ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第三次決戦Ⅱ 時代を駆ける英雄の足跡 -愛国王女救出作戦-

 

 

――――――目標:6月30日の夏越の大祓を完遂せよ!

 

 

たとえば銅像を建てられるほどに人々の記憶に残る名バがいる。

 

23世紀の宇宙時代を生きた世紀の大天才たる私が未だに小さな庭での徒競走のレース選手を育成するトレーナーの地位に踏み止まっているのは、絶望の未来を変えるタイムパラドックスを引き起こす手段としてウマ娘レースが極めて有効であると判断していたからだ。

 

そのため、少なくとも私の担当ウマ娘には銅像を建てられる以上にその名を冠した重賞レースが設立されるだけの偉業を果たしてもらわなければならかった。

 

そして、6月30日の夏越の大祓を迎える決戦の2周目、私はNINJA:斬馬 剣禅と協力して昨日に北アイルランド系テロ組織:ブラッド・アンド・バーンズ(血と旱)の東京/府中における拠点を制圧し、その中心人物であるアイルランド王女:ファインモーション姫殿下に()()()()()()()()()()のビューティフルデイの捕縛に成功する。

 

その際、異次元から召喚される魔獣を使役する黒魔術師と交戦することになり、こちらも異次元より降臨する神霊の力を借りて魔獣討伐に成功する。

 

交戦の結果、不敗の矜持を持つ黒魔術師は目の前に現れた2人の自主制作特撮ヒーローにいとも容易く不死身の魔獣が斃されたことに発狂し、口封じのために仕掛けられていた誓約(ギアス)によって身体の内側から杭のようなものが次々と溢れ出して死にゆく激痛に喘ぎながら朽ち果てた。

 

黒魔術という外法に頼った輩の最期は思わず重要参考人として捕縛したビューティフルデイの視覚と聴覚を麻痺させて心的外傷(トラウマ)にならないようにシャットアウトするほど非常にグロテスクなシーンであった。

 

さて、北アイルランド系テロ組織:ブラッド・アンド・バーンズ(血と旱)の拠点を1周目に探り出して制圧していたことで2周目は先んじて決行日である『宝塚記念』前夜に先制攻撃をかけて制圧できたが、

 

その計画の全容がアイルランド王女:ファインモーション姫殿下に()()()()()()()()()()のビューティフルデイの“成り代わり”をさせることでアイルランド王室を侵略することであり、認識阻害の暗示を扱える黒魔術師がいたことで成り立っている作戦でもあった。

 

しかし、そのためには本物と偽物が入れ替わるタイミングを見計らう必要があるため、本物が『宝塚記念』を観戦しにトレセン学園を離れた隙に学生寮で魔獣を暴れさせて生徒たちを学園から避難させる状況に持ち込む必要があった。

 

その際、当然ながら生徒全員の安否確認を行う責任と義務が管理者側にあるが、一方で他国の王族の安否確認は大使館を通じて裏付けを取る必要があった。ここがテロリストの狙い目だったのである。

 

つまり、『宝塚記念』に観に行ったファインモーション姫殿下は観客席とは隔離されたVIPルームで観戦していた他、その宿泊先や避難先は非公開であるため、本当に阪神競バ場にいたかどうかは一般人にはわからない状態になっていたのだ。

 

実際、1周目の学園からの避難者名簿の方にファインモーション姫殿下の名前が載っており、実際にその姿を見たという証言が多数ある以上、学園側としてはファインモーション姫殿下は少なくとも魔獣がトレセン学園を襲撃した時には学生寮にいたことが事実となっていた。

 

しかし、その目論見は2周目では決行前夜に潰えていたわけであり、1周目に拠点を制圧して過去視や通信記録で動向を探ったところ、どうも決行当日は作戦の成功を1ミリも疑っていないのか東西で連絡を取り合っていないようなので、

 

前日に東京/府中の襲撃部隊を壊滅させれば、余裕を持って当日に阪神/仁川の誘拐部隊を各個撃破することが可能であった。

 

