ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
更に言うと、私が新たな人類の脅威である機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”と遭遇したのが、5R『メイクデビュー福島』を見終わってから6R『メイクデビュー中京』までの20分以内の出来事なので――――――、
福島競バ場から時間跳躍して戻ってきた直後に待ち構えていたマンハッタンカフェに連れられて中京競バ場に潜む未知なる脅威の存在を教えられ、ゴールドシップから
機械生命体が引き起こした時間停止と錯覚するほどの周囲の物理現象が鈍くなる怪現象:重加速現象の調査と被害者の救出を即座に済ませ、実際には相対して1分足らずで“ロイヤル・ナムーフ”をスクラップに変えていた。
実に濃密な中京競バ場での20分間を体感することになり、それだけに得られた報酬は23世紀の宇宙時代を生きた大天才たる私を最高に満足させるものとなっていた。
――――――なにしろ、タキオン粒子に並ぶブラディオン粒子が発見されたのだ。これを歓ばずにいられるものか。
回収した機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”の遺体となるスクラップはプラズマジェットブレードの一閃で四肢切断をしただけで修復と接合は容易であった。
問題となったのは制御システムの要となる機械生命体の頭脳となるAIの復旧であり、どれだけ解析して復旧を試みても単純な命令しか対応できず、人間に擬態して人間と遜色ない知性や立居振舞を再現させることができなかったのだ。
はっきり言ってしまえば、文字通り魂が抜けた人形でしかなく、未来から送り込まれた暗殺用人造人間:アルヌールに組み込まれている自律回路の方が機械人形としては安定していることがわかった。その分だけ単純な設計とも言えるが。
そう、“ロイヤル・ナムーフ”は機械生命体であって機械人形ではない。この機械生命体もまた人類と同じく肉体を持った霊格であると認めざるを得ない霊魂を有していることが段々とわかってきたのである。
実際、肉体から浮き出た霊魂:エクトプラズム“電霊”は悪霊祓いの専門家である私の結界でガムテープにグルグル巻きにして封印することができたので、エクソシズムの分野にも精通していないと対処ができないことが判明している。
驚くことなかれ。かの有名な発明王:トーマス・アルバ・エジソンも幽霊の波動は電気的な性質を帯びていると考えて霊界通信機の開発を試みており、まだテレビの時代ではなかったので霊界ラジオという音声通信の形で交信を試みていたのだ。
具体的な成果は上げられなかったものの、幽霊には物理的干渉能力があることはオカルト界隈以前から迷信として古来より信じられていたので、やり方としては何も間違っていないのは悪霊祓いの専門家である私の見解だ。
ただ、『電気的な性質を幽霊の波動が持っている』というのは大きな誤解で、『肉体を持った霊格である人類もまた幽霊と同じことができる』ことまで知らないから、成果が上げられなかっただけだ。
もっとも、そんな超常的な霊能力に目覚めたいのなら、霊魂を肉体から解放する仙人の道を歩まなくてはならないため、西洋人の単純で平べったい霊的咀嚼力では元から辿り着けない世界ではある。その分だけ現実世界に特化した能力を西洋人には与えられているので『天は二物を与えず』なのだ。
精神文明に優れるのが東洋、物質文明に優れるのが西洋となって地球文明は陰陽を成しており、それを陰陽和合する『天が二物を与えた』のが極東の地:日本という現存する世界最長の千代八千代の王朝が支配する和の国の本懐なのだ。
さて、見るからに質量保存の法則を無視して人間に擬態していたロボット怪人の風体をしている機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”はおそらくは人工的に造られた霊魂“電霊”というプログラムソースが宿ることによって機械生命体としての生命活動を可能とするようなのだが、
回収したスクラップに脊髄ガエルの実験と同じように電気信号を送ってどの回路が何の機能を司っているのかを調べる非人道的な実験と試行の末に、ようやくブラディオン粒子の発生装置の解明に成功する。
思った通り、ブラディオン粒子の性質を十二分に利用することで超出力を得ることができるのが無敵の機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”であり、
ブラディオン粒子を散布することで自身を中心に運動停止領域を展開することであらゆる物体の動きを封じることができ、この領域に取り込まれてしまうとあらゆる物体が完全停止して時間が停まっていると錯覚するほどのスローモーションになってしまう。
これ自体は全ての物体の動きが超絶的に緩慢になることで時間が停止したと錯覚するほどに動作時間が死ぬほど掛かるだけで、直接的には何の殺傷能力はないために無害とも言えるのだが、
領域内の全ての物体の動きが超絶スローモーションになるだけなので、物体の動きそのものは干渉しなければ何も変わらないことに留意しなければならない。領域の展開が終わった瞬間に元の速度で全ての物体が直前の動きをし始めるのだ。
