ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。



第三次決戦Ⅵ 誰がためにウイニングライブは幕開く -終わりは新たな始まりの序章-

 

――――――目標:6月30日の夏越の大祓を完遂せよ!

 

 

中央競バの公式サイトには過去のレース結果のライブラリが掲載されているため、記録技術や記憶媒体の進歩で近年のものならいつでもどこでも誰でもいくらでもレース映像を閲覧することが可能だ。

 

そのため、それより以前のレース映像は古い記録を漁る他ないが、基本的に歴史に残る名勝負と呼ばれたものはしっかりとそのハイライトが民間でソフト化され、トレセン学園でも映像資料として収集されて保管されている。

 

しかし、近代ウマ娘レースの発祥はヨーロッパの王侯貴族たちの前で踊る権利を賭けて宮廷舞踊家のウマ娘たちが宮殿のバルコニーから一望できる庭園で徒競走したのが起源であり、

 

その故事に基づくと近代ウマ娘レースの本質は 徒競走でウマ娘の優劣を決めるものなどではなく ウイニングライブのポジションを決めるものでしかない。

 

つまり、ウイニングライブこそがウマ娘レースの興行において主であり、ウマ娘レースそのものは従でしかない。王侯貴族に覚えめでたい立ち位置を得て寵愛を得るためのものなのだ。

 

だからこそ、競走ウマ娘と呼ばれる人種は極限までスピードと美しさの両立を目指した均整の取れた種としてウマ娘という種族の中で抜きん出た人気をヒト社会で誇っており、レース映像と紐付けられて永久保存されるライブ映像もまた誉高い貴族文化の華であった。

 

それ故にこの世界では競走ウマ娘は“完璧な品種(Thoroughbred)”と呼ばれ、近代ウマ娘レースで育まれたスピードと美しさを求めて進化してきた究極の血統として持て囃されていた。

 

そんなわけで、基本的に昼時の5Rか6Rの開催となる『新バ戦(メイクデビュー)』はレースの勝利者の権利と義務であるウイニングライブ前半の部のトリを飾ることになる。

 

一方、その日のウイニングライブ後半の部の最後になるのが11Rに据えられるその日の目玉である重賞レースであり、それだからその日の最後となる12Rに出走するウマ娘は微妙な扱いを受けることにもなり、

 

その日の興行の2枚看板となる『新バ戦(メイクデビュー)』と重賞レースの収益を高めるために、前半の部のトリを飾る『新バ戦(メイクデビュー)』のウイニングライブは11R:重賞レースの発走時間に間に合うように組まれていた。

 

その日、『メイクデビュー中京』があった中京競バ場の11Rは芝・1200m・クラシック級以上G3レース『CBC賞』であり、

 

6R『メイクデビュー中京』の発走時間が12:55で、11R『CBC賞』の発走時間が15:35という具合で、実際の競走が5分にもならないものだと考えれば、ざっと2時間半の時間の開きがあり、それだけあればレースの勝利を掴み取ってセンターの権利を得た勝ちウマの体力や気力も回復するわけである。

 

ウイニングライブ会場は世界に冠たる中央競バ『トゥインクル・シリーズ』においては競バ場からバ券を乗車券とするシャトルバスですぐに行ける場所にセットで建てられており、それぞれの競バ場の格に応じてウイニングライブ会場の規模も段違いであった。

 

というのも、重賞レースの最高峰であるG1レースは主要四場:東京・中山・京都・阪神での開催が主だからであり、そこに人気が集中しているのだから、それ以外の競バ場とウイニングライブ会場の扱いというのはそこそこなわけである。

 

というより、船橋市内にある中央の中山競バ場が毎週土日の興行だから地方の船橋競バ場が平日の興行を強いられているように、名古屋にしても中央の中京競バ場がすぐ近くにあるから地方の名古屋競バ場も平日の興行をしているのだ。

 

ただ、ウイニングライブ会場は同じURA傘下であっても『トゥインクル・シリーズ』の競バ場とは運営会社がちがうため、地方競バ『ローカル・シリーズ』のウイニングライブ会場としても使わせてもらえることもあるのだ。それで会場に資金が注がれるのならどこの団体のライブも大歓迎という向きである。

 

そのため、中央競バ『トゥインクル・シリーズ』の競バ場が近くにあり、中央のウイニングライブ会場を利用させてもらっていた地方競バ『ローカル・シリーズ』の出身者ほど中央トレセン学園への憧れや繋がりが強く、結果として中央への編入生が多くなるという長年の調査結果も出ており、ウイニングライブを通じて日本のウマ娘レース界隈は確かな結びつきを強めていた。

