ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第11話秘録 黄金の羅針盤が導く未来

-シークレットファイル 20XX/11/25- GAUMA SAIOH

 

今年の『ジャパンカップ』は1着:ミホノブルボン、2着:トウカイテイオー’、3着:ナイスネイチャとなった。

 

まさかの三度目のトウカイテイオーの復活に日本中が沸き立つ中、あのトウカイテイオー’が偽物であることを知っている私は抹殺の機会を窺っていた。

 

完璧に擬態して対象と入れ替わる“WUMA”の存在が世に知れ渡った場合、信頼で成り立つ人類社会が崩壊してしまうことから、絶対に闇へと葬らなくてはならなかった。

 

そのため、何食わぬ顔でウイニングライブを見終わった後、もう一人の偽物である岡田T’もまとめて始末するためにC4爆弾をセットしていたが、藤原さんの連絡で見逃すことになった。

 

そして、藤原さんから作戦中止の理由を問い質した時、思わずC4爆弾の起爆装置を握り潰しそうになっていた。

 

 

なんと、“皇帝”シンボリルドルフが互いの存在理由を賭けて()()()()()()()()()()()()()()T()()()()()()()()()()()()()ように命を下したと言うのだ。

 

 

相手が8月末の学生寮不法侵入事件の真犯人であるWUMAであったとしても、今年の『有馬記念』で優勝したら自分の後継者として来年1月の生徒会総選挙で生徒会メンバーに推薦するとのこと。

 

つまり、『有馬記念』の出走権を賭けて事前に本物と偽物が模擬レースを行うわけなのだが、その後に『有馬記念』で優勝しなければトウカイテイオーのことは完全に切り捨てるという宣言であった。

 

もっとも確実に偽物2人を始末できるタイミングは今まさにここしかないという時に、“皇帝”は人類の未来よりもトレセン学園の未来を選んだのだ。

 

しかも、自分の後を継ぐトレセン学園の指導者になるならトウカイテイオーが本物か偽物かどうかなど関係ないと言い切ったのだ。

 

たしかに、WUMAは擬態対象の記憶や精神まで再現してしまうため、WUMA自身の意識がなくなって擬態対象そのものに成りきってしまうことがあるのは知っている。

 

しかし、それが成り立つのは擬態対象が実験大好きで部屋に閉じこもりがちで人前に姿を晒さないような頭のおかしい人間;()()()()()()()()の存在を歓迎するような人格破綻者ぐらいで、

 

闘争本能と自尊心が強いウマ娘にとっては()()()()()()()()に自分が走る舞台を奪われることは屈辱以外の何物でもない。

 

ましてや、三度目の復活を期して担当トレーナーが休職になっても一人でもトレーニングを続けていたようなトウカイテイオーが受け容れるはずがない。

 

 

――――――問答無用。それが“皇帝”陛下の覚悟というわけなのか。

 

 

ならば、元からトレセン学園の門外漢である私としてはこれ以上の口出しは無用というもの。

 

結果として、“皇帝”の命を受けて岡田Tに近隣住民を装って私がメンタルケアを行っていたのは無駄とはならず、

 

『ジャパンカップ』にて2人に擬態したWUMAを見た瞬間にゴールドシップに依頼して()()()()()()()にて無理やり担当ウマ娘と引き合わせたことで、

 

トウカイテイオーと岡田Tは次こそが最後として再び夢の舞台に自分の足で立つために人知れず再起することになり、2人の身柄はシンボリ家で秘匿されることとなった。

 

その間、“皇帝”シンボリルドルフは2人に擬態したWUMAの監視を自ら行うことにしたのだ。

 

そのため、これ以上の追跡は不必要だとして、藤原さんから引き上げるように指示を受けた――――――。

 

 

しかし、そうは問屋が卸さない。手出しが無用だとしても『WUMAの擬態する基準や目的がわからない』という最大の謎に迫るために追跡は続行した。

 

 

宇宙移民にとって先制的自衛権の行使は合法であり義務なのだ。

 

そのために宇宙移民船のクルーは拳銃やもちろん、擲弾発射器(グレネードランチャー)狙撃銃(スナイパーライフル)の訓練も受けている。

 

それらは惑星開拓における狩猟や発破のために必須の生活技能としての側面もあるため、VR訓練によるものだとしても――――――否、仮想空間でのイメージトレーニングのおかげで、

 

こうして21世紀のウマ娘のハーフの身体になった現在でも、FPS(ファーストパーソン・シューティング)ゲームで精密にモデリングされている銃器の動作を見ているだけで大体の使用感がわかるぐらいだ。

 

