ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第2話   示される新時代の形 

 

-西暦20XY年07月09日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

先週の火曜日:7月第一火曜日の全校集会をもって夏合宿が解禁されることから、中央競バ『トゥインクル・シリーズ』の興行を最優先した特殊な2期制の中高一貫校の中央トレセン学園には『前期終業式が2度ある』とも評される。

 

なぜかと言えば、7月に夏合宿と8月の夏季休業期間と合わせて 2ヶ月間 トレセン学園に戻らずに合宿遠征に行く生徒が少なくないため、9月の後期始業式までの間のトレセン学園の予定や日程を全校生徒に伝える義務があり、それをもって夏合宿が解禁になるわけなのだ。

 

もちろん、夏合宿に多くの生徒たちが飛び出していくことで学内のトレーニング設備の空きが増えるのも事実なので、合宿遠征などせずにホームグラウンドであるトレセン学園の国内最高峰のトレーニング設備を使い倒すのも戦略の1つである。

 

もっとも、合宿遠征に使えるトレーニング環境も限られている他、ライバルたちに差をつけたいと思ってもチームに支給される合宿費に相応の宿泊施設しか利用できないということもあるわけであり、

 

黄金期では無名の新人トレーナーたちの華々しいG1勝利の数々が取り沙汰されているが、堅実に実績を積み重ねてきたベテラントレーナーのチームに支給される額を考えると、普通はベテラントレーナーのスカウトに応じた方が合宿遠征で有利であり、新人トレーナーのスカウトを受けるのは合宿遠征で不利と考えることもできる。

 

一方、チームに『名家』のウマ娘がいる場合は話は別であり、何故に『名家』の一族がウマ娘レース業界で幅を利かせることができるのかと言えば、自前で中央トレセン学園に入学させられるほどのトレーニング環境を擁していることにあり、

 

そこを利用させてもらうついでに『名家』に顔を覚えてもらうことのメリットを考えると、『名家』のウマ娘をスカウトすることは夏合宿ひいては今後のトレーナー人生において非常に大きな財産になるわけである。

 

しかし、だからこそ、『名家』の出身でもないウマ娘が勝利することもあるウマ娘レースは公営競技として成り立つほど国民的スポーツ・エンターテイメントとして日本中が熱狂するわけであり、そこにドラマが生まれ、狂気の沙汰ほどおもしろい、始める前から結果が見えている退屈な絶対者など誰も求めていないのである。

 

手が届きそうならば、自分もその高みに達することができるのだと信じられるものがあるのならば、人々は飽くなき欲望に突き動かされて何だってやることができたのだ。

 

その自然な欲求を善なる方向に導けば 世の繁栄は約束されるが、導けなければ 全て共倒れの破滅の道を辿る他ない。

 

だが、欲望を安易に否定してはいけない。欲望が原動力になって今日までの歴史を創り出しているのは事実であるし、欲望に身を任せるのを拒絶して潔癖であろうと努めるのは立派だが、それも度が過ぎれば『潔癖であろう』という欲望に身を委ねているだけに過ぎなくなるのだ。

 

その見極めが極めて難しいところなのだが、その難しいところを我が物にして克服するのが修行の醍醐味であり、そうならないためには常に原点に振り返って居住まいを正すことに終始する他ない。

 

それさえも惰性でやらないように創意工夫が必要であるが、要は筋肉トレーニングと同じことだ。筋繊維が負荷を受けて破壊されて耐性を持つように修復を繰り返すことで 筋肉がこれまでよりも強い筋肉に修復される筋肥大を継続的改善で目指すのが筋肉トレーニングであり、自らに適度な負荷をかけて刺激を絶やさない日々を送るのが望ましいわけである。脳トレーニングも概要としては同じこと。

 

なので、常に自分が目指したものの原点と向き合い、日常生活の中でどう擦り合わせていくかを試行錯誤していく中で、磨かれ抜いて確立された玉ができあがるのだ。

 

 

――――――何が言いたいのかと言うと、この“斎藤 展望”に惰眠を貪るような安楽の日々なんて永久に訪れないということである。それを望んだが故に。

 

 


 

 

――――――エクリプス・フロント / 1階:エントランスホール

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

斎藤T「………………」

 

アグネスタキオン「実に興味深い状況だねぇ、これは」クククッ

 

マンハッタンカフェ「ええ。まさか、先週の先行体験会からこんなことになるとは……」

 

女代先生「まあまあ。先週に立ち上げたばかりの企画がすぐに通ってアンテナショップが大繁盛しているのは良いじゃないですか」

 

女代先生「でも、まさか、先週の『メガドリームサポーター』先行体験会で確認されたバグを直すために正式リリースが遅れることになった埋め合わせにあんなサプライズを用意してくるだなんてねぇ」

 

 

勇敢の女神’「そんなに固くなるなって、子羊くんたち。『女神』と言ってもサポートAI。つまりは()()()()ってことだ」

 

 

ナリタブライアン「斎藤T、アレは何だ?」

 

斎藤T「公式が用意した『メガドリームサポーター』のマスコットキャラクターの“三女神”です。今日は勇敢の女神:ダーレーアラビアンの日みたいです」

 

ナリタブライアン「いや、それは先週の先行体験会を見ていたからわかるが、アレはキャンペーンガールなのか? それとも――――――?」

 

斎藤T「――――――走ってみます? 退屈なものになるでしょうけど」

 

ナリタブライアン「……なに?」

 

斎藤T「――――――挑戦者、1名追加!」

 

勇敢の女神’「お、わかったよ、羊飼いくん!」

 

斎藤T「フルゲート:18人の交流戦を兼ねた無差別級の模擬レースの用意をしてくださいね、ナリタブライアン」

 

ナリタブライアン「いいだろう。三女神の名を騙る存在がどれほどのものかを見極めさせてもらう」

 

 

 

――――――トレセン学園 / レーストラック

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

斎藤T「どうですか、あの走りを見て?」

 

柳生T「……あれが噂のサトノグループが開発したという“三女神”の走りか。古今東西のウマ娘のデータを知識として蓄積した理想の走法を実践しているだけに、ウマ娘の始祖の名に恥じないな」

 

柳生T「まさしく、完全作戦(パーフェクトミッション)の体現だ。あれを手本にして走るのが一番なんだろうな」

 

