ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第9話   天皇賞(秋)のメビウスの輪を越えて

-西暦20XX年10月28日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

――――――いよいよ、この時が来た。

 

G1レース『天皇賞(秋)』はシニア級:3年目以上のウマ娘(外国産バ・外国バを含む)による芝・2000mの重賞競走であり、

 

昔は芝・3200mだったそうなのだが、現在では『中距離の最強ウマ娘決定戦』という位置づけであり、世界的にも高い評価を得ているG1レースとなっている。

 

また、開催時期も昔は11月下旬だったのだが、同じシニア級G1レース『ジャパンカップ』との兼ね合いを考慮して10月下旬の開催が定着している。

 

そして、10月の『天皇賞(秋)』、11月の『ジャパンカップ』、12月の『有馬記念』を三連覇したウマ娘は“秋シニア三冠ウマ娘”として表彰されることになる。

 

実は、秋川理事長体制下のトレセン学園の黄金期の象徴;今も最強と名高い生徒会長:シンボリルドルフは“クラシック三冠ウマ娘”を達成して更にG1勝利を重ねて“七冠ウマ娘”として君臨していたものの、

 

どうも“秋シニア三冠ウマ娘”とは縁がないらしく、『有馬記念』には勝ち続けたが、現役時代の三度の敗北が国内の『天皇賞(秋)』『ジャパンカップ』とアメリカ遠征の『サンルイレイステークス』となっていた。

 

名鑑を見ると“秋シニア三冠ウマ娘”の称号を勝ち取ったウマ娘はテイエムオペラオーとゼンノロブロイだけというのを見るに、

 

クラシック三冠ウマ娘が“世代最強”を決めるのに対し、秋シニア三冠ウマ娘は“現役最強”を決めるものという位置づけなので、やはりシニア級の方が強いという印象は正しかったようだ。

 

一方、“秋シニア三冠ウマ娘”に対する“春シニア三冠ウマ娘”も存在しているが、3月の『大阪杯』、4月の『天皇賞(春)』、6月の『宝塚記念』がそれに該当するのだが、

 

実は“春シニア三冠ウマ娘”は新しく創設されたもののためか、達成したウマ娘がまだいないというのだ。

 

それなら、初代“春シニア三冠ウマ娘”を目指して歴史に名を刻むチャンスも誰もが狙いそうなものだが、距離適性の幅が“秋シニア”よりも大きすぎることもあり、不人気なんだとか。

 

 

さて、今回の『天皇賞(秋)』で注目を集めているのは、“最強の長距離ウマ娘(ステイヤー)”と名高い『名家』メジロ家の令嬢:メジロマックイーンである。悪い意味で。

 

 

実は、今年の『天皇賞(春)』で飯守Tのライスシャワーを破り、見事 メジロ家三代による三連覇を成し遂げたものの、

 

『宝塚記念』でライスシャワーにリベンジされた後、競走バにとっては不治の病とも言える繋靱帯炎に発症しており、『引退も致し方なし』という見方がなされていた。

 

しかし、ベッドの上でおとなしく死ぬか、ターフの上で華々しく死ぬかの二択が迫られた結果、

 

メジロ家の意地を見せつけて10月前半のG2レース『京都大賞典』でコースレコードを大きく更新して優勝を果たすこととなった。

 

そう、今回の『天皇賞(秋)』には間を置かずの連続出走というわけであり、当然ながら もう二度と走れなくなってもいいという覚悟の表れである。

 

そのため、今のメジロマックイーンはこのバ場で事切れることも厭わない捨て身となっており、決死の思いでメジロ家の悲願である『天皇賞(秋)』に挑んでいたのだ。

 

 

もう見てられない――――――。今や悲劇の主役を務める“名優”に同情や応援が集まって圧倒的一番人気だが、葬式への参列みたいな異様な雰囲気がバ場に覆っていた。

 

 

その雰囲気に私も圧倒され、『ウマ娘にとって 走ることは幸せであり 喜びである』ということを理解することができた。

 

しかし、同情はするが、容赦はしない――――――。

 

ここは戦場、『天皇賞(秋)』に参加した優駿たちは むしろ このバ場で引導を渡して悲劇を完成させてやろうと闘志をみなぎらせることとなった。

 

サブトレーナーとして私が先輩と一緒に担当しているハッピーミークも自分を見出して自分のためを思って行動してくれている桐生院Tのためにも負けられない。

 

