ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第7話   お前なんてアグネスターディオン

-西暦20XX年09月24日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

早いもので、8月末に起きた事件の記憶がまだ1ヶ月も絶たないうちに早くも風化しようとしている――――――。

 

それだけ生徒であるウマ娘たちが前向きな姿勢で直向きにアスリートとしての本分を果たそうとトレーニングに打ち込んでいるのもあるだろう。

 

しかし、例年より今月の外泊や遠征の申請数が増えていることを見ると、全寮制ではあるものの、トレーニングの名目で気軽にトレセン学園を抜け出せることは明白であった。

 

そもそも、総生徒数2000名弱のトレセン学園の生徒の全員が学生寮に同時に泊まるということはほぼないのはトレセン学園の常識でもある。

 

なぜなら、少なくとも『トゥインクル・シリーズ』においては【近距離】【マイル】【中距離】【遠距離】の4種類の距離設定があり、

 

それぞれ目標の距離に特化したトレーニングを行うウマ娘がいて、それぞれの距離設定のレースが年間を通して別個に行われているからだ。

 

また、オフシーズンであっても冬季遠征合宿などに繰り出せるのがウマ娘が私の知る馬とちがうところであり、

 

つまり、毎日 何らかの理由でトレセン学園を離れる生徒がおり、寮長はトレセン学園に不在になる全ての生徒の事情を その都度 把握する義務がある。

 

そのため、トレセン学園には2000名弱の生徒たちのスケジュールや動向を管理するためのデータベースや予定表アプリが構築されており、

 

担当トレーナーを得たウマ娘は担当トレーナーに自身のデータベースや予定表アプリにアクセスできる権限を付与することになっている。

 

正確には、担当の契約関係を解消した後にウマ娘のデータベースや予定表アプリにアクセスできないよう、

 

正式に担当トレーナーのチームの一員になった時に発行されるIDカードに生成されたパスワードでのみアクセスできるようになっており、

 

当然、契約関係を解消した後にはIDカードのパスワードは失効となって 元 担当ウマ娘のデータベースや予定表アプリに二度とアクセスできなくなるようになっている。

 

このようにデジタル上では生徒であるウマ娘の保護と管理に相当な力を入れてきているのだが、

 

8月末の事件で生徒以外の立入禁止が裏目に出て不審者の侵入を許すことになったというのがトレセン学園の反省点であった。

 

となれば当然、生徒以外は立入禁止となっている学生寮;巨大な住宅団地の警備体制の見直しが叫ばれたわけなのだが、

 

警察;正確には警察庁ではなく東京都が管轄の『警視庁』もまた、事件発生から数時間後にようやくパトカーが駆けつけたと思ったらすでに事件が終わっていたという大失態を犯しており、

 

いざトレセン学園で事件が発生して学生寮に押し入った不審者1人を捕らえることができなかったERTと共にトレセン学園の理事会から問責を受けることになった。

 

その結果、『警視庁』において責任問題に発展し、誰も新たなトレセン学園の警備体制の指導をやりたがらず、一向に改善案がまとまらないという空転を生み出した。

 

だが、そうなるのも無理はない話だった。最初から解決不可能な問題に思えるからキャリア組は名乗り出ないわけなのだ。

 

事件発生当時の問題点――――――、生徒以外は立入禁止の2000名弱の生徒が収容できる巨大な住宅団地を網羅できるだけの人員なんて確保できるわけがない。

 

だからこそ、ERTが迅速な緊急時対応を行うことで被害を最小限に食い止めるという想定だったわけであり、人手不足になるのは最初から目に見えた問題点でもあったわけである。

 

そこから、トレセン学園としては巨大な住宅団地の出入りを大幅に制限することでトレセン学園の生徒の安全確保を行おうとしたわけである。

 

そう、管理するには完全に人手不足だったから高度なデジタル・ネットワークでの管理がなされていたわけであり、原因と結果がまったく逆なのである。

 

 

――――――アホくさ。それが私の正直な意見と感想である。

 

 

