ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-西暦20XX年11月25日の航星日誌- GAUMA SAIOH
この日、“秋シニア三冠”の二番目、日本初の格式ある国際G1レース『ジャパンカップ』が開催された。
一方、今回のレースには『天皇賞(秋)』を制した先輩の担当ウマ娘:ハッピーミークは出走しないため、先輩と一緒に観戦することになった。
海外遠征を視野に入れている驚異の天才:才羽Tのミホノブルボンが出走するので、彼を応援する大手菓子メーカーのスポンサーも駆けつけて、
先月の『天皇賞(秋)』と同じ東京競バ場に斎藤 展望の友人知人が勢揃いすることになり、私は初めてバ券というものを買うことになった。
飯守Tとライスシャワーも先月の『天皇賞(秋)』と同じく駆けつけているが、今回は親友の才羽Tのミホノブルボンの出走ということで前回よりも真剣な表情でバ場を見据えていた。
よくよく考えると、トレーナー共々 ミホノブルボンと仲が良い飯守Tのライスシャワーは“春シニア三冠”の三番目である“春秋グランプリ”の『宝塚記念』を制しているため、“グランプリウマ娘”であった。
『本物は本物を知る』とは言うが、同期の名門トレーナーであった桐生院Tと驚異の天才トレーナーであった才羽Tを手本にして自分らしさを突き詰めていって その2人に並んだ飯守Tもまた本物であった。
そして、“クラシック三冠ウマ娘”という子供の頃の夢を叶えたミホノブルボンは
その裏で、トレセン学園の次代を担う若者として“悲運の天才”トウカイテイオーを生徒会役員に据えるべく、
トレセン学園の黄金期の象徴である“皇帝”シンボリルドルフからの勅命を受けて、私は『トウカイテイオーの担当トレーナーを復帰させる』ために行動を起こしていた。
幸い、今回の『ジャパンカップ』にハッピーミークは出走しないため、自由行動に使える時間がたっぷりあったので、
『天皇賞(秋)』の時には簡単には得ることができなかったトレーナーの個人情報をもらえたこともあって、対象への接近は問題なく行えた。
ただ、“皇帝”陛下も無茶ぶりをする――――――。誰もが認めていた“天才”だったからこそ、トレセン学園の未来をトウカイテイオーに託そうとするのもわかるが、
そのトウカイテイオーは去年の『有馬記念』で三度目の骨折に遭って今シーズンに出走はなく、三度目の復活は誰もが絶望視していたぐらいなのだ。
しかし、同じように引退が確実視されていた好敵手:メジロマックイーンが最後の最後にメジロ家の意地を見せて『天皇賞(秋)』で見事な引退をしてしまっただけに、
“シンボリルドルフの寵児”“メジロマックイーンの好敵手”である“無敗の二冠ウマ娘”の見栄えはいいハリボテの看板だけで指導力を発揮できることか――――――。
つまり、“皇帝”陛下はトウカイテイオーには何としてでも『ジャパンカップ』『有馬記念』『URAファイナルズ』のいずれかに参加して次代を担うに相応しい勝利を飾ることを暗に求めておいでだ。
ウマ娘レースのシーズンの始めと終わりは1月から12月であり、トレセン学園の生徒会総選挙は1月に執り行われるのだから、
トウカイテイオーを生徒会役員に“皇帝”シンボリルドルフが推薦できるチャンスはここしかないというわけなのだ。
しかし、その勅命が下ったのが“聖蹄祭”なのだから、同月の『ジャパンカップ』に間に合わせることは常識的に考えて不可能であった。
更にトウカイテイオーの担当トレーナーはシンボリルドルフと同じぐらいに担当ウマ娘に自身の夢を託していただけに三度目の故障で自信喪失となって休職していた。
もう11月なのに年末の『有馬記念』『URAファイナルズ』へのトレーニングが間に合うようには雰囲気でウマ娘のトレーナーをやっている私からしても不可能に思えた。
だが、“皇帝”陛下は最後まであきらめようとはなさらないのだ。
――――――奇跡の可能性を信じられるのもまた、誰よりもウマ娘の将来を信じているからこそ。
そして、11月25日『ジャパンカップ』の日に人々は奇跡を目にすることとなった。
ただし、それは神の御業などではなく、悪魔の所業であり、“皇帝”陛下の御心を曇らせる重大事件へと発展してしまったのである。
私からしても最悪の展開であった。まさか、ここまで侵略が進んでいたとは――――――。
結論を言おう。
――――――『ジャパンカップ』は
テイオー! テイオー! テイオー! テイオー! テイオー! テイオー!
