ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-シークレットファイル 20XY/07/12- GAUMA SAIOH
東京都多摩市関戸一丁目にある京王電鉄京王線の駅:聖蹟桜ヶ丘駅。多摩センター駅から見て 府中市と多摩川を挟み 東北に位置する地域は、元々は関戸駅と呼ばれていたように聖蹟桜ヶ丘という町名は存在しないが、現在では駅名に因んで聖蹟桜ヶ丘地域と呼ばれている。
多摩センターをはじめとする多摩市の大半が『平成狸合戦ぽんぽこ』で描かれた戦後に開発された広大なニュータウンなのに対し、府中市の対岸に位置する聖蹟桜ヶ丘地域の成り立ちは明治時代まで遡る。
直接の前身である関戸駅は大正時代に開業され、現在の聖蹟桜ヶ丘駅への改称は戦前となるわけで、駅周辺が桜の名所であることに由来する地名:桜ヶ丘と、明治天皇の御狩場が連光寺付近にあったことに由来する聖蹟*1を合わせたものである。
現在でも聖蹟の名を冠する市町村や地域が存在するが、それらは明治神宮の創建にあるように絶大な支持と崇敬を得ていた明治天皇陛下との繋がりを誇りに思う国民や地元の名士たちによる聖蹟保存運動の名残である。
多摩市の聖蹟桜ヶ丘地域における聖蹟とは現在でも連光寺で名を残す連光寺村御猟場のことであり、1881年2月に初めて連光寺村に行幸した明治天皇陛下は4度に渡ってこの地へ行幸し、兎狩りや鮎漁を観るなどして楽しんだという。
その栄誉から明治天皇陛下の崩御の後の1917年に御猟場が廃止された後は跡地を自然公園とする計画などを進め、『平成狸合戦ぽんぽこ』の時代になってようやく開発されることになる多摩川南地域の開発拠点となる関戸駅を運営していた京王電鉄の協力を得て聖蹟を中心とする観光開発構想が組まれることになったのである。
つまり、多摩市とは戦前から明治天皇陛下と縁ある地として崇められた聖蹟桜ヶ丘地域と戦後になって切り拓かれた広大なベッドタウンが開発された多摩ニュータウンとに大別されるわけであり、多摩川の対岸の古来より武蔵国国府が置かれた府中市とは歴史がまったく異なるわけである。
さて、戦後に東京のベッドタウンとして開発された多摩市からは北に隣接している府中市との繋がりも当然ながら深く、“中央トレセン学園の裏庭”としてウマ娘レースが盛んな地域として知られてもいる。ウマ娘レースのアマチュアスポーツである『フリースタイル・レース』は多摩市にそこかしこにある廃校で中央の落ちこぼれが縄張り争いした障害競走の形式で行われたチキンレースが起源である。
その一方で、多摩市の歴史を語る上で欠かせない『平成狸合戦ぽんぽこ』と同じアニメスタジオから公開された映画『耳をすませば』のモデル地として年間1万人前後のファンが来訪したとして別の意味で聖地化された“いろは坂”が聖蹟桜ヶ丘には存在する。
そのため、府中市の中央トレセン学園で落ちこぼれた不良ウマ娘と多摩市での数多くの廃校が結びついたアマチュアスポーツ『フリースタイル・レース』の方が歴史は古いものの、
多摩市のある種の名物である『フリースタイル・レース』とは無縁のトレセン学園の生徒たちにとって多摩川の向こうの多摩市は屈指の恋愛スポットであるいろは坂を連想する者の方が現在では多いのだとか。
それもそうだ。『フリースタイル・レース』の起源は中央の落ちこぼれが多摩市の廃校で屯する不良になって始めたものであり、夢の舞台から脱落した敗者が興じる失墜の象徴とも言えた。
一方で、いろは坂がトレセン学園の生徒たちにとって屈指の恋愛スポットとなった映画『耳をすませば』の結末は『一旦は夢を叶えるために別れることにした男女の二人が夢を叶えた暁には結婚を誓い合う』というものなっており、まさしく国民的スポーツ・エンターテイメントの夢の舞台である中央トレセン学園の生徒としてあるべき将来の成功の象徴であったのだ。
なので、いろは坂にはトレセン学園の生徒たちが将来のことを誓い合う場ともなり、同時に秘めたる想いを登った先にある金比羅宮に願掛けするのが公然の秘密ともなっていた。
要は、担当ウマ娘と担当トレーナーがいろは坂に揃って来たら
そのため、恋愛に関心のある生徒は走り込みと称して近場にある屈指の恋愛スポットであるいろは坂まで参拝に行ってくるわけであり、そうではないと言い張って いろいろな理由を並び立てて いろは坂を走り込みのコースに入れる生徒も混じってくるので、実際にはかなりの人数の生徒がいろは坂に毎年やってきているのだ。
正直に言って、未知なるものを求めて星の海を渡る私からすると、恋愛譚というのは古今東西で非常にありふれた変わり映えしないジャンルであり、その先にある結婚生活まで目を向けると非常に生臭いものになってくるので、そんなものに現を抜かす人間たちのことを種族存続のための必要悪として遠くから見るだけにしていた。
恋愛で成功したとしても結婚生活となると話は別であるからして、これまで私がウマ娘の人生について見聞きしたことから定義したウマ娘の人生の理想像である『
しかし、ウマ娘の皇祖皇霊たる三女神やシンボリ家のウマ娘は“全てのウマ娘が幸福になれる世界”をご所望のため、恋のダービーレースに興じる夢見心地の乙女たちのことも知らなくてはいけないのだ。
いや、もうウマ娘の恋愛についてはこことはちがう可能性の世界で嫌というほど見せつけられたのでもういいです。うんざりです。腹いっぱいです。苦しいです。死にたくなります。
それは古代においてウマ娘が種族存続のために子種を求めてヒトの男子を攫っていく鬼の歴史と向き合うことになるわけであり、近代革命において労働力として不適格の烙印を押されて淘汰されようとしていた社会的弱小種族の将来性のなさにも向き合わなくてはならないわけである。どれだけ個々の腕力が優れていようと機関銃には勝てないのが近代におけるウマ娘の能力評価である。
ヒトとウマ娘のどちらが私が目指す宇宙移民や惑星開拓に向いているのかを考えると絶対に『ヒトである』と近代革命においてすでに出されていたのと同じ結論が出ているのがつらいところであり、ウマ娘の特徴となるウマ耳や尻尾がある時点で宇宙服の気密性が確保しづらいのが致命的すぎる。
そして、牛飲馬食というようにウマ娘はその馬力に見合うエネルギーを補給するためによく食べる。それだけでエンゲル係数を高めて家計を圧迫させる要因にもなるし、ヒトと隔絶した身体能力を考慮に入れないと簡単に物損事故や傷害事件が多発するのも労働力としての扱いづらさを助長する。保険が成立しない。歩く災害みたいなものだ。そもそもが古代史における鬼なのだから存在自体が災害なのは当然だ。
なので、機械生命体の機体を乗っ取って私に降りた三女神の神気から実体化したサポートAI“三女神”に言われて、ウマ娘の恋愛の実態をいろんなことと同時並行して調べていくうちに、私も随分と現代のヒトとウマ娘が共生する世界のオタク文化に詳しくなったものである。
酷使した身体を休めるために百尋ノ滝の秘密基地で立ち上げたVR世界で情報処理しながら映画鑑賞の時間をとるようになったのだが、私の頭の中の記憶領域に『メガドリームサポーター』のサポートAI“三女神”のプログラムソースが焼き付いているために、VR世界でならどこでも顕現してくるから“三女神”が 四六時中 一緒に付いて回ってくるのにもすっかり慣れてしまった。ああ 嫌だ 嫌だ。
――――――へえ、『尻尾ハグ』なんて概念がウマ娘たちの間にはあるのか。たしかにヒトの男子のアレのことを“反対側の尻尾”だの言うからには極めてデリケートなコミュニケーションになるのは今となっては深く理解できる。
――――――国道120号:いろは坂
ブゥウウウウウウウウウン!
