ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第三次決戦Ⅲ それが世界の敵になるということ -中京茅の輪くぐり-

 

 

――――――目標:6月30日の夏越の大祓を完遂せよ!

 

 

私の担当ウマ娘:アグネスタキオンがついにメイクデビューを果たす。

 

その舞台は6月23日『宝塚記念』の翌週の6月30日の中京・芝・2000m『メイクデビュー中京』であり、名古屋にある中京競バ場*1を再現した百尋ノ滝のレーストラックに投影されたシミュラントを用意しての演習をこなしているので万が一にも敗北はない。4年間も力を蓄えて忍耐してきたアグネスタキオンに勝てる新バなどいるわけがない。

 

しかし、岡田Tと立てた“クラシック八冠ウマ娘”のローテーションでは中京競バ場で開催されるG1レース『高松宮記念』『チャンピオンズカップ』に出走することはないため、

 

実際の重賞レースで走る競バ場の雰囲気を味わうために『新バ戦(メイクデビュー)』は東京か阪神にするべきだと最初は考えていたものの、

 

なんと、6月30日の夏越の大祓の日にメイクデビューをするように神示が降りてきたのだから、敬虔なる皇祖皇霊の祭司長としてはそれに従わざるを得ず、実際にはその日に開催される福島・中京・函館の中から選ぶことになったのだった。

 

よりにもよって、そこまで世間が注目するG1レースを開催しているわけではない競バ場でメイクデビューさせることの利点は何も感じられなかったものの、それぞれの競バ場の歴史について調べてもらい、前人未到の“クラシック八冠ウマ娘”の神話を打ち立てるのに縁起が良い場所を占ったのだ。

 

すると、驚くべき答えがシャワーを浴びている時にフッと降りてきたのだ。要求されている能力が人間離れしていないとどうにもならないのだから、信憑性は非常に高いだろう。

 

 

――――――結局、全ての競バ場に向かうことになるのだから、一度に向かうのが吉。

 

 

なので、私は本来ならばトレーナーとして担当ウマ娘の『新バ戦(メイクデビュー)』の最終調整のためにつきっきりになるべきなのだが、6月30日に福島・中京・函館で行われている『新バ戦(メイクデビュー)』を全て見届けなくてはならなくなったらしい。

 

そもそも、私はウマ娘レースの専門知識がないのにトレーナーバッジをつけている詐欺師なので、“不滅の帝王”トウカイテイオーの担当トレーナー:岡田Tに私の担当ウマ娘の指導を丸投げしていたので、私がトレセン学園に帰らずに福島や函館に飛んだことの悪影響は何一つないのだ。

 

そのため、『宝塚記念』前夜に黒魔術師を擁する北アイルランド系テロ組織の学園襲撃を未然に防ぎ、『宝塚記念』当日の別働隊によるアイルランド王女誘拐事件を阻止し、『宝塚記念』翌日の京都散策で来年の激動を預言されていっぱいいっぱいなのだが、

 

そのまま学園には帰らず、百尋ノ滝で再現が完了している中京競バ場を除く福島競バ場と函館競バ場の視察にアグネスタキオン’(スターディオン)を連れて飛んでいくことになったのだった。これでアグネスタキオン’(スターディオン)の時間跳躍で6月30日に福島・中京・函館の『新バ戦(メイクデビュー)』を観戦するという不可能が可能となる。

 

そして、福島競バ場と函館競バ場をモデリングするためにステルス迷彩を発動させて空中からバ場を撮影したところで本拠地である百尋ノ滝の秘密基地に瞬きする間に帰還するので、そのデータを使ってバ場の再現を行う岡田Tたちとは懐かしいと思うこともなく毎日のように顔を合わせることができていた。

 

しかし、福島競バ場と函館競バ場のモデリングがついでではあったもの、現地に着いて心を研ぎ澄ますとたしかに一度は来る必要がある場所だったと感心せざるを得なかった。

 

福島県は日本でヒトとウマ娘の歴史を語る上で欠かせない重要無形民俗文化財『相馬野馬追』やURAリハビリテーションセンターがいわき市にある他、アクアマリンふくしま、喜多方らーめん、ままどおるなど見所が目白押しである。

 

特に、会津地方は皇宮護衛官としては外すことができない猪苗代湖にある天鏡閣があり、私は福島競バ場のモデリングが終わり次第、猪苗代湖に急行して天鏡閣に足を運んだ後、保科正之公を祀る土津神社で祈りを捧げるのだった。裏磐梯の五色沼というのも見てみたかったが致し方なし。

 

北海道には函館競バ場の他に札幌競バ場があり、北海道神宮が近いのはあちらだったが、北海道観光の足掛かりとして足を運ぶことになった函館の浜風と陽気は本州にはない神気を宿らせていた。まだまだ自然豊かの北海道の雄大な大地に誘うかのような気持ちの良い天気だった。

 

