ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
世界と己を天秤に掛けて悪魔と取引をしてしまった私はあれから未出走バ:
一応、自分で新薬を治験してから他人に投薬を迫っているという話なのだが、絶対にそんなのは嘘だ。
早速、薬品βを飲まされて大腿部がしばらく青白く発光することになり、嫌われ者であるはずの“斎藤 展望”に対して憐憫の眼差しがちらほら向けられることになった。
いや、先輩の桐生院Tやハッピーミークが一目見て事情を把握したぐらいには
“
つまり、嬉しいことに悪い意味で似た者同士に思われたらしく、『本人に聞こえるように露骨に陰口を叩く連中がいなくなる』という虫除けの効果を発揮することになった。
しかし、『これはこれで、もしもWUMAが“斎藤 展望”に擬態した時の判別に使えるかもしれない』と思ってしまう辺り、私も相当なイカレなのを自覚してしまう。
ヒトとウマ娘の遺伝子はチンパンジー以上に近いことが判明しており、だからこそ
つまり、これを応用して『怪人:ウマ女の外面は完璧な擬態が内側の遺伝子情報までも擬態させることができるか』を比較実験することができれば、
WUMAが擬態していると思しき相手にWUMAが反応しないヒトとウマ娘に無害な薬を噴射して判別するなどの具体的な対策を講じることができる。
そして、『擬態対象を抹殺して入れ替わる』という行動原理を持つWUMAの一個体が擬態した直後に、自分の実験で擬態対象が死んだと誤認したばかりに、
擬態対象の破綻しきった人格に呑まれて、自身がWUMAであることを自覚しながら、擬態対象のウマ娘の脚に秘められた可能性を追究する渇望に染められることになったのだ。
よって、“アグネス家の最高傑作”と称されるウマ娘:
これは世界のためにWUMAと戦う私にとっても朗報でもあるのだが、必要なこととは言え、自分自身が被検体にならざるを得ないことに運命の皮肉を覚えた。
一方で、定期的に投薬を受けることになった
まだウマ娘の全力と比べると大したことはないが、“斎藤 展望”の元々の素質と能力に噛み合っているのか、重量物を軽々と持ち上げて運ぶことができるようになってしまったのだ。
しかし、任意で発動できるようになった馬鹿力の反動も凄まじく、それに見合った栄養補給と休養を取らないと筋肉痛のあまりに使った筋肉が動かせなくなるのだ。
これはたしかに
こうしてデスクワークやトレーニングの指導をしている最中にできる火事場の馬鹿力を使った最小限の筋肉トレーニングで簡単に鍛えられてしまう。
もちろん、筋肉が回復しきる前に無茶をすれば簡単に身体が砕けるため、慎重に慎重を重ねて細心の注意を払って肉体改造を積み重ねていくわけなのだが、
皇宮警察の両親から受け継いた素質と元々の本人の能力がいいのか、“斎藤 展望”の肉体改造はかなり順調に進んでいっていた。
これで怪人:ウマ女と対峙した時に多少なりは力競べに持ち込んで戦いらしい戦いができる土俵に立てたかもしれない。
アグネスタキオン「タキオンとは『超光速の粒子』を意味するものだが、私が目指す果ては、更にその先にあるのさ」
斎藤T「現実にリニアモーターカーにも勝てないウマ娘が『超光速の粒子』を超えようだなんて言い切る辺り、」
斎藤T「やはり、数字とデータしか信じない論理主義者とは正反対のロマンチスト。私と同じロマンに生きる技術者かぁ……」
斎藤T「でも、今やっている肉体改造強壮剤なんてドーピングにしか見えないだろう? ありがたく使わせてもらってはいるが……」
アグネスタキオン「ああ、ドーピングほど白ける行為はない」
アグネスタキオン「私が求めるのは永続的な速さ――――――。薬は可能性を探るものに過ぎないさ」
斎藤T「そうだな。タキオンとは『常に光速よりも速く移動する粒子』だ。それに対して物質界に存在する全ては『質量を持つ全ての粒子』――――――ターディオンでしかない」
斎藤T「ターディオンがどれだけ加速しようが亜光速にしかならないのだから、ドーピングによって引き出された限界以上の速さなんてものは所詮は紛い物だ」
斎藤T「その辺りの分別がついているのに、
斎藤T「お前、脚の強化だけじゃなかったのか!? どういうことだ、これは!? 吸血鬼映画のメイクじゃないんだぞ!」ガオオオ!