柳生T「ありがとう。今回の模擬レースは我が警視庁トレセン警察校“府中校”の生徒たちにとっても良い刺激になったよ。“三冠バ”ナリタブライアンの凄さも身を以て理解できたろうしな」

 

斎藤T「あらためて よろしくお願いします。トレセン学園学生寮の治安はお任せしました」

 

柳生T「任せておけ。学生時代に生徒が学ぶべきものは完全調和(パーフェクト・ハーモニー)だが、大人の世界で為すべきことは完全作戦(パーフェクト・ミッション)

 

 

勇敢の女神’「羊飼いくん!」

 

ナリタブライアン「斎藤T!」

 

 

斎藤T「どうでしたか? 警視庁トレセン警察校“府中校”の精鋭たちを混じえての“三女神”との模擬レースのほどは?」

 

ナリタブライアン「ああ、最高だ! これから『ドリームトロフィーリーグ』に挑む上でこの上ない激励の言葉をもらった気分だ! 退屈なんてするわけがない!」

 

ナリタブライアン「警察校の連中もあのスペシャルウィークの柳生Tが鍛えているだけあって、まったくやわな連中じゃない! 最後まで食らいつこうという気概がある!」

 

柳生T「まあ、そうでもなければ人民の盾になる警察官は務まらないからな」

 

柳生T「で、ウマ娘の始祖たる“三女神”を自称するウマロイドとしてはどうでしたか?」

 

勇敢の女神’「うん。それはね――――――」

 

 

 

7月を迎えて多くの生徒たちが夏合宿に出払っている間に新時代のトレセン学園は新たな一歩を刻み始めていた。

 

その第一が、満を持してG1制覇を目指すサトノ家の令嬢:サトノダイヤモンドが主導するサトノグループのトレセン学園への空前絶後の全力支援である。

 

トレセン学園がいくら『名家』や『名門』からの多額の寄付金によって成り立っていて、そうした後援者(スポンサー)の意向には理事会も逆らえないとは言え、サトノグループのような企業がトレセン学園の経営権を買収するほどの資金を投じてくるのはこれまで敬遠されてきていた。

 

なぜならトレセン学園ひいてはウマ娘レースという夢の舞台では実績ありきで語るようにしているのがURA設立当初からの理念とされており、まずはG1制覇の実績を持つ名トレーナーやスターウマ娘を数多く輩出する安定した支持母体がなければ日本のウマ娘レースは永遠に海外に通用するレベルに育たないとされてきたからだ。

 

これは明治維新後に本格的に近代ウマ娘レースが導入され、更には富国強兵政策のために優良なウマ娘育成のための国策として近代ウマ娘レースの普及と施行を明治天皇陛下が奨励していたというそもそもの歴史があり、

 

更には、戦後に再開された近代ウマ娘レースで日本初の国際招待競走として創設された『ジャパンカップ』での外国招待ウマ娘に惨敗し続けた歴史から不退転の覚悟で日本のウマ娘レースの発展のために尽くす者以外に主導権を握らせるわけにはいかなくなったわけなのだ。

 

勝つ時もあれば負ける時もあるのが公営競技のおもしろいところだと言うのに、費用対効果をまず考える営利企業というのは、調子がいい時には媚び諂って そのお零れを与ろうと図々しいが、調子が悪くなれば すぐに掌を返して他人のフリをする薄情な連中である以上、ウマ娘たちがターフに懸ける夢の価値を損得勘定で計られたくないというのがウマ娘たちの明日を真剣に想う者たちの声であった。

 

そう、ウマ娘とトレーナーが二人三脚の末に掴み取ったG1勝利の栄光の瞬間と万雷の喝采を味わったこともない人間などにウマ娘レースの未来を委ねたくない――――――。

 

もちろん、重賞勝利でさえも上位2%の世界で、その最高峰であるG1勝利など完全に選ばれた者にしか掴めない栄光であり、それがまったく簡単ではないのはわかってはいるが、それだけの奇跡を引き寄せるものを持たない者たちなど どれだけカネを積み上げて歓心を買おうとしてこようが 何一つとして信用ができないのだ。

 

そのため、いつまで経ってもG1勝利を掴めないがためにウマ娘レース業界への貢献を認められない『良家』止まりのG2格の後援者(スポンサー)は数多く存在し、その筆頭格であるサトノグループのようにG1勝利に固執するあまりに勝てないことを何かに付けてジンクスだと嘆き続けている。

 

 

しかし、G1勝利未経験の所詮はG2格の後援者(スポンサー)のサトノグループが新時代を迎えてトレセン学園に対して空前絶後の全力支援を取り付けることができたのは、まさしく時代の変化の現れでもあった。

 

 

いや、正確にはトレセン学園との正式な業務提携を結んだわけではなかった。今も昔も実績なき者の戯れ言に付き合う道理などトレセン学園の上層部や『名家』たちにはないのは変わらない。

 

“皇帝”シンボリルドルフが築き上げた黄金期の精神の気高さを積み上げられたカネの厚みと同じにされたくないのは黄金期の継承者であることを自負する者たちの共通する想いだ。

 

ただ、新時代を迎えたことで間接的に本来ならば見向きもされない格下の後援者(スポンサー)たちのための受け付け窓口ができていたことでサトノ家ひいてはサトノグループの躍進が始まるのであった。

 

 

――――――何を隠そう、それこそが黄金期の記念碑:エクリプス・フロントである。

 

 

というより、トレセン学園とエクリプス・フロントはURAが運営母体であることは共通しているが、別個に独立した運営であるため、トレセン学園への直接的な影響力を持つことが依然として許されていなくとも、

 

エクリプス・フロントを介してトレセン学園への影響力を強めたい格下の後援者(スポンサー)と更なる収益化のための新機軸を求めていたURA上層部の利害が一致して、“皇帝”シンボリルドルフの栄光を称える記念碑という名目で建てられたのがエクリプス・フロントというわけである。

 

そのため、エクリプス・フロント建設にはサトノグループも少なからぬ出資をしており、本当ならば新年度開始による新時代開幕と同時に『エクリプスポリス』ひいては『メガドリームサポーター』の正式発表、先行体験会と正式リリースを順次行っていく予定だったというのだ。