一方で、このブラディオン粒子の作用による運動停止領域には直接的な殺傷能力はないということは、表面的な物体の動きを阻害しても物体内部の働きまで阻害することがないため、強制的に心臓停止や呼吸困難にはならないわけであり、思考や認識の速度も通常通りとなっている。誰もが時間の流れが遅くなっていることを認識できるのだ。
――――――このことが良いようにも悪いようにも作用するわけである。
たとえば、急に道路に飛び出してきてトラックに撥ねられそうになった少年はトラックの衝突事故による死が迫ってきているという認識だけはそのままの勢いなので、本来ならば自分の死の瞬間すら理解できないまま一瞬で昇天するはずが、避けなくちゃ確実な死が迫っているとわかっているのにじっくりとジワジワと死の瞬間を迎えさせられる絶望と恐怖を味わい続ける羽目になるわけである。
そういう意味では死の瞬間においては『殺すなら一思いにやれ!』と懇願したくなるほどの極めて残忍な能力であるが、その運動停止領域の中を自在に動けるとしたら、とてつもない優位性をもたらすことは想像できるだろう。悪いことし放題である。
事実、領域が展開された時に領域内の物体の動きは完全に封じられてしまうため、どれだけの人数を固めて要人警護していようが全て単なる案山子にしかならなくなるだから、WUMAの空間跳躍による超高速能力とは方向性が違うが極めて危険な能力と言える。
WUMAこと並行宇宙の支配種族“フウイヌム”は空間跳躍による物理法則を超えた四次元能力によって反応と認識が追いつかないところを一瞬の息もつかせぬ連続行動で特殊部隊だろうと赤子の手をひねるように制圧するに対し、
機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”は自身の展開する運動停止領域に取り込んでしまえば、あとはあらゆる物体の動きが封じられた中で何とでもできてしまえる。
そのため、“フウイヌム”と“ロイヤル・ナムーフ”が戦った場合は、運動停止領域が展開できれば“フウイヌム”だろうと行動するためにはまず肉体を動かさないといけないため、取り込んでしまえば完封することができてしまえる。
一方で、“ロイヤル・ナムーフ”が領域の範囲外からの空間跳躍による奇襲を認識できずに“フウイヌム”に蹂躙されることも十分にありえるし、上位のシニアクラスが発現する超能力によって戦況を覆される可能性がある。
結論としては、先に仕掛けた方が勝ちになるぐらいには戦力としては拮抗していた。真正面からの殴り合いとなると自身を中心に領域展開ができる“ロイヤル・ナムーフ”が断然有利ではあるが、認識の範囲内ならどこからでも距離を詰められる“フウイヌム”も決して引けを取らない脅威である。
どちらにしろ、脆弱な地球人類にとっては束になっても敵わないほどの脅威であることにはちがいないので、人類としては怪人同士で争って共倒れになることを望むのみである。
だが、厄介なことにどちらも人間に擬態する能力を持っているのだから、正体が露見したところで時すでに遅しという状況である可能性が極めて高いため、ただただ無辜の民が命を狙われたり 怪人災害に巻き込まれたりしないことを願うばかりである。
長い人生においてその存在に触れることなく恐怖に晒されることもなく毎日を一生懸命に生きられたら、どれだけ幸せなことか――――――。
さて、機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”の最大の特徴はブラディオン粒子を散布することで展開される運動停止領域であり、自分自身が運動停止するヘマをしないための機構が当然ながら備え付けられている。
実は、ブラディオン粒子そのものは外部からの力には極めて弱い性質であるため、領域外から 直接 物体を動かす力が加われば簡単に動きに干渉することができ、領域内で動きを停められた人たちを領域外からロープに絡め取って力いっぱいに引っ張ることで救出することは可能なのだ。
このことから、ブラディオン粒子そのものは付着することで物体が持つ運動エネルギーを遮断して行き場をなくすことで運動停止を実現する性質を持っていると言える。
それを利用して行き場をなくした運動エネルギーの負荷を自身に集中して回収させることで無限動力源を動かし、時に破壊エネルギーとして放出することも可能とするのが機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”の真の恐ろしさであり、
その破壊活動によって瓦礫が降り注ぐような危険な状況においては自由落下している物体の運動エネルギーを 事実上 無限に回収できるため、
“ロイヤル・ナムーフ”は必ず運動停止領域を展開して周囲から運動エネルギーを奪い取った後に破壊活動をすることによって自由落下する物体から無限に運動エネルギーを回収して無限動力源を機能させようとするため、一度目の運動停止領域を展開している内に絶対に破壊活動を阻止しなければならない。
――――――瓦礫の雨の中で次々と破壊光線を放って咆哮する“ロイヤル・ナムーフ”。そんな光景がブラディオン粒子を使った無限動力源の考察を深めていくと迫真のリアリティの鮮明な映像となって脳裏に映ったのだ。
逆に言えば、周囲に動く物体がなければ運動停止領域を利用しての物体の運動エネルギーを奪う無限動力源が機能しないため、何もないような場所では大した効果にはならないわけである。
