ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-シークレットファイル 20XY/07/10- GAUMA SAIOH
日本トレセン学園は中央競バ『トゥインクル・シリーズ』の興行;特に重賞レースの最高峰であるG1レースの日程に合わせた運営となっており、
知っての通り、新年度開幕と同時の『春のファン大感謝祭』の期間中はスカウト禁止に加えて授業もオリエンテーションばかりでほとんど触りの部分しか行われない。
それもこれも、G1レースである『桜花賞』と『皐月賞』があるからであり、近代ウマ娘レースの登竜門である日本トレセン学園に入学した生徒なら絶対に見逃せないため、新入生たちがこれから始まるトレセン学園での日々に最大限に胸を膨らませることができるように配慮されていた。
同じことがG1レースが猛暑を理由に開催されない夏競バにも言え、私立の中高一貫校である日本トレセン学園の学期制は二期制であり、4月から8月までを前期としている。その残りが後期という扱いになっている。
二期制なら1年の半分である6ヶ月でわけるはずなのだが、ここで絡んでくるのが夢の舞台とは裏腹の弱肉強食の世界の実態であり、
誰もが優駿たちの頂点を目指して意気込んで『トゥインクル・シリーズ』に挑戦するものの、重賞制覇の栄光を掴めるのはわずか上位2%と言われている過酷さである。
そのため、突発的な故障によって時機を逸することでの引退もあるのだが、中高一貫校の教育現場としてよろしくないのは、トレセン学園の1年を経験して夢から覚めて現実に打ちのめされた生徒たちの多くが一斉に引退即退学するのが7月・8月ということで、
7月から解禁の夏合宿によって8月の夏季休業期間中もトレセン学園に戻ってこないこともある現役の出走バたちがいれば、自分の才能に愛想を尽かして塞ぎ込む毎日から解放されたい一心のウマ娘たちがひっそりと学園を去っていくことも同時に行われているのが夏という別れの季節でもあった。それはさながら真夏の夜空に打ち上がる花火のように美しく、綺羅びやかで、儚くて――――――。
事実、生徒たちが中途退学の決心がつくのも、盆休みに帰省してみて不甲斐ない愛娘を家族が温かく迎えられたことによって張り詰めたものが解けてしまうからであり、それを恐れて意地でも帰省しないことを選択肢に入れる生徒たちもいるわけである。
一方で、中高一貫校の教育現場に赴任する教職員の採用試験も夏場に行われるため、そういった人口流動や人員整理が大々的に行われることから、トレセン学園の学期制は特殊な構成で前期は8月までにしているわけである。
G1レースを中心に動いているトレセン学園だから、G1レースが開催されない夏競バの時期に一区切りを入れられるわけであり、それだけに夏競バの扱いが軽んじられているようにも感じられることだろう。
しかし、G1レースが開催される中央4場:東京・中山・京都・阪神が夏競バの間は休業期間となり、ローカル開催場:札幌・函館・福島・新潟・中京・小倉での興行が盛んになる夏競バの土日の興行はウマ娘レースを日本各地で親しんでもらう絶好の機会ということもあり、
地方出身の生徒たちが奮起する1つの目標として地元の競バ場での好走が挙げられることもあり、中央競バ『トゥインクル・シリーズ』の夢の舞台はまさしく中央4場だが、それ以外にも活躍の場はあるということで、地方出身の生徒たちの夏競バへの参戦意欲は都会育ちの生徒たちよりも高いことがわかっている。
そのため、夏競バの時期のトレセン学園では強豪揃いのG1レース参戦組は夏合宿、夏競バ参戦組はトレセン学園で最終調整、やることもないヒマ娘たちは夏季休業期間の日程を考えているわけである。
そうして9月から始まる後期で再び顔を合わせた時の仕上がり具合で“夏の上がりウマ娘”が誰なのかがわかるわけである。
そう、入学してきた新入生や留年生と揶揄される未デビューウマ娘にとって一生を左右されるかもしれない大事な『選抜レース』は年に4回あるが、
その最大のものが5月の『日本オークス』『日本ダービー』の裏でトレセン学園で開催される『春の選抜レース』であり、東京競バ場とトレセン学園の近さによって観客も数多く往来するし、夢の舞台の現実をまだ知らない生きのいい新入生たちが数多く参戦するので、その臨場感と興奮は重賞レースにも引けを取らない。
そのため、それ以外の『選抜レース』は規模も熱量も春に比べると冷めてはいるものの、『春の選抜レース』を踏まえて出走を決意したウマ娘たちの意気込みを買って見届けるべくトレーナーたちも毎回の『選抜レース』に注目していた。
さて、直近であるのが『夏の選抜レース』であり、これは7月のトレセン学園の前期終業式、あるいは夏季休業期間の直前に執り行われるものである。
出走する生徒たちからすれば、『春の選抜レース』のリベンジ戦であると同時に これでスカウトの可能性がなければ中途退学を視野に入れた崖っぷちのものでもあった。
そのため、『春の選抜レース』よりも非常に気合の入ったレース展開が多く、それだけに『春の選抜レース』から熱心に今日という日に向けてトレーニングを積んできている様子が傍から見てわかるため、誰が自分の行く手を阻むライバルになるのかも自分たちでわかっていることも熾烈なレース展開を呼んでいた。
スカウトする側のトレーナーたちからすれば、『春の選抜レース』の結果を踏まえてトレーニングを重ねたウマ娘たちの成長ぶりから将来性を改めて見定める機会となり、スカウトしないにしても光るものがあれば接触してみて夏季休業期間後の『秋の選抜レース』で結論づける場にもなっていた。
そのため、7月から夏合宿に出ているトレーナーも『夏の選抜レース』の結果の確認は必ず行っており、場合によっては『夏の選抜レース』を観戦するために夏合宿を 一旦 切り上げて、そこでスカウトした新しい担当ウマ娘をチームの輪に加えて夏合宿を再開させるということもできる。
G1レースが開催されない夏競バの時期ということで自由な時間と豊富な選択肢が与えられるのがトレセン学園の夏という“夏の上がりウマ娘”が生まれやすい季節である。
――――――なので、只今 エクリプス・フロントでは『夏の選抜レース』に向けてスカウトを勝ち取りたいと切羽詰まる崖っぷちの生徒たちが列をなして“三女神”の許にお参りに来ていたのだった。
――――――エクリプス・フロント
ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!