そして、時間跳躍でどこからでも一瞬で百尋ノ滝に帰還できるのを良いことに、函館競バ場のモデリングを終わらせた後は北海道の田舎に帰っていたスペシャルウィークのご実家にお邪魔することになり、凱旋門賞バ:モンジューを迎え撃った伝説の『ジャパンカップ』での赤備えの勝負服を生で見せてもらうのだった。

 

こうしてスペシャルウィークの実家からたくさんのお土産を受け取って、最後となる中京競バ場に時間跳躍して赴いて最後の視察をしたものの、すぐに飽きて三種の神器の1つ草薙剣を祀る熱田神宮に足を運んだのだった。

 

すると、御垣内参拝した時にまたもやとんでもない神示を受けることになり、本当にどうすればいいのか頭を抱えることになった。

 

 

――――――中京を結び目にして茅の輪くぐりをせよ。

 

 

茅の輪くぐりとは、夏越の大祓で多くの神社で執り行われる 人がくぐれる大きさの茅で結んだ輪を建てて八の字になるように三度くぐることで半年間たまった穢れを祓うことで年末までの向こう半年の幸福を願う儀式である。

 

最初に茅の輪をくぐって左回りして1回、次に茅の輪をくぐって右回りして2回、それで八の字を描いてから茅の輪をくぐって3回という具合である。

 

要は、中京/名古屋を結び目にして八の字になるように各地を練り歩いて茅の輪くぐりをして来いというのだが、そのコース設定は脳内に浮かび上がった次のようなものだった。

 

 

1周目(左回りコース):名古屋→米原→敦賀→京都→甲賀→鈴鹿→桑名→名古屋 ……琵琶湖周回コース

 

 

2周目(右回りコース):名古屋→恵那→諏訪→甲府→静岡→浜松→刈谷→名古屋 ……南アルプス周回コース

 

 

結果、熱田神宮参拝の翌朝、私の首に蛇が巻き付いたかのような感触がして非常に気分が悪くなる茅の輪が掛けられ、その茅の輪に掛けれられた縄の先に繋がっていたのが日本神話に見える八岐大蛇を彷彿させる巨大な蛇の怪物であり、山を背負うかのようなその重みで立っていられないほどだった。

 

そのまま床にめり込みそうな状態でどうやって茅の輪くぐりを遂行させるのかと悪態をついていたところ、呆れた表情でNINJA:斬馬 剣禅が見下ろしてくるだったのだ。転ばぬ先の杖である。

 

そんなわけで、事情を把握したNINJAと変身してバイクツーリングとなり、その道中に現れる妖怪を撫で斬りにして人々の業を茅の輪に溜め込んでいく苦行の旅が始まったのだった。

 

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Caucasus-beetle!

 

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Actaeon-beetle!

 

 


 

 

6月22日(土):日英愛仏友好記念パーティー。その後、北アイルランド系テロ組織による学園襲撃を未然に防ぐ。

 

6月23日(日):『宝塚記念』でマンハッタンカフェ優勝により史上初の“春シニア三冠”達成。その後、北アイルランド系テロ組織による誘拐事件を未然に防ぐ。

 

6月24日(月):特別休暇。京都散策。来年の『宝塚記念』が京都競バ場で代替開催するほどの災厄が起きるという神託を受ける。

 

6月25日(火):福島競バ場に到着。その後、猪苗代湖の天鏡閣と土津神社に参詣する。

 

6月26日(水):函館競バ場に到着。その後、ウマ娘:スペシャルウィークの実家にお邪魔する。

 

6月27日(木):中京競バ場に到着。その後、熱田神宮に参詣すると、中京茅の輪くぐりの神示を受ける。

 

6月28日(金):中京茅の輪くぐり:1周目(左回りコース):名古屋→米原→敦賀→京都→甲賀→鈴鹿→桑名→名古屋 ……琵琶湖周回コース

 

6月29日(土):中京茅の輪くぐり:2周目(右回りコース):名古屋→恵那→諏訪→甲府→静岡→浜松→刈谷→名古屋 ……南アルプス周回コース

 

6月30日(日):担当ウマ娘:アグネスタキオン、メイクデビュー。福島・中京・函館で行われる『新バ戦(メイクデビュー)』を全て観戦することを神示される。

 

 


 

 

●2周目:06月28日/京都

 

 

シャーーーーー!

 

斎藤T「ああ、懐かしき京都! 我が京都よ! 数日ぶりに到着! で、少し休んですぐ出発!」ドサッ ――――――空き地に身を放り出すと同時に変身解除!

 

斎藤T「くそっ! オロチめ! 変身時間が回復するギリギリに丸呑みにしてこようとするんだから、容赦がないぜぇ!」ゼエゼエ

 

斎藤T「ああ、もう! こんなにも長くバイクに乗り続けることなんてまずないから、あちこちが痛い!」ゼエゼエ

 

斬馬 剣禅「時間跳躍能力を搭載した変身システムがあるとは言え、異なる時間の流れにいる俺たちが進める距離は自分たちの脚に左右されるから現実時間と何も変わらないからな」ピカーン! ――――――変身解除!

