ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第1部 夏季:メガドリームサポーターの偶像たち -絶望の未来を変える布石を打て-
第1話   夏の上がりウマのごとく 昇り立つ陽炎のごとく 舞い上がれ


 

-西暦20XY年07月07日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

――――――夏がやってきた。G1レースとそれ以外をわけるウマ娘とトレーナーの二人三脚の分岐点となる季節が。

 

重賞レースの最高峰であるG1レースが猛暑を避けて一切組まれない中央競バ『トゥインクル・シリーズ』における夏競バの厳密な定義は存在しないが、

 

一般的には6月の春の最強マイラー決定戦『安田記念』から翌週の函館競バ場、あるいはシーズン前半の最強決定戦『宝塚記念』終了後の10ある中央競バの競バ場の内の主要4場に数えられない福島・新潟・小倉・札幌・函館のローカル開催場での9月初頭までのレースが夏競バと言われる。

 

一般に夏競バはウマ娘レースの華であるG1レースがないのに一定の人気を保っているのは、公営競技として()()()レースとして非常に盛り上がるものだかららしい。

 

第一に、猛暑のためにG1レースが全く組まれない夏競バにはG1制覇を目指す有力バたちが参戦することなく、秋のG1シーズンに向けて休養に専念することになる。休養と言ってもトレセン学園の生徒ならば夏合宿に行っていることがほとんどである。

 

第二に、秋のG1レースに参戦するために少しでも賞金を稼いで出走条件を満たしたいOPウマ娘が次々に参戦するため、実力こそはG1優勝を狙えるような有力バには及ばないものの、それだけに抜きん出た実力差が生まれないため、公営競技の興行として勝敗の予想がつかないところがある。

 

第三に、6月から解禁される新バ戦(メイクデビュー)が夏競バの時期にもやるため、未来のスターウマ娘の初陣を見届けるべく 重賞レースよりも新バ戦(メイクデビュー)に観客が集中する時期でもあり、新バ戦(メイクデビュー)にしても当然ながら初出走のために予想材料が少ないことから勝敗の予想がつかないわけで、『名家』のウマ娘というだけで期待していたらノーマークだった無名のウマ娘に差されることも度々あるのだ。

 

第四に、滞在競バという夏合宿をしながら現地の競バ場に密着したトレーニングを積む夏競バ独自の戦略があり、トレセン学園で言うなら関西の拠点となる京都分校、九州では旧宮崎競バ場跡の宮崎分校、東北は磐城分校、北海道なら日高分校に合宿遠征しながら夏競バに現地参戦するというものである。元から春秋のG1レースに出走するような強豪バには縁がないやり方だが、確実に夏競バで勝って秋のレースにも出たいという担当トレーナーと担当ウマ娘の強い絆が想像もつかない未来を切り拓くこともあり、これが非常に侮れないというのだ。

 

つまり、夏競バというものは重賞レースの最高峰であるG1レースほど注目されていないことから、世代の中心になれなかった2軍3軍という扱いの出走ウマ娘たちの間にある実力差が正確に分析されていないため、公営競技の興行としては非常に好ましい勝敗の予想がつかない手に汗握るレースが夏場の炎天下に展開されるというわけである。

 

 

余談だが、気づいているだろうか。主要なG1レースが開催される主要4場に数えられず、夏競バの舞台であるローカル開催場にも含まれていないという異質な中京競バ場のことを。

 

定義から言えば、G1レースは主要4場だけで開催されていたものであり、中京競バ場のG1レース『高松宮記念(中京大賞典)』は1996年にG1昇格を果たしたものであり、同じくG1レース『チャンピオンズカップ(ジャパンカップダート)』は2000年に創設された歴史的に新しいものである。

 

なので、主要4場に数えられないものは全てローカル開催場の扱いであり、G1レースが最初はなかった中京競バ場はローカル開催場なのである。

 

だが、西京(京都)と東京の間にある中京/名古屋こそが世界の中心と叫ぶ名古屋の人たちがそんなことを素直に聞き入れるはずもない――――――。

 

だからこそ、その見栄っ張りな名誉欲を刺激することで、大半の名古屋のウマ娘レースファンを夏越の大祓に託けたアグネスタキオンの雷鳴のメイクデビューの祝勝会 兼 この“斎藤 展望”の誕生日祝に招いて大盤振る舞いしてもてなすことで圧倒的な支持を取り付けることに成功したのが、中京競バ場を結び目とする中京茅の輪くぐりの成果でもあった。

 

 

さて、ここからが本題であり、夏というウマ娘レースのオフシーズンにおいてトレーナーたちは大きな分岐点を迎えることになる。

 