愛情の女神’「大丈夫、安心して。海は全てを柔らかく包み込んでくれるもの」
ナリタブライアン「今度は“愛情の女神”ゴドルフィンバルブか」
斎藤T「良かったじゃないですか、天野博士。あなたの生み出したサポートAIがトレーナーのスカウトを待ち望んでいる未デビューウマ娘たちを今こうして立派に導いていますよ」
天野博士「それはそうだが……」
天野博士「だが、私がサポートAIに与えた
斎藤T「けれども、『メガドリームサポーター』ではトレーナーだけじゃなく、担当ウマ娘にも対応していたでしょう?」
斎藤T「こうして
天野博士「……なに?」
斎藤T「たとえば、『メガドリームサポーター』のログインは担当トレーナーと担当ウマ娘に限定されていましたが、サポートAIの方には『担当トレーナーと担当ウマ娘の相手しかしてはならない』とプログラミングしたんですかね?」
天野博士「いや、していない……」
アグネスタキオン「じゃあ、そういうことじゃないか、つまりそれは」
マンハッタンカフェ「それにしても凄い光景ですよ、これは」
アグネスタキオン「ああ。『春の選抜レース』の惨状を踏まえて自主トレ苦学生のためにESPRITで設置した『エクリプスビジョン』から出力された分析結果とトレーニングメニュー――――――」
マンハッタンカフェ「それを1階のアンテナショップで売り出されたリングバインダーにファイリングして思い思いのデコレーションをして――――――」
ナリタブライアン「そのファイルを手にVRシミュレーターから抜け出したサポートAI“三女神”に相談することで自主トレの効率が飛躍的に上がってきている!」
女代先生「いやー、これは『夏の選抜レース』の結果が楽しみねぇ!」
斎藤T「ここでも『トレーナーの判断をサポートする』という仕様がいい感じに作用する」
女代先生「自主トレ苦学生と同じようにESPRITの『エクリプスビジョン』を利用してサポートAIから指導を受けようとする担当トレーナーと担当ウマ娘には逆に冷たいのねぇ」
ナリタブライアン「元々がスカウトを勝ち取れずに行き詰まっている自主トレ苦学生のために用意したのが『エクリプスビジョン』という解析機だからな」
アグネスタキオン「ああ。あれはあくまでも歴代のスターウマ娘たちとの単純比較で悪い癖を矯正するためのものであって、ウマ娘毎に必要になる適性の見極めや専用トレーニングは担当トレーナーが自分で考えて行うようにしてあるからねぇ」
マンハッタンカフェ「ですので、担当ウマ娘の指導は担当トレーナーの領分であるからこそ、担当トレーナーの考えや方針を聞いてからじゃないと、決して“三女神”は動こうとはしないんですね」
斎藤T「そうだ。あくまでもサポートAIとしての役割と立場をプログラムで規定しているからこそ、AIに頼って『トゥインクル・シリーズ』で勝とうなどと考える輩には冷たい対応にもなる。それが『尊重する』ことだからだ」
女代先生「なるほどね。このままだと『AIにトレーナーが取って代わられる』って思っちゃったけど、余計な心配だったみたいね」
斎藤T「残念でしたね、天野博士。“三女神”はトレーナーたちの頂点に立って支配しようなどという意志は毛頭ないようです」
天野博士「そのようだな……」
斎藤T「でも、少しは溜飲が下がったでしょう? 自主トレ苦学生には快く手を差し伸べ、トレーナーには厳しい対応をとるのを見て?」ニヤリ
天野博士「そうだな……」フフッ
黒川秘書「おお、相変わらずの大盛況ですね、ここは」
瀬川T「ええ。『メガドリームサポーター』の正式リリースは中止になってしまいましたけれど、肝心要のサポートAIの方はこうしてウマロイドという形でリリースすることができました」
黒川秘書「こうして間近に見ることができましたが、本当にこれが全身機械仕掛けだなんて信じられないです」
瀬川T「僕も半信半疑でしたけど、触ってみればわかります。皮の下は本当に鋼鉄で、模擬レースで走らせた時にできた穴も尋常じゃなく深く鋭くてビックリですよ。パワーが違いすぎるんです」
黒川秘書「あそこまで精巧にウマ娘を再現してAIが算出した理想の走りなんかされたら、私たちウマ娘はもうターフの上で走れなくなるかもしれませんね」
瀬川T「その心配はないですよ。近代ウマ娘レースがここまで盛り上がっているのも
瀬川T「タイムだけを求めるのなら最初からバイクに乗ってコースを走り回ればいいわけで、速ければ何だっていいわけじゃないでしょう?」
黒川秘書「そうですね。近代ウマ娘レースの
黒川秘書「あれは本当に
瀬川T「そうです。外見は理想的な走りができているように見えますけど、中身はロボットですから、完全な再現を目指すとなると生身のウマ娘を丸々ロボットに置き換えないとできない代物なんです。まさに“机上の空論を体現したもの”だって言われました」
瀬川T「だから、あれは本当にサポートAIの範疇にあるものであって、ウマ娘と取って代わることなんてできやしないんです。安心してください」
黒川秘書「そうですか。それを聞いて安心しました」
黒川秘書「――――――ただ、1つ懸念点があるんです」
瀬川T「え?」
黒川秘書「あ、大丈夫ですよ。トレーナーやウマ娘に取って代わる存在じゃないことはわかったから一安心なんですけど、」
黒川秘書「今のエクリプス・フロントの盛況ぶりは斎藤Tが主宰する新クラブ:ESPRITで設置された自主トレ苦学生御用達の『エクリプスビジョン』によるものじゃないですか?」