ついでに言えば、模擬レースとは言え、“三冠ウマ娘”ナリタブライアンに勝たせてくれた公式戦未経験の私に初めての公式戦でG1勝利を捧げたいという強い思いを聞かせてもらった。

 

 

これが己のプライドと大金を賭けた者たちの真剣勝負ということなのか――――――。

 

 

初めて間近に体験する剥き出しになっていくウマ娘たちの闘争本能に恐れ慄きながらも、私は応援に駆けつけてくれていた妹:ヒノオマシや藤原さんたちに手を振った。

 

なお、去年のクラシック三冠ウマ娘である才羽Tのミホノブルボンは『天皇賞(秋)』には参加せずに、日本初の国際G1レース『ジャパンカップ』に向けたトレーニングをするようになっていた。

 

一方、飯守Tとライスシャワーは『有馬記念』と『URAファイナルズ』に狙いを絞ってトレーニングを重ねている。

 

そして、友人でもあるメジロマックイーンの最後となるかもしれないレース――――――、新人トレーナー:斎藤 展望にとっての初の公式戦を観戦しに駆けつけてくれていた。

 

 

初めてウマ娘のトレーナーとして参加する公式戦――――――、

 

日本全国で夢を追いかけている競走バたちにとっては永遠の憧れの舞台であるG1レース――――――、

 

それが皇宮警察の息子である“斎藤 展望”にとって強い縁を感じる『天皇賞(秋)』――――――、

 

そして、悲劇の主役となった“名優”メジロマックイーンの最後の上演――――――。

 

こうして、私の人生で忘れらない長い長い一日となったのだ。

 

 

――――――そう、何度も繰り返されるメビウスの輪を抜け出すための長い長い一日へと。

 

 


 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 

斎藤T「ダメだ! メジロマックイーンを今すぐに棄権させてくれ! 本当に死んでしまうぞ!」

 

 

斎藤T「ダメだああああああああああ!」

 

 

斎藤T「あ――――――」

 

 

斎藤T「あ、ああ…………」

 

 

斎藤T「また阻止できなかった、か……」

 

―――

――――――

―――――――――

――――――――――――

 

 

斎藤T「ハッ」

 

桐生院T「大丈夫ですか、斎藤T!?」

 

斎藤T「あ……」

 

斎藤T「また ここから――――――」

 

桐生院T「東京競バ場に到着しましたけど、気分が悪いようなら――――――」

 

斎藤T「い、いえ……、大丈夫です」

 

桐生院T「何か心配事があるんですか? 話してください、斎藤T」

 

 

斎藤T「…………メジロマックイーンがターフの上で力尽きる光景を何度も見ました」

 

 

斎藤T「私はそれを阻止しようと何度も試みたのですが、私は 何回 悲劇が完成されるのを見続ければならないんですか……?」

 

桐生院T「え……」

 

斎藤T「お願いです! メジロマックイーンを棄権させてください! 選手生命どころか、生命活動すら絶たれてしまいます!」

 

斎藤T「そうなったら『トゥインクル・シリーズ』史上最大の不祥事ということで、『URAファイナルズ』は開催どころじゃなくなります!」

 

桐生院T「あ、あの……」

 

斎藤T「どうしたらいいんだ……!?」

 

斎藤T「メジロマックイーンに棄権を迫ってもダメ! 主催者を脅してもダメ! レースそのものを妨害しても張り詰めた糸が切れるからダメ!」

 

斎藤T「とにかく、メジロマックイーンはもう生きていないんです! メジロ家の悲願である『天皇賞』への執念だけで身体を動かしている状態なんです!」

 

 

桐生院T「…………斎藤T、今日はもう休んだ方がいいと思います」

 

 

斎藤T「…………っ!」

 

斎藤T「……わかりました。ハッピーミークにはうまいこと誤魔化しておいてください」

 

桐生院T「あの、どこへ?」

 

斎藤T「少し頭を冷やしてきます。今の状態だと敏いハッピーミークが動揺するでしょうから……」

 

 

――――――なんで!? どうして!? なんで私だけ時間が巻き戻されるんだ!?