もちろん、今回の事件は相手が悪すぎたのもあったが、それでもERTはちゃんと『通報を受けたら すぐに駆けつける』という最低限の仕事はしてくれたのだ。

 

なので、私が飯守Tに化けていたバケモノを何とかするまで『通報を受けたら すぐに駆けつける』という最低限の仕事すらできなかった『警視庁』のお役所仕事には反吐が出る。

 

人手不足なら警備ロボットを配備すればいいだろうに――――――。

 

いや、21世紀でようやく確立したオートメーション化の流れなので、23世紀と比べていかに遅れているかは身を持って理解していたが、これにはひどくジェネレーションギャップを感じた。

 

調べてみると、この時期にロールアウトされている警備ロボットや生活ロボットは自動掃除機やロボットホテルぐらいしかないのだから、

 

ロボット工学は専門ではないが、日常的に助手として利用して組み立てやメンテナンスもやっていた私が造った方が技術革新が100年は早まるんじゃないかと思ってしまった。

 

だいたい、洗濯機に洗剤なんて要らないし、廃プラも石油にすればいいし、水不足も海水を真水にすればいいじゃないか――――――。

 

そうしないのは洗剤メーカーが困るから――――――? 石油産出国が困るから――――――? 環境活動家が困るからか――――――?

 

つくづく、この時代は人心がバラバラであるということを認識させてくる。そもそも、地球圏統一国家も樹立していないのだから、当然か――――――。

 

では、ロボットの存在の意義とは何か――――――?

 

 

それは人間の仕事を代行することによって得られた時間と機会によって人と人のコミュニケーションを促進することにある。

 

 

どうも、ロボットによって仕事を奪われることを危惧している反対派が多いようなのだが、そんなのは自然淘汰されるノイズなのは歴史が証明している。

 

最初の産業革命への反対運動:ラッダイト運動と同じことではないか。

 

でも、結局は便利さとそれによって得られた豊かさを享受するのが当たり前の世代に塗り替わっているのだから、ロボット反対論もそういうことでしかない。

 

機械文明をやたらと悪とみなす風潮もあるようなのだが、そんな迷信めいたものを信じているとは、実におかしな野蛮で偏った未開な考えと言わざるを得ない。

 

機械も所詮は人間が使うための道具でしかないのだから、人間に使われるだけの機械そのものが悪と定義できるはずもなかろうに。『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』ということか。

 

機械文明に到達する遥か以前から人間の善悪について数々の宗教家が正道を歩むべしと忠告しているのに それに耳を貸さず自ら破滅と堕落の道を辿っている古来からの歴史を鑑みて、己を正そうという気概を持つ人間が相当少ないようだ。

 

実際、そうなのだろう。我よしの精神で生きている 刹那的快楽に身を任せている 本当の学問を知らない無教養と思える人間が多すぎる。無愛想すぎる。『論語読みの論語知らず』だらけだ。

 

そういう意味では、私が皇宮警察の両親を持つ“斎藤 展望”になれたことは非常に幸運なことだった。なにしろ、時代を超えて普遍的な教えの下に“斎藤 展望”は育ってきたのだから。

 

だからこそ、『名家』も『名門』も『警視庁』もどいつもこいつも身勝手で、今回の事件で明確になった成すべきことを果たそうと一致団結しようとしないんだから、理事長は苦々しく思っていることだろう。

 

 

私から言わせてもらうと、たとえば こんなやつらと一緒に宇宙移民だなんて とてもじゃないができるとは思えない。人間にとって第一である『信頼』がないから。『コミュニケーション』がないから。

 

 

要は『船頭多くして船山に登る』――――――、いや、こいつらこそが宇宙移民船団を破滅に追いやるエイリアンみたいに感じられるわけで、

 

どれだけ私が信じられない気持ちで事態の推移を見守っていたかを誰かに理解してもらいたいものだ。――――――『こいつら、本当に人間なのか』と。

 

まだ事例が2件しかないWUMA――――――怪人:ウマ女に対して どこも懐疑的・消極的なのはしかたないにしても、

 

