ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第9話秘録 壊れた目覚まし時計 

-シークレットファイル 20XX/10/28- GAUMA SAIOH

 

――――――()()()()()は終わった。

 

結論から言うと、メジロマックイーンの担当トレーナーである和田Tが私が囚われることになった今日一日が繰り返される時間を創り出した張本人であり、

 

担当ウマ娘と担当トレーナーが『一心同体』であることに固執して、傍迷惑なことに 担当ウマ娘はターフの上で、担当トレーナーは入水自殺で同時に死ぬ決心をしていたのだ。

 

11周目の終わりで生徒会長から和田Tの個人情報を引っ張り出した後は、和田Tがどこにいるのかを府中市のあっちこっちを虱潰しに探し回った。

 

12周目からは、担当ウマ娘の最期のレースを見届けようとしないことに異常を知らせたことで、和田Tと交友関係のある才羽Tと飯守Tの協力も得ることができた。

 

それで、睡眠薬を飲んで多摩川に愛車を突っ込ませて入水自殺をしようとしていた和田Tを見つけ出して、彼にメジロマックイーンに生きるように言わせることが正解だった。

 

それが果たされることで、ターフの上で自分は担当トレーナーと心中するのだと思いこんでいたメジロマックイーンは初めて生き永らえることができたのだ。

 

記憶違いでなければ21周目で、こうして新しい2人の人生の門出を祝うことになったわけなのだが、

 

それまでは和田Tも記憶を引き継いでいるので、私から逃げるために府中市内を駆け回ることになり、

 

結果として芝・2000mを走るハッピーミーク以上の途方も無いレースを私は走り続けることになった。

 

そうして繰り返される時間の中で私は引き出しを増やし続けることになった。

 

時には才羽Tと飯守Tの協力を仰ぎ、時にはシンボリ家やアグネス家などの『名家』に働きかけ、時にはトレーナー組合を脅して『名門』を動かし、時には警察関係者に頼らせてもらった。

 

ありとあらゆるコネを駆使して 何周も追い回しては、時が巻き戻されるのを経験していくうちに、先に音を上げたのが和田Tだったという話である。

 

その間に20回も担当ウマ娘が死を繰り返しているという罪悪感から和田Tを立ち直らせるのには本当に手間がかかった。

 

しかし、引退したウマ娘の進路がどういったものがあるのかをこっちの方で調べ上げて、新たな夢を見させてあげることで ようやく和田Tは明日を迎える決心ができた。

 

そうして迎えた21周目、和田Tは最初と同じように東京競バ場に向かい、出走前の担当ウマ娘に一緒に明日を生きて欲しいことを願い、ケーキフェスティバルに一緒に行くことを約束した。

 

そして、結果は絶好調のハッピーミークの『天皇賞(秋)』制覇。メジロマックイーンは5着となり、この場で引退を宣言することとなった。

 

繋靱帯炎という不治の病に冒されながらも最後まで掲示板を外さないというメジロマックイーンの不屈の敢闘は人々の記憶に永遠に語り継がれる一幕となった。

 

観衆が万雷の喝采で彼女を称える中、私は万感の思いで先輩とハッピーミークで勝利を分かち合い、ウイニングライブを迎えたのであった。

 

 

――――――以上、ざっとまとめるとこんな感じなのだが、およそ半日での出来事が20回も繰り返されたので 実質的に私は10日も歳をとった気分である。

 

 

しかし、『精神は肉体を凌駕する』――――――、思い込みで自分の心臓を止められるとはウマ娘の闘争本能は凄まじいものがあったと言える。

 

よくよく考えれば、メジロマックイーンが発症した繋靱帯炎は不治の病ではあるものの、死に直結する病ではなかったのだから、

 

『病は気から』――――――、G2レース『京都大賞典』でメジロ家の意地を見せていた2人にはその後の人生だってあって然るべきなのだが、

 

どうやら、将来有望だった若い男女の間にはそこから先のレースにかける夢があり、

 

その夢が繋靱帯炎の発症によって絶たれてしまったことにより、生きる希望を失ってしまったのが原因だった。

 

いやいや、『天皇賞(春)』を獲ってメジロ家三代による三連覇を果たして、『名家』メジロ家の面目も保てたというのに――――――。

 

G1参戦すら程遠い凡百のウマ娘が観客席で、テレビの前で、パブリックビューイングで目を輝かせながら見ている夢の舞台の上でウイニングライブで歌って踊って輝いておいて何を言うのか――――――。

 

 

けれども、そういうことじゃないのは私が必死に何度も和田Tをクルマから引き摺り出して説得していくうちに理解できていった。

 

 

単純に人生経験が少ない若すぎる2人の男女にとっては、そこから先の人生の展望が描けなかったのだ。

 

2人にはトレセン学園のトレーナーであることとスターウマ娘であることの生き方しか知らなかった故の若き日の過ちであった。

 

あるいは、若すぎる2人の男女の未来を導く良き大人に恵まれなかった結果とも言える――――――。

 

メジロマックイーンは気を抜くと体重が増える体質を自覚しながらも本当は甘いものが大好きで野球観戦が趣味なお茶目な女の子であったが、

 