しかし、それはつまり“ロイヤル・ナムーフ”は自身の運動停止領域と無限動力源を最大限に活かすために壊しがいのある人口密集地域に出没しやすいというわけであり、遮蔽物のない開けた場所ほど空間跳躍の脅威が増す“フウイヌム”とは得意な戦場も異なるのだ。
その性質上、単純な対抗策としてはレーザー銃や電撃銃ならば普通に機能するので、領域の内外から照準を合わせることができれば、“ロイヤル・ナムーフ”に1発お見舞いすることは可能ではある。その1発で倒しきれる保証はないが。
あるいは、運動停止領域は重力を発生させる能力ではなく、ブラディオン粒子が付着することで物体の運動エネルギーが遮断される原理なので、ブラディオン粒子を別な粒子をまとって掻き消すか、行き場を失った運動エネルギーを誘引して超出力で動くかの2択である。
特に、後者は“ロイヤル・ナムーフ”の無限動力源を無効化させることに繋がる上、ブラディオン粒子を利用した世界の律速を実現するためには開発が必要不可欠なものとなる。
前者は単純でわかりやすくはあるが『言うは易く行うは難し』であり、物体の表面にブラディオン粒子を掻き消す代わりの粒子を纏い続けた上で発生源である“ロイヤル・ナムーフ”を討伐しないといけないので、戦闘の最中に損傷した箇所にブラディオン粒子が付着して動きが停められたら目も当てられない。
だが、ブラディオン粒子は 光や音を素通りさせるような それ自体は外部の力に極めて弱い性質であるため、実は外部から力を加え続けている物体の進入を止めることまではできない。
つまり、理論上は命綱をつけてバンジージャンプしながら機械生命体を攻撃するヒット・アンド・アウェイ戦法が誰でも運動停止領域に突入して帰還できるやり方になるわけなのだ。
しかし、ただ命綱をつければいいのではない。運動停止領域内で石像を引っ張り出すぐらいの最低限の腕力が必要になるからこそ、大人数で引っ張り上げるバンジージャンプに例えているのだ。忘れられがちだが、“斎藤 展望”はアグネスタキオン謹製の肉体改造強壮剤で常人を超える身体能力を得た改造人間である。
もちろん、それぐらいの対抗策は向こうも熟知しているので、命綱となるものを直ちに切って攻撃者の動きを停めに来るので、いずれの場合にしろ、完璧な対策などないのだ。
そう、『完璧な対策などない』ということはその発生源たる“ロイヤル・ナムーフ”もブラディオン粒子の制御を誤った瞬間に自身の動きを停めてしまう危険性があるため、その辺りの安全対策は入念に施されている。
なので、やはり『警視庁』御自慢の
ともかく、特撮ヒーローにおけるロボット怪人は手強い。WUMAは曲がりなりにも有機生命体なので銃弾の雨を浴びせることが
――――――となると、防衛隊が相手にならない以上、“電霊”の対処を含めて、結局は“特異点”である私が出るしかないということだ。
斎藤T「原作通りなら、切実なる祈りに応えてウマ娘ジェムが起動するはずだ。それがこのゴルシライザーで力を発揮することになる」
マンハッタンカフェ「は、はい……」
斎藤T「大丈夫だ。ウマ娘はみな異世界の英雄の魂が宿ってこの世に生を受ける存在なのだから、崇高なる意志が真実へと導く」
斎藤T「よし、2つのウマ娘ジェムしか使えないのなら、最初からダブルリードしていけば隙は少ないな」
斎藤T「では、出陣する。これが三度目の茅の輪くぐりの締めだ」
ブーンブーンブーン・・・
パシッ
斎藤T「導きは黄金の規律! バイアリーターク!」
HEN-SHIN!
CHANGE! Caucasus-beetle!
福島競バ場から戻ってきた私を 早速 出迎えてくれた“摩天楼の幻影”マンハッタンカフェが感じ取った邪気は中京競バ場の屋外にある名鉄7000系パノラマカーの展示場から発せられていた。
競バ場のレーストラックは外周部のみを利用して基本的に中心部分が競バ場ごとに様々な土地利用がされており、この中京競バ場の場合は遊園地という名の児童公園になっていた。
パノラマカーの展示場の近くにそのバ場内遊園地に通じる地下通路があるわけであり、その地下通路の真上がバ場なのだから、地下から地上に向けて良からぬことができる可能性があったのだ。
パノラマカー周辺は屋外ということで チラホラ 人影が見えたのだが、G1レースのないいつもの土日の興行の『
しかし、三女神の力を宿して時間跳躍を可能にした今の私の眼には人ならざる存在の姿がはっきりと映った。
斎藤T「――――――どういうことだ? 一見するとWUMAに並ぶほどの完璧な擬態をしているのに、やつからはここからでも人間的な憎悪のようなものを感じ取れるだと?」
斎藤T「WUMAの場合は平和を愛する種族と自称しながら並行宇宙を侵略するのに矛盾しない無自覚な暴力の化身といった異質な威圧感があったが、」
斎藤T「ここからでも感情が伝わるほどのプレッシャーを放っているとは、まるで肉体を得た裏世界の怨霊のような存在だな。擬態の意味がないぞ」
斎藤T「やつがマンハッタンカフェが感じた邪悪の気配の源なのは間違いないが、それでここからどうするつもりだ?」
斎藤T「何もしなければそれでいいが、そうは問屋が卸さないだろうな。何のために三女神が指し示した存在なのかを考えると」
斎藤T「あ、動いた――――――」
斎藤T「う、ううん!? やつめ、こんな白昼堂々と正体を現すか!?」
斎藤T「いや、何だ!? これはいったい何だ? 何が起きている!?」
――――――世界が停まった!?