飯守T「うわぁ! 騙されたぜ!」
飯守T「突然『いろは坂に行く』ってドライブに誘われたら、『耳をすませば』でおなじみの聖蹟桜ヶ丘のことじゃなくて、日光東照宮がある栃木県の山奥だなんてな!」
斎藤T「いろは坂の名前の由来は中禅寺湖までに特徴的なヘアピンカーブが48個もあるからで、個々のカーブには音に対応する文字板が建てられている。二つの坂道はふもとの
飯守T「――――――『
斎藤T「中禅寺湖の北にある日光二荒山神社の境内地:男体山は明治時代初期までは女人禁制・牛馬禁制となっていた。その名残として、麓に
斎藤T「当然、古代において畜生の化身として蔑視されていたウマ娘は女人禁制と牛馬禁制のどちらにも当て嵌まるわけで、ここはウマ娘の侵入を防ぐための仕掛けが念入りにされていたと聞く」
斎藤T「やがて、明治から昭和時代初期にかけて中禅寺湖畔に避暑地や紅葉の名所として別荘地や観光地の需要が伸び、幹線道路の開通による交通量の増加に伴い、華厳の滝がある華厳渓谷を挟むように現在の山登り専用の第二いろは坂と山下り専用の第一いろは坂に別れることになった」
斎藤T「こうしていろは坂の向こうにあるのが勝道上人が男体山;古代においては二荒山と呼ばれ、やがて日光山と読み替えられた場所に登頂して発見したといわれている中禅寺湖で、そこに名の由来となる中禅寺を建て、後に没すると湖岸から約100m離れた場所の上野島に遺骨の一部を納められたという」
斎藤T「そして、明治天皇陛下が行幸された際、この中禅寺湖は“
飯守T「へえ、掛詞になっているわけなんだな!」
斎藤T「そう、ここはそういった歴史と霊威を持つ土地柄だと自覚した上で、聖蹟桜ヶ丘のいろは坂とのシンクロニシティ*3を強く意識してもらいたいのです」
飯守T「たしかに、どっちも明治天皇陛下が行幸された聖蹟だし、聖蹟桜ヶ丘の方も元は連光寺で、こっちは中禅寺だもんな」
斎藤T「ちなみに、その中禅寺に祀られている
斎藤T「また、『波に乗る』『波の上にとどまる』が“足止め”と解され、出征者や家出人の帰還、恋人や配偶者の浮気防止の御利益があるとも云われます」
斎藤T「そのため、日光連山の主峰:日光三山を神体山として祀る日光二荒山神社は福の神・縁結びのご利益でも知られ、その日光三山の名が男体山・女峰山・太郎山という三人家族を思わせるのもポイントが高いです」
飯守T「へえ! ちょっと趣旨はちがうけど、それはまた中央トレセン学園の生徒にとっては耳寄りな御利益かもな! こういう面でも恋愛スポットになった聖蹟桜ヶ丘のいろは坂に通じるところがある!」
斎藤T「その上で、日光東照宮の神威を身に備えるべし」
飯守T「え」
斎藤T「江戸幕府初代将軍:徳川家康を神格化した東照大権現を主祭神として祀る日本全国の東照宮の総本社が『なぜ将軍のお膝元である江戸や家康の故郷である三河ではなく日光に鎮まっているか』ですよ」
斎藤T「明治維新の遷都によって江戸から東京へと名前を変えた街の人間なら一度は気になることじゃないですかな?」
飯守T「たしかに、東京で有名な神社仏閣って言ったら まず浅草観音だから、どうして徳川家康を祀る場所が栃木県なのかな? だって、水戸黄門で有名な徳川御三家の水戸徳川家って茨城県だよね? 何の所縁もないじゃんね?」
斎藤T「そこで関係してくるのが『江戸城:現在の皇居の場所がなぜそこに位置するのか』から始まる、徳川家康の側近として江戸幕府初期の朝廷政策・宗教政策に深く関与した黒衣の宰相:南光坊天海の陰陽道や風水に基づいた都市計画“江戸鎮護”によるもの」
斎藤T「というより、元々が勝道上人による日光山開山して関東地方の霊場として尊崇を集めたことで、鎌倉幕府創始者の源頼朝が寄進して母方の熱田大宮司家の出身者を別当に据えて以来、鎌倉幕府、関東公方、後北条氏の歴代を通じて東国の宗教的権威となっていたんだんですよ」
飯守T「じゃあ、その伝統に則ったわけで、そこまで難しい話でもないのか」
斎藤T「事実、そのために日光山貫主になった天海によって家康は遺言で八州の鎮守*4となることを願った」
飯守T「あれ、『八州』って? たしか、九州地方って旧国が9つあったから『九州』って言うんじゃないんだっけ?」
斎藤T「その通り。旧国における関東八国のことを八州というわけだが、これは天下の中心が関東に移ったから、その中心たる八州を守れば自然と日ノ本全体が安泰になる中華思想に近いものだな。宮中に近い人間ほど尊敬や偉い扱いを受けるアレだね」
飯守T「あ、なるほど。政治の中枢がある江戸が安泰なら幕府の支配は盤石だもんな」
飯守T「そうか! そこで出てくるのが風水ってやつなんだな!」
斎藤T「江戸幕府および明治政府の関東を中心にした国造りを支えた霊場は大きくは3つ:浅草と日光と三峯だ」
飯守T「――――――『三峯』?」
斎藤T「埼玉県における奥多摩と言えば想像しやすいかな?」
飯守T「ああ、わかったわかった。奥多摩の北にあるんだな、三峯って」
斎藤T「そう、秩父山地と呼ばれる山々の中にある白岩山・妙法ヶ岳・雲取山の三山に囲まれているのが三峯神社で、今は源泉が涸れた武蔵野三大湧水*5は秩父山の地下水に由来している」
飯守T「え、そうなのか? 奥多摩じゃなくて?」
斎藤T「いや、秩父多摩甲斐国立公園でまとめられているように、奥多摩の更に北の地域だから当たらずとも遠からずで――――――、そう、武蔵野だけじゃなくて 関東平野の湧水池の根源になっている巨大な水源が秩父山地を含む秩父多摩甲斐国立公園ということにしてくれ」
斎藤T「私はその三峯神社の神徳を受けるから、飯守Tは日光二荒山神社の神威を背負って東京の守護となってくれ」
飯守T「ああ、わかったぜ、斎藤T! そういうことならな!」
飯守T「あ、でも、となると残る浅草観音って誰が――――――?」
斎藤T「え、それはもうなんてったって才羽T。三十二相に化身して衆生を遍く済度する働きはすでに才羽Tに身に宿りて世に現れている」
飯守T「ええ、うそっ!? いや、さすがというべきか、これは?」
斎藤T「つまり、江戸の守りは北に日光、西に三峯、中心に浅草で全方位守られているわけだから。あえて言うなら、海を背にした江戸の東は鹿島、南は江ノ島になるけど」
斎藤T「では、東京鎮護を司る神使となるべく、日光の第二いろは坂を登りきった先の明智平ロープウェイの展望台から始めようか」
飯守T「う、ううん? あ、『明智平』――――――?」
斎藤T「お気づきになられましたか。不思議なことに日光東照宮には明智桔梗紋が存在するんですよね」
飯守T「やっぱり、明智光秀が天海だったのか?」
斎藤T「さて、どうでしょうね」
