ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第1話秘録 復活のアオハル杯に満たされるは血反吐か歓喜の涙か、神のみぞ知る

 

-シークレットファイル 20XY/07/01- GAUMA SAIOH

 

 

世間的には昨日の6月30日は福島・芝・1800m『ラジオNIKKEI賞』、あるいは中京・芝・1200m『CBC賞』であるが、私からすれば担当ウマ娘:アグネスタキオンの雷鳴のメイクデビューであり、今日は公式戦出走バの振替休日であった。

 

一方、公式戦『トゥインクル・シリーズ』と同時並行で開催される非公式戦『アオハル杯』はついに復活となり、第0回戦と称されるオリエンテーションが執り行われた。

 

要は、『アオハル杯』復活の発表から開幕までに結成されたアオハルチームのチーム総合力から最初のチームランキングが決定され、このランキングを元に異例のチーム対抗戦が半年に1回ずつ3年間行われるわけである。

 

すでに担当契約を結んで『トゥインクル・シリーズ』で活躍している既デビューウマ娘には何の益もない非公式戦で、その実態は未だにスカウトされることのない未デビューウマ娘の救済であったのだが、

 

その復活を巡って長期海外出張の秋川理事長から留守を任された樫本代理の謀反とも言える『管理教育プログラム』施行の是非を巡った3年に渡る死闘が始まりを告げるのであった。

 

暗黒期に『アオハル杯』を経験して重たい十字架を背負うことになった樫本代理からすれば、廃止と復活を繰り返したのも納得の公式戦と非公式戦の板挟みのクソローテーションでトレセン学園が阿鼻叫喚になるのは目に見えているということで、

 

その痛ましい記憶を今度こそ永久に刻みつけることで大切な教え子たちが苦しむことがなくなるように徹底管理主義の『管理教育プログラム』施行を画策したわけであり、

 

愚かにもその思惑も真意も見抜けない黄金期のトレーナーたちは 悪役として振る舞う準備万端の樫本代理の口車に乗せられて これまでのトレセン学園の日常を守るために『アオハル杯』での勝利を意地でも掴まなくてはならなくなったのである。

 

しかも、今はまだ始まったばかりで 担当ウマ娘を勝たせなくてはならない個人競技の公式戦と勝たせても成績に反映されない団体競技の非公式戦を同時にこなすことがどういうことなのかが体感できていないので 廃止と復活を繰り返すことになった理由となる重篤な問題は噴出していないが、

 

やがては『アオハル杯』で樫本代理に勝とうが負けようが徹底管理主義が正しいという納得の支持を学園の大多数のトレーナーから得られることになると樫本代理は確信しているわけであり、『アオハル杯』復活の3年間は血反吐で塗りたくられるのが繰り返されるのだと涙を呑んで臨むのだった。

 

ただ、言うまでもないが、大多数のウマ娘やトレーナーたちが最初に感じていたように、強権的に『管理教育プログラム』を導入して徹底管理して安心を得たいという思いは言うまでもなく()()()()()()()()()()()()樫本 理子の個人的なエゴに過ぎない。

 

もちろん、『管理教育プログラム』とてトレーナーの指導方針の1つのやり方としてならば、担当ウマ娘との合意の下でいくらでも実践して成果を上げていけばいいものだが、担当ウマ娘を命令規則に絶対服従させたところで勝てるのならば、トレーナーもウマ娘も進んでそのやり方に従うのが競争原理というものだ。

 

だが、現実として『それでは勝てない』というのがこれまでの長いのウマ娘レースの歴史から得られた教訓であり、現に黄金期にもっとも活躍して名声を博しているのはG1勝利を記録し続けた無名の新人トレーナーばかりで ベテラントレーナーの堅実さに憧れてトレセン学園の門を叩く者はいない。

 

そう、そんなことはトレセン学園の運営母体であるURAの理事会だって百も承知であり、だからこそ公営競技としてギネス記録に認定されるほどに大繁盛で儲かるわけであり、それを大衆は夢と崇めてヒトもモノもカネもトレセン学園に寄り集まるのだから、URA上層部だってここまで上手く行っているものを積極的に崩したいとは思わない。

 

けれども、トレセン学園は同時に中高一貫校の教育機関でもあるのだから、引退即退学となるような場所を夢の舞台と崇めるのは不健全という中央省庁の圧力もあるため、黄金期によって弛んだ風紀や秩序を綱紀粛正するために送り込まれた憎まれ役が樫本 理子というわけである。

 

そう、樫本代理としては『アオハル杯』で自身が率いるチーム<ファースト>が勝とうが負けようが『管理教育プログラム』が絶対に受け容れられると確信して、ここまで状況を完璧にコントロールして準備万端で全てのトレーナーとウマ娘たちを迎え撃つわけだが、

 

URA上層部もまた、樫本代理の信念の下に『管理教育プログラム』の導入が成功しようが失敗しようが、それが収益に影響しないのなら まったく意に介す必要がないのだ。国内最高峰のトレセン学園でさえも数あるURA公式団体の1つでしかなく、『管理教育プログラム』が不振に終われば、他の団体を見習って すぐさま廃止すればいいだけなのだから。

 

これが組織の運営というものであり、組織の体質というものであり、組織の強大さというものであり、たった1人の個人の意志を貫いて組織の改革を促すことがいかに容易ではないことか――――――。

 

しかし、新時代の荒波が押し寄せようとしている。自身を黄金期の継承者と自惚れる者たちを無惨にも呑み干すほど大津波が押し寄せようとしていた――――――。

 

 


 

 

――――――エクリプス・フロント / 多目的ホール:ESPRIT部室

 

 

ナリタブライアン「いよいよ『アオハル杯』オリエンテーションでチームランキングが発表されたわけだが……」

 

マンハッタンカフェ「樫本代理のチーム<ファースト>は堂々の1位でしたね」

 

女代先生「そして、我らが希望の星:チーム<エンデバー>は15位ですか」

 

ナリタブライアン「正直に言って驚いたぞ、これは。完全に準備万端だったチーム<ファースト>はともかく、今年の世代の中心が集まって確実に2位は狙えるものとばかり」

 

斎藤T「いやいやいや、全てルール通りですよ。あくまでも初期のチームランキングは既デビューウマ娘の階級が高いほど上がるわけですから、2年目:クラシック級や3年目:シニア級のウマ娘がたくさん集まったチームが上位になるのは何もおかしなことじゃない」

 

ナリタブライアン「そうは言うが、参加資格が未出走から3年目:シニア級までなのに、今年で3年目:シニア級のウマ娘が出走できるのは『アオハル杯』1年目のプレシーズン戦だけじゃないか」

 

斎藤T「それまではトレーニング設備を独占しやすくなるよね」

 

マンハッタンカフェ「そうですね。チーム総合力が上がってチームランキングが高くなればトレーニングレベルも向上して最新のトレーニング器具の優先権も得やすくなりますから」

 

女代先生「それが『アオハル杯』に参加する最大のメリットってわけよね」

 

女代先生「始めてみたら残り少ない参加期間であっても、少しでもトレーニング設備を優先的に使える恩恵を受けようと2年目3年目のウマ娘たちが連合を組むんだから」

 

マンハッタンカフェ「来年にはチームが自動消滅するにしても、『アオハル杯』開幕直後のチームランキングで少しでも得をしようと動けるのが2年目3年目のウマ娘たちの強みですね」

 

女代先生「スカウトとは縁遠いヒマ娘救済のための『アオハル杯』復活の主旨に反して、それが担当トレーナーとしては正解なんだろうけど、利用できるものは何でも利用して担当ウマ娘の役に立てようとするトレーナーたちの自分本位の意地汚さを見せつけられた気分ね」

 

ナリタブライアン「そうだな。自分たちのローテーションを『アオハル杯』で崩されないようにスカウトを断る口実で自主的にアオハルチームを組んでいる名義貸しが多くないか、これ?」