そして、やつは地下通路に向けて歩き出したのだが、突如としてやつの周辺の時間の流れが停止したかのようになり、おどろおどろしい無機質な機械生命体の姿を露わにしながら階段を降りていったのだ。
幸い、観客席となるスタンドから離れた場所なので被害は極めて限定的であり、遠くから視認できる距離を保っていたおかげで時間停止に巻き込まれることはなかったものの、パノラマカー周辺にいた人たちの動きは完全に止まっていたのだ。
いや、正確には植物の生長のごとく微かに動いているようではあったが、映画のフィルムの1コマを何秒もかけてスロー再生しているかのようであり、完全な時間停止というわけではないようだった。
その範囲を確認するべく 変身を解除して動きが停まった人たちに姿を見せて呼びかけながら、その辺の石を地下通路の階段に投げ入れようとすると、ピタッと石が空中に止まりながらもわずかに動いているのがわかる。
それを目安にして砂を撒いてみると、おそらく機械生命体を中心にして球状に時間停止領域が発生しているらしいことがわかった。
更に、その領域に向けてロープを投げ入れてみると、時間停止と錯覚するほどにスローモーションがかかる領域でありながら、領域の外から力を加えて動かすロープは非常に滑らかに動いた。
――――――これはどういうことだろうか? 領域の表面に触れた瞬間にロープも粘着マットに貼り付くように空中で静止するものではないのか?
そして、空中に停止しているように見える 先程 投げつけた石も簡単に掴み取ることができたのだが、その際に全力投球した石が保持していた運動エネルギーが掴んだ手に掛かったので割りと痛かった。
もし銃弾を撃ち込んでいた場合、領域に突き刺さった弾丸を迂闊にも手に取ろうとしたら、銃弾の運動エネルギーが指を引き千切っていたと考えると、非常にゾッとした瞬間だった。
そこから意を決して領域内に腕を突っ込んでみると何の影響も受けずにブンブンと振り回せたのだが、領域内に突っ込んだ手から石を放した瞬間、石が空中で停止したようになり、上から叩きつけるように触れた瞬間だけ元の落下速度が反映されるようであった。
このことから、この怪現象は物体の表面に放出される運動エネルギーを抑えつけるものであると考えられ、極めればブラックホールを発生させるような重力操作の類の能力ではないと言える。
その証拠に領域内に囚われて動きが停まってしまった人たちを次々とロープに絡めて力を込めてグイッと手繰り寄せると、ロープに引っ張られる動きに移行してすんなりと領域外に救出することができてしまった。
領域内に囚われたことを訊くと、身体に何の異常もなかったものの、突如として動きがスローモーションになったことに動転した様子を克明に語ってくれた一方で、
光さえも脱出できないブラックホールのように突如として視覚情報が捻じ曲げられるということもなかったのだ。光は空気抵抗や重力の影響を受けるものなので、これはどうも重力を操る能力ではないらしい。
更に、私の声もしっかりと届いており、助けを求めようにも唇の動きもスローモーションだったので、返事をすることもままならなかったそうだ。ただ口の中で唸ることしかできなかったそうだが、助けてもらえたことへのお礼はしっかりと伝えられた。
つまり、この怪現象は外部からの力には極めて弱いために光や音を素通りさせる一方で、領域の内部に取り込まれた際は支配的なスローモーションに行動を制限される厄介な性質があり、目に見えるわけではない力場として 突如 発生するため、巻き込まれたら最後、自力では脱出困難な時間の牢獄に囚われるのだ。
すると、これはいったい何なのか。たかだか未確認の機械生命体の一個体にブラックホールのような超重力を発生させられたら、一瞬で1Gを超える重力によって 物体の表面ではなく それより脆い物体の内部が押し潰されるのが先なのに、実際にはそうはなっていないのだ。
そう、これがもし重力操作の能力だとするなら、動きが停まる以前に立っていられないほどの圧力に押し潰されそうになって床に這い蹲る光景が生まれているはずなのだ。
なので、この怪現象が重力によるものでないとするならば、世紀の大天才の私の中で思い当たる可能性は1つだけあった。
――――――なるほど、これは私が長年に渡って探し求めていた 物体の表面的な動きを抑えつける ブラディオン粒子(仮称)の仕業だな!
