ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第三次決戦Ⅰ この宇宙で最強なのは自分のみ -魔獣討伐作戦-

 

 

――――――目標:6月30日の夏越の大祓を完遂せよ!

 

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Caucasus-beetle!

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Actaeon-beetle!

 

 

時は『宝塚記念』前夜。NINJA:斬馬 剣禅と共に北アイルランド系テロリスト:ブラッド・アンド・バーンズ(血と旱)の討伐に乗り出していた。

 

私とNINJAの腕に時間跳躍(ジョウント)して黄金のコーカサスオオカブトと黄金のアクティオンゾウカブトが腕に飛びつく。

 

黄金の甲虫から発する光輝によって辺りを眩惑させ、天に掲げた腕に甲虫の脚が絡みついた重量感が脳に時空の流れを駆け巡らせると、その一瞬に強靭かつ俊敏な外骨格(エクソスケルトン)を形成させ、2人のNINJAを黄金の戦士へと変貌させた。

 

これが本邦初公開の自主制作ヒーロー:聖騎士ストライダー(St.Rider)の登場であり、別にテロリストを始末するだけなら現場にC4爆弾を設置して問答無用に爆殺すればいいだけのことだった。

 

しかし、わざわざテロリストの前に姿を晒して、更には見せつけるようにして自主制作のヒーローショーまでやるのには全て理由があった。

 

全ては1周目で起きたトレセン学園学生寮襲撃事件による大破壊の報復であり、真相を掴むために敢えて目の前にいるファインモーションの偽物:ビューティフルデイを泳がせる必要があるために、わざわざ日本が世界に誇るヒーロー番組の設定をツギハギにして記憶に焼き付かせる目的でやっていることだった。

 

記憶の引き出しという普遍的無意識に通じていれば、そこから相手の記憶世界から縁を手繰り寄せて、想念によって目的地を設定する時間跳躍で追跡することが可能になるのだ。

 

それを可能にするのが時間と空間を超越する四次元能力の究極であり、因果律に三次元の物質世界の法則や機構でもって干渉することができるシステムをすでに開発できていたのだ。

 

ただし、そんな高次元領域に干渉するシステムを濫用した場合に起きる被害などまったく予測できないため、神託と技術者の性に従って()()()()()()()()はいいものの、決して軽い気持ちで使おうなどと思わないでいたのだ。

 

その封印を破ることになったのはテロリストに与する西洋の黒魔術師が召喚したこの世のものに非ざる有翼の魔獣:ジャバウォックによる1周目のトレセン学園学生寮の大破壊であった。

 

決行日の『宝塚記念』というビッグイベントのために前日から留守にしていた生徒たちが多かったものの、生徒以外立入禁止の建前と非常事態マニュアルに記載された対処法に縛られたことで、まったくの想定外である空飛ぶ魔獣の襲来によって日曜日の学生寮は阿鼻叫喚に見舞われたのだ。

 

 


 

 

●1周目:06月23日/トレセン学園

 

 

特殊強襲部隊(SAT)「撃て! 撃て! 撃てええええええ!」バババババ!

 

救急隊員「負傷者を運べ! 急げ!」ドタドタ

 

民間警備会社警備員「避難用のバスが来ます! 救急車の道を開けてください!」

 

 

ピーポー、ピーポー、ピーポー・・・

 

 

斎藤T「……何が起こっているんだ? 『宝塚記念』のウイニングライブが終わったタイミングに学園からの避難命令だなんて?」

 

アグネスタキオン’「それを調べるために急いで関西から戻ってきたんだから、まずは情報を集めないとね」

 

斎藤T「ああ」

 

藤原さん「……うん? もしかしてテン坊か!?」

 

斎藤T「……藤原さん? ということは、WUMA対策班が動いている!?」

 

斎藤T「まさか、やつらの残党がトレセン学園に総攻撃を仕掛けてきたのですか!?」

 

藤原さん「いや、宇宙人の侵略というよりは凶悪な未確認生物が学生寮の住宅団地で暴れ回っているようなんだ」

 

斎藤T「――――――『未確認生物』?」

 

藤原さん「ああ。それがファンタジーに出てくるようなドラゴンらしき生物なんだ」

 

