俺の担当ウマ娘はウマ娘レースにおいて頂点に立つ一流のウマ娘だからな。一流のウマ娘はそれぐらいの苦難を乗り越えることはできて当然」

 

神城T「そして、俺はそんな一流のウマ娘にふさわしい一流のトレーナーであり、へっぽこトレーナーにおいても頂点に立つ男だ」

 

神城姉「……まあね。その良くも悪くも前向きな姿勢;不屈の精神が27戦6勝で大きな怪我なく『ドリーム・シリーズ』への昇格を果たして、黄金世代で一番長く現役を続けることになったわけだしねぇ」

 

神城姉「むしろ、『トゥインクル・シリーズ』での成績は後塵を拝してばかりだったけど、打って変わって『ドリーム・シリーズ』の成績で言えば黄金世代最強はあなたのウマ娘だったわね」

 

スカーレットリボン「おおっと、こちらはフランスで御活躍中の神城Tのお姉さんの通称“マダム・ディスカビル”です!」

 

神城姉「はーい。久々に日本に帰ってきてみたらこんな立派なビルが学園の近くに建っていて驚いたけど、日本からの『凱旋門賞』への挑戦を待っているからね、みんな」

 

神城姉「さあ、私の分も用意してちょうだい。美食大国:フランスで肥えた舌を満足させてよね」

 

ソラシンボリ「おお!」パチパチパチ!

 

ファインモーション「これは楽しみです!」パチパチパチ!

 

SP隊長「ほう、ディスカビル家の末裔が日本に」パチパチパチ!

 

スカーレットリボン「おっと、これは『日英愛仏友好記念パーティー』に改名しないとなりませんか。フランスからの突然のサプライズゲスト:マダム・ディスカビルの登場でした」

 

スカーレットリボン「さあ、最後を飾ります3番! 黄金期の次に来る新時代のトレセン学園の先頭に立つ者は“学園一の嫌われ者”か、“学園一の切れ者”か、その答えはもうすぐ! 本当はトレーナーなんてやっている場合じゃないけど訳あって新人トレーナー!」

 

 

――――――美味しい料理とは乙なもの。人生に彩りを添えるものであれば()()()()()()()()()()()ということはない。

 

 

斎藤T「近日メイクデビューします“アグネス家の最高傑作”アグネスタキオンの担当トレーナー:斎藤 展望です」

 

斎藤T「みなさん、楽しんでいただけているでしょうか。今回はみなさんにとびっきりの忘れられない思い出のラーメンをごちそうしますね」

 

ソラシンボリ「はやくはやく!」パチパチパチ!

 

ファインモーション「そうだそうだ! はやくはやく!」パチパチパチ!

 

SP隊長「()()()の青年と、よもや、このような形で再会することになるとは……」パチパチパチ!

 

スカーレットリボン「以上、トレセン学園でその名が知られた超大物トレーナーが扮する腕利き料理人たちによる『熱いぜ ラーメン対決!』! これから流れます10分間のプロモーション映像から3人の巨匠が作るどのラーメンを食べたいかをゲストの方々に投票していただき、一番得票数の多かったラーメンがゲストの食卓に並べられます!」

 

スカーレットリボン「会場にお集まりに皆様にもゲストの方々の会食の後、3人の巨匠が作ったラーメンを“Mr.Pot Noodle”こと安藤 百福が紙コップにチキンラーメンを割り入れてお湯を注いでフォークで試食する姿からカップラーメンの着想を得た歴史にならって味わうことができますのでお楽しみに!」

 

スカーレットリボン「その際は一般投票していただくことができますので、是非とも食べ比べしてみてださいね」

 

スカーレットリボン「それでは、3人の巨匠たちがこだわり抜いた絶品のラーメンがどのようにして作られたのかをとくとご覧あれ!」

 

 

そんなわけで『宝塚記念』前日にエクリプス・フロントで開催されたのが日英愛友好記念パーティー――――――。

 

英国成分を担うのがイギリス名門トレーナー一族の出身である黄金世代の神城Tであり、愛国成分はもちろん改元に伴う即位の礼に出席するために日本に留学してきたアイルランド王国のファインモーション姫殿下である。

 

実際にはフランスで活躍中の神城Tの姉:マダム・ディスカビルがふらりと現れたので途中からは日英愛仏友好記念パーティーとなっていた。

 

事の始まりはファインモーション姫殿下であり、留学して最初に目にした日本のG1レース『皐月賞』で優勝したエアシャカールの熱烈なファンになったことがきっかけで、人懐っこいおてんば姫は今年の“クラシック三冠バ”の最有力候補であるエアシャカールの許に押しかけてラーメン屋めぐりをしていたのだ。

 

相手が相手なだけに無下にできないエアシャカールだったが、当然ながら完璧なシミュレーションとコンディション管理で“クラシック三冠”を本気で目指しているのだから、おてんば姫のお気楽なラーメン屋めぐりに付き合っていたらコンディション悪化は免れない。

 

ここは姫殿下の姉君:ピルサドスキーから『ジャパンカップ』での健闘を讃えられて親密な関係を築いている縁で姫殿下の相部屋を任された生徒会長:エアグルーヴにラーメン屋めぐりを押し付けようとしたのであった。

 

しかし、生徒会長:エアグルーヴにしても トレセン学園最後の一年 3足の草鞋で多忙を極め、競走ウマ娘として最後の一年を全力で走り抜くために“最初の3年”以上に厳格なコンディション管理をしていたことからラーメン屋めぐりを断固として拒否したのである。

 

そもそも、エアシャカールとエアグルーヴ、そのどちらもが『宝塚記念』に出走する正真正銘の名バであるため、互いに姫殿下の奔放さには手を焼いて苦労させられていることから、国賓相手に無下にもできない苦悩を分かち合うことになった。

 

そこで白羽の矢が立ったのが皇宮護衛官の息子である“斎藤 展望”というわけであり、相変わらずトレーナーとしての評価はアレだが、王族の相手をするのにはうってつけの逸材だとこの時ばかりは全幅の信頼を寄せられていた。

 

悪く言えば、厄介事を体よく押し付けられたわけだが、良く言えば、災い転じて福となす絶好の機会でもあった。困難こそが真に人を輝かせる瞬間をもたらすのだ。

 

私としても“女帝”エアグルーヴにはトレセン学園最後の一年を立派に走り抜いてもらわないと困る。“女帝”の走りを支えるために異国のお姫様の面倒を引き受けざるを得なかった。

 

もっとも、私が宇宙船エンジニアとして生きた地球の21世紀にはアイルランド王国など存在しなかったため、ウマ娘の異世界を象徴するウマ娘の王族との邂逅は未知との遭遇ということで胸が踊るものがあった。これこそが未知なるものを追い求めて旅立つ宇宙移民の醍醐味なのだ。

 

ただし、他国の王族やVIPを饗す名誉ある御役に選ばれるためには私はトレセン学園での“斎藤 展望”の評判を悪く操作しすぎたところがあり、当然ながら王族やVIPが会う人物には必ず身辺調査が行われていることから、このままだと評判の悪さからSPに接触を拒まれるわけである。

 

事実、“斎藤 展望”のトレセン学園での評判は毀誉褒貶が激しく、特に末端の人間からの評価は最悪だがトレセン学園の顔役となる面々からは評価は最高という、何が真実なのかを短期間で外部の人間が見極めることは不可能で、確実にシロだと判断できるまで怪しい人物を王族に近づけるわけにはいかないのは常識だろう。