トウカイテイオー「……2着かぁ」 ――――――街頭ビジョンを見上げる群衆の中で独り立ち尽くす。
トウカイテイオー「……へえ、知らなかったなぁ」
トウカイテイオー「……ボク以外にも“トウカイテイオー”ってウマ娘がいたんだ」
トウカイテイオー「でも、ボクだって『ジャパンカップ』を優勝しているし、それぐらいはやってもらわないとね……」
トウカイテイオー「……うん、これでよかったんだ。願ったり叶ったりじゃないか。みんなも喜んでいくれているし、カイチョーだって嬉しいだろうしさ」
トウカイテイオー「だから、もうボクは、いいよね?」
ポツ、ポツ、ポツ・・・
トウカイテイオー「……ボク、気づいちゃったんだ」
トウカイテイオー「……ここにいるボクが“トウカイテイオー”だなんて誰も気づかないんだもん」
トウカイテイオー「……“三冠ウマ娘”にも“無敵のウマ娘”にもなれなかったんだよ?」
トウカイテイオー「……でも、それ以上に“走れないテイオー”なんて誰も必要としてくれないんだ」
トウカイテイオー「……それで、本当の意味でカイチョーの凄さに気づいちゃった」
――――――やっぱり、カイチョーって凄いなぁ。
ザー、ザー、ザー・・・・・・
トウカイテイオー「………………」
トウカイテイオー「………………」
トウカイテイオー「………………」
藤原さん「おい、そこの嬢ちゃん。こんな雨の中で傘もささずに突っ立ってどうしたってんだ?」スッ ――――――ズブ濡れの女の子のために傘をさす。
トウカイテイオー「え」
トウカイテイオー「あ、すみません……」
トウカイテイオー「それじゃ――――――」
藤原さん「……ちょっと待ちな、嬢ちゃん。俺は警察のもんだが、どうだい? ここは聞き込み捜査に協力するという体で行きつけの喫茶店で温かいもんでも飲みなよ」スッ ――――――警察手帳と身分証を見せる。
トウカイテイオー「……別に必要ありません。お気遣いなく」
藤原さん「おいおい、そんなズブ濡れのまま死んだような眼をして雑踏の中に女の子が一人消えていったのを見過ごしたとあったら、警察官の俺のプライドが許さねえんだよ」
トウカイテイオー「……知りません、そんなこと」
藤原さん「……しかたねえな。お前さんもいっちょ前のウマ娘なら、これで聞く耳を持つだろう」
藤原さん「実は、俺が聞き込み捜査で待ち合わせる喫茶店でなんと あの“皇帝”シンボリルドルフがお忍びで来るんだとよ」
トウカイテイオー「え、カイチョーが!」ピーン!
藤原さん「お、食いついてきたな」
トウカイテイオー「あ……、でも、ボクはもうカイチョーに合わせる顔が――――――」
藤原さん「おいおい、それを言ったら警察官の俺がズブ濡れの女の子を見捨てて“皇帝”陛下に拝謁したのがバレたら、俺のクビが飛ぶっての!」
藤原さん「ここは俺の顔を立てると思って、素直に聞き込み捜査に協力しておけ。それがお前さんの身体を温めることになる」
トウカイテイオー「うぅ……、わかったよ、もう……」
藤原さん「…………これで何とかなったな」
――――――本当に
カラン、カラン・・・
藤原さん「よう、マスター。こっちの娘にコーヒーを――――――うん? 砂糖は入れるか?」
トウカイテイオー「ば、バカにするない! ボクだってブラックで飲めるもん!」
店主「新作のシナモンシュガーワッフルがセットになったモーニングセットがお得ですよ」
藤原さん「じゃあ、それで。俺も同じもんをくれ」
藤原さん「それと、今日は貸し切り――――――」
店主「――――――わかっております」
店主「それでは、できたてを用意しますので、しばらくお待ちください」
店主「それと、こちらのタオルで身体を拭いてください、お客様」
トウカイテイオー「あ、ホカホカだ……」
店主「シャワーがなくて申し訳ありませんが、幸い当店のトイレは女性のお客様にも安心の大きめな間取りとなっておりまして、洗面器も大きい方ですのでご利用ください」
店主「それと、アルバイトの子のものですが、ドライヤーも用意しますからね」
トウカイテイオー「あ、ありがとうございます……」
店主「では、15分ぐらいにモーニングセットをご用意しますので、ゆったりお寛ぎくださいませ」
藤原さん「お、随分とすっきりした表情になったな。見違えたぞ」
トウカイテイオー「……あの、ありがとうございました」
藤原さん「いいってことよ。俺にもお前さんぐらいの娘がいるんだが、それとは別に世話になった人の兄妹の面倒も見ているんだ。年頃の女の子の扱いには慣れているつもりさ」
店主「おまたせしました。モーニングセットとなります」コトッ
トウカイテイオー「わあああ! これ、本当にいいの?」パア!