斎藤T「こいつは……」パラッ ――――――撮影された拡大写真を見せられる。

 

アグネスタキオン’「へえ。まさしくドラゴンだねぇ。頭はトカゲじゃなくて深海生物の感じがするけど、こんなにも大きな鉤爪で引っ掻かれたら ただじゃすまないねぇ」

 

斎藤T「だいたい5m前後の体躯か。それがコウモリの翼を羽ばたかせて学生寮を飛び回っていると……」

 

藤原さん「こっちが学生寮に突入した特殊強襲部隊(SAT)が交戦した時の映像だ」ピッ

 

斎藤T「――――――」ジー

 

斎藤T「……何だ、これ? WUMAとはちがって普通に着弾して急所を貫いているのに平然としている?」

 

藤原さん「ああ。それがファンタジーに出てくるドラゴンの強靭な生命力なのかと、手を替え品を替え 作戦を何度も変えているが……」

 

斎藤T「――――――睡眠、麻痺、猛毒、爆破のいずれも失敗」

 

藤原さん「ああ、信じられないことに爆弾を載せたドローンによる爆破も通用しなかったぞ」

 

藤原さん「やつめ、不死身か? 本当にあれはこの世の生き物なのか?」

 

斎藤T「――――――現代兵器による真正面からの攻撃が通用しない恐るべき生物か」

 

斎藤T「なら、ドローンを使うなりしてワイヤーで拘束してください。あれだけの体躯を宙に舞わせる強靭な翼も付け根の部分に楔を打ち込めば制御を失うはずです」

 

斎藤T「もしくは、片方の翼に集中的に重りになるものをぶらさげてください。翼の左右のバランスが崩れれば、飛行生物は空を飛べなくなります」

 

斎藤T「斃せないなら、身動きを封じて無力化するに限ります。それで稼いだ時間で手段を選べるようになるはずです」

 

藤原さん「なるほど、その手があったか」

 

藤原さん「よし、WUMA対策班。こちら、本部。今度はワイヤーによって拘束して やつを地上に引きずり下ろせ」カチッ

 

藤原さん「やつを拘束するのに使えそうなワイヤーはあるか? 使えるドローンもあとどれくらい残っている? あと、重量バランスを崩すために重りになるものも用意できるか?」カチッ

 

斎藤T「………………」

 

藤原さん「とりあえず、ここは俺たちにまかせて、進展があるまでお前さんは学園関係者の避難状況を確認しておいてくれ。樫本理事長代理は理事長室にいる」

 

藤原さん「今日 学生寮に残っていた生徒たちは大講堂に集合して避難所行きのバスが来るまで待機しているから、避難所の割り振りもそこで確認できるはずだ。送迎と警備は民間警備会社が受け持っている」

 

斎藤T「わかりました」

 

斎藤T「行くぞ」

 

アグネスタキオン’「うん」

 

 

ウオオオオオオオオオオオオオオ!

 

 

斎藤T「あのドラゴンみたいな未確認生物はいったい何なんだ?」

 

アグネスタキオン’「さあね」

 

アグネスタキオン’「けど、最終的にはきみが出現の原因を突き止めて“なかったこと”になるんじゃないかい?」

 

斎藤T「…………だろうな」

 

アグネスタキオン’「おや、まさか。今、頭の中に日めくりカレンダー――――――」

 

斎藤T「ああ。その『まさか』さ。こうして『宝塚記念』が終わった後の多くの生徒たちが留守にしているトレセン学園でこんなことになるとはね……」

 

斎藤T「ただ、どうやら今回は『宝塚記念』前日にまで遡れるみたいだ」

 

アグネスタキオン’「つまり、きみはどうあっても『宝塚記念』を観戦しておかないといけないようだねぇ」

 

斎藤T「そう、そのことが何らかのヒントになっているはずだ」

 

 

――――――『宝塚記念』前日にまで遡って あの未確認生物の出現を未然に防いでおく必要があると見た。

 

 

ここ最近でもっとも人がいなくなる日時を狙って真夜中のハンググライダーから空挺降下して魔獣:ジャバウォックによる破壊活動が行われていたことを初めて知ったのは史上初の“春シニア三冠”を達成したマンハッタンカフェのウイニングライブを現地で見届けた後だった。