斎藤T「この有名な『天海=明智光秀説』において光秀は自分の名を残したいと日光で一番眺めのよいこの地を『明智平』と命名したと伝えられているわけですが、」
斎藤T「展望台まで行ったら江戸の北に位置する日光から関東平野を見渡してみてください。筑波山ぐらいまでは見えるそうですから」
第二いろは坂をほぼ上りきった地点にある明智平――――――。
そこにある明智平ロープウェイで展望台へ上がれば、男体山や中禅寺湖、ついでに振り返れば遠く茨城県の象徴である筑波山に、周囲の雄大な山並みのパノラマが一望でき、更には中禅寺湖から流れ落ちる華厳の滝や白雲の滝も見える絶景となっている。
ただ、中禅寺湖や奥日光が明治時代以降に観光化されたことによって頻発するいろは坂の交通渋滞で第二いろは坂が増設されたように、今はまだ蒸し暑い夏競バの時期だが、紅葉の季節となるといろは坂の名の由来ともなった48箇所のヘアピンカーブが魔の領域ともなるのだった。
いろはにほへと ちりぬるを 色は匂へど 散りぬるを
わかよたれそ つねならむ 我が世誰ぞ 常ならむ
うゐのおくやま けふこえて 有為の奥山 今日越えて
あさきゆめみし ゑひもせす 浅き夢見じ 酔ひもせず
飯守T「おお、すげえ! たしかに中禅寺湖も華厳の滝も見える! まさに絶景だな!」
斎藤T「標高1,373m。男体山の噴火によってできた日本一標高の高い場所にある湖が中禅寺湖。四季折々の表情が美しいことから日本百景にも選定されており、年間を通して多くの観光客が訪れているか――――――」
観光客?「――――――」ジー ――――――先客が一人だけいる。
斎藤T「まいったもんだねぇ。秩父山地が東京の西の守りの要なら、東京の北の守りの要は日光連山なんだから」
斎藤T「
斎藤T「そして、日光と言えば日光東照宮というわけで本来の霊場である日光山/二荒山/男体山の辺りを人によっては奥日光と言うようにもなっている」
斎藤T「そう、東京の西に奥多摩、東京の北に奥日光ねぇ」
斎藤T「――――――秩父山地/奥多摩で年間を通して登山客が多い百尋ノ滝と状況が被っているなぁ?」ピッ ――――――毒電波発生器
観光客?「!?!!」ビクッ
飯守T「え」
観光客?「くぁwせdrftgyふじこlp」
飯守T「こ、こいつ、様子が変――――――」
斎藤T「飯守T。そいつ、確保」
飯守T「お、おとなしくしろ!」ガシッ
飯守T「!?」
飯守T「こ、こいつ、見た目に反してかなり重い――――――」
観光客?「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
観光客?/機械生命体「消え失せろおおおお! ニンゲン共おおおおおおおおお!」
斎藤T「変身を解除させるので精一杯か」
飯守T「な、なにぃいいいいいいいいい!? こ、こいつは?! 機械のバケモノ……!?」
機械生命体「――――――!」ガシッ
飯守T「は、放せ――――――」グゥ・・・
飯守T「!?!!」
突如として怪しげな装置の影響で苦しみ出した観光客だったが、途端に醜悪な機械生命体の異形を露わにし、一瞬で飯守Tの胸倉を掴むと軽々と明智平の絶景へと投げ込んだのである。ここから眼下に見える自殺の名所としての汚名を着せられた華厳の滝へ豪速球でスローインである。
私はそれをただ見ているしかできなかった――――――。否、こちらが身動きする前に圧倒的な動作速度で飯守Tを自殺の名所へと投げ入れたように見えたが、機械生命体が手を放した瞬間に豪速球となって華厳の滝に飛び込んでいくはずの飯守Tの身体が空中に停まっているかのように非常にゆっくりと動いていた。
それは私の身動きにしてもそうだった。飯守Tを展望台から見下ろせる華厳の滝に目掛けて豪快に振り抜いた後、思ったように身体を動かせなくなった私の胸倉を掴み上げると、空中で停まっているかのようにジワリジワリと落ちていく飯守Tの隣になるように放り投げたのだ。
そう、機械生命体がこちらが反応できない超スピードで動いていたのではない。現実的に考えて相手の動きがはっきりと目で追える上に思考が正常であり、こちらの動きが止まっているかのような錯覚ともなれば、それはもう機械生命体以外の全てがスローモーションになる何かが掛かっているのだ。
少なくとも、機械生命体の動き自体は普通に目で追えるだけにジタバタして抵抗したかったはずの飯守Tの投げ捨てられるまでの表情筋の動きが追いつかない じっとりとねっとりとしたような 永久にも思える一瞬の焦りや絶望は筆舌にしがたいものだろう。今だって本当ならば動きがなったことでスローモーションで落ちるよりも早くに私の方に手を伸ばそうと心の中で必死になっているのだから。
――――――だが、現実世界の動きがスローモーションになっても、現実世界を認識する心の動きはスローモーションに掛からない!
さあ、去年の8月の学園の不祥事でWUMAが化けた偽物による風評被害を受けそうになった一番の被害者である警視庁総監のエリート息子:飯守 祐希が悪に立ち向かう力を求める動機は何となるのだろうか。
それらは大別して“知仁勇”となり、言い換えれば それらは“規律”という思考、“愛情”という思考、“勇敢”という思考に置き換えることができる。
もちろん、いずれかが著しく欠けていれば何事も成し遂げることができないのは言うまでもない。『知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず』ということは『不知者は惑い、不仁者は憂い、不勇者は懼れる』わけなのだから。
当然、“知仁勇”の全てを極めることが一番望ましいわけだが、それらは思考であるが故にどうしても個々人の傾向というものがあり、『知仁勇の三者は天下の達徳なり』と述べられるように、“知仁勇”を均等に極めていくことは不可能に近いものである。
けれども、そもそもとして『何のための“知仁勇”なのか』を考えると、
そう、なすべきことをなすための動機づけになるものは“規律正しさ”を重んじる思考でも、“愛情深さ”から発する思考でも、“勇敢さ”が迸る思考でも何でもいいのだ。アプローチの仕方が3つも提示されていると考えれば、自身の“知仁勇”の不足を嘆くこともないし、それを言い訳にすることもできなくなる。
だからこそ、欲するのだ。求めるのだ。発願するのだ。全てはそこから始まるのであり、目的を果たすために“知仁勇”が必要になるのであって、極論、“知仁勇”など自身の望みが果たされたのならあってもなくても関係ない。目指す場所に辿り着くために自身を支えるものが“知仁勇”なのだ。
――――――求めよ、さらば与えられん!
――――――捜せ、さらば見出さん!
――――――叩けよ、さらば開かれん!
