ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-西暦20XX年08月01日の航星日誌- GAUMA SAIOH
先日は2期先輩の桐生院Tの非常に興味深い講義を受けることができた。
さすがは代々優秀なトレーナーを輩出してきた名門であるだけに、トレーナーとウマ娘の関係の理想像を明確に示してくれた。
そして、先輩の担当ウマ娘:ハッピーミークの仕上がりは上々であるらしく、
年の瀬に開催される 破天荒なちびっこ学園理事長の宣言で設立された新レース『URAファイナルズ』の初代チャンピオンの座を目指し、
先月の夏合宿を終えてからの更なる飛躍に向けて高度なトレーニングを積む運びとなった。
しかし、未来人の私にはちびっこ学園理事長の試みがどう壮大なのかがピンとこない。
どう凄いのかを先輩に訊くと、年の瀬で トーナメント形式で 全国各地から名バたちが一堂に集まるだけでも驚きなのに、
【短距離】【マイル】【中距離】【長距離】、そこに【芝】【ダート】のちがいもあって、全部で8部門のレースを同時開催することが前例のない話らしい。
興行の面から言えば、トーナメント形式のオールスター揃いのそれぞれの部門の優勝バを予想するだけでも途方も無い大金が動くそうなのだが、
今回は更にこの全8部門の優勝バを当てることができたら、それ以上にとんでもない金額が動くそうなんだから、
賞金ランキングを目指すウマ娘やトレーナーにとっても決して無視することができない最大規模のお祭りになるんだそうだ。
当然、先輩はトレーナーの名門:桐生院家の人間として参加し、史上最大のレースを愛バ:ハッピーミークと勝ち抜くことを誓う。
私も先輩のチームの一員として正式に登録されて、トレセン学園のトレーナーとしての実績を積むことになった。
正直に言うと、周りの連中からは”勝ちウマに乗った”新人トレーナーとして白眼視されているのだが、
先輩は私の為人と能力を直に確かめて全面的に信用して担当ウマ娘:ハッピーミークの最終調整を任せてくれているのだ。
それならば期待にお応えして、波動エンジンの開発エンジニアにもなった人類最高クラスの叡智によるタスクマネージメントを披露しなければなるまい。
しかし、そんな時に3ヶ月間の意識不明の重体から復活して退院した斎藤 展望を訪れる者がいた。
そして、私はようやく斎藤 展望がトレセン学園のトレーナーになった本当の理由を知ることとなったのであった。
斎藤T「――――――『皇宮警察』ですか?」
藤原さん「……本当に記憶喪失になっているんだな、
斎藤T「すみませんが、藤原さんは“斎藤 展望”の何です?」
藤原さん「……お前さんの妹の面倒を見てやっている大の恩人なんだがなぁ」
斎藤T「――――――『妹』ですか?」
藤原さん「お前さんの生き甲斐だったろうに」
藤原さん「まあ、3ヶ月間の眠りから目覚めたって報せを聞いたのは つい先日だったんだ……」
藤原さん「迎えに行ってやれなくてすまなかった……」
斎藤T「――――――『迎え』?」
藤原さん「ああ、そうだ。お前さん、妹さんのために何だってするやつだったからな」
藤原さん「おふくろさんが皇宮警察の騎バ隊だった繋がりで、トレセン学園のトレーナーになったんだぞ」
藤原さん「それすらも忘れたのか?」
斎藤T「すみません……」
藤原さん「……花形職業の高給取りになったのも束の間、担当ウマ娘が決まらなくてお前さんは焦っていたそうだ」
藤原さん「まあ、新人トレーナーなら配属されて早々に担当ウマ娘を決めて勝負に出る必要もないわけなんだが、」
藤原さん「お前さんの場合は妹の養育費や治療費のために少しでも金が欲しくて欲しくて仕方がなかったからな」
藤原さん「ウマ娘を――――――というよりは自分以外の他人なんだが、金儲けの道具と考えているのは生徒会長に見破られていたぐらいだ」
藤原さん「だから、トレセン学園でのお前さんの居場所はなくなってたんだよ、とっくの昔に」
藤原さん「そこに不慮の事故とは言え、学外でウマ娘との衝突事故で意識不明の重体だ。印象最悪だろう」