藤原さん「ああ。食え食え。女の子は甘いものを食べて笑顔になるんだからな」
藤原さん「一日一善。これで今日の俺のノルマは達成だな」
トウカイテイオー「………………」
藤原さん「どうした?」
トウカイテイオー「ボクはまた――――――」
店主「シー」
トウカイテイオー「え」
店主「食事の時間には天使が降りてくる――――――。そういう神聖な時間です」
藤原さん「ああ。嫌なことは忘れて、今は思いっきり甘いものを温かいうちに頬張れ。そしたら天使のような笑顔を振りまいてやれ」
トウカイテイオー「あ、ありがとうございます!」
トウカイテイオー「それじゃ、いただきます!」パクッ
トウカイテイオー「お、美味しぃいいいいいいいいい!」
トウカイテイオー「へへ、マックイーンのやつ、絶対に悔しがるぞ! こんな名店があるだなんてことを知らないだなんてね!」ゴクッ
トウカイテイオー「あ、あれ? コーヒーが美味しい? コーヒーってこんなに美味しいものなんだ!」
藤原さん「そりゃあ、そうだろうがよ」
藤原さん「甘ったるいものを口に入れたら、口の中をきっちり苦いコーヒーで洗い流すことで、また甘さを感じることができるからな」
店主「料理というのはメリハリが大事なのです」
店主「そして、お客様の状態に合わせてその人にとっての最高のものを提供するのがおもてなしなのです」
店主「それと、こちらの一杯もどうぞ。サービスです」 ――――――デミタスカップのおまけの一杯。
トウカイテイオー「あ、ありがとう? こっちのコーヒーと何がちがうの?」ゴクッ
トウカイテイオー「う、うえええええええ!? に、苦っ!?」
藤原さん「どれどれ?」ゴクッ ――――――トウカイテイオーが手放したデミタスカップを飲み干す。
トウカイテイオー「あ――――――」
藤原さん「おい、マスター。これ、俺が飲んでいるのとまったく同じ味だぞ」
藤原さん「ということは、相当苦味のないやつをこの娘には提供したってわけか」
トウカイテイオー「え……」
店主「あ、ダメじゃないですか、それを言っちゃ……」
店主「美味しい料理とは粋なもの――――――。さりげなく気が利いていなくちゃいけないんですから」
藤原さん「とは言うが、はっきり言わなくちゃわからないことだって あるんじゃないのか?」
藤原さん「まあ、実際に自分の舌で味わってみないと苦いだけに思えるコーヒーが美味いと思えることなんてないから、これで1つ また大人になったな、嬢ちゃん」
トウカイテイオー「う、うん……、ありがとう…………」
店主「さあ、冷めない内に召し上がれ」
トウカイテイオー「うん!」
トウカイテイオー「ごちそうさまでした!」
店主「お粗末さまでした」
藤原さん「おう、いい食べっぷりだったな、嬢ちゃん」
店主「ええ。太陽のような笑顔でした」
店主「では、写真は飾らせていただきますね」
トウカイテイオー「うむうむ! 良きに計らえ!」
藤原さん「おいおい、さっきまで死んだような眼をしていたってのに調子がいいやつだな……」
藤原さん「だが、良い表情だぜ。女の子ってのはこうじゃないとな」
藤原さん「まあ、嬢ちゃんもかなり良い線を行っているが、俺の娘には敵わないけどな!」
トウカイテイオー「そんなことないもん! だって、ボクは――――――」
トウカイテイオー「ボクは………………」
藤原さん「?」
トウカイテイオー「――――――
藤原さん「……さてな。まだ名前も聞いてないしな、嬢ちゃんはいったい誰なんだろうな?」
トウカイテイオー「……刑事さんはボクが誰だかまったく知らないんだ」
藤原さん「まあ、警察ってのは現行犯逮捕以外じゃ逮捕状なしに逮捕はできねえからな。証拠なしの思い込みだけの誤認逮捕なんてやらかしたら一生の恥だ」
藤原さん「刑事のスキルやコネを使えば、嬢ちゃんのことは何だって知ることができるんだが、職業柄 調べだすと切りがないからな」