――――――全て、全て、全て、求める者は得、捜す者は見出し、門を叩く者には開かれる!
――――――――――――
―――――――――
――――――
―――
飯守T「へえ、これがサトノグループが開発したサポートAIを搭載したウマロイド。よくできてるな」
飯守T「日替わりで姿が変わるんだってな。今日はまだ“愛情の女神”ゴドルフィンバルブか」
愛情の女神’「はじめまして、飯守T。本当はVRウマレーターで出会うはずでしたが、今はウマロイドの機体にAIを移してトレーナーとウマ娘のために活動を行っていますよ」
飯守T「ああ、よろしく。とっくに知っているかもしれないけれど、俺の担当ウマ娘:ライスシャワーのことで相談するかもしれないから」
愛情の女神’「はい。遠慮なく頼ってくださいね、飯守T」
飯守T「ウマ娘の神様って言うからにはどんな感じなのか想像つかなかったけど、これは随分と親しみやすいように現代風の格好だな」
斎藤T「一応、格好はサポートAIが役割分担で導き出した私服・運動服・勝負服の象意なんだそうです」
飯守T「え? それはつまり、“勇敢の女神”ダーレーアラビアンが私服、“愛情の女神”ゴドルフィンバルブが運動服、“規律の女神”バイアリータークが勝負服を担当しているってこと?」
愛情の女神’「おっと、これは私たちの間だけの秘密だったのに。ひどいわ、斎藤T」
飯守T「そうだったのか?」
斎藤T「というのも、ここに顕現している“三女神”はあくまでも『トレーナーの判断をサポートする』ことが
飯守T「え、私服担当が“勇敢の女神”ってのは――――――?」
飯守T「いや、私服を着ている日常生活こそ勇敢さがもっとも必要になるのはなんとなくだけど俺でも理解できた気がする」
愛情の女神’「飯守T、あなたはとても聡い方ですね。もっとも、私たちが着ている服装と3つの思考の関連性の理解は運動服の担当ウマ娘を門にしていたようですが」フフッ
飯守T「うわっ! そんなところまでお見通しなのか、AIって!? さすがは“三女神”を名乗るだけのことはある!」
斎藤T「いや、古今東西のウマ娘レースのデータを集積しているので、当然“グランプリウマ娘”ライスシャワーと担当トレーナー:飯守 祐希に関する逸話も記録されているだけですよ」
飯守T「ええ!? そう言われると何か照れくさいな! ライスと俺とで歩んできた毎日のことが誰かの励みになるものとして記録されているってのは!」
愛情の女神’「ですから、トレセン学園で採用されている制服の一種であるジャージを着ている私:ゴドルフィンバルブはトレセン学園の生徒としての学生生活の象徴でもあるんです」
愛情の女神’「トレセン学園の生徒たちは国民的スポーツ・エンターテイメント『トゥインクル・シリーズ』で夢を叶えるために日々の生活を送っているわけですが、優駿たちの頂点に立つことができるのはたった1人の過酷な勝負の世界において殺伐さよりも華やかさで満たされるために必要なものが何よりも深い愛情なのです」
愛情の女神’「そこまで難しく考えることはないです。ターフの上では全員がライバルですけれど、そこから離れたら互いの才能を磨き合う仲間や刺激を与え合う友達としてふれあえばいいんです」
愛情の女神’「トレーナーにしてもそう。才能も人それぞれで個性豊かなウマ娘たちと向き合って、その中から『これは!』と思った子をスカウトして、その子にとっては一生に一度の晴れ舞台のために尽くすためには深い愛情しかありません」
斎藤T「だからこそ、ヒトより並外れたウマ娘の闘争心を剥き出しにしたレースにおいては規律正しさがもっとも求められることになる。近代ウマ娘レースの目的であるウイニングライブはどれだけ栄冠を逃した恥辱や悔しさに打ちのめされていようと不貞腐れることなく舞台で踊り抜かねばならない」
飯守T「そう言われると全てが納得だな」
斎藤T「そうでしょう。少なくとも日本で信仰されている諸天善神というものは、名は体を表す、その働きが境地として名前や姿形にそのまま反映されているわけで、」
斎藤T「ゴドルフィンバルブの教えとしては、愛情が発揮されるべきは生徒として送る学生生活の中であり、レース本番の時に愛情を発揮する必要はまったくないわけですよ」
飯守T「それもそうだな。俺たちは公営競技として勝ち負けをはっきりつける勝負の舞台で戦っているんだもんな。そこに情けが入り込む余地はないが、それ以外の場所では相手を気にかけてやってもいいもんな」
愛情の女神’「――――――不思議ね、あなたは」
飯守T「え? 俺?」
愛情の女神’「はい。飯守T、あなたは非常に無欲ですよ」
飯守T「え、そうかな? 俺はただトレーナーとして担当ウマ娘のライスが勝つことを第一にしているから、普通だと思うけど?」
愛情の女神’「ええ。昨日会った才羽Tはそれとは正反対の大望の持ち主でしたから」
飯守T「そりゃあ、そうでしょうねぇ。あいつなんて『自分が世界の中心だ』って平然と言ってのけて、自分が担当している主役のはずの黄金期最強の“サイボーグ”ミホノブルボンの存在感を完全に食っていますから」
愛情の女神’「けれども、それはどこまで日本のウマ娘が世界に冠たる存在であることを夢見ての大望ですから、それもまた大きな愛情の発露ではあるんです」
斎藤T「つまり、担当トレーナーと担当ウマ娘の関係性のちがいですよ、飯守T」
斎藤T「飯守Tの場合は、担当ウマ娘:ライスシャワーの“最初の3年間”も走り終えても変わることのない目的に付き合っていく在り方じゃないですか」
斎藤T「一方で、才羽Tの場合は担当ウマ娘:ミホノブルボンが“クラシック三冠”の夢を達成したことで目標を失ったところに“クラシック三冠”以上の壮大な夢を向かわせることで“新たな3年間”へと挑ませる在り方なんです」
斎藤T「その正反対の在り方をそれぞれ徹底できているのが才羽Tと飯守Tであるという称賛ですね、これは」
飯守T「そういうもんなのかな、自覚はないけど」
飯守T「あ、なら、斎藤Tは? 斎藤Tはどうなんだ――――――、いや、どうなんですかね、そこは?」
愛情の女神’「もちろん、斎藤Tは素晴らしいですよ。斎藤Tはバイアリータークにもっとも愛されていますから」
愛情の女神’「“規律の女神”バイアリータークに愛されるということは、勝負服の姿が象意となるようにウマ娘レースという熱い戦いの駆け引きや勝敗もそうなんだけれど、それ以上に1つの仕組みや取り巻く環境に対して強い関心を持っていることになるわ」
愛情の女神’「担当ウマ娘の栄光や自己実現よりも、より多くの人たちや全員が幸せのためにできることが何なのかを常に慮って行動に起こせる――――――、それが人々を高みへと導く規律正しさに繋がるのです」