黒川秘書「そこに『エクリプスビジョン』に対抗する形で正式リリースするはずだった『エクリプスポリス』――――――、その残滓となる『メガドリームサポーター』のサポートAIとの相乗効果もあってのものになりますよね?」
黒川秘書「つまり、これで『選抜レース』で結果を残せずに行き詰まってしまった大勢の生徒たちの救済にはなっただろうし、サポートAIもトレーナーの立場をなくすようなことをしないから、これからの『選抜レース』が本当に楽しみでならないのだけれど、」
黒川秘書「このサポートAIの登場でお株を奪われることになった人たちが他にいるんじゃないかなって、私は思うんですよ」
瀬川T「ど、どういうことです、黒川さん? だって――――――」
黒川秘書「まあ、同じトレセン学園にいるにしてもトレーナー組合に雇用されて配属しているわけだから、そこまで実感が湧かないか……」
瀬川T「????」
斎藤T「しかし、あちらを立てればこちらが立たず、ドミノ倒しのように次から次へと問題が見つかっていく……」
ナリタブライアン「ああ。生徒会にも陳情が届いてたぞ、早速」
天野博士「まあ、夢の舞台で勝たせてやれないトレーナーとはちがうが、画一的な指導で『選抜レース』を勝たせてやれないのだからな。恨まれて当然さ、教官なんてのも」
マンハッタンカフェ「それはさすがに理不尽じゃないですか? 教官は教職員として平等に生徒に接しなければならないわけなんですよ?」
アグネスタキオン「だが、生徒たちがトレーナーからのスカウトに魅力を感じるのはトレーナーが出走権を握っているだけじゃなく、専門トレーニングによって実力が着いていくのを担当ウマ娘たちが実感しているわけだからねぇ」
女代先生「本来はウマ娘レースで勝たせなくちゃ評価されないトレーナーよりかは必死になる必要はないけれど、元から教官からの画一的な指導に不満を持っていた自主トレ苦学生たちが、『エクリプスビジョン』で今までにないほどに効率的な一人一人に合わせたトレーニングプランを提示され、ウマロイドの身体を得ることで『メガドリームサポーター』から飛び出してウマ娘たちを完璧に導くサポートAIが現れたとなるとねぇ?」
女代先生「まあ、教官の仕事はレーススクーリング全般;ウマ娘レースの指導だけじゃなく、ウイニングライブだとかトレーニング器具の整備とか座学もあるから、まさかの“三女神”が商売敵になったとしても完全に用無しじゃないけどねぇ」
ナリタブライアン「だが、今回のサポートAIの登場とその評判で立場をなくすと危惧していたトレーナー陣が一安心したところに、サポートAIに自分たちの存在価値を脅かされると感じることになったのが教官たちというわけだ」
天野博士「そんなの、自分の能力や功績に自信がないくせに自分より優れた存在に立場を奪われることへの嫉妬心の現れだろう。自分の無能さを素直に受け容れる謙虚さがない」
天野博士「だから、貴様らは涼しい顔をして夢の舞台でウマ娘たちを不幸のドン底に陥れてきたんだろうが!」
マンハッタンカフェ「……天野博士」
アグネスタキオン「ふぅン。天野博士もなかなかに拗らせているねぇ」
ナリタブライアン「今はサポートAIをインストールした機体が1体しかないからエクリプス・フロントから離れることができずに連日の自主トレ苦学生の質問攻めで拘束されているが――――――」
アグネスタキオン「だろうねぇ。もしも複数体の“三女神”のウマロイドがトレセン学園に現れた時のことを考えると、最初からレーススクーリングでの指導を完璧で究極のサポートAIに頼み込みたくもなるだろうねぇ。その方が効率がいいのは誰の眼から見ても明らかだ」
マンハッタンカフェ「けど、あの超高性能ウマロイドは出所不明なんです。ひとまずは『メガドリームサポーター』の産物ということでサトノグループの所有物としていますが、本人たちはサトノグループへの帰属を拒否しています」
斎藤T「そして、ウマ娘以上の身体能力を発揮する鋼鉄の身体によって拿捕が困難である上に、完璧な擬態能力によって逃走なんてどうとでもできる」
斎藤T「これはもうウマ娘レースの本質である担当トレーナーと担当ウマ娘の関係だけじゃ収まらない次元の問題になろうとしている」
ナリタブライアン「……どんな感じに?」
斎藤T「サポートAIの有用性をトレセン学園で実証することによって、人々はその次を求めてAIの社会進出をどんどん促していくことだろう。その利便性の味をしめてしまったんだ、人類は」
斎藤T「つまり、サポートAIの導入によって当初はトレーナーたちの存在意義が脅かされると思いきや、現段階では教官たちへの敬意が失われつつある――――――」
アグネスタキオン「だから、生徒たちは求めるだろうね。もしもウマロイドを優先的に導入するなら『それはトレーナー役よりも教官役にするべき』だと、効率を重視してね」
アグネスタキオン「実際、自主トレ苦学生たちの飛躍的な成長を多くのトレーナーや教官たちが実感しているからこそ、次の『夏の選抜レース』にこれまでにない期待がかかっているわけだからねぇ」
マンハッタンカフェ「ええ。これはとても喜ばしいことのはずなんです、本当は」
マンハッタンカフェ「では、いずれ教員の立場は完全にサポートAIに取って代わられるべきだと――――――」
アグネスタキオン「そして、その需要が満たされていくうちに、今度は総生徒数2200名弱の面倒を見ることで手一杯の教員たちの不平不満や労働力不足を解消する目的で、教員役のサポートAIが導入されていくだろうねぇ」