たった1人の不審者に対してここまで無様を晒しておきながら 一致団結して状況の改善に取り組もうとせずに ただ責任の擦り付け合いに終止しているのだから、救えない。

 

 


 

 

ハッピーミーク「斎藤T……」

 

斎藤T「どうしました、ハッピーミーク?」

 

ハッピーミーク「斎藤Tのおかげで前よりも速くなれた実感があります……」

 

斎藤T「……でも、『それだけじゃミホノブルボンやライスシャワーに勝てない』ですか?」

 

ハッピーミーク「……はい」

 

斎藤T「勝てるビジョンが思い描けないと?」

 

ハッピーミーク「……はい」

 

斎藤T「桐生院Tのことが心配?」

 

ハッピーミーク「……はい」

 

斎藤T「他のウマ娘のことはまだよくはわからないけど、ハッピーミークは身体が勝手に動き出すタイプじゃないから、メンタリティが結果に大きく直結していますね」

 

斎藤T「最初に頭の中でイメージを膨らませていくことが現実での点火剤になっているわけですから」

 

ハッピーミーク「……はい」

 

斎藤T「イメージさえできれば、あとは問題なく 完璧にこなせてしまう――――――、それが私が先輩から最初に聞いたハッピーミークというウマ娘の凄さです」

 

斎藤T「事実、名門トレーナーの指導によって当初から注目を集め、同期の中ではずば抜けた勝利数と幅広い戦法をとれる手数の多さが武器となっていますね」

 

斎藤T「――――――それだけでもダメ?」

 

ハッピーミーク「……はい」

 

 

斎藤T「そもそも、ミホノブルボンやライスシャワーに勝ちたいのか?」

 

 

ハッピーミーク「………………」

 

斎藤T「じゃあ、『URAファイナルズ』の初代チャンピオンとして名を残したいって思ってる?」

 

ハッピーミーク「いえ……」

 

斎藤T「何のために、あるいは何のおかげで ここまで頑張ってきたんだい? トレセン学園に来た時の目標を思い出してごらんよ?」

 

ハッピーミーク「それはトレーナーが私の担当になってくれたから……」

 

ハッピーミーク「私のことをレースで勝てるようにしてくれたトレーナーが凄いって証明したいから……」

 

ハッピーミーク「だから、『URAファイナルズ』制覇を2人の目標にしてここまで頑張ってきました……」

 

ハッピーミーク「でも、同期の才羽Tの担当ウマ娘はクラシック三冠ウマ娘でシニア級になっても衰えがないし、飯守Tの担当ウマ娘には追い抜かれてしまいました……」

 

斎藤T「周りの成長に自分たちが取り残されていると痛感したわけだね?」

 

ハッピーミーク「……はい」

 

 

斎藤T「なら、模擬レースをやろうか、三冠ウマ娘と」

 

 

ハッピーミーク「え?」

 

ナリタブライアン「……来てやったぞ、斎藤T」

 

斎藤T「ありがとうございます、副会長。いろいろとご多忙の中」

 

ナリタブライアン「いや、どうせエアグルーヴがいつものように完璧に仕事を済ませてくれるんだし、私もそろそろ勝負勘を取り戻そうと思ってな」

 

ナリタブライアン「だが、あんたは桐生院Tのチームのサブトレーナーに過ぎない――――――」

 

ナリタブライアン「それなのに、三冠ウマ娘を相手に勝手に模擬レースを組んで担当ウマ娘に自信喪失させるような真似をして、何を考えている?」

 

 

斎藤T「え、勝てるつもりなんですか?」

 

 

ハッピーミーク「え!?」

 

ナリタブライアン「――――――!」

 

ナリタブライアン「言っていることの意味がわかっているのか、新人? 古バだと思って随分となめた真似をするものだな……」

 

斎藤T「大丈夫ですよ、こちらには秘策があるので」

 

ナリタブライアン「なに?」

 

ハッピーミーク「え」

 

斎藤T「じゃあ、アップと休憩を済ませ次第、レース開始と行きましょうか。もちろん、芝・3000mで」

 

ナリタブライアン「いいだろう。覚悟しておけ」

 