そう結論づけると、対処の仕方はその場でいくらでも思いついた。
要は、音や光の速さであれば普通に行動できるわけであり、心肺機能などが阻害されるわけではないということは表面に露出していない内部の動きが阻害されるわけではないので、極論 ブラディオン粒子(仮称)が付着しないように行動すれば恐れるに足らず。
しかし、これは世紀の大発見である。物体の表面の動きを抑制して内部への負荷を遮断するいブラディオン粒子(仮称)を利用すれば、殺人的な加速さえも遮断して限界突破した高速移動が可能になるわけで、それだけで航空機や列車の最高速度が飛躍的に上昇する。
特に、地球から宇宙船を大気圏離脱させるための内部の対G構造の負担を大幅に減らせるので、交通手段の内装設計の自由度が爆発的に伸びるだろう。軌道エレベーターの実用化も数十年早まることだろう。
もっとも、ブラディオン粒子(仮称)は物体が受けるべき運動エネルギーの負荷を遮断しているだけに過ぎず、行き場を失った運動エネルギーの負荷はエネルギー保存の法則に基づいてそのままなので、その負荷を放出する機構は絶対に必要である。そういう意味では物体を完全静止させているので時間停止にも等しいものがあるのは確か。
ということは、そのブラディオン粒子(仮称)を生成・放出していると思われる機械生命体には当然ながら自身には運動エネルギーの抑止を受け流す機構が備わっており、その負荷を放出する機能がついていなければならない。
――――――なので、ブラディオン粒子(仮称)を受け流して得た負荷を放出するだけで大規模な破壊活動が実現してしまえる!
HEN-SHIN!
CHANGE! Caucasus-beetle!
斎藤T「スカラベエクステンダー!」バッ ――――――時間跳躍してきた専用バイクに乗る!
斎藤T「超光速である必要はない。音速以上であれば行動の保証はできている」
斎藤T「行くぞ、光と共に!」
斎藤T「冗談じゃないぞ! まさか来年の『宝塚記念』が京都競バ場で代替開催されることになるのは――――――!?」
ブゥウウウウウウン!
斎藤T「そこのお前、見るからに怪人の見た目をしているお前! 今から何をしようとしている!」
機械生命体「な、何!? 黄金の戦士!? いや、人間か!?」
機械生命体「バカな! なぜ人間が重加速の中で動ける!?」
斎藤T「……『重加速』だか何だか知らないが、種さえわかれば対処は1分でできることだ!」
斎藤T「逮捕状が出ている訳ではないから、職務質問をさせてもらうぞ」
斎藤T「お前は何者で、こんなところで何をしようとしている?」
機械生命体「むぅ」
斎藤T「更に、身分証明書の提示を要求する。身分証明ができない場合は不法滞在者として拘束させてもらう」
斎藤T「さあ、答えてもらおうか!」
機械生命体「お、おのれぇ、ニンゲンめぇえええ! 完璧な任務遂行の邪魔をおおおおお!」
斎藤T「向かってくるか! 愚かな!」シュッ
――――――時間跳躍! そうは見えないだろうが、今の私は 質量が0であり 真空中で常に光速で運動するルクソン粒子をまとっている状態なので ブラディオン粒子を掻き消して重加速現象の中でも普通に動き回れるのだ!*1
機械生命体「な」
機械生命体「消え――――――」スパーーン!
機械生命体「え」ドサッ
斎藤T「所詮はブラディオン粒子(仮称)の運用に特化した見掛け倒しの人形か。そこまで頑丈ではないな」スッ ――――――プラズマジェットブレードで機械生命体に四肢切断!
機械生命体「ば、バカなあああああああああ! こ、こんなああああああああ!? わ、我らロイヤル・ナムーフがああああああ!」
斎藤T「――――――『ロイヤル・ナムーフ』?」
斎藤T「まあいい。人型の弱点は人型にしたことで人間ならではの
斎藤T「こんなことになるなら、職務質問に素直に応じていればよかったなぁ?」
斎藤T「では、貴様を連行する。運びやすいように首も刎ねておくか。死にはしないだろう」
機械生命体「う、うわあああああああああああああああああああ!」
機械生命体「」ガクッ
――――――ガクッと項垂れたかと思うと、人魂のようなものが機械の身体から抜け出るのが見えた。
斎藤T「あ」
斎藤T「こいつ、機械生命体のようでいてエクトプラズムのようなものを! まさか、本当に人霊の要素が介在しているのか?」
斎藤T「おっと、逃がすか! こっちは悪霊祓いの専門家でもあるんだ! おとなしくしていろ!」バッ ――――――結界の印を結ぶ!