斎藤T「あ、唇を噛みました……」ジーン
アグネスタキオン「いや~、まさか こんなことになるとは私も思わなかったよ……」
斎藤T「おい、こら! 『自分で治験してから他人に試している』って言っただろうが!?」
アグネスタキオン「まあまあ、それ以外に副作用があるわけでもないし、別にいいじゃないか。貴重なデータを感謝するよ」
斎藤T「こ、この……、親の顔がぜひとも見たいよ……」
アグネスタキオン「ああ、私の家族は基本的には放任主義でね。おかげで子供の頃から研究に没頭できたよ」
斎藤T「なにぃいいい!? ということはアグネス家は学者肌の名家だってのか!?」
アグネスタキオン「まあね。それと 実の家族というわけじゃないが、同部屋のアグネスデジタルもアグネス家の一員だと一目でわかるはずさ」
斎藤T「………………ハイリスク・ハイリターンだなぁ、アグネス家に取り入って宇宙船を創るのも」
アグネスタキオン’「やあ、モルモットくん――――――、こ、これは想像以上の結果だなぁ……」クククッ
斎藤T「お前も飲め! 飲んで牙を剥き出しにして口裂け女のようにマスクをして隅っこで震えていろ!」クワッ
アグネスタキオン’「いや、ちゃんと私も試してはいるんだよ?」
アグネスタキオン’「しかし、私も
アグネスタキオン「何にせよ、実験サンプルが少なすぎて、これだと『きみの方が異常』だと誤った結論を導き出しそうで私も困っているんだ」クククッ
アグネスタキオン’「さあ、きみも食べたまえ。人前で見られるのはまずいだろう、その
斎藤T「他人事だと思って…………」ムシャムシャ・・・
アグネスタキオン「いやはや、『
アグネスタキオン「こうして私の代わりに私が望むものを買い出しに行ってくれるし、周りからのお小言も聞かなくて済むのだからね!」ドヤァ!
アグネスタキオン’「次は
アグネスタキオン’「けど、こうして充実した実験データが得られているのだから、今までと比べて毎日の気分は上々だよ。感謝しているよ、モルモットくん」クククッ
斎藤T「はいはい……。そっちはとっととWUMA発見器を開発して、人類の自由と平和のために貢献してくれ」
斎藤T「……くそっ! これ、歯を削った方がいいかな? 元に戻るのか、剥き出しの牙なんて?」ムシャムシャ
アグネスタキオン’「だったら、まかせたまえ。きみのために用意していた吸入麻酔薬もあることだし、きみが気持ちよく眠っている間に人前に出られる歯並びにしてあげよう」
アグネスタキオン「それはいい。これほどまでに犬歯が発達したというのはなかなかないことだから、ぜひとも貴重なサンプルとして採取することにしよう」
斎藤T「だったら、素人がやるんじゃなくて かかりつけの歯医者を手配してくれよ、頼むから……」
――――――こんなんじゃ今の私の方がバケモノだ! とてもじゃないが、今の状態を斎藤 展望の最愛の妹:ヒノオマシには見せるわけにはいかない!
そして、ウマ娘:
私は先輩のチームの一員として普段は担当ウマ娘:ハッピーミークの指導をし、定期的な投薬と経過観察のために化学部に頻繁に足を運ぶようになったのだが、
同時にあの実験室に籠もりきりの“アンタッチャブル・タキオン”が今まで以上に頻繁に学内に出没するようにもなったことも
しかし、そうした虫除け効果によって、“斎藤 展望”の周りには良き友人たちが集まるようにもなっていた。
ハッピーミーク「おつかれさまでした、斎藤T」
桐生院T「また明日もよろしくお願いしますね」
斎藤T「はい」 ――――――マスク装着
桐生院T「あ、そうでした。この後、お時間はありますか?」
斎藤T「どうしました?」
桐生院T「いえ、この前 ミークがナリタブライアンとの模擬レースで勝ったじゃないですか。その時のお礼をしていないと思いまして」
斎藤T「あれはこれまで培ってきたハッピーミークの実力とそこまで鍛え上げた先輩の功績です。私は確実に勝てる相手と条件を選んでハンデキャップ競走を仕掛けたに過ぎません」
桐生院T「それでも、模擬レースとは言え、ミークが三冠バに勝ったことが学園中で広まったことで、私自身が一番に驚いたんですよ?」
桐生院T「担当トレーナーの私自身がミークの勝利に勇気づけられました」
桐生院T「だから、どうしてもお礼がしたくて……」
斎藤T「……それは贈り物ですか? それとも、お食事ですか?」
桐生院T「あ、お食事です」
斎藤T「すみません。今、薬の副作用で発達した牙が剥き出しなので人前で口元を見せたくはないんですよ」
桐生院T「あ、すみません……」
斎藤T「お気持ちはありがたく受け取ります」
斎藤T「あ、そうだ。才羽Tを誘ってみてはどうですか?」
桐生院T「え!?」ドキッ
斎藤T「ちょっとまっててください。才羽Tに連絡しますから」prrr...