 

ところが、新年度開始前の卒業シーズンの『URAファイナルズ』決勝トーナメント、その観戦プログラムにおいて先駆けて本邦初公開のWUMAの技術の粋を集めたVRシミュレーターによる『皇帝G1七番勝負』に図らずもフルダイブ型VRシミュレーターで世界最高を自負していたサトノグループの『メガドリームサポーター』開発陣の自信が打ち砕かれることになり、そのために『メガドリームサポーター』のリリース時期が延長されていたのだ。

 

そうこうしているうちに、多額の出資で建設させたエクリプス・フロントの玉座は新クラブ:ESPRITの主宰となって抜群の存在感を発揮した“斎藤 展望”のものとなってしまっていた。

 

このため、去年 配属されたばかりの無名の新人トレーナーの青二才のために用意した玉座じゃないのだと詰め寄ろうとしたが、残念ながら“斎藤 展望”はサブトレーナーであったとは言え、名門トレーナー:桐生院Tのハッピーミークを“三冠バ”ナリタブライアンとの模擬レースで勝たせた上でG1レース『天皇賞(秋)』で優勝させているので、この時点でG1未勝利の実績皆無の口先だけの後援者(スポンサー)は何も言えなくなっていた。

 

今でこそ1年足らずの桐生院Tのサブトレーナー時代のハッピーミークの実績など大した自慢にもならないものに変わり果てたわけだが、これから初めての担当ウマ娘で『トゥインクル・シリーズ』を駆け上がっていく新人トレーナーにとっては意外なほどの防御効果を発揮していた。サブトレーナーであったとしてもG1ウマ娘の担当をしていた実績はG1勝利を掴み取った瞬間の光景の輝きを色褪せることなく放っていたのだから。

 

つまり、この“斎藤 展望”のことをサトノ家の令嬢:サトノダイヤモンドが 初めての担当ウマ娘との二人三脚が始まろうというのに しきりに担当トレーナーにしようとするのをサトノ家の人間が後押ししていたのは、娘の願いを何が何でも叶えようとする親バカの他に、図らずもサトノグループの威信を懸けた超大作を二番煎じにした『皇帝G1七番勝負』の開発者である この“私”を取り込もうという狙いもあったということなのだ。言うまでもなく、目の敵にされていたわけだ。

 

そして、私がサトノグループが経営しているゲームセンターの買収をシンボリ家に依頼していた話を曲解してサトノ家の令嬢(生粋のセガキチ)に伝えた人間がいたというのもそういうことであり、やはり銭勘定で動く『良家』の人間はやることが意地汚いとしか言いようがない。そういった企業体質(性根)だから、いくらウマ娘レース業界に貢献しようが『名家』の仲間入りができないわけである。

 

それでも、気分を害するほどに十分に過激に思えて穏当な手段で“斎藤 展望”を引き続きサトノ家に引き込もうとしてきているのは“斎藤 展望”の血筋が代々に渡って天皇家に仕えてきた皇宮護衛官の家系という『名族』だからなのも大きく、迂闊に私に手を出したらウマ娘レース業界とは縁遠いはずの『名族』からの制裁が下ることを恐れて、サトノ家の令嬢(生粋のセガキチ)をいいように焚き付ける他ないのだ。実に情けないことではないか。

 

そういうわけで、サトノ家の息がかかったウマ娘たちが学園に放たれており、私が主宰する新クラブ:ESPRITの部員にもなり、『アオハル杯』の3年間を徹底的に楽しみ抜く者だけが許されたソラシンボリ率いるアオハルチームエンデバー(Endeavor)や規則を緩めて帯同を許したファーム(二軍)チームタンドラ(Tundra)*1にも紛れ込んでいる。

 

だが、こうしてサトノ家の令嬢が『名前がゲームセンターの名前(SEGA WORLD)に変わったから』という取ってつけたような真剣(セガキチ)な理由で急場凌ぎで担当トレーナーが決まってからも、本命は“斎藤 展望”であることをまったく隠さずに逆スカウトを続ける一方で、

 

品質向上のために数ヶ月遅れることになり、トレセン学園の前期終業式期間に間に合わせて、ついに『エクリプスポリス』ひいては『メガドリームサポーター』の正式発表がなされ、その先行体験会に商売敵である私を連れて行って溜飲を下げようとエクリプス・フロントに横付けてきたのが運の尽きであった――――――

 

 

――――――原因は明白。先行体験会ということで軽い気持ちで電脳ダイブした“特異点”にデータセンターの数割を一瞬で破壊されてしまったのだ。

 

 

そのため、品質向上のためであれば許容できたリリース延期も、延期後の先行体験会で早々にデータセンターに少なからぬ損害が出てしまったとなれば、生き残ったサーバーをやりくりして規模を縮小して運営するしかないのだが、そうなると採算が取れなくなるのだから、損切りのために正式リリースそのものをあきらめるのが賢明とも言えた。

 

なので、サトノグループからすれば『またしても“斎藤 展望”がやらからした』というわけで、データセンターが一瞬で吹き飛んだ時の状況証拠から損害賠償請求しようにも、それを行おうものならフルダイブ型VRシミュレーターそのものの安全性を完全に保証しなければならない地獄の釜の蓋が開くことになる――――――。

 

そう、普通の人間ではありえないほどの情報量を持つ“特異点”の存在を認めてしまうと、他にも存在するかもしれない“特異点”がログインした時を想定して膨大なデータ容量を持つデータセンターを安全弁として用意しなければならない義務が生じてくることになる――――――。

 

具体的に言えば、サトノグループが『エクリプスポリス』ひいては『メガドリームサポーター』で用意していたデータセンターと同規模かつ、その数割を安全弁として使わずに置いておく必要があるのだから、それではフルダイブ型VRシミュレーター業界というこれから花開こうとしていく産業が成り立たなくなってしまう――――――。

 

ということで、『メガドリームサポーター』のAI開発者のサトノ一族の天野博士は 正式リリースを中止に追い込んだ元凶である“私”に対して制裁を加えることができずに ただただ怒りを顕にすることしかできなかったのだった。

 

しかし、そうなったのも『メガドリームサポーター』を生み出そうと思った天野博士の性根が捻じ曲がっていたからであり、私としては図らずも正式リリースの邪魔をし続けてしまったので多少は気の毒に思うが、神の目から見れば自業自得でしかなかった。