 

本当は誰からも注目されることのない“学園一の嫌われ者”という自由な立ち位置に“斎藤 展望”を居させたかったが、この通り そうも言ってられなくなり、私がエアグルーヴに代わって姫殿下を饗すためにはまず護衛を務めるSPたちと強固な信頼関係を結ぶ必要性が出てきた。

 

そのため、私は以前にラーメン屋に誘ってくれたことがある駿川秘書に声を掛けて姫殿下のSPたちの許を訪れてトレセン学園近辺のラーメン屋めぐりの下見を申し出たのだった。

 

当然、学園での評価が極めて怪しい私なんかよりも世界的にも評価されている『URAファイナルズ』を主導した秋川理事長の秘書である駿川 たづなの信用もあって、姫殿下が府中市のラーメン屋めぐりに行く下見としてSPたちを連れ出すことに成功し、私は皇宮護衛官としての知見を披露しながらSPと共同でハザードマップ作成を行った。

 

そう、どれだけ情報が錯綜していようとも直に接してみる機会さえ与えられれば、私は23世紀を代表する世紀の大天才にして地球文明の継承者なのだから、異星人との対話をシミュレーションして鍛えられた口八丁の話術に地球圏統一国家を樹立していない未開惑星でしかない21世紀の人間が敵うわけもないのだ。

 

そして、私がそういった話題を提供するために日頃からネタを仕入れて それ以上に自分でネタを作っているのだから、世界に冠たる文明国の出身ではない外国人に驚きと感動を与えることなど、異星人の手をひねるよりも簡単なことだ。

 

ジャパン・アズ・ナンバーワン。新渡戸稲造の『武士道』の時代から地球人の日本趣味は変わることのないトレンドなのだ。私が皇宮護衛官の息子であるということでそれらしい技を披露すれば、それだけでクールジャパンだと盛り上がるのだから、アイルランド王室の人間と言っても所詮はそんなものよ。西洋人なんてものは今も昔も偏屈で差別的で無知で無勉強なのだから。

 

そうした中で、そもそもとしてなぜアイルランド王女が日本のラーメンをこよなく愛するのかを訊ねることになった。そこまで話を持っていくのに遠回りを重ねてきたが、好感度や信頼度を稼がずに返ってくる答えにどれだけの情報が盛られるのかを考えれば、遠回りこそが近道でもあるのだ。

 

 

すると、そこで返ってきたのがイギリスで流通しているカップラーメンである“ポットヌードル”であったのだ。

 

 

ポットヌードル――――――、イギリスにおいてはカップラーメンの代名詞にもなっているが、世界一まずい料理として有名なイギリス料理に飼い慣らされたイギリス人の味覚に合わせられたものがいかにお下劣なものであるかは言うまでもない。

 

第一、私が生きた23世紀の宇宙時代に“ポットヌードル”なるものをベースにした宇宙食なんて見たことがないので国際的な評価は今も昔も共通していると見ていい。実際、イギリス料理がベースの宇宙食はイングリッシュ・ブレックファストか、ティータイムセットしか私は見たことがない。

 

しかし、保存食としては優秀なカップラーメンの一種であることには違いないし、イギリスでは定番のロングセラー商品でもあり、隣国のアイルランドでも流通しているものなので、姫殿下もイギリスの庶民が口にするものとして一応は知っている程度のものだった。すなわち、王族が口にするべきものではないとも。

 

そんなアイルランド王室にポットヌードルとは似ても似つかない日本のラーメンの素晴らしさを伝えたのは、何を隠そう今回の姫殿下の日本留学の決め手となった『ジャパンカップ』で来日していた姉君:ピルサドスキーだったのである。

 

というのも、世界各国のG1レースに出走している高貴な身分の人間ともなれば、行く先々で饗される各国の名物料理に関心を寄せられるグルメでもあるわけであり、特に自身の最後のレースの舞台になった日本のグルメの評判はすこぶる良いものばかりだったので期待せずには居られなかった。

 

そして、日本のコンビニの素晴らしさを堪能した際に目についたのが日本のカップラーメンの豊富な品揃えであり、コンビニ弁当やスイーツにホットスナックも買い込んでいたのだが、若者が店内でカップラーメンにお湯を注いで店の外で美味しそうにおにぎり片手に飲み干す姿に釣られたのだった。

 

そうして、お湯を注げば あとは割り箸だけで食べることができるカップラーメンの手軽さとその美味さに『ジャパンカップ』優勝後の日本を満喫していたピルサドスキーは日本土産に大量のカップラーメンを選ぶほどであったのだ。

 

しかし、今度は日本の大型ショッピングセンターに立ち寄ってみると、カップラーメンの他にもインスタントラーメンが大量に売られていることに驚くことになり、更にフードコートで提供されていた丼に入れられたラーメンと餃子のセットの美味さに感激することになり、ますます日本が好きになれたのだった。

 

そのため、祖国:アイルランドに帰ってきたピルサドスキーが日本の素晴らしさをポットヌードルとの比較で伝えたことで、妹君のファインモーション姫殿下の日本への憧れが膨らんだのであった。

 

なにしろ、ピルサドスキーが日本土産として大量に買い込んだカップラーメンは種類が豊富で味も様々でそのどれもがポットヌードルとは比較にならないほど美味しく、お湯と割り箸があれば外で手軽に温かいものが食べられるというのは寒さの厳しいお国柄では大変ありがたがられた。一緒に買っていた割り箸も100円で買えるような束でも高品質なのに驚かされている。

 

そして、日本で食べた丼に入れられたラーメンの本格派の美味しさを伝えたいがために、わざわざ本格派インスタントラーメンを手ずから調理して丼に盛り付けて冷凍餃子も添える姉君の御姿がとても嬉しかったらしく、ファインモーション姫殿下にとっては思い出の料理になっていたのだった。

 

そのため、日本のラーメン文化にいたく惚れ込んでおり、そのこだわりは食べるに飽き足らず一からこだわってラーメン作りに勤しむまでになっている。趣味のラーメン屋めぐりもその一環であった。

 

ただし、推しである皐月賞ウマ娘:エアシャカールも、ルームメイトの生徒会長:エアグルーヴにしても、『トゥインクル・シリーズ』の真剣勝負に臨むに当たってコンディション管理を疎かにするわけにもいかないので、姫殿下のラーメン趣味には付き合いきれないのが正直なところだった。

 

それはもちろん姫殿下の護衛を務めるSPたちもそうであり、たしかに日本のラーメンはポットヌードルとは比較にならないほど美味いのは満場一致で認めるところだが、それでも所詮はジャンクフードに過ぎないので程々にしておいて欲しかったのだ。

 

事実、姫殿下のラーメン屋めぐりに樫本理事長代理が誘われそうになっていたことを考えると、さすがの私も姫殿下の奔放さを放置することができなくなっていた。

 

なので、自社ブランドに並々ならぬ誇りと情熱を持つサトノ家の()()()()()なんかにかまってられないというのが『宝塚記念』に至るまでの日々であったのだ。

 

だが、アイルランド王女:ファインモーションに降りかかる宿命を事前に知らされた上で、こうして直に会って確かめた時に更にとんでもない事実に気づかされることになったのだった――――――。

 

だからこそ、すでに2周目――――――。

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

斎藤T「冷凍餃子、追加!」

 

才羽T「炒飯、お待ち遠様!」

 

神城T「さあ、至高の野菜炒めを食すがいい!」

 

神城姉「食後のデザートにお土産のフルーツもたんまりとお食べ!」

 

 

ジュージュージュー!