斎藤T「そういうことだったのか……」
藤原さん「そういうわけだから、こんなところにいたところで やりづらいだけだろう?」
藤原さん「だいたい、妹さんのために命を張って高給取りになったっていうのに、焦りから身を滅ぼしてどうするんだっての」
藤原さん「ほら、荷物を畳んで妹さんに心配掛けたことを詫びてきな」
斎藤T「そのことについてなのですが、先程 2期先輩の桐生院Tのチームの一員になることができたので、学園を去るのはまだ早いです」
藤原さん「ん、そうなのか? お前さん、妹さんが不幸なのに相変わらず変なところで運がいいよな」
藤原さん「それなら、記憶喪失になったお前さんを好き好んでチームの一員にしてくれたんだ。しっかりと恩に報いてやりなよ」
斎藤T「もちろん、そのつもりです。もう無理はしません」
藤原さん「最初からそれぐらいの落ち着きと素直さがあれば、問題を起こさずにすんだろうにな……」
藤原さん「わかった。まだこの学園でやれることがあるなら、やってみせればいいさ」
藤原さん「曲がりなりにも念願の高給取りになったんだから、妹の養育費や治療費に関しては気にすることはない」
藤原さん「ただ、ちゃんと妹さんには元気な姿を見せてやるんだぞ。わかったな?」
斎藤T「はい、わざわざありがとうございます、藤原さん」
藤原さん「お前さん、今 澄んだ眼をしているな」
斎藤T「え」
藤原さん「いや、お前さんの眼はずっとギラギラしてて、自分の眼中にないものはとことん無視するから、」
藤原さん「俺とこうしてしっかりと目を合わせて話したのも随分と久しぶりのことに思えてな……」
藤原さん「記憶喪失とは言え、本当に別人のようだな」
斎藤T「……そうですか」
――――――数日後のオフの日
藤原さん「待たせたな。さあ、乗れ」
斎藤T「はい」
藤原さん「さて、4ヶ月ぶりに最愛の妹に会うわけだが、あれから少しは思い出せたか?」
斎藤T「いえ……」
藤原さん「まあ、正直に言うと、お前さんはこのまま記憶を取り戻さない方がいいかもしれんな」
藤原さん「ウマ娘のレースで言えば【逃げ】の戦略なんだろうが、生き急ぎ過ぎて故障するのは目に見えていたからな」
藤原さん「それに妹さんはお前さんに自分のことで無茶して欲しくないと願っていたことだし、これで良かったのかもしれんな」
斎藤T「…………皇宮警察の騎バ隊のお仕事ってどういうものなんです?」
藤原さん「そんなのはネットで調べてくれ」
斎藤T「いや、以前に『おふくろがそうだった』と言っていたので」
藤原さん「ああ なるほどな。それはたしかに憶えておかないといけない話だな。親のお勤めのことを知らんのは親不孝だ」
藤原さん「まず、皇宮警察は警察庁に置かれている附属機関のひとつで、国家公務員ということになるな」
藤原さん「勤務体制は四交替勤務制。天皇及び皇后、皇太子その他の皇族の護衛、皇居及び御所の警衛、その他皇宮警察に関する事務を執り行っている」
藤原さん「まあ、部署についてはどうだっていいか」
藤原さん「とにかく、お前さんのおふくろは天皇陛下ならびに皇后陛下の護衛を担当した世界でもトップクラスに誉れあるウマ娘だったというわけさ」
斎藤T「え? 私はウマ娘から生まれたヒトなんですか?」
藤原さん「そうだぞ、まさか そんな社会常識すら忘れたのかよ」
藤原さん「お前さんの妹はウマ娘だ」
斎藤T「!」
藤原さん「ウマ娘はその名のとおり女性だけの種族。“ウマ息子”なんてのはいないわけだ」
斎藤T「それなら、ヒトの女性の社会的価値はどういったものになっているんです?」
斎藤T「だって、結婚相手にウマ娘を選べる上に、ヒトの男子も生まれるなら、ヒトの女性の価値は相対的に下がりますよね?」
藤原さん「ああ? 随分と学術的なことを訊いてくるな? 妹と金のことしか考えていないやつから本当に様変わりしたな……」
藤原さん「まあ、そこはうまいこと棲み分けがされているんだな、これが」
藤原さん「基本的にウマ娘から生まれた子供は母親の因子を色濃く受け継ぎやすく、お前さんのように妹と金のために全力疾走する精神構造にもなりやすい」