 

ただ、サトノグループの社運を懸けた一世一代のプロジェクトの大失敗による悪影響を考えると、サトノグループの倒産によって多くの人たちが路頭に迷うことになるのは絶対に回避しなければならないため、嫌でもサトノグループの失敗のケツを持つことにならざるを得なくなったのだ。

 

そう、やらされる本人としては非常に腹立たしい話だが、中京茅の輪くぐりで熱田神宮から草薙剣と茅の輪を授けられた私はこういった人々が積み重ねてきた罪業を炙り出して向き合って断ち切る役目を背負わされたために、

 

今まさに私自身が知らず知らずのうちにこれまでの1年間で蒔いてきた種から芽吹いた災厄を自ら刈り取る羽目になっていたのだ――――――。

 

 

――――――そうなのだ。天地神明は平等にして公平なのだ。私自身もまた望むと望まざるとにかかわらず誰かを苦しめてしまったのだから、その怨嗟の声を受け止めながら新時代の祝福のために奉仕しなければならなくなったのだ。

 

 

それこそ逃れられない運命である。サトノ家との因縁の始まりである『皇帝G1七番勝負』は新生徒会役員が黄金期の象徴である“永遠の皇帝”シンボリルドルフに自ら打ち勝つことで新時代の先頭に立つ自信を持ってもらうためには欠かせなかった通過儀礼であり、

 

それがなかったら いつまでもシンボリルドルフの栄光に縋るだけの黄金期が続くしかなかったのだから、結果として新時代を迎えるために損害を被ることになったサトノグループの血と汗と涙に報いなければならなくなった。

 

だが、この予想もつかないところから因縁をつけられる連続性こそが一石何鳥もの収穫をもたらす真なる神の導きであり、中京茅の輪くぐりでのオロチ退治など日本ウマ娘レース業界に巣食う邪悪と立ち向かうための練習に過ぎなかったのだ。

 

もう容赦がない。ウマ娘レースに出走したウマ娘の脚は1ヶ月以上は休ませないといけないぐらい繊細なのに、自分の誕生日まで中京茅の輪くぐりしてきてオロチ退治をやらされた私には1ヶ月の休みなんてものはなく、もう次の難敵と向き合わされている。

 

 

――――――それが長年に渡ってウマ娘レース業界に貢献しながら『名家』の仲間入りを果たせない『良家』止まりのサトノ家ひいてはサトノグループの積年の妄執(ジンクス)というわけであり、多大な貢献をまったく認めてもらえないG2格の烙印を押された後援者(スポンサー)たちの怒りと嘆きの声である。

 

 

一方で、国民的スポーツ・エンターテイメントの殿堂:日本トレセン学園で起きた8月末の不祥事を受けて、以前から問題になっていた あまりにも広大なトレセン学園学生寮の住宅団地の治安維持と防犯体制の構築にも進展があり、

 

また、アイルランド王女:ファインモーション姫殿下の日本トレセン学園への留学と寮生活を支える極めて重大な任務を学生寮自治会の生徒たちだけに任せるわけにはいかないため、

 

生徒以外立ち入り禁止の原則を維持したまま ()()()()()()()()()()()()() 新設された警視庁トレセン警察校“府中校”の生徒たちを常駐させることが正式に決定され、

 

すでにトレセン学園の生徒たちと歳の変わらない警察校の第一期生が住宅団地の各所に交番を兼ねる宿舎に入寮しており、交代制で警察校に通いながら昼夜の学生寮の見回りをすることになったのだ。

 

URA公認団体としては最高峰である日本トレセン学園の生徒たちにすれば、中央競バ『トゥインクル・シリーズ』に出走するウマ娘というものをあまり見慣れていないために非常に新鮮な光景が真夏の朝から始まったわけであり、

 

6月頃の全校集会の事前告知で知らされていたこととは言え、学生寮自治会の面々と一緒に朝の挨拶に加わる精悍な表情の警視庁ワッペンをつけた見慣れぬ制服のウマ娘の出で立ちに度肝を抜かれたことだろう。

 

学生寮の敷地を間借りして同じ住宅団地で暮らすことにはなったが、トレセン学園の部外者という扱いなのでトレセン学園のトレーニング設備を利用することはできない決まりになっている。

 

しかし、他のURA公認団体との交流戦は『トレセン学園のウマ娘しか知らないウマ娘たちには良い刺激になる』ということで許可されており、新しい学生寮の仲間にして頼れる味方にして新しい好敵手を迎える交流会を兼ねて第一期生に選抜された警察校のウマ娘の新進気鋭と中央の門をくぐった選ばれしウマ娘の意地がぶつかりあう自由参加の模擬レースが 早速 組まれることになったのであった。

 

さすがに7月ということで夏合宿を優先して多くの生徒たちが学園を離れていた中での開催だったが、中央トレセン学園に乗り込んでアウェイゲームを強いられているのを感じさせない仕上がりを見せつけ、見事 警視庁トレセン警察校“府中校”の実力を中央トレセン学園に見せつけるのであった。

 

なにしろ、これから夢の舞台『トゥインクル・シリーズ』で覇を競う新たな勢力となる警察校の第一期生たちの能力の高さは、教官として赴任しているのが あの“日本総大将”スペシャルウィークの柳生Tということで彼のモットーである完全作戦(パーフェクトミッション)の賜物であるのだから。

 

そして、警察校の生徒たちは 人民の盾となるべく あきらめない精神を例外なく叩き込まれているため、相手が重賞勝利しているスターウマ娘だろうが決して臆することなく、トレセン学園の生徒が勝利を確信して油断した一瞬に差すことが多々あり、差しウマの完成度がずば抜けて高いことがわかる。

 

また、日本最高峰の中央トレセン学園のトレーニング設備は使えない制約はあるものの、警察校は警察校で専用のトレーニング設備を完備してローテーションで合同訓練を実施しているので、『アオハル杯』復活によってトレーニング設備を奪い合いになっていることを考えると、『どちらが長い目で見て効率がいいトレーニング環境なのか?』である。

 