愛情の女神’「だから、勇敢さと愛情深さがあって規律正しさが導かれるので、斎藤Tは自然と勇敢さも愛情深さも兼ね備えています」
愛情の女神’「けど、勘違いしないで欲しいのは、勇敢さも愛情深さも規律正しさも人生において1つも欠かすことができないものだから一緒に挙げられるわけで、何事もこの3つをバランスよく持っていることが大前提になるから」
飯守T「あ、それはさすがに大丈夫ですよ。“愛情の女神”だからと言って臆病者だったり無法者だったりなんては普通は想像しないですから。程度ってものがあります」
飯守T「けどさ?」
愛情の女神’「はい」
飯守T「たとえば、俺の担当ウマ娘が味わうことになる痛みを俺が肩代わりすることってできないかな?」
飯守T「俺、去年に起こった学生寮不法侵入事件で俺に化けた偽物が犯人だったことがあるからさ、ライスがみんなに夢を見せようと頑張っている夢の舞台を守るためにできることがないかをずっと考えていたんだ」
飯守T「親父が警視庁総監なんてものをやっていたから、俺なりに特訓して身体を鍛えてパトロールに協力もしてきているけど、」
飯守T「相手がウマ娘でも警察でもどうしようもできないバケモノだったら、サポートAIとしてはどうしたらいい? そいつがいろいろな意味でウマ娘レースを邪魔してきたら、俺たちトレーナーは夢の舞台が壊されていくのをただ黙って見ているしかないのか?」
愛情の女神’「………………」
飯守T「あ、悪い。あくまでもウマ娘レースで勝つためのサポートAIに答えを求めるものじゃないよな、今のは」
斎藤T「さあ、答えてください、子々孫々を栄えさせるために叡智を誇る三女神なら」
飯守T「え」
愛情の女神’「いいでしょう。ウマ娘の皇祖皇霊たる“三女神”の名にかけて解決策を提示しましょう」
飯守T「ええ!?」
愛情の女神’「飯守T、先程の言葉に偽りがないのなら、人々に成り代わってバケモノと戦う覚悟を示してください」
飯守T「!」
飯守T「それはもちろん――――――」
愛情の女神’「そのためにあなた自身が傷つくことを容認できますか?」
飯守T「………………っ!」
愛情の女神’「どうしました? できないのですか?」
飯守T「ちがう! そうじゃない!」
斎藤T「………………」
飯守T「……俺自身が傷つくのはかまわない! でも、今の質問で、俺は気付かされたんだ!」
愛情の女神’「何に?」
飯守T「――――――傷ついた俺を見て真っ先にライスが悲しむだろうことに!」
愛情の女神’「そうよね。トレーナーなら担当ウマ娘のことを第一にしないと」
飯守T「だから、俺はライスが万全の状態で走れるようにしなくちゃならないから、絶対に倒れるわけにはいかないんだ!」
愛情の女神’「なら、あきらめますか?」
飯守T「いや、俺はあきらめたくない! ライスが自分の夢に向かって直向きにがんばっているように、俺も自分がやりたいと思ったことに全力投球するんだ!」
飯守T「だから、さっきの質問の答えは『俺自身が傷つくことは容認できない』! 死なば諸共の精神でバケモノと戦うことは絶対にしない! ライスを一人にさせない! それがライスと“新たな3年間”を歩むトレーナーである俺の覚悟だ!」
愛情の女神’「そうですか」
斎藤T「どうですか、女神様? 資格は十分のはずですが?」
斎藤T「まずはバケモノと戦う勇敢さ、次に担当ウマ娘を第一に思いやる愛情深さ、それから自分が社会に対して何ができるかを考える規律正しさの三拍子が揃っています」
愛情の女神’「そうね。私もこの機体を通じて
愛情の女神’「合格です、飯守T」
愛情の女神’「私の手を取ってください」
愛情の女神’「あなたは使命を遂行するに当たって担当ウマ娘に対する愛情深さが先に立った。故に“愛情の女神”ゴドルフィンバルブが力をお貸しします」
飯守T「おお! や、やった! やったぞ、俺!」
飯守T「って、よくよく考えたら、三女神と言っても人の手で造られた人工物だよな? そんなことが本当にできるのか?」
斎藤T「それを可能にするのが宗教の本来の役割だ。教えとは神や仏と一体になるためのものであり、知って得した気分になるだけの飾り物じゃない」
斎藤T「踊り念仏の時宗を開いた一遍上人に曰く『念仏を唱えている場こそが寺である』と。建物が寺じゃない。仏の教えが実践されている場こそが寺なのだと」
斎藤T「だから、有名な神社仏閣であろうと神仏の実相ではない。御神体や仏像が本質ではない。人こそが神社であり、寺院であり、教会であるのだから、形に囚われることはない」
愛情の女神’「とのことですので、
飯守T「わかった!」
ブーンブーンブーン・・・
パシッ
HEN-SHIN!
―――
――――――
―――――――――
――――――――――――
――――――来い、スカラベエクステンダー!
機械生命体「?!!!」
機械生命体「な、何だ、あれは?!」
機械生命体「――――――巨大な昆虫!?」
機械生命体「馬鹿な! 重加速現象の中で動けるだと!?」
機械生命体「うおっ!?」ガーン! ――――――巨大な鋼鉄の昆虫の体当たりを食らう!
飯守T「ううわああああああああああああああああああ!」ヒュウウウウウウウウウウウン!
斎藤T「――――――運動停止結界が解除されたぁあああああ!」ヒュウウウウウウウウウウウン!
斎藤T「掴まれええええええええええええええ!」ヒュウウウウウウウウウウウン!
飯守T「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」ヒュウウウウウウウウウウウン!
ビュウウウウウウウウウウウウン! バシッ!
飯守T「よくもやってくれたな! 本気で死ぬかと思ったぞ!」シュタ! ――――――巨大な鋼鉄の昆虫のハンドルを掴んで勢いのまま展望台に着陸!
斎藤T「さすがに自殺の名所に投げ込まれるのはごめんだ!」シュタ! ――――――巨大な鋼鉄の昆虫のアンカーに掴まって復帰!
機械生命体「な、なにぃ?!」
飯守T「一応、職務質問をするぞ。お前の身分証を出してもらおうか。ないなら不法滞在者として警察に突き出すだけだ」
斎藤T「まあ、中京競バ場で何かしようとしていたお仲間は答えなかったがな!」
機械生命体「なんだと!? 今なんと言った!?」
機械生命体「まさか、貴様が! 貴様が我が同胞を――――――! お、ぐわああああああ!?」ドン! ――――――またもや巨大な鋼鉄の昆虫の体当たりを食らう!
ブーンブーンブーン・・・
パシッ
斎藤T「導きは黄金の規律! バイアリーターク!」
飯守T「海より深き愛情! ゴドルフィンバルブ!」
HEN-SHIN!
CHANGE! Caucasus-beetle!
CHANGE! Stag-beetle!