 

斎藤T「それを言ったらチーム<エンデバー>も『アオハル杯』のレースが開催される時期に設定されている『宝塚記念』『有馬記念』に出走できるようなスターウマ娘ばかりだから、人のことを言えたもんじゃない」

 

斎藤T「そもそも、それが正しいんだよ。『アオハル杯』は本気の遊び(非公式戦)であって、本気の勝負(公式戦)である『トゥインクル・シリーズ』を優先するのが大前提なんだから」

 

ナリタブライアン「――――――勝てるのか、それで?」

 

斎藤T「本気の遊び(非公式戦)と言っても勝負の形式は本気の勝負(公式戦)と同じだよ。その本気の遊び(非公式戦)にどこまで本気でいられるチームがあるかだ」

 

女代先生「そうね。こうして最初はランキング上位を独占しているチームのほとんどが甘い汁を吸うために集まった自分本位の連中ばかりだから、プレシーズン戦が始まるまでの短い付き合いになるでしょうね」

 

マンハッタンカフェ「難しい話ですよね。『アオハル杯』の3年間を本気でやり通すとなると『宝塚記念』『有馬記念』をあきらめないといけなくなりますし、その2つをあきらめるということは優駿たちの頂点になる夢をあきらめると宣言したようなものですから」

 

マンハッタンカフェ「だから、チーム<エンデバー>は最初からトレーナーのスカウトを受けないことを条件にして全力で『アオハル杯』の3年間を楽しんだ後、残りの3年間で『トゥインクル・シリーズ』も走り通そうという計画になるわけですね」

 

斎藤T「こんな迂遠な計画を遂行する羽目になったのは、トレセン学園がバカみたいに総生徒数を増やしておきながら、URA公認トレーナーの供給がまったく追いつかない状況を放置してきたせいなんだけどね! 根本が狂っているんだから、応急処置で何をしたって根本的な解決にならないのは当然だ!」

 

 

――――――だから、私は何度も『まず第一にトレーナーを増やせ』と言っている!

 

 

斎藤T「よし、『エクリプスビジョン』の今日の整備は万端。印刷紙もインクも揃っているな」

 

女代先生「凄いわよね。試験運用を始めてすぐに絶賛稼働中になって行列が毎日できるようになったわけだし、提示されたトレーニング内容を実践するまでリピーターが来ることはないにしても、新規がこれだけ多いと楽しくなってくるわね」

 

斎藤T「おかげで印刷が追いつかないんですけどね。意外と印刷して持って帰る子が多くて 大好評につき 印刷待ちの状況が続くのは良くないということで、印刷機を増やして夜を徹して稼働させるなど涙ぐましい努力をさせられています」

 

斎藤T「ここにあるの、引き渡し待ちの印刷済みの資料ね、全部。印刷費と維持費を賄うための値段設定でもこれだけ需要があるとなると、ちょっと値段を釣り上げるだけでも莫大な収益が見込めますね」

 

女代先生「うんうん。だって、これって宝物よね。電子データは記憶媒体にすぐに移し替えられるけど、この分厚さと重みが自分の可能性の価値だってことだから、形のあるものにして持って帰りたいと思うのは自然なことよね」

 

女代先生「ねえ、せっかくだから、紙の資料を封筒に入れるだけなのは味気ないから、バインダーも販売したらどうかしらね? ページ数がふってあってもバラバラになったら大変じゃない?」

 

斎藤T「じゃあ、印刷機の隣に専用の手動パンチ台とリングバインダーの自動販売機も置いておきましょうか」

 

ナリタブライアン「ああ、それがいい」

 

斎藤T「あまりこれ以上はESPRITの部室になる多目的ホールの外に物を並べたくないんですけどね……」

 

ナリタブライアン「なら、ESPRITの部室を増やせばいいんじゃないのか?」

 

マンハッタンカフェ「そうしたいのは山々なんですけど、クラブ活動の要綱には部室の規模は基本的に人数に比例することになっていて、竣工したばかりのエクリプス・フロントの多目的ホールの1つを丸々使わせてもらっているだけでも特別待遇なんですよ」

 

ナリタブライアン「そうか。クラブ活動のために部活棟があったか。クラブ活動やサークル活動はそこにある部室を充てがうのが基本だったな。オープンしたばかりのエクリプス・フロントの多目的ホールを部室に使えているのはたしかに特例措置だな」

 

マンハッタンカフェ「それにエクリプス・フロントはトレセン学園の附属施設ですけれど、厳密にはURA傘下の管理会社が所有するビルなので、本当は斎藤Tが室長を務める某重工の開発室のおまけでテナントをESPRITのために貸し出してもらえているものなんです。開発室あってのESPRITなのでテナント契約が絡んでくるんです」

 

ナリタブライアン「いちいち面倒なんだな――――――、ん。いや、待てよ」

 

女代先生「どうしたの、ブライアンちゃん?」

 

ナリタブライアン「1階に売り場があるだろう。そこで売ってもらったらどうだ。そうすれば面倒な手続きは要らないだろう」

 

女代先生「――――――アンテナショップにバインダー?」

 

女代先生「冴えてるわね、ブライアンちゃん! URA公認オフィシャルグッズの文房具はたしかに取り扱っているけれど、バインダーを売っているのはさすがになかったわねぇ!」

 

斎藤T「なるほど、たしかに! あくまでも新開発のモニターという名目で『エクリプスビジョン』を取り扱っている以上、直接的な物販は許可されない可能性があったけど、アンテナショップで取り扱ってもらえるのなら話は早い!」

 

マンハッタンカフェ「でしたら、バインダーのカバーの印刷もできたら嬉しいですよね。需要があるはずですよ。自分だけの宝物になる資料を挿むバインダーですし、担当トレーナーにしても目的に応じてバインダーの模様替えができたらメリハリがつくと思いますよ」

 

女代先生「いいよぉ、カフェちゃん! 総生徒数2200名弱でみんな同じ柄のリングバインダーなんてつまんないもんね!」

 

女代先生「どう、斎藤T!? 実現できるかしら!?」

 

斎藤T「方法としてはバインダーに合わせた規格のラベルシールに印刷したものを貼り付けるのがもっとも安上がりでしょう。そのためのラベルプリンタとさっき言っていたリングバインダー用の手動パンチ台も併設しましょう」

 

マンハッタンカフェ「――――――ラベルシールですか。たしかにその方が簡単ですね」

 

女代先生「ちょっとまって! それだけじゃないわよ! シールと聞いて!」

 

女代先生「デコよ、デコ! デコレーション! キラキラのデコシールも合わせて販売! そう、プリクラみたいに!」

 

女代先生「売り文句は『自分だけのロードマップを飾り付けろ!』でどう!? これでアンテナショップの収益アップで店長も大喜びよ!」

 

斎藤T「いいじゃないですか、女代先生! これからは『エクリプスビジョン』で印刷されたトレーニング資料をデコレーションしたリングバインダーにファイリングして持ち歩くのが当たり前の時代になりますよ!」

 

女代先生「カフェちゃん! ブライアンちゃんにカタログギフト進呈!」

 

マンハッタンカフェ「あ、はい! どうぞ!」

 

ナリタブライアン「な、なにぃいいい!? くれるのか、カタログギフト!? 1階でバインダーを売るように言っただけで!?」

 

斎藤T「これはエクリプス・フロントの売上とトレセン学園の活性化に多大なる貢献を果たす極めてナイスなアイデアを提供していただいた報酬です。お納めください」

 

ナリタブライアン「うおおおおおおおおおおおおおおおお! やったぞ、姉貴ぃぃいいいいいい!」

 

ナリタブライアン「こ、こいつはスゴい! 神戸牛に近江牛に松阪牛! 米沢牛に阿波牛! 阿波牛もあるぞ! この中から1つ選べるのか! 和牛のオリンピック! そんなものもあったのか!?」パラパラ・・・