藤原さん「だから、刑事っていうのは捜査以外じゃあんまり他人に深入りしないようにするもんなんだぜ」
トウカイテイオー「へへ、それがダンディーってやつ? ちょっと『かっこいい』って思っちゃったかも」
藤原さん「まあ、そうやって他人には言えないような思いや辛さを抱えながら、みんな一日一日を一生懸命に生きているんだ」
藤原さん「だから、みんなが一生懸命に生きているのを邪魔するようなやつを俺はどうしても許せなくて、俺は警察官になったんだ」
藤原さん「見なよ。壁一面に咲き誇る大輪の笑顔の花をさ」
藤原さん「こういうのを守るのが俺の警察官としての誇りってやつさ」
トウカイテイオー「今の、ちょっとカッコつけすぎじゃない?」
藤原さん「正直に言うと、俺もそう思ってた。言ってて背中がムズムズしていたぐらいだ」
トウカイテイオー「ああ、やっぱり! そうじゃないかって思った!」
トウカイテイオー「でも、『みんなの笑顔を守る』か……」
――――――じゃあ、ボクはどうなんだろう?
藤原さん「………………」
トウカイテイオー「ボクはずっとカイチョーの背中だけを追いかけて走り続けてきた……」
トウカイテイオー「一生に一度しかない“クラシック三冠”だって勝って勝って勝ちまくって“無敵の三冠ウマ娘”になれるはずだったのに……」
トウカイテイオー「それでも、今度は生涯無敗を貫き通そうと頑張っても またつまんないことで骨折しちゃってさ……」
トウカイテイオー「ボクはカイチョーのようにみんなに頼られる最強無敵のウマ娘になれなかった……」
トウカイテイオー「もう誰もボクのことなんて憶えてなんかいないんだ……」
藤原さん「おい……」
トウカイテイオー「刑事さんだってボクのことを知らないんでしょう! 少し前までボクは“無敗の三冠ウマ娘”になれるって日本中から期待されていたのに!」
トウカイテイオー「負けてなかった! 誰にも負けてなかったのに“三冠”の最後の『菊花賞』――――――!」
藤原さん「…………そうだな。嬢ちゃんは本当に素晴らしいウマ娘だったみたいだな」
藤原さん「それこそ、日本中のみんなが嬢ちゃんの“クラシック三冠”達成の瞬間を楽しみにしていただろうな」
トウカイテイオー「知った風なことを言わないでよ! ボクのことなんて今まで知らなかったくせに!」
トウカイテイオー「ボクだって本当は何度だって怪我さえ治れば立ち上がれるもん! もう松葉杖だって要らないし! トレーニングだって ずっとしてきていたし!」
トウカイテイオー「マックイーンのように引退なんかしてやるもんか!」
トウカイテイオー「でも! でも! でも!」
トウカイテイオー「もうボクは誰からも必要とされていないんだって、わかっちゃったから――――――!」
トウカイテイオー「――――――みんなからも! カイチョーからも! トレーナーからも!」グスッ
ゴールドシップ「お届け物でーす!」バァーーン!
店主「ああ、おつかれさまです」
ゴールドシップ「こちらに受け取りのサインをお願いしまーす」
トウカイテイオー「……え、ゴルシ?」
ゴールドシップ「お、誰かと思ったら、テイオーじゃねえか。なんだよ、髪を下ろしてたから気づかなかったぜ」
ゴールドシップ「ちょうどよかった。ここが
トウカイテイオー「え」
ゴールドシップ「ほら、その麻袋を開けてみな」ポイッ
モゾモゾ・・・、モゾモゾ・・・、モゾモゾ・・・
藤原さん「お、おい! その麻袋の中身ってまさか――――――」
トウカイテイオー「ひ、ひぃいいいいいいい! う、動いたあああああああああ!」
店主「い、今、開けますからね……!」
ゴールドシップ「そんじゃな、テイオー」
ゴールドシップ「いや、戻ってこい、テイオー。お前のことをたくさんの人が待っている」
トウカイテイオー「ご、ゴルシ……」
藤原さん「無茶苦茶なやつだな……」
店主「大丈夫ですか?」
岡田T「た、助かりました…………」プハァー!