もちろん、こちらとしては当日の誘拐部隊の動向やファインモーション姫殿下の避難経路がわからない上、前日に襲撃部隊を壊滅させたのだから学園からの避難命令が下るわけがないので、1周目と同じ挙動になるはずがなかった。

 

ところが、1周目の出来事をデータとして持ち越して公共のメディアを乗っ取って流すことで本当にあった嘘の話(フェイクニュース)が一般大衆の間に成立することになる。

 

なにしろ、トレセン学園の生徒は毎週開催されている全国各地のウマ娘レースの興行に誰かしら出走するなり遠征するなりして全員が学園に居合わせることは稀であり、そのためにトレセン学園で起きた出来事は基本的に公共の電波の全国放送で流すのが決まりなのだ。

 

あとは、偽の避難命令を生徒たちに一斉送信した後にトレセン学園の辺り一帯を一時的に停電させて しばらくの間 真偽を確かめることをできなくさせれば、

 

ほら、簡単。1周目に実際に起こっていた出来事なだけに、その信憑性の高さからトレセン学園の襲撃を未然に防いでおいた上で、2周目もテロリストの誘拐犯たちは同じ行動を取ってくれるのだ。

 

だが、油断大敵、アイルランド王室に偽物を送り込むために本物を始末しようという賊のことだ。当然、本物と偽物が入れ替わったことを誤魔化せる黒魔術師(ペテン師)が側にいるはずで、アイルランド王女を護衛するSPを蹴散らすだけの戦力を保有しているはずだ。

 

1周目ではテロリストの陰謀に気づいた段階でSPの誰とも連絡が繋がらないという最悪の事態を迎えていただけに容赦する気はまったくない。

 

ところが、1周目を再現した2周目、私がウイニングライブを見届けた後のファインモーション姫殿下の動向は予想の斜め上を行くものとなっており、まさかの展開となっていたのだ。

 

 


 

 

●2周目:06月24日/京都散策

 

 

斎藤T「……何か申し開きすることはありますか、姫殿下?」

 

ファインモーション「えへへ」

 

斎藤T「学園側のミスで京都分校への避難命令が出ていたとは言え、元々の予定として『宝塚記念』翌日の振替休日に御学友と京都散策をしようとしていたわけですが、お転婆が過ぎますぞ」

 

斎藤T「いったいどれだけの人を振り回して 心配させて 迷惑をかけたか、わかっているのですか?」

 

斎藤T「幸い、囮になったSPの皆様方は無事でしたが、危うく命を落としかけたぐらいですよ」

 

ファインモーション「でも、助けてくれたんだよね、NINJAが! みんなが言っていたよ!」

 

ファインモーション「いいなぁ。私も見てみたかったなぁ」

 

斎藤T「反省してください」

 

ファインモーション「はーい」

 

陽那「まあまあ。そのぐらいにしておきましょう、兄上」

 

ファインモーション「でも、凄かったなぁ、昨日の『宝塚記念』」

 

ファインモーション「優勝したマンハッタンカフェが断トツで凄かったけど、私の推しのエアシャカールも良かったし、エアグルーヴもカッコよかった」

 

陽那「そうですね。今まで“皇帝”シンボリルドルフの右腕として長らく生徒会副会長としてターフを離れて何年も経つのに、その後を継いで生徒会長に就任してからのまさかの『ヴィクトリアマイル』優勝に引き続き、『宝塚記念』で2着というのは“本格化”が終わったのをまったく感じさせないほどの強さですよね」

 

斎藤T「世間的には史上初の“春シニア三冠”――――――、『URAファイナルズ』で引退と思われていたスーパーシニア級のマンハッタンカフェが圧倒的勝利で偉業を達成したことを称える声で満たされているが、」

 

斎藤T「2着:エアグルーヴ、3着:エアシャカール、4着:ウオッカという結果に『クラシック路線とティアラ路線のウマ娘の間、あるいは新バや古バの間に絶対的な優劣などないことが示されたという点で非常に意義のあるレースだった』と識者は語っている」

 