2人の馴れ初め話を聞く限り、誰もが才能が認める“最強の長距離ウマ娘(ステイヤー)”にしてメジロ家の誉れを背負って走る重圧は凄まじく、

 

そして、そんな彼女のそういったところを見て肯定してくれる和田Tが公私共に良きパートナーになるのは自然な成り行きだった。

 

しかし、和田Tは、”斎藤 展望”よりはマシではあるが、ベテランと呼べるような実績を持たない無名の若手トレーナーであり、

 

そんな無名の若手トレーナーが『名門』メジロ家の令嬢の担当トレーナーになったことを妬む声に常に苛まれてきていたことを告白してくれた。

 

言うなれば、これは身分差別であり、23世紀の人間からすると実力主義と言われているはずのスポーツ界隈でこんなことが普通に行われていることに反吐が出そうになった。

 

まあ、後になって”斎藤展望”が皇宮警察の息子であることを知った途端に陰口を叩いていた連中がこちらと目を合わせないように一斉に顔を背けるぐらいには権威主義が蔓延っていたか。

 

やはり、伝統と格式のあるウマ娘レースではあるものの、旧態依然としたところがあるのを 2人の男女の駆け落ちの延長線にある心中に巻き込まれて 私は嫌というほど理解させられることになった。

 

 

そして、担当トレーナーと担当ウマ娘の熱愛は決して肯定されるものではない――――――。

 

 

トレセン学園がれっきとした中高一貫校なのだから、言うなれば競走バたちは女子中学生と女子高生なので、

 

手を出したが最後――――――、性犯罪者としての逮捕も当然の不純異性交遊にしかならない。

 

しかし、トレーナーという労働者にとっては 担当ウマ娘との契約が切れれば 次の担当ウマ娘を探せばいいだけの話だが、

 

走ることが大好きなウマ娘にとっては一生に一度しかない人生で最も輝ける時期で苦楽を共にしたトレーナーとの別れをそう簡単に割り切れるものじゃない。

 

そのため、ウマ娘のその闘争本能故に特有の興奮状態に『かかる』ことが多く、ヒトよりも遥かに強大な身体能力を有する存在が我を忘れて暴走した時の被害も尋常ではない。

 

まさに『恋はダービー』というわけで、一応は担当トレーナーと担当ウマ娘の不純異性交遊は暗黙の了解として情状酌量が大きく認められているようである。

 

この辺りは社会的な立場や年齢の問題もあるのだが、ヒトとウマ娘の2つの種族の間にある人生観や生態のちがいが顕著に現れたところだと言える。

 

 

このように担当トレーナーと担当ウマ娘が上手に付き合う――――――、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に適切な対処を取らせるのが極めて難しいことを今回の心中未遂事件は物語る。

 

 

いや、『ウマ娘のトレーナーに求められているのはそんなのではない!』と、どうせ時間が巻き戻れば傷も痛みもなくなることを踏まえて 私は和田Tをクルマから引き摺り出してボコボコにしながら言い聞かせたものだ。

 

それで私が思い出していたのは、先輩が最初に教えてくれたレースの後にウイニングライブをする意義と歴史、それをおざなりにするトレーナーが多いという話であったのだから。

 

だいたい、ウイニングライブを疎かにする者は新聞で笑い者にされ、生徒会長から直々にお叱りを受けるぐらい競走バとして恥晒しな振舞いなのだ。

 

つまり、『ターフの上で死ぬ』だなんて世迷い言はウマ娘レースの勝者となった者の義務と責任を放棄したものであり、決して称賛されるものではない。

 

この場合、『ステージの上で死ぬ』なら使っていい――――――。

 

いや、レースが原因で死ぬこと自体がそもそも良くないことなのだが、ウイニングライブを軽視する不見識さは同じくトレーナーバッジをつけている者として正さなくてはいけなかった。

 

 

そう、ここで浮き彫りになったのが『名家』も『名門』もウイニングライブを絶対視していない――――――、内心では鬱陶しい格式とすら思っていたことなのだ。

 

 

そうじゃなかったら、『名家』メジロ家の令嬢ともあろうウマ娘がレース後のウイニングライブを完遂することを考えないでターフの上で死のうとする発想に繋がるわけがない。

 

その担当トレーナーでさえ ターフの上で死なせようと考えるあまりに ウイニングライブのことを度外視しているのだから、並み居る『名門』たちに打ち勝ってきたG1ウマ娘のトレーナーのやることには思えない。

 

もちろん、20回も見ず知らずの他人のために一日をやり直しさせられてきたストレスもあるのだが、

 

いかに生徒会長:シンボリルドルフが掲げる理想が現実と掛け離れているのかを痛感する事件であった。

 

 

――――――大道廃れて仁義あり(現実がクソだからこそ理想が声高に叫ばれるのは、理想が声高に叫ばれる必要があるぐらいに現実はクソだから)。

 

 

また、ウイニングライブは基本的には1着になったウマ娘がセンター、2着と3着が両サイドという編成で行われるものとなっている。

 

後者からすれば1着に届かなかった悔しさを噛み締めながらも笑顔で歌わねばならないというハードな一面もあり、その心理的な負担や脇役パート習得の苦労も半端ではない。

 