 

こうして中央と地方とで棲み分けをしながら同じウイニングライブ会場で毎日のように盛り上げ続けているため、中京/名古屋のウイニングライブ会場は中央専用という趣が強い主要四場の会場よりも絶えず繰り返された御祭の神気がそこはかとなく漂っていたのだ。

 

そのことが私にとっては非常に興味深く、毎日のように中央と地方で興行があってウイニングライブがあるために飽きられてムラがあるにしても、それでも今日まで続けてきた一本筋のたしかな足跡が地域の活性化を促していることに気づいたのだ。

 

なるほど、この世界では国民的スポーツ・エンターテイメントの『トゥインクル・シリーズ』において目立ったレースがない競バ場の地域がどのようにして繁栄を保っているのかと思えば、腐っても中央の競バ場と地方の競バ場が棲み分けをしながら興行をして毎日ウイニングライブをすることで地域を盛り上げているから、中京/名古屋は東京や大阪にも負けない立派な都市圏を維持できているのだ。

 

そういう意味ではウマ娘の三女神の祝福を受けるこの世界においてウイニングライブは極めて重要な御神楽であることを心の奥深いところでしっかりと理解することができた。

 

だから、ウマ娘レースの知識が欠落しているために本来はトレーナーバッジを身に着ける資格がない詐欺師の私ではあるが、地球文明の継承者たる冠婚葬祭の一切を取り仕切ることができる祭司長でもあるので、ウマ娘レースの本義であるウイニングライブの指導に関してはプロに引けを取らないものだと自負している。

 

 

なぜなら、近代ウマ娘レースを夢の舞台と崇める現代に生きるウマ娘たちの悲哀を理解しているからこそ、その歓びを憐れむことができているからだ。

 

 

()の心、心に非ず。それが“慈悲(茲心非心)”であり、“憐れむ”という字は同じ読みの『隣』に通じて『隣人同士が抱く心(隣人愛)』を意味する“憐”という漢字が成り立つ。

 

まずは近くにいる人たちの窮状を直に見ることで“憐れみ”が生まれて、そこから我が心を離れて行動するのが“慈悲(茲心非心)”なのだ。誰も見たことも会ったこともない架空の誰かのために生きることなんてできない。

 

だから、良き隣人となるところから修身斉家治国平天下――――――、世界平和を達成する人類愛の第一歩は始まるのだ。そんなのは昔からよく言われていることだ。

 

よって、ウマ娘レースという公営競技に関しては素人に毛が生えた程度の私だが、ウイニングライブという御神楽に関してはその価値を忘れた野蛮人には追随を許さない金科玉条を担当ウマ娘に教え込んでおり、意外にも担当ウマ娘はその教えに素直に従ってくれた。

 

いや、それこそが自分の可能性に行き詰まっていたアグネスタキオンにとっての福音だったのだろう。

 

 

――――――行動の自由:束縛からの自由(リバティー)のために生きるな。自己実現の自由:表現の自由(フリーダム)のために生きろ。

 

 


 

 

ワアアアアアアアアアアアア! パチパチパチパチ! ヒューヒュー!

 

 

斎藤T「どうだった、私の担当ウマ娘の初めてのウイニングライブ?」

 

ビューティフルデイ「いや、どうって……?」グスン・・・ ――――――アイルランド王女:ファインモーションに瓜二つ!

 

ビューティフルデイ「一言で言えば、感動しました。掛け値なしに」グスン・・・

 

斎藤T「そう、それはよかった」スッ ――――――ハンカチを渡す。

 

ビューティフルデイ「ええ。いいものが見られました」フキフキ・・・

 

 

ビューティフルデイ「――――――って、いや、よくないわよ!」ドン!