 

誰もがレースの結果に熱狂し、ウイニングライブのステージに夢中となっていたために、トレセン学園から届けられていた悲鳴や混乱の声に気づく者はほとんどいなかった。

 

そして、樫本理事長代理はすでに生徒たちの学生寮の一斉避難を命じ、ウイニングライブ終了に合わせて『宝塚記念』に参加・観戦しに行った学園関係者全員には京都分校に集合と安否確認を発令したのだ。

 

そこでウイニングライブが終了した後の感動の余韻に浸る間もなく、会場全体に動揺が走ったところで、多くの生徒たちが留守にしていたトレセン学園での異変に誰もが気づくことになったのだ。

 

トレセン学園の異変を真っ先に確認するために地上最強の生物であるスーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)と共に時間跳躍で私は即座にトレセン学園に帰還することになったのだが、

 

現地では警視庁の特殊急襲部隊(SAT)やWUMA対策班に多数の救急隊が駆けつけており、民間警備会社のERT(緊急時対応部隊)が避難誘導や道路封鎖を行っているようだった。

 

そして、府中の闇夜に舞う有翼の魔獣:ジャバウォックが飛んでおり、どういった経緯で『宝塚記念』の日に異形のバケモノが現れたのかを整理するところから、今回の決戦が始まっていた。

 

結果としてはスーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)の過去視によって経緯が明らかになるわけなのだが、

 

何の情報もなく過去視をしても徒労に終わるだけなので、混乱に見舞われたトレセン学園で情報を持っているだろう人間に 直接 話を聞きにいくところから始まった。

 

生徒たちを学生寮から逃がすためにジャバウォックを前にして身を張った後に大講堂の待機所で生徒全員が避難所に行くのを最後まで残って見届けようとしている三浦寮寮長:ヒシアマゾン、今回のような異常事態に備えて装備の強化を図っていたWUMA対策班の現場指揮をとっていた藤原さん、秋川理事長の留守を預かるために理事長室で事態の把握に努めていた樫本理事長代理の3人の証言で大筋は掴めた。

 

 

しかし、そうした聞き込み調査をしていく中である違和感を覚えることになった。

 

 

それが()()()()()()()()()ファインモーション姫殿下であり、()()()()()()簿()()()()()()()()()()()()()に一安心した際に矛盾を感じたのだ。

 

なぜなら、ファインモーション姫殿下は日本留学で初めて観戦した『皐月賞』で一番の推しになったエアシャカールの応援のために阪神競バ場『宝塚記念』に公式に観戦していたはずなのだ。

 

しかも、同じく『宝塚記念』に出走する生徒会長:エアグルーヴのたっての希望もあってVIPルームでおてんばなアイルランド王女の相手をしていたのが前日の日英愛友好記念パーティー(ラーメンパーティー)で信頼を得た“斎藤 展望”なのだから、絶対に間違えようがない。そう、『温めても冷たくても二度美味しい』秋霜ラーメンを直々にご馳走していたのだから。

 

となると、当日のSPの役割分担がどうなっていたか部外者の私が知る由もないことだったが、影武者のマーメイドパールが学園に残っていたのかと思い、すぐに連絡を入れたのだ。どういうわけか連絡がつかなかった。それどころか、SP隊長とも連絡がつかない――――――。

 

そして、ハッと気づいた。三浦寮寮長:ヒシアマゾンの証言の中に『ファインモーション姫殿下が何が起きているのかを急いで確認しに寮長の許に駆けつけた』とあったのだが、栗東寮のエアグルーヴの相部屋になっているファインモーション姫殿下がなぜ三浦寮に居たのか――――――。

 

 

――――――嫌な予感しかしない。だが、いくら時間が巻き戻せるからと言って事件の全貌を掴まなければ被害を抑えることはできない。否が応でも確かめないといけないのだ。

 

 

なので、後に黒魔術師が使役する魔獣と判明する未確認生物が学生寮で暴れているのを放置して、すでに学生寮から避難済みのファインモーション姫殿下に もう一度 樫本理事長代理から安否確認の連絡を入れてもらい、逆探知を仕掛けたのだ。