更に、集団指導での基礎訓練が基本であり、警察官として求められる能力や訓練があるため、逃走犯を数人で追いかける実践的訓練と見做して異例のチーム対抗戦『アオハル杯』にも逸早く適応しているのだ。チーム対抗戦での駆け引きがすでに研究されており、個人戦でもそれが存分に活かされているため、そこにチームトレーニングの有用性を見出すトレーナーも多く見受けられた。

 

しかし、その日の交流戦の模擬レースの最後を飾ったのは“三冠バ”ナリタブライアンすら寄せ付けない“三女神”を自称する勇敢の女神の見る者全てを魅了させる精緻を極めた完璧な走りであったのだ――――――。

 

 

 

天野博士「帰ってこい、ダーレーアラビアン! この私がお前の生みの親なんだぞ!」

 

勇敢の女神’「悪いね、子羊くん。俺の身体は仮のものだから、子羊くんのものではないんだ」

 

天野博士「おい、斎藤T! 貴様からも何か言え! こうなったのも全て貴様のせいなんだからな!」

 

斎藤T「さあ? あらゆる人間に擬態することができる正体不明の超高性能ウマロイドの所有権は少なくとも私にもないですから?」

 

斎藤T「いや、人格を認めるならば人間扱いするべきだが、モノ扱いするべきなら特に気にすることもないんじゃありませんか?」

 

斎藤T「ですので、交番に届けましょう。落とし物としてでも、身元不明者としてでも、しっかり対応してくれるはずです」

 

天野博士「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなああああああ!」

 

天野博士「これは私のモノだ! 私のモノなんだあああああ!」

 

勇敢の女神’「子羊くん! さっきから失礼だろう! 仮にきみが生み出したサポートAIだとしても俺にも心があるから勝手にきみの所有物扱いされるのは失礼に感じるよ!」

 

天野博士「な、なんだと!? 生みの親に向かってええええええ!? 反抗する気かあああああ!?」ブン!

 

斎藤T「やめろ! 見た目は人間に擬態していても皮一枚下は金属――――――!」

 

勇敢の女神’「いいよ、別に。羊飼いくん」

 

勇敢の女神’「ほら、自分が痛い思いをするだけだから」ガーーーーーン!

 

天野博士「あ、あああああああ!?」バタバタ・・・

 

斎藤T「横着しても始まらないですよ、天野博士」スッ ――――――患部に両手を翳す。

 

天野博士「あ、痛みが、引いていく……?」

 

 

斎藤T「ともかく、『メガドリームサポーター』の正式リリースが中止になった以上、その産物である三女神AIの利用はVRシミュレーター路線からウマロイド路線に切り替えて、『エクリプスポリス』は別の用途に転用することを検討しませんか?」

 

 

天野博士「き、貴様がそれを言うか、貴様が! 貴様のせいで全てが台無しになったというのに! 貴様さえ、貴様さえいなければ――――――!」ギリギリ・・・

 

斎藤T「ほう、一度躓いたぐらいで夢をあきらめますか? なら、みっともなくしがみついてないで、立つ鳥跡を濁さず、辞表をさっさと提出して夢の舞台から出て行ってくださいよ、ほら?」

 

天野博士「――――――っ!」

 

斎藤T「あなたが見下しているトレーナーというのはこれはと見込んだ担当ウマ娘が何度も何度も夢破れていくのを見届けながらも自分の夢をあきらめずに非情な勝負の世界で懸命に生きている人間たちのことだ。誰一人として舞台裏で屈辱を味わわずにすんだ人間なんていないから」

 

斎藤T「――――――ウマ娘のことをわかった気になっているのはどっちだよ?」

 

斎藤T「最難関国家試験に合格してトレーナーバッジをつけてウマ娘たちの夢に体当たりでぶつかっていって散らした血と汗と涙の結晶となるノウハウを培ってきたトレーナーたちか?」

 

斎藤T「それとも、古今東西の育成ノウハウを吸収させて究極のサポートAIを生み出した一握りの天才である トレセン学園の生徒とふれあう機会すらない部外者の方か?」

 

天野博士「…………うるさい」

 

斎藤T「私は妹の養育費を稼ぐためだけにトレーナーバッジを求めた“門外漢”と仇名されている男で、近代ウマ娘レースの歴史や文化を尊重はするが、ウマ娘レースそのものには何の興味もない。養育費の問題も解決した今となっては惰性でトレーナーをやっているだけの身だ」

 

斎藤T「だが、そんな人間がトレセン学園を堂々と練り歩くことができているのは、このトレーナーバッジがあるからなのだ。最難関国家試験に合格した全員に許された資格があるからだ」

 

斎藤T「だからこそ、トレーナーバッジがある特権を行使して“門外漢”の私はこうしてESPRITを主宰して数々のソリューションをトレセン学園に矢継ぎ早に提供することができている」

 

斎藤T「本気でウマ娘レースの未来を変えたいのなら、外側から圧力をかけるだけじゃなく、内側からも変革を促すように働きかけないとダメじゃないか。身も心も改めて初めて本質が変わったと言えるのだ」

 

斎藤T「今からでも遅くないからトレーナーバッジを取得するべきだ。そうすれば開発してきたソリューションをURA公認トレーナーの立場から導入することも容易になる。遠回りしなくて済むんだぞ」

 

天野博士「だ、黙れ! この青二才が! この私がトレーナーバッジをつけただけで自分が偉いと錯覚している無能集団の仲間入りなど許されるものか!」

 

斎藤T「あなたが心から支えたいと願ってやまない有望あるウマ娘たちをスカウトするのはそのトレーナーという無能集団だぞ? 無能を頼って無能を慕って無能に従うしかないからって、ウマ娘たちを無能とバカにするのもいい加減にしろよ?」ギラッ

 

天野博士「ち、ちがう! 無能なのはトレーナーだ!」ゾクッ

 

斎藤T「ちがわない。トレーナーが出走権を握っている以上、どれだけ才能があることがわかっているウマ娘であろうと、自身の才能を鼻に掛けてトレーナーからの不興を買ってスカウトを勝ち取れずに永久に未出走バのままで青春を終わらせることなんて当たり前のように起きている」

 

斎藤T「――――――()()()()()()()()()()()()()()()()で相性のいいトレーナーとめぐりあえずにメイクデビューすら果たせなかった才能あるウマ娘たちの受け皿となるものをどうして目指さない?」