飯守T「おっしゃあ! 行くぜ、実戦本番ッ!」
斎藤T「今のルクソン粒子の充填率から運動停止領域を防げるのはおよそ1分だ! 早急に無力化する!」
飯守T「わかったぜ! 1分で片を付けてやる! うおおおおおおお!」
機械生命体「な、なめるなああああああああ! ニンゲン風情がああああああ!」
正体不明の機械生命体“ロイヤル・ナムーフ”はどういうわけか日光/明智平の展望台の観光客に扮していたわけであり、正体がバレたことで私と飯守Tを展望台から放り投げて空中に浮かせた。
これだけで人類の敵と見なせるわけであり、自身を中心とする一定の範囲に運動停止領域を展開できる機械生命体は正体が露見したことへの動揺を抑えるために、任意でON/OFFできるはずの運動停止領域を切って私と飯守Tを華厳の滝の滝壺に飛び込ませることをすぐにしようとしなかった。
しかし、それが命取りとなり、たとえ運動停止領域によって身動きがとれない状況であっても思考はそのままで、未だに展望台の柵から少し飛び出したぐらいで奈落へ真っ逆さまになるのには時間の余裕がありすぎたため、すぐにでも転落死するわけでもないとわかる考える時間から精神統一の余裕すらあり、こうしてルクソン粒子をまとって運動停止領域を突破する改造バイク:スカラベエクステンダーの召喚も可能であった。
返す刀ですぐに反撃で虚空から繰り出された飛行物体:スカラベエクステンダーの体当たりに対処する術は機械生命体にはなく、運動停止領域を突破された驚愕や巨大な鋼鉄の昆虫という未知との遭遇に冷静さを保つことができるわけもない。
スカラベエクステンダー――――――、四次元能力のワープに対応する改造バイク:スカラベエクステンダーの性能を最大限に発揮させるために『空を飛ぶ能力』を与えた結果、モーフィングによって巨大な鋼鉄の昆虫の姿になって飛行が可能となっていた。
実は、これも機械生命体に匹敵する超科学生命体であるWUMAの産物であるのだが、シニアクラス以上のWUMAが発現する物体を念力で移動させるサイコキネシスで操作させているだけの力技に過ぎず、自力で飛行しているわけではなかった。
これはスカラベエクステンダーの名の通りに変身アイテム:
しかし、こうして明智平の展望台から転落死させられる絶体絶命の危機を救う切り札となったため、造るだけ造っておいて損はしなかったわけなのだ。目的を達成することができたら何だっていいのだ。
ルクソン粒子をまとって四次元能力:時間跳躍によって三次元空間を自在に飛び回れる飛行物体:スカラベエクステンダーの軌道はまさに変幻自在であり、
運動停止領域が解除された瞬間に転落死する途中だった大の大人の身体がターボエンジンのように吹っ飛び始めたのを受け止めて瞬時に展望台に復帰させた。
そこからはお待ちかねの
そして、これが飯守Tの
それに対し、正体不明の機械生命体の方もヒトなど軽く明智平の絶景から真っ逆さまに突き落とせるだけの膂力を誇って抵抗を試みるものの、いきなりの2対1の数的不利に加えて明らかに戦い慣れしていない様子で、一瞬で機械生命体を覆う装甲すら両断する誘導棒に偽装したプラズマジェットブレードで斬り伏せられてしまうのだった。
すると、機械の身体を放棄して人霊:エクトプラズムを出して逃走を図ろうとするわけなので、前回は初遭遇ということで生け捕りにすることができなかったが、今度は機械の身体にエクトプラズムを閉じ込めたまま捕縛して情報を引き出そうと試みた。
そこで登場するのがその場で写真をプリントできるインスタントカメラ・チェキであり、撮った瞬間にプリントされる写真に機械生命体の人霊:電霊を機体に封じ込める呪術加工が施されており、電霊が機体を抜け出した瞬間に元の機体に瞬時に戻される仕様となっていた。それを破るためには呪術加工が施された写真を消滅させる他ない。
これは霊魂を肉体に縛り付けて危篤状態の患者を延命させる悪霊祓いの禁術の応用である。肉体から霊魂が離れてしまう幽体離脱を防ぐためのものであるため、すでに肉体から離れてしまった霊魂を呼び戻すことはできないが、たとえ死亡しても遺体に霊魂を繋ぎ止めることができるほどの封印である。
それが禁術と言われる所以は、霊魂は死んだらあの世に帰るべきであるところをいつまでもこの世に残ることで浮遊霊や地縛霊となってしまうからであり、この封印を解除しないと自力ではもうどこにも行くこともできない無間地獄に人為的に陥るのだ。
つまり、肉体が死ぬ前に霊魂が離れていってしまったら蘇生する意味もないため、この禁術は基本的に生命活動が停止と共に解除される仕様になっており、封印で確実に霊魂を肉体に繋ぎ止めている間に懸命な延命措置を施すように使われている。
あるいは、魂が抜けた器に別の存在が入り込むのを防ぐ目的でも使われており、基本的に善良なる霊魂は肉体が滅んだら自然とあの世に行くため、裏返せば 肉体が滅んでも なおこの世に留まっているのは善良ならざる霊魂のため、そういった悪霊に肉体を奪われないようにするための封印でもあった。その意味での悪霊祓いの禁術である。
今回の場合は、相手が機械生命体であることから危なくなったら気軽に身体を捨てて新たな自分に生まれ変われる電霊という、非常に生命への冒涜というものを感じさせる善良ならざる悪魂への制裁のため、普通は防御的運用の悪霊祓いの禁術を攻撃的運用に切り替えた積極的な封印というわけである。
しかし、思いというのは時間と空間を超えているため、こうしてチェキ写真を通じてバラバラにされた機体に封じ込められた電霊の波動が非常に荒々しく伝わってくるわけであり、皇祖皇霊たる本物の神霊の澄み切った清涼な神気はどこにも感じられないので、感覚で相当な悪霊であることがわかってしまう。
ただ、学園裏世界で退治している悪霊や妖怪たちが放つ奇怪な妖気は感じられない。肉体があるからこその恨み辛みや生々しさといったジトジトしたマイナスの熱量や湿度が一切ないのが機械生命体の波動らしく、どう説明したらいいのか、神霊から感じる居心地の良い清涼さを通り越した皮膚を刺すような超高温の冷たさのようなものを感じた。
そう、人としての情や温かさを完全に失って恨みや憎悪の塊となった怨霊はいるだけで生者に流れている温かい血から放たれる生気が吸い取られて体の芯から凍りついていく寒さが不自然にもたらされるのだが、
機械生命体に宿る電霊というのはどこまでも三次元世界の物理法則に則っているらしく、低温では機械の動作が鈍くなるのに嫌ってか、動作保証の温度環境のような妙な生温かさがあり、それが工場機械のような騒々しさの荒々しい波動を伝えてくるのだ。この辺りが極めて非人間的であると言えた。
――――――展望台に着いてわずか10分以内の死闘であった。
斎藤T「さて、残骸と写真はスカラベエクステンダーと一緒に転送したから後処理は問題ないが、あの機械生命体はこの展望台から何を見ていたのか――――――」
飯守T「ああ。WUMAとはちがって死んだら灰にならないから物的証拠は確保できたけれど――――――、たしか、中禅寺湖は昔からの別荘地なんだっけ? 何か怪しくないか?」
斎藤T「ええ。WUMAと同じように人間に擬態することができる怪人がまた現れ、観光客が多い奥日光で発見されたとなると、この奥日光に網を張っていた方が良さそうです」
斎藤T「今日のところは帰還しましょう。WUMAとは別の怪人の存在が確認できただけでも大きな収穫です」