先に述べた通り、自分の担当ウマ娘が一生に一度しかない2年目:クラシック級のG1レースでの勝利に望みをかけられるかどうかで夏競バの開催される猛暑の季節のローテーションが大きく左右される。

 

6月から解禁となる『新バ戦(メイクデビュー)』を終えたばかりの1年目:ジュニア級のウマ娘に間髪入れず夏競バに参戦させることは極めて稀で、あるにしても1年目:ジュニア級の重賞レースには中・長距離がないのでクラシック路線を目指す場合は本当に縁がない。なんならダートもない。

 

そのため、1年目:ジュニア級のウマ娘にとっては余程の物好きでもない限りは夏競バに出走する選択肢はなく、素直に秋のジュニア級G1レースで好走して世代の中心になるべく鍛錬に励むべきだろう。

 

しかし、一生に一度しかない2年目:クラシック級においては夏は極めて重要な時期であり、一夏を越して急激に力をつける“夏の上がりウマ”の存在が秋からのスターダムを駆け上がることが往々にして見られたのだ。

 

この“夏の上がりウマ”の存在が2年目:クラシック級の秋競バを最高に盛り上げる要因になるわけであり、たとえ『皐月賞』も『日本ダービー』も取れなくても『菊花賞』だけでも獲ってやると春で夢を諦めずに秋に再挑戦することができるのだ。

 

 

――――――なぜ“夏の上がりウマ”というものが生まれるのだろうか?

 

 

もちろん、“本格化”の時期が重なった偶然の産物である可能性は高いが、科学的な立証がなされていない迷信の類のものが実在するかどうかを担当ウマ娘:アグネスタキオンの確実な勝利のためにこの目で確かめておく必要があった。

 

なので、1年目:ジュニア級のアグネスタキオンの夏はセオリー通りにトレセン学園でおとなしく過ごしているわけにもいかなくなったのだ。

 

また、公式戦『トゥインクル・シリーズ』と同時並行して開催される非公式戦『アオハル杯』で樫本代理が率いるチーム<ファースト>が優勝すれば、自由で開放的な校風だった黄金期に築かれたトレセン学園の日常が徹底管理主義の下に失われるため、打倒チーム<ファースト>を掲げてアオハルチームでの合宿遠征も敢行されることになったのだ。

 

これにより、担当契約を結んでトレーナーチームに参加しているウマ娘にしか合宿遠征の許可が取れなかったために、炎天下のトレセン学園で黙々と走り込みをするしかなかった数多くのヒマ娘たちもアオハルチームに参加しての初めての合宿遠征に心を躍らせることになった。

 

となると、よく考えずに公式戦『トゥインクル・シリーズ』と非公式戦『アオハル杯』に二足の草鞋で出走しようとしている今年の新入生が大半を占める1年目:ジュニア級のウマ娘も積極的に夏合宿に参加するようになるはずなのだ。

 

だが、4年間の忍耐の時を重ねて全盛期のトウカイテイオーと比べられるほどの初期能力を蓄えたアグネスタキオンという唯一無二の例外はともかく、トレセン学園の1年を経験していない新入生がいきなり夏合宿に参加しても効果があるのかは甚だ疑問である。

 

というのも、トレセン学園の新入生はまず教官から芝を買う金がないからダートになっている地方競バ『ローカル・シリーズ』とはまったくちがう中央競バ『トゥインクル・シリーズ』を夢の舞台に至らしめている最高品質のターフでの走り方を教わるわけで、

 

そこから教官の集団指導で中央での走り方の基本を押さえたところで『選抜レース』で実力を示し、担当契約を結んだ担当トレーナーからの個人の適性に沿った専属指導によってメキメキと実力を伸ばしていくものである。

 

問題なのは担当契約を結んだウマ娘が集まって担当トレーナーが責任持って管理しているトレーナーチームなら夏合宿に向けたトレーニング表の全員分を事前に作成しているわけだが、

 

入学生ばかりでトレーナーのお眼鏡に適ったわけでもないアオハルチームの夏合宿の場合は夏競バと同じで判断材料が何もなくて適切な指導がやりようがないのだ。

 

しかも、中央での走り方の基本を押さえずに最初に夏合宿という特殊な環境でのトレーニングを第一印象として強烈に身体に刻んでしまうと、逆にホームグラウンドであるはずのトレセン学園でのトレーニングに違和感を覚え続けてしまうのではないだろうか。

 