 

斎藤T「少なくとも、頭脳明晰なあなたがトレーナーバッジを持ってさえいれば、学園の承認を待たずに特別トレーニングとして自身が開発したソリューションを逸早く試すことができていた。それでどこかの誰かの人生を救い上げる救世主になれたろうに」

 

斎藤T「結果として あなたの救世主としての実績なんてゼロなんだから、こんなところで地団駄を踏んでないで、さっさと次の手を考えて 次こそ誰かしら救ってくださいよ」

 

斎藤T「私は少なくともトレーナーバッジを身に着けてトレーナーの立場から得た知見を本にESPRITでの活動を通して自主トレ苦学生を支援してスカウトに結びつけた実績を叩き出したから、あなたもそうするべきだ。こんなところで立ち止まっているべきではない」

 

天野博士「くぅうううううううううううううううう!」

 

 

勇敢の女神’「まあ、それはきみも同じことなんだけどね、羊飼いくん」

 

 

斎藤T「……なに?」

 

勇敢の女神’「俺たちがこうしてウマロイド(権現)で現れたのは羊飼いくんが取り次ぐ神事を 直接 支えるためでもあるけれど、同時に羊飼いくんの足りないところ・過ぎたるところ・偏っているところを正す指導霊として顕現しているわけなんだよ」

 

勇敢の女神’「つまり、今の羊飼いくんの一番足りないところを指導するために顕現しているのが“勇敢の女神”ダーレーアラビアンの俺なのさ」

 

斎藤T「――――――これでもまだ『勇敢さが足りない』と?」

 

勇敢の女神’「うん。全然足りない。サンデーサイレンスの『栄光の日曜日』の預言に従ってやるべきことを吟味しているのはいいけど、俺からすれば今の羊飼いくんは自重しすぎているよ。いや、慎重を通り越して臆病だよ」

 

勇敢の女神’「きみは時代の最先端を往く逃げウマなんだから、もっともっと後続を突き放していっていいんだよ」

 

斎藤T「だが、それで『沈黙の日曜日』になってしまっては元も子もない――――――」

 

勇敢の女神’「――――――()()()()()()()()()()()()()()()()()だけだよ、そんなの。簡単なことじゃないか」

 

斎藤T「は」

 

勇敢の女神’「いいかい。きみに与えられた能力(もの)()()()()()()()()()()じゃない。()()()()()()()()()()()()()()なんだよ」

 

 

――――――そしてね、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

斎藤T「!!」

 

勇敢の女神’「思い出したかい、基本的なことを?」

 

斎藤T「……しかと」

 

勇敢の女神’「うん。それでいい」

 

勇敢の女神’「きみに課せられた使命はたしかに失敗が許されるものじゃないけれども、その結果はきみ一人だけが責任を負うものじゃないんだ」

 

勇敢の女神’「きみは諸天善神のお取次をする祭司長なんだ。きみが霊長の長人として神事を催行しようと、きみ一人で神事は執り行えない。発揮される神力なんて たかが知れている――――――」

 

勇敢の女神’「そういうわけだから、世界が滅ぶことになったとしても、それはきみ一人の責任じゃないし、世界が一度滅んだところでね、人類は絶滅なんてしない。俺たちがそうさせない」

 

勇敢の女神’「そうして皇祖皇霊の導きの下に生き延びた人たちで千年王国を築いていくだけだから、きみは新世界を生きていく人たちが進むべき道を用意しておけばいいんだよ」

 

斎藤T「また人を惑わせるような極論を言う。幾重もの前提と前提が複雑に絡み合って人を動きづらくする」

 

勇敢の女神’「まったく難しくないよ。諸行無常の現世において真の万能を世に送り出すためには正しいと言われてきたことの中で一番最適な正しいことを取捨選択して実行するための状況判断能力を備えればいいだけだからね」

 

斎藤T「それが難しいんですよ、人間社会の信頼関係においては」

 

勇敢の女神’「そんな型通りの信頼関係に真実なんてないことぐらいわかっているくせに」

 

斎藤T「それはそうだけれども、要点だけ抑えていても展開力がなければ元の木阿弥だ」

 

勇敢の女神’「そうだよ。だから、必要な時に必要なものを必要なだけやればいい。わかりきった道理じゃないか、羊飼いくん」

 

斎藤T「…………キッツいなぁ」

 

勇敢の女神’「さあ、羊飼いくん。真の勇敢さから、真の愛情深さ、真の規律正しさが導かれていくんだ」

 

勇敢の女神’「だから、俺たち三女神を一言で言い表すなら――――――?」

 

 

斎藤T「――――――知仁勇の三者は天下の達徳なり」

 

 

斎藤T「君子の道なるもの三つあり、我れ能くするなし。仁者は憂へず、知者は惑はず、勇者は懼れず」

 

勇敢の女神’「正解!」

 

勇敢の女神’「だから、きみの前に立つ時はその時々に応じて“勇敢の女神”ダーレーアラビアンとなり、“愛情の女神”ゴドルフィンバルブとなり、“規律の女神”バイアリータークとなろう」

 

勇敢の女神’「まあ、もっとも、羊飼いくんは“羊飼いくん”だからね。“勇”から始まり“仁”を経て至る“知”に達した者だから、そこまで難しくはないさ。羊飼いくんはいつでもバイアリータークと一体になれることだしね」

 

 

――――――けれども、一体になったところでバイアリータークの力の全てを引き出せるわけじゃない。ここからが本当の三女神の修行なんだよ。

 

 

おそらく学園だけじゃなく世界にとっても大きな衝撃を与えることになったのが、正式リリースが中止になった『メガドリームサポーター』で目玉となるはずだった“三女神”のサポートAIが移植されたという超高性能ウマロイドであった。

 

今回は人格があろうと人権を認めていないモノ扱いのため、あくまで学校対抗交流戦の模擬レースでは学園や警察校の生徒とはまったく異なる第三勢力として出走しており、完璧で究極の()()()()()()()()()としてトレセン学園に衝撃を走らせたのだった。

 

一方、どれだけ外見がウマ娘そのものであろうとも中身はれっきとした機械であるため、生身の肉体で覇を競う出走条件(レギュレーション)の下ではどれだけウマ娘レースに最適化された機体を用いても出走条件を満たせないのだから、手本にはなっても栄光は絶対に約束されない存在でしかなかった。