藤原さん「要は、ウマ娘の強烈なまでの『勝ちたい』『負けたくない』という欲求を本能として持って生まれるわけだ」
藤原さん「だから、見た目はヒトであっても精神構造がウマ娘に等しいハーフはいくらでもいる」
藤原さん「そして、レース以外でも、たとえば大食い競争やミスコン、ただのトランプゲームに至るまで、勝負事となると熱くなりがちで、強いウマ娘ほど この欲求が強いことがわかっている」
藤原さん「そこがウマ娘の最大の魅力でもあり、致命的な爆弾にもなっているわけだ」
斎藤T「ヒトよりも繊細な生き物であるのに、闘争本能が強いことで、短命に陥りやすいわけですか」
藤原さん「ああ。ヒトよりも優れた身体能力や闘争心がある反面、それが安定した暮らしを求めるヒトの社会システムに適合しなくてな」
藤原さん「だから、ウマ娘はヒト社会において抑圧された存在としての不自由も抱えて生きていることになる」
藤原さん「だが、ヒトのように安定した生活と長生きがしたいからこそ、ウマ娘たちは自分たちの能力と本能を理性的に抑えられる枠組みを受け容れているわけだ」
藤原さん「それを踏まえて、ヒトの女性とウマ娘のどちらと結婚したいかの調査結果は『圧倒的にヒトの女性と結婚したい』という答えになった」
藤原さん「そんなわけだから、ウマ娘はお前さんが心配するような侵略的外来種じゃない。わかったな?」
斎藤T「はい。理解できました」
藤原さん「ついでに言っておくと、お前さんが務めるトレセン学園に通っているようなのは
藤原さん「まあ、細かく言えば
藤原さん「つまり、お前の親父さんは皇宮警察の戦闘バのトレーナーで、お前さんはトレセン学園の競走バのトレーナーということで求められる能力がまったくちがう」
藤原さん「お前のおふくろさんは戦闘バという文字通りウマ娘の戦士であり、ヒトなどでは到底太刀打ちできない優れた身体能力を発揮する最強のボディガードだった」
藤原さん「バチカンのスイス衛兵に所属する戦闘バと比べたら圧倒的に質ともに格が上のな」
藤原さん「まあ、ウマ娘が繊細な生き物である分、ヒトよりも過酷な労働には耐えられないという弱点はあるが、そこはヒトとウマ娘の適材適所だな」
斎藤T「なるほど。勉強になります」
藤原さん「まあ、お前の両親については非常に残念なことになったが、」
藤原さん「――――――改めて忠告させてもらうぞ、テン坊」
藤原さん「お前さんも妹も、ウマ娘の子として生まれてきた以上は、ウマ娘の因子に由来する闘争本能と上手に付き合っていかなくちゃならない」
藤原さん「特に、両親が皇宮警察;皇宮護衛官で天皇陛下と皇后陛下の護衛を務めたともある誉れある出自に誇りを持っていたからこその今日までの失敗だ」
藤原さん「あまり思い詰めんなよ。一人で突っ走んなよ」
藤原さん「俺も警察の人間としてウマ娘の因子を危険因子として見たくはないんだ」
藤原さん「だが、カッとなったウマ娘がいろんな意味で突っ走ったらヒトじゃ手に負えねえからな」
藤原さん「しっかりしてくれよ。犯罪をしない無辜の連中が大半なんだからな、世の中ってのは」
斎藤T「はい、心に刻んでおきます」
藤原さん「さて、そろそろ着くな。その前に何か腹拵えのついでに、土産物でも買っておけ」
藤原さん「そうだ。ウマ娘に人気のものを選んでおけよ。それも戦闘バと競走バのちがいも考慮してな」
斎藤T「わかってますって」
――――――血の宿業か。ウマ娘の闘争本能というやつには十分に気をつけておこう。
●プロフィール(20XX年当時)
名前:藤原 秀郷
年齢:50代前半
所属:警視庁警備部災害対策課
血統:父親(ヒト) / 母親(ヒト)
誕生日:03月07日
身長:175cm
体重:災害が起きる度に不規則な生活で磨り減るが、すぐにリバウンドする
体格:現場に出ることが少なくなったせいで弛んできた
好きなもの:家族(斎藤家の忘れ形見もその範疇)
嫌いなもの:家族を脅かすもの
得意なこと:面倒見の良さ
苦手なこと:家族サービス