いや、そもそもとして、アオハルチームに参加しているウマ娘の面倒を見る義務は担当契約を結んでいない担当トレーナーにはないため、アオハルチームに参加しているトレーナーのいったい誰にアオハルチームに参加しているだけの()()()()()()()()ウマ娘の監督責任があるというのか――――――。

 

自分がこれはと見込んで担当契約を結んだ一人を勝たせるだけでも血反吐を吐く思いをしているのが中央のトレーナーであり、大切な“最初の3年間”を終えたら次の担当ウマ娘との契約を結んでトレーナーチームを形成していくことになって責任や負担が跳ね上がっていくのに、この上は非公式戦のチームメンバーの面倒まで見ていられるか――――――。

 

 

――――――秋川理事長が復活させたばかりの異例のチーム対抗戦『アオハル杯』は早速だが夏日照りに反して暗雲が立ち込めていた。いや、荒れようとしている。

 

 


 

 

――――――福島競バ場:11R『七夕賞』

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

アグネスタキオン「ふぅン。『七夕賞』『オールカマー』の連勝で燃え尽きたとされる大逃げのツインターボくんが『七夕賞』を再び制覇かい」

 

斎藤T「周りにいるのがG1レースを何勝もしているのが当たり前の超一流ばかりで感覚が鈍っていたが、ツインターボのように夏場も走り続けてようやく重賞レースに勝つのが大半だったんだな……」

 

岡田T「ええ。『七夕賞』『オールカマー』と重賞レースを連勝できただけでも大いに持て囃されるものです」

 

岡田T「その中でもツインターボがトウカイテイオーと並ぶ『トゥインクル・シリーズ』のアイドルホースとして人気者になれたのは、評論家が“悲壮感なき玉砕”と評した逆噴射した瞬間にツインターボのバ券を握っていた者も握っていない者も大声で笑う――――――」

 

 

――――――こんなウマ娘、他に誰がいるか。いない。ツインターボだけだ。

 

 

岡田T「重賞レースの最高峰であるG1レースこそ勝っていないが、『こういうウマ娘がいないと競バは楽しくないよね』と思わせる その潔い負けぶりからファンの支持を集めておりますな」

 

斎藤T「勝つか負けるかの勝負の世界で一種の清涼剤となっているわけか……」

 

岡田T「どうです? 俺の担当ウマ娘:トウカイテイオーの世代、つまり本当ならあなたと同世代になるはずだったライバルたちの在り方は?」

 

岡田T「勝つだけがウマ娘レースの人気の全てじゃないわけです。そうじゃなかったら、去年の『有馬記念』に人気投票でツインターボが選ばれるわけもない」

 

斎藤T「なるほど。福島競バ場は『ラジオたんぱ賞』『七夕賞』とツインターボが重賞2勝を上げた地であり、『福島の逃げウマといえばツインターボ』という風にウマ娘レースの歴史に刻まれたわけですか」

 

アグネスタキオン「そして、今日この日に再び『七夕賞』制覇によって、福島競バ場がもっとも暑い夏をまた迎えたわけだねぇ」

 

 

岡田T「今一度この場で確認しますが、目標は“クラシック八冠ウマ娘”ということで、“トリプルクラウン”“トリプルティアラ”“春秋グランプリ”を全て獲得するということで間違いないですか?」

 

 

アグネスタキオン「ああ。限りなく理論値に近づかなければ、私が目指すウマ娘の可能性の“果て”には辿り着かないだろうからさ」

 

斎藤T「いや、正確にはWUMA襲来の()()()()()を回避するタイムパラドックスを引き起こすために、()()()()()に繋がるウマ娘レース史には存在しない重賞レースをでっち上げることができればいい」

 

斎藤T「つまり、重賞レース『シンボリルドルフ記念』が創設されることを目標にしているのであって、私の担当ウマ娘が勝とうが負けようが関係ない」

 

斎藤T「重要なのはヒトとウマ娘が共生する世界がこれからも存続できるかどうかだ。それさえ果たせれば私から望むものはないです」

 

岡田T「……責任重大ですな。まさか公営競技のウマ娘レースで人類の未来が懸かってくるとは」

 

岡田T「けれども、俺もテイオーも去年の『ジャパンカップ』にWUMAに“成り代わり”された当事者なだけに、その脅威はよく理解していますし、決して許せるものではありません」

 

岡田T「いえ、斎藤Tに救われた命ですから、“クラシック八冠ウマ娘”という“私だけのシンボリルドルフ”でも果たせなかったような前人未到の壮大な夢の実現を命を懸けることに、何の躊躇いもありません」

 

斎藤T「ええ。よろしくお頼みしますよ、“帝王の太刀”」

 

 