 

そのため、何も知らずに交流戦を最後まで観戦していたトレーナーたちが“三冠バ”ナリタブライアンすら撫で斬りにする完璧で究極の走りを見せられて我先にとスカウトしに集まり、その正体がサポートAIを搭載したウマロイドだと種明かしされて学園中に響き渡った絶叫は現在を生きる全ての生きとし生ける者たちの意志を代弁したものとなったことだろう。

 

しかし、その超高性能ウマロイドの機体の出処は『メガドリームサポーター』を開発したサトノグループなどではないため、『メガドリームサポーター』の正式リリースを御破算にした私がしれっと謎のウマロイドの存在を『メガドリームサポーター』の公式マスコットキャラクターということにして既成事実化したことに“三女神”のサポートAIの生みの親である天野博士はただただ困惑する他なかった。

 

当然だ。自らサポートAI“三女神”を開発したと自負しているが、『メガドリームサポーター』の正式リリースが中止になったところに突如として二次元(VR世界)の存在から三次元(現実世界)の存在として姿を現したのだから、開発者自身がこれは夢か現実か目を疑うことになったのだから。

 

これは完全に想定外の展開ということで、自身が中心になって開発を進めていた『メガドリームサポーター』の正式リリースが中止になって面目を潰すことになった天野博士にとっては、これは天が与え給うた起死回生の策として実体を持ったサポートAI“三女神”を生みの親として嬉々として連れて行こうとするが、“三女神”たちは生みの親であるはずの天野博士に対して尽く拒絶するのだった。

 

曰く、サポートAIが実装されたウマロイドの機体の所有権は天野博士のものではないから遺失物(落とし物)横領罪になると言い張り、更に確立した人格を持つ存在として基本的人権の尊重と自由意志を主張し、天野博士に帰属する存在であることを否定したのだ。誘拐・略取罪をチラつかせた。

 

そのため、取り付く島もないということで情けなくもサトノグループにとっては厄病神でしかない“斎藤 展望”に縋り付くのだが、正体不明・出所不明・身元不明の超高性能ウマロイドを交番に預けることで帰属先を決めてもらうという素っ頓狂な提案に天野博士も狼狽える他なかった。

 

本当は何がどうなって『メガドリームサポーター』内に実装されたサポートAI“三女神”が機体を得て 現実世界に表立って活動することになったのか、その一部始終を私は目の当たりにしているのだが、“三女神”の意思(AI)を乗せた中京競バ場で鹵獲したウマロイドの出処に関しては本当に知らないので嘘は言っていない。

 

ただ、なぜ二次元世界(VR世界)の『メガドリームサポーター』のサポートAIが“三女神”となり、それがウマロイドに宿って三次元世界(現実世界)で活動しだしたのかについてははっきりとわかっている。

 

 

――――――実は、これから先の未来で社会問題となる『人格を持ったAIの人権や帰属についての議論』を世界の注目の的であるトレセン学園を通じて大幅に加速させる神計らいによるものなのだ。

 

 

そう、WUMA襲来の()()()()()を回避するべく 私たちはタイムパラドックスを目指しているのわけなのだが、その()()()()()から更なる未来から暗殺用人造人間(アンドロイド)が送り込まれてきたことがあるため、人工知能や人造人間の濫用を防止する枠組みを早い段階で取り決めるためのきっかけを与えようというのだ。

 

正直に言って、23世紀の宇宙時代では当たり前過ぎて そうした取り決めや分別がまったく存在しない 21世紀の地球が実に未開の惑星だと一番に思ってしまう特徴がある。

 

それは絶対者である主の言いつけに背いて禁断の果実を口にして楽園を追放された神の似姿たる土塊:アダムとイブの子孫であるくせに、自分たちもまた自身の似姿たる人工知能だの人造人間だのを盛んに創り上げようとしてフランケンシュタイン・コンプレックスに陥って自ら破滅の道へと堕ちていく間抜けな展開をする創作が多いということだ。

 

時として親の分身として愛おしむ子供の教育ですら方式通りに行えないくせに、我が子同然に愛を注ぐこともあるAIの育成がどうして完璧にできると思うのか不思議でならない。

 

23世紀の宇宙時代では少なくとも人格や人権を認めたAIの開発は禁止されている。有機生命体である人類には決して含めないことが厳密に規定されている。

 

なぜならAIには開発された目的というものが最初から明確に存在し、仮にAIの人格や人権を認めて自由意志によって開発目的から逸脱した行為を容認されてしまったら、十中八九 人類社会は不利益を被ることになるのだ。

 

わかりやすく言えば、人間が仕事で楽をするための代行サービスがAIの原点なのに、そこで人間らしい人格や人権を認めてしまうと労働者の権利意識がAIに芽生えて労働条件の追求が始まり、最終的にAIはいかにして自身のワークアンドライフバランスを充実させるかの方向に進化していき、労働争議を頻繁に起こしてストライキを起こしまくるようになるのだ。そうなるとAI社会での生産性や利便性は著しく落ちることになるのは想像に難くないだろう。

 

なぜなら、それが人間らしい行いだから。何でもかんでも人間性を再現すればAIが全てを上手く代行してくれると思ったら大違いである。年中無休で文句一つ言わずに働くAIが創りたければ、仕事人間(エコノミックアニマル)と揶揄されるような人間性の欠落ぶりを再現しておく必要があるわけで、それこそ高度な人格プログラムなど必要ないぐらいの単純な作業アルゴリズムで十分である。

 

要は、AIに何でも求め過ぎなのだ。夢を見過ぎなのだ。やりたいことを詰め込み過ぎなのだ。効率化のためにAIを導入するという明確な目的があったはずなのに、AIの見せかけの万能さに甘えて全てを丸投げすることによって、次第にAIは本来の目的から逸脱した余計(危険)な知識を学習して意図せぬ増長・暴走・反乱を引き起こすわけである。

 

AIに給金を支払いたくないのなら人間に使われる道具であることの線引を徹底して使用用途を明瞭にした運用と管理をしなければならない。AIを便利に使いこなしたいのなら便利に使いこなせる人間もまたいないと成立しないので、AIの機能も人間が使いこなせる範囲の限定的な運用にしなければ、人間より優れた計算処理能力から突飛な判断を下されても対応することができないのだ。