 

当然ながら一般生徒とは異なる場所に避難しているだろう留学中のアイルランド王女がどこにいるかを明かすわけがないものの、ここでアイルランド大使館にも後で連絡を入れて大使館の方で避難が確認されていることでもって安否確認を完了にすることを告げさせた。

 

つまり、罠を張ったのだ。トレセン学園から一斉避難という大事にもなれば、すぐにでもアイルランド大使館にも連絡する義務と責任が各方面にあるわけなのだが、

 

私と一緒に阪神競バ場のVIPルームから『宝塚記念』を観戦していたファインモーション姫殿下は 当然ながら そのままSPと共に関西に留まり、トレセン学園での異変はウイニングライブを満喫している本人には知らせずに まずSPたちで情報確認と対応に動いていたのだ。

 

すると、アイルランド大使館にはすでにファインモーション姫殿下がどこに避難しているかは極秘裏に報告されているわけであり、関西で避難している姫殿下と学園から避難した姫殿下の2つの安否確認が大使館に届くはずなのだ。ここに矛盾が生じるのである。

 

更に、ウイニングライブを見終わった後に学園から送信された一斉避難の連絡によって遠く離れた府中の異変に気づいたわけなので、学園から避難したファインモーション姫殿下へ もう一度 樫本理事長代理が安否確認をした時点で魔獣出現から何時間も経っているのだ。

 

それなのに、学園から避難したというこのファインモーション姫殿下はアイルランド大使館に連絡をまだ入れていない様子なのだ。しかも、樫本理事長代理が掛けている電話番号は避難する直前に紙に書いて渡してきた未登録の番号なのだ。

 

しかし、テロリズムの可能性を伏せて トレセン学園と阪神競バ場にファインモーション姫殿下が同時に存在していた可能性を樫本理事長代理に説明してから安否確認の連絡をさせたのだが、

 

途中まで私から言われた疑念を声に出さないように努めていた樫本理事長代理の硬い表情が疑惑が解明されたわけでもないのに不自然に和やかなものになっていったのを見て、私は認識阻害の暗示が働いたのだと確信を得た。

 

そもそも、安否確認の名簿に触れた時に何やら清浄ではない気を感じ、具体的にはファインモーション姫殿下の筆跡に違和感を覚えた時点で()()()()()()()()()という思いは最初からあったのだ。

 

突如として出現した魔獣が暴れている中でこんな小細工がアイルランド王室の人間と関係することに仕掛けられていたとなると、あの未確認生物がこの時を狙って人為的に解き放たれたものだと真っ先に疑ってしまうではないか。

 

事実、魔獣の動きは5m前後の巨大な見た目相応の鈍重さであり、WUMAのような超高速移動で特殊急襲部隊(SAT)が一瞬で皆殺しにされるようなことはなかったのだが、WUMAも銃で撃たれれば普通に死ぬのに、

 

警視庁特殊急襲部隊(SAT)とWUMA対策班を総動員した ありとあらゆる攻撃が全て命中したにも関わらず通じなかったともなれば、あの未確認生物がこの世のものではないという藤原さんや現場からの驚愕の声にも頷ける。

 

 

ここまで情報を集めて繋ぎ合わせて、ようやく今回の魔獣出現がアイルランド王室を狙った黒魔術を使ったテロリズムであるという確証を得たわけであり、更にその目的がファインモーション姫殿下と“成り代わり”をすることだと気づいたわけである。

 

 

そう、今回の事件は去年の『ジャパンカップ』において療養中だった岡田T本人と一緒にいたことでWUMAによる“成り代わり”を察知することができた流れと非常によく似ていたのだ。

 

今回は『宝塚記念』をファインモーション姫殿下と一緒に観戦していたというれっきとした事実に基づくわけであり、一緒のVIPルームに入れるほどの信頼を短期間に勝ち取ってきたことが大きな勝因となったのだ。

 

テロリスト共は阪神競バ場に本物が行っている隙に『魔獣出現時に学園にいた』という既成事実を仕立て上げて、アイルランド王女の避難先が公にならないことを利用して、“成り代わり”を果たそうとしていたのではないだろうか。