ナリタブライアン「ハッピーミークもそのつもりで、かかってこい!」

 

ハッピーミーク「……はい」

 

ハッピーミーク「あ、あの……、斎藤T……?」

 

斎藤T「大丈夫。さっき一人で走った時みたいにやってくれれば、絶対に勝てる」

 

ハッピーミーク「ほ、本当ですか?」

 

斎藤T「本当だとも」

 

斎藤T「今日の芝・3000mは走ってみてどうでした?」

 

ハッピーミーク「一昨日の台風が横切った時に荒れた芝がまだ回復しきっていない感じでしたが……」

 

斎藤T「それだけじゃない。翌日からもたくさんのウマ娘が練習で走って、今日もたくさんのウマ娘が練習していましたよ」

 

斎藤T「いや~、こうして毎日の練習で頻繁に芝が剥げていくからトラックバイアスのない理想的な芝で走れないせいで安定したデータがとれないもんですね」

 

斎藤T「まあ、そうなると、そこからはいかに自分のベストコンディションを引き出せるかにかかってくるわけなんですが――――――」

 

斎藤T「秘策はこうですよ」

 

ハッピーミーク「?」

 

 

斎藤T「――――――」ゴニョゴニョ

 

ハッピーミーク「――――――?」

 

ハッピーミーク「!!」

 

ハッピーミーク「……わかりました。やってみます」グッ

 

 

ナリタブライアン「…………やつめ、いったい何を考えている?」

 

ナリタブライアン「あの時の礼として『ハッピーミークとの模擬レースにつきあう』――――――、それのどこが礼になるんだ? 逆に担当ウマ娘を潰すだけだろうに」

 

ナリタブライアン「ミホノブルボンならまだしも、ハッピーミークはクラシックで勝利すらしていないんだぞ」

 

ナリタブライアン「また私は誰かに『絶望』を――――――」

 

ナリタブライアン「………………」

 

 

ナリタブライアン『な、何だ これは? 涙? なんで私は泣いて……? 指先も震えて……?』

 

 

ナリタブライアン「――――――っ!」ゾクッ

 

ナリタブライアン「……くっ! いつまであの時のことを引き摺っているんだ! 私らしくない!」

 

ナリタブライアン「私は()()()()()()()()()()()()なんだぞ……」

 

 

そして、一昨日の台風で大いに荒れた芝・3000mの勝負はハッピーミークが三冠ウマ娘にハナ差で逆転勝利を収めたのであった――――――。

 

かつての三冠ウマ娘:ナリタブライアンが久々に誰かとレースするのを聞きつけて集まっていた観衆には驚愕の結果となった。

 

しかし、練習とは言え 三冠ウマ娘を下したと言うのに、ハッピーミークもそれを迎える悪評高い新人トレーナーも淡々とした様子であった。

 

まるで事務的な対応で練習に付き合ってくれたことに形ばかりの感謝の言葉を投げつけられ、

 

競走相手として呼んだはずのナリタブライアンなんて最初からいないかのように自己ベスト更新を簡単に称えるだけに収めていたのだ。

 

三冠ウマ娘の自分に勝ったのだから もっと こう喜ぶとか自慢するとか いろいろあるだろうに――――――。

 

台風の影響でバ場が荒れて内枠を避けたところをそこからハッピーミークが追い上げてきたことでハナ差で逆転されたわけなのだが、実力は誰がどう見ても完全に“怪物”ナリタブライアンの方が上だった。

 

それなのに、こうなることが見えていたかのように、あるいは計算通りの当然の結果だから さして喜ぶことでもない風の態度がナリタブライアンの心を掻き乱していた。

 

まさに『眼中にない』振舞いを前にして、かつての自分が他のウマ娘に対してそうだったことを思い出していたナリタブライアンは意を決して口を開いたのだった。

 

 

ナリタブライアン「あんたが言っていた『秘策』っていうのは何だったんだ? 教えてくれないか?」

 

ナリタブライアン「なあ、頼む……。それを聞かない限りはあんたを帰すつもりはない……」

 