陽那「強いウマ娘に階級や路線の区別はないわけですね」

 

ファインモーション「そっか」

 

 

ファインモーション「楽しそうだね、みんな。キラキラしている」

 

 

斎藤T「……走りたいのですか?」

 

ファインモーション「そう聞こえたのかな、斎藤Tには?」

 

斎藤T「競走ウマ娘に限らず、ヒトよりも遥かに優れた身体能力と闘争本能を持つウマ娘なら、思春期に有り余る情熱をぶつけたいと思うのは自然だと思いますが?」

 

ファインモーション「じゃあ、私も綺羅びやかな勝負服を着ながらあんなふうに歯を食いしばってターフの上を全力疾走をしてもいいのかな?」

 

斎藤T「何のために留学先を日本トレセン学園にしたのですか? 見学するだけなら皇室と縁のある由緒正しい学園に通うべきですよ? 今から留学先を変えますか?」

 

陽那「え、兄上?」

 

ファインモーション「ねえ、怒られない、そんなことを言って? それで私がメイクデビューすることになったらさ?」

 

斎藤T「大丈夫です。あなたのことをスカウトしたいと心から願うトレーナーに出会わなければ全ては夢物語です」

 

斎藤T「夢は誰にでも見る権利があるのです」

 

 

――――――素敵な出会いが日本であると良いですね。

 

 

結果としては今回の北アイルランド系テロ組織:ブラッド・アンド・バーンズ(血と旱)の犯行は どの道 失敗となるのが運命だったようである。

 

なにしろ、目標となるアイルランド王女:ファインモーションの行方が 護衛となるSPの方でも掴めなくなって 完全に見失ってしまったからだ。確保できなければ 魔獣を召喚してまで学園を襲撃させる意味がない。

 

恐ろしいことに、ファインモーション姫殿下はウイニングライブ終了後の人混みに紛れて、そそくさと宝塚を後にしてしまっていたのだ。

 

完全なるSPの失態であり、外部に混乱を広げないために影武者であるマーメイドパールが代役となって送迎車に乗って恙無く宿泊先である避難所に向かおうとしたところで、わかりやすく追跡してくるテロリストの改造車とカーチェイスとなっていた。

 

その時は私も改造バイクに乗ってアイルランド王女御一行様を遠くから追跡しており、出発前には無かったのを確認したのに発進直後に時間跳躍で私がルーフに発信機付きのドライブレコーダーをベッタリと取り付けているので、そこから得られる軌跡からルート案内(ナビゲート)を受けて捕捉されない距離を保って追跡していた。

 

その間にテロリストの改造車が堂々と入り込んできたことで、ルーフに据え付けられたドライブレコーダーから送信される映像で尾行してくるテロリストとのカーチェイスをリア視点で堪能することになった。

 

正直に言えば、テロリストが尾行してきた瞬間に時間跳躍でクラッシュさせることも簡単だったのだが、ウイニングライブ終了後の宝塚から帰る深夜の大通りで交通事故や黒魔術師との戦闘は避けたかった。

 

なので、同じようにテロリストの改造車にも時間跳躍で発信機付きのドライブレコーダーをルーフにベッタリと貼り付けてきて、辛抱強くアイルランド王女御一行様とテロリストのカーチェイスの追跡を続けたのだが、

 

大通りを高速で駆け抜けて人気の少ない入り組んだ小道で先手を打ったのはテロリストであり、ここで魔獣を召喚して一気に勝負を決めようとしてきたのだ。やはり、テロリストの側には黒魔術師が他にもいたのだ。

 

テロリストの改造車のルーフに収まり切るように召喚されたその魔獣はジャバウォックとは異なる異形であり、なんと魔獣の首が弾丸のように発射され、カーチェイス中の不規則に高速で動く先行車に容易く命中し、更にはトランクに鋭い牙を突き立てた生首がトランクルームをそのまま噛み砕いて後部座席へと侵入しようとしてくるのだ。

 

ルーフに取り付けたドライブレコーダーによってアイルランド王女御一行様のその時の恐慌が手に取るようにわかり、後部座席から拳銃を乱射するのだが、こちらを齧りつこうと鋭い牙を見せながら迫ってくる魔獣の生首の迫力に狭い車内で阿鼻叫喚が巻き起こっていた。

 

なので、向こうが切り札を切ったのなら、こちらも切り札を切って同じように怖い目に遭わせることにしたのだ。

 

 

――――――勝負は瞬きする間に終わる。

 

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Caucasus-beetle!