岡田T「となると、どうしましょうか? 年末の『ホープフルステークス』まで半年はありますが?」

 

 

斎藤T「……難しいところですが、可能な限りの想定をしておいてください。まあ、気休め程度に」

 

岡田T「……そうですな。まさか私とテイオーの偽物が現れて『ジャパンカップ』で好走するだなんて思いもよらないことが起きて、その偽物を本物が打ち破って『有馬記念』で3度目の復活を果たすだなんてこと、誰にも予想がつかないことです」

 

アグネスタキオン「まあ、そうだろうねぇ。けど、その方が退屈しないで済むだろう」

 

岡田T「他人事のように言って……」

 

岡田T「まあ、史上初の“春シニア三冠”の優等生と組んで『アオハル杯』優勝も目指すことになった和田Tと比べたら、たった一人の担当ウマ娘の不可能への挑戦に頭を抱えるだけでいいのだから、まだマシか……」

 

 

斎藤T「ともかく、“不滅の帝王”として返り咲いた“悲運の天才”トウカイテイオーのように3年目も4年目もない以上、トウカイテイオーの轍を踏まないように今のうちに勝運を蓄えておく必要があります」

 

 

岡田T「――――――テイオーが“無敵の三冠ウマ娘”になれなかった理由か」

 

斎藤T「なることもできたけれども、なるために必要なものが欠けていたわけで、それが補われたことで『有馬記念』での奇跡の復活劇で永遠に人々の記憶の残る“不滅の帝王”になれたわけです」

 

岡田T「それがアイドルホースとして国民的人気を博す一方で、他者を顧みない傲慢さから足をすくわれることになったわけですな……」

 

斎藤T「そればかりは本当に日常生活での日頃の行いや心の向け方の報いだから、トレーナーが踏み込める領域ではないのですが、全ては善因善果・悪因悪果・因果応報なのです」

 

岡田T「そして、“ヒトとウマ娘の統合の象徴”として“全てのウマ娘が幸福でいられる世界”を願って走ってきたシンボリルドルフとの決定的な差ですな……」

 

アグネスタキオン「それじゃあ、学園一危険なウマ娘として学園中から厄介者扱いされていたこの私はいったいどれほどの天罰が下るのだろうねぇ?」クククッ

 

斎藤T「いや、4年間ずっと実験室に閉じ籠もっていたわけだから、入学当初に悪名を轟かせることになった悪行の報いは周囲から嫌悪の眼差しを向けられ 段々と忘れ去られていく 孤独に耐える日々で晴らされている。そこまで問題にはなっていない」

 

斎藤T「――――――だから、その頃に出会えたんだろう?

 

アグネスタキオン「……トレーナーくん」

 

岡田T「そう考えると、テイオーも同じことだったんだな……

 

斎藤T「今の状態のままなら、これまでの学外イベントで頑張って愛想よくした地道なファンサービスのおかげで“無敵の三冠ウマ娘”ぐらいにはなれるだけの運気は間違いなくあるから、そこまで怯える必要はない」

 

アグネスタキオン「へえ、そういうものかい。なら、“待つこと”を選んだのはホントに正解だったみたいだねぇ」

 

岡田T「いいなぁ。そういうのがわかっていたら、テイオーに苦しい思いをさせずに『菊花賞』も『ジャパンカップ』も『有馬記念』も勝たせてやれたのにな……」

 

斎藤T「いや、よくないですから。目標となる“クラシック八冠ウマ娘”になるには“トリプルクラウン”だけじゃなく“トリプルティアラ”と“春秋グランプリウマ娘”になる勝運に加えて、テイエムオペラオーのように年間無敗全力阻止包囲網を打破することに加えて、史上初の『宝塚記念』のクラシック制覇も必要で、全然 目標に足りてないですから、運」

 

斎藤T「特に、初めての壁を超える偉業を成し遂げた初代の功績に次代が並ぶためには初代の3倍の偉業を成し遂げる必要がある」

 

斎藤T「実際、シンボリルドルフが果たした“無敗の三冠”なんてものは実現された後はみんなが不可能だと思う意識の壁が破壊されているから、その翌年から“無敗の三冠”に並びかける名バが次々と後に出てきていることから明らかでしょう」

 

アグネスタキオン「裏返すと、初めての事を成し遂げるためにはそれだけの運と努力と実力が必要だと。初めてのことが成し遂げられた後はその要求が1/3ぐらいにまで下げられるわけだね」

 

斎藤T「だから、とにかく善行を積んで勝運を限界まで蓄えないといけないんですよ、これが」

 