当然、舞台の袖で担当ウマ娘がセンターになれなかったことを人知れず涙を流して死ぬほど悔しがるトレーナーだっていっぱいいたはずなのだ。

 

しかし、それが国民的スポーツ・エンターテインメント『トゥインクル・シリーズ』という夢の舞台であり、誰もが憧れて手を伸ばし続ける場所であった。

 

 

――――――これは近い将来、ウイニングライブの伝統が消滅するかもしれないな。

 

 


 

 

――――――トレセン学園 部活棟 化学実験室

 

斎藤T「…………ただいま」

 

アグネスタキオン「おや、おかえり、トレーナーくん(モルモットくん)

 

アグネスタキオン’「どうだった、初めての公式戦;それもG1レースの感想は?」

 

斎藤T「ハッピーミークは勝ったよ。メジロマックイーンは5着でその場で引退だ」

 

アグネスタキオン「それはおめでとう。きみのサブトレーナーとしての輝かしい実績だね」

 

斎藤T「ほら、受け取ってくれ、2人共」コトッ

 

アグネスタキオン’「うん? いったい何だい、これは? きみの初勝利祝いのお裾分けかい?」

 

斎藤T「いや、今回の勝利はアグネス家の助けもあったから、お礼をしておかなくちゃと思って」

 

アグネスタキオン「いったい何の話だい? きみは ハッピーミークが府中競バ場で走るのを見て ウイニングライブするのを見届けるだけの簡単なお仕事だったんだろう?」

 

 

斎藤T「…………憶えているわけないか」ボソッ

 

 

斎藤T「ま、日頃の感謝といったところかな? あるいは、初勝利祝いの喜びをわかちあうってのは嘘っぽいか?」

 

アグネスタキオン「まあ、なんだっていいさ。きみが選ぶものに間違いはないしね。ありがたくもらっておくとしよう」

 

アグネスタキオン’「ところで、その“目覚まし時計”はいったい何だい? それも私への贈り物かい? 残念だが 使うことはないだろうけど」

 

斎藤T「これか?」

 

 

――――――世にも不思議な()()()()()()目覚まし時計だよ?

 

 

アグネスタキオン「……おや、きみがそういう冗談を言う人間だとは思わなかったよ」

 

斎藤T「信じなくたっていいさ。ただ、こいつの分解のために立ち寄ったってだけで」

 

アグネスタキオン’「だが、ただの目覚まし時計にしか見えないからこそ、俄然 興味が湧いてきたぞ」

 

アグネスタキオン’「話してみたまえ、その都市伝説について」

 

斎藤T「ああ。このゼンマイ式の目覚まし時計が持つ摩訶不思議な力に振り回された哀れなウマ娘のトレーナーの話を聞かせてあげよう」

 

斎藤T「あ、話が長くなるし、秋の夜長を語り明かすことになるぞ。心の準備はしておけ」

 

斎藤T「では――――――」

 

 

 

あるところに、トレセン学園の無名の若手トレーナーがいたんだとさ。

 

彼の目標は 当然 国民的スポーツ・エンターテインメント『トゥインクル・シリーズ』でG1勝利する素晴らしい競走バのトレーナーとなること。

 

しかし、花形職業であるトレセン学園のトレーナーになれても、代々 名トレーナーを輩出している名門の人たちに睨まれるのを恐れて、才能のあるウマ娘にスカウトできずにいました。

 

年に4度行われるトレセン学園の生徒たちがトレーナーに実力をアピールするための『選抜レース』の予想もかなり外しており、自分にはウマ娘の才能を見る眼がないのだと落胆するばかり。

 

それで、先輩トレーナーのチームでお情けで下積みするのを許されるものの、そこはウマ娘たちの頂点を目指すG1レースでの勝利をあきらめた あまりよろしくないチームでした。

 

いわゆるトレセン学園という夢の舞台で陽の光を浴びることのない日陰者たちの溜まり場――――――。

 

入学金や授業料を支払うための奨学金を獲得してトレセン学園の卒業生であるという箔付けのために、G2レースやG3レースに出走することでしぶとく在籍し続けるグレーゾーンの住人たち――――――。

 

G1レース出場にこだわって己の才能に見切りをつけて自ら学園を去っていく者や自身の才能によって自らの選手生命が絶たれてしまう者が多いことを踏まえれば、賢い選択と言えたかもしれない――――――。

 

けれども、『日本中が熱狂し 自分が憧れた夢の舞台とはこんなものじゃない』という強い反発心から改めて頂点を目指したいという意志が生まれることになりました。

 

 

あるところに、甘いのものが大好きで野球好きなのを隠しきれない名家のお嬢様のウマ娘がいたとさ。

 

名家の誇りを背負って三代に渡っての『天皇賞』の三連覇を目指して 期待に胸を膨らませて 日本最高峰のトレセン学園の門を潜りました。

 

しかし、トレセン学園に集まるのは みな地方競バでは天才と呼ばれるような傑物揃い。『選抜レース』で彼女は結果を残すことができませんでした。

 

そのため、『次こそは!』と躍起になり、家の名に泥を塗ったことを挽回すべく『選抜レース』を勝つための更なるトレーニングに励んでいたのです。

 

ところが、彼女は正直に言って世間知らずのお嬢様でした。不器用です。抜けています。お茶目です。

 