 

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Actaeon-beetle!

 

 

合図と共に時間と空間を超越してテロリストの改造車の真上に黄金の戦士が降り立ち、アイルランド王女御一行様の方にもふわりと黄金の戦士が降り立つ。

 

そして、同時に魔獣:バンダースナッチの生首と胴体に魔を断つ剣が突き立てられ、跡形も無く一瞬で光の粒子となって散っていった。

 

何が起きたのか、双方 理解できていない状況で、私はアイルランド王女御一行様の送迎車から簡単に先行車を追い越すほどの勢いを見せつける黄金のバイクにふわりと飛び移る。

 

そこからスピードを落として後方車にピッタリと横付けすると、突如として上と横に現れた2人の黄金の戦士にテロリストたちが怯えきっているのが見て取れた。

 

頼みの綱であるお抱えの黒魔術師はルーフの上から貫通してきた2本の霊剣で両膝を刺されており、後部座席の陣取るテロリストたちはすでに顔面蒼白であった。

 

だが、そこに手心を加える気は毛頭ない。1周目で起きた惨劇の復讐から、バイクを傾けて横付けした改造車に思い切り大地を踏みしめた刹那に肩の一撃を加えると、弾丸のように車体が真横に吹っ飛んでいったのだ。

 

吹っ飛ばされた先が何もないように調整して空き地に横転してクラッシュした改造車を取り囲むと、アイルランド王女御一行様も意を決してやってきたようだった。

 

これにより、今回の北アイルランド系テロ組織:ブラッド・アンド・バーンズ(血と旱)の犯行がアイルランド王室にも知れ渡るようになったのであった。

 

ただし、黒魔術師の方はやはり証拠隠滅のために仕掛けられていた誓約(ギアス)によって見るも無惨な死に様を迎えており、運悪く隣の座席にいたテロリストは完全に放心状態となっていた。

 

一方、アイルランド王女救出の功労者である2人の黄金の戦士はテロリストが引き渡されるのを見届けると音もなく姿を消していた。

 

なぜなら、目の前にいたのがアイルランド王女はファインモーション姫殿下ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()影武者のマーメイドパールだったからであり、

 

今度は本物のファインモーション姫殿下の捜索に夜を徹して取り掛からなくてはならなくなったのだ。通信機付きのドライブレコーダーも抜かりなく回収済み。

 

 

ところが、捜索に取り掛かってしばらく、意外なところから本物のファインモーション姫殿下の行方が判明したのであった。

 

 

阪神競バ場がある宝塚から京都分校のある京都までは高速道路を使っておよそ1時間半の距離である。

 

それぐらいならウイニングライブの後でも行列のできる京都のラーメン屋の名店で夜ラーメンが堪能できるということで、ファインモーション姫殿下は夜の京都でラーメン屋めぐりをしていたのだ。

 

なので、何事もなく本人から安否確認の連絡が宿泊先の京都から届いたわけであり、宝塚を中心にした決死の捜索は徒労に終わったのだった。

 

それも他ならぬ『宝塚記念』に出走したアオハルチーム<エンデバー>の面々とであり、つまりはチームメイトである2人のダービーウマ娘:エアシャカールとウオッカとその担当トレーナーである望月Tと甘粕Tの犯行であったのだ。

 

というよりは、ファインモーション姫殿下は推しであるエアシャカールの他にもチーム<エンデバー>のクラシック世代のチームメイトとなるウオッカやダイワスカーレットたちとも仲良くしており、元々『宝塚記念』の翌日の振替休日を利用してみんなで京都散策をしようと言う計画を立てていたのだ。