 

となると、トレセン学園(府中)本物のファインモーション姫殿下(阪神)を同時に襲撃する狙いがあるはずであり、普通ならば こうして狙いがわかったところで対処しようがない完璧な作戦になるはずであった。

 

しかし、残念ながら、ヒトとウマ娘の皇祖皇霊の導きを受けている この“斎藤 展望”は時間が巻き戻すことができるため、1周目で事件の全貌が掴めたのなら、2周目で府中と阪神にいるテロリストを各個撃破する算段を立てることができるのだ。

 

テロリスト共にとって一番の想定外は私が時間跳躍によって一瞬で府中と阪神を行き来できることであり、普通に考えてどれだけ急いで関西から府中に戻ろうとしても数時間はかかってしまうはずが、ウイニングライブ終了まで本物のファインモーション姫殿下の側に居て その直後にトレセン学園に帰還して偽物の目撃証言を掴んでしまうなんてありえないことだろう。

 

 

天網恢恢 疎にして漏らさず、皇国の神々が味方していることで得られた奇跡によって、初見では対処不能な邪悪なテロリズムを“なかったこと”にして未然に防ぐ緒を得たのだ。

 

 

そこからは早かった。いくら腕利きの黒魔術師が側に居ようと、現代科学の機器を使っている時点で、23世紀の宇宙科学と並行宇宙の地球を支配したWUMAの超科学の合わせ技で潜伏先の逆探知は容易だった。

 

よって、NINJA:斬馬 剣禅に頼んでテロリストたちを姿形音もなく皆殺しにしてもらって一件落着かと思いきや、召喚者が斃れた後もトレセン学園で暴れている魔獣:ジャバウォックは健在であり、黒魔術師を葬ったところで召喚されてしまったら手遅れだったのだ。

 

むしろ、召喚者である黒魔術師の制御が失われたことで魔獣の凶暴性が増すことになり、ここから更に多くの被害が出ることになったのだ。召喚者さえ斃せば無力化できると安易に思い込んでいただけに、逆に暴走を招いてしまったことに私は打ち震える他なかった。

 

だからこそ、犠牲になった人たちの無念と怒りを背負って魔獣:ジャバウォックに総力戦を仕掛けることになったのだが、

 

並行宇宙からやってきたWUMAや裏世界に跋扈する妖怪とは異なり、同じ人間である黒魔術師が使役していることによって同業者からの対策が施された魔獣の物理法則を無視した戦闘能力に刃が立たなかったのだ。

 

そう、WUMAは空間跳躍による超高速移動から繰り出すパンチやキックだけで戦闘能力は確保されており、WUMAも十分に我々の手に負えない我々の想像を超越したバケモノであったが、その能力は どうであれ この世の物理現象で理論的に説明できる範疇のものであった。

 

しかし、黒魔術師が使役する魔獣は物理現象を歪めるほどのまさしくファンタジーの極致である荒唐無稽な魔法によってWUMAを超える戦闘能力を発揮していたのだ。

 

なので、生物ならば確実に息の根を止められる方法や手段が一切通用せず、戦術核兵器を持ち出したとしても倒せる見込みがないとして、生徒以外立入禁止の広大な住宅団地である学生寮での市街地戦は凄惨を極めることになってしまったのだ。

 

 

 

――――――エクリプス・フロント

 

 

魔獣「グギャアアアアアアアアオオオオオオオオオオ!」ギチギチ・・・ ――――――結界で力尽くで抑えられている!

 

アグネスタキオン’「くっ! こいつ、不死身かい!?」

 

斎藤T「――――――WUMAの超科学をもってしても殺せない!?」

 

斎藤T「おい、まだか!? 西洋魔術に精通したお仲間さんはいないのかよ!? 結界で動きを封じるのにも限界があるぞ!」ググッ

 

斬馬 剣禅「わかっている! 討伐することが無理なら消滅、消滅させることが無理なら送還させられないかを探させている!」

 

斎藤T「頼りにならねえな、NINJAも! こんな体たらくでよく今まで鎮護国家できたもんだ!」

 