原因不明の体調不調が長く続き、ついには倒れることになってしまったのでした。

 

 

――――――その時、彼女は自らの“運命”と出会うこととなりました。

 

 

一方、あれから若手トレーナーの彼は本気でG1で勝利するウマ娘をスカウトするために研究と研鑽を重ね続けていました。

 

そのおかげで、G1勝利を果たすウマ娘とG2勝利が関の山のウマ娘のちがいを見極めることができるようになっていました。

 

そんな ある時の『選抜レース』で、『天皇賞』制覇を家風とする名家の見目麗しいウマ娘の姿に目を引かれました。

 

そして、すぐに彼女が周囲から期待を寄せられていた“天下無類の長距離ウマ娘(ステイヤー)”だという前評判を聞き、自分のような無名の若手トレーナーとは縁がないとあきらめようとしていました。

 

あきらめようと思って彼女が出走するレースを見ずに帰ろうとしていたのですが、G1勝利ウマ娘の名家の家系がどんな走りを見せるのかを研究するという目的でその場に踏みとどまったのです。

 

すると、結果はまさかのスタミナ切れによる大敗で、“天下無類の長距離ウマ娘(ステイヤー)”という前評判が飾りだったと周囲が落胆していったのです。

 

 

しかし、彼はこれを自分に舞い込んだ幸運だと感じたのです。()()()G()1()()()()()()()()()()()()()()()()()千載一遇の機会であることを見抜いたのです。

 

 

基本的に長距離走はヒトでもウマ娘でも変わらず自分にあったペースで走ることを維持し、ラストスパートのタイミングを大事にするもの。

 

今回の彼女の失敗は『トレセン学園の『選抜レース』に出走する玉石混交のウマ娘たちの不揃いのペースに翻弄された』という経験不足によるものであって、

 

『天皇賞』制覇を前提とした英才教育とトレーニングを受けてきた彼女がスタミナ切れを起こした原因はそれしかないと閃いたのです。

 

また、二重の意味で幸運だったのは、近年のトレセン学園は最強の“七冠ウマ娘”シンボリルドルフに象徴される黄金期であったため、

 

秋川理事長の自由な校風によって続々と入学してきた早熟の天才ウマ娘たちの青田買いも盛んである分、わずかな失点で大きく評価が下がるような競争率の激しい環境でもあったので、

 

この結果だけを見て『天皇賞』をとることが最大の目標である“天下無類の長距離ウマ娘(ステイヤー)”という絶対的な存在を簡単に周囲は見放したわけです。

 

そのため、彼は自身を売り込むために彼女のトレーニングの様子を観察し続け、緻密なトレーニング計画を立てることにしたのでした。

 

後になってわかったことですが、G2勝利で奨学金を勝ち取って無難にトレセン学園卒業を目指す底辺チームでの経験がまさに大きな助けと成っていたのです。

 

 

――――――そして、彼は自らの“運命”を掴み取ることができたのでした。

 

 

 

アグネスタキオン「なかなかに感動的な導入だったね」

 

アグネスタキオン「で、いつになったら“目覚まし時計”が出てくるのかな?」

 

アグネスタキオン’「そもそも、マックイーンと担当トレーナーの話は必須なのかい?」

 

斎藤T「全然。結論だけ言えばすむ話だけど、その結論に至るまでの過程を理解しなくて結論に納得してくれるのなら、私はそれでいいけど」パシャ

 

斎藤T「私も時間が巻き戻る怪奇現象の原因となった“目覚まし時計”の謎を解き明かすために分解しに来ただけだし」パシャ

 

斎藤T「さてさて、リバース・エンジニアリングも久々だし、しっかりと分解したパーツと構成を撮影して 元に戻せるようにしないと」パシャ

 

アグネスタキオン’「それじゃあ、マックイーンにとって彼女の担当トレーナーが大きな助けになったものって言うのは?」

 

斎藤T「彼女はメジロ家の令嬢として常に均整のとれたプロポーションを維持するために厳しい食事制限を自ら課していたんだ」パシャ

 

斎藤T「つまり、太りやすい体質だったのが名家のお嬢様の最大の弱点だったんだね」パシャ

 

アグネスタキオン「なるほど。食事制限が行き過ぎて空腹で力が出ないわけか」

 

斎藤T「それだけじゃない。トレセン学園は全寮制で、食堂を利用しないなら、自炊が必要だろう?」パシャ

 

斎藤T「一応、お前も『名家』アグネス家の令嬢だから訊くけど、自炊なんてするのか?」パシャ

 

アグネスタキオン「いや、しないね。食事なんて生命維持活動に必要な栄養を補給するだけの行為だから、そんなものに手間を掛ける時間はないよ」

 

斎藤T「同じように、『名家』メジロ家の令嬢:メジロマックイーンが自炊すると思うか?」パシャ

 

アグネスタキオン’「まあ、無理だろうね。私はミキサーに入れやすいように野菜や果物を包丁で切り分けるぐらいはするけど、彼女の場合は包丁を握ったことすらないんじゃないかな」

 

斎藤T「そういうこと。自炊できないから、食事制限の方法が欠食になりがち。だから、メジロマックイーンの『選抜レース』は悪成績だったわけだ」パシャ

 