 

それ自体はSPたちも了解していることであり、突如としての京都分校への避難命令に関係なく、京都の高級ホテルにチーム<エンデバー>の友人たちと宿泊を決めていたわけでもあった。

 

つまり、行方不明となっていた当の本人としては京都に行くのには変わりないのだから、

 

宝塚からおよそ1時間半の道程をチーム<エンデバー>の友人たちがレンタルしたランドクルーザーと大型バイクで行くところに便乗して、

 

出発する直前に担当トレーナーからのご褒美で2人乗り(タンデム)するウオッカに軽い好奇心から無理を言って替わってもらい、甘粕Tのバイクで京都へ出発したのだ。

 

何も知らない甘粕Tは担当ウマ娘たちからのイタズラでウオッカが出発する直前にファインモーション姫殿下に入れ替わっているドッキリを仕掛けられることになり、それに気づくかどうかを試されることになったのだ。

 

最初から違和感に気づいていたものの、それを確かめる踏ん切りがついたのが途中休憩を兼ねたパーキングエリアであり、そこからはウオッカを背中に乗せて甘粕Tは京都入りを果たしたのだった。

 

そのため、結果としてはSPを囮にして宿泊先である京都の高級ホテルに無事にチェックインし終えた一行は 早速 京都散策の前夜に『宝塚記念』でのエアシャカールとウオッカの健闘を称えた夜ラーメンを堪能することになったというのが真相である。

 

なので、アイルランド王室もトレセン学園も本来ならば報告すべき立場だった望月Tと甘粕Tのことを叱るに叱れなくなったのであった。姫殿下のその場の思いつきに言い包められたことで、結果として御身に迫る危険を回避することになったのだから。

 

そして、京都分校への避難命令によって『宝塚記念』を観戦していた多くの生徒たちが京都分校へ避難し、誤報の避難命令が解除されたことで特別休暇の扱いとなったため、『宝塚記念』翌日は数多くの生徒たちとファインモーション姫殿下は京都散策を楽しむことができたのであった。

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

ファインモーション「――――――」

 

エアシャカール「――――――」

 

ウオッカ「――――――」

 

ダイワスカーレット「――――――」

 

アストンマーチャン「――――――」

 

 

 

マーメイドパール「………………」

 

斎藤T「昨日は災難でしたね」

 

陽那「おつかれさまです」

 

マーメイドパール「あ、斎藤T。それにヒノオマシ様……」

 

マーメイドパール「いえ、影武者としての本分を果たせたのなら本望です」

 

マーメイドパール「それに、姫殿下が立てた京都散策のコースの下見もあって、二度も千年の都を訪れることができたのは嬉しい限りです」

 

マーメイドパール「ガイドブックには載っていないような隠れた名店の数々を紹介していただき、ありがとうございました」

 

斎藤T「いえいえ、現地の京都警察(アグネスマキシマム)の協力もあってのことです。お気に召して何よりです」

 

陽那「着物姿、綺麗でしたよね」

 

マーメイドパール「しかし、いくら誉れ高い皇宮警察の御子息とは言え、今は一介のトレーナーに過ぎないのに、ここまで他国の王族に対して真摯になる必要はないのですよ? ご自身の担当ウマ娘のメイクデビューだってあるでしょうに?」

 

斎藤T「大丈夫です。トレーナーとしてのルールは1つも破っていませんから」

 

斎藤T「それに、妹は世界一の皇宮護衛官の警察ウマ娘になるんです。他国の王族の警護や接待も将来の仕事に含まれています。そのために妹の公欠が認められているのです」

 

陽那「はい。微力ながら力添えさせていただきます。いざとなれば京都の街を縦横無尽に駆け抜けてみせますよ」

 

マーメイドパール「その時は頼りにさせていただきますね、ヒノオマシ様」

 

 

 

 

 

陽那「ここがエアシャカールさんやウオッカさんたちが次に挑む『菊花賞』と『秋華賞』の舞台:京都競バ場ですね。皇宮警察(私たち)からすると『天皇賞(春)』の大舞台ですね」