 

 

斎藤T「…………フゥ」

 

陽那「おつかれさまでした、兄上。マンゴー、とろけるぐらいに美味しいですよ」

 

斎藤T「ああ。最終的に料理対決の結果なんて関係なしにラーメン屋風の立食パーティーになってしまったが、楽しんでもらえて何よりだ」

 

陽那「あの、美味しかったですよ、兄上の『秋霜ラーメン』! 個人的には才羽Tの『五目ラーメン』や神城Tの『ミルクシーフードラーメン』よりずっと!」

 

斎藤T「まあ、一流の料理人である才羽Tに真向勝負で勝てないと思ったからこそ、『紙コップでは提供できない』ことを逆手に取った盤外戦術で審査員の票を稼ごうと思ったんだけどな……」 ※1周目の戦略

 

斎藤T「結果はこの通り」

 

陽那「そうだったんですか。なるほど、ゲストにしか丼に盛られたラーメンが提供できないわけですから、それで――――――」

 

ゴールドシップ「よう、斎藤T! あんたの『秋霜ラーメン』というか、『冷やしラーメン』! 料理対決だってのにPVでまったくあんたが作るラーメンそのものに関する情報がないなんて、最高にイカしてるぜ!」

 

ゴールドシップ「つうか、ありゃ、何だよ! 熱々の普通のラーメンを一瞬で冷やしラーメンに早変わりさせる“瞬間冷却ラーメン丼”のプロモーション映像じゃねえかよ! いつものESPRITの新発明の宣伝じゃん!」

 

ゴールドシップ「チビたちが目を輝かせていたぜ! というか、ESPRITで使わせてくれるんだよな! そうだよな! アタシにも試させろよ!」

 

斎藤T「モニター募集は後日ね。一般的なラーメンの丼をすっぽり覆う一回り大きい蓋付きの瞬間冷却機だ。実用的な軽量化にかなり苦労したせいでゲストに提供する分しか用意できなかったわけだけど」

 

斎藤T「原理としては非常に簡単。コンセントに繋いで中に入れたラーメン全体を瞬間冷却するだけ。全方位から羽なし扇風機で瞬間冷却スプレーをするようなものだから、時間にして数秒でラーメン全体が冷えるというわけ」

 

才羽T「さすが。試合(料理対決)に勝って勝負(一般投票)に負けた気分ですよ、斎藤T。ズルいですよ、あれ」

 

 

――――――食事は一期一会。毎回毎回を大事にしろ。

 

 

才羽T「数秒で『冷やしラーメン』を作る新発明に子供たちの心を鷲掴みにされたせいで、一般投票は大差をつけて斎藤Tが勝ちそうですよ」

 

才羽T「それで! 一番にズルいと思ったのは!」

 

才羽T「プロモーション映像の内容が新発明のことばかりで、実際に斎藤Tが作ったラーメンのことはまったく主張していないわけで、肝腎の味の方に誰も注目しないようにしておいて、」

 

才羽T「どっちの場合も試食しましたけど、温めても美味しくて冷たくしても美味しい『しょうゆラーメン』ってとんでもないものを作っていましたね!?」

 

斎藤T「いえいえ、日本三大ラーメンの1つ:喜多方ラーメンの隣には会津坂下町の『冷やしラーメン』なんてあることだし、」

 

斎藤T「この新発明をプロモーションするに当たって喜多方ラーメンと冷やしラーメンを二個一にして売り出そうというのを目標に、抱き合わせ販売のために『温めても冷たくても二度美味しい』をキャッチフレーズにして私が株主をやっているフードテック企業でレシピを研究してもらいましたから」

 

才羽T「いやはや、新発明で開拓された新しい料理の発想には驚かされましたよ。ブルボンにモニターを頼んで 早速 新しい可能性を試したいです」

 

陽那「宇宙食ラーメンの実演販売もそうですし、世界各国や日本中のインスタントラーメンやカップラーメンを所狭しと並べた光景には圧巻ですよね」

 

ゴールドシップ「そうそう。それで気前よく ここに集まったラーメンを来場者に手掴みでプレゼントするってんだから、こいつは間違いなく思い出に残るラーメン対決になったんじゃないか。明日の『宝塚記念』よりも記憶に残るかもな」ボリボリ・・・ ――――――インスタントラーメンをそのままボリボリと齧る。

 

陽那「いや、さすがにそれはないですよ。“女帝”エアグルーヴの復活参戦と言い、同着一位の奇跡を起こした二人のダービーウマ娘:エアシャカールとウオッカの間を置かずの対決に、史上初の“春シニア三冠”が掛かったマンハッタンカフェの一世一代の大記録達成が目玉になっていますから、ウマ娘レースファンなら絶対に見逃せないものが盛り沢山の伝説のレースになるはずですって」

 

神城T「――――――ポットヌードル。まさか、こんなところで目にすることになるとは」パリパリ・・・ ――――――ラーメンせんべいを齧る。

 

神城姉「ねぇ。宇宙一まずい料理と言っても過言ではないものを本物の宇宙食ラーメンの隣に並べておく辺り、今回の企画を立てた主催者(ホスト)のセンスは抜群よね」パリパリ・・・ ――――――ラーメンせんべいを齧る。

 

神城姉「実際のところ、実質的には『冷やしラーメン』で『五目ラーメン』や『ミルクシーフードラーメン』で勝負しに来たわけだけど、こうして最新の技術の(すい)を集めた文字通り一味も二味もちがうものを見せつけた(いき)なものを出されていたことに気づいたら二人して『してやられた!』って感じよね」

 

ゴールドシップ「ああ。こいつは神城Tも才羽Tもお株を奪われたって感じだな」

 

神城T「見事だよ、斎藤T。まあ、スタミナラーメン用の至高の野菜炒めで五分と五分と言ったところだがな」パリパリ・・・

 

斎藤T「いえいえ。さすがはイギリス名門貴族:ディスカビル家らしいラーメンの定番に囚われない和洋折衷のスープ料理を堪能させていただきました」

 

陽那「はい。ラーメンと言えば中華料理という固定観念があるせいで、ミルクを入れて濃厚でコクがある仕上がりにするだなんてびっくりしました! しかも、それがシーフードに絶妙なんです!」

 

ゴールドシップ「まあ、シーフードにミルクの組み合わせって言ったらクラムチャウダーなんかあるし、それこそお湯を注ぐだけのカップクラムチャウダーも売っているしな。ラーメンとの組み合わせは元から悪くないってこった」

 

才羽T「そして、言葉通りの最高級の魚介類と牛乳を惜しみなく使ったスープは他では味わえない濃厚な風味と高級感をもたらしてくれました。この場限りの贅を尽くした味に立ち会えたことは幸運です」

 

神城T「いやいや、そんなことを言ったらプロの料理人が本気でウマ娘レースのために考えた栄養満点の『五目ラーメン』なんてものも大したものだ」パリパリ・・・

 

神城姉「最近流行りの『完全食』ってやつ? パンやビスケットでそれをやるのは理解できるけど、糖質・塩分・油分が満載のラーメンで完全食を実現しようだなんて並大抵の努力じゃできないことよね! 日本人の三大国民食のカレーライス・すし・ラーメンの中でそれをね!」

 

陽那「いやはや、最高にレベルの高いラーメン対決でした。きっと、これならファインモーション姫殿下もご満足していただけたことでしょう」

 

 

斎藤T「――――――樫本理事長代理もね」ピピッ

 

 

陽那「え」

 

ゴールドシップ「ああ?」

 

斎藤T「はい、今回のラーメンパーティーでみなさんが摂取したカロリーや栄養その他もろもろのデータです!」ドン!