トウカイテイオー「え、トレーナー?」
岡田T「え、テイオー?」
トウカイテイオー「え? なんで、どうして? だって、トレーナーは今日『ジャパンカップ』で――――――」
岡田T「え? テイオーこそ、昨年の“クラシック三冠ウマ娘”ミホノブルボンに食いついてハナ差だったじゃないか!?」
藤原さん「…………感動の再会ってところか」
藤原さん「ん」スッ
藤原さん「…………もしもし、俺だ。無事に要人2人を確保することができたぞ」ピッ
――――――
斎藤T「よかった! 始末されてなかった! 本当に良かった……」
――――――
藤原さん「ああ。俺がWUMA対策班でこれほど良かったと思ったことはないぜ、まったく」
藤原さん「しかし、岡田Tは 元々 お前さんが見張っていたからわかるが、まさか麻袋に入れて拉致とは褒められたもんじゃねえな」
――――――
斎藤T「――――――『麻袋に入れて拉致』?」
斎藤T「……すみません。そこは配達人に全て任せていたので」
――――――
藤原さん「まあいいさ」
藤原さん「それより、
――――――
斎藤T「はい。対象Tは、『ジャパンカップ』の再勝利はなりませんでしたが、今回の奇跡の復活についてのインタビューに追われて報道陣に囲まれています」
斎藤T「そして、対象Uは1着のミホノブルボンと3着のナイスネイチャと一緒にウイニングライブのリハーサルのためにライブステージに移動しました」
斎藤T「どうですか? まさか、そちらにいる岡田Tとトウカイテイオーの方が偽物だなんてことはありませんよね?」
――――――
藤原さん「トウカイテイオーについてはまだ身体検査が必要だが、お前さんが見張っていた岡田Tに関しては間違いなくシロだ」
藤原さん「そして、お前さんが入手してくれた調整ルームでのトウカイテイオーの身体検査の記録があれば、この場でシロクロつけることができる――――――」
藤原さん「が、お前さん、俺と目を合わせないようになった隙にろくでもない人間になりやがって……」
藤原さん「強請りのネタを仕入れるために磨いたやつだろう、それ? 本当に突っ走ったら何をするかわからねえ人間だから、今の内に首輪をかけた方がいいかもな」
――――――
斎藤T「……そう言ってくれる人間がいることを嬉しく思いますよ」
――――――
藤原さん「抜かせ。そういうグレーゾーンの人間の相手をさせられるこっちの苦労を考えろっての」
――――――
斎藤T「周辺の調査状況は?」
――――――
藤原さん「とりあえず、現地警察に協力を依頼してトウカイテイオーと岡田Tの家族に聞き込み捜査はしている」
――――――
斎藤T「藤原さんが警視庁警備部災害対策課で大助かりです」
――――――
藤原さん「その代わり、日本各地で災害が起きたら真っ先に出向かなくちゃならないから、台風や地震の速報が来る度にビクついた日々を送ってはいるがな」
藤原さん「早速だが、トウカイテイオーの両親が『今回の『ジャパンカップ』出走の件はまったく知らなかった』という証言を得ている」
藤原さん「元々、去年の『有馬記念』での三度目の骨折から段々と連絡する頻度は少なくなっていたようだが、少なくとも月に一度は連絡はするようにしていたらしい」
――――――
斎藤T「いい家族ですね」
――――――
藤原さん「お前さんは唯一無二の肉親や面倒を見てやってる俺を心底心配させてきた悪童だがな」
藤原さん「でだ。トウカイテイオーが秋の頃からトレーニングに姿を見せるようになっていたから、近い内にレースに復帰するだろうことは巷で噂されていたが、」
藤原さん「まさか、その状況に便乗して“成り代わり”を実行するとはな……」
藤原さん「やられた本人からしてみればたまったもんじゃないが、感動の復活劇が偽物による成り代わりだなんてことを公表する勇気を持つものは誰もいないだろう……」
藤原さん「そんなことをしたら信頼で成り立つ人類社会が崩壊しちまうから、この件は何としてでも闇に葬らなくちゃならねえ……」
――――――
斎藤T「それだけじゃないですよ」
斎藤T「やつら、岡田Tの休職を利用して岡田Tに成り変わって職場復帰したり、銀行口座の変更届など提出したりと好き勝手にやってました」
斎藤T「いよいよ“世界的な未確認侵略生物”の本領発揮と言ったところですね」
――――――
藤原さん「……厄介だな」
藤原さん「今回はたまたまお前さんが“皇帝”陛下の勅命で先に動いていたから、状況証拠からWUMAの成り代わりを見抜くことができたが、次はそうはいかん」
藤原さん「おっと――――――」
シンボリルドルフ「テイオー!」カランカラン!