岡田T「え、どうするんです、となると? 年末の『ホープフルステークス』まで“クラシック八冠ウマ娘”になれるほどの善行を重ねていくんですか? どうやって?」

 

アグネスタキオン「いったいどんな善行をしていけば そこまでに達するのか まったく想像がつかないねぇ」

 

 

斎藤T「いやいや、何を言っているのですか? これから 山程 問題が噴出することになるんですよ、これが!」

 

 

斎藤T「何のために私が WUMAやら妖怪やら改造人間やらテロリストやら機械生命体やらいろいろ 命がいくつあっても足りない戦いを人知れずやらされているかがわかりますか?」

 

斎藤T「全ては()()()()()を変えるタイムパラドックスのために陰徳を積まされているのであって、決して“クラシック三冠”程度のことを叶える陽徳を積むために三女神に使われているわけじゃないんです!」

 

斎藤T「最小限の努力で最大限の効果を得るのが至上ならば、タバコの不始末を見つけて灰皿スタンドに入れた通行人と、タバコから火が燃え移って火事になったのを消火した消防士のどちらが神の目から見て点数が高いかですよ」

 

斎藤T「これが担当トレーナーである私が誰にも褒められることのない孤独の戦いに身を投じて陰徳を積む意味で、ありがとうを言われてチヤホヤされることで徳分を無駄に消費するわけにはいかないんです」

 

斎藤T「けれども、人々の思いが場の空気を作り、雰囲気を作り、世論を作り、風潮を作り、霊界を作って現実世界を現し世として動かす以上は活動を認知してもらって 賛同者を集めて 1つの目標に向かって同じ願いを集めることも重要で、そのためには『勝って当然』『勝って欲しい』『勝ってもらいたい』と多くの人に思われる支持率を集めることも顕幽一致で必要になってくるんだ」

 

斎藤T「だから、表立ってアグネスタキオンの名前で善行を積み重ねて陽徳を蓄えていくことも計画の内なんです!」

 

斎藤T「さあ、来年のために種を蒔こう!」

 

 

――――――担当トレーナーの私は陰徳を積む裏方、担当ウマ娘のあなたは陽徳を立てる主役。表舞台も裏舞台も制覇していくのが、この夏から始まるたった1年半だけの本当の戦いだ。

 

 

先週 6月30日の“斎藤 展望”の誕生日、雷鳴のメイクデビュー、中京茅の輪くぐりにおいて、わざわざ時間跳躍してまで『メイクデビュー福島』を観戦することになった福島競バ場――――――。

 

今、私たちは改めて福島競バ場に訪れ、トウカイテイオーの同世代として今も走り続けて重賞レース『七夕賞』を“みちのくの逃亡者”ツインターボが再び勝利する瞬間を目撃することになった。

 

ツインターボはその二つ名の通り“異次元の逃亡者”サイレンススズカと同じ大逃げで有名なウマ娘で、サイレンススズカのようにG1勝利は記録していないものの、最初から最後まで全力疾走で 勝つ時は逃げ切り圧勝か、さもなければ失速惨敗というレース振りから、俗に「玉砕型」と呼ばれるタイプの逃げウマの象徴的な存在となっていた。

 

もちろん、夏競バに参戦せざるを得ないことを踏まえても世代の中心だった“天才”トウカイテイオーとは能力差は歴然としているわけだが、そんな単純バカに思えるツインターボの真似をすれば重賞レースで勝てるのならみんなそうするだろうに、それに続く逃げウマが未だに現れていないことがツインターボの非凡さを鮮明に物語っている。

 

そもそもとして、中央競バの重賞を獲得できるのは上位2%以下。そこから重賞3勝ともなれば1%以下の存在であり、重賞レースを1つ勝つだけでも十分に選ばれし者なのだ。それだけに重賞勝利がいったいどれだけのウマ娘が手を伸ばして掴むことのできない輝かしい栄光なのかを軽く考えすぎていた。

 

だから、ツインターボ程度の実力のウマ娘が福島競バ場で地元のヒーローのような扱いを受けていることに衝撃を受けるトレセン学園の人間は珍しくなく、重賞レースの最高峰でなくとも重賞の1つ1つが極めて価値のあるものなのを再認識させることになった。

 

そう、夏競バはG1制覇を狙えない2軍3軍扱いの底辺のウマ娘が出るものだと思われがちだが、G3レース『七夕賞』でさえも1着賞金:4300万円なのだから、それと比べたらクイズ番組の最高賞金:1000万円で億万長者になろうなどと片腹痛いものにしか思えなくなる。

 