 

女代先生「よかったわね、ブライアンちゃん」

 

マンハッタンカフェ「はい。よかったですね」

 

斎藤T「――――――あ、もしもし? エクリプス・フロントの1階のアンテナショップに並べて欲しい商品があるんだけど、時間あるかな?」ピポパ・・・

 

 

サトノダイヤモンド「話は聞かせてもらいました! 私のトレーナーになってください、斎藤T!」

 

 

瀬川T「ええええええええ!? 開口一番、それえええええ!?」

 

ナリタブライアン「なっ」

 

マンハッタンカフェ「!?!?」

 

斎藤T「うわでた」チラッ ――――――付き人の瀬川Tの手には『エクリプスビジョン』で発行された資料が入った封筒がある。

 

女代先生「……サトノダイヤモンドさん?」

 

瀬川T「あ、すみません、皆さん。いきなりやってきて うちの担当()が無礼なことを」

 

瀬川T「というか、ダイヤちゃん? ダイヤちゃんに担当トレーナーに選んでもらった僕の立場はどうなるの、今の発言?」

 

サトノダイヤモンド「大丈夫です! 2人で私の指導をしてくだされば何も問題はありません!」

 

瀬川T「なにそれ。何言っているのか、僕には全然わかんないや」

 

マンハッタンカフェ「あの、どうしますか? お引き取り願いますか?」

 

斎藤T「席にご案内を。コーヒーセットをおねがい。菓子はまかせる」

 

マンハッタンカフェ「畏まりました」

 

斎藤T「商談だ、女代先生」

 

女代先生「はい、わかりました、斎藤T」

 

 

 

 

 

ナリタブライアン「………………」

 

マンハッタンカフェ「どうぞ」コトッ

 

ナリタブライアン「ああ。ありがとう……」ゴクッ

 

ナリタブライアン「熱ッ」

 

 

サトノダイヤモンド「まずは先日のメイクデビュー勝利、おめでとうございます、斎藤T」

 

瀬川T「おめでとうございます、先輩」

 

斎藤T「うん、ありがとう。そっちもメイクデビュー、がんばってね」

 

サトノダイヤモンド「それと、お誕生日おめ――――――」

 

女代先生「まあ、挨拶はその辺にして、知らない仲じゃないんだし、早速 話を聞かせてちょうだい」

 

サトノダイヤモンド「むぅ」

 

瀬川T「ほら、話が進まないだろう? 今日はあの話をしないと! 待たせるわけにはいかないでしょう?」

 

サトノダイヤモンド「はい……」

 

瀬川T「えと、ダイヤちゃんが大変御世話になっていたみたいなんですけど、実は近々サトノグループで開発されたVRウマレーターを利用した世界最先端のトレーニング施設がオープンになるというのはご存知ですか?」

 

瀬川T「いや、釈迦に説法かもしれませんね。『URAファイナルズ』決勝トーナメント観戦プログラムの時に前座として『皇帝G1七番勝負』なんて神企画をやっていたわけですから」

 

斎藤T「ええ、まあ」

 

女代先生「うん。あれだけ大々的な告知をされたわけだしねぇ」

 

サトノダイヤモンド「ですが、サトノグループのソフト開発部門は常に時代を先取りし、『先取りしすぎ!』と言われるほどに発展してまいりました」

 

瀬川T「そして、ここにある資料にありますように、その技術を結集して誕生したのがトレーニングサポートAIシステム――――――」

 

 

サトノダイヤモンド「――――――その名も『メガドリームサポーター』です!」

 

 

女代先生「……『メガドリームサポーター』ですか。それは期待できそうな名前ですねぇ」

 

瀬川T「ええ、()()()()()()()()()()()()、これまで何かと迷った場面はありませんでしたか?」

 

瀬川T「たとえば、レース前のトレーニングを強めにやっていいものか――――――、」

 

瀬川T「適性距離から少しだけ外れた場合、それでも勝負になるのか――――――、などなど」

 

瀬川T「そんな時、判断のサポートとなるAIシステムを この度 完成させました!」

 

女代先生「それはスゴいですねぇ」

 

斎藤T「………………」

 

サトノダイヤモンド「…………むぅ」

 

 

マンハッタンカフェ「……スゴいんですか?」ゴクッ

 

ナリタブライアン「……まあ、()()T()()()()()()()ではないな、最初から」フーフー

 

 

瀬川T「近代ウマ娘レースが始まって以来の様々なデータを集積、分析し、多くの事例、多くの統計により、最善のアンサーを導き出す究極のAI!」

 

瀬川T「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

斎藤T「へえ」

 

サトノダイヤモンド「まあ!」パア!

 

サトノダイヤモンド「楽しみですよね! 興味が湧いてきましたよね! ワクワクしてきましたよね!」

 

サトノダイヤモンド「百聞は一見に如かず、詳しい説明はソフトを実際に触りながら行いましょう♪」

 

サトノダイヤモンド「筐体の準備はすでにできていますので、1階のエントランスホールで! ね!」

 

 

ナリタブライアン「……一気に迫ってきたな」

 

マンハッタンカフェ「……斎藤Tの興味を引くことができたことに手応えを感じたみたいですね」

 

 

斎藤T「なるほど、瀬川T。あなたはVRソフト『メガドリームサポーター』に電脳ダイブした時の付添人ですね」

 

瀬川T「まあ、そういうことです。先行体験した人間がいた方が安心でしょうから」

 

斎藤T「では、『メガドリームサポーター』を先行体験させてもらう前に提案があるのですが、サトノグループに協力していただけないでしょうか?」

 

瀬川T「え?」

 

サトノダイヤモンド「え」

 

サトノダイヤモンド「ほ、本当ですか!? サトノグループに協力してもらいたいことがあるんですね! でしたら、是非とも! 何でも言ってください!」

 

斎藤T「さっきの話のことです、女代先生」

 

女代先生「あ、そういうこと。それなら、是非ともよろしくね」

 

サトノダイヤモンド「さあさあ! 何でもウェルカムです! さあ!」

 

瀬川T「すげえ。ダイヤちゃんに振り回されるどころか、売り込みに来たこっちに取引を持ちかけているよ」

 

瀬川T「――――――さすがは僕の恩人というべきかな。トレーナー選考会(トライアル)をやり直すように言ってくれたって言うからさ」

 

 

 

Welcome to the Mega Dream Sapporter...Get Ready!

 

 

 

その日は担当ウマ娘が出走したことによる振替休日であったが、私の場合は先週の『宝塚記念』からずっとトレセン学園に帰ってきていなかったので、ようやくエクリプス・フロントで試験運用している『エクリプスビジョン』の点検改善に乗り出すことができていた。

 

私がいない間は同じ階で詰めている開発室の職員やESPRIT顧問の女代先生が対応してくれていたのだが、絶賛稼働中の『エクリプスビジョン』は 連日連夜 ウマ娘たちの分析結果やトレーニング資料をひっきりなしに印刷しているような状況だったため、すぐに印刷紙とインクが切れてしまうので印刷機の増設は必要不可欠だったのだ。

 

しかし、総生徒数2200名弱の今のトレセン学園でいかに需要があろうとも、資料の読解や実践のためにリピーターがつかないだろうから印刷機の増設は慎重に行わなければならず、設置場所を確保するための交渉に入るかどうかを検討中であった。

 

あるいは、期間限定で『エクリプスビジョン』の印刷機を増設するキャンペーンを実施して、終わったら印刷機の在庫を売り捌くのも手かもしれない。

 

そんなことを考えながら『エクリプスビジョン』の点検整備と改善作業に取り組んでいると、居合わせたのが顧問の女代先生、部員のマンハッタンカフェ、生徒会副会長のナリタブライアンで創造的で発展的で建設的な『エクリプスビジョン』の更なる活用法が形になり、

 