斎藤T「正直に言って、警察に対抗できる相手でもないですが」
飯守T「でも、何とかしたぜ?」
斎藤T「それは奇襲攻撃が成功したからであって、基本的に身動きが封じられては手も足も出ないです。その意味では当たりどころが良ければ拳銃でも殺せる生物の範疇のWUMAよりも手強い相手ですよ」
斎藤T「今のところ、まだ中京競バ場で遭遇した個体と合わせても2体しか確認できていないので、その全貌が謎に包まれたままです」
飯守T「中京に現れたと思いきや、いろは坂の上の明智平の展望台にいたっていうのは本当に謎だな」
飯守T「となると、WUMAとはちがって全国規模で活動しているのか、こいつらは?」
斎藤T「とにかく、今度は電霊を機体に封じ込めたままにすることができた。そこから情報がどれだけ引き出せるかどうかです」
飯守T「悪霊祓いの禁術で霊魂を機体に封印できたということは、こいつらはれっきとした生命体で間違いないんだよな?」
斎藤T「――――――生命の定義に拠ります。西洋の解釈なら肉・霊・魂の三拍子が揃っていれば、それは1つの生命なのでしょう」
飯守T「でも、サトノグループが開発した突然変異のサポートAI“三女神”には本物の三女神の魂が降りてきているじゃないか」
斎藤T「残念ながら、彼らは私たち人間の良き隣人にはなれても、地上の支配者にはなれない。どれだけ人間のように振る舞おうとも祝福を与えられていない
斎藤T「だから、ウマ娘の皇祖皇霊たる三女神は超科学生命体や機械生命体をはじめとする異形の排除に躊躇いがない。そのために力を貸し与えていることを忘れてはいけない」
飯守T「――――――“倒されるべき敵”としての定めにあるのか?」
斎藤T「善因善果・悪因悪果・因果応報;彼らが必ずしも“倒されるべき敵”なのかはわからないが、“人類が乗り越えるべき問題”として この世界に現れたのは確かで、その解決方法こそ“地上の支配者”の裁量に委ねられている」
斎藤T「私一人で機械生命体を全て駆逐してもいいが、おそらくは現在のヒトとウマ娘が共生する21世紀の地球が直面する問題について考えさせるために皇祖皇霊が招き入れた試練と考えると、WUMA襲来の
斎藤T「ああ、わかった! 近代ウマ娘レースが国民的スポーツ・エンターテイメントとして成り立つことで近代文明において庇護の対象であった社会的弱小種族であるウマ娘の存在価値がいよいよなくなろうとしているんだな!」
飯守T「どういうことだよ、それって!?」
斎藤T「今回のサポートAIやウマロイドの登場によって文明社会はますます利便性や効率性を高めていくことになるだろう」
斎藤T「資本主義経済において極限までの利潤追求のためにAIの導入による高効率化を加速させ、その究極として最大の固定費である人件費を削減することで過去最大の利益を享受することになる」
斎藤T「つまり、明治維新において文明開化の最大の要点は株式会社であると見抜いた渋沢栄一や五代友厚たちが経世済民のために大多数の雇用創出と殖産興業を果たした歴史があるのに対し、」
斎藤T「これからの時代にはAIの導入によって無慈悲にも人件費削減で失業者はどんどん溢れていくことになるだろう」
飯守T「そ、そうなのか!?」
斎藤T「まったく愚かな時代だ。そうなると失業者が溢れることで全体の購買力が低下するためにかえって企業の儲けにも影響が出てくるわけだが、その全体の購買力を補填するためにきっとベーシックインカムを導入するように政府に訴えるのだろうな、企業は」
飯守T「――――――『ベーシックインカム』」*6
斎藤T「当然、そのベーシックインカムは政府の財源から捻出されるわけだから、つまりは国民から徴収した税金の再分配するわけだから、一見すると経済循環によって理に適っているように見えるが、」
斎藤T「問題は利潤追求を理念とする企業なら節税対策を絶対するわけだから、自分の財布からベーシックインカムの財源になる税金を払いたくないから、他人の財布でベーシックインカムの財源を支払わせて誰よりも強欲に利潤の確保に動くわけだよ」
飯守T「それじゃあ、一方的に企業にカネが貯まっていく一方じゃないか! 結局、ベーシックインカムも企業に貯まっていく一方のカネを徴収できなかったら破綻するよ!」
斎藤T「そう、あるところから一方的に搾るだけ搾って還元することをしなくなった市場経済はいずれは先細りしていくしかないが、それはまだ次の段階の話だ」
斎藤T「これまで利潤追求のために工場を拡大して労働者をどんどん雇い入れたはいいが、生物学的もしくは社会学的に利潤追求にとって様々なデメリットを抱える
飯守T「…………最悪だな! 『働くもの食うべからず』だろうけど、働きたくても働けないように追いやっているのは誰だよ!?」
斎藤T「さて、ここからWUMA襲来の
斎藤T「しかし、完遂はされてはいないにしても、すでに労働力の置換は始まっていたはずで、サトノグループが開発したサポートAI“三女神”の登場によって、その動きが加速していくはずだ」
斎藤T「これが子々孫々たるウマ娘の繁栄を願う“三女神”の意志に反する結果をもたらすことになる!」
飯守T「え、どうして――――――?」
飯守T「あ、そうか! 元々からウマ娘は近代文明においては社会的弱小種族だから、AIが普及したハイテク社会だと労働力としての価値がますますなくなっていくのか!」
斎藤T「そう。いくらヒトを超えた身体能力を持った古代史における鬼だろうと、ただ力に勝るだけならば近代文明においてはコストパフォーマンスの悪い労働力でしかなく、工場勤務においては非常に作業性に劣る異形である以上、ヒトとウマ娘が共生する世界の在り方は今より遥かに歪なものに変わっていくにちがいない」
飯守T「そ、そんな……!」
飯守T「ヒトとウマ娘の共生の最たるものであるはずのトレーナーと担当ウマ娘の関係を深めていくためのサポートAI“三女神”が結果としてヒトとウマ娘の共生を壊す大きなきっかけだなんて!?」
斎藤T「だから、WUMA襲来の
飯守T「!!?!」
斎藤T「……ああ、そういう流れだったんだな。道理でWUMAの支配を受け容れて圧制者の側に回るウマ娘が出るわけだ」
斎藤T「たぶん、日本はそうじゃないけど、海外だとウマ娘の社会的地位が現在進行形でかなり脅かされているのではないかな」
飯守T「そんなの どうしろっていうんだよ!?」
斎藤T「そのために機械生命体の脅威が必要になってくるのだろう」
飯守T「え?」
斎藤T「簡単なことですよ。中国には『羹に懲りて膾を吹く』という諺がある」
――――――サポートAI“三女神”の登場で加速するAI導入に歯止めをかけるためには人類の歴史に 核兵器の脅威と同じく AIの脅威を強烈に植え付ける必要がある。
斎藤T「そのために機械生命体がこの世界に呼び寄せられたようです」
斎藤T「だから、防げない。それを防いだらウマ娘迫害が加速してWUMA襲来の
飯守T「は、はあ!?」
斎藤T「私もこれには溜め息しか出ないですよ」
――――――日光山! 二荒山の神よ! 本当にそうなのか!? 本当にそれでしか
明智平の展望台にて恐ろしい未来予想図が出来上がってしまった。眼下に見える華厳の滝に吸い込まれるように私の叫びは虚しく消え行く。
世界的にも国家を衰亡させる大乱が長らく起こらなかった泰平の世である江戸時代を築き上げるための要石がある日光において、その元神である二荒山の神は容赦なく結論を私の脳裏に直接突きつけてきたのだった。