桐生院T「あ、あわわわ……」ドキドキ・・・
ハッピーミーク「…………ファイト」フフッ
飯守T「そっか。桐生院Tが自信回復のお礼に誘ってくれたけど、今はそんな歯だから――――――」
飯守T「いやいや! 全身発光しているから! 何 光っていることが当たり前みたいになっているんだよ!?」
斎藤T「あ、たしかに……。無害だから気にもしなくなってたけど……」
飯守T「お前、トレセン学園じゃあ毎月のように噂になっているから、これでまたお前の伝説が刻まれることになるんだな……」
斎藤T「こちらとしてはトレセン学園のトレーナーになってからも真面目一筋で通しているんですけどねぇ……」
斎藤T「お、そろそろ湯豆腐ができあがるかな? それじゃあ、はい」スッ
飯守T「お、サンキューな」
飯守T「おお、美味い! さすがは才羽Tがよこしてくれた出汁と豆腐だ!」ハフハフ・・・
斎藤T「本当だ! いいな、これ!」ハフハフ・・・
斎藤T「でも、よかったんですか、ライスシャワーに食べさせなくて?」
飯守T「ああ、いいんだ。今日はブルボンと一緒にお出かけしているから」
斎藤T「仲が良くて何よりです」
ゴールドシップ「そうだぜ、仲が良いってのは善き哉 善き哉。へい、あんちゃん、豆腐 おかわり。いやー、こいつは絶品ですなぁ」ハフハフ・・・
斎藤T「…………誰だ、こいつ?」ジロッ
ゴールドシップ「おいおい、そんな薄情なことを言わんといてくれよ、大将!」バンバン!
ゴールドシップ「このアタシのことを忘れちまったとは言わせねえぜ?」キリッ
飯守T「ああ、ゴールドシップか。まったくお前はいつも自分中心だな……」ヤレヤレ
斎藤T「……担当トレーナーとつるんで行動していないってことは古バですか? ここはトレーナー寮なんですけど?」
ゴールドシップ「や~ん! 女の子に対して年齢を訊くのは失礼よ!」ウフッ
斎藤T「…………何だ、こいつ?」イラッ
ゴールドシップ「まあまあ、気にしなさんなって。アタシと一緒に同じ釜の飯を食った仲じゃないかよ」シレッ
ゴールドシップ「あ? あの時は流しそうめんだったか? まあ いっか」ケロッ
飯守T「えらく気に入られてんな、斎藤T?」
斎藤T「言葉を交わしたのはこれで二度目なんですが……」
ゴールドシップ「大丈夫だ。考えるな、感じるんだ」
斎藤T「…………まあ いいけど」
斎藤T「ほら、どうぞ」
ゴールドシップ「おお! 太っ腹! さすがだぜ!」
斎藤T「どうせ、何を言ったって聞きやしないんでしょう? そういう手合との付き合いは慣れてますから」
ゴールドシップ「へへ、それがゴルシちゃんの魅力ってやつだからな!」
ゴールドシップ「けど、本当にいたんだな、“緑色の皮膚で牙が剥き出しの生き物”って……」ジー
ゴールドシップ「へえ、
斎藤T「ん?」
飯守T「ふぅー! 食った食ったー! 最高の湯豆腐だったぜぇ!」
ゴールドシップ「えへへ、今日も美味しいものをいただけたことに神に感謝 感謝ぁ……」ウットリ・・・
斎藤T「ええ、素晴らしき出汁と豆腐をくださった才羽Tにも改めて感謝を」
ゴールドシップ「なあ、アンタ、名前は何て言ったっけか?」
飯守T「おいおい、ある意味において学園で今一番の有名人の名前も知らないで湯豆腐を食べてたのかよ、お前は……」
斎藤T「――――――“
ゴールドシップ「ふーん」スッ
斎藤T「?」
ゴールドシップ「えい」プニッ
斎藤T「うあっ?」 ――――――ゴールドシップにほっぺたをぷにぷにされる!