斎藤T「なら、封印だ! いくら不死身の怪物だろうと、岩に押し潰された(石の中にいる!)状態にして肉体を再構成できない状態に追い込めば無力化できる!」

 

アグネスタキオン’「なるほどねぇ! けど、5m前後の巨体の魔獣を押し潰して封印できるほどの準備なんてできるのかい!? 命からがら、こうして罠を仕掛けたヘリポートまで時間跳躍させたってのに!?」

 

斎藤T「くっ! せめて、翼の再生さえ封じられれば 重りを括り付けて海に投げ捨てることもできたんだが、あの再生能力を封じることができなければ………………!」

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

斎藤T「!?」パシッ ――――――突如として黄金のコーカサスオオカブトが飛来した!

 

斎藤T「――――――ケイローンなのか!?」

 

斬馬 剣禅「何だ、その黄金のカブトムシは!?」

 

アグネスタキオン’「――――――『聖甲虫(スカラベ)』かい!? どうして時間跳躍技術を検証するためにカブトムシの玩具を改造した脳波制御の趣味品(ホビー) 兼 祭具がこんなところに!? 元がただの玩具なんだから自力で飛んでこれる構造じゃないぞ!?」

 

斎藤T「なるほど、そういうことか! 全てはそのための積み重ね! 物理が効かない魔獣討伐のために用意してくれたものがコレだったのか!」スッ ――――――手にした黄金のコーカサスオオカブトを手放す!

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

斎藤T「自霊拝」パカッ ――――――“黄金の羅針盤(クリノメーター)”の鏡を見つめる!

 

 

我は汝。汝は我。

 

 

人は祖に基づき、祖は神に基づく。

 

 

森羅万象。全にして一、一にして全なり。

 

 

斎藤T「故に!」

 

斎藤T「我はここに人と神の()()り合わす祭祀(まつり)を司る!」

 

斎藤T「導きは黄金の規律! バイアリーターク!」

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Caucasus-beetle!

 

 

――――――これが最初の変身(HEN-SHIN)だった。

 

 

黒魔術師に召喚された魔獣:ジャバウォックは現実世界の法則に従わない外なる存在であり、生者と非生者の性質をどちらも併せ持つために生者の世界:現実世界と非生者の世界:裏世界のどちらにも出没することが可能な非実在存在“半人半霊(エンティティ)”に極めて近いものと考えてもらえれば非常にわかりやすいと思う。

 

世界というのは質量保存の法則に従って決して物質の総質量が増えもしないし減りもしないものであり、これによって ある世界から別の世界へと移動できるタイムトラベルやパラレルワールド説を否定することが可能になるのだが、

 

フィクションにおいて往々にして見られる別世界から神や悪魔を召喚するといった事象に対する答えとして、四大元素説に追加された宇宙を構成する第五元素:エーテルがあり、物質次元の地球ではない星々の世界≒神々の世界を構成する高次元世界:アストラル界の住人たるアストラル体の存在というのが神や悪魔の正体とする学説が存在する。*1

 

そのため、今の状況を極めて簡単に説明すると、第五元素:エーテルで構成されたアストラル体に対しては四大元素で構成された物質次元の地球上のいかなる物理法則では異次元より召喚された魔獣を倒し切ることができないというわけである。

 

これがある世界の人霊が別世界に出現した非実在存在“半人半霊(エンティティ)”との大きなちがいであり、“半人半霊(エンティティ)”は別世界から見たある世界というのも並行世界であろうとも完全に別の宇宙と見なすこともできなくもないので、質量保存の法則に抵触することなく別世界に存在することが可能となっているが、本質的に同じ四大元素説の世界の住人なので抵抗して追い返すことは十分に可能である。

 

しかし、異次元より召喚された魔獣のような存在は黒魔術などを媒介にして四大元素説の世界に適応した仮の肉体を得て現界するわけだが、その本質は四大元素説の世界にはない第五元素:エーテルで構成されたアストラル体なので、倒すためには当然、アストラル体に干渉できる手段;アストラル体を構成する第五元素:エーテルを用いた攻撃を繰り出す他ないのだ。

 