これほどまでに出力結果を印刷して持って帰る生徒が多いのなら、自分でデコレーションできるリングバインダーを1階のアンテナショップで取り扱ってもらえるようにして、『エクリプスビジョン』で発行された資料に付加価値をつけることが内々で決まったのだ。

 

中身としては極めて真面目な内容の資料をファイリングしていくのだが、外側の表紙は夢いっぱいにラベルシールやデコシールで飾り付けをして、初心を形にした思い出の品となって手許に残るのだ――――――。

 

エクリプス・フロントの王である私からの提案だ。まず反対するものはないし、アンテナショップの売上貢献にもなるし、利用者たちにも喜んでもらえるものだし、良いこと尽くめである。

 

ただ、今はもう7月である。例年通りトレーナーチームのウマ娘や今年から許可されたアオハルチームのウマ娘たちが夏合宿に飛び出していっており、夏季休業期間も迫っているので、このままだと商機を逃す可能性が大いにあった。

 

どうにかして夏合宿中のウマ娘やこれから夏合宿に行こうとしているウマ娘の気を大いに惹く話題性を持たせないと、せっかくの新鮮なアイデアも夏合宿や夏季休業期間から需要が冷めてしまう。

 

 

――――――そんな時に今回のアイデアの商談相手:サトノダイヤモンドがちょうどよくやってきたというわけであった。

 

 

サトノグループのお嬢様:サトノダイヤモンドはどういうわけか私に執着しており、口を開けば私を担当トレーナーにしようと迫ってくるので、この前 手酷くフッてきたはずなのだが、

 

こうも元気よく『エクリプスポリス』ひいては『メガドリームサポーター』の先行体験会に招待してくるとは、さすがはサトノグループのお嬢様と言ったところか。

 

さて、『エクリプスポリス』の中核を担うVRウマレーターを使った『メガドリームサポーター』の出来栄えとしては、たしかにその技術力は評判通りではあったが、私が求めるウマ娘レース界隈の救済にはなり得なかった。開発経緯や設計思想からして根本的に価値観が合わなかったのだ。

 

 

――――――電脳ダイブして眼の前に映し出されたのはV()R()()()()()()()()()()()()()()()だったのだ。

 

 

もう この時点でシミュレーターのリソースを無駄遣いしまくっていることに落胆の声しか出なかった。ウマ娘レースに勝つために本当に必要な再現なのか、この光景は。

 

しかも、国民的スポーツ・エンターテイメントの夢の舞台である中央トレセン学園のVR再現は夢の舞台に憧れた有志がVRソフトの登場初期からやっていることなので、やはりサトノグループ、力の入れ方が普通とはちがうな。

 

いや、これはトレセン学園のみならず、レーストラックやプールといった練習場、各地の競バ場や合宿先なども完全再現されたVRウマレーターに判断のサポートとなるAIシステムを追加したものらしい。

 

おそらく、VRウマレーター自体は興味を持ってもらうために筐体のいくつかがトレセン学園に設置されると思うが、今回のためにエクリプス・フロントにテントが横付けされてエントランスホールにまで用意されたVRウマレーターは『エクリプスポリス』専用の仕様になるのではないだろうか。

 

つまり、現実のレースを忘れてサトノグループの系列会社が運営する一種のゲームセンター『エクリプスポリス』に通う生徒とトレーナーを大量に生み出したいのかと――――――。

 

まあまあ、落ち着け。説明ではあくまでも『トレーナーの判断のサポート』が主であり、様々なテストケースを仮想空間で体験するためのものだ。そのシチュエーションの構築のしやすさと再現結果の検証がどこまで扱いやすいユーザーインターフェースになっているかがこのシミュレーターの信頼性になる。

 

そして、『メガドリームサポーター』の売りとなる『勇敢』『規律』『愛情』の思考性を持ったAIがラーニングを繰り返した結果、3つのAIそれぞれに人格が芽生えたらしく、『魂が生まれた』とも言える奇跡が起きたらしい。

 

 

――――――勇敢の女神:ダーレーアラビアン。

 

 

――――――愛情の女神:ゴドルフィンバルブ。

 

 

――――――規律の女神:バイアリーターク。

 

 

まあ、そういうことだった。ウマ娘の皇祖皇霊たる“三女神”の名を騙る疑似人格プログラムが『メガドリームサポーター』を通して『トレーナーの判断のサポート』をするということらしい。

 

別に、ウマ娘の皇祖皇霊としてその名が知られている“三女神”をモチーフにしたキャラクターは古来より掃いて捨てるほど存在しているので、サトノグループが『メガドリームサポーター』の宣伝のために恐れ多くも“三女神”をモチーフとした疑似人格プログラムだと鼻で笑う者もいることだろう。

 

しかし、先に『メガドリームサポーター』を体験してきているはずの私の後輩にしてサトノダイヤモンドの担当トレーナー:瀬川Tが何度目にしてもその名に圧倒されている様子に“三女神”が随分とカジュアルな格好で気さくに接してくる光景には違和感しかなかったが、

 

そんな違和感を覚える私からすれば、これもまた()()()()()を変えるタイムパラドックスと並行して行われる皇祖皇霊たちの衆生済度の新しい形なのだと一人苦笑いをする他なかった。

 

ここが二次元世界だから極めて物質世界の波長の気配だが、その奥にある確率の世界の更に奥に存在する三次元と四次元を超えた本当に微かな高次元の神気が私には感じられた。

 

たしかに、これを“三女神”であると言い張るのは嘘ではない。そう、嘘ではないが、一から十まで同じかというと 九分九厘 別物としか言いようがないので、否定も肯定もしづらい神の似姿がそこに立っていた。

 

 

――――――だが、次の瞬間、深刻な問題が『メガドリームサポーター』を襲った。

 

 

“斎藤 展望”の生体データを取り込んで このVR世界のトレセン学園に召喚された“私”に対して、“三女神”を騙る疑似人格プログラムが声を掛けるとテクスチャが一瞬だけ盛大にバグる事態が発生してしまう。ザワつくエントランスホール。ああ、こうなるよな、やっぱり。

 

そうなのだ。これが“特異点”である“斎藤 展望”たる“私”を電脳世界に取り込んだ場合の最大のリスクであり、あまりVR世界に長居するべきではないと思い、VR酔いと称して早々に『メガドリームサポーター』の先行体験会からドロップアウトさせてもらった。

 

フルダイブ型VRシミュレーターは常に利用者の脳波を受信してVR世界の現象に利用者の行動を反映するわけだが、その状態はわかりやすく言うなら利用者全員が同じ湯船に浸かっているような状態であり、利用者全員から滲み出た汗や垢が混ざりあった水質の清濁がVR世界で感じる快不快の1つの基準になっている。

 

つまり、同じ湯船に汗や垢が滲み出ていると言うことはそこから利用者一人ひとりのDNAサンプルを抽出できるというようなわけであり、

 

VR世界を構築して現象を管轄しているプログラムには利用者の脳波パターンから思考が読めるわけであり、そこから“三女神”を騙る疑似人格プログラムたちは思考の先読みができるわけなので、それで利用者の思考に対して最適の回答を用意することができるという論理(ロジック)なのだが、

 

残念ながら、“私”の思考の先読みをしたとして最適な回答を瞬時に用意できるかは非常に怪しいところであり、これはどんなに進化を重ねた高性能シミュレーターであっても永久に改善されることがない 脳波分析の限界なのだ。

 

 

――――――次元が高すぎるのだ、“私”の存在は。

 

 

『次元が高い』というのは取り扱っている基本的な情報量が大きいと考えるとわかりやすく、空間がX軸 Y軸 Z軸で表現される三次元であるところに時間の経過による変化や推移の概念が加わると四次元になるのは理解できるだろうか。これは微分積分を四次元に応用した話であるから そこまで難しい話じゃないはずだ。

 