ゴールドシップ「ホントだ。
斎藤T「????」
飯守T「お前、何やってんだよ?」
ゴールドシップ「だってよ、“もっちー”なんだぜ? アタシは“大福”なのに。あ、マックイーンは“饅頭”なんだけどな。これ、豆知識な」
飯守T「言っている意味がさっぱりわかんないけど、お前が斎藤Tのことが大のお気に入りだってのはわかった」
斎藤T「で、結局 誰なんですか、この人は?」
ゴールドシップ「そりゃあ、お前、ゴールドシップ様はゴールドシップ様なんだぜ? それ以上でもそれ以下でもない。こんなの 常識だぜ」
斎藤T「高等部なんですよね?」
飯守T「ああ、少なくとも2年前に俺たちがトレセン学園のトレーナーになる前からいたから、それは間違いないぜ」
飯守T「そう言えば、ゴールドシップもマックイーンと仲が良かったから――――――、もう間もなくの『天皇賞(秋)』に間に合うといいな……」
斎藤T「そうですね。それかまたは『URAファイナルズ』でメジロ家の令嬢としての意地を――――――」
斎藤T「…………?」
斎藤T「――――――何だ、今の違和感は?」
ゴールドシップ「それじゃあ、大福 食おうぜ。アタシはイチゴ大福な」ドン! ――――――山盛りのフルーツ大福!
飯守T「お、悪いな。それじゃあ、お言葉に甘えて――――――あ、ライスの分ももらってもいいかな?」
ゴールドシップ「いいぜ。あ、マックイーンだったらメロン大福が好きそうだな」
ゴールドシップ「ほら、喰えよ、もっちーも。あ、これって共食いじゃね?」
斎藤T「あ、ああ……」
斎藤T「でも、悪い意味で有名人の私なんかと一緒にいたら、あなたの評判が悪くなるのでは?」
斎藤T「そう言えば、誰が担当トレーナーだったんです?」
ゴールドシップ「――――――アタシの担当トレーナーか? それはアタシの心の中さ」キリッ
斎藤T「ああ、そうですか――――――」
飯守T「あんまり真面目に考えない方がいいぜ。ただでさえ、タキオンなんていう厄介なやつに目をつけられているんだしさ」
飯守T「困ったら俺が力になるから、また一緒に晩飯にしようぜ」
斎藤T「あ、ありがとうございます――――――」
斎藤T「……え?」
――――――何だ、この感覚?
ゴールドシップ「そんじゃ、ごっそさん! またごちそうになってやるから、ちゃんと準備しておけー!」
ゴールドシップ「以上、ゴルシちゃんの突撃生中継でした!」タッタッタッタッタ!
飯守T「……それじゃあ、今日は誘ってくれて ありがとな、斎藤T」
斎藤T「いえ、本当は桐生院Tとお食事する予定でしたけど、今こんな見た目なので代わりに才羽Tに行かせてしまったわけでして……」
斎藤T「本当は才羽Tが食べようと思って用意していた出汁と豆腐を譲り受ける形になってしまいました……」
斎藤T「本当に才羽Tに感謝しかありません……」
飯守T「そうだな。今日はライスもブルボンと仲良くお出かけで一人だったから、俺としてもちょうどよかったよ」
飯守T「まあ、何にせよ、お前は俺やライスだけじゃなくトレセン学園のみんなの命の恩人なんだ。それを知る人間が限られていたとしても」
飯守T「だから、本当に危なくなったら、両親に頭を下げてでもお前のことを守るから、あんまりひとりで抱え込まないでくれよ、後輩」
斎藤T「はい、先輩」
斎藤T「……今月の『天皇賞(秋)』、来月の『ジャパンカップ』、師走の『有馬記念』か」
斎藤T「そして、『有馬記念』のすぐ後に年の瀬の『URAファイナルズ』が開催される――――――」
斎藤T「さて、先輩の担当ウマ娘:ハッピーミークを勝たせるのが今の私の役目」
斎藤T「それと同時並行して、地球の平和を守り、人類の未来を切り拓かなくちゃいけないな」
斎藤T「いいぞ、この追い詰められた感じ。波動エンジンの開発に心血を注いで昼も夜もない日々を思い出す――――――」
――――――ここからがトレセン学園の熱い冬の始まりだ!