しかし、ここは惑星開拓における無法地帯ではないため、猟銃(ハンティングライフル)すら簡単に手に入れることができないので、C4爆弾による爆殺が一番確実だと思われた。

 

そう、もしかしたら人の目がないところで秘密の集会を開いている可能性があるため、そこにC4爆弾を仕掛けておくことができたら一網打尽にできる。そこが狙い目だ。

 

 

そして、レースが終了してトレセン学園に凱旋する偽物2人に発信機を取り付けて、指向性マイクや望遠監視カメラを携えて夜通しで監視し続けていたところ、早速 大物の姿を捉えることに成功した。

 

 

しかし、その大物こそが目下最大の問題であり、怪人:ウマ女との戦い――――――疑心暗鬼に打ち克つことの困難さを象徴するものであった。

 

『天皇賞(秋)』の時に初めてその真価を発揮した“黄金の羅針盤(クリノメーター)”は指し示す。そいつは偽物であると。討つべき敵であると――――――。

 

行方知れずだった和田Tやトウカイテイオーの居所を指し示してくれた“黄金の羅針盤(クリノメーター)”のことを信頼してないわけじゃない。

 

だが、“黄金の羅針盤(クリノメーター)”のことを全面的に信用して それが外れた場合のリスクを考えると、この場で抹殺に動くべきかの判断ができなかったのだ。

 

もしかしたら“黄金の羅針盤(クリノメーター)”が間違っているかもしれない――――――。

 

そもそも、金ピカの傾斜計(クリノメーター)なんてふざけた代物に合理性の欠片なんてないのに、これまで藁にもすがる思いで頼り切りになっていた方がおかしいのだ。

 

しかし、やつらの侵略は密やかに巧妙に進んでいる。

 

どうにかして自分から正体を現すように誘導する手段はないものかと必死に考えながら大物を追跡していると、その絶好の好機が訪れたのであった。

 

 


 

 

シンボリルドルフ’「――――――」

 

 

斎藤T「結局、あれは本物なのか、偽物のなのか――――――、指向性マイクにも限界がある」

 

斎藤T「学生寮に侵入できない以上は高所からの直接の監視と学生寮の監視カメラで追跡できているが、」

 

斎藤T「わざわざ深夜に外に出てトウカイテイオー’と2人きりで話をするだなんてこと、普通するか?」

 

斎藤T「…………“黄金の羅針盤(クリノメーター)”は正確にシンボリルドルフの方向を指し示している、か」パカッ

 

 

私はトレセン学園に凱旋した偽物のトウカイテイオー’と岡田T’の監視を続け、それぞれが学生寮とトレーナー寮に帰り着いた後も監視し続けていた。

 

トレーナー寮の岡田Tの部屋にはすでに監視カメラや盗聴器を仕込んでおいたので、生徒以外は進入できない学生寮の方に目を向けていた。

 

どう考えても学生寮の監視カメラはスタンドアローンにしておくべきなのだが、そうなるとERT(緊急時対応部隊)が監視カメラの映像を基に適切な対応(オペレーション)ができなくなるため、

 

結局、学生寮の監視カメラがERT管轄のサーバーに接続されていることから、こうして外部の人間が学生寮を覗き見ることができた。

 

もちろん、部屋の中にまでは監視カメラは入っていないのでプライバシーの保護はなされているから、そこは安心して欲しい。

 

また、トレセン学園の生徒は21世紀に普及したPDA(携帯情報端末)でインターネットを閲覧しているため、そのままだと基地局のサーバーに侵入する手間が掛かるのだが、

 

学生寮に居る時は普通に学生寮のWi-Fiスポットを使っているので、そこから情報を盗み見ることは非常に簡単であった。

 

やはり21世紀、情報通信技術がまだまだ原初的でその場で解体できるような脆弱さが目立つ。

 

これによって、我が物顔で自室に帰っていった偽物のトウカイテイオー’の動きは視覚的・電子的に監視されており、不穏な動きはすぐに察知できるようになっていた。

 

なので、わざわざ私自身が夜通しで肉眼で塀の向こう側にある学生寮を見下ろせるトレセン学園の本校舎屋上で監視する意味はほとんどないのだ。

 

エアシャカールが部長を務める電算部のスーパーコンピュータやサーバーの機能を少しばかり借りるだけで、トウカイテイオー’と岡田T’の監視体制は万全に整ったのだから。

 

しかし、何となくだが、12月を迎えようとする深夜の寒空の下で初日ぐらいは監視しておくことにしたのだ。

 

 

そしたら、深夜の寒空の下でトウカイテイオー’が突如として外に出てシンボリルドルフ’と何かを話し合っていたのだ。

 

 

指向性マイクで物理的に盗聴しようと思ったが、さすがにそこまでの万能性はない。

 