トウカイテイオー「か、カイチョー……!」
シンボリルドルフ「無事でよかった!」ギュウウウ!
トウカイテイオー「え、ええええええええええ!?」
トウカイテイオー「か、カイチョーがボクのことを抱き締めて――――――」ドキドキ!
藤原さん「――――――“皇帝”陛下がおいでなすった」
藤原さん「それじゃ、こっちの方で要人保護の方針を練るから、そっちはヘマするんじゃねえぞ」
――――――
斎藤T「はい!」ピッ
斎藤T「………………なんでこんなことに!」ギリッ
斎藤T「いや、成り代わりを許す隙と奪い取れる名声を考えるなら、長期休養中のトウカイテイオーと長期休職中の岡田Tが狙い目だったってわけか!」
斎藤T「やつらの今回の動き、確実に
斎藤T「調整ルームでの身体検査の記録を見る限り、『骨折が完全に治癒した』とあるが、『そもそも骨折していない』んじゃないのか?」
斎藤T「……解説・実況の人たちは本当によく見ているよ」
斎藤T「あの偽物の正体が本当に2年目:クラシック級の時の
斎藤T「WUMAの擬態は擬態対象の現状だけじゃなく過去の状態も再現できるというわけか」
斎藤T「これはもうお手上げだな。人類科学の敗北だ」
斎藤T「唯一の希望はこの“
――――――まさに私が適任者ってことか!
第八種接近遭遇。宇宙人の侵略はすでに始まっていた。
私は“皇帝”シンボリルドルフの計画;“悲運の天才”トウカイテイオーを生徒会役員に入れてトレセン学園の未来を繋げるための行動を“聖蹄祭”からし始め、
計画の要となるトウカイテイオーの担当トレーナーである岡田Tを復帰させるために個人情報をもらって接触を図ることになったが、
去年の『有馬記念』で発覚したトウカイテイオーの三度目の故障によって、ついに休職することになった岡田Tは写真の人物とは随分と様変わりしていた。
一計を案じて“皇帝”シンボリルドルフに贈り物を用意させて配達員を装って岡田Tのアパートに侵入すると、予想通りの代物が次々と見つかった。
結論から言うと、トウカイテイオーの担当:岡田Tもメジロマックイーンの担当:和田Tと同じく自殺を考えていたぐらいに追い詰められていた。
ただ、メジロマックイーンの場合は『名家』メジロ家とのしがらみから逃げたいワガママもあったことから、それは『ターフの上で死ぬ』という決意の下の心中未遂となったのだが、
『別離』ではなく『孤独』が原因で岡田Tはひっそりと死ぬことを考えていたようであり、それを後押しする三度目の故障が発覚した当時の世間の声には心身を凍えさせるものがあった。
元々 トウカイテイオーの担当である岡田Tは好敵手であるメジロマックイーンの和田Tよりもベテランであり、
実際、“皇帝”シンボリルドルフがトレセン学園中等部に入学したのと同じくして配属になった新人トレーナーとして、“皇帝”の神威をリアルタイムで見てきた世代であった。
そのため、新人だった頃の彼自身も“皇帝”シンボリルドルフに魅せられて シンボリルドルフのようなスターウマ娘の担当トレーナーになることを目指した人たちの一人であり、
そうして自身と同じく“皇帝”シンボリルドルフに憧れる才気煥発の“天才ウマ娘”トウカイテイオーと出会ったことで同じ夢を持つ二人三脚の旅が始まった。
まさしくシンボリルドルフの再来とも言える圧倒的な走りと魅力で“クラシック三冠バ”も確実視されていたトウカイテイオーだったのだが、
まさかの“三冠”達成を目前にして骨折が発覚して一生に一度しかないクラシック戦線からの脱落――――――、
そして、今度は“生涯無敗のウマ娘”を目指すものの、好敵手:メジロマックイーンに敗れた上に再び故障――――――、
それでも、二度目の故障から復帰して『ジャパンカップ』で優勝し、『有馬記念』の優勝も目指すが――――――。
そこからは何度も言われているとおり、三度目の復活は絶望視されており、ついに今シーズンの出走はまったく見られなかった。
だが、世間の反応とは裏腹に 秋の頃からトウカイテイオーがトレーニングしている様子が学園でも見られたように トウカイテイオーは決してあきらめていなかったのだ。