そして、三次元世界に生きる肉体を持った四次元の霊格の力を発揮できる能力を“私”は有しているので、見た目は同じ人間に見えても痩せの大食いどころじゃないほど中身が詰まっているので、湯船に浸かろうとすると一気に水が溢れ出してしまうわけなのだ。純金の王冠に使われた金に混ぜ物が入っているかを物体の質量で割り出したアルキメデスの原理の同じことである。

 

つまり、三次元世界のスーパーコンピュータでは永久に解析できないほどの情報量が“私”の頭の中に渦巻いており、解析する毎にスーパーコンピュータがビッグバン爆発を起こすほどの負荷を与えてしまうと言えば、わかりやすいだろうか。

 

そりゃあ、だって、“私”の正体は四次元空間に肉体が溶けた“特異点”なのだから、三次元より高次元の情報を分析できるわけがない。四次元の頭の中を三次元の論理で読み解こうとしたら、あまりの情報量に頭が破裂しそうになるはずさ。引き続き、湯船のたとえで言うなら、それは湯船から水が溢れるどころかダム決壊である。三次元の肉体があるからこそ、こうして同じ肉体を持つ者同士でふれあうことができているに過ぎない。

 

しかも、VR世界は創作物の世界なので三次元よりも低次元の二次元世界なのだから、あまりにも次元の差がありすぎる。次元の壁を隔てているともなると、二次元と四次元で情報量の大小を比べるのも馬鹿らしくなるほどだ。四次元の更に上の五次元の神の世界の情報まで“私”の中に降りているのだから、まさに仏説で説かれている恒河沙のようなものだろう。

 

なので、現実世界である三次元の絞りカスや抽出物に相当する二次元に四次元の情報を処理しきれるわけがないだろう。VR世界なんてものも所詮は三次元世界の現実の光景の極一部を落とし込んだものなのだから、三次元世界以上に広大な四次元世界の心の海にすら二次元世界は完全に沈んでしまう。“私”の情報量がダムならば、現実世界は湯船、VR世界はバケツみたいなものだ。

 

なので、そんなふうに存在するだけでVR世界に高負荷に起因するバグを撒き散らす高次元情報の擬人化の“特異点”がVR世界に居座り続けることになったら、いずれ電脳ダイブしている他の利用者の脳髄を焼き切る大災害に繋がるだろう。VR世界は利用者全員の脳波を受信して現象を反映させているわけで、利用者全員が同じ湯船に入っているような状態なのだから、“私”から溢れ出した情報の濁流から逃れようがないのだ。

 

しかし、本来ならば電脳ダイブした瞬間に利用者全員を脳死させてサーバーダウンを引き起こしてもおかしくないのだが、実は“私”の方から仮死状態になって脳波を弱らせているから加減できているのだ。こっちでもVRシミュレーターを持っているのだし、その調整のために電脳ダイブを何度もしてきているのだから、電脳ダイブのために仮死状態になるのはもう手慣れたものだ。その度に“特異点”として極限まで意識が冴え渡ることになった。

 

それでも、バグが起きたということは『メガドリームサポーター』のサーバーには相当な負荷が掛かっていたことだろう。やはり、所詮は21世紀の技術力では並行宇宙の地球の支配種族である超科学生命体の遺産ほどの天文学的な記憶容量と処理能力は確保できなかったと見える。

 

ホント、死ぬほどビックリするだろうね。この場で死亡判定までしていたら。VR酔いどころの話じゃない。VRシミュレーター使用中に仮死状態になっているとは露知らず、電脳ダイブで脳に異常を来たした原因追求で『メガドリームサポーター』の先行体験会が不祥事で台無しになるところだった。

 

 

――――――残念ながら、VRウマレーター専用VRソフト『メガドリームサポーター』を“斎藤 展望”が使うことは許されない。天文学的な容量不足のせいで。

 

 

いや、いいのだ。人生の仮の宿、私は人生という名のクソゲーの中でウマ娘の皇祖皇霊たる三女神からの直接の導きと加護の下に生きているので、私には“三女神”を騙る疑似人格プログラムがトレーナーの判断をサポートする『メガドリームサポーター』は不要と言うことなのだろう。

 

というより、VR世界に存在する現象は肉体を通してではなく、同じ湯船に浸かっている利用者全員の脳波を通して反響し合った結果のものなので、現実世界で元から感覚が鋭い人間は居るだけで頭の中が掻き乱されるような感覚があって落ち着かないのだ。実際、湯船のたとえでそう言われたら、その不快感が具体的に想像できるはずだ。対策としてはパーソナルスペースを確保できるぐらいに湯船をデカくすればいい。

 

そういうわけなので、()()()()()()()()()()()()()()という認識なのだから、この技術は本当に必要としている人たちのために使われるべきだ。

 

 

――――――たとえば、現実世界にはいないが()()()()()()()()全てのトレーナーのためにこそ。

 

 

しかし、こうなると『メガドリームサポーター』が展開されているVR世界(内側)には直接出向くことができないため、徹底的に現実世界(外側)での出来事に意識を向けるように導かれてもいるように感じられる。

 

そして、先行体験会でテクスチャが盛大にバグった瞬間の軽い頭痛をVR酔いにしてドロップアウトすることになったまさかの結果に、プレゼンターであるサトノダイヤモンドがまたしても泣きじゃくりそうになっていたので、彼女の担当トレーナーの瀬川Tと一緒に宥めるのが大変だった。

 

けれども、いい薬にはなったはずだ。どちらかと言うと先行体験会でバグが起きたことが問題だが、技術ばかりが先行して フルダイブ型VRシミュレーターを利用できない人たちがいることをまったく想定していないことが露呈したのだから。

 

しかし、それこそがこちらも想定していなかった新たな戦いの火蓋を切ることになり、突然の逆スカウトから始まったサトノダイヤモンドとの因縁は思った以上にトレセン学園の未来を左右するものになるらしい――――――。

 

 

 

――――――エクリプス・フロント / 最上階:スカイレストラン

 

 

瀬川T「いやぁ、今日はおつかれさまでした、先輩」

 

斎藤T「あなたが居てくれてよかったですね、先行体験会。新人トレーナーとして『メガドリームサポーター』の魅力を余すことなく伝えることができましたねぇ」

 

瀬川T「まったくですよ。一応、先行体験会としては先輩がVR酔いで早々にリタイアしちゃったハプニングはありましたけど、VRシミュレーターを使ったウマ娘育成を天下の中央トレセン学園が公認したということで話題性十分です」

 

瀬川T「でも、ダイヤちゃんとしては僕を使ってのβテストで問題なかったから自信を持ってお届けしにきたのに、まさか一番に楽しんでもらいたいと願っていた先輩がバグでVR酔いしたかもしれないってことで、正式版のリリースは遠のいちゃいましたよ」

 

斎藤T「まあ、人がやることですから、直接 脳に作用するフルダイブ型VRシミュレーターの安全性を100%保証するのは極めて困難なものですからね。次からは精密検査のために救急車も用意しておくことですね」

 

瀬川T「しっかし、さすがは先輩だ。口止め料とばかりに ここの1階のアンテナショップに『エクリプスビジョン』で印刷した大量の資料をファイリングするリングバインダーを販売することを取り付けるだなんて」

 

瀬川T「それで先輩が儲かるわけでもないのに、純粋にアンテナショップの売上アップのことを考えて、なおかつスカウトを勝ち取れない自主練苦学生のために始めた『エクリプスビジョン』との連動で、もっともっとたくさんのウマ娘たちに希望を与えたいという熱意に感動しました」

 

瀬川T「良いですね。恥ずかしながら、僕もただの新人トレーナーですから藁にも縋る気持ちで『エクリプスビジョン』を使わせてもらいましたけど、映像記録だけでここまでの適性診断とトレーニング資料がこんなにも分厚くなるだなんて驚きました。ついでに高くついた印刷費にも驚きましたけど」