 

マーメイドパール「昨日の『宝塚記念』で 見事 マンハッタンカフェが史上初の“春シニア三冠”を達成したのに続いて、“クラシック三冠”“トリプルティアラ”を目にすることができるでしょうか?」

 

斎藤T「――――――」

 

 

疾走のウマ娘 青嶺の魂

 

 

陽那「兄上? どうしたのですか?」

 

斎藤T「来年の『宝塚記念』は京都競バ場(ここ)で開催されることになる」

 

陽那「え」

 

マーメイドパール「え、どうしてです!? 『宝塚記念』はその名のとおりに宝塚にある阪神競バ場で開催されるものじゃないですか?!」

 

 

斎藤T「つまり、京都競バ場で『宝塚記念』が代替開催することになるような災厄がそれまでに起こる」

 

 

マーメイドパール「!!?!」

 

マーメイドパール「まさか、地震ですか!? 阪神淡路大震災の再来?!」

 

陽那「――――――南海トラフ地震!?」

 

斎藤T「戦略の練り直しだ。京都競バ場で代替開催されることになるのなら、それに向けた調整を考えないといけないな」

 

斎藤T「……なら、これを渡しておく。災害に巻き込ませたくなければ、姫殿下の近くにいる誰か1人は必ず身に着けておくように」

 

マーメイドパール「あ、ありがとうございます……」

 

陽那「それって前回の下見で兄上がお土産に買っていた京都土産として大変評判の蒔絵栞ですか?」

 

斎藤T「そう、今回の京都御所の見学で神気を入れてきたから、絶対に1人はこれを護符として身に着けて護衛するように。京都の東西南北を守護する四神(青龍・白虎・朱雀・玄武)の4枚だ」

 

斎藤T「それと、姫殿下の推しのエアシャカールについてアイルランド人が惹かれた理由を教えてくれないか?」

 

マーメイドパール「え?」

 

マーメイドパール「そうですねぇ。姫殿下がエアシャカール様のファンになったのは、もちろん、留学先の貴国(日本)で初めて見たG1レースで優勝したからではないですか?」

 

斎藤T「それはきっかけだ。何か、こう、アイルランド国内で有名な競走ウマ娘のことを思い出させるようなものはないかな?」

 

 

――――――たとえば、悲劇的な最期を迎えたことで特に有名なウマ娘はいないかな? “オーストラリアの伝説”ファーラップのような名バはいなかったか?

 

 

陽那「え!?」

 

マーメイドパール「…………あ」

 

斎藤T「どうかな?」

 

マーメイドパール「はい、いました。よくよく考えてみれば『エアシャカール様の名前が似ている』ということでお気に召したのかもしれませんね」

 

 

マーメイドパール「シャーガーです。日本では配給されていなかったかもしれませんが、映画にまでなった 国内外合わせて8戦6勝にしてG1:3勝の 2年目:クラシック級で惜しまれながらも引退した伝説のダービーウマ娘です」

 

 

斎藤T「――――――クラシック引退でG1:3勝!?」

 

陽那「す、凄いですね。それで映画にまでなったとすると、まるで全盛期のトウカイテイオーさんをもっとスケールを大きくした感じのスターウマ娘に思えます」

 

マーメイドパール「まあ、アイルランドで生まれて近代ウマ娘レース本場のイギリスに渡っての活躍なので、実質的にアイルランドとイギリスの間の子の名バですけれどね」

 

斎藤T「その辺りもニュージーランド生まれのオーストラリア所属のファーラップにそっくりだ」

 

マーメイドパール「日本ほど“クラシック三冠”に熱心な国柄ではないので『ダービーステークス(エプソムダービー)』一本に絞って、その勝利にこだわった末に史上最大の10バ身差の完全勝利を刻んだのです!」

 

斎藤T「な、なにぃいいいい!?」

 

陽那「――――――本家本元の『英国ダービー(ダービーステークス)』で10バ身差!? 圧倒的じゃないですか!?」

 