さすがは“皇帝”シンボリルドルフが自身の後継者として認めただけあり、故障から復帰していきなり『ジャパンカップ』で優勝を果たすだけのずば抜けた才覚の持ち主だ。
そして、当初は岡田Tも『二度あることは三度ある』としてトウカイテイオーの三度目の復活を目指していろいろと年間計画を立てていたことがデータ上で発見された。
それを見る限りは今年の1月まではトウカイテイオーの三度目の復活のために奔走していたようだが、2月で鬱状態となって休職した辺りまでだと推測できる。
そう、担当ウマ娘の三度の故障を受けて、ついに世間や周囲からのダメトレーナーの烙印を押されて
というより、本当は奇跡の復活劇であった去年の『ジャパンカップ』で引退させるつもりだったのが、奇跡の勝利を収めてしまったことで『有馬記念』の出走枠をもらってしまったのが運の尽きだったのだ。
ファンからの人気投票で参加資格が得られる“春秋グランプリ”の『有馬記念』に選出されるぐらいなのだから、本当にトウカイテイオーの人気は凄まじかった。
しかし、それ以上の無茶をやれば また故障するのが目に見えていたものの、担当ウマ娘の熱意とファンを思う気持ちに根負けして『有馬記念』の出走を認めてしまった結果が――――――。
そのため、担当ウマ娘と担当トレーナーの間に三度目の故障の原因となった『有馬記念』出走の是非を巡ってお互いが自分の非であるとして擦れ違うことになった。
それでも、トウカイテイオーは担当トレーナーが最初に立てた三度目の復活計画を信じて、今度こそ故障しないように孤独にトレーニングを積み重ねていったのだが、
今年の『ジャパンカップ』の開催時期になっても担当トレーナーからの連絡がなかったのだから、とっくの昔にトレーナーからも見放されていたことに気づかなかったバカなウマ娘として絶望していたのであった。
それが今日の出来事であり、私が“
それまでの間、『ジャパンカップ』にハッピーミークが出走しないおかげで自由時間があった私は、翌月までに岡田Tにトレセン学園に復帰してもらうことを目標に近隣住民に扮して岡田Tに密着することになり、
しかし、それまでトレセン学園から離れていたことによって、『ジャパンカップ』にトウカイテイオーが出走する手続きがすでになされていたことに気づくのが遅れてしまった。
知らぬのは担当トレーナーと担当ウマ娘という不可解な状況から、私はWUMAの侵略がこのように密やかに巧妙に進んでいることをようやく悟ったのだった。
だが、それと同時に、かつてトレセン学園の暗黒期と忌避された“トレーナーによるトレーナーのためのトレーナーのウマ娘レース”が開催されるようになった経緯も理解できてしまった――――――。
たしかに、実際に出走するウマ娘にとっては“クラシック三冠”に代表されるように一生に一度しかない人生の一番大切な時期ではあるものの、
実はトレーナーにとっても自身の夢を託すに値する
そして、その夢を託して夢破れたトレーナーはこうして岡田Tのように鬱病になるぐらいに自身を追い詰めることも多々あったようである。
それはトレセン学園の生徒が自主退学するのと同じぐらいの割合でトレーナーが自主退職する数から見ても明らかであった。休職しているトレーナーも少なくない。
――――――絶対の王者の存在は無辺に拡がる絶対の敗者の骸の上にあったのだ。
事実、勝負の世界とは非情であった――――――。
たとえば、“クラシック三冠”の『皐月賞』は「もっとも速い馬が勝つ」のに対して、『日本ダービー』は「最も幸運な馬が勝つ」、『菊花賞』は「もっとも強い馬が勝つ」となっている。
この3つの要素を全て兼ね備えた世代最強のウマ娘こそが“クラシック三冠ウマ娘”というわけであり、それはトレーナーにとっても、ウマ娘にとっても、最高の目標であるのだ。
だが、その栄光を掴めるのはその世代でたった一人のウマ娘であり、そんな最高のウマ娘と同じ世代でデビューしてしまったら、他のウマ娘たちは引き立て役としての評価しかくだされない。
そうなると、その世代のウマ娘たちもそうなのだが、そのウマ娘の担当トレーナーへの評価も加点しようがなく、多くのウマ娘とトレーナーたちが恨めしそうな目で頂点を見上げるのだ。
――――――その栄光の影で綿々と紡がれてきた怨嗟の声こそが トレセン学園のかつての暗黒期をもたらしたのである。