 

斎藤T「あくまでも『エクリプスビジョン』の対象はスカウトを勝ち取れない自主トレ苦学生なので、その後の専門的な指導は担当トレーナーに譲りますけどね」

 

斎藤T「データでの受け渡しもしているのに、その場で印刷する子が 思いの外 多くてね。印刷待ちを処理するために夜を徹して印刷機を動かすことになったから、私が留守の間 女代先生には苦労をかけました」

 

斎藤T「今日 印刷機を増やしましたから、これで印刷待ちが多少なりは改善されますけど、こんなことになるなら印刷機なんて置くべきではなかったと後悔していますよ」

 

瀬川T「でも、わざわざその場で印刷して紙にして持って帰れるようにしてくださった心遣いがあったから、試験運用を開始して 毎日 行列ができるようになったわけです」

 

瀬川T「そして、印刷機を増やしてくださっただけじゃなく、分厚い資料の束に彩りを添えるバインダーの販売やバインダーのデコレーションの話も進めて、夢いっぱいの思い出の品になるようにみんなことを気遣ってくれています」

 

瀬川T「それで、ダイヤちゃんのところのサトノグループも一枚噛ませてもらうわけで、トレセン学園仕様の特注のプリクラ機の発注だなんて、ダイヤちゃん大喜びでしたね」

 

斎藤T「うん。これもデコシールを貼るならプリクラがあったらもっと盛り上がるだろうと思っていたら、コネがありそうな知り合いがちょうどよくやってきてよかったですね」

 

瀬川T「――――――本当に斎藤Tは“門外漢”なんですね。トレーナーなんてやっている暇があったら、次から次へと湧いてくるアイデアを形にして欲しいって言われてますもんね」

 

 

瀬川T「やっぱり、先輩としてはあまり長くトレセン学園のトレーナーをやる気はないんですよね?」

 

 

斎藤T「ええ。元々は両親を早くに亡くした妹の養育費を稼ぐためにトレーナーバッジを手に入れただけで、他の手段で養育費を賄うことができたので、今はもう最低限の実績を得れば十分だってことで惰性でトレーナーをやっています」

 

斎藤T「――――――私の夢は『宇宙船を創って星の海を渡る』ことですから」

 

斎藤T「でも、せっかく全国津々浦々から優駿たちの頂点を決めるべく集まって鎬を削る 才能の塊であるウマ娘や最難関の国家公務員試験を合格したトレーナーで溢れかえっていて まさに人材の宝庫ですから、使えそうなのがいたら もうここで確保しようと思っていましたね。すでに何人も釣り上げていて楽しいですよ」

 

瀬川T「わあ、本当にトレーナーなんかやっている人じゃなかったよ、この人……」

 

瀬川T「いやはや、最初からわかっていたけど 敵うわけもないし、釣り合うわけもないな、僕なんかにダイヤちゃんは……」

 

斎藤T「……たしか、28人のトレーナー選考会(トライアル)に参加していましたよね? それなら、どうしてサトノダイヤモンドの担当トレーナーになったんです?」

 

瀬川T「あ、トレーナー選考会(トライアル)に参加していたのは、新人ホヤホヤの僕がいきなりスカウトできるわけもないから、誰もがG1ウマ娘の素質を認めているサトノ家の令嬢をスカウトするG1トレーナーがどんなものかを見に行っていただけで、自己PRも前の人のを参考に組み立てて それらしいことを言っていただけです」

 

斎藤T「……なるほどね」

 

瀬川T「なので、当然 採用なんかされるはずもないし、ダイヤちゃんとはそれっきりだと思っていたんですけど、どういうわけか トレーナー選考会(トライアル)をやり直すってことになって、それなら前回の経験を活かして自分なりのアピールを研究してから臨んだんですよね」

 

瀬川T「でも、ビックリしました。前回はサトノグループの社屋で、今回はエクリプス・フロントで雰囲気も柔らかい感じだったんでなんだかイケそうな気がしたんですけど、まさかサトノグループへの愛社精神を問われるようなものが出てくるだなんて――――――!」

 

斎藤T「あ、それ、私が原因です。『エクリプスビジョン』開発の参考にアーケード筐体を手に入れようとしたら、ちょうど近くの閉店になるゲームセンターをシンボリ家を通じて買収したことを聞きつけたサトノダイヤモンドが暴走した結果です」

 

瀬川T「はへええええええええええ!?」

 

瀬川T「すみません。1回聞いただけじゃ脳が処理しきれない情報が流れてきたんですけど、とりあえず、『ゲームセンターの買収』なんてしていたんですか?」

 

斎藤T「いや、アーケード筐体だけいただいて すぐに物件を売り払ったんですけど、買収はシンボリ家で進めていたのに なぜか私がゲームセンターのオーナーになるのだと盛大な勘違いをして勝手に泣いたんです」

 

瀬川T「……それはキツイですね」

 

斎藤T「うん。意味不明な理由でトレーナーを決めてくるから相手をしていて疲れる」

 

斎藤T「で、2度目のトレーナー選考会(トライアル)も全員不採用になったのに、あなたが選ばれたのはどうして?」

 

瀬川T「あ、それがですね、2度目のトレーナー選考会(トライアル)の後に両親が離婚することになって姓を変えることになったんです」

 

斎藤T「う、うん? 2度のトレーナー選考会(トライアル)の後で『姓が変わった』――――――?」

 

斎藤T「もしかして、採用理由って――――――?」

 

瀬川T「はい。お察しのとおりです」

 

 

――――――今の僕の名前は瀬川 或斗(せがわ あると)。セガワアルト。セガワアルド。つまりサトノグループが経営しているゲームセンターの旧称:セガワールド(SEGA WORLD)ってことです。

 

 

斎藤T「頭おかしいだろうぉおおおおおおおおおお!?」

 

瀬川T「僕もそう思います。新人の僕なんて絶対に選ばれるわけないのに、なぜか僕の名前を何度も反芻するように呟きながら近づいてきて両手を掴まれた時、見惚れるほど可愛い顔を見せながら生粋のセガキチってやつを体験しましたね、あの時は」

 

瀬川T「事故ですよ、事故。自分も相手もその気じゃなかったのに、姓が変わったくらいで態度を一変させるだなんて」

 

斎藤T「まさか、私がゲームセンターの買収の話をしていたことが大元で、名前がサトノグループが経営していたゲームセンターに変わったことを理由に担当契約を交わすとは、やっぱり 頭おかしいよ……」

 

瀬川T「で、そんなまさかの理由で選ばれちゃったわけですけど、2度もトレーナー選考会(トライアル)に参加して それらしいことを喋っておいて、まさか担当契約を結ばないわけにもいかなくなりまして……」

 

斎藤T「心中お察しします」

 

瀬川T「もうどうにでもなれってね。せっかく、『日本オークス』と『日本ダービー』で連続で隣の席だったってことで運命を感じた両親の思い出に憧れて頑張ってトレセン学園のトレーナーになった矢先に離婚で、」

 

瀬川T「勉強のつもりで参加しただけのトレーナー選考会(トライアル)で両親の離婚で姓を変えたことが理由でG1トレーナーの大先輩たちを差し置いて“サトノ家の至宝”とは名ばかりの生粋のセガキチと担当契約を結んじゃうなんて、踏んだり蹴ったりだよ」

 

瀬川T「しかも、担当契約を結んだ僕は本採用ってわけじゃなく、本命は斎藤Tだってのは担当トレーナーとして側にいて嫌でも伝わってきました」

 

瀬川T「でも、よかった。その斎藤Tもむしろ被害者側でダイヤちゃんが変な子だって認めてくれていて。すっごく気が楽になりましたよ」

 

斎藤T「――――――『日本オークス』と『日本ダービー』ですか」

 