話している内容は不明だが、部屋に戻ったトウカイテイオー’がボロを出すのを期待しながら、慎重に監視カメラでシンボリルドルフ’を追跡していく。

 

ここでケータイを鳴らしてみようとも思ったのだが、それはシンボリルドルフ’が自室に帰り着くタイミングにしておくことにした。

 

さしもの、怪人:ウマ女も多くの生徒が寝静まっている学生寮で不意にケータイを鳴らされたら迂闊な行動がとれなくなるはずだ。

 

もっとも、電源を切っていたり、マナーモードに設定されていたり、そもそも持ち歩いていなかったりした場合は空振りに終わるが、

 

すぐに応答しなかった場合は 些細なことだが その点を突いて問い詰めることもできるはずだ。やって損はない。

 

 

そして、私は“黄金の羅針盤(クリノメーター)”を何度も見て、それが指し示すものがシンボリルドルフ’であることを何度も確かめることになった。

 

 

この“黄金の羅針盤”だなんて呼ぶことになった金ピカの傾斜計は『天皇賞(秋)』の前に妹:ヒノオマシと一緒にショッピングに行った帰り、

 

アグネスタキオン(アグネスターディオン)の脚に使われて大量の荷物を部活棟に運び入れる際に、

 

謎の発光現象を起こしていたトレセン学園の中央広場にある三女神像の噴水を調査していた時にどこからともなく降ってきたものだった。

 

正確にはこのタイプの傾斜計は『ポケットトランシットレベル(ブラントンコンパス)』と呼ばれるものであり、磁石,気泡水準器,鏡,照尺,錘をコンパクトに組み合わせた代物である。

 

地質調査の三種の神器の1つとされる傾斜計は野外で使うものなのだから、金ピカにしたら反射光が眩しいというわけで実用性皆無の悪趣味な代物であった。

 

しかし、それを回収した時に噴水の謎の発光現象が収まったことから、意外にロマンチストな彼女に言われるがままに、“三女神の祝福”としてお守り代わりに持ち歩くことにしていた。

 

実際、宇宙移民にとっては地質調査は必須の技能なので非常に馴染みの深い代物ということで、宇宙船開発へのモチベーションを維持するのに役に立った。

 

少し気晴らしに傾斜計を使って測量・測角していると、自分が23世紀の宇宙移民船のクルーだったことを鮮明に思い出せるからだ。

 

 

ところが、それが実はとんでもないオカルトグッズだったことが判明したのは『天皇賞(秋)』の繰り返される時の中であった。

 

 

最終的に“目覚まし時計”の故障によって『天皇賞(秋)』が繰り返されるのに巻き込まれた私は重要参考人である和田Tの居場所を探し当てるのにもっとも苦労することになった。

 

担当ウマ娘:メジロマックイーンがターフの上で死ぬのに合わせて多摩川に入水自殺し続けていた和田Tであったが、本当は心中なんて望んでいなかったためか、死ぬに死にきれなかったのだ。

 

そのため、永遠に死に続ける運命にあったのをターフの上で死に続ける担当ウマ娘も一緒に救うことが必須となり、結果として20回も時が巻き戻されることになった。

 

しかし、一度は心中することを決意した者を説得するのは容易ではなく、何度も巻き戻される時の中で誰も知らない壮絶なレースが開催されることになり、府中市内を駆け回ることになった。

 

その際に時の迷路で私を導いていくれたのが この金ピカの傾斜計“黄金の羅針盤”であり、

 

自分と同じように時が巻き戻っていることを認識している私から逃げ続ける和田Tのいる方角を何度も指し示すことになった。

 

また、気泡水準器を見れば自分から見て和田Tがいる角度がわかり、照尺で覗き込むことで目標の姿がはっきりと見えてしまう。

 

なので、“黄金の羅針盤”の使い方が段々とわかっていくことで、府中市内を惨めに逃げ回る和田Tの向かう場所を特定することが容易となり、

 

あとは死ぬしかないという絶望に囚われた和田Tを説得するために時が巻き戻される状況を利用して各方面の協力をありったけ取り付けて追い詰めることで、

 

死ぬことを断念した和田Tが 担当ウマ娘に対して これからもこの世界で一緒に生き続けることを告げることで、ようやく“目覚まし時計”の魔力から解放されたのだ。

 

 

そして、今回の『ジャパンカップ』においても状況証拠から東京競バ場に現れたトウカイテイオー’と岡田T’が偽物であることが即座にわかったため、

 

本物のトウカイテイオーと岡田Tの確保に奔走する事態となり、岡田Tに関しては以前から私が直接メンタルケアをしていたので確保は他人に任せられるぐらいに容易だったのだが、