そう、結局は今のトレセン学園の黄金期も、かつての暗黒期とはコインの裏と表であり、その繁栄は長く続くことは決してないのである。
“皇帝”シンボリルドルフが求める絶対的な実力主義と成果主義によって、たしかにトレセン学園に集まる生徒の能力水準は高まり、かつてないほどの活況を見せているが、
その結果として“皇帝”シンボリルドルフに続く絶対の王者の存在が生まれづらくなり、総生徒数2000名弱もいるトレセン学園の統率が失われようとしている。
秋川理事長が強行したこれまでになかった自由な気風の学園生活は当然として深刻な風紀の乱れに繋がっていたのだが、それを許容範囲にまで抑止できていたのは偏に“皇帝”の威厳あってのものだった。
つまり、自由には責任がつきものであり、拡大した自由を制御するためにはそれだけの責任ある存在による統制が必要不可欠なのだ。
しかし、“皇帝”と渾名されるシンボリルドルフと言えども、所詮は中高一貫校の一生徒に過ぎず、終身執政官などではない。
そう、中高一貫校の生徒として卒業していかねばならない社会のルールによって代替わりをしていかなくてはならないわけなのだが、
“皇帝”シンボリルドルフはあまりにも長く総生徒数2000名弱のトレセン学園の頂点たる偉大な長でありすぎたのだ。
そうなると、代替わりの必要がない労働者であるトレーナーの影響力が次第に学園内で増すのは当然の結果であった。
人間の心理とはいいかげんなもので、優駿たちの頂点に立つ絶対の王者の存在によって日陰者になった層が数多く誕生することによって、
その日陰者たちが自分たちが受けた悲しみをこれ以上拡げないようにしようとする優しさと利害の一致から真剣勝負の世界に『待った!』を掛けるようになっていくのだ。
つまり、トレセン学園の黄金期は外野席のファンに多くの夢と希望を与えていく一方で、そこで走るウマ娘やトレーナーたちの夢と希望を奪っていく矛盾によって支えられ、
一方で、トレセン学園の暗黒期は外野席のファンに偽りの夢と希望を与えながら、そこで走るウマ娘やトレーナーたちにも偽りの夢と希望を与える虚飾に彩られているものなのだ。
いったいどちらがマシなんだろうか――――――。
正々堂々の実力主義と成果主義こそが一番に公平と思えるのだが、実際に大多数の人間の心理とはそこまで思慮が足りていることはほとんどない。
誰だって負けたら悔しいし、負けたやつをボロカスに言いたくなるのが人間の性分だ。
そして、成功者のことを無条件に妬む負け組がいるのは歴然とした事実であり、得てして そうした連中は愚痴愁嘆や不平不満ばかりを喚く口舌の徒と化すのが常だ。
そこから『出る杭は打たれる』わけであり、それによって組織が壊滅することも人類の歴史の中で繰り返されてきた出来事であり、
やがて、正々堂々とぶつかり合って互いに傷つき倒れるようなら とても未来は切り拓けないことから談合をするようになるのも自然の成り行きと言える。
――――――各方面の不平不満を抑えるために 談合を行ってレース結果を操作して 万遍なくみんなに実績を積ませることの何がいけない?
――――――話し合いで解決することを至上とするのなら、闘争や格差を生み出す真剣勝負の世界は平和を求める声に反する戦争行為なのでは?
そういったもっともらしい屁理屈が罷り通ってしまうようになるのが暗黒期の影を出現させる黄金期のまばゆい輝きであった。
ただ、そんなのは
結局は針小棒大――――――、マクロな視点とミクロな視点を都合よく使い分けて己に利するように口を利いているだけに過ぎない話だ。
だが、今はそんなことはどうでもいいのだ! そんなのはお偉いさんが判断することであって! 目の前にある問題と比べたら!
私が今一番に許せないのが他人の成果を自分のものとする剽窃行為や略奪行為であり、
それは今回の『ジャパンカップ』における偽りのトウカイテイオーの復活劇の真相を知る者として必ずや報いを受けさせようと強く心に誓った。
それでも、“皇帝”シンボリルドルフが“ヒトとウマ娘の統合の象徴”たろうとする御心が間違っているはずがないから。
――――――今に見ていろ!