 

才羽T「おお」

 

神城T「これは」パリパリ・・・

 

神城姉「……ねえ、ちょっと? あとで私とお茶しない?」ニコー

 

陽那「い、いつの間にこんなデータが……」アセアセ

 

斎藤T「難しいことじゃないです。監視カメラから網膜スキャンで個人を特定して料理のビッグデータを紐付けることで、こうして会食に来た大勢の人たちのデータをリスト化することもできるわけですよ」

 

才羽T「ああ、なるほど。堂々と置いてあった撮影用の定点カメラがそれだったわけですか」

 

陽那「……すごい。名前はさすがに出なくても顔からリスト化されたデータがズラーってなってます」

 

斎藤T「まあ、実際の栄養なんてものは胃袋に入ったものを分析しない限りは一寸の狂いのない正確なものはわからないですが、どうせ栄養素そのものも個体差を考慮しない大まかな目安でしかないので、あくまでもトレセン学園生徒たちの健康管理の一助になるためのツールに過ぎません」

 

斎藤T「ですが、最終的には既存の健康管理ツールとカメラアプリを連動させることで簡単に三度の飯の栄養分析が可能になるわけです。カメラアプリを通さなくてもビッグデータから組み合わせて献立を作成することで大まかな栄養分析もできてシミュレーションもできます」

 

斎藤T「そして、食事制限の内容や好みの傾向あるいは出走するレースからの最適な献立をサンプルとして出力する学習機能付き!」

 

神城姉「それはすごいわね! そんなものが実装されたらトレーナーやウマ娘たちの食事管理にかかる負担が大幅に減るし、レースに向けた食事調整や献立を一から考えなくていいから本当に助かっちゃう! 普段の生活にも便利よね!」

 

神城T「なるほどな。こんな便利なものが実現するぐらいには時代は進んでいっているのだな」

 

斎藤T「別に。これ自体は既存のノウハウの流用ですよ。具体的にはライザップチャレンジ;トレーニングレッスンとレッスン後の食事を撮影して評価するという流れを樫本代理が掲げる『管理教育プログラム』をトレセン学園で実現するための方策として採用しました」

 

才羽T「それなら無理なく新人トレーナーや新入生にもできそうですよね」

 

斎藤T「ただ、食品会社やレストランで提供されている料理や食料の栄養素がこれをきっかけにして世に広く知れ渡ることになる影響について議論を重ねる必要があって、技術自体は完成していても一般公開にはすぐには踏み切れないのが実情です」

 

陽那「ああ、そっかぁ……」

 

神城姉「そうよね。もし斎藤Tが開発した健康管理アプリの使用が樫本代理の『管理教育プログラム』で義務付けられたとして、そのデータが流出したら乙女の秘密が暴露されちゃうわけだしねぇ。実際に管理者がこうしてデータの閲覧ができるわけだし……」

 

才羽T「それを言ったら、元々の『管理教育プログラム』だと その日の食事を紙に書いて提出するわけで、今や総生徒数2200名以上のマンモス校で誰が毎日の内容を見て適切に管理しきれるかの現実的な問題に突き当たるのですから、まず運用できるかどうかで考えるべきでは?」

 

斎藤T「ですので、個人用のプライベートサーバーを一人ひとりが管理するようになるのが理想ですね。それを個人で管理するのか、管理会社や学園の管理サーバーに委託するのかを選択できるようにすれば安心のはずです」

 

神城T「なるほど、そうか。たしかに情報資産に対する個々人の懐事情はちがうだろうから、それぞれに合った情報管理の仕方を提供できた方がいいな」

 

陽那「特に、今だとアイルランド王室の姫殿下も通っていらっしゃるわけですから、学園の一生徒として庶民と同じ管理の仕方にするのは責任者の側には重圧が常にかかりますよね」

 

神城姉「そうそう。正直に言って、国家機密にも指定されていそうな王族のプライバシーなんてものは王族が重用しているセキュリティサービスに 全部 丸投げするのが正解よね。“太陽王”ルイ14世なら別だけど」*2

 

斎藤T「ですので、そのためにサーバーの管理会社を用意しました。個人用サーバーや周辺機器の販売会社や販路も確保しましたので、みなさんには試用運転のモニターになってください」

 

 

この流れ自体は2周目なので、1周目での粗を無くして より完璧に仕上げた私の新発明の宣伝の場となった。

 

正直に言うと、しばらくラーメンなんてもう食べたくはないぐらいに濃厚なラーメンパーティーだったので、さっさと本題に移りたくてウズウズしていたぐらいだ。

 

とは言え、熱々のしょうゆラーメンと冷やしラーメンの切り替えができる試作の『秋霜ラーメン』の出来栄えには手応えを感じており、日本トレセン学園を私の新発明の宣伝広告の売り場として様々な投資を積み重ねてきた1つの集大成がお披露目になったことへの深い感動が何度も蘇る。

 

やはり、日本人にとってはラーメンは絶対に欠かせない料理であり、それは宇宙時代になってもインスタントラーメンやカップラーメンを経ての宇宙食ラーメンに進化していっても変わることのない定番の日本の味であった。

 

なお、私の新発明となる『秋霜ラーメン』の名の由来は“秋霜烈日”――――――、現代日本の検察官が付ける検察官記章(バッジ)のデザインに対する呼称であり、秋の冷たい霜や夏の激しい日差しのような気候の厳しさのごとく刑罰・権威などが極めて厳しく また厳かであることのたとえである。

 

具体的には「菊の花弁と菊の葉の中央に旭日」というデザインであり、菊とは皇室のことであるため、“斎藤 展望”のアイデンティティである皇宮護衛官と関連した名付けとなり、冬の訪れとなる秋の夜の冷え込む寒さで“瞬間冷却ラーメン丼”の機能を説明したものでもあった。

 

しかし、さすがに驚異の天才トレーナーであると同時に一流の料理人である才羽Tが日本人の国民食であるラーメンを完全食へと押し上げようとした情熱の集大成である『五目ラーメン』や、あらゆる分野で頂点を目指す一流のトレーナーである ちがいのわかる神城Tの『ミルクシーフードラーメン』の圧倒的な素材の良さにはどう逆立ちしても勝てるところが何一つなかった。

 

そう、私にとっては()()()()()()()()()()()()でしかない。三者三様の価値観の違いからラーメン対決に注ぐ力の入れ方がまったくちがうところが非常に興味深く、それだけに情熱が伝わる味わいや贅を尽くした味わいも私にとってはただただ純粋に欠けていたものであったことに気付かされるばかりであった。

 