マーメイドパール「その後は祖国でも『アイリッシュダービー』で優勝して、両国でダービーウマ娘にもなりましたから、アイルランドの英雄でもあるのです」

 

陽那「それは鼻が高いですね」

 

斎藤T「え? 各国のダービーステークスの開催時期は『英国ダービー(ダービーステークス)』と同じじゃないのか?」

 

マーメイドパール「ええ、それはちがいますよ。『日本ダービー』は昔ながらの『ダービーステークス(エプソムダービー)』の開催時期の5月にしていますけど、」

 

マーメイドパール「今の『ダービーステークス(エプソムダービー)』は6月初週の開催で、本家本元(イギリス)の隣国に位置する我が国(アイルランド)としてはその後に『アイリッシュダービー』を開催することでヨーロッパ中の名バを集結させた夢の舞台(オールスターゲーム)を狙っていますので」

 

斎藤T「そうなんだ。中山競バ場(中央競バ)船橋競バ場(地方競バ)と似たような開催事情か。各国のダービーを比較してみるのもおもしろそうだな……」

 

 

マーメイドパール「ですが、シャーガーの名を永遠のものにしたのは()退()()()()()()()()()()()()となったことなのです」

 

 

斎藤T「!!?!」

 

陽那「――――――『誘拐』!?」

 

陽那「……えと、無事に帰ることができたのですよね?」

 

マーメイドパール「――――――()()()()()()()()()()()

 

陽那「そんな……」

 

斎藤T「……詳しく訊かせてくれ」

 

マーメイドパール「いえ、そこまで語れるものはないです」

 

マーメイドパール「引退して2年後の春、覆面をつけた男6人が銃で脅してシャーガーを誘拐し、200万ポンドの身代金を要求する電話があったのですが、この要求を拒否した後は連絡は途絶え、アイルランド・イギリス 両国の英雄である伝説のダービーウマ娘は完全に行方不明となったのです」

 

斎藤T「テロリストからの要求を呑むことで次に続く成功例を生ませないための合理的判断とは言え、伝説のダービーウマ娘も政治的判断で容赦なく切り捨てられるわけか……」

 

陽那「そんなの……、『引退して2年後の春』って、私とそう変わらない年齢で……」

 

マーメイドパール「だから、なのかもしれませんね」

 

マーメイドパール「姫殿下がエアシャカール様を気にかけるというのも。名前が似ていることもありますが、悲劇的な最期を迎えたことで永遠に歴史に名を刻んだシャーガーのようになって欲しくない――――――、映画のようなハッピーエンドを迎えて欲しいという願いがあるのかもしれません」

 

斎藤T「犯人の特定はできたのか?」

 

マーメイドパール「いえ、両国の英雄であるためにイギリス・アイルランド共同で犯人を捕まえようと躍起になりましたが、その間にも様々な伝聞や憶測が行き交い、誰もその真実に辿り着くことができませんでした」

 

マーメイドパール「ただ、有力なのは今回の北アイルランド系テロ組織:ブラッド・アンド・バーンズ(血と旱)に代表される 北アイルランド問題に端を発する犯罪集団の仕業とは言われています」

 

斎藤T「アメリカで毒殺されたファーラップと言い、英雄の最期なんてものはいつだってこんな惨めなものか」

 

マーメイドパール「ただ、今でもその根強い人気から両国のエイプリルフールの定番のネタとして、各地でシャーガーが発見されたというニュースが絶えないわけでもあるんですけどね」

 

陽那「なんだか、それを聞いて少しは救われたような気がしますね」

 

斎藤T「そうやって人々の記憶に残る存在になれたのなら、シャーガーもファーラップと同じく英雄であったな」

 

 

斎藤T「しかし、そうか。そのシャーガーと同じように、来年の京都競バ場のこの場所に墓碑が建てられることで永遠に人々の記憶から忘れられない存在になるのは絶対に避けたいな」

 

 

マーメイドパール「!!!?」

 

陽那「な、なんですって、兄上!? 誰か死人が出るんですか、来年!?」

 