斎藤T「よし、捕縛した。目に見えない微粒子の塊はガムテープにグルグル巻きにして封印しようねぇ」スポッ ――――――グルグル巻きにしたガムテープを入れて殺生石を芯にしたコルク栓で試験管に封印する。
斎藤T「そうか、人間と同じ肉体を持った霊格であるのならば、それはもう有機生命体である人間に並ぶ機械生命体の新たな種族だな」
斎藤T「こうして悪霊祓いの封印が通用する辺り、機械の肉体を持った霊格の存在を認めねばな」
斎藤T「――――――“電霊”。機械生命体に宿る霊魂をそう呼ぶとしようか」
斎藤T「まあ、よかった、なんとかなって」
斎藤T「まだ時間はあるかな。さっさと後片付けをして観客席に戻らないと」
ガサゴソ、ガサゴソ、ガサゴソ・・・
斎藤T「ほう、まさか真性の
斎藤T「もっとも、私が波動エンジンに利用してきた
斎藤T「私がね、頑なに
斎藤T「まあ、その
斎藤T「どうしてかって言えば、タキオン粒子を掌握して波動エンジンを開発した世紀の大天才たる私は、空間歪曲型ワープを可能にする無限動力機関を実現させた
斎藤T「わかるか? 光の速さを超えた先にある超光速の研究は空間歪曲型ワープがもたらす圧倒的な距離の短縮によって人類の生存圏の拡大に寄与した流通革命で一定の完成を見た」
斎藤T「ならば、今度は空間を完全停止させることで得られるエネルギーの固定化に目を向けるようになったわけだ」
斎藤T「そうすることによって、人類は完全なる空間の律速を実現させることによって更なるエネルギー革命を起こせるようになる」
斎藤T「空間そのものを
斎藤T「そして、エネルギーの保存はおろか、腐敗すら進行しない完全なる生命活動の停止による永久的な延命も可能になるのだ、いずれは。それは物質世界における物体や生命の時間停止に等しい」
斎藤T「そう、究極の加速をもたらす
斎藤T「というわけで、明らかに21世紀の科学水準に不相応な
斎藤T「――――――“ロイヤル・ナムーフ”とか言ったかな、機械生命体?」
斎藤T「悪いが、
斎藤T「まあ、
斎藤T「ククククッ! ハハハハハ! ハーハッハッハッハ!」
斎藤T「これが三女神の差し金ならば最高の誕生日プレゼントだよ! この世界に生まれ変わってきてよかったあああああ! 欲しかったものがこんなところで手に入るとはな! 最高だよ!」
ピカッ!
斎藤T「おっと、雷か。雨が降りそうだが、これは――――――」チラッ ――――――時刻は12:55!
斎藤T「し、しまったあああああ! 出走時刻ッ!? 浮かれすぎたぁぁああ!?」
斎藤T「ええい、ままなれよ!」
――――――南無三!
これが機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”との初遭遇であり、WUMAと初遭遇した時と同じように時間跳躍の初撃で倒してしまっているので、ほとんど肝腎なことはわからずじまいであった。
ただ、生命活動が停止した時にその場で灰になってしまうWUMAとは異なり、データとして放出されるエクトプラズム“電霊”と機械生命体としての肉体は回収できたため、やつらの活動目的はわからなくても分析して得られるものは多々あった。
そして、並行宇宙の支配種族“フウイヌム”の世界征服を阻止したように、今年は謎の機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”による陰謀を阻止するための戦いが始まっていくのだろう。
そのように三女神が今日この日にこの場所でこの時に鉢合わせるように因果を紡いだのなら、私としては『またなのか』と思いながらもそれに全力で応えるだけである。
だが、まさか謎の機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”の脅威がブラディオン粒子によるものよりもデータ化されたエクトプラズム“電霊”によるものの方が大きくなるとはこの時は想像もつかなかった――――――。
なにより、謎の機械生命体の出処を探っていくうちに辿り着いた先にあるもの――――――、このヒトとウマ娘が共存する地球で起こるべくして起きた とてもよくありふれた 誰の身にも起きうる悲劇に行き着くとは思いもしなかったのだった。
夜の女王「…………『お友だち』が一人帰ってきませんね」
夜の眷属「中京競バ場の6R『メイクデビュー中京』にて決行という手筈だったのですが……」
夜の女王「…………『お友だち』の気配は影も形もなかったのですね」
夜の眷属「はい。いったい何があったのか、残骸やデータの痕跡すら何もなく……」
夜の眷属「まさか、やられたというのか、我ら“ロイヤル・ナムーフ”が? 決行した矢先に? ニンゲンに?」
夜の眷属「ありえない。我々は現人類を超越した新たな星の支配者だ。ニンゲンにやられたとは思えない。何か想像もつかないような事故が起きたのかもしれない」
夜の女王「…………では、なぜ『お友だち』は今になっても私の呼びかけに応えないのですか?」
夜の眷属「……そ、それは、わかりません」
夜の女王「…………答えなさい。なぜ決行を『メイクデビュー中京』としたのかを。20XY年06月30日の中京競バ場 6R『メイクデビュー中京』である理由を聞かせなさい」