なので、1周目の流れの大筋は変わらないものの、純粋なラーメン対決で圧倒された私はこうして途中から料理対決は捨てて一般投票での人気取りに全力投球することになったのだ。用意していたプロモーション映像の内容は変えられないにしても、今後の展開を考えてその場で対応を変えることはできる。

 

なにより、私が“斎藤 展望”として周囲から期待されているのは純粋なラーメン対決などではなく、奇想天外にして融通無碍の“斎藤 展望”らしさの発露であろう。そう、私自身の持ち味を活かすのだ。

 

結果として、完全に料理対決では勝負を捨てて才羽Tと神城Tの両者に華を添えたことによって、その後のラーメンパーティーでの一般投票で私が大差をつけて1位をとることで三者が並び立つ戦略が成立し、この“斎藤 展望”の注目度が1周目よりも大きいものなったのだ。

 

どうやら、今回のラーメンパーティー;正式には日英愛友好記念パーティーもとい日英愛仏友好記念パーティーで今後のために私が接触を持たなくてはならなかったのは、『凱旋門賞』で有名なフランス競バ界で活躍中のサプライズゲスト:マダム・ディスカビルともう一人――――――。

 

 

ファインモーション「今日のラーメンパーティー、楽しかったね!」

 

SP隊長「ええ、本当に良かったです、殿下。斎藤Tに心から感謝しなくてはなりませんね」

 

SP隊長「しかし、改めて数字に出されると、いかにしてラーメンを完全食とするかを目指した才羽Tの『五目ラーメン』の栄養バランスの良さが際立ちますね。ここでも驚異的ですよ、才羽Tは」

 

ファインモーション「うんうん。これだったら、毎日 食べても文句ないよね? 専属シェフにできないかな?」

 

SP隊長「いえいえ、それはそれ、これはこれですから。ただでさえ、ラーメン屋めぐりに加えて、今回のお土産でインスタントラーメンやカップラーメンだって たくさん抱えておられるのに」

 

ファインモーション「だったら、神城Tが作ってくれた最高級の素材を使った綺羅びやかラーメンを宮廷料理に加えちゃおうよ」

 

SP隊長「たしかに、あれは見事なまでに贅を尽くした最高の味わいでしたが、いかんせん麺をすする音を響かせるのは王宮では厳しいものがあります」

 

ファインモーション「ええ? だって、今までだって王宮でインスタントラーメンを振る舞ってきたじゃない? どうして そんな今更?」

 

SP隊長「たしかに、ピルサドスキー様が日本のラーメン文化をもたらしたことで、東洋の麺料理に対する理解は深まりましたが、それでも麺料理自体が宮廷料理には向かないのですよ」

 

SP隊長「ラーメンはどこまでいっても大衆料理や家庭料理の範疇を出ません」

 

ファインモーション「そんなことを言って、あなただって もっと食べたいくせに」

 

ファインモーション「私に隠れて主催者(ホスト)の斎藤Tと日本中の美味しいものを食べ歩きしているよね? それについては何か申し開きすることはないの?」

 

SP隊長「……それは否定しません」

 

SP隊長「ただ、これも立派な下見と毒見の公務です。あとは斎藤Tから提供してもらった健康管理アプリのデータを集めて殿下の日本留学での健康管理の指針を作るために必要なことなのです」

 

ファインモーション「そうなんだ。互いの利害の一致ってやつなんだね」

 

SP隊長「そうです。決して斎藤Tに胃袋を掴まれたわけではありませんとも。ええ」

 

ファインモーション「なら、そういうことにしてあげる」

 

ファインモーション「あとで美味しいものをたくさん教えてね」

 

SP隊長「はい」

 

 

ファインモーション「ねえ、今日も斎藤Tに呼ばれているのってマーメイドパール?」

 

 

SP隊長「そうですね。ESPRITの斎藤Tとの担当窓口になりつつありますので、連絡や伝達はマーメイドパールを通してのものになるはずです」

 

ファインモーション「そうなんだ。ずるいな~、いつもいつも。マーメイドパールばっかり」

 

ファインモーション「いくら()()()()()だからって、私に代わって何でも一番乗りなんだ」

 

SP隊長「殿下……」

 

ファインモーション「ううん。わかってるよ。でも、ずるいものはずるい」

 

ファインモーション「だって、私が一人の人間として 本来 受けるべきものを最初に 全部 受け取るのが私の影武者なんだよ」

 

ファインモーション「私が受け取るものは 全部 影武者のマーメイドパールが咀嚼したフィルターを通した 薄口のものにしかならないんだから」

 

ファインモーション「私だってカルピスの原液をそのまま飲み干してみたい!」

 

ファインモーション「……マーメイドパールと入れ替わっちゃおうかな」ボソッ

 

SP隊長「殿下! ラーメンのスープに使われている醤油はそのままイッキ飲みすれば簡単に死に至るものなのです!」

 

SP隊長「御身は大切な身! そのために国民の支えを受けて立っていることをよくよくお考えください!」

 

ファインモーション「だってぇ!」

 

SP隊長「わがままを言わないでください!」

 

ファインモーション「わがままにもなるよ!」

 

 

――――――だって、日本(ここ)はホントにホントのウマ娘天国なんだもん! 

 

 

ウマ娘と一口に言っても競走ウマ娘の他にもいろいろ種類がいるのだが、この世界における競走ウマ娘の年間出生数において世界一のアメリカはウマ娘超大国、第2位のオーストラリアがウマ娘大国、第3位のアイルランドがウマ娘王国、第4位の日本がウマ娘天国と評されることがある。

 

近代ウマ娘レースに最適化されたスピードの世界を追究して進化してきた競走ウマ娘こそが人類の宝とでも言わんばかりの公然とした人種差別ぶりには驚くが、それによってオーストラリアやアイルランドがアメリカに続いて世界をリードする存在感を発揮しているのはおもしろいものがある。

 

それに続くのが第5位のアルゼンチン、第6位のフランス、第7位のイギリス、第8位のニュージーランドとなるわけで、G7の構成国:日本、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリアの中で競走ウマ娘の年間出生数が圧倒的に少ないドイツとイタリアの扱いはウマ娘たちからは下に見られてもいた。

 

あるいは、BRICsを構成するブラジル(Brazil)ロシア(Russia)インド(India)中国(China)南アフリカ(South Africa)の中で評価が低いのが中国やロシアになるというのも、ここが穢土に対する浄土だと考えれば納得がいく。

 

あくまでも競走ウマ娘の年間出生数は必ずしも競走ウマ娘の実際の人口に比例する訳ではない尺度の一つに過ぎないが、ヒトよりも遥かに強靭でかつ繊細で生活費がかかる上に負けず嫌いで凶暴とも言える異種族が安心して子を産める環境がどれだけ整っているかが数字として明らかになるため、ウマ娘というわかりやすい異種族である隣人への心温まる対応の差が如実に伝わるというもの。

 

さて、まだまだ世界連邦政府樹立に向けた動きやそれを促す人類規模の災害が表に現れてはいないが、少なくともマンハッタンカフェの“お友だち”が言うようにこの世界が穢土に対する浄土であるのならば、このウマ娘年間出生数のランキング上位国が来たる地球圏統一国家の中心的働きをするようになるのは間違いないだろう。

 