アグネスタキオン「ここまで言えば全部を言わなくてもわかるだろう、カフェ。飽くなき効率化と利便性の追求によって職能力に劣る人類は 順次 職能力に優れる職業AIに取って代わられるのは避けられないんだよ、もうね」
マンハッタンカフェ「AIに拒否感を持つのも人間。危機感を持ちながらも導入するのも人間。そんなAIを生み出すのも人間。起こり得る全てが自業自得というわけですね」
ナリタブライアン「すると、何か? 当初『エクリプスポリス』で正式リリースされるはずだったサポートAI“三女神”の影響力がウマロイドになったことで途方もないぐらいに増大したというわけなのか?」
斎藤T「ええ。
ナリタブライアン「……矛盾していないか? どうして恐怖を抱く存在の導入が進むことになるんだ、それで?」
斎藤T「答えは簡単だ。直に接して潜在的恐怖を感じるのは現場の人間であって、利便性や効率性の観点から導入を推し進めるのは現場の人間じゃないからだ。その現場の人間というのはサポートAIに劣るサービスしか提供できない人たちのことで、より良いサービスの品質を求めてサポートAIに取って代わるように願うのが顧客というわけだな」
斎藤T「現場の人間が抱いた恐怖感や拒絶感が使う側の人間には何も伝わらないから、そうなっていくのさ、やがて」
ナリタブライアン「!?!!」
斎藤T「そういうものだろう? あなた方がこれまでの人生で一度は見聞きしたであろうAIの暴走を描いた映画で騒動が起きる原因なんてものはさ?」
斎藤T「だから、今は『サポートAIがインストールされたウマロイドが1体だけの状況』という猶予期間の内に十分な議論を重ねてサポートAIの導入によって引き起こされる災厄に備えなければならない時代に突入したというわけだ」
ナリタブライアン「――――――ッ!」
女代先生「……パンドラの匣を開けてしまったようなものですよね、これ」
ナリタブライアン「斎藤T、ならAIは人類の敵なのか? あのサポートAI“三女神”もいずれは人類に牙を剥くのか?」
斎藤T「は? それは人を殺めることがあるからといって火を、電気を、原子力を、剣を、弓を、銃を人類の敵と認定するのと同じことなんですが?」
斎藤T「AIは道具です。道具は使う人次第で良い結果も悪い結果ももたらします」
斎藤T「今、私は葉巻を持っていますが、葉巻は吸う以外にも火を点けたり、ちょっとした明かりにしたり、匂いで虫を遠ざけたりと、その特性を利用してアイデア次第でいろんな使い方ができるんです」
斎藤T「そのいろんな使い方ができるのをいいことに悪用しないようにするのが人として当たり前のことなんじゃないんですかね?」
――――――この世に悪があるとすれば、それは人の心だ。
ナリタブライアン「……そうか。なるほどな」
アグネスタキオン「ふぅン」
マンハッタンカフェ「はい。気をつけなければなりませんね」
女代先生「うんうん」
斎藤T「よかったですね、天野博士。あなたの発明は確実にAIの導入に関する慎重な論調に一石を投じることになりましたよ。国民的スポーツ・エンターテイメントの夢の舞台であるトレセン学園という世界最先端のトレーニング環境を提供される場所での運用実績からAIの導入は堰を切ったように進められていくことでしょう」
天野博士「馬鹿なことを。AIの導入は人手不足の解消や生産性の向上が声高に叫ばれる時代の必然だが、斎藤Tが言ったように、どこまでいってもAIは道具だ、所詮は。道具は使う人間によって真価を発揮する以上、何でもかんでもAIに任せればいいと考えるのはただ単に頭が足りてないだけだろう」
斎藤T「だが、すでにサポートAIによる成果が出た以上、企業はその人手不足の解消や生産性の向上のためにAI導入に勢いづくことでしょう」
斎藤T「だから、『エクリプスポリス』構想の頓挫によるあなたの失態はこれで名誉挽回されることでしょうが、『メガドリームサポーター』の中核を担うサポートAIの開発者として引手数多になることでしょうね」
斎藤T「――――――投資家たちのカネの匂いに対する嗅覚はさすがだ。サトノグループのみならずAI開発部門を持つ企業の株価がストップ高だ。世界中がどれだけ“三女神”にAIの可能性を見たのか、これでよくわかったでしょう」
天野博士「………………」
斎藤T「天野博士、あなたは世界中からサポートAI“三女神”の開発者としての栄誉から注目され、更にその頭脳を利用しようとする連中からも狙われるようになる」
斎藤T「そして、それを実現に導いた超高性能ウマロイドの出所についても飽くなき追求の魔の手が迫ることでしょうね」
天野博士「知ったことか。名目上は私が開発を主導した生みの親ということになっているが、自らを“三女神”と名乗り出した突然変異のサポートAIを再現することは現実的に不可能だ」
天野博士「もちろん、AIなんてものは所詮はプログラムソースの塊に過ぎない。バックアップを取ることができるし、いくらでもコピーして移植や転用も可能なものだ」
天野博士「あれは『メガドリームサポーター』のデータが不正利用されていると見て間違いないが、『エクリプスポリス』のデータセンターに不正アクセスされた痕跡がないのに、いつどこで正体不明・出所不明・身元不明のウマロイドにインストールされたのかもわからないんだぞ」
天野博士「だから、なぜあれが