つまり、どちらにも共通して言えるのは、異世界召喚された時は基本的に召喚された直後に環境に適応できずに死ぬようなことがないように召喚された次元の殻をまとった仮の肉体をまとい、肉体の殻の中に本質となる霊体やエネルギーが封じ込められているわけで、それが同じ人間なら“半人半霊(エンティティ)”、アストラル界の存在なら神や悪魔が召喚されたということになるのだ。

 

なので、これまで私を導いてきてくれた皇国の神々はいよいよ黒魔術による魔獣召喚への対抗手段として、神降ろしの儀式をお許しになられたのだ。

 

そこで私の肉体を神籬として降臨したのがウマ娘の三女神:バイアリータークであり、賢者ケイローンとの思い出からカブトムシの玩具を改造して脳波制御で時間跳躍の実験に使える祭具 もとい趣味品(ホビー)として造った聖甲虫(スカラベ)を通じて霊装を展開したのである。

 

重要なのは高次元世界の存在である三女神の力の器となる自分になりきることであり、鏡の自分を見つめて心を虚しくして、自分自身が力の存在そのものと一体化するのだ。

 

こうして眩い光と共に姿を現した黄金の戦士の姿は私と三女神の力が合体したものであり、只今を生きる“斎藤 展望”の個性や時代に合わせて化身した象徴に過ぎず、その本質となる肉体に宿った神なるものはいかなる時代や状況でも通用する普遍的なものである。

 

その姿は23世紀の宇宙時代にノーマルスーツと呼ばれて一般的に宇宙で着用される全身黒タイツのような宇宙服を再現することを目的に 現代の宇宙開発事情の参考に見ていた 実写映画で軌道エレベータが登場した世界初の作品となる特撮ヒーローに非常に酷似していた。いや、イメージの大本は間違いなくこれだ。

 

そして、三女神の1柱の力を宿した自主制作ヒーローの登場によって、黒魔術師が召喚した魔獣討伐はここに果たされる――――――!

 

 

斎藤T「うおおおおおおおおおおお!」ゴゴゴゴゴ!

 

斎藤T「――――――!」グググググ!

 

斎藤T「はああああああああああああああああ!」ブン! ――――――黄金のミドルキック!

 

魔獣「グギャアアアアアアアアオオオオオオオオオオ!???」ドゴォ!

 

魔獣「」パァアアアアン! ――――――5m前後の巨体が呆気なく光の粒子となって散っていった。

 

アグネスタキオン’「や、やった!」

 

斬馬 剣禅「ああ、そのようだな」

 

斎藤T「…………フゥ」キラキラ! ――――――霊装が光の粒子となって変身解除!

 

斬馬 剣禅「見事だったぞ、斎藤 展望」

 

アグネスタキオン’「うんうん。ここまでに大量の弾薬や爆薬、毒薬をつぎ込んでも斃せなかったのに、蹴りの1発で光に変えたんだから、これは間違いないだろうねぇ!」

 

斬馬 剣禅「しかし、『バイアリーターク』と言ったか?」

 

斎藤T「ああ。ウマ娘の三女神の1柱:バイアリーターク様だ。さっきのはその力と一体化した姿だ。だから、異次元から召喚された魔獣を斃せた」

 

斬馬 剣禅「なに!? 三女神の1柱だと!? 今のは正真正銘の三女神の力を身に宿したものだったというのか!?」

 

アグネスタキオン’「本当に神様なんていたんだねぇ。いや、これまでさんざん助けてもらっていたから信じてなかったわけじゃないけど、この物質世界ではっきりと目に見える形で力を貸すだなんて思いもしなくて」

 

斎藤T「不思議なことじゃないだろう。現にウマ娘という存在は異世界の英雄の魂を宿して生まれてきた存在なのだから、それと同じように人間としての個が確立される前の胎児と同じように心を虚しくすれば、今度は神様だって肉の宮に降ろすことだってできる」

 

斎藤T「気づいていないだけで、夢に向かって無我夢中になって誠の道を歩んでいれば、三女神じゃなくても それ以外の守護神様や産土様に助けてもらっているんだよ」

 

斎藤T「私の場合はそうした誠を極める人生を歩んできたからこそ、三女神の力を受けるに値するだけの霊格が磨かれているというわけで、今まさに磨いてきた成果を発揮することになったのがこの瞬間だったというわけだ」