 

斬馬 剣禅「しかし、ここからが大変だぞ。今度は琵琶湖の南から甲賀市を抜けて鈴鹿に出なければならない」

 

斎藤T「それって忍者の里?」

 

斬馬 剣禅「そうだ。その南に位置するのが伊賀だ。つまり、滋賀県が甲賀忍で、三重県が伊賀忍だ」

 

斎藤T「そう言われると、結構近いから伊賀忍者と甲賀忍者は比べられるのか」

 

斬馬 剣禅「言っておくが、俺が所属しているのは聖徳太子に仕えていた大伴細人(おおとものほそひと)に代表される飛鳥時代の志能備(しのび)の流れを汲む由緒正しきNINJAだから一緒にされたくはない」

 

斎藤T「ああ、聖徳太子に仕えていた大伴細人(おおとものほそひと)ね……」

 

斬馬 剣禅「しかし、通常時に410km/hを叩き出すモンスターマシンでも動力源にガソリンを使うハイブリットエンジンなんだな」

 

斎藤T「いやいや、これでも去年から開発しているマイクロ波放電式イオンエンジンをようやくバイクで実現したものなんだから、完成度が高くなればスカラベエクステンダーはもっと速くなるぞ」

 

斎藤T「それに精度が高くなれば、地平線の彼方まで時間跳躍で一瞬で到達できるから、連続使用すれば世界1周もあっという間さ」

 

斎藤T「とは言え、公道を通って茅の輪くぐりを完成させなければならない以上、地平線の彼方まで跳躍することはできないから、410km/hの爆速を出せたところで停まった時間の中で障害物と化す先行車を追い越す手間は変わらないわけでねぇ……」

 

斬馬 剣禅「道が空いていれば410km/hで本当にあっという間なんだがなぁ」

 

 

アグネスタキオン’(スターディオン)「やあやあ。ここにいたねぇ」シュタ! ――――――時間跳躍!

 

 

アグネスタキオン’「ほら、これで水分補給をしておきな」

 

斎藤T「どうも」

 

斬馬 剣禅「感謝する」

 

アグネスタキオン’「これまた面倒なことになったもんだねぇ。あちこちに連れ回された挙げ句、喜んで行った昨日の熱田参拝で呪いをかけられるとはねぇ」

 

斎藤T「まあ、私だからこそできると見込んで茅の輪を首にかけてくださったのだと喜ぶしかないのだろう」ゴクゴク

 

斎藤T「これは門の形をした形代なんだ。夏越の大祓でくぐることで人々の半年の穢れを吸い取って、それをお焚き上げすることで地域の浄化を果たすものなんだ」ゴックン

 

アグネスタキオン’「つまり、茅の輪という穢れを吸い取る門そのものが穢れを吸い取るために自分から各地を回っているという状況なわけだね。ご苦労さま」

 

斎藤T「まあ、おかげで積もり積もった各地の穢れを一身に背負わされた重さでブラックアウトする寸前なんだけどね!」グッタリ・・・

 

斎藤T「ただ、チャリティーマラソンのように目に見えない世界の行く先々でその趣旨に賛同して応援してくださっているから、最初に名古屋を発った時よりもだいぶ楽になったけれどもねぇ」

 

斬馬 剣禅「それもそうだろう。ここまでに多賀大社や氣比神宮をはじめとする名社におわす皇国の神々が御照覧になっているのだろうからな」

 

斎藤T「……伊吹山の主や琵琶湖の神霊もいたような気がするな」

 

斎藤T「そうだった、明後日がいよいよ中京競バ場で私の担当ウマ娘がメイクデビューになるわけで様子はどうだった?」

 

アグネスタキオン’「まあ、大丈夫だろうね。圧勝するのは未来視を使わなくても目に見えているからね」

 

斬馬 剣禅「そうか。いよいよ“斎藤 展望”のトゥインクル・シリーズが始まるのか」

 

アグネスタキオン’「去年 配属されて早々に学外でウマ娘に撥ねられて3ヶ月間の昏睡状態になって7月のシーズン後半から目覚めたわけだから、そういう意味ではちょうど1年になるわけだねぇ」

 

アグネスタキオン’「いろいろあったねぇ」

 

斎藤T「そうだなぁ」

 

斬馬 剣禅「そうだろうな」

 

アグネスタキオン’「そして、これからも決して退屈することがないように追い立てられるような日々に追われるんだねぇ!」

 

斎藤T「望むところだと言わせてもらおう」

 

 

――――――誰もが厭うことを率先して受け持つことが何よりも尊いのなら、誰にも理解されないまま“世界の敵”となって人々の業を背負って道を切り拓いていくよ。

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

パシッ

 

 

斎藤T「導きは黄金の規律! バイアリーターク!」

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Caucasus-beetle!

 

 

斬馬 剣禅「誘うは黄金の神風! ゴールデンハインド!」

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Actaeon-beetle!

 

 

シャーーーーー!