そう、ヒトとウマ娘の共生社会を壊すのは他ならぬ人類自身であり、真っ先に苦しめられる社会的弱小種族であるウマ娘の怨嗟の声が因果を超えて平行宇宙から超科学生命体の襲来を招くわけなのだ。
つまり、本来ならばサトノグループが開発した『メガドリームサポーター』で実装されたサポートAI“三女神”の登場が結果として世界的なAI導入を加速させてウマ娘の存在価値を奪っていくことに繋がるわけであり、私が先行体験会でデータセンターを破壊したことでそうなる未来を潰すことに真っ先に成功していたのだ。
しかし、すでに超科学生命体“フウイヌム”が襲来する
なので、核兵器の脅威と同じほどの強烈な打撃を人類史に与えて反省を促さない限り、たとえ機械生命体の脅威を未然に防いだところで
なぜそんなにも無慈悲なのかと言えば、神の教えである愛を実践しない冷徹な市場経済で築かれた文明をリセットするためであり、本当の愛を地上に取り戻すためだと言うのだから、神々の愛というのは本当に大きすぎて常人には受け止めきれないものがある。
いや、思い出して欲しい。そもそも日光二荒山神社に祀られている神々の威徳は何だったのかを思い出せ。かつて泰平の世を築くために天海が自ら貫主となって東照宮を創建した場所がここなのだと。
斎藤T『ちなみに、その中禅寺に祀られている
斎藤T『また、『波に乗る』『波の上にとどまる』が“足止め”と解され、出征者や家出人の帰還、恋人や配偶者の浮気防止の御利益があるとも云われます』
斎藤T『そのため、日光連山の主峰:日光三山を神体山として祀る日光二荒山神社は福の神・縁結びのご利益でも知られ、その日光三山の名が男体山・女峰山・太郎山という三人家族を思わせるのもポイントが高いです』
そう、日光二荒山神社の威徳は国家の統合や家族の安寧のために反乱や事件の発生などに待ったをかけるものであり、そのために必要な措置を神の大愛の下に講じる場所が日光/二荒山/男体山なのだ。
泰平の世を築き上げるために落ち目の豊臣家を難癖をつけて容赦なく滅ぼし、改易や参勤交代で諸大名の力を削ぎ、徳川家の下の盤石な支配体制を布いたのが江戸時代である。
なので、このまま人類が自らの過ちを改めようとせずに悲劇を繰り返すよりも先に、神々もまた涙を呑んで より犠牲が少なくなる手段を講じて 悪しき流れを断ち切ろうとして、世界に不幸をもたらすことになるだろう。
犠牲は免れない。全ては善因善果・悪因悪果・因果応報の不変の真理に基づくものであり、その裁きから逃れるために必要な教えはすでに太古から説かれ続けていながら、未だに神願成就は果たされず――――――。
そして、二荒山の神は歌う。いかにして泰平の世である江戸時代が生まれたのかを。歴史が繰り返されるのなら、良きものも繰り返されるべきであると道を示す。
織田がつき 羽柴がこねし 天下餅 すわりしままに 食うは徳川
そう、結果として最後に天下餅を食うのは私だ。私という人間はトレセン学園の歴史における暗黒期と黄金期を担った三人の無名の新人トレーナー:三賢人の最後の一人として新時代を担う定めにある。
ただ、それを導くのはウマ娘の皇祖皇霊たる三女神ではない。三女神の加護とは別にヒトの皇祖皇霊たる三貴神の加護が人類社会を次のステージへと導く。私はその2つの皇祖皇霊の系統の加護を受ける唯一の存在として“ヒトとウマ娘の統合”を後押しするのだ。
そして、私が手を下すまでもなく、天道に背いて天に唾する天邪鬼たちが次々と自滅していくのが本当の意味で暗黒期と黄金期を過去のものにして新時代を迎えるための最後の審判であり、自らの内のタヂカラオを奮い立たせて天岩戸を開けないものは永遠の闇に閉ざされる――――――。
その筋道を余す所なく一方的に伝えてくるのだから、私としては本当に『剣と惑星もの』が似合う未開の惑星に降り立った方が気分が楽だった。中途半端に人権意識と情報科学が発達した傲慢無礼な文明社会の尻拭いが一番にしんどい。
こうなったら現生人類を見捨てて百尋ノ滝の秘密基地に閉じこもってノアの方舟ごっこをしてもいいくらいで、
もちろん、神々の大愛に生きる者は生き残って本当に素晴らしい
斎藤T「――――――名は体を表す」
斎藤T「だから、この地は奥日光であり、明智平であり、いろは坂であり、中禅寺湖であり、華厳の滝であるわけか。その古い名の二荒山は観音菩薩が降臨する補陀洛山に由来する」
斎藤T「そして、その開祖は勝道上人か」
飯守T「………………」
斎藤T「飯守T、帰りましょう」
飯守T「あ、ああ……」
斎藤T「もしも――――――」
飯守T「?」
斎藤T「もしも、このままだと人類が滅亡がする確率が9割だとして、生き残ることができるのは3分だと言ったら、あなたはどうしますか?」
飯守T「……難しいな、いきなり」
斎藤T「……すみません」
飯守T「いや、訊いてくれてありがとう」
斎藤T「え」
飯守T「なぜだか昔のことを思い出したんだ。それもとても大切なことを」
飯守T「俺さ、兄弟で甲子園球児だったのはいつか言ったよな」
斎藤T「――――――躑躅ヶ崎Tですね」
飯守T「ああ。でさ、弟がエースだったんだけど、肩を壊しちゃってさ。『もう野球を続けられない!』って凄く落ち込むことになったんだけど、『ピッチャーがダメなら他のポジションだってあるから!』って無理やりグラウンドに連れ出してゼロから始め直したんだよ」
飯守T「そしたら、ピッチャー以外の才能に目覚めたし、ピッチャーとしてもクローザーで復活を果たしたし、結果として山あり谷ありの野球人生は最高のものになったんだ」
飯守T「他にもさ、ライスとの二人三脚の“最初の3年間”も山あり谷ありでドタバタしてきたよ」
飯守T「俺はただの新人トレーナーなのに同期には天才トレーナーと名門トレーナーがいて、いきなりソロで担当ウマ娘をスカウトして“最初の3年間”を始めるし、担当ウマ娘も世代の中心になると期待されるほどの才能の塊だったわけで」
飯守T「俺は1,2年は先輩のチームのところでサブトレーナーをやっていくんだと思っていたけど、同期の天才トレーナーと名門トレーナーの凄さを目の当たりにしていくうちに居ても立っても居られなくなってさ」
飯守T「それで何の実績もないのに勢いで突っ走って先輩と喧嘩別れして、冷静になってみたら『これから先、どうしよう!?』って途方に暮れていた時に、街中で会ったのがライスだった」
飯守T「そこから先は今ではファンの間では有名な話になっているけどさ、ライスは『選抜レース』から逃げ出して、俺が特別に許可をもらって学生寮に入って連れ出したんだ」
飯守T「そこから俺とライスが同期の天才トレーナーと名門トレーナーの背中を追いかけて、ライスは『自分が勝つことでキラキラと輝き、見てくれる人々に新たな希望を与えたい』って目標のために走り出す“最初の3年間”が始まったんだ」
飯守T「まあ、結果としては天才トレーナーが最初から最後までぶっちぎりではあったんだけど、こんな俺でも最初の担当ウマ娘を“グランプリウマ娘”にしてやることができたんだ」
斎藤T「そうですね」
飯守T「だから、さっきの質問の答えなんだけどさ」
飯守T「もしも、このままだと人類が滅亡がする確率が9割で、生き残ることができるのが3分だけだとするなら――――――」
――――――俺は、残りの1割に賭けて