斎藤T「これが使用人を同伴できるんだったら、結果は大きく変わっていたんじゃないかな?」パシャ

 

 

アグネスタキオン’「なるほど。トレーナーが彼女から信頼を得ることができたのは『食事管理ができる人だったから』なんだね」

 

 

斎藤T「そう、わかってしまえば、実に単純な話さ」

 

斎藤T「こうしてベテラントレーナーや名門トレーナーが見放した隙に約束された未来のG1ウマ娘を無名の若手トレーナーが安々と手に入れることができたというわけだ」

 

斎藤T「そして、程度が低いと言われている底辺チームでのゆるい雰囲気の中で低糖質・低カロリー・低脂質などの“楽してG2レースに勝てる”献立や菓子をたくさん作らされていたのが吉となった」

 

斎藤T「それに付け加えて、底辺チームで扱き使われていた中でG1勝利に血道を上げることがない年頃の女の子のありのままの姿を間近で見ていたことも相性の良さに繋がった」

 

アグネスタキオン「まあ、一見すると貞淑な振舞いをしてはいるけど、きみが語ったようにズレがあるからね、マックイーンは」

 

斎藤T「そう、メジロ家の令嬢はとかく相手を見た目や身分で判断せずに、本当の意味で実力主義を徹底しているようだから、無名の若手トレーナーにとっても非常に親しみやすかったのもプラスだった」

 

アグネスタキオン’「なるほど、そう聞くと『京都大賞典』に続いて『天皇賞(秋)』に無理をしてまで出走した理由もわかるような気がするよ」

 

 

斎藤T「ああ。2人は心中するつもりだったのさ」

 

 

斎藤T「彼からすれば 経緯はどうあれ メジロ家の令嬢を再起不能にして引退させた無能ということになるし、」

 

斎藤T「最初にベテラントレーナーや名門トレーナーを出し抜いて彼女の担当になったことを根に持たれてトレーナー組合での立場は相当に悪かったらしいしね」

 

斎藤T「彼女の方も『天皇賞(春)』をとってメジロ家三代による三連覇を成し遂げたものの、」

 

斎藤T「トレセン学園の黄金期を築き上げた“七冠ウマ娘”シンボリルドルフたちと比較してどうなのかというG1勝利者特有の贅沢な悩みを抱えていてね」

 

斎藤T「そこにウマ娘にとって不治の病である繋靭帯炎――――――」

 

斎藤T「結局、2人はウマ娘レース以外での生き方を知らないし、互いが互いを最高のパートナーだと認め合っていたから、次なんてないことは理解していたんだ」

 

 

斎藤T「だから、2人に残された道は心中することしかなかったというわけ」

 

 

アグネスタキオン「それは論理が飛躍しすぎている気がするがね」

 

斎藤T「第三者から見れば そうさ。でも、2人にとっての不幸はレースに勝つことしか頭になくて、引退した後の進路について無知だった――――――」

 

斎藤T「そして、根底にあったのが身分差別、それと大人と子供という年齢差だよ」

 

斎藤T「無名の若手トレーナーとメジロ家の令嬢とでは身分に差がありすぎるし、成人男性と未成年女性の関係だ。不純異性交遊として引き離されるだろう」

 

アグネスタキオン’「まあ、身分差別については実感が湧かないけど、不純異性交遊になるのは間違いないだろうね」

 

斎藤T「でも、トレセン学園のトレーナーである以上は、食っていくためには やがては彼女以外のウマ娘の指導をしていかなくちゃならない――――――」

 

斎藤T「一方で、メジロ家の令嬢として優秀な遺伝子を遺していくために()()()を果たさなくちゃならない運命にある――――――」

 

 

斎藤T「ほら、2人に残された道はメジロ家の意地を見せた後に心中することになるだろう?」

 

 

アグネスタキオン’「……きみは随分と2人に入れ込んでいるようだね、そこまで詳しく調べ上げたということは」

 

斎藤T「いや、正論を叩きつけて事態が解決するんだったら、ここまでの経緯を本人の口から語ってもらう必要はなかったんだよ!」

 

斎藤T「私はどうしても繰り返される『天皇賞(秋)』から抜け出すために、2人の心中を阻止しなくちゃならない運命にあったらしくて!」

 

斎藤T「記憶違いでなければ20回は繰り返して、今は21周目の世界なんだよ。半日程度で時間が巻き戻ることを考えると10日は余計に歳をとったことになる」

 

斎藤T「もうね、ハッピーミークが1着になって メジロマックイーンがターフの上で力尽きる展開を飽きるぐらい見てきたよ……」

 

アグネスタキオン「なるほど、その原因となったのが“目覚まし時計”というアイテムなんだね」

 

アグネスタキオン’「どうだい? 分解してみて何かわかったかい?」

 

斎藤T「いや、全然」

 

斎藤T「もしかしたらタキオン粒子を制御するマイクロチップが搭載されているかもしれないという淡い期待を持っていたけど、特におかしなところはない」

 

斎藤T「残念、()()()()ただの目覚まし時計だ」

 

斎藤T「リバース・エンジニアリングは終わりだ。元に戻す」

 

アグネスタキオン「へえ、『タキオン粒子』と言ったかい、今?」

 