 

斎藤T「言っておくが、物に神が宿るんじゃない。肉塊や脂肪、脳味噌や心臓に宿るものでもない。磨き上げられた霊魂と共鳴して神霊と合体するのだ。我々はこの物質世界に肉体を持った霊格であることを忘れてはならない」

 

 

心だに 誠の道に かなひなば 祈らずとても 神や守らん  菅原道真

 

 

アグネスタキオン’「……そうだね。身近なところで言えば、三女神像のおまじないの儀式がそれか」

 

斬馬 剣禅「……なるほどな。己を磨き 誠を尽くし 心を虚しくした結果がアレというわけなのか」

 

斬馬 剣禅「なら、今のは俺にもできることなのか?」

 

斎藤T「もちろん。そのために宗教がある。神話がある。古聖の教えがある。あれらは全てそのためのヒントを現代に伝えている」

 

斎藤T「そして、その境地を目指してきた先人たちの足跡を辿れば、時代を超えて湧き上がる感動から『今を生きる自分たちにもできなくはない』という確信を与えてくれる」

 

斎藤T「つまり、人類が目指すべき夢と希望と浪漫がそこにあるんだよ。それは太古から脈々と受け継がれてきた生命の願いでもあるんだ」

 

斬馬 剣禅「…………そうか」

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

斬馬 剣禅「!?」パシッ ――――――突如として黄金のアクティオンゾウカブトが飛来した!

 

斬馬 剣禅「こいつはさっきのと同じ――――――!?」

 

斎藤T「な、なに!? アクティオンゾウカブトの聖甲虫(スカラベ)だと!?」

 

アグネスタキオン’「造っていたのは1つだけじゃなかったのかい、モルモットくん?」

 

斎藤T「いや、中古でセットになっていたのを大人買いしたから、10機ぐらいは聖甲虫(スカラベ)の予備はあるけど……」

 

斎藤T「はい」パカッ ――――――“黄金の羅針盤(クリノメーター)”の鏡を見るように促す!

 

斬馬 剣禅「え」

 

斎藤T「自霊拝。言わば、契約だよ、これは」

 

斎藤T「神降ろしの儀式で自分の心を虚しくした時に降りる神霊と一体化した魂を見るんだ」

 

斬馬 剣禅「あ、ああ……」

 

斬馬 剣禅「――――――」

 

 

 

 

 

斎藤T「答えよ。そは何者ぞ」

 

斬馬 剣禅「――――――アメノカクなり」

 

アグネスタキオン’「…………!」

 

斎藤T「春日大社――――――、鹿嶋の神だな」

 

斬馬 剣禅「!」

 

斎藤T「いや、鹿嶋の神の眷属の神鹿か。それらしいな」

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

斎藤T「よし、せっかくだから、一緒に変身しましょうか」パシッ ――――――突如として黄金のコーカサスオオカブトが飛来した!

 

斎藤T「一度 使ってみれば肉体にも感覚が焼き付いて、次からはスムーズに行使できるようになるから」

 

斬馬 剣禅「ならば、先達をお願いする」

 

斎藤T「それでは!」

 

 

斎藤T「導きは黄金の規律! バイアリーターク!」

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Caucasus-beetle!

 

 

斬馬 剣禅「誘うは黄金の神風! ゴールデンハインド!」

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Actaeon-beetle!

 

 

こうして魔の力に対抗すべく地上に降ろされた神の力を宿した一対の馬鹿の黄金の戦士が2人誕生したのであった。私は斬馬 剣禅との間の一体感に強い縁を感じた。

 

その姿はそれぞれが手にした聖甲虫(スカラベ)を模してコーカサスオオカブトとアクティオンゾウカブトの意匠となっていた。言うなれば、私がコーカサスオオカブト仮面で、向こうがアクティオンゾウカブト仮面である。

 

そして、この自主制作ヒーローの名は『聖闘士(セイント)星矢』と『仮面ライダー(騎士)』の天地を掛け合わせて“聖騎士ストライダー(St.Rider)”――――――!

 

 

*1
アストラル(Astral)は『星々の』を意味する形容詞。名詞形がアストラ(Astra)である。

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