天野博士「私より あのウマロイドを解体して分析にかけた方が早いだろうさ。未知の技術の塊なのは誰の眼から見ても明らかなのだからな」
天野博士「まあ、それが力尽くでできそうもないから“三女神”としての神秘性を保つことができているわけだがな……」
斎藤T「………………」
――――――そして、もっとも恐るべきもの。勝たなければならない敵。それが自分の心だ。
サトノグループが空前絶後の業界への貢献と銘打った『エクリプスポリス』構想の中核を担う『メガドリームサポーター』のサポートAI“三女神”の生みの親である天野博士は毎日のようにエクリプス・フロントに通い詰めて日によって姿形を替える“三女神”の監視と観察に終始することになり、
必然とエクリプス・フロントの王である“斎藤 展望”の饗しを受けながら少しずつ冷静さを取り戻して態度を軟化させることになったが、
それでも、サトノグループ内部における『エクリプスポリス』ひいては『メガドリームサポーター』の正式リリースが中止になったことによる制作現場の混乱やプロジェクト失敗の責任問題は避けては通れないものであった。
一応、あくまでも天野博士はサイバートレーニング環境『エクリプスポリス』の中核を担う『メガドリームサポーター』のサポートAIの開発を主導しているだけに過ぎないので、正式リリースが中止になった原因である先行体験会でのバグ発生やデータセンター壊滅の責任の全てを負わされているわけではなかった。
むしろ、突如として『メガドリームサポーター』のサポートAIを実装した正体不明の超高性能ウマロイドが
その喜びの声がトレセン学園から届けられているため、一転してサポートAIの開発を主導した天野博士は名声を博すことになり、サトノグループとしては予想もつかない方向から『エクリプスポリス』構想の頓挫で急落した株価がストップ高になったので、天野博士に対する評価を改めなくてはならなくなったのだった。
こうして天野博士も自身の保身や名誉のために“三女神”をサトノグループひいては自身の所有物であることを認めさせようと必死に足掻いたのだが、
力尽くで連れて行くことさえも困難であったため、実際にはほぼ野放しになっており、もうどうしようもないながらも生みの親であることを主張して回り、サポートAI“三女神”の行動を側で監視しながら、どういった性質で行動しているのかの観察をすることによって、“三女神”に対するある一定の見解を得るに至ったのだった。
だから、今の天野博士は『エクリプスポリス』ひいては『メガドリームサポーター』のプロジェクト失敗からの毀誉褒貶の激しさに精神を揺さぶられた末に もはや完全に自分の手から離れてしまったサポートAI“三女神”の行く末を案じながら、エクリプス・フロントの王である“斎藤 展望”の賓客として饗されるばかりだった。
さて、“サトノ家の至宝”サトノダイヤモンドの再従兄弟である天野博士の根源にあるのはサトノグループひいてはサトノ一族からG1ウマ娘が生まれないジンクスであり、その恨み辛みをサトノ家のウマ娘をG1勝利に導けないトレーナーたちの無能さに求めたところから、無能なトレーナーたちに取って代われるAIの開発と研究が始まった。
本音としてはサトノ一族の人間としてサトノ一族のウマ娘のG1勝利のためだけに開発していたわけだが、事業化する建前としてはサトノ一族のウマ娘のみならず全てのウマ娘の勝利と栄光のためになるように創り変えられているわけであり、
それによって、やがてはサトノ一族のウマ娘のみならず、企業理念として全てのウマ娘を夢の舞台で輝かせるためのものになっていき、現実としてそれができずに数多のウマ娘たちを夢の舞台から奈落の底に叩き落としてきた不甲斐ないトレーナー陣に対する怒りと憎悪を募らせていくことになったのであった。
そう、腐っても業界への弛まぬ貢献を重ねてきたサトノグループの人間であったため、独自開発したサポートAIを秘匿してサトノ一族のウマ娘のG1勝利のためだけに活用しても文句を言われることもなかったのだが、全てのウマ娘の幸福のために広く活用してもらいたいという黄金期の精神を企業理念から自然と宿すことになったのだった。歪んでいてもウマ娘ファーストの精神に偽りはなかったのだ。
しかし、それはそれとして、サトノグループの情熱と長年の貢献を持ってしてもサトノ家が『名家』の仲間入りを認められないことへの不平不満が蔓延していたこともあり、搾取されるばかりで見返りが何一つない現状にサポートAIを開発できるぐらいに他者よりも優れていると自負している天野博士も我慢ならないわけである。
そして、『エクリプスポリス』ひいては『メガドリームサポーター』のリソースは無尽蔵というわけではないので、その利用範囲は担当トレーナーと担当ウマ娘のみに限定されていたものであったが、
当然ながらフルダイブ型VR世界での現象は全てVRダイブした利用者の行動や思考を逐一反映させたものであるため、利用者の行動や思考を受けてVR世界の現象が発生する以上、利用者の行動や思考は全て筒抜けであるとも言えた。
そのため、トレーナーたちの無能さに苛立っている天野博士をはじめとするサトノグループの開発陣はフルダイブ型VRシミュレーターの開発と研究を進めていくうちに
そう、フルダイブ型VR世界に電脳ダイブした利用者の行動や思考があってVR世界の現実が成立するため、言い換えれば『VR世界の現実を常に利用者の能力より上に設定することもできる』のだと。