アグネスタキオン’「きみ、当たり前のように『タキオン粒子を制御する』だなんて言っているけど、本当は何者なんだい?」

 

斎藤T「言ったところで理解できないだろう」

 

アグネスタキオン「なら、話の続きをしてもらおうか?」

 

アグネスタキオン’「マックイーンの担当トレーナーが“目覚まし時計”を使うことになった経緯をね」

 

斎藤T「まあ、ここからは内容が内容だけに信憑性に欠けるけど、使った本人が言った通りの内容で語るとしようか」

 

 

 

こうして始まった無名の若手トレーナーとメジロ家の令嬢のサクセスストーリーは次第に人々の心を掴んでいくこととなりました。

 

前評判通りの“天下無類の長距離ウマ娘(ステイヤー)”の本領を発揮して2年目:クラシック級では『菊花賞』を勝利し、無名の若手トレーナーは 一躍 新進気鋭のトレーナーとして名を上げ、

 

また、好敵手となるトウカイテイオーと名勝負を繰り広げ、まさに世代の中心にいたのは無名の若手トレーナーとメジロ家の令嬢とまでなったのです。

 

しかし、彼の成り上がりとも言える成功を妬む声があり、メジロ家の令嬢という約束された勝ちウマ娘を見逃したベテラントレーナーや名門トレーナーたちの逆恨みは凄まじいものがありました。

 

何しろ、元々は底辺チームのサブトレーナーだった若造がメジロ家の令嬢を射止めて『菊花賞』をとったことで、自分たちに見る眼がなかったことを世間に嗤われていましたから。

 

そのため、彼は常に誹謗中傷や嫌がらせを受けることになり、時には彼女の担当を替わるように脅されたことさえあったそうです。買収を持ちかけられたことも。

 

けれども、底辺チームでの下積みのおかげで年頃のウマ娘の奔放さと本音に付き合うことができ、自身が憧れ続けた夢の舞台で愛バと勝ち続ける夢を譲ろうとはしませんでした。

 

 

そして、突き付けられるウマ娘とトレーナーの関係性――――――。

 

 

ベテラントレーナーや名門トレーナーたちがなぜそこまで勝ちにこだわるのか、なぜメジロ家の令嬢を欲しがるのか、なぜ名バを求めるのか――――――、

 

その本質は結局は自分のため、自分が食っていくためにウマ娘を体良く利用する魂胆だとがわかってしまった時から、

 

ベテランとしての実績や名門としての意地やしがらみなど何もない 無名の若手トレーナーは頑なになってしまったのでしょう。

 

最終的には担当トレーナーの危機を察知した彼女が実家:メジロ家に働きかけたことで事態は収束し、そうした障害を乗り越えて2人の男女の絆が深まることになりました。

 

しかし、不幸なことにベテラントレーナーや名門トレーナーたちとの確執によってトレーナー組合での彼の居場所はなくなり、

 

そして、不幸なことにベテラントレーナーや名門トレーナーというものを軽蔑するようになったことで自身がトレーナーとして成長する機会を失ってしまうことになったのです。

 

2年目のクラシック級や3年目のシニア級の成功の後、高等部に進級しての心機一転の4年目――――――、

 

『大阪杯』『天皇賞(春)』を制して『宝塚記念』に勝利すれば史上初の“春シニア三冠ウマ娘”となれると言ったところで“黒い刺客”に襲われてしまったのです。

 

手に届きそうで届かなかった“春シニア三冠ウマ娘”の称号――――――、

 

そのことを残念には思うけれども、あくまでメジロ家は『天皇賞』制覇が使命として、素直に新世代の台頭を喜ぶ中、

 

本当の“黒い刺客”が“天下無類の長距離ウマ娘(ステイヤー)”である彼女の脚を奪っていたことに気付かされたのはしばらく後のことでした。

 

更なる勝利と躍進に備えて未来の展望を明るく語り合う2人の男女に突如として彼女が不治の病に冒されたことが宣告されたのです。

 

2人の男女の未来は突如として闇に包まれてしまいました。走ることが大好きだった彼女が走ることを許されなくなってしまったから。

 

このままでは2人の関係が終わりを迎えてしまうのは明らかであり、2人は離れ離れになってしまうことに恐怖しました。

 

 

だからこそ、2人の男女は禁忌を求めてしまったのです――――――。

 

 

彼はもう彼女以外のウマ娘のトレーナーになるつもりはなく、なりたくてもメジロ家の後ろ盾を失えばトレセン学園に居場所はなく、

 

彼女の方は彼がトレーナーである以上は他のウマ娘の担当となるしかないことは理解できていても、彼以外の殿方と結ばれる運命を受け容れられませんでした。

 

そう思い込んでいただけかもしれないのに、2人は頑なになったことで2人だけの世界への逃避を始めるようになったのです。

 

自分にはもうあなた以外に何もない――――――、その思いが2人を狂気の道へと走らせたのです。

 

そして、彼と彼女は世にも不思議な()()()()()()目覚まし時計の虜となったのでした。

 

 

 

斎藤T「ウマ娘レースには以下のような原則が存在する」

 

斎藤T「競走に勝つ意志を持たずに競走バを出走させてはならない――――――」

 