斎藤T「じゃあ、お答えしましょう」

 

 

――――――勝てるぞ。今のナリタブライアンは心が定まっていない。ハッピーミークは自分のイメージした通りに走れば必ず勝てる。

 

 

ナリタブライアン「え……」

 

斎藤T「まあ、桐生院Tが育て上げたハッピーミークがいかなる状況でも安定して走ることができることを彼女自身に証明させるのが目的だったんですけどね」

 

斎藤T「そして、このとおり ハッピーミークは荒れたバ場で自身のイメージ通りの完璧な練習走りを披露してくれました」

 

斎藤T「これで新人トレーナーを勝たせたハッピーミークとそれを育て上げた桐生院Tがすごいという事実を学園の連中に再認識してもらえたことでしょう」

 

斎藤T「だから、練習相手は本当は誰でもよかったんですよ」

 

斎藤T「そこにたまたま、()()()()()()()()として私があれからずっと気にかけていた副会長がいたわけで」

 

斎藤T「でも、実力で言えば完全に副会長が上でしたので、台風の影響で荒れたバ場になった日を選ばせてもらいました」

 

斎藤T「つまり、実質的にはハンデキャップ競走だったので、副会長は今回の負けを気にする必要はないですよ。ただの肩慣らしの練習なんですし」

 

斎藤T「貸し借りはさっさとなくした方が互いに気が楽ですしね」

 

ナリタブライアン「……あんたはそこまでのことを考えて私を練習相手に選んだっていうのか」

 

 

ナリタブライアン「……大したやつだよ、あんたは。姉貴が注目していた理由がよくわかる」

 

 

ナリタブライアン「当然か。担当ウマ娘のことを一番に考えている桐生院Tがあんたのことを側に置いて こうしてその担当ウマ娘を任せているんだ――――――」

 

ナリタブライアン「……完全に足元を掬われたな。こんな調子じゃ『URAファイナルズ』で姉貴に失望されるな」

 

ナリタブライアン「目が覚めた。感謝する。慢心を戒めてもらった。あんたのような人を名伯楽っていうのかもしれないな」

 

ナリタブライアン「ハッピーミークにもきっちりリベンジさせてもらうからな。楽しみに待っていろ」

 

ハッピーミーク「はい。今度は負けません。目標は『URAファイナルズ』制覇です」

 

斎藤T「………………」

 

 

 

――――――その日の深夜:事件現場

 

 

斎藤T「ここで私は怪人:ウマ女に蹴りを置いて退治したわけだったな……」

 

斎藤T「A地点からA'地点までの間にビワハヤヒデ、ナリタブライアン、怪人:ウマ女、飯守Tがいたはずなのに、次の瞬間には――――――」

 

斎藤T「………………」

 

斎藤T「…………この試作品のプラズマジェットブレードでなんとかなればいいが」スッ ――――――腰に佩いた誘導棒を手に取る。

 

斎藤T「逆手持ちにも順手持ちにも対応できるようにトリガーはグリップと同じ大きさ」ブンブン! ――――――逆手持ちや順手持ちに切り替えての素振り。

 

斎藤T「連続使用時間は5秒――――――。ボタン電池による誘導棒の機能時間の方が長いか」ポチッ ――――――赤く点滅する誘導棒。

 

斎藤T「――――――胴体を切り捨てる必要はない。か細い蹄の脚さえ切り捨てることができれば取り押さえられる」ダン! ――――――怪人:ウマ女の脚を切り捨てる鋭い踏み込み。

 

斎藤T「とにかく、怪人:ウマ女――――――WUMAの存在の解明のために、なんとしてでも生け捕りにしなくては」ブンブン!