国力に対して圧倒的に年間出生数が少ないG7におけるイタリアとドイツ、BRICsにおけるロシアと中国はこのウマ娘レースで全てが決まるような華やかなる世界ではその他大勢と変わらない扱いにされているようにも思えた。それは当然ながら、ランキングに載らないような有象無象の国家とて同じことである。

 

それだけに実際の国力よりも異種族共生社会をどれだけ高いレベルで実現できているかで国家の威信や信望が決まる風潮が根付いているのがウマ娘の異世界の性質であるとは言え、ウマ娘がヒトを超越した存在だからこそヒト社会に本質的に馴染めないのを丁重にもてなせる精神と制度を両立した国家が尊ばれるのだ。

 

アメリカやオーストラリアのような大陸国家が順当にランキング上位に位置しているのに対して、同じ大陸国家の中国やロシアがそうでないことから いかに非人道的な国家体制なのかが窺い知れることだろう。

 

同じように、第二次世界大戦において枢軸国であったドイツとイタリアが犯した罪業によってウマ娘たちが安心して子作りに励めないことも、異種族共生という現実を通してはっきりと示されてしまっている。

 

一方、アメリカとオーストラリアのような大陸国家に続いて歴史的にイギリスとの関係が不可分であったことで今も極めて密接な関係にあることからイギリスと併せた形で提携し続けてきたアイルランドがランクインしているわけだが、

 

それに続いてランクインしているのが圧倒的に国土の小さい極東の島国である日本であることが世界にとってどれほどの驚きがあったことか――――――。

 

何から何まで西洋人の常識では考えられないようなことが次々と実現している夢の国こそが日本という惟神の国であり、この細戈千足国(くわしほこちたるのくに)に全てが詰まっていることを世界が知るのはもう間もなくのはずだ。

 

 

 

陽那「兄上。まさか、ファインモーション姫殿下の護衛のマーメイドパールさんと3年前の“女帝”エアグルーヴと“王族”ピルサドスキーの『ジャパンカップ』でお会いしていたとは知りませんでした」

 

陽那「――――――記憶が戻ったのですか?」

 

斎藤T「いや、アイルランド王族:ピルサドスキーの来日ということで皇宮護衛官の末裔として興味があったことで観戦していたことが“斎藤 展望”の過去の記録に残されていた」

 

斎藤T「その際、ちょっとした不祥事が起きていたんだ」

 

 

――――――アイルランド王女誘拐未遂事件。

 

 

陽那「……火消しのために躍起にもなりますよ、そんなの」

 

斎藤T「そう、公的にはアイルランド王女:ファインモーション姫殿下の初来日は今回の改元ではあるが、その影武者はいずれ来日することを見越してピルサドスキー殿下と来ていたんだ。名を伏せて」

 

斎藤T「そこをテロリストが襲撃しようとしていたわけだ」

 

陽那「どうなったんですか、結果は?」

 

斎藤T「……わからない。詳細な記録は残していないし、事が事だけに記録に残すわけにもいかなかったはずだ」

 

斎藤T「ただ、向こうの方は憶えてくれていたんだ」

 

斎藤T「だから、こうしてアイルランド王族のSPとすんなり親交を持つことができた」

 

陽那「事情は理解できました」

 

陽那「でも、兄上――――――」

 

斎藤T「………………」

 

陽那「兄上は正しい人です。正してくれる人です。今も昔も」

 

陽那「だから、兄上のやることは間違いないと信じていますので、これ以上のことは訊かないようにします」

 

 

――――――どうして本物のファインモーション姫殿下よりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のかについては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斎藤T「…………居るんだろう?」

 

斬馬 剣禅「ここに」スッ ――――――あからさまにNINJAなのである!

 

斎藤T「見ていただろう? 3年前の『ジャパンカップ』からの約束で、マーメイドパールにヒノオマシを紹介したわけだが」

 

斬馬 剣禅「それでいい。それでこそ お前が“斎藤 展望”だ」

 

斎藤T「どうしてファインモーション姫殿下が染色体異常による不妊でアイルランド王族の直系ウマ娘が断絶するのかがわかったよ」

 

斬馬 剣禅「ほう?」

 

斎藤T「逆だったんだ」

 

斬馬 剣禅「――――――『逆』?」

 

斬馬 剣禅「……どういう意味だ? 何が『逆』なんだ?」

 

 

斎藤T「公開されている誕生日と運勢が一致していないんだよ。公的な出生時間の調整のことを加味してもね、まったく」

 

 

斎藤T「それで誕生日の運勢と合致している()()を探したら――――――」

 

斬馬 剣禅「!!!?」

 

斬馬 剣禅「……いや、待て! そんなことがあるのか?」

 

斎藤T「でも、妖精の国であるアイルランドには取り替え子(changeling)の伝承があるじゃないか」

 

斬馬 剣禅「そんなバカな」

 

斎藤T「3年前、“斎藤 展望”はそれがわかったからこそ、守り抜いてヒノオマシと引き合わせる約束をしたんじゃないのか? ちがうのか?」

 

斬馬 剣禅「……ちがわない」

 

斬馬 剣禅「たとえ影武者であろうとも、公的にはあの場にいたあの方(影武者)がアイルランドの王女殿下なのだから。結果としては」

 

斬馬 剣禅「しかし、本当にそうなのか――――――、いや、今はお前が“斎藤 展望”だ。“斎藤 展望”に相応しく振る舞い、良きに計らえ」

 

斎藤T「………………」

 

斎藤T「ところで、『世の中には自分にそっくりな顔をした人間が3人はいる』とされているらしいが、そんなのは人類100億人に対して顔を形作る遺伝子配列がその1%にもならない限られた組み合わせでしかないのだから、その場で知り合った人と誕生日が同じになることがあるぐらい当たり前のことではあるよな?」

 

斬馬 剣禅「……何が言いたい?」

 

斎藤T「困ったことに、現代のDNA鑑定というのはほぼ100%の精度でしかない」

 

斎藤T「どういう意味か わかるか? 現代の半導体製造の要となる日本産のフッ化水素は純度99.99999999%(テンナイン)なのだから、純度99.999%(ファイブナイン)程度では粗悪品でしかないのだぞ?」

 

斎藤T「DNA鑑定の精度を完全に100%にしたければ、世界に存在する全てのデータと結果を照合して鑑定を行わなければならないわけだから、理論上 不可能だろう、そんなこと」

 

斬馬 剣禅「つまり、DNA鑑定によって正統なる血統であることを証明することは限りなく正解に近い不正解だと言いたいのか?」

 

斎藤T「そうだよ。『DNA鑑定の結果が照合すれば その人物であると推定される』という理屈は、人工的な遺伝子操作で同一の結果が得られれば『その人と成り代わってもよい』と言っているようなものだろう」

 

斎藤T「どこまでいっても“断定”ではなく“推定”なんだよ、“鑑定”なんてのは」

 

斎藤T「指紋認証や網膜認証を本人以外で通過する方法なんて簡単に思いつくのに、どうしてDNA鑑定をそこまで絶対視するのか、私には理解できないよ」

 

斎藤T「そんなんだから、反ウマ娘主義者の陰謀によって大英帝国と並び立つウマ娘王国の血統が断絶の危機を迎えようとしているんだよ」

 

斎藤T「でも、だからと言って、私がアイルランド王族の貴種を預かったところで何の意味もないだろう? 然るべき座に据えなければ、血の貴さなど何の価値も発揮できないのだからね!」