なので、主要4場での観戦が難しい人たちにとっては地元のローカル開催場での夏競バは十分に中央競バ『トゥインクル・シリーズ』の魅力を日本各地に伝える役割を果たしており、むしろ日本のスポーツ大会は夏こそ最高潮を迎えるため、春や秋に日本一を決める重賞レースがそれぞれ開催されるのは違和感があるのだとか。

 

そう感じるのも無理はなく、競バのシーズンは世界共通の新年の1月から始まって12月で締めくくるものになっているのだから、一般的なスポーツ大会のローテーションとはまったくちがう時間の流れとなっている。

 

その一方で、上位リーグ『ドリームトロフィーリーグ』は夏と冬の開催であり、G1レースの開催がほとんどないオフシーズンの夏競バと冬競バと連動して年間のウマ娘レースを盛り上げ続ける番組作りが凝らされているわけである。

 

今回のツインターボの『七夕賞』観戦はメイクデビューを果たした担当ウマ娘:アグネスタキオンにトウカイテイオーの同世代にはツインターボというアイドルホースがいたことを目の当たりにするためであり、同時にこういった形で名バとして人々の記憶に残る方法もあるのだと教えてくれていた。

 

同じウマ娘レースで人気者であるG1:4勝のトウカイテイオーとG1未勝利のツインターボの在り方のちがいを踏まえて、『トゥインクル・シリーズ』に参戦を果たしたアグネスタキオンが目指す“クラッシック八冠ウマ娘”の在り方に選択肢を岡田Tが提示しているわけでもあり、同時にトウカイテイオーやツインターボのようにはなれないことも痛感させられるわけである。

 

その道は前人未到の道なき道であり、その道を切り拓く一番手の名誉を与るためには切り拓いた道に続く者が現れないといけないため、正しく評価できるようにわかりやすく手柄を立てるべきなのだ。さもなければ、誰の許可も得ずに勝手に道を作り出した違反者として罰せられて功績は無に帰す。

 

 

しかし、()()()()()を変えるタイムパラドックスのための“クラシック八冠ウマ娘”という不可能への挑戦でしかない道なき道であろうとも、これまでの1年間で体験してきた出来事を振り返れば、それは決してその先には新天地など最初からない虚無への道程ではないことを信じることができるだろう。

 

 

そう、必要な時に必要なものを必要なだけ用意するのが、最小限の努力で最大限の成果を生み出す神の一手であることを何度もわからされてきたのなら、天網恢恢疎にして漏らさず、これまでの1年間の駆け抜けるような壮絶な日々の中に道なき道を切り拓くためのヒントになるものは手繰り寄せられるのだ。

 

当時の常識では不可能だと思われていたことなんてものは 今日に至るまでの歴史においては数えきれないほどに無限に打ち破られて 文明は次の段階へと刻一刻と進化していっていることを顧みるがいい。

 

そもそも、“皇帝”シンボリルドルフが導いたトレセン学園黄金期が何故に“黄金期”と称えられるのかと言えば、これまでの中央競バ『トゥインクル・シリーズ』の常識ではあり得ないような奇跡と呼べる記録更新や語り継ぐべき名勝負が生まれ続けてきたからなのだ。

 

そのことを肝に銘じれば、“クラシック八冠ウマ娘”なんてものもいずれは必ず達成されるものでしかなく、黄金期を迎えてG1勝利を当たり前のように積み上げていく天才の中の天才が次々と夢の舞台を盛り上げていくのは時代の流れの必然だと“私”は確信を持って言える。

 

なぜならば、23世紀の宇宙時代にはある1つの分野に精通しただけの天才(スペシャリスト)などは大した存在ではなくなり、いくつもの分野で功績を上げる天才(ジェネラリスト)が数えきれないほど存在して手を取り合い、文明の進歩が加速度的に進む時代に生まれたのが 世紀の大天才たる この“私”なのだから! “私”は人類史の進化の生き証人なのだ!

 

 

 

――――――トレセン学園

 

 

ソラシンボリ「へえ、夏合宿が解禁されて1週間で随分と人がいなくなったもんだね、トレセン学園も」

 

和田T「合宿遠征は担当トレーナーと契約した担当ウマ娘だけのトレーナーチームだけが許可されていましたが、『アオハル杯』復活に当たってトレーナーチームのチーフトレーナーが同行することによってアオハルチームも合宿遠征できるようになったわけで、」

 

和田T「たしかに今の感じの静けさは例年にはないものです。『春のファン大感謝祭』閉幕からのスカウト解禁から『春の選抜レース』までレーストラックに誰もが駆け込んで最高に盛り上がっていた頃と比べれば雲泥の差」

 