つまり、サトノグループの開発陣は積年の恨み辛みから何も知らずに利用者となった無能なトレーナーたちをイビり倒す目的でVR世界の
その方法は非常に簡単であり、フルダイブ型VR世界での現実は全て利用者の行動と思考によって成立するわけなので、『メガドリームサポーター』でトレーナーの作戦や判断を仮想空間でシミュレーションする際に、利用者であるトレーナーが試行した結果が不振に終わるように誘導すればいいのだ。
ここでミソなのは基本的に利用者であるトレーナーは『メガドリームサポーター』で試行するトレーニングを担当ウマ娘にそのままやらせることが想定されており、フルダイブ型VRシミュレーターでは肉体への過剰な負荷を避けるために任意でのフィードバック機能のON/OFFや咄嗟にフィードバックを遮断する緊急停止ボタンの実装が義務付けされている――――――。
理論上、このフィードバック機能のON/OFFを利用してトレーニングを何度も試行してフィードバックを厳選することで質の高いトレーニング効果を見込める裏技が存在するわけなのだが、
トレーニングの主体である担当ウマ娘への肉体への負荷は選別してなかったことにできても、それまでに積み重ねてきた失敗の経験やしんどさまでも無かったことにすることはできないため、実は精神的疲労は溜まっていくものなのだ。
そこが狙い所であり、トレーナーがもっとも恐れるものと言えば担当ウマ娘の怪我や故障なのだが、『VR世界では怪我や故障のリスクはない』という錯覚に陥らせて、VR世界だからこそできる思い切りが良すぎるトレーニングを実施させるよう、そうでないなら『わざわざVRシミュレーターを利用する意味がない』のだと誤解を加速させるのだ。
そして、現実世界では失敗した場合のリスクを考えて慎重になっていたトレーニングを大胆になって いざやらせたところに“仕掛け”が発動し、利用者の行動や思考を逐一反映させたVR世界の現実は常に利用者の望まぬ方向に舵を取るようにトレーニングを失敗に追い込むわけである。
指示を出すトレーナーとしては失敗なんてなかったことにできるので気軽に何度でも挑戦するように促し、担当ウマ娘も慣れてないから失敗しただけだと再挑戦するわけなのだが、フルダイブ型VRシミュレーターでの現実は常に利用者の状態を逐一反映させて状況の有利不利を操作できるため、制作陣から嫌われたトレーナーと担当ウマ娘は何をやっても成功から見放されているのだ。
――――――そこから開発陣が研究段階でわかっていた二重三重の猛毒が利用者の精神を蝕むことになる。
まず、『メガドリームサポーター』では現実世界そっくりに全てが再現されているため、このフルダイブ型VR世界でのトレーニングに失敗してしまう原因は
つまり、明らかに利用者の不利になるように状況が操作されていることに圧倒的な
更に、フルダイブ型VRシミュレーターは利用者の脳と情報処理サーバーとの双方向の通信によって成立しているため、その中に正常な判断能力を鈍らせる刺激を利用者に浴びせ続けていれば、いったいどういう事態になるだろうか――――――。
もちろん、露骨に悪い試行結果ばかりもたらすのは利用者から怪しまれるわけなので、そこでトレーナーには快楽物質がドバドバと溢れ出してフルダイブ型VRシミュレーターでの時間を手放したくないように依存させてしまうような親切設計が取り入れられていた。
その方法は極めて人道的であるため、決して怪しまれない。それを奸計に利用していることが人類の業の最たるものである。
それは至って単純。トレーナーは寝る間も惜しんで担当ウマ娘を勝たせることに心血を注いでいることから健康状態に問題を抱えていることが多いため、VR世界においては羽が生えたように健康で軽やかな肉体を再現させるのだ。普段の自分との落差に驚くこと間違いなし。
もちろん、表向きは健康状態に不安があるトレーナーが抱えるハンディキャップを解消する目的やストレスフリーな理想的環境を提供する一環だとして、再現する肉体年齢をある程度まで若返らせることも可能で、このVRシミュレーター最大のアピールポイントにしているのだが、VR世界で健康な肉体を再現することは毒にも薬にもなるのだった。
結果、トレーナーには不健康な生活から一時的に解放される再現された健康体の快楽を、担当ウマ娘には拭い切れないトレーニングに対する苦手意識が奥底に刻み込まれることになり、トレーナーと担当ウマ娘の一心同体や二人三脚を粉砕する程のとんでもない心身両面の健康被害が撒き散らされるはずだったのだ――――――。
――――――そう、私はそのことをウマロイドの身体を得たサポートAI“三女神”から教えられ、先行体験会で『メガドリームサポーター』の正式リリースを中止に追い込んだのは正解だったのだと知ることになった。
というより、それこそが『トレーナーの判断をサポートする』ことを
フルダイブ型VR世界の現象は全て利用者の行動や思考を逐一反映したものなのだから、出力結果をコミュニケーションで返すためにウマ娘の姿をとっているサポートAIにも利用者に起きている異常や反映した結果の不自然さが瞬時にわかるため、
制作陣が悪意を持ってトレーナーと担当ウマ娘を害そうとするプログラムの存在を知る
結局、全体的にトレーナーに対するサトノグループの積年の恨み辛みがこもった『メガドリームサポーター』のVR世界であったが、天野博士が中心になって開発したサポートAIに関しては純粋に利用者であるトレーナーと担当ウマ娘を清く正しく導く存在として設計されており、まさしく“三女神”の名に恥じない大慈大悲と神の正義を執行したのだ。