 

 

ビューティフルデイ「本物のアイルランド王女たるこの私をホテルに監禁したかと思えば、日本のウイニングライブなんか見せて何のつもりよ!?」

 

斎藤T「ええ、わからない?」

 

ビューティフルデイ「わかるわけないでしょう、この無礼者!」

 

斎藤T「きみが偽物だと思いこんでいるファインモーション姫殿下、日本トレセン学園の一生徒としてレース出場を目指しているから『成り代わるつもりなら死ぬ気で頑張って』ってこと」

 

ビューティフルデイ「は」

 

斎藤T「今からでも鍛えないとあっさりボロが出るよ?」

 

斎藤T「さすがはアイルランドが世界に誇るピルサドスキー殿下の手解きを受けていただけのことはあり、少なくともティアラ路線で重賞を狙えるぐらいの素質はあるみたいだし、日本トレセン学園は世界最先端のトレーニング環境を整えておりますので」

 

ビューティフルデイ「え、ええええええええ!? 留学しに来ただけじゃないの!? 何を考えているのよ、一国の王女でしょう!?」

 

斎藤T「そういうバカをやれるのが日本というウマ娘天国なんですよ」

 

ビューティフルデイ「…………!」

 

斎藤T「こう考えると、“本格化”を迎えた年頃のウマ娘の成長具合が生体認証として有効である可能性があるわけですか」

 

斎藤T「となると、アイルランド王族の方々には他には真似できないような力自慢となる特技を“本格化”の時期に鍛えておけば、それだけで偽物を排除することができますねぇ」

 

 

斎藤T「――――――あ、いいこと思いついた」ニヤリ

 

 

斎藤T「それはそうと、当方のホテルの電話をお使いくださったこと、深く感謝してますよ、姫様」

 

斎藤T「おかげさまで、日本国内にいるお仲間の居場所が完全にわかったので一人残らず麻袋に入れてアイルランド大使館に突き出すことができました」

 

ビューティフルデイ「え? えええええええ!?」

 

ビューティフルデイ「どうして!? どうしてそんなことをしたの?!」

 

斎藤T「いや、入国目的を偽って我が国で法に触れることをする犯罪者を野放しにするわけないでしょう、普通に考えて。きみが統治者になった時に同じことをされたら絶対に嫌でしょうから、嫌なことをする嫌なやつには嫌なところに行ってもらっただけです」

 

ビューティフルデイ「ちがうの! 私たちの目的は犯罪なんかじゃない! 正義よ! だから、すぐにでもみんなを解放してよ! お願いだから!」

 

斎藤T「残念だけど、一度捕まった以上は社会復帰は難しいんじゃないかな? 迂闊にも電話で助けを呼んだことが完全に仇になりましたね、ねえ姫様?」

 

ビューティフルデイ「き、貴様ぁ!」ガッ

 

 

アグネスタキオン’(スターディオン)「おっと、ウイニングライブは終わったんだ。いつまでもこんなところにいないで戻るぞ」シュッ ――――――時間跳躍!

 

 

ビューティフルデイ「い、いやだ! また監獄みたいなホテルに閉じ込められたくない~!」ビクッ

 

ビューティフルデイ「ねえ、止めてよ! お願いだから! 嫌なことしないで!」

 

ビューティフルデイ「き、貴様~! アイルランド王女の私の言うことが聞けぬと申すか~!」

 

アグネスタキオン’「おっと、身分証明書のない不法滞在者のきみに人権なんてないよ?  きみは私の貴重な実験体(モルモット)なんだから、大切に飼育させてもらっているのに我儘はいけないねぇ? これはしっかりと躾をしないとだねぇ?」クククッ

 

斎藤T「これでも自称“アイルランド王女”の姫様を尊重して、テログループの一員として日の目を見ない潜伏生活よりも遥かに快適な住環境を提供しているつもりなんですがねぇ?」フフフッ

 

斎藤T「どうですか? 人手をまったく必要としない当方自慢の全自動住宅での快適な暮らしは?」

 

ビューティフルデイ「そ、そりゃあ、さすがは技術大国:NIPPONって感じで凄いし、今まで泊まってきたホテルなんかとは比べ物にならないけれど、掃除婦のおばさんすら入ってくる必要のない完全に一人の空間に何日も閉じ込められたくなんかない!」

 

アグネスタキオン’「まあまあ、そのうち慣れるさ。飼育されている生き物はケージの中の変わり映えしない生活に何の疑問も持たないのだから、きみもいずれそうなる。それに、ルームサービスは端末操作からでも、備え付けの電話からでもできるのだから、きみは外に出られない以外はのびのびと過ごしていいんだよ」ニヤニヤ

 

斎藤T「そうそう、運動不足を感じたら専用のトレーニングウェア(電気ショック内蔵の囚人服)を着たら日本トレセン学園で使われている最新のトレーニング器具のある場所を使わせてあげるからね。そこでしっかりと“成り代わり”の準備をするんだよ」ニッコリ

 

ビューティフルデイ「ひ、ひぃいいい!?」ゾクッ

 

ビューティフルデイ「た、助けて、お父様! お母様! あなたたちの愛の結晶たる尊い血が流れている私はここです!」

 

ビューティフルデイ「ああ、神よ! お助けください! アイルランド王族に恩寵をお授けください!」

 

アグネスタキオン’「さあ、きみの寝床に帰るよ」ガシッ

 

ビューティフルデイ「いやあああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 

――――――時間跳躍! 問答無用で百尋ノ滝の秘密基地の全自動住宅の監禁部屋に送り飛ばす!