斎藤T「トレーナーは競走でウマ娘の全能力を発揮させなければならない――――――」

 

斎藤T「災害や投石等の妨害行為があった場合や所定の走路と異なる走路で行われた場合には、その競走は不成立となる――――――」

 

斎藤T「以上の原則をもって、連戦連勝であったとしても大事を取って次の出走を見合わせたり、引退を宣言したりするわけだな」

 

斎藤T「勝つためではなく心中するために出走を決意した2人を違反者として私が厳しい態度で臨んだのも当然の話だろう?」

 

 

斎藤T「――――――夢の舞台を無礼(なめ)るな! そこは夢破れたお前たちの共同墓地なんかじゃない!」

 

 

アグネスタキオン「でも、きみはそれでも助けたのだろう? きみからすれば友達の友達でしかない見ず知らずのトレーナーとウマ娘のことを」

 

斎藤T「いや、ホントだよ。相手の方も私が来て『誰だ、こいつ!?』ってなったからね」

 

斎藤T「何にせよ、別々な場所だけれど心は1つの心中を防ぐことができてよかったよ」

 

斎藤T「『秋シニア三冠』の最初で、担当ウマ娘が本当にターフの上で息絶えて 担当トレーナーが多摩川に入水自殺だなんて、とんでもない不祥事だろう?」

 

斎藤T「そうなったら確実に秋川理事長が企画した新レース『URAファイナルズ』の開催は危ぶまれたことだろう」

 

アグネスタキオン’「そうだね。国民的人気を得たトレーナーとウマ娘の心中事件は確実に現状のウマ娘レースの暗部にメスを入れることになるだろう」

 

斎藤T「あーあ、そのことを誰も知らないんだからさ? まあ、褒めてもらいたいわけじゃないけど、苦労に見合った分の何かは欲しいよなぁ?」

 

斎藤T「さて、元に戻したな」

 

斎藤T「和田Tが言うには、この“目覚まし時計”は一見すると普通のゼンマイ式なんだが、」

 

斎藤T「絶対に負けられない勝負に挑む時なんかに回すと、頭の中で“日めくりカレンダー”が回り始めて、それがリスタート地点の設定になるらしい」

 

 

斎藤T「今回の『天皇賞(秋)』の前に出走した『京都大賞典』でメジロマックイーンがレコード記録を叩き出した方法がこれなんだそうだ」

 

 

アグネスタキオン「そうなのかい。まったくもって理解できない説明だが、続けたまえ」

 

斎藤T「ああ、あの時の『京都大賞典』のレース目標はメジロ家の意地を内外に知らしめて『メジロ家に自分たちの関係を認めてもらう』という極めて私的なものだったんだ」

 

斎藤T「6月の『宝塚記念』の後の不治の病で引退が囁かれた2人は進退窮まって、一時は駆け落ちも考えていたようだけど、」

 

斎藤T「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という願いから『心中を決意する』という論理の飛躍が行われてね」

 

斎藤T「本当はもうメジロ家の方でも十分に頑張った娘の意思を尊重するつもりでいたのだけれど、飛び出してきたのが『京都大賞典』『天皇賞(秋)』への出走なんだから、二の句が継げなくなったみたいだな」

 

アグネスタキオン’「だから、メジロ家としては黙認の立場となるわけだね」

 

アグネスタキオン’「そして、周囲の予想を裏切って『京都大賞典』での大勝利によってメジロ家の意地を見せつけた後は、心置きなくターフの上で死ねると」

 

斎藤T「その有無言わせぬ大勝利を叩き出すために和田Tは“目覚まし時計”を使って何度も『京都大賞典』を繰り返したそうだ」

 

斎藤T「そうなれば、もう後は簡単だろう?」

 

アグネスタキオン「待ちたまえ。“目覚まし時計”がどういったものなのかは理解できたが、その出処は?」

 

斎藤T「わからない。いつの間にか使っていたそうだ。自白剤を飲ませても『記憶にない』と言い張った」

 

アグネスタキオン「それじゃあ、きみが巻き込まれた理由は?」

 

アグネスタキオン’「きみが何度も『天皇賞(秋)』を繰り返すことになったのは『和田Tが作動させた“目覚まし時計”が停止しなかったから』なのだろう?」

 

斎藤T「巻き込まれた原因なんてわかるわけないだろう!」

 

斎藤T「使った本人の和田Tが記憶を持ち越しているのは当然として、なんで私だけがこんな目に――――――!?」

 

斎藤T「ただ、『京都大賞典』での大勝利を達成したら時が巻き戻ることがなくなったから、基本的には使用者の望みが達成された時に“目覚まし時計”は機能を停止するようだ」

 

 

アグネスタキオン「じゃあ、本当はマックイーンの担当トレーナーは心中なんて望んでいなかったわけか」

 

 

斎藤T「そういうことになる」

 

斎藤T「ただ、明日に向かう勇気がなくて、同じ時間を永劫に繰り返すことになってしまったけどな……」

 

斎藤T「まあ、部屋に遺書なんて遺していったのが運の尽きだったね。それで各方面に対して自殺志願者の捜索の協力を取り付けるのは簡単だったし、」

 