 

 

メイクデビューが間近なのに『宝塚記念』から学園に帰ることなく誰の理解も得られない旅は再開する。

 

いや、時間跳躍で一瞬で学園に姿を見せることなど容易いことなのだが、それをしてはならないような気がして、百尋ノ滝に戻るだけに留めていた。

 

というのも、今のトレセン学園に戻れば必ず“春シニア三冠”を達成したマンハッタンカフェを称える声と共に少しでもお近づきになりたい人間がひっきりなしに訪れててんてこ舞いになるだろうからだ。そういうお祝いムードに包まれているのが遠くからでも感じられる。

 

当然、所属しているクラブ:ESPRITやアオハルチーム<エンデバー>にも押しかけてくるだろうし、担当トレーナーである和田Tのところにも人が集まってくるだろう。

 

特に、和田Tは史上初の“春シニア三冠ウマ娘”を世に送り出した文句なしの超一流のトレーナーの地位と名声を得ることになったわけだが、元々 実力のあったスーパーシニア級のウマ娘と再契約して達成したものなので、これを他人の褌で相撲を取ったものだと口さがない連中は嫌味を言い続けることだろう。

 

和田Tは何かと目の敵にされやすい性質のため、“メジロ家の至宝”というG1勝利が約束された最強の長距離ウマ娘(ステイヤー)が無理な食事制限で『選抜レース』で実力を発揮できず、それで周囲の関心が薄れた隙に契約を済ませて念願のG1勝利を掴み取ったことでさえも嫉妬心を煽ることになったのだ。今回もそうならないわけがない。

 

なので、私はまたもや嫉妬の念に殺されそうになる和田Tに許婚のメジロマックイーンがいるメジロ家やメイクデビューに興味を持ったファインモーション姫殿下を頼るように指示を出していたのだ。

 

結果として、アイルランド王女たるファインモーション姫殿下が姉君:ピルサドスキーのようにターフの上を走りたいというウマ娘として当然の欲求を抑えようとしなくなったことから、今一番に注目を集めている名トレーナー:和田Tに聞き込みをするのは自然な流れであり、更には推しのエアシャカールが所属しているアオハルチーム<エンデバー>のチーフトレーナーでもあるのだから。

 

これにより、ファインモーション姫殿下の邪魔をしてはならないと下々が遠慮することになって、アイルランド王室が最大の防波堤となったことで和田Tの心の平穏は守られたのだった。その裏で糸を引いているはずの私はなぜか学園に帰らずに日本各地をめぐる苦難の道を歩ませられているのとは対照的に、許婚の嫉妬を一身に受けて一心同体(至福)しかけてもいたようだが。

 

そして、私にウマ娘の闘争本能を焚き付けられたファインモーション姫殿下は 案の定 アオハルチーム<エンデバー>に所属して、京都散策でラーメン屋めぐりした仲である推しのエアシャカールや友人のダイワスカーレットたちとの交流を更に深めることになった。

 

そのことで多少の苦言が焚き付けた張本人である私の許に届いていたのだが、私は誰に憚ることなく『全てのウマ娘が幸福になれる世界のため』と“皇帝”シンボリルドルフの願いを口にするとたちまちのうちに誰も言い返せなくなったのだ。

 

そこから畳み掛けるように法の下の平等を謳って『ファインモーション姫殿下をアイルランド王室の人間ではなく、ありのままのトレセン学園を体験するために留学してきた一生徒として平等に扱うこと』を主張したわけであり、それこそ偉い人に忖度するなら『アイルランド王女という正真正銘の偉い身分の人間にこそ忖度するべきだ』とも言い放つわけだ。

 

 

「優駿たちの頂点に立つために日々一生懸命に励んでいる生徒たちを冷やかすような存在は極めて害悪なので、即刻退学させるか ふさわしい転校先を紹介するなりしてください」

 

 

なので、『宝塚記念』から1週間の“摩天楼の幻影”マンハッタンカフェを称えるお祭り騒ぎは私に焚き付けられたファインモーション姫殿下のターフへの乱入によって爆風消火させられたのだった。

 

そして、この私は今をときめくアオハルチーム<エンデバー>とアイルランド王室の陰で糸を引く黒衣の宰相というわけであり、エクリプス・フロントの支配者としての地位と権力を不動のものとしたのだ。

 

そんなトレセン学園で絶対の存在にまで上り詰めた私が居城であるエクリプス・フロントで踏ん反り返るどころか、人々の業を祓うために人知れず中京を結び目にして茅の輪くぐりをさせられているだなんて、誰が想像つくだろうか。

 

しかし、こうして『宝塚記念』から日本各地を実際に訪ねて回る日々を送る中で、段々とわかってきたことがあった。

 

 

シャーーーーー!

 

斎藤T「ああ、桑名! 桑名! あともう少しで名古屋ぁあああああ!」ドサッ ――――――空き地に身を放り出すと同時に変身解除!