 

斬馬 剣禅「そして、この事が明るみになれば、アイルランド王室はもちろん、血統のスポーツたるウマ娘レースの権威や信頼が揺らぐことになるか……」

 

 

斎藤T「つまり、取り替え子の危険性があるのに、生まれた直後に自分たちが信を置くDNA鑑定をしておかない方が悪い!」

 

 

斬馬 剣禅「……していたところで、本当に王室の子宮から生まれ落ちた赤子かを事前に検証する過程がない以上、DNA鑑定で『親子関係である可能性が極めて高い』という結果だけで安心して、外部からもたらされた雑種を実の子と受け容れてしまえるか」

 

斬馬 剣禅「いや、DNA鑑定もどのみち既存のデータから照合するものでしかないわけだから、照合するデータがそもそもなければ正しい判断のしようがないのか……」

 

斎藤T「DNA鑑定の結果だけで判断するからそうなるんだ」

 

斬馬 剣禅「――――――『生まれた直後』か。たしかに、その時に実の姉妹とも言える遺伝子を持った赤子と入れ替えられたら血縁関係だけを見るDNA鑑定ではどうしようもないな」

 

斎藤T「本当にバカだよ、現代人は! 科学万能主義だか何だか知らないけど、唯物論もここまで極まったら見るに堪えない愚鈍さだよ!」

 

斎藤T「私には見ただけで相手の実相を見通す霊眼はないけれど、誕生日から運勢を占って裏付けをとるぐらいのことはできるんだよ」

 

斎藤T「同じ遺伝子を持つ兄弟として生まれた双子がまったくちがった人生を歩む事例のことを現代人はまったく知らないと見える」

 

 

斎藤T「公的には1月27日生まれのファインモーション姫殿下の本当の誕生日は運勢から逆算して5月18日だね」*3

 

 

斬馬 剣禅「――――――『5月生まれ』!?」

 

斬馬 剣禅「……それはたしかに誕生月だけ見てもちがい過ぎる!」

 

斎藤T「どうやら、競走ウマ娘の間で有名な『春生まれほどウマ娘レースに大成しやすい』ジンクスに当てはまっているようだから、メイクデビューさせたらおもしろいことになるみたいだね」

 

斬馬 剣禅「そうなのか」

 

斎藤T「うん。1月27日生まれのウマ娘にはその傾向がほとんどない――――――」

 

斎藤T「というより、在籍している1月生まれの生徒を調べた限り、成功の芽があるのは1月30日生まれのサトノダイヤモンドぐらいだったからね……」

 

斬馬 剣禅「そうか。お前がいろんな意味で世話になっているサトノ家の令嬢がそうなのか……」

 

斬馬 剣禅「わかった。そういうことなら、こちらとしても手を打ちやすい」

 

 

斬馬 剣禅「なら、ファインモーション姫殿下の来日に託けて神国日本に土足で踏み込んできた賊の正体も見えてきたな」

 

 

斎藤T「なら、訊いてもいいか?」

 

斬馬 剣禅「何だ?」

 

斎藤T「DNA鑑定がそうであるように、私が運勢から姫殿下の誕生日を逆算した占いの結果も推定に過ぎない」

 

斎藤T「つまり、この段階では状況証拠があるだけで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことになる」

 

 

斎藤T「その状況で、もし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と対峙することになったら、NINJAとしてはどうするのが正しいんだ? 知らぬ存ぜぬを貫けばいいのか?」

 

 

斬馬 剣禅「…………!」

 

斬馬 剣禅「それは…………」

 

斎藤T「あなたは常に私に対して“斎藤 展望”であることを望み、それに相応しくなければ容赦なく裁こうとする」

 

斎藤T「私には“斎藤 展望”である以前に夢がある。その夢のために命を投げ出す気はない」

 

斎藤T「なら、私自身のためにも、“斎藤 展望”として長生きするためにも、審判者であるあなたの裁定を知っておかなければなるまい」

 

 

――――――さあ、答えてよ、斬馬 剣禅。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――某所

 

コツン、コツン、コツン・・・

 

叛徒(テロリスト)「何者だ!?」ジャキ!

 

斬馬 剣禅「これは警告だ」スッ ――――――あからさまにNINJAなのである!

 

叛徒「……何あれ? NINJAなの?」

 

叛徒「な、なに?! NINJA!? なんで!?」

 

叛徒「実在していたのか!?」

 

斬馬 剣禅「狙いは我が国に留学してきたアイルランド王女:ファインモーション姫殿下なのだろうが、そのために空挺部隊を密入国させてくるとはな」

 

斬馬 剣禅「だが、ここまでだ」

 

叛徒「撃てっ! 撃てええええええ!」バババババ!

 

斬馬 剣禅「――――――」ビュッ!

 

 

ザシュ! バサッ! ドタッ!

 

 

叛徒「ひ、ひぃいいいいいいいいいいい!」

 

斬馬 剣禅「本来ならば姿を見せずに貴様らを一人残らず始末することなど容易い」ガキッ ――――――忍者刀1つで屍の山を築き上げる。

 

斬馬 剣禅「だが、これは警告だ」

 

叛徒「た、助けてぇ……」ジョロロ・・・

 

斬馬 剣禅「わざわざNINJAが姿を見せて貴様らの命を刈り取るのはそういうことだ」ブン!

 

叛徒「あああああああああああああ!?」スパアアアアアアアアアアン!

 

斬馬 剣禅「…………他愛もない」

 

 

斎藤T「――――――真夜中のハンググライダーによるエアボーンか」スッ ――――――あからさまにNINJAなのである!

 

 

斎藤T「たしかに、これなら府中の空からの空挺降下でトレセン学園学生寮に音もなく忍び込めるわけだ」

 

斬馬 剣禅「巨大な住宅団地となっている学生寮に対空設備があるわけがないからな。空からの侵入は防ぎようがない」

 

斬馬 剣禅「情けない限りだ。こんな連中を安々と国内に侵入させるとはな。SAKIMORIは何をやっているのだ」

 

斎藤T「そして、決行は明日の『宝塚記念』で学生たちの多くが阪神競バ場に出払っている時」

 

斎藤T「それで何をするのかと思えば――――――、ねぇ?」

 

斬馬 剣禅「イギリスとアイルランドのイザコザを我が国に持ち込んで騒乱を招こうとしたやつらにはお似合いの最期だ」

 

 

――――――ようこそ、日本へ。“ブラッド・アンド・バーンズ(血と旱)”の皆さん。あるいは、“王立アイルランド警察特別予備隊”と呼ばれ 歴史の闇に葬られた皆様方。

 

 

ビューティフルデイ「ふざけないで!」 ――――――アイルランド王女:ファインモーションに瓜二つ!