斎藤T「さてね。そうなるかもしれないし、そうならないかもしれないし。全ては心掛け次第だ」

 

マーメイドパール「何か力になれることはありませんか? 貴国(日本)のNINJAに命を救っていただいた この御恩を返したいのです!」

 

斎藤T「ありがとうございます。具体的にどうするかが決まった時に快諾していただければ幸いです」

 

マーメイドパール「わかりました」

 

陽那「私にもできることがあれば……」

 

斎藤T「………………」チラッ

 

 

 

ライスシャワー?「――――――」

 

 

 

斎藤T「――――――決着をつける時は近いな」

 

マーメイドパール「あ、移動のようです。次の見学先は――――――」

 

陽那「兄上」

 

斎藤T「うん。行こうか」

 

 

その後、早速“伝説のダービーウマ娘”シャーガーの映画を取り寄せ、更に『宝塚記念』が京都競バ場で代替開催される可能性について調査することになった。

 

そして、『宝塚記念』が京都競バ場で代替開催される見通しがつく時期を推定することで、その時に向けて対策を練る必要が出てきたのである。

 

しかし、来年の『宝塚記念』が京都競バ場になる影響を予測したところで、私以外の人間がどう動いて来年の重賞レースのスケジュールを決定するのかが読みきれないため、私の担当ウマ娘を指導している岡田Tにはそうなった場合のサブプランを確実に用意してもらうことになった。

 

そう、これはあまりにも私の担当ウマ娘:アグネスタキオンが“クラシック八冠ウマ娘”を目指すのに有利過ぎる状況になるわけであり、それによって包囲網が形成される可能性が確実になってしまったのだ。陽極まって陰となるのだ。

 

それが実質的にエクリプス・フロントの支配者である“斎藤 展望”のウマ娘と見做されている“摩天楼の幻影”マンハッタンカフェが史上初の“春シニア三冠”を達成した翌日に告げられた“超光速のプリンセス”アグネスタキオンが歩むウマ娘の可能性の“果て”に至るための困難な道程であった。

 

やはり、そう簡単には勝たせてはくれないのが世の中であり、偉大なる英雄への道は決して平坦なものではないことを毒殺されたファーラップ、誘拐されたシャーガー、淀に咲き淀に散った()()()()()()()の最期が教えてくれたのだった。

 

終わり良ければ全て良し――――――。裏返せば、どれだけ華々しい功績を誇る英雄もその最期こそが後世に語り継がれる値打ちをつけるものだとするならば、私は絶望の未来を変えるタイムパラドックスのために担当ウマ娘に『死ね』と命じることになるのだろうか。

 

 

しかし、明日のことさえも見通すことができない凡夫がそんな先々のことを考えてもしかたがないことだ。

 

 

只今はファインモーション姫殿下の安全を確保するためにテロリストの残党狩りと担当ウマ娘のメイクデビューに目を向けるだけだ。

 

その大義に生きる刻一刻に皇祖皇霊の加護を受けて小事を平らげていく運気を授かるのだから、必要な時に必要なものを必要なだけ用意してくださる神縁を信じ抜いて今を生き抜くだけだ。

 

そのために必要なものはすでにこの手の中にある。あとは必要な時にその力を発揮するだけなのだ。

 

そう、誰が勝つかわからない実力伯仲の勝負だからこそウマ娘レースの興行は盛り上がるわけであり、そうでなければ自分の担当ウマ娘が勝つと信じて出走させているトレーナーの側にも張り合いがない。

 

だからこそ、私は 今 言いようにないほど満たされているのがわかる。ヒトとウマ娘が共生する未知の惑星での日々に冒険を感じ、胸を焦がすような高揚感が止まらない。

 

そして、世界の謎や見えざる脅威、未知なる存在、立ち塞がる陰謀こそが我が人生の友であり、嘘も矛盾も呑み干す強さが漲る。

 

 

――――――そう、私こそが挑戦者! 彼の地を征服する“世界の敵”なのだから!

 

 

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