斎藤T「生徒会長のところのシンボリ家にまで追い掛け回されて、進退窮まって多摩川に身投げを図っても時間が巻き戻って また追い掛け回されるんだから、」

 

斎藤T「()()という行き止まりで立ち往生しているやつを()()()()()()追い詰めること自体は楽な作業だったよ」

 

斎藤T「まあ、追いかけっこの時間そのものは楽しかったかな」

 

斎藤T「和田Tが私から逃げるために府中市を必死に駆け回るんだけど、私が追いかけようが追いかけなかろうが時間が巻き戻ってしまうわけだし、」

 

斎藤T「私はその状況を利用してシンボリ家やアグネス家の方々からトレーナーとウマ娘の関係についての意見を聞いたり、先回りして これ見よがしに 和田Tをおちょくったりね、有意義に時間を使わせてもらったよ」

 

斎藤T「すると、どうなるか」

 

アグネスタキオン「――――――集中力が切れるだろうね。『今日この日に死ぬ』という不退転の決意すら萎えてしまうわけだ」

 

アグネスタキオン’「そして、『死にたいのに死ねない』という嘘の仮面が剥がれていく」

 

アグネスタキオン’「でも、『そこから先を どうしたらいいのか わからない』ということで再び思い悩むことだろう」

 

斎藤T「そう、結局はそこで――――――、」

 

斎藤T「和田Tをメジロのおばあちゃんの前に引っ立てて、メジロ家が引退後の2人を受け容れる用意があったことを伝えることで、ようやく空回りしていたことを自覚したんだ」

 

 

――――――()()()()()()()()()()()()

 

 

斎藤T「それがわかったのが20周目の出来事で、ようやく21周目で和田Tは担当ウマ娘を迎えに東京競バ場に()()()()向かうことになったんだ」

 

斎藤T「私も久々に先輩と一緒の場所でハッピーミークが1着を取るのを見届けることができたわけ」

 

斎藤T「――――――()()()()()()()()ってのは楽じゃないな、まったく」

 

アグネスタキオン「……そうだね、トレーナーくん(モルモットくん)

 

アグネスタキオン’「でも、私は好ましく思うよ、トレーナーくんのそういうところ」

 

斎藤T「……一方的に巻き込まれただけだ。最初から見ず知らずの他人のことを救おうとしたんじゃない」

 

斎藤T「だから、世にも不思議な()()()()()()目覚まし時計の都市伝説の最後はこうなる――――――」

 

 

 

無名の若手トレーナーは世にも不思議な()()()()()()目覚まし時計の力で もう走ることができないと絶望視された彼女の奇跡の大勝利を演出します。

 

この大勝利によってメジロ家の意地を見せつけた後、彼と彼女はもうこの世に思い残すことはありませんでした。

 

この目覚まし時計を授けてくれた神様に感謝を捧げ、その日を迎えるまでに誰も知らない2人だけの世界へと繋がる死出の旅路を夢見て、2人はこの世の暇乞いを済ませていくのでした。

 

そして、迎えた彼と彼女が紡ぐ悲劇のクライマックスの舞台――――――、2人だけの独壇場――――――。

 

 

しかし、運命は、神様は、目覚まし時計の魔力は、彼と彼女の絆を永遠に引き裂くのでした。

 

 

本当は人生最後の走りを見せて最後の暇乞いとけじめのために引退を宣言した後に、2人で多摩川の流れに身を任せようとしていたのですが、

 

なんたることか、最後の走りを目に焼き付けようと待っていた彼の目の前のターフの上で本当に彼女が力尽きてしまったのです。

 

それによって、一緒に死出の旅路につくことができないことを焦った彼はすぐに目覚まし時計を使って時間を巻き戻して、

 

ターフの上で彼女が力尽きる瞬間に合わせて、多摩川に身投げするように修正を迫られることになったのです。

 

そして、ラジオで彼女が力尽きた悲劇的なナレーションが聞こえた瞬間に多摩川に愛し合う男女2人の今生の思い出と死出の旅路の品々が積まれたウェディングカーで入水自殺――――――。

 

 

ところが、次に気づいた瞬間には また今日という一日が始まってしまいました。

 

 

何かが変わったわけでもなく、愛した彼女がターフの上で死ぬ運命であることに変わりなく、その度に多摩川に身を沈めても今日という一日が繰り返されました。

 

何度 多摩川に飛び込んでも今日という一日が繰り返されたことに いよいよ原因が世にも不思議な()()()()()()目覚まし時計にあることを悟り、彼は目覚まし時計を壊してでも止めようとしたのです。

 

しかし、彼は驚愕しました。ゼンマイを差し込んだ瞬間に浮かび上がるのは無限に今日という日がめくられ続ける日めくりカレンダーの幻影だったのです。

 

今日という一日が永遠に繰り返されることに恐怖し、思わず目覚まし時計を地面に叩きつけると、狂ったように目覚まし時計の針が回り出します。

 

それでますます恐怖に怯えた彼は多摩川に突っ込むことなくクルマを走らせ続けますが、気づいた時にはまた今日という一日が始まっていました。

 

 

――――――今も無名の若手トレーナーの彼はターフの上で死を遂げる運命にある愛しいウマ娘との再会を果たすために現実から逃げ続けていることでしょう。

 

 

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