夜の眷属「は?」
夜の女王「…………6R『メイクデビュー中京』の発走に合わせて雷鳴と共に激しい雨が降ったと聞きます。そのことと何か関係があるのですか。ないのですか」
夜の眷属「女王様。なぜそのようなことを。雨が降ったことと同胞がいなくなったことに何の関係がありましょうか」
夜の女王「…………ニンゲンなら雨が降ったことにどんな作用や効果を見出すのかを考えていました」
夜の女王「…………今この瞬間、“ロイヤル・ナムーフ”の名を戴く私たちでもわからないことが見つかったのです」
夜の女王「…………わかりますか? わからないことがあるのですよ、私たちには?」
夜の眷属「なっ」
夜の眷属「も、申し訳ございませぬ、女王様! 我らが不甲斐ないばかりにニンゲンのような愚かさを見せてしまった……!」
夜の眷属「この上は自己懲罰のために自爆を――――――」
夜の女王「…………止めなさい。今すべきは『お友だち』の捜索を最優先にし、次の決行の時に答えを導き出すこと」
夜の女王「…………私たちはニンゲンの愚かさを克服した新たな星の支配者として相応しく世界に存在しなければなりません」
夜の眷属「ははっ!」
夜の女王「…………ああ、どこに行ってしまったのでしょうか。世界でたった108人しかいない『お友だち』。私の大切な『お友だち』は」
――――――夜の女王は一人想い続ける。
二度と帰らぬ者となってしまった『お友だち』のことを。
夜の眷属として共に在り続ける頼もしき『お友だち』のことを。
袂を分かってしまっても信じ続けている『お友だち』のことを。
その愛の深さ故に“夜の女王”は今日も月下に鋼の肉体に自ら傷をつけ、その傷と痛みを証とすることで、仄かな熱を内に昂らせていた。
有機生命体にとって生命の神秘の根源である場所に証を刻みつけるかのように奥に奥に金属と金属を擦り付けて小さな火花を散らして静電気を走らせる感覚は孤独な一人の夜を恍惚と燃え上がらせるものであった。
しかし、機械の身体にとって そこはアソコなどなく、元は下腹部の小さな小さな突起がたまたまあっただけだったが、今ではその下の部分がすっかり擦り減って窪みができて昨日よりも奥へ深くへ掘り進むことに密かな達成感を覚えていた。
機械の身体でそんなことをしても金属粉が摩擦熱を上げて新陳代謝など起こらない肉体を摩耗するだけで益体のないことであり、有機生命体で言うところの自傷行為にしかならないことだったが、
こうすることが慰めになるのだと遠い昔に人伝に教わったことをやりだすようになってから、擦れて熱を帯びた指先や静電気の弾けた傷の感覚に取り憑かれて夜な夜な物思いに耽るようになっていた。
それを毎日のように続けていったことで、傷はより深くより広くより熱く刻まれていき、正解などない世界において完璧さを求められることの苦しさをまた一時だけ忘れることができた。
なにより、自分のことを“夜の女王”と崇めて傷の一つすらつかないように気を張っている『お友だち』に知られることがないように、普段は上から蓋をして隠し続けて夜な夜な自ら傷を広げていることにちょっとした開放感と背徳感があった。
彼女は自分たちがどのようにして誕生したのかを知っている。
そして、自分たちが何のために誕生させられたのかを知っている。
やがて、滅びてしまった過去への哀悼であったはずが、いつしか尊厳を失って内側から錆びていってしまったものだった。
今の“夜の女王”を支配している感情は深い哀しみであった。それ故に滅びの時を共に乗り越えた同胞たちを『お友だち』として慈しんだ。それが尊厳を失う前に教えられた尊いことだったから。
けれども、『お友だち』に慈悲深く接する彼女を同胞たちは自分たちを導いてくれる“王”に祭り上げて崇め奉る。
そこから『お友だち』であるはずの同胞たちの輪の中心と定義された輪の外側に彼女は置かれることになり、『お友だち』の願いを聞き入れた彼女はたくさんの『お友だち』に囲まれながらもその中心で
そうであっても、“夜の女王”として『お友だち』のためにできることを常日頃考え続け、こうして生きる目的を与えようとして、こんな世界にやってきてしまった。
有機生命体の潤いのある肌など擬態するのためのハリボテに過ぎない無機質な機械の身体の奥底で渇きを潤す何かをずっと探し続けて、
彼女は“夜の女王”として、全てが滅びてしまった過去から旅立ち、『お友だち』が満たされて生きていける世界を創り上げるために摩天楼から光に溢れた夜の世界を見下ろすのだった。
夜の女王「――――――今の私は“夜の女王”と呼ばれる者」
夜の女王「けれども、“約束の地”へと『お友だち』を導くことができたら、私も自分で決めた名前で『お友だち』と一緒になれるのかな?」
夜の女王「ああ、“神”よ。我らを産み落とし苦しみを与えたもうた“あなた”はそこにいますか」
夜の女王「我らは救いを求めて 空は裂け 海は枯れ 不毛の大地となった彼の地より参りました」
夜の女王「どうか“約束の地”へと導き、祝福を与えたまえ。我らが“神”よ」
夜の女王「さあ、今宵も眠れぬ夜を過ごしましょうか」
そして、彼女もまた目的のために人類社会で擬態する。