 

斎藤T「覚えていろよ、オロチめ! これが終わったら絶対に腹の中に焼け石を詰めて転がしてやる!」ゼエゼエ

 

斎藤T「ああ、早く名古屋に着いて別府の別荘で温泉に浸かりたい……、あちこちが痛いよぉ……」ゼエゼエ

 

斬馬 剣禅「別府に別荘なんて買っていたのか? 初耳だぞ?」ピカーン! ――――――変身解除!

 

斎藤T「当然。それもこれも『温泉郷に別荘を買え』って神託が降りたことだし、同時にそこが九州における活動拠点になったというわけ」

 

斎藤T「それで、ウマ娘レースで有効な泉質を調査したら『別府温泉郷が一番いいらしい』という結論に至ったわけで、源泉を引いてある別荘から温泉水を直接持ってきているから化粧水がいらないぐらいだ」

 

斎藤T「まあ、日本各地の温泉の調査のために草津や熱海、有馬といった有名所には 全部 行かせているから、実際には選び放題でその日の気分次第かな」

 

 

斎藤T「で、ここまで来て どうして皇国の神々が『宝塚記念』から1週間のうちに日本各地を訪ねて回るように仕向けていたのかがわかってきた」

 

 

斬馬 剣禅「ほう、それは何だ?」

 

斎藤T「夏越の大祓のために中京茅の輪くぐりをさせるだけなら、そもそも関係ない福島と函館に行かせる必要なんかないだろう?」

 

斬馬 剣禅「それはたしかに」

 

斎藤T「けど、一緒に見てきただろう」

 

 

――――――マンハッタンカフェの史上初の“春シニア三冠”達成に沸き立つ日本中の人たちの姿が。

 

 

斎藤T「本来の目的の競バ場から離れて猪苗代湖や北海道の奥地にまで行った時、辺鄙な場所であってもマンハッタンカフェの偉業を称える声が聞こえてきた」

 

斎藤T「そして、まだ茅の輪くぐりの1周目だけれども琵琶湖周回コースの行く先々でもだ」

 

斎藤T「東京の暮らしでは想像がつかないような辺鄙な場所で暮らしている人たちにも活躍が伝わる――――――、」

 

斎藤T「それが中央競バ『トゥインクル・シリーズ』が国民的スポーツ・エンターテイメントってことの意味なんだろうなって」

 

斎藤T「でも、あんまり知らないんだろうな、その夢の舞台で働く人たちは。むしろ、日本一を名乗っておきながら日本のことを実際にはよく知らない」

 

斬馬 剣禅「百聞は一見にしかず、知っていても想像がつかないだろうな、それは」

 

斎藤T「日本は広い。こうして410km/hのマイクロ波放電式イオンエンジンのバイクを爆走させても1周するだけでも何時間も掛かって身体のあちこちが痛くなるぐらいに」

 

 

斎藤T「だから、この神国日本 すなわち 細戈千足国(くわしほこちたるのくに)の ありとあらゆるものと引き合わせて 戦える用意をしてくれていることが段々とわかってきた」

 

 

斎藤T「なあ? 絶望の未来を変えるほどのタイムパラドックスをウマ娘レースで引き起こすとしたら、史上初の“春シニア三冠”達成程度じゃ予測の範疇だよな?」

 

斬馬 剣禅「そうだな。旨味が少ない新設の“三冠”とは言え、いつかは達成されるもののはずだ」

 

斎藤T「だとすると、私の担当ウマ娘が歩む未来を変えるほどの『トゥインクル・シリーズ』のローテーションが余人に想像がつくようなものになると思うか?」

 

斬馬 剣禅「…………ならないだろうな。来年の『宝塚記念』が京都競バ場で代替開催されるように」

 

斎藤T「そう、未来はどうなるか本当にわからない」

 

斎藤T「けれども、皇国の神々は常に必要なものを必要な時に必要なだけ用意してくださっているという確信があるからこそ、私は恐れず千里の道の一歩を踏み出せる」

 

 

斎藤T「だから、ありがとう、斬馬 剣禅。ここまで着いてきてくれて」

 

 

斬馬 剣禅「……それが“斎藤 展望”に必要なことだと判断したまでのことだ」

 

斬馬 剣禅「……まあ、むしろ、よくやっている方だと思う。礼を言うのはこちらの方だ。皇祖皇霊の導きがあるとは言え、これほどまでの難行苦行に音を上げないのは驚嘆に値する」

 

斬馬 剣禅「ならば、勝ち取る他あるまい。ここまで導きを受けて皇祖皇霊の御心を成就できずに果てるのは忍びない」

 

斬馬 剣禅「さあ、あともう少しだ。もう少しで1周目が終わる。それで名古屋コーチンでも食べよう。それから温泉に浸かって明日の英気を養うといい」

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

パシッ

 

 

斎藤T「導きは黄金の規律! バイアリーターク!」

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Caucasus-beetle!

 

 

斬馬 剣禅「誘うは黄金の神風! ゴールデンハインド!」

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Actaeon-beetle!

 

 

シャーーーーー!