 

 

斎藤T「リスタート地点は東京競バ場に先輩と一緒に到着した時……」

 

斎藤T「ハッピーミークはすでにレース前日から競バ場の調整ルームに入っている……」

 

斎藤T「同じように他の出走バも みんな そこに入っているわけだから、」

 

斎藤T「最初はメジロマックイーン本人に棄権するように迫ったけれど、『ターフの上で死ぬなら本望』と言い放った彼女の説得はできなかった……」 ※2周目

 

斎藤T「次に、主催者を脅してメジロマックイーンの出走取消をやらせようとしたけど、私はその場で取り押さえられて、結局――――――」 ※3周目

 

斎藤T「ならばと思い、今度は競バ場の破壊工作(サボタージュ)でレースそのものを妨害したら、それでメジロマックイーンは――――――」 ※4周目

 

斎藤T「そうしてわかった、メジロマックイーンの状態――――――」

 

斎藤T「どうしたらいいんだ? 『せめて、力尽きるならレースが終わった後にしてくれ』なんてのはひとでなしの言うことか……」 ※現在5周目

 

 

斎藤T「つまり、すでに死んでいるメジロマックイーンを生き返らせる“何か”が必要と言うわけなんだな……」

 

 

斎藤T「……あと 何回 繰り返せる?」

 

斎藤T「いや、あと 何回 繰り返される?」

 

斎藤T「ふざけるな! 担当ウマ娘でもないのに、どうしてここまで他人が必死にならなくちゃならないんだよ!」

 

斎藤T「――――――『ターフの上で死ぬなら本望』?」

 

斎藤T「なら、勝手に死んでいろ! 野垂れ死ね! 人様に迷惑を掛けたことをあの世で詫びろ!」

 

斎藤T「ターフの上のライバルたちだって、お前に引導を渡してやろうと手加減無しで挑んできているんだから、おとなしく成仏しやがれ! 私を巻き込むな!」

 

斎藤T「私は 何回 同じ光景を見続ければいいんだよ!? もう5周目だぞ!?」

 

斎藤T「くそっ! 馬鹿馬鹿しい!」

 

斎藤T「いっそ、先輩に勧められたとおりに競バ場から去るのもありか?」

 

斎藤T「ああ、そうしよう。何をしようが時が繰り返されるんだったら、繰り返される時を有意義に使おうか」

 

 

 

 

 

斎藤T「………………ハア」

 

斎藤T「競バ場から逃げてもダメだった……」 ※5周目

 

斎藤T「そこから開き直って、同じ府中市だからトレセン学園まで出戻りして全力でリラックスした状態で時間切れを迎えて――――――」 ※6周目

 

斎藤T「そうしてスッキリした気分で何が起きるか全てわかった状態でハッピーミークを見守って――――――」 ※7周目

 

斎藤T「周囲の雰囲気に流されて 再びメジロマックイーンを救うためにどうしたらいいのかを考えて 注意深くレースを見直して――――――」 ※8周目

 

斎藤T「万策尽きてゴールドシップと一緒に一生懸命にメジロマックイーンの無事を念じてはみたものの――――――」 ※9周目

 

斎藤T「もうね。レース展開がわかるから、実力十分のハッピーミークが勝利するのは確定になったけど、何度もメジロマックイーンが死ぬ展開を見続けるのも飽きてきたよ――――――」 ※現在10周目

 

斎藤T「……どうしたもんかなぁ? この状況っていったい何なんだろうね?」

 

斎藤T「リスタート地点は東京競バ場に着いた時で、メジロマックイーンの死亡が報じられて世間が葬式ムードに包まれた瞬間に巻き戻される――――――」

 

斎藤T「せめて、東京競バ場に出発する30分前がリスタート地点だったら、いろいろと準備もしやすかったのにな……」

 

斎藤T「え? 改めて考えると、『死人が出走している』ってどういう状況よ!? それがウマ娘の闘争本能の極致だとでも言うのか!?」

 

斎藤T「あれか? 三女神像の迷信にあるような『トゥインクル・シリーズ』の亡霊に突き動かされているみたいな――――――?」

 

 

ゴールドシップ「よう、こんなところで何してんだよ、野良トレーナー?」

 

 

斎藤T「……なぜここにいる? この時間は本バ場入場のファンファーレが鳴り響いているぞ? 観客席にいなくていいのか?」

 

ゴールドシップ「はあ? このゴールドシップ様が一分一秒でもつまんねぇことをするわけないだろうがよ?」

 

斎藤T「メジロマックイーンが大好きなお前がメジロマックイーンが出走する最後のレースを見ないってのか?」

 

ゴールドシップ「結果がわかりきったレースに意味なんてないだろう?」

 

 

ゴールドシップ「勝つのはあんたから勇気をもらったミークで、死ぬのはマックイーンだよ。何度やったってそれは決まっている」

 

 

斎藤T「……勝負はやってみないとわからないもんだろう?」

 