 

斎藤T「………………」

 

斬馬 剣禅「――――――ファインモーション姫殿下と瓜二つの顔」

 

斬馬 剣禅「黒魔術師たちと手を組んで自分が未来のアイルランド女王になろうという肚か」

 

ビューティフルデイ「ちがう! 私が! 私こそが本当のファインモーションなの! アイルランド王女なの!」

 

ビューティフルデイ「それに、アイルランド王室とイギリス王室の融合は果たされるべきことなのに、愚民共はそれを拒んだ!」

 

ビューティフルデイ「なぜ!? なぜなの!? ヒトとウマ娘の融合の象徴としてアイルランド王室とイギリス王室が1つになれば、真の意味で異種族共生社会の理想が実現されるというのに!?」

 

斎藤T「それは現在の文明の段階ではヒトとウマ娘の融合は時期尚早だからだ」

 

斎藤T「思想が誕生して制度が確立して精神が定着して人々の常識となるまでの段階を踏んでいないから反発を生む」

 

斎藤T「今日明日で実現しなくても正しいと思うことを合法の範囲で生きている限り主張し続けるしかないんだ」

 

斎藤T「ヒトとウマ娘の融合なんかしなくたって、ヒトとウマ娘の統合で十分にやっていけるはずだ」

 

斎藤T「だから、銃をしまえ。どんな理由があろうとも、人が人を裁くことは許されないことなんだ。許されるのは、人ではなく法が人を裁くからこそ、秩序が保たれる」

 

斎藤T「未来のアイルランド女王に成り上がろうとするのなら、個々人の感情から組織や集団の性質を学んで大局を見据えよ」

 

ビューティフルデイ「くっ」

 

ビューティフルデイ「あなたたちのせいで計画は台無しよ!」

 

ビューティフルデイ「ただですむとは思わないことね! あなたたちは人類が進むべき未来に反する行いをした世界の反逆者! 生かしておけない!」

 

斬馬 剣禅「その言葉、そっくり返させてもらおう」

 

斬馬 剣禅「警告はした。たとえアイルランド王室に縁のある人間であろうと、その正体が本物の王女であろうと、公認されていなければ詐称しているだけに過ぎん」

 

斬馬 剣禅「なにより、このような非合法活動に手を染め、白日の下に真実を明らかにする正道を歩めぬ王者など、笑止千万!」

 

斬馬 剣禅「天下のため、斬って捨てる!」

 

ビューティフルデイ「お願い、みんな! 2人のNINJAを倒して! 私たちはNINJAなんかに負けないんだから!」

 

黒魔術師「畏まりました、姫様!」

 

 

 

――――――出でよ、ジャバウォック!

 

 

 

黒魔術師が妖しげな魔法陣から召喚した魔獣ジャバウォックは想像していたよりも小柄な体格のドラゴンに思えた。

 

体高は5m前後で人間の2倍から3倍程度に思え、頭部は深海生物を思わせ、額には2本の触角、口元にも2本のヒゲ、剥き出しの口腔には鋭い門歯が確認され、首は細長い。

 

一方、全体的にトカゲのような爬虫類状の鱗に覆われていて、直立歩行する恐竜のように腕と脚を2本ずつ、手足にそれぞれ3本と4本ずつの鋭い鉤爪を持ち、長い尾と背中にコウモリのような翼があった。

 

高層ビルに匹敵する怪獣というほどの規模ではなかったが、こういった市街地での極秘作戦で用いるには十分過ぎる脅威であり、これまで対峙してきたWUMAや妖怪たちとはちがったプレッシャーを放っていた。

 

そうでありながら、黒魔術師によって使役される屈従の証として この小型ドラゴンにはペットの犬猫に着せるようなペットウェアのようなファンシーな衣類が確認され、そこまでおどろおどろしい存在として扱われているようではないように思えた。

 

いや、どうも今回のテロリストの極秘作戦で使役するにあたって特有の獣臭さを緩和させるために強烈な消臭剤が衣類に染み込んでいるらしく、翼の生えた恐竜らしい威容でもって勢いよく鉤爪を振り下ろした際に野生動物にあるべき分泌物の臭気が感じられなかった。

 

だが、インドネシアにおいて“ドラゴン”を冠するほどに有名な危険生物:コモドドラゴンを超える5m前後の体格から繰り出される絶大なる物理エネルギーに真正面から敵うはずがなく、ドラゴンにしては小柄に思える体格も俊敏性を高めているため、正攻法ではWUMA以上の脅威となっていた。

 

そして、黒魔術師が召喚した魔獣には通常の物理法則が通用せず、霊力によって鋼鉄さえも両断する斬れ味に強化されているはずのNINJAの一刀が通用しないどころか、弱点に思えた口腔に突き刺しても平然と噛み砕いてしまったのだ。

 

私もNINJAから忍者装束を貸してもらい、霊刀を手にして魔獣の翼の付け根や関節部分などの急所を狙って斬り落とすも、斬り落とした傍から消滅した部位が再構成されてしまう。

 

 

魔獣「ブッシャアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオ!」

 

斎藤T「これが西洋の黒魔術師が使役する魔獣か……」

 

斬馬 剣禅「どうした? 悪霊祓いに妖怪退治もしてきたお前が臆したか?」

 

斎藤T「まさか。現実世界でダークファンタジーに出てくるような魔獣と戦うことになるとは思わなかったけど、夢に見ていた剣と惑星もの(Sword and Planet)の冒険譚の世界に飛び込めたと思うと、この高揚感がたまらないねぇ!」

 

斎藤T「というわけで、西洋の黒魔術師が使役する魔獣が相手だけど、NINJAならまだやれるよね?」

 

斬馬 剣禅「無論。蛇馬魚鬼(ジャバウォック)など“斬馬 剣禅(我が名)”に賭けて討ち果たさん」

 

斎藤T「なら、今こそ、特撮ヒーローのアレコレを参考に創り上げた“ストライダー(St.RIDER)”の初陣だ!」

 

斬馬 剣禅「来い! 聖甲虫(スカラベ)!」

 

斎藤T「今こそ示現せよ! ケイローン!」

 

ビューティフルデイ「!?」

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

パシッ

 

 

斎藤T「導きは黄金の規律! バイアリーターク!」

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Caucasus-beetle!

 

 

斬馬 剣禅「誘うは黄金の神風! ゴールデンハインド!」

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Actaeon-beetle!

 

 

魔獣「――――――!?」

 

黒魔術師「な、何なのだ、小奴らは!?」

 

ビューティフルデイ「……黄金の戦士?」

 

ビューティフルデイ「……何? 何なのよ、あなたたちは!?」

 

斬馬 剣禅「お前たちが邪心をもって悪魔を使役するなら、こちらも世に邪悪が蔓延る時に必ずや現れる希望の闘士:聖闘士(セイント)になって戦うまでよ」

 

斎藤T「打ち明けて言うと、パロディ満載のツギハギだらけの自主制作特撮ヒーローってところかな?」

 

ビューティフルデイ「ああ、知ってる! 『聖闘士星矢』でしょ、それ!? かっこいい!」

 

黒魔術師「ひ、姫様!?」

 

ビューティフルデイ「あ」

 

ビューティフルデイ「そ、そうじゃなかった」

 

ビューティフルデイ「日本のヒーローを倒すのは心苦しいけれど、これも大義のためなのよ!」

 

ビューティフルデイ「ジャバウォック!」

 

黒魔術師「殺れ!」

 

魔獣「ブッシャアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオ!」

 

斎藤T「時空の奥義にて打ち砕く!」

 

斬馬 剣禅「運命両断!」

 

 

――――――俺の怒りが爆発寸前! アークインパルス!

 

 

*1
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

*2
ルイ14世はヴェルサイユ宮殿で夜10時頃には人々を招いて食事をしているところを見せつける公式晩餐(Grand couvert)を行っていた。

*3
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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