 

 

アグネスタキオン’「さてさて、自分が偽物だと思われていることを知らないアイルランド王室の姫殿下も、自分こそが本物だと信じているテロリストの姫様も、そのどちらも偽物であることを知らないのは実に滑稽だね」クククッ

 

アグネスタキオン’「同じ人工授精卵から生まれた同胞(はらから)でどういった成長の違いを見せるのかが今から楽しみだねぇ! いやぁ楽しい楽しい!」*1

 

斎藤T「薄情なことに生物には適応力がある。並外れた透徹した意志がなければ、状況に流されて不要なものは取り除かれて最適化されるものだ」

 

斎藤T「さて、何日でアイルランド王女としての矜持を失うことになるかな?」

 

 

斎藤T「で、今日のレースは楽しめたか、“もうひとりのアグネスタキオン”としては?」

 

 

アグネスタキオン’「そうだねぇ。因子継承でWUMAとしての自分に目覚めた時からウマ娘らしい感性はなくなっていったわけだけど、」

 

アグネスタキオン’「なぜだか今日は懐かしい気分になることができたよ。私の中のヒッポリュテーが擬態した“皇帝”シンボリルドルフの記憶がそう思わせているのかもしれないけどね」

 

アグネスタキオン’「そういう“門外漢”のきみはどうだい? 発走時間ギリギリまでやることに追われていたけど、何か得るものはあったかい?」

 

斎藤T「少なくとも『ウマ娘レースを通じてタイムパラドックスを目指すことは間違いじゃない』という確信は得られたかな」

 

斎藤T「この中京/名古屋のウイニングライブ会場は土日は中央の中京競バ場、平日は地方の名古屋競バ場のウイニングライブが毎日開催されていて、それによって神気が絶え間なく降りて地域に活力を与えていることがわかったんだ」

 

斎藤T「だから、私はそうとは知らずにウイニングライブは神に奉じる御神楽のつもりで演じるように指導したわけだけど、実際にウイニングライブは人と神の間を均り合わせる御神楽だったんだよ」

 

斎藤T「ほら、『新バ戦(メイクデビュー)』のウイニングライブの選曲『Make debut!』は『勝利の女神も夢中にさせるよ』ってフレーズが入っているし、『URAファイナルズ』優勝ウイニングライブの『うまぴょい伝説』もそうだっただろう?」

 

斎藤T「そして、今の私は三女神の力が降りる肉の宮でもあるから、私に降りる女神に向けて感情を溢れさせて好きに踊ってもらったんだ」

 

 

斎藤T「――――――結果はご覧の通りだ」

 

 

アグネスタキオン’「ふぅン。練習通りに踊る必要もないか」

 

アグネスタキオン’「むしろ、身体全体を使って思いの丈を表現させるのが踊りというわけだから、それで見る者を感動させることができたら何だっていいわけか」

 

斎藤T「そう。あれは“型破り”であって“形無し”ではない。型は手段であって目的ではない。目的を見失わないように心血を注いだ御神楽は何だって感動するものさ」

 

斎藤T「これも心の技術だ。見る者の肉体に思いをぶつけたいんじゃない。見る者の心に思いの丈を届けたいと思うのなら、肉体の奥にある真実なるものを見つめてこそだ」

 

斎藤T「だから、心にジーンと響くものがあるわけさ……」ポタポタ・・・

 

斎藤T「あ、思い出したら、また泣けてきた……」ポタポタ・・・

 

アグネスタキオン’「さすが4年間の忍耐の末にメイクデビューを果たせた万感の思いが詰まったウイニングライブだったねぇ」

 

アグネスタキオン’「どうやら会場はまだ感動の余韻から立ち上がれないみたいだ。啜り泣く声がまだ聞こえてくるよ。これはファン数獲得に大いに期待できそうだ」

 

アグネスタキオン’「というより、今日メイクデビューしたジュニア級ウマ娘の貫禄じゃないねぇ、あれは」

 

斎藤T「VRシミュレーター上とは言え、『皇帝G1七番勝負』の“皇帝”シンボリルドルフの『皐月賞』で写真判定で競り勝つようなウマ娘だぞ」

 