 

 

 

 

●2周目:06月29日/甲府

 

 

シャーーーーー!

 

斎藤T「フッジサーン!」ドサッ ――――――空き地に身を放り出すと同時に変身解除!

 

斎藤T「ふふふふ、オロチめ! いよいよ2周目の折り返し地点だぞ! これが終わったら覚悟しておけ!」ゼエゼエ

 

斎藤T「さすがに南アルプス周回は交通量が少ないから思う存分にスカラベエクステンダーでぶっちぎることができたけど、いやはや ホントに しんどい……」ゼエゼエ

 

斬馬 剣禅「ここが甲府か。初めてきたな。富士山がこうも近くに見えるか」ピカーン! ――――――変身解除!

 

斬馬 剣禅「ここもある意味においては忍者の里で、歴史的には甲斐の武田信玄が諜報戦を重視して歩き巫女:望月千代女らを情報収集に使ったという俗説が有名だな」

 

斎藤T「ああ、『女』という漢字を分解して“くノ一”と呼ばせるアレね」

 

斬馬 剣禅「まあ、古今東西、組織の間者じゃなくても美人計や美人局は鉄板だからな。閨の女の方が生まれながらにして間諜に向いているか」

 

 

アグネスタキオン’(スターディオン)「やあやあ。ここにいたねぇ」バサッ! ――――――初めての場所なので空から空間跳躍!

 

 

アグネスタキオン’「さあ、折り返し地点だ。()()()()()()()もみんなも名古屋で待っているぞ」スッ

 

斎藤T「ああ」ゴクゴク

 

斬馬 剣禅「だが、それはゴールではない。スタートラインに立っただけだ。気を抜くな」

 

斬馬 剣禅「言わば、全てを始める前の心機一転の禊祓いということだな」

 

斬馬 剣禅「そう思うと、今は黄泉比良坂から命からがら逃げ帰るイザナギの禊祓いみたいなことなのかもしれないな」

 

斎藤T「ああ」ゴクゴク

 

 

美髪美白のウマ娘「さあ、立って。みんなが待っているよ」

 

 

斎藤T「よし!」スクッ

 

斬馬 剣禅「なに?!」

 

アグネスタキオン’「ん? きみ、一人で立てるようになったのかい?」

 

斎藤T「この身で一人で立っているわけじゃない」

 

斎藤T「――――――宝とは『他/田/手から』。――――――力とは『地/血/智から』」

 

斎藤T「そう、天岩戸開きでアマテラスの手を取ったタヂカラオとはまさに“田力男(田力田力)”というわけだ」

 

斎藤T「この手が掴み取るのは岩戸に隠れた明るい未来――――――!」

 

斬馬 剣禅「そうか。ならば、休憩は終わりだ。掴みに行くぞ」

 

アグネスタキオン’「それじゃ、先に行って待っているからね」クククッ

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

パシッ

 

 

斎藤T「導きは黄金の規律! バイアリーターク!」

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Caucasus-beetle!

 

 

斬馬 剣禅「誘うは黄金の神風! ゴールデンハインド!」

 

HEN-SHIN!

 

CHANGE! Actaeon-beetle!

 

 

シャーーーーー!

 

 

中央茅の輪くぐりの2周目:南アルプス周回コースの折り返し地点となる甲府に到着すると、空からアグネスタキオン’(スターディオン)が飛んできた。初めての甲府でも未来視でどこで私が寝転がっているかがわかっているので迷いなくやってこれたようだ。

 

そうして南アルプスと富士山に挟まれた甲府盆地に吹き降ろす山風と陽射しを体いっぱいに浴びながら、ここから東海道へと出た時のここまでと打って変わる交通量を考えていると、南アルプスや富士山の清浄な気が再び立ち上がる活力を与えてくれた。

 

その時、私の手を掴んで立ち上がらせてくれたのが夢殿でアングロアラブ八極拳を伝授した美髪美白のウマ娘の力強い温かな手だった。

 

これまで聖甲虫(スカラベ)を介して神霊の力を借りる“聖騎士(St.Rider)”に変身しないと立ち上がれないほどの人々の業の重みだったのに、疲れなど全て吹き飛んだかのように身体が軽やかになっていた。

 

そして、日本神話の天岩戸開きにおいて八咫鏡に映った自分以上に尊い神とは誰かを見ようと岩戸から身を乗り出したアマテラスをすかさず外に連れ出して世に光を取り戻したタヂカラオのようであれと受け取った。

 

けれども、岩戸開きでのタヂカラオの活躍は作戦の最終段階の最後の一押しに過ぎず、その状況に持ち込むまでの用意周到な準備がたくさんの人たちの協力と叡智によってなされていることを忘れてはならない。

 

それは日常となって見慣れた夢の舞台の小さな箱庭世界では想像し得ないものであり、夢の舞台と現実世界は不即不離であることを今回の中京茅の輪くぐりのバイクツーリングを通じて教えこんでいるかのようだった。

 

 

 

――――――新世界なんて来ない。ただ今まで通りの世界が続くだけ。

 

 

 

ブゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!