ソラシンボリ「じゃあ、トレーナーチームのチーフトレーナーを引き込めなかったアオハルチームは指を咥えて他のチームが合宿遠征に行くのを見ている他ないわけだね」

 

和田T「とは言え、このトレセン学園が国内最高峰のトレーニング環境を完備しているわけですから、合宿遠征に行かずに普段通りの学内でのトレーニングを一貫するのも1つの戦略です」

 

ソラシンボリ「そうだろうね。夏合宿とは別に夏休みもあるわけだから、いつも人で溢れ返っていたトレセン学園でのトレーニングに集中しやすくなるだろうね」

 

ソラシンボリ「まあ、担当契約を掴み取っていないウマ娘や次の担当ウマ娘をどうするかを考えているトレーナーとの出会いの場を提供する目的の『アオハル杯』だから、それでスカウトが増えれば学園側としては万々歳だろうけど、」

 

ソラシンボリ「相変わらず、担当ウマ娘を勝たせる義務がある担当トレーナーの負担のことは考えてはくれないよね、体制側は」

 

ソラシンボリ「トレーナーチームが連合してできたアオハルチームならさ、チームメンバーのウマ娘の監督責任は元々の担当トレーナーが面倒を見ているからいいけれど、そうじゃない数合わせの()()()()()()()()ウマ娘の面倒は誰が最後まで見るんだろうね?」

 

和田T「……俺をアオハルチーム<エンデバー>のチーフトレーナーに据えた張本人が言うか、それ?」

 

ソラシンボリ「けど、『アオハル杯』は 5部門 3人ずつの異例のチーム対抗戦だから、基本的にアオハルチームは15人以上 最大で30人までの大所帯になるわけだから、たった1人のトレーナーに管理しきれるわけもないよね?」

 

和田T「ああ。だから、アオハルチームのトレーニングレベルによって学園の国内最高峰のトレーニング環境の優先権というメリットを提示して、トレーナーチームの連合を呼びかけることになるわけです」

 

ソラシンボリ「そうなんだけどさ、そもそもがウマ娘レースは1着しか勝者とみなされない非情な勝負の世界なんだから、トレーニング環境やトレーニング仲間に困らなくなるウマ娘の側はメリットしかないだろうけど、ライバルの育成にも手を貸すことにもなるトレーナーの側としてはデメリットも大きいよね」

 

和田T「さて、どうだろうな? 他山の石を以て玉を攻むべし、建前上は同等の条件での正々堂々の勝負なんだから、互いに手を貸し合ったトレーニングで歴然とした差が生まれるのなら、それこそが実力の差なんじゃないかな?」

 

和田T「そんなデメリットばかり気にする後ろ向きな考えの連中なんかより、自分たちが勝ち取るメリットが大きいと信じて積極的に連合が組まれているのが現状なんだから、そこまで心配するようなことは起きないと思いますよ、ソラ?」

 

ソラシンボリ「まあね、今は」

 

 

和田T「――――――で、『チーム<エンデバー>は夏合宿しない』という方針でいいのか、ソラ?」

 

 

ソラシンボリ「うん。まだトレセン学園の1年を経験していない新入生が夏合宿に行ったって大した成果は得られないと思うよ。夏合宿の時以外は基本的にトレセン学園の設備でトレーニングするんだから、いきなり夏合宿の特別なトレーニングをしたってねぇ?」

 

ソラシンボリ「そもそも、夏合宿は担当ウマ娘の緻密な育成計画に基づいて狙った能力増強を目指す場なんだから、まだ適性を判断しきれていない子に特別トレーニングを施したところでステ振りが無駄になるだけだよね? 基礎トレーニングで出てきた能力の差異から適性を診断するのに必要な情報が足りなすぎだよね?」

 

和田T「おっしゃる通りで」

 

和田T「そもそも、『アオハル杯』は5部門に3人ずつのチーム対抗戦というわけですが、中央で不人気な短距離やダートの専任になることを入学してきたばかりの新入生が受け容れられるわけもないでしょうね。みんな、王道路線の中距離かマイルで走りたいと思っているはずです」

 

ソラシンボリ「うん。だから、『アオハル杯』が開催される6月と12月の重賞レースに出走登録しない現役ウマ娘を各世代ごとに計画的に引き込む必要があるんだよね」

 

和田T「チーム総合力は現役ウマ娘の階級ごとに割り振られたポイントの合計値で大まかに決まりますからね」

 

和田T「ただ、そうなると『アオハル杯』が開催される時期に必ずある『春秋グランプリ』に出走する現役最強ウマ娘は逆に『アオハル杯』では戦力になれないから、名前を貸しているだけの現役ウマ娘はできるだけ分散させたいところですね」