アグネスタキオン’「それもそうだったねぇ!」

 

アグネスタキオン’「ただ、()自身もこの想定外に驚いているはずさ」

 

 

――――――こんなにも自分のことを応援してくれている人がいたんだってことに。

 

 

6月30日の6R『メイクデビュー中京』のウイニングライブはアグネスタキオン勝利の報が日本全国に行き渡った瞬間にオンラインチケットの売上が500%を記録し、当然ながら本会場も満員となっていた。

 

通なウマ娘レースファンの間では噂にはなっていた“アグネス家の最高傑作”アグネスタキオンの実力が明らかになった今日の()()()()()()()()()()の話題が持ちきりとなって、『今からでも遅くはない!』とSNSで話題が持ちきりになってウイニングライブのオンラインチケットの購入者が続出したのだ。

 

レース映像はURAの公式サイトで後からいくらでも見返せるが、ウイニングライブのライブ映像は有料コンテンツなので どうせ金を払うなら生中継が一番ということである。

 

ここまでたかが毎週ある『新バ戦(メイクデビュー)』のウイニングライブに人気が集中した理由は、担当ウマ娘:アグネスタキオン自身の隠れた人望によるものが1つで、彼女を慕うダイワスカーレットたちの呼びかけで芋蔓式に視聴者が増えたのが非常に大きかった。

 

あるいは、今をときめく史上初の“春シニア三冠”を達成したマンハッタンカフェや“クラシック三冠バ”に期待が掛かるエアシャカールと言った今年度を代表するスターウマ娘がアグネスタキオンが所属する新クラブ:ESPRITやチーム<エンデバー>の一員であったことから、自然とその追っかけとなるファンたちがスターウマ娘がわざわざ観戦しに行くと言ったアグネスタキオンのメイクデビューに注目しないわけがない。

 

そして、日本トレセン学園に留学しているアイルランド王女:ファインモーション姫殿下や黄金世代『ドリーム・シリーズ』最強のキングヘイローがわざわざ観に行くことを表明した『新バ戦(メイクデビュー)』なのだ。ウマ娘レースに詳しくなくても大きな注目が集まってしまう。

 

しかし、それ以上に大きかったのが担当トレーナー:斎藤 展望が築き上げた人脈というわけであり、メイクデビュー以前から地道にファン数獲得を意識した動きによって、メイクデビュー以前から“春秋グランプリ”に参戦できる得票数を稼げるだけの固定ファンを生み出していたのだ。

 

大雑把に数えても、代々に渡って皇室に仕えてきた『名族』としての繋がり、その中で世界に冠たる皇宮警察だった両親が残してくれた繋がり、最愛の妹:ヒノオマシが寄宿学校などで独自に広めてくれていた繋がり、私自身が各種イベントを利用して接することになった業界人や父兄の皆様方との繋がり、勤め先のトレセン学園の大物たちとの繋がり――――――。

 

なので、今日の『メイクデビュー中京』は担当トレーナーと担当ウマ娘のそれぞれの繋がりからたくさんの人たちが注目していたものとなっており、樫本代理や新生徒会役員も世代の中心になるであろう“超光速のプリンセス”アグネスタキオンのウイニングライブや担当トレーナー:斎藤 展望の手腕にも目を離すことができなかった。

 

結果、“学園一危険なウマ娘”と“学園一の嫌われ者”として悪名をトレセン学園に轟かせてきた2人のメイクデビューは人々に感動や驚きを与える神話の1ページとなり、多くの人の心に刻まれるものとなったのだ。

 

 

しかし、これで終わりではない。終わりは新たな始まりの序章に過ぎないのだ。

 

 

そう、これだけ注目の的になったのだ。『新バ戦(メイクデビュー)』が解禁された6月に出走したということは翌年2月までにメイクデビューする新バたちに徹底的に意識されて対策されることにもなる。包囲網が形成されるのは時間の問題だった。

 

そうした情報優位性を確保するためにできるだけメイクデビューを遅らせるのが一生に一度のクラシック戦線で勝つための先人の知恵であったわけなのだが、そうではない定石通りにはならない道を突き進むことになったのだから、それ相応の覚悟をしなければならない。小賢しい策など真正面から叩き潰す以外に勝利への道はなし。

 