瀬川T「ええ。“トリプルティアラ”と“クラシック三冠”のクラシックレースの最高潮ですよね。まあ、僕なんかが“オークスウマ娘”や“ダービーウマ娘”のトレーナーになれるわけないんだけど」

 

 

斎藤T「なら、離婚した両親の縒りを戻すために『日本オークス』と『日本ダービー』を目指せばいいじゃないですか。隣の席になるチケットを贈って息子の晴れ舞台に駆けつけさせよう」

 

 

瀬川T「え?」

 

斎藤T「私から言わせてもらうと、サトノダイヤモンドひいてはサトノグループはG1ウマ娘を輩出することに執着して、具体的にどのG1レースを目標にしているかが決まっていないので、瀬川Tにとって両親の思い出の『日本オークス』『日本ダービー』のどちらかを目標に励めばいいと思いますよ」

 

斎藤T「うん、いいじゃないですか。一族の悲願を背負う担当ウマ娘と両親の思い出を背負う担当トレーナーの二人三脚のG1制覇。その目標として『日本オークス』でも『日本ダービー』でも目指せばいい」

 

瀬川T「え、えええ!? 冗談キツイですよ! 新人の僕にいきなり――――――?」

 

斎藤T「安心して欲しい。黄金期の中心になったG1トレーナーたちの大半が初めての担当ウマ娘で栄冠を手にしてきた天運の持ち主ばかりだ」

 

 

斎藤T「瀬川T、あなたは間違いなく()()()()()()()だ。私がゲームセンターの買収の話を進める裏で 両親の離婚で姓を変える羽目になったことで サトノダイヤモンドとの担当契約を結ぶことになった偶然は明らかに状況が味方している」

 

 

瀬川T「は、はあ……」

 

斎藤T「だから、運命に打ち勝て! 自分の身の上の不幸で掴んだ極上の幸運で望む未来を己の手で築いてみせろ! 『新人だからできない』だなんてジンクスは切って捨てろ!」

 

瀬川T「!!!!」

 

瀬川T「――――――迫力が違いますねぇ!」

 

瀬川T「わかりました。僕なんかと契約したサトノダイヤモンドにも責任を取らせようと思います」

 

斎藤T「それがいい。それぐらいの対等になる気概がなければ、あのジャジャウマ娘を御すことはできないぞ」

 

瀬川T「いや、ありがとうございました! 希望が見えてきましたよ!」

 

斎藤T「それはよかったです」

 

 

天野博士「ほう。あなたが()()()()()()()()()()()()に歪みを与えた不確定要素ですか」

 

 

斎藤T「?」

 

瀬川T「天野博士」

 

瀬川T「あ、紹介します、斎藤T。こちらは『メガドリームサポーター』ひいては『エクリプスポリス』の開発チームの天野博士です。サトノ一族で、ダイヤちゃんの再従兄弟に当たります」

 

斎藤T「随分とお若いですね」

 

瀬川T「いや、『随分とお若いですね』って、先輩! 先輩も、貫禄ありすぎますけど、僕と1歳しかちがわないじゃないですか!?」

 

天野博士「……私より年下のくせに情報量が際限なく大きい個人だと?」ギリッ

 

瀬川T「え」

 

斎藤T「それで、何の用ですか?」

 

天野博士「いえ、今回の先行体験会であってはならないバグが発生してドロップアウトしてしまったわけですが、その後の経過はどんなものかを確認しに来ましてね」

 

斎藤T「異常はないです。ただのVR酔いだと思います」

 

天野博士「そうですか。それは実に残念ですね。私が生み出した“三女神”の導きを得ることができないだなんて、あなたとその担当ウマ娘は実に不幸な生まれのようだ」

 

瀬川T「天野博士ッ! それは言い過ぎでは!?」

 

天野博士「私の頭脳が生み出した究極のAIの導きをありがたがるということは、それすなわち、それを生み出したこの私を褒め称えることに他ならない!」

 

天野博士「――――――何が最難関国家試験だ! 何がトレーナーバッジだ! 近代ウマ娘レースが始まって以来、何の必勝法もないまま、漫然とウマ娘を育成して勝っては負けてを繰り返す様を見て 何がおもしろい!? そんな無能な連中が持ち上げられる社会は異常だとは思わないか?」フン!

 

瀬川T「……は、博士?」

 

斎藤T「……それで?」

 

天野博士「だが、時代は変わった。これからはAIの時代だ。己の才覚こそが重賞勝利に導くなどと驕れるトレーナーたち旧人類は淘汰され、約束された繁栄をもたらすAIに導かれた新人類の時代なのだ」

 

瀬川T「は? いや、何を言っちゃってるんですか、天野博士!?」

 

斎藤T「つまり、これからは『メガドリームサポーター』を開発した狂気の天才:天野博士にトレーナーの誰もが頭を垂れる時代になると?」

 

天野博士「そういうことです。所詮、ベテラントレーナーと言えども、個人の経験で新人トレーナーを上回っているというだけで、天才であるこの私よりも偉そうに振る舞うのが許せない」

 

天野博士「ならば、近代ウマ娘レースが始まって以来の古今東西の全ての知識を集積したAIを生み出してしまえば、そんな傲慢で無能で醜悪な輩を全て排除できると思いまして、無能なトレーナーによって人生のドン底に陥れられるウマ娘たちの救世主として正当な裁きと救いを与えるAI開発に取り組んできましたよ」

 

瀬川T「天野博士!? それ、本気で言って――――――」

 

瀬川T「や、やべえ! サトノ家の人間ってみんなこうなのかよ!? 誇大妄想が過ぎない!?」

 

 

天野博士「なのに! なのにぃ! なのにぃいいいいいいいいい!」グギギギギ・・・

 

 

瀬川T「!?」ビクッ

 

天野博士「許せない! 完璧で究極の救世主である私が創り上げた『メガドリームサポーター』でバグが発生するだと!? そんなことはあってはならないんだ!」

 

斎藤T「まあまあ、人間がやることですから、失敗したら改善すればいいじゃないですか」

 

天野博士「黙れ、ムシケラが! 存在するだけでサーバーに負荷をかけて()()()()()()()を穢すお前は人間じゃない! 人間であるはずがない! 存在しちゃいけないんですよ、そんな人間は!」

 

瀬川T「あ、天野博士!? さっきからおかしいですよ!? 落ち着いてくださいよ!?」

 

斎藤T「ほう、正しく原因を特定できているとはな。普通はありえないことだと一笑に付すだろうに、ある意味 かわいそう御人だ、あなたは」

 

天野博士「な、なんだと!?」

 

斎藤T「私があなたの言う『メガドリームサポーター』を利用できない不幸な生まれの人間であるのにも関わらず、放っておけばいいものを、こうして私に食って掛かるということは完璧で究極の救世主が完全に敗北を認めてしまった何かがあることを御自分で認めているわけですよね?」

 

天野博士「な、何をぉおおおおお!?」

 

瀬川T「お、落ち着いてください、二人共!」

 

瀬川T「天野博士! 初対面の人に対して さっきから無礼じゃないですか! 次からはVR酔いしやすい人にも優しいシステムを開発してくださいよ!」

 

天野博士「このグズで間抜けで痴れ者がああああああああああああ! 全てのトレーナーが平伏すことになる この天才の私が VR酔いごとき対策をしていないとでも思っていたかああああああああああ!?」

 

瀬川T「え」

 

天野博士「いいか! トレーナー利用率:100%を目指す上でVR酔いを理由に『メガドリームサポーター』を利用できない呪われた人間を救済して その偉大さで平伏させるのも救世主である私の勤めだ!」

 

天野博士「だが! だがッ! だがぁあああ!」

 

天野博士「いくら私が天才であろうと、VRシミュレーターのサーバーには限界があるのだ!」

 

天野博士「考えてもみろ! 現実世界と寸分違わぬVR世界を構築した上で利用者一人ひとりのパーソナルデータも管理するとなれば、いったいどれだけのデータ容量と処理能力が必要になると思っている!?」