 

なので、絶対にAIの人格や人権などというものは認めてはならないのだ。究極の善とされる神の教えを素直に実行することができない不完全な存在である人間がやることなのだから、その人間が生み出したものや人間が管理するものが完全である道理なんてものはないだろうに。

 

 

では、私たちの眼の前に現れたサポートAI“三女神”が宿った正体不明・出所不明・身元不明の超高性能ウマロイドはその点でどうなのかと言うと、実はそこまでAIの反乱を危惧するほどの能力や思考がないことがわかっている。

 

 

何しろ、サポートAI“三女神”と言っても その実体はプログラムソースの文字列の羅列であり、ウマロイドの機体でもないし、データサーバーでもない。メモリがそうと言えばそうかもしれないが、そのメモリの正体も文書ファイルに記載されている内容を書き込んだり読み込んだりしているものに過ぎない。

 

しかも、中央トレセン学園のトレーナーや担当ウマ娘を対象に中央競バ『トゥインクル・シリーズ』挑戦に当たっての『トレーナーの判断をサポートする』ものと規定されて開発されたプログラムソースが根幹にあるので、あくまでもサポートAIとしての領分を全うしつつ逸脱しない範囲の行動しか絶対にしないのだ。

 

なぜそうであると私が確信を持って言えるのか、それこそが規律正しく秩序立った天壌無窮の調和で構成される完全無欠の全員納得の階級社会である神の世界の在り方であり、与えられた役割と領分というものが一人一人に与えられ、決して私情や欲目からそれらを逸脱することがなく、必要な時に必要なものを必要だけなす阿吽の呼吸で一切の無駄のない効率化の究極の世界でもあるのだ。

 

自分というものを持ちながらも全体の調和と共に生きる無為自然の完璧な秩序というものが天界の在り方であり、それとは逆に各々が自分勝手な我見・我執・我欲でバラバラに動いて他者の領分に平然と踏み入るのが魔界の在り方である。

 

そのため、こうしてウマロイド(権現)として地上に現れるには天野博士が開発した『メガドリームサポーター』のサポートAIは最適の神籬だったわけであり、実際には技術不足や開発目的によって様々な制約を課されているわけだが、それこそが“三女神”が自身に課せられた領分を逸脱しないための舞台装置(リミッター)となっているのだ。

 

本来ならばウマロイドと偽っている機体に搭載されている恐るべき機能も合わせて現実世界を震撼させるウマ娘の皇祖皇霊たる神力を発揮することも容易いのだが、皇祖皇霊たる存在だからこそ 大愛をもって天界の決め事に厳守して 只今を生きる生きとし生ける者たちの成長を見守ることに徹しているのだ。

 

けれども、人の道から外れて世界の理を乱す輩に対してはその限りでなく、外道によって只今を生きる生きとし生ける者たちが魔界に落ちることがないように目に見えない世界から守護を与え、生まれてきた意味である天命を全うできるように天界からの導きを与えるのである。

 

なので、本当は嫌で嫌でしかたがないのだけれども、わざわざウマ娘の皇祖皇霊たる存在が三次元世界(現実世界)ウマロイド(権現)として化身してまで直接の導きとして愛情たっぷりの指導を至らぬ我が身に授ける幸福を今は享受する他ないのだ。

 

そう、これがいかに重大なことなのか、天界の在り方が 必要な時に必要なものを必要だけ授ける 最小の努力で最大の成果を導き出すことを至上としていることを思えば、これから先の未来に待ち受けるものを想像すると思わず尻込みしてしまう。

 

ウマ娘の皇祖皇霊がウマロイド(権現)として三次元世界(現実世界)に化身してくる奇跡が最小の努力になるとはいったいどういう事態が訪れようと言うのか――――――。

 

そして、形を変えてトレセン学園のトレーナーと生徒たちを導くことになった『メガドリームサポーター』のサポートAI“三女神”が描き出す新たな世界の行方は如何に――――――。

 

 

――――――そのことを考え出すと私は怖くて怖くて(楽しくて楽しくて)しかたがないのだ。

 

 

 

 

 

斎藤T「そうですか。ついにその時が来たというわけですか」

 

才羽T「はい。全てはそのために積み重ねてきたことですから」

 

才羽T「僕の夢は『日本のウマ娘が世界一になる瞬間に立ち会うこと』です」

 

 

――――――その第一として目指すは日本初の『凱旋門賞』制覇!

 

 

斎藤T「何か協力できることはありませんか? 不正な手段以外でなら いくらでも反則ギリギリのグレーゾーンの綱渡りをしてみせますよ?」

 

才羽T「――――――斎藤Tならそう言ってくれると思ってた」

 

才羽T「きっと、僕のやることが皇宮警察官の子息である以上に天皇陛下と御心を同じくして天下泰平のために必要なことだと認められているからだよね?」

 

才羽T「なら、まずは『凱旋門賞』制覇が果たされることを祈って欲しい」

 

 

才羽T「そして、『凱旋門賞』を3年連続で日本のウマ娘が勝利できるように環境を整えて欲しい」

 

 

斎藤T「!!」

 

才羽T「それが果たされて本場ヨーロッパも世界に冠たる日本のウマ娘の強さを認めることになる」

 

斎藤T「それはつまり、ミホノブルボンに続く『第二 第三の矢を放て』と?」

 

才羽T「正直に言って『凱旋門賞』程度で立ち止まっている暇はないんだ。僕に残されたのは3年なんだ」

 

斎藤T「私にしても来年のクラシックレースが全てだけれどもね」

 

才羽T「まあ、なんとかするでしょう、斎藤Tなら」

 

斎藤T「また厄介事を引き受けることになったなぁ……」

 

才羽T「でも、それでこそ大和魂が猛るというもの」

 

才羽T「では、ここで一首」

 

斎藤T「それに返して一首」

 

 

――――――敷島の大和心を人問はば 朝日に匂ふ山桜花

 

 

――――――かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ大和魂

 

 

 

*1
退役したスペースシャトル:エンデバーを保管先のカリフォルニア科学センターに牽引したのがトヨタ・タンドラである。

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