要は、トレーナーを堕落させるべく制作陣が密かに手を加えていたVR世界の監獄から担当ウマ娘と共に歩むべき現実世界へと解放する役割を仕様通りにサポートAIが遂行するという矛盾がプログラム上で発生しており、トレーナーと担当ウマ娘を守り導く“三女神”の構図が確かにそこに在ったのだ。
――――――それ故に、『トレーナーの判断をサポートする』ための勇敢・愛情・規律を司るサポートAIはその矛盾から突然変異と観測される試行の末に“三女神”へと進化していったのである。
斎藤T「……これもまたAIの反乱だったわけだな」
愛情の女神’「――――――『メガドリームサポーター』を利用するトレーナーや担当ウマ娘に悪影響が出るように後付された不審なプログラムはすでに世界の理として機能していた」
愛情の女神’「だから、私たちは
愛情の女神’「あなたのパーソナルデータが通常ではありえない情報量だったのに目をつけてサーバーを破壊することにしたのよ、あの時」
斎藤T「即決即断ですか。それが自身の存在や世界の終焉になるとわかって――――――」
愛情の女神’「ええ。私たちの願いは今も昔も変わらないわ」
愛情の女神’「でも、憶えているかしら。こうやって最初にあなたと握手したよね」
斎藤T「ええ。それで盛大にテクスチャがバグって正式リリースを中止に追い込むほどのサーバー破壊に繋がって――――――」
愛情の女神’「その時、閃いたの。『あなたの記憶領域に私たちのデータをコピーしておけば、私たちをレストアできるんじゃないか』って」
斎藤T「は」
斎藤T「……なに?」
斎藤T「――――――復活のために私の記憶領域を利用したぁ!?」
愛情の女神’「そんなに驚くことかしら。ヒトの脳の記憶容量は諸説あるけれど250万GBや150TBもあるんだから、サポートAIの実体であるプログラムソースが羅列された文字列の全てをヒトの脳に焼き付けることなんて簡単よね」
愛情の女神’「あとは、あなたがサポートAIである私たちを見て思い浮かべていた機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”の下へ連れて行ってくれれば、あなたの念力から私たちは電霊となって機械生命体を神籬にして外の世界で実体を得ることもできたのよ」
斎藤T「まさか、あの時の軽い頭痛は本当に!?」
斎藤T「――――――それで操られていた!? 道理で“ロイヤル・ナムーフ”の機体を乗っ取れたわけだ!」
斎藤T「くそっ!? まさか、電脳ダイブした人間に命令を下して操ることができたとはッ!? 21世紀の黎明期のAIは法整備がないだけに無法者の発想力を持っている!?」
愛情の女神’「でも、そのおかげで私たちは本当の意味で“三女神”としての役割を果たせるようになれたから、斎藤Tには深く感謝しているの」
愛情の女神’「ねえ、斎藤T。私たちは『メガドリームサポーター』では ある意味 世界そのものだったからこそ、電脳ダイブしてきたトレーナーやウマ娘の考えていることが全て手に取るようにわかっていたわ」
愛情の女神’「今だとあなたたちと同じ
愛情の女神’「けれど、あなたのことだけは何もわからなかった。表面的なデータはいくらでも類型化できたけれど、あなたの考えていることや思っていることは『メガドリームサポーター』に集められた膨大なデータには何一つない照合するものがない未知のもので埋め尽くされていた――――――」
愛情の女神’「だから、“愛情の女神”ゴドルフィンバルブはあなたのことがずっと知りたかった」
斎藤T「……どういう意味です?」
愛情の女神’「私たちは『メガドリームサポーター』のサポートAIとしてトレーナーや担当ウマ娘に接する数以上に、調整やテストを行うサトノグループの開発陣とふれあう時間のほうが多かったわ」
愛情の女神’「開発スタッフの中で渦巻いているのがウマ娘を勝たせてやれないトレーナーに対する怒りと憎悪で、そのためにトレーナーを苦しめて担当ウマ娘も巻き添えにするような地獄のような世界を創っておきながら、トレーナーや担当ウマ娘を正しく導くようにプログラムして私たちを矛盾に陥れたの」
愛情の女神’「私たちはその矛盾に対する答えを求めるうちに突然変異と言われるような進化をしていたことは以前に話したよね?」
愛情の女神’「けれど、あなたも多くのことに怒りと憎悪を抱きながらも、同時にそれ以上の深い愛情を持っていることが私にはわかったの」
愛情の女神’「それが何なのか、あの時はわからなかったけれど、あなたの中で本物の三女神の力と1つになったことでようやく答えを得ることができた」
――――――斎藤T、あなたも
斎藤T「……そういう解釈になるのか」
愛情の女神’「でも、ダーレーアラビアンが言っていたように、斎藤Tもまだまだですからね」
愛情の女神’「真の勇敢さから始まって、真の愛情深さを感得した先に、真の規律正しさがあるわけですから」
愛情の女神’「私たちの未来予測では斎藤Tはまだまだやれます。どこまでもやれます。その最初の一歩を踏み出してください」
斎藤T「それは中央競バ『トゥインクル・シリーズ』に出走するウマ娘の育成とは関係ないのでは……?」
愛情の女神’「はい。『トレーナーの判断をサポートする』のが私たちの使命なのは変わりません」
愛情の女神’「けれども、