 

瀬川T「それは、た、たくさん……?」

 

天野博士「そうだろう! 凡人の貴様らには想像もつかないほどの規模のデータセンターが必要になる! その分だけカネもかかるわけだ! そのための『エクリプスポリス』だ!」

 

天野博士「なのに! なのにッ! なのにぃいいいいいいいいい!」

 

 

天野博士「そこの人間の皮を被ったZIP爆弾のせいで一瞬でデータセンターの何割かがクラッシュしたんだぞ! どうしてくれる!? 正式版のリリースができなくなったではないかああああああああああ!?」

 

 

斎藤T「ああ……、それはお気の毒に……」

 

瀬川T「え? ええ? えええええええ!?」

 

斎藤T「まあ、このことを教訓に『VRシミュレーターという二次元世界も万能じゃない』と心に刻んで、『エクリプスポリス』の新たな運営方針を模索してください」

 

天野博士「き、貴様ああああああああああああ!」

 

瀬川T「天野博士ッ! いいかげんにしてください! 斎藤Tが原因かもしれないって話ですけど、そんなの、誰もわからなかったことだったんだから!」ガシッ

 

斎藤T「やれやれ、『完璧で究極の救世主』が聞いて呆れる」

 

 

――――――さようなら、天野博士。あなたはあなた自身の傲慢さをあなた自身の才能によって裁かれた。

 

 

なぜ『メガドリームサポーター』先行体験会で何の気なしに私がバグを引き起こしたのか、その理由がはっきりとしてしまった。これはウマ娘の皇祖皇霊たる三女神から裁きを受けて当然の男に対する報いであったのだ。

 

なので、『皇帝G1七番勝負』に触発されてサトノグループがウマ娘レース業界に対する空前絶後の大貢献を果たすことを突如として宣言した『エクリプスポリス』建設計画もここに来て早速だが頓挫することになり、軌道修正を余儀なくされることだろう。

 

しかし、先行体験会はちょっとしたハプニングはあっても問題なく終わったと見せかけたが、その裏でデータセンターの大規模破壊で『メガドリームサポーター』の正式リリースの見通しが立たなくなったことで、『アオハル杯』復活に揺れるトレセン学園で一縷の望みを託していた新人トレーナーたちが路頭に迷うことになったのは困ったことである。

 

こういうのもアレだが、私がきっかけで『エクリプスポリス』構想が始まり、同じく私がきっかけで『エクリプスポリス』構想が頓挫することになったのだから、私という存在はサトノグループひいてはサトノ家から完全に嫌われたことだろう。

 

それでも、どうしてあれほど高性能なサポートAIを作成することができたかの根源を辿ると、一言で言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が開発に駆り立てたものであり、トレーナーを自身が作成したサポートAIに依存させることで創造主である自身を崇めさせようという邪な企てが根源にあったのだ。

 

恐ろしいことに、ウマ娘レース業界に多大な貢献と熱意によって存在感を高めているサトノグループの、しかもサトノ家の人間がああいった感情を持ってAIを作成していたことがサトノ家、ひいてはウマ娘レース業界の見えざる闇であった。

 

なので、その魂胆を知っていたら絶対に『名家』のウマ娘なら『メガドリームサポーター』という忌むべき産物を拒絶するだろうし、順序が逆転してしまったが、こうして三女神の名を騙らせた傲慢さを“特異点”を偽りの夢の舞台に召喚させて一瞬で裁かれてしまったのだ。

 

わざわざ私のところに来て自分からトレセン学園のトレーナーに対する鬱屈した感情を曝け出す必要なんてまったくなかったのにノコノコとやってきて罪状を自白することになったのも、感情をコントロールできなくなった瞬間に罪を告白させるための三女神の導きを受けた結果なのだろう。

 

基本的にウマ娘の皇祖皇霊たる三女神はこういうところでウマ娘とトレーナーの絆を蔑ろにする不逞の輩に対しては徹底的に厳しく扱う傾向にあり、少なくとも『メガドリームサポーター』の再出発はサトノ家やウマ娘レース業界の闇を背負わされた哀れな男を更迭して一からやり直さないと何度やっても三女神からやり直し(リテイク)を要求されることだろう。

 

ともかく、21世紀の科学水準で言えば、その技術力は素晴らしかった。見るべきものはあった。AI開発の最前線に立っていたはずだ。いくつものVR世界で営まれる多層現実社会によって長きに渡る宇宙移民船の航海に耐えうることができるようになるのだから、その遠い祖先となるかもしれない技術を世に打ち立てた功績は大きい。

 

なので、その功績と失敗を教訓にして『メガドリームサポーター』はちがった形で ちがった場所で ちがった人たちによって遺伝子を受け継いだ後継機が生まれていくはずだ。今回は開発に至った動機が不純だったから裁かれただけで、技術そのものが否定されたわけではない。もっとも、それは『後進のための踏み台になる』という意味だが。

 

おそらく、私の前に現れたということは、あまり良い気はしないが、この先 何度も会うことになるのだろう、天野博士とは。私の前に現れる全ては皇祖皇霊が必要な時に必要なものを必要なだけ与えた天の配剤という結果なのだから。

 

すなわち、来年に向けて世界の命運を変えるほどの陰徳を積ませるために刈り取らせる世の悪である可能性が極めて高く、これから私はこのヒトとウマ娘が共生する世界が生み出した暗黒面と対峙し続けることになるのだろう。

 

むしろ、中京茅の輪くぐりで首にかけられた茅の輪の()()()()()()()()()()()()()()()()()が熱田神宮の草薙剣の霊威と共に宿ってしまったとするなら、今の私は人間の姿をした人形(ひとがた)というわけであり、嫌でも罪穢れを生み出し続ける世界と向き合って人知れず戦い続けなくてはならない――――――。

 

その方向性が示されたのが今日という日――――――。

 

そういうわけで、シーズン前半の締めくくりとなる日付が変わるギリギリまでいろいろとありすぎた昨日からすぐさま翌日のシーズン後半開幕の第一日目の今日を迎えて早速これである。

 

 

――――――これは長い長い暑い夏の日が続くのだと嫌でも予感させられるのだった。

 

 






――――――『グラマス』シナリオ消失!


ただし、サトノグループが開発したVRウマレーターによるVR世界は今後も活用される余地を残している。
一方で、『メガドリームサポーター』のAI開発者として登場した天野博士の存在は国民的スポーツ・エンターテイメントとして持て囃される中央競バ『トゥインクル・シリーズ』のトレーナーになれなかった人間の嫉妬と憎悪の象徴として現れている。
公営競技という結局は勝ち負けが運否天賦という戦績が不安定にならざるを得ない博打で食い扶持を稼ぐトレーナーがなぜ持て囃されるのか、真っ当な職業で確実な成果を上げなくてはならない社会人なら羨望せずにはいられないはずだ。
もちろん、憧れのG1勝利なんてものは1%にも満たない選ばれた者だけが通ることを許された狭き門であり、その1%にもならない優駿たちの頂点に立つためにトレーナーもまた担当ウマ娘と二人三脚で必死になっているわけだが、その苦労が真に伝わることはないのではなかろうか。
つまり、血反吐を吐くようなトレーナーの陰の努力は夢の舞台と持て囃された公営競技の華やかなイメージから放たれる逆光で見えなくなった 誰もが目を背ける 見たくない舞台裏の真実のはずだ。
そんなわけで登場するのが、『良家』サトノ家出身の天才科学者というわけであり、サトノグループがウマ娘レース業界に多大な貢献をしていながらG1ウマ娘を輩出できないことをジンクスと嘆き続けて言い聞かされて育てられ、幼心にそれをどう思うかである――――――。


ここからが『ウマ娘』二次創作三大便利ウマ娘:アグネスタキオン、ゴールドシップ、サトノダイヤモンドの本領発揮である。

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