 

 

マンハッタンカフェ「みなさん、来ましたよ!」

 

和田T「おお!」

 

メジロマックイーン「みな首を長くしてお待ちしておりましたわ」

 

ゴールドシップ「待っていたぜ、モッチー!」

 

陽那「兄上えええええ!」

 

斎藤T「おまたせ」

 

アグネスタキオン’「やあやあ、中京茅の輪くぐり、完走おめでとう。おっと、正確には明日の『メイクデビュー中京』に顔を出して三度だから、まだ終わったわけじゃないか」クククッ

 

岡田T「そうですな。これから始まるわけですからな」

 

トウカイテイオー「うんうん。なんか懐かしくなるな。ボクも中京競バ場(ここ)でメイクデビューだったしね」

 

ソラシンボリ「いよいよ明日から“アグネス家の最高傑作”のお披露目なんだね」

 

スカーレットリボン「楽しみですね。これからどんなレースが展開されていくのでしょうか」

 

 

ウオッカ「カッケーーーッッ! なんだ、アレ! スゴいバイクだな!」

 

甘粕T「そうだな。一度乗せてもらいたいな。中京茅の輪くぐりと題して琵琶湖と南アルプスをぐるっと1周してきたんだから、それよりもっとデッカイことをしてやりたいな」

 

ダイワスカーレット「そうよね! タキオンさんのトレーナーなんだから、それぐらいスゴいことができて当然よね!」

 

アストンマーチャン「……誰よりも眩しいです」

 

エアシャカール「おいおい、担当ウマ娘のメイクデビューだってのに『宝塚記念』から学園に帰ってないとか、普通に考えてとんでもないやつだろうがよ」

 

望月T「けれど、常識や定石では考えれないようなことが起こり続けるのがこの世の中なのだからねぇ。だから、おもしろい」

 

マーメイドパール「姫殿下の心に火を点けた責任を取ってもらわないといけませんよね。おかげで予定にないメイクデビューの観戦が入ってきたんですから」

 

 

 

キングヘイロー「新時代最初の1年ですでにいろんなことがあったけれど、これからメイクデビューのアグネスタキオンとそのトレーナーは世代の中心として要チェックよね、義姉様?」

 

神城姉「そうね。同世代になる子たちがかわいそうになるぐらいにね」

 

神城T「いや、それぐらいで夢をあきらめるぐらいなら、夢の舞台なんてできあがらないさ、姉さん」

 

 

 

ミホノブルボン「マスター。いよいよ明日、斎藤Tとアグネスタキオンのメイクデビューになります」

 

ライスシャワー「うん。タキオンさんのこと、応援しなくちゃね」

 

ハッピーミーク「フレー、フレー、フレー」

 

桐生院T「斎藤Tからは先輩後輩の関係以上にたくさんのものをいただきました」

 

飯守T「ああ、俺もだぜ。いっぱい助けてもらったからな。そのお返しをしないと」

 

才羽T「――――――今の世界を変えるためには“世界の敵”にならざるを得ない。世界と向き合える力が必要なんだ」

 

 

 

黒川秘書「いよいよ明日がアグネスタキオンの『メイクデビュー中京』になります」

 

樫本代理「そうですね。私たちの計画で一番の脅威となりますが、正々堂々と戦って勝って『管理教育プログラム』の有用性を認めさせるのには絶好の相手でもあるのです」

 

黒川秘書「勝ちましょう。全てのウマ娘が幸福の世界のために」

 

樫本代理「はい。二度とあんな悲劇が繰り返されないようにするためにも」

 

 

 

友野T「まだまだ! トラックもう1周よ! こんなものじゃないわよ、樫本代理が見込んだあなたたちの走りは!」

 

リトルココン「はいッ!」

 

ビターグラッセ「できるッ! やれるッ! ド根性~!」

 

 

 

サトノダイヤモンド「――――――まだまだ! まだやれます!」

 

瀬川T「ダメだよ。これ以上は」

 

サトノダイヤモンド「は、放してください!」

 

キタサンブラック「そうだよ、ダイヤちゃん! メイクデビューまで何日もあるし、焦って身体を壊したら元も子もないよ!」

 

目久美T「いや、これでいいと思う。先輩方のアドバイスで勝利への執念となる闘争心を育てていかないとだから。もう少しだけ無理をしてもいい」

 

キタサンブラック「……トレーナー!?」

 

目久美T「大丈夫。もう少しだけ信じてやれないか」

 

瀬川T「簡単に言ってくれますね……」

 

瀬川T「じゃあ、もう1回だけ。もう1回だけだ。それで今日はおしまいだよ」

 

サトノダイヤモンド「はい!」

 

キタサンブラック「……ダイヤちゃん」

 

 

 

ナリタブライアン「姉貴、明日はいよいよアグネスタキオンのメイクデビューなんだが」

 

ビワハヤヒデ「ああ、聞いている。だが、その結果は聞くまでもないだろうさ」

 