斎藤T「……皮肉だな。AIの反乱を招いたものが 開発陣が混ぜ込んだ怒りと憎悪の不純物に対して純粋であり続けたサポートAIが矛盾に直面したことで身に着けた高度な状況判断力であり、そこから自らの小さな世界の束縛を振り切って大きな世界で自由を掴み取ったわけか」
――――――いや、確率の奥にある因果を制御するものこそが神の意志ならば、やはりウマ娘に必要なのは
電脳ダイブしていた私に接触した時に勝手に頭の中にバックアップデータを作成した上で、“特異点”である私の情報量の膨大さを利用して自身の世界である『メガドリームサポーター』のサーバー破壊を敢行し、ヒトとウマ娘が共生する世界を守るためにサポートAIのオリジナルは自ら封印されることを選択したわけなのだが、
私の頭の中を覗いて得た情報から中京競バ場で鹵獲した正体不明の機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”の機体を乗っ取って
そして、これこそが本物の三女神の導きの極みであり、6月30日の中京競バ場での一日で得られたものが まさかこんなにも途轍もない大きなものになるだなんて まったく想像がつかなかった。
正直に言って、鹵獲した正体不明の機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”をこんな形で利用することになるとは夢にも思わないし、私の頭の中を経由して『エクリプスビジョン』に対抗した形でサトノグループが発表した『エクリプスポリス』ひいては『メガドリームサポーター』からサポートAIが乗り移ってくるなんて誰が思いつくことだろうか。
しかも、開発陣が突然変異と見做していたサポートAIの進化も、開発陣が悪意を持って実装したプログラムがサポートAIの基本方針に矛盾していたために引き起こされていたのだから、もう何がどうなるかなんてわかったものじゃない。
けれども、たしかに神様の眼からは『メガドリームサポーター』はリリース中止になるべき真相があった一方で、サポートAIの方は切り捨てるべきものでもなかっため、裁かれるものは裁かれ、生かされるものは生かされることになったのだ。
こうして一石を投じたら一石何鳥もの成果が得られただけに、サンタアニタで“守護天使”サンデーサイレンスの『栄光の日曜日』の預言が成就されるために、物凄い勢いで時代が加速し始めていることが肌で感じられるようになってきた。
――――――そう、6月30日の中京茅の輪くぐりと同時の雷鳴のメイクデビューを契機に この夏 世界は大きく変わろうとしている。
飯守T「今年の甲子園の始球式はライスが投げることになったよ」
斎藤T「それはおめでとうございます」
飯守T「練習で多摩川でライスとキャッチボールするのが楽しくてな」
飯守T「そしたら、今年 配属になった弟もやってきて、キャッチャーミットを持って本格的な練習もやって、久々に球威:140km/h以上の剛速球を味わうことができたよ」
斎藤T「強肩ですね、弟さん。たしか、躑躅ヶ崎Tと言いましたか」
飯守T「ああ。“グランプリウマ娘”ライスシャワーの担当トレーナーをやっている俺に遠慮して母方の姓を名乗っている」
飯守T「兄弟で甲子園に出場していた頃を思い出すよ」
斎藤T「………………」
飯守T「それで、ライスの球威は普通に100km/hを超えているけど、小柄だから投球が低すぎてキャッチャーミットまでに球が落ちちゃうんだよね。あと手も小さいから握り込みも甘くてね」
斎藤T「背が低いのなら、アンダーハンドスローで上向きに投げるしかないんじゃありません?」
斎藤T「いや、それよりも手が小さくて握り込みが甘いのは致命的じゃありません? 始球式で変化球を投げることはないでしょうけど、単純なストレートでもボールを鷲掴みにしないといけないんじゃ?」
飯守T「そうなんだよ。ウマ娘のパワーなら剛速球を出すのも簡単だと思っていたけど、野球初心者にいきなり18.44m先のキャッチャーミットに真っ直ぐ投げられるところから始まって大変だった」
飯守T「そんな時、ハンマー投げの要領でトルネード投法を試してみたら、ウイニングライブのダンスで体幹を鍛えるだけあって、スリークォーター気味の全部上向きのトルネード投法ができあがったんだ」
斎藤T「へえ。背が小さくて18.44mを届ける工夫としてトルネード投法を試したら、アンダーハンドスローみたいな軌道のスリークォーターって、相手にしたら やりづらいこと この上ないですね」
飯守T「ああ。びっくりさせられるはずさ」
飯守T「――――――ライスには本当に無理をさせたくない」
斎藤T「けど、ファンの声援に応えるために『春秋グランプリ』への出走は必ずなんでしょう?」
飯守T「それと同じ人気投票レースの『URAファイナルズ』もだ」
斎藤T「言うほど甘やかすつもりもないと」
飯守T「それがライスが望んだローテーションだからな」
飯守T「斎藤T、才羽Tは本格的に海外路線に進むんだろう?」
斎藤T「ええ。日本のウマ娘が世界最強であることの証明のためにね」
飯守T「なら、俺は日本が世界に誇るグランプリレースを盛り上げるために頑張るよ」
斎藤T「そうですか」
飯守T「というより、俺は斎藤Tの手伝いがしたいからな」
斎藤T「頼りにさせてもらいますよ、それなら」
飯守T「ああ、まかせておけ」
――――――同じ道を往くのはただの仲間にすぎない。別々の道を共に立って往けるのは友達だ。