だが、それぐらいの優位性を率先して与えなければ、全盛期のトウカイテイオーに準じる能力をメイクデビューで披露したアグネスタキオンという正真正銘の最強のウマ娘を相手に勝ち目がないレースに担当ウマ娘を送り出すトレーナーなどいないので、これはかつてマルゼンスキーが受けた仕打ちである出走回避による競走中止を防ぐためのエサなのだ。

 

ところが、現在の日本トレセン学園は内紛の真っ最中であり、これから3年間に渡って開催される非公式戦『アオハル杯』で樫本代理率いるチーム<ファースト>に勝利しなければ、これまで通りの黄金期のトレセン学園の有り様は維持できないということで、

 

公式戦『トゥインクル・シリーズ』での勝利が至上とされるトレーナー陣であったはずが、学内の非公式戦『アオハル杯』で勝たなければ自分たちの居場所がなくなるという焦りから、これまで廃止と復活を繰り返してノウハウが散逸している『アオハル杯』との二足の草鞋を担当ウマ娘に履かせることになってしまっていた。

 

それどころか、本来ならば勝者は一着バのみの非情なウマ娘レースでチーム対抗戦という異例の形式の『アオハル杯』に対応するためにアオハルチームを組むのだが、元々が栄光の座を巡って相争う者同士が寄り集まるために『トゥインクル・シリーズ』とのローテーションの兼ね合いやそれぞれの立場の利害関係から一致団結の理想から程遠い状態でチームトレーニングに励む光景すら始まっていた。

 

そのため、様々な思惑が絡み合った今のトレセン学園ではシンボリルドルフ卒業後の新時代の開幕と令和改元が重なり、何が起きてもおかしくない混沌の坩堝と化しており、その中から新たな可能性が生まれる土壌に育ちつつあった。

 

だからこそ、宇宙空間という星々の隙間を流離う宇宙移民の私にとっては非常にやりやすい状況になっているわけであり、私自身は“斎藤 展望”のトレーナーの箔付けのためにG1レースを1勝でもしてくれたら、あとは担当ウマ娘が満足して引退すればいいだけなので、レースの結果に何も気負うものはない。

 

ただ、WUMA襲来の絶望の未来に繋がらないタイムパラドックスが起きればいいと思ってウマ娘レースに関わりを持ち続けているだけで、それが回避できるのであればウマ娘レースという手段にこだわる必要もない。目的が達成できることが第一である。

 

今回の季節ごとの決戦はこれまでの並行宇宙からの侵略者や可能性の世界からの闖入者との戦いとは異なり、新時代を迎えて混沌を迎える世界情勢を見据えるものとなっており、ウマ娘レースによる世界の命運を懸けた本当の戦いがいよいよ始まろうとしていた。

 

 

だが、そう気負ったところで翌日から迎えることになるのは猛暑のオフシーズン:夏合宿の季節であり、6月からメイクデビューしたばかりのジュニア級ウマ娘としてはすることがない――――――。

 

 

なので、今回の『メイクデビュー中京』から年末の『ホープフルステークス』までの半年間で英気を養い、最後の1年となる2年目:クラシック級のローテーションを調整しつつ、『宝塚記念』が京都競バ場で代替開催されることになる未来の災厄に備えていこう。

 

そして、樫本代理が掲げる『管理教育プラグラム』施行を阻止するために非公式戦『アオハル杯』勝利に向けてトレーナー間の利害の衝突や二重のローテーションに翻弄されて死屍累々になることが予定されている生徒たちの健やかな成長を守っていきながら、先んじて『管理教育プラグラム』を乗っ取って有名無実化するための技術革新と新開発を急がなくてはならない。

 

そう、神様に定休日がないように、三女神に使われている私に夏休みなんてない。やることなすこと全てがお取次ぎの祭司長としての神事であり、切磋琢磨の日々のお稽古なのだ。

 

だが、そこには歓びや生き甲斐がある。そうすることの意義を見出しているからこそ、手段を目的にすることなく、まっすぐに目的に向かって折れて曲がって跳躍することができる。

 

なにより、私はついに“斎藤 展望”として生きてきたことのご褒美で タキオン粒子に続く 世界の律速に必要不可欠なブラディオン粒子の可能性を掴むことになり、最高の夏越の大祓と誕生日とメイクデビューを迎えることができたのだ。

 

すでに聖甲虫(スカラベ)を利用した四次元能力の技術検証も進み、西洋の黒魔術師が使役する魔獣の討伐すら可能にしてきたのだから、行く手を阻むものはない。

 

 

――――――20XY年も早くも残り半分。世界はすでに“斎藤 展望”の手の中にある。

 

 

*1
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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