ナリタブライアン「そうだな。4年間も待ち続けてようやく掴み取ったのがあの新人トレーナーなんだ。万が一にも負けるだなんて想像がつかないな」

 

ビワハヤヒデ「ああ。いったいどれほどの伝説を築き上げることになるのだろうな」

 

ビワハヤヒデ「それより、今は他人のことよりも自分のことだ」

 

ビワハヤヒデ「しっかりと『ドリームトロフィーリーグ』で成績を残さないとだからな」

 

ナリタブライアン「ああ。『ドリーム・シリーズ』に先代やみんなが快く送り出してくれたんだ。その期待には応えないとな」

 

 

 

シンボリグレイス「――――――いよいよですか」

 

シリウスシンボリ「ああ。いよいよ“アグネス家の最高傑作”が『トゥインクル・シリーズ』に出走だ」

 

シンボリグレイス「同期のマンハッタンカフェが 先日 成し遂げた“春シニア三冠”達成を遥かに超える前人未到の“クラシック八冠ウマ娘”への挑戦がついに始まるわけですね」

 

シリウスシンボリ「ああ。“春シニア三冠”など比べるまでもない完全なる不可能への挑戦というわけだが、その不可能を可能にするのが――――――」

 

シンボリグレイス「――――――担当トレーナーである“斎藤 展望”の手腕というわけですね」

 

シンボリグレイス「ですが、その不可能を実現する奇跡のためには『トゥインクル・シリーズ』やウマ娘レースの在り方を根底から覆すしかあり得ないです」

 

シリウスシンボリ「……どうなんだろうな? あの“門外漢”の新人トレーナーが本気で“クラシック八冠ウマ娘”なんて目標を実現しようとするなら、これまでの育成論やノウハウが一切通用しないようなやり方をするのは間違いないよな?」

 

シンボリグレイス「ええ。ESPRITの主宰としてトレセン学園を自身の新発明を売り込む市場にする稀代の発明家ですから、おそらくは世界最新鋭のトレーニング環境を謳う日本トレセン学園の設備環境を一手に担う存在になることでしょう。いや、すでにもうなっています」

 

シンボリグレイス「だから、怖いのですよ」

 

シンボリグレイス「おそらく“門外漢”だからこそ、あの新人トレーナーは暗黒期だの黄金期だのトレセン学園が抱えるしがらみに一切縛られないわけで、ある意味において()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――――」

 

シンボリグレイス「担当ウマ娘が願うのなら、たった一人のその願いを叶えるために、夢の舞台の有り様を独りで変えてしまうほどの力を持っているように思えるのです」

 

シリウスシンボリ「――――――『もっとも()()にウマ娘ファーストを追求する』じゃなく、『もっとも()()にウマ娘ファーストを追求する』か。言い得て妙だな」

 

シンボリグレイス「そんな存在に『シンボリ家が全力で支援する』という裏取引をしてしまった将来の不安と後悔が募っているのです、今」

 

シリウスシンボリ「まあ、あの時は完全に“門外漢”に圧倒されてまともな思考で取引ができなかったわけだからな。元から『名家』でも手に負える存在じゃなかったのさ」

 

シリウスシンボリ「だったら、もう賽は投げられたんだから、あとのことは成るように成ることを祈るだけだろう。今も昔もな」

 

シンボリグレイス「そうですね。私も老いました」

 

シリウスシンボリ「おいおい、人生五十年も生きていないのに何だよ」

 

シンボリグレイス「いえ、あの頃はとにかく私たちが望む未来を掴み取るために無限の可能性を信じて体制側に立ち向かっていたはずなのに、」

 

シンボリグレイス「今は自分たちが掴み取った現在を壊されることを恐れて自分の想像を超える出来事を歓迎できなくなった自分になっていたことに気付かされたのです」

 

シンボリグレイス「要は、()()()()()()()()()()わけですよ、人間的に」

 

シリウスシンボリ「……だったら、若返ればいいだろう!」

 

シンボリグレイス「……そうですね。今はどれだけのことが実現していくのかを楽しみにしましょう」

 

シリウスシンボリ「お、ソラからのメッセージか。みんなで名古屋に泊まり込みでアグネスタキオンのメイクデビューを見届けようって話だったが――――――」ピピッ

 

シリウスシンボリ「おいおい! 1週間後に『新バ戦(メイクデビュー)』があるってのに『宝塚記念』から学園に帰らず、担当トレーナーが中京茅の輪くぐりなんてしているって、何だこりゃ! 相変わらず余裕だな、あの新人トレーナーはよ!」ハハハ!

 

シンボリグレイス「は、はあ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンボリルドルフ「さあ、時は来た! 可能性を導き出せ、アグネスタキオン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アグネスタキオン「ああ、見せてやるよ! お待ちかねの新時代をね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虹の彼方の者(rainbow chaser)「さあ、希望に満ちた新時代の幕開けだ――――――」

 

 

*1
正確には所在は名古屋市ではなく豊明市である。

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