 

斎藤T「擬態対象と入れ替わって人間社会に紛れ込み、裏から侵略していく――――――まさに“世界的な未確認侵略生物”というわけだな」

 

斎藤T「やつらが地球外生命体なのは明らかだ。この星の進化と歴史には存在しない馬面に加えて、ウマ娘が本能的に天敵と感じる異常性――――――」

 

斎藤T「そこから何か擬態を見破るヒントが見つけられたらいいな……」

 

斎藤T「けれど、それはウマ娘の本能を利用する生体レーダーになるのか。探索者(シーカー)にかなり無茶を強いることになるな……」

 

斎藤T「いや、こういう場合は“HOW DONE IT?(どうやったのか?)”じゃなくて、“WHY DONE IT?(なぜやったのか?)”でもなく、“WHO DONE IT?(誰がやったのか?)”だ」

 

斎藤T「やつらがどういう条件で擬態する対象を選んでいるかの傾向を見極めないと何も始まらない。何も始まらないんだ――――――」

 

 

ブーンブーンブーン!

 

 

斎藤T「――――――!」パシッ

 

斎藤T「またお前か!? さすがに三度もコーカサスオオカブトを手掴みすることになったら偶然とは言わないだろう!?」

 

斎藤T「まさか、お前も擬態しているのか!? WUMAは人型以外の昆虫でさえも化けることができるのか!?」 ――――――手にはコーカサスオオカブトが握られる。

 

 

 

――――――部活棟に向かうんだ。そこで“きみの運命”と出会える。

 

 

 

斎藤T「なに!? それはいったいどういうことだ――――――」

 

斎藤T「き、消えた――――――?!」スゥ・・・ ――――――掴んだコーカサスオオカブトが消えてなくなった。

 

斎藤T「嘘だろう!? たしかにコーカサスをこの手に握った感触があったのに――――――」

 

斎藤T「――――――『部活棟』?」

 

斎藤T「この時代のデジタル・セキュリティを突破するだなんて朝飯前だが、深夜に不法侵入とはな!」

 

 

トレセン学園の生徒は基本的には『トゥインクル・シリーズ』に出走するために在籍し、そのトレーニングを専らの課外活動にしているが、

 

トレセン学園は中高一貫校としても部活が用意されていて、その分野においても全国大会で数々の実績を残している強豪校としても知られている。

 

なにせ、総生徒数2000名もいる中高一貫校なのだ。様々なアプローチで『トゥインクル・シリーズ』の激戦を勝ち抜こうとするので人材の宝庫なのは間違いない。

 

そして、全員がまず『トゥインクル・シリーズ』のレースに出走できる保証はない。他にもライバル校は存在するのだから。

 

場合によっては担当トレーナーが見つからないまま――――――、あるいは引退した後に生徒が進学する際の内申点として部活が利用されていることもある。

 

実際、ウイニングライブの創作や勝負服のデザインを目的するウイニングライブ部や『名家』同士の交流を深めるための社交部など、ウマ娘レースにの文化に密着したものがあれば、

 

美術部や演劇部、化学部や物理部、吹奏楽部やなどの学術・芸術系の部活も設立されており、こうして立派な部活棟が建てられているぐらいには部活は軽視されていないことがわかる。

 

さすがに競走バのエリート校なので普通の運動部は存在しない。レースで発揮する筋肉がちがうのもあるが、やはり統計的に見て接触系競技でのウマ娘の故障率が著しいのもあるのだろう。

 

これがはたしてWUMAに繋がるという確証はないが、そうじゃないかという確信に突き動かされて、私は校門破りをして学園内の防犯システムを潜り抜けて部活棟に辿り着いていた。

 

まったく、生徒会長や理事会にクビにならないように取り計らってもらったというのに、これでは言い訳ができないぞ。

 

しかし、他に手掛かりがない以上、2度の偶然に居合わせたコーカサスオオカブトに賭けてみたい気持ちになっていた。

 

あのコーカサスオオカブトが怪人:ウマ女を引き寄せているのではなく、怪人:ウマ女の出現に合わせてコーカサスオオカブトが現れているのだと信じて。

 

窓から防犯対策の一環として廊下の明かりが節電されながら点いているのが確認できる。それは校舎も同じことで、監視カメラも各所に設置されている。

 

よって、私は部活棟の監視室の監視カメラをハッキングして中の様子を見ると、化学部の部室:化学実験室が未だに使用中となっていることがわかった。

 