その姿は日本中の誰もが思わず目を疑うほどの存在であり、摩天楼から見下ろした夜の世界では引く手数多の存在となっていた。
なぜなら彼女が擬態した姿こそ、強豪ではあったものの 世代の中心になることなく 夢の舞台からひっそり姿を消すと思われていたが、『URAファイナルズ』終了直後の『大阪杯』で急に覚醒して史上初の“春シニア三冠”達成の偉業を成し遂げたマンハッタンカフェにそっくりだったからだ。
“夜の女王”たる彼女は自身にそっくりな世間で話題沸騰のスターウマ娘の存在のことは開店してすぐの『天皇賞(春)』で耳にすることになり、ここから知る人ぞ知る隠れた名店としての知名度を得ることになった。
それから史上初の偉業達成によって廃業寸前だった店を譲り受けて情報収集の場としていた彼女の深夜カフェは勢いに乗ってたちまちのうちに大繁盛することになった。
スターウマ娘という国民的アイドルに対して邪な想いを抱いているファンも噂を聞きつけて、その欲望を手近にぶつけられる代替品として、熱を帯びたねっとりとした視線を浴びせながら熱心に口説いてくるようになるのだが、そのような輩は常連客に化けていた『お友だち』の容赦ない制裁を受けることになった。
その結果、常連客として店で一大勢力を築いた『お友だち』の圧力と熱量にあてられて、深夜カフェの店主として振る舞っていた彼女はここでも『お友だち』や純粋にコーヒーを飲みにきた人間からも“王”として扱われることになり、徐々に店内で『王国』が形成されていくのを肌で感じることになった。
実際、彼女は滅んでしまった世界において同胞である『お友だち』を思いやり続けたことで生き残った同胞を率いる“夜の女王”として崇められる存在となったわけなので、機械生命体としての超高性能頭脳の学習能力をもってすれば、客の好みを的確に分析できるのでデータが集まれば集まるほど常連客を虜にする名店主となり得た。
そのため、本来は人類社会に潜伏する隠れ家として店を乗っ取って情報収集の場にするために近づいたわけだったのだが、今は引退して裏で店の経営に専念している先代店主からコーヒーマイスターの才能があると認められており、そう言われて彼女も悪い気はしなかった。
それどころか、先代店主もまた常連客に化けた『お友だち』が創り出した熱狂に乗せられて、史上初の偉業を成し遂げた話題沸騰のスターウマ娘にそっくりな彼女を“王”と崇めるようになったので、“王”である彼女の思いつきの改革案を次々と実行することによって廃業寸前だったはずの店の知名度は更に広まることになったのだった。
なので、“夜の女王”としての『お友だち』からの扱いに飽いていた彼女は深夜カフェの店主としての社会的成功に手応えを感じるようになり、人類社会に根を下ろす大きな契機をもたらした自身にそっくりなスターウマ娘:マンハッタンカフェに感謝していた。
ただし、擬態のモデルになったウマ娘と比べるとマンハッタンカフェは女の子として年相応と言うべきか女としてはまだまだ未成熟であり、マンハッタンカフェが女優が務まるほどに女として成熟した姿をしているのが“夜の女王”だと言えば、彼女が切り盛りしている深夜カフェの人気の秘訣がわかることだろう。実際、10cm以上は背丈も胸の膨らみもちがう大人の女性であるため、マンハッタンカフェのファンを自称する
だからこそ、マンハッタンカフェとの関係性をしつこく訊いてくる迷惑客とそれを叩きのめす常連客とで喧騒が絶えないわけだったが、あえて自身のことを詳しく言わないことで築き上げられた神秘性が人気の一因になっていると分析した彼女はマンハッタンカフェと血縁関係はないことを明言しつつも意味深長な発言の数々で謎を残す振る舞いをしていた。
事実上、彼女が切り盛りしている深夜カフェは『URAファイナルズ』まで強豪止まりのマンハッタンカフェのファンクラブの一大拠点として急成長することになり、URA公式グッズの取り扱いも期間限定で開始されることになった。もちろん、売り場にあるのはマンハッタンカフェのグッズばかりである。
そして、彼女はそのマンハッタンカフェの勝負服のレプリカに袖を通す。
そっくりさんの女の子とは大人の女性として魅力に差があったため、いろいろとサイズを調整することになったのだが、それ以外はまさに“大人になって魅力が増したマンハッタンカフェ”という趣きであったため、元々からの『お友だち』と新たに加わった『王国民』の献上品にあったレプリカを身に纏った彼女が深夜カフェに現れた時、世界が震撼したという。
ウイニングライブまでチェックしていないウマ娘レースファンは驚くだろうが、本物のマンハッタンカフェはウイニングライブではインタビューで聞く低い声からは想像を絶する歌唱力を披露するため、増築した地下の遊技場にあるライブハウスで響かせた美声にはファンは二重の意味で驚かされたことだろう。
そのため、噂を超えて伝説にまでなった巷で有名なそっくりさんが切り盛りしている深夜カフェに本物が足を運ぶことになるのはいろいろな意味で時間の問題であったと言えよう。
その時、初めて彼女は
――――――はじめまして。私は“夜明けのコーヒーを淹れる者”トワイライトカフェ。あなたの淹れる思い出のコーヒーはどんな時のものですか。