ゴールドシップ「いいや。勝負の世界じゃなくったって『段取り八分』だろう、世の中って」

 

ゴールドシップ「そもそも、マックイーンはこの前の『京都大賞典』で全部を吐き出しちまってよ。そんで、もう自分が死に体なのはわかって あの場に立っているんだしさ」

 

斎藤T「そこまでわかっていて、お前は友人として出走を止めなかったのか?」

 

ゴールドシップ「アタシじゃダメなんだよ……」

 

斎藤T「なら、親御さんに止めさせるよう――――――、いや、もうファンファーレは鳴ってしまったか……」

 

 

ゴールドシップ「あ、言っとくけど、メジロ家はこの出走に関しては肯定も否定もしない黙認の立場だから、そこんところ よろしく」

 

 

斎藤T「は?」

 

斎藤T「メジロ家にとって『天皇賞』は悲願なんだろう? 絶対なんだろう?」

 

ゴールドシップ「おいおい、あんたは血も涙もない鬼かよ?」

 

ゴールドシップ「もうマックイーンは『天皇賞(春)』でメジロ家三代による三連覇を達成してんじゃん」

 

ゴールドシップ「だったら、メジロ家の次代のために、あとは『名家』としての()()()を視野に入れればいいだろう?」

 

ゴールドシップ「そもそも、『京都大賞典』で勝利した時点でメジロ家の意地は世間様に見せつけられたし」

 

斎藤T「………………?」

 

 

斎藤T「それはつまり、今回の出走は『メジロ家の意地』じゃない……?」

 

 

ゴールドシップ「……そうだよ」

 

斎藤T「…………私にそれを教えてどうする? 個人的な事情に首を突っ込むなんて野暮じゃないのか?」

 

ゴールドシップ「バカヤロー!」

 

斎藤T「ぐおっ!?」ドゴォ!

 

ゴールドシップ「アメンボから人間まで、地球上のあらゆる生き物を守るんじゃなかったのか!」ポタポタ・・・

 

ゴールドシップ「あんたがそんなでっかい奴だからこそ、アタシはあんたに賭けてみたいと思ったんだぞ!」グスン・・・

 

斎藤T「い、いったい何を………………」

 

ゴールドシップ「探すんだよ、誰も捜そうとしない本当の宝を! 熱く燃える大切なものをよ!」

 

 

 

――――――ゴルシちゃんと約束だ!

 

 

 

斎藤T「くそっ! 無茶苦茶 言いやがって、あいつ……!」 ※現在11周目

 

斎藤T「あ、気づいたけど、ゴールドシップに殴られた痛みも時間が戻ればなくなるか……」

 

斎藤T「いや、当然か。何をそんな当たり前のことを――――――」

 

斎藤T「……待てよ? メジロ家としてはもうメジロマックイーンの出走に関して黙認しているんだろう?」

 

斎藤T「その本音としては、もう引退しても誰も文句なんて言わないし、これ以上の無茶はさせたくない――――――」

 

斎藤T「だったら、今のメジロマックイーンは何のために死んだ状態になってまで走り続けているんだ?」

 

斎藤T「家族が止めないなら、真っ先に指導している担当トレーナーの責任問題――――――」

 

斎藤T「あ!?」

 

 

――――――メジロマックイーンの担当トレーナーはいったいどこにいるんだ!?

 

 

斎藤T「一番はこいつだろう!? 担当トレーナーが出走の手続きをするんだから――――――」prrr...

 

斎藤T「生徒会長! メジロマックイーンの担当トレーナーと連絡がしたい! 可能な限りの情報をください!」

 

斎藤T「このままだとメジロマックイーンはターフの上で死にますよ!?」

 

斎藤T「――――――じゃあ、そうなったら絶対に情報をください。私がその和田Tを引き摺ってでも記者会見の場に連れてきますので」

 

斎藤T「それでは」ピッ

 

 

斎藤T「…………なんでこんな初歩的なことに気づけなかったんだ!?」ガン!

 

 

斎藤T「思い出せ……、名前は知らなかったけど顔は知っていたメジロマックイーンの担当トレーナーは間違いなくバ場にいたはずだ……」

 

斎藤T「誰に訊けばいい? 才羽Tと飯守Tを頼ってみるか?」

 

斎藤T「いや、事情を聞いたからってどうなる? 真相を知ったから何になるっていうんだ? メジロマックイーンはもう――――――」

 

 

――――――けど、やれることがある以上は試さないと気がすまないのが技術者の性ってもんよ!

 

 

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