監視カメラは残念ながらプライバシー保護のために部室には設置されていない――――――、その代わりに部室の扉の前がアップになるカメラ記録で入室記録としていた。

 

この世界の顔認証システムではウマ娘は背後からでも毛並みや耳で判別できるらしく、証明写真には頭頂部の写真を提示するところもあった。

 

これは頭頂部に耳がないヒトとの区別のために絶対に必要なものであり、ヒトがウマ耳をつけてウマ娘に変装するのを見破るためにも必要な措置だと聞いている。

 

たしかに、学生寮で使われている顔認証システムを調べてみたら、ウマ耳があるか それが本物かどうかで最初にヒトかウマ娘かを判別してヒトが生徒寮に入れないように弾く仕組みとなっていた。

 

しかし、ここは国民的スポーツ・エンターテイメントである『トゥインクル・シリーズ』に出走するために全国各地から腕利きたちがこぞって入学してくるスポーツ特待生の学び舎なのだ。

 

いくら中高一貫校としての一般的なカリキュラムが用意されているからと言っても、ウマ娘レースに関わり深いウイニングライブ部や社交部ならまだ理解できる――――――。

 

が、体育会系とは正反対の学術系のインドア派の部活に打ち込む暇があったら少しでもトレーニングをするように学園から言われると思うのだが。

 

その辺りは、日本の中高一貫校として そのようにカリキュラムと環境を整備することを法律で定められているから、その部活を選ぶのは生徒の自由として認められてはいるが、

 

正直に言って、『URAファイナルズ』がいよいよ開催となって年の瀬に日本中が熱狂に包まれようとしている時期に化学実験室に閉じこもっているやつの気が知れない。

 

さて、生徒会のデータベースにアクセスして化学部に在籍している生徒の情報を探り出す。

 

もしかしたら、外部の人間が侵入しているのかもしれないが、化学実験室に好き好んで居るようなやつなんて実験大好きの変人に決まっている。

 

なんて羨ましい――――――! こっちは人生の目標である波動エンジン搭載の宇宙船を開発するために遠大な計画を遂行して、いきなりWUMAなんて障害にぶちあたっているというのに!

 

なるほど、トレセン学園には2000名弱も生徒がいるわけなんだから 意外とこうした学術系の部活に所属している生徒が全体の5%もいると言われると少なくないように感じる。

 

特に、電算部には部員がかなりいる――――――。ビワハヤヒデの名前もあり、部長の名前はエアシャカール――――――。

 

何々? どうやらスーパーコンピュータを導入してフレーム単位のカメラ解析などを駆使して“勝利の方程式”を導き出すことが目的といったところか?

 

なら、この機に電算部から高性能カメラ機器をちょっとばかり拝借したいところだが――――――、

 

これ以上はまずい。電算部のデータベースにアクセスしようとしたら逆探知されかけた。

 

部長のエアシャカールというのはトレセン学園の生徒にしては腕の立つハッカーのようだ。憶えておこう。

 

さてさて、化学部の部員はたった1名――――――。部長の名前はアグネスタキオン――――――。

 

 

ナリタブライアン『おい、お前。この辺にアグネスタキオンが来なかったか?』

 

 

ああ、あの時のウマ娘か。イメージ通りだな、まさしく。

 

けど、あれがコーカサスオオカブトの予言でいう“運命”なのか? 

 

ウマ娘としてはどの程度の実力かは知らないが、この場合はむしろ好都合かもしれない。

 

化学実験室に引き篭もるやつに擬態したWUMAなら捕獲できる可能性が非常に高い。絶好の機会と言える。

 

 

斎藤T「よし。中にいるのは 十中八九 そのアグネスタキオンだろう」

 

斎藤T「しかしまあ、“タキオン”の名を冠した異世界の英雄の魂を宿したウマ娘ねぇ……」

 

斎藤T「それが化学実験室に閉じこもっているだけだなんて、波動エンジンの開発エンジニアである私からすれば今すぐに改名してやりたい気分だよ」

 

 

――――――お前なんてアグネス()()()()()()だよ。どんなに加速しても光速を超えることなんてない。

 

 

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