 

ソラシンボリ「まあ、『宝塚記念』『有馬記念』の人気投票から漏れた実力者が『アオハル杯』にリベンジで参戦してくれたら理想的だけれど、そこで活躍したところで非公式戦だから何の得にもならないんだけどね……」

 

和田T「難しいな。黄金期を主導した秋川理事長とシンボリルドルフが既デビューウマ娘たちに最後の舞台となる卒業レースとして新設した『URAファイナルズ』に対して、未デビューウマ娘の才能発掘の場として復活させたのが『アオハル杯』だから、」

 

和田T「未デビューウマ娘たちを優遇した積極的是正措置(アファーマティブ・アクション)になっているのはわかるけど、既存の担当契約の在り方からするとあまりにも旨味がないから、これまで廃止と復活を繰り返してきたのもよくわかるよ」

 

和田T「生き残った古豪たちに最後のレースの場を与える『URAファイナルズ』は定着していくけど、本当にそこまでする価値があるのかトレーナーの側からは感じられない『アオハル杯』はそんなでもないと思っちゃうよ」

 

ソラシンボリ「だから、ボクたちで『アオハル杯』の在り方に新たな付加価値を見出していかないとだよ、和田T」

 

和田T「――――――『付加価値』か」

 

ソラシンボリ「そうだよ。これも不可能への挑戦。それに挑むことを人生の誇りにするんだ」

 

 

ソラシンボリ「それこそ、シンボリ家の御題目である“全てのウマ娘が幸福でいられる世界”の実現のために『名家』も『名門』も扱き使ってやろうじゃない!」

 

 

和田T「……とんでもないことに巻き込まれてしまったなぁ」

 

和田T「……マックイーンの卒業に合わせて引退する予定がどうしてこうズルズルと引き摺ることになっちゃったのかなぁ」

 

ソラシンボリ「そんなの、そういう実績もあって これまでのしがらみに囚われることなく 新しいものに取り組んでいける 本当の意味で黄金期の精神を受け継いだ 手近な人だったからでしょ?」

 

和田T「……たしかに、俺が中央に配属されたのは“皇帝”シンボリルドルフが入学してきた年で、その一部始終を見届けることになった一人か」

 

ソラシンボリ「黄金期の精神とは安定を繰り返すことなんかじゃない。更なる飛躍を求めて挑戦する愛と勇気と冒険の星に生きることなんだ」

 

ソラシンボリ「――――――停滞こそが死。流れに逆らうことが死。動くことを止めたら死」

 

ソラシンボリ「血管が詰まったら生き物は死ぬ。運動不足で筋肉が衰えて立てなくなったら飢えて死ぬ。川の流れが停まったら大地も干上がる。地球の回転が停まったら人や動植物のみならず、水や岩、そして大気までもが吹っ飛ぶ」

 

ソラシンボリ「だから、虹の彼方へ行こう! 汗を拭って 涙を拭いて みんなの心の闇を照らす一筋の光になるんだよ!」

 

和田T「……ああ。また夢を見させてもらおうじゃないか、この夢の舞台で」

 

ソラシンボリ「目指せ 夢のヒーロー!」

 

 

――――――疾走(はし)り出せば、ヒーローになれるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇敢の女神「陽は昇り、沈みゆく」

 

規律の女神「遥か彼方の地平へと」

 

愛情の女神「けれど、必ずまた昇る」

 

 

愛情の女神「幾度も、幾度も、巡り合う」

 

規律の女神「強き意志が途絶えぬ限り、想いは循環する」

 

勇敢の女神「これまで生まれてきた者たちへ。これから生まれてくる者たちへ」

 

 

――――――全ての出会いと別れに贈ろう。

 

 

愛情の女神「永久に続く幸福を」

 

規律の女神「長きに渡る栄光を」

 

勇敢の女神「彩りに溢れた未来を」

 

 

 

 

 

――――――新時代最初のこの夏、世界は生まれ変わる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の女王「――――――『お友だち』はたくさんいた方がいいのでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アグネスタキオン’「――――――おやおや、カオスが渦巻こうとしているねぇ。これから先の未来はいったいどうなることやら」クククッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽那「――――――兄上のため、皇国のため、世界のため! 今はただ研鑽あるのみ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬馬 剣禅「――――――KUGYOめ、SAKIMORIやARIYOを動かして いったい何を考えている!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トウカイテイオー’「――――――ボクたちはどうしてこんなところに来てしまったんだろうね、トレーナー」

 

 

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