 

問題は本物のトウカイテイオーが競バ場にいないならどこにいるかという話となり、すぐに怪人災害による静かなる侵略の被害者の安全確保のために藤原さんに出動してもらった。

 

そこでまたもや私が頼ったのが“黄金の羅針盤”であり、トウカイテイオーの最近の様子から復帰に向けてトレーニングしていたことは把握していたので、

 

“黄金の羅針盤”が指し示した方角に『ジャパンカップ』の放送を見ることができる場所がないかを藤原さんに伝えて、なんとか街頭ビジョンを見上げて立ち尽くしていたトウカイテイオーを発見することに成功したのだ。

 

 

このように()()()()()()()()として“黄金の羅針盤”はここ一番の時に成果を上げてはいるのだが、

 

こんな得体の知れないオカルトグッズに頼り切りになっているのは人間として間違っていると思っているからこそ、

 

『天皇賞(秋)』の時にシンボリ家やアグネス家などの『名家』も動かしてみせたり、問題の中心であるメジロ家にも首を突っ込んだりして、和田Tに死ぬことをあきらめさせることになった。

 

そもそも、“黄金の羅針盤”が指し示すものが意味するところが正確にはわからないので、裏を読んだり 裏の裏を読んだりするなど いろいろと悩まされてもいるのだ。

 

つまり、こんなものに縋るしかないぐらいに手詰まりの状態や極限状態でもない限りは無い知恵を絞ってギリギリまで冷静な判断で物事に対処すべきなのだ。

 

そんなわけで、十中八九 深夜に現れたシンボリルドルフ’が偽物であるという確信は持ちつつも、学生寮に突入することもできないまま、姿を消すところまで見届けようとした――――――。

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

斎藤T「この羽音は――――――」

 

斎藤T「またお前か、コーカサスオオカブト」パシッ

 

斎藤T「ヒノオマシのところからまたこっそり抜け出してきて今度はどうした? 寿命もそろそろなんじゃないか?」

 

斎藤T「それとも、あそこにいるシンボリルドルフ’が()()()()()手伝いをしてくれるのか? ――――――ウマ女だけに」

 

 

――――――さあ、来るよ。かまえて。

 

 

斎藤T「――――――っ!」ゾクッ

 

シンボリルドルフ’「そんなところに隠れていたのか、ケイローン」

 

斎藤T「……なに!?」

 

斎藤T「嘘だろう? いつの間に学生寮からトレセン学園の屋上まで――――――」

 

斎藤T「けど、それ以上に――――――」

 

シンボリルドルフ’「そうか。つまり、そのヤフーが()()()()()()()()()()()()()()の――――――」

 

シンボリルドルフ’「探す手間が省けたよ。ありがとう、ケイローン。そして、さよならだ」

 

斎藤T「待て!」

 

シンボリルドルフ’「…………ヤフーごときが我々に発言することは許されない」

 

斎藤T「……“ヤフー”っていうのは私のようなホモ・サピエンスのことを言っているのか?」

 

シンボリルドルフ’「それ以外の何だと言うんだ?」

 

シンボリルドルフ’「ああ……、この姿の持ち主は愚かにもヤフーとの絆なんかを信じているようだがね」

 

シンボリルドルフ’「……うん? 誰だ、この女がデビューした時からずっと記憶の中にいるこのヤフーは?」

 

斎藤T「――――――“皇帝の王笏”と呼ばれた伝説のトレーナーのことだ、きっと」ボソッ

 

シンボリルドルフ’「……なるほどな。この女はヤフーと肉体的な繋がりを持っているのか」

 

 

シンボリルドルフ’「薄汚れた女め!」

 

 

斎藤T「え」

 

斎藤T「――――――っ!」ギリッ

 

斎藤T「なら、その姿で語るな! バケモノめ!」

 

斎藤T「そもそも、ウマ娘はヒトと結ばれることで子をなす種族なのを知らないのか!」

 

シンボリルドルフ’「なるほどな。ヤフーに使役されてヤフーに媚び諂うことで生き永らえた()()()()()()()()というわけか」

 

斎藤T「――――――『我らが同胞の末路』?」

 

斎藤T「……まるで()()()()()()()()辿()()()()()のことを知っているみたいな口振りだな」

 

シンボリルドルフ’「……驚いたよ。知能指数から言って、ケイローンが言うことを理解できるヤフーがいるだなんてね」

 

斎藤T「え」

 

 

シンボリルドルフ’「そこまで知っているなら、()()()()()()()()()()()()である“ヤフー”をこの宇宙から消滅させるという我々の崇高なる使命も理解しているはずだ」

 

 

斎藤T「なに……」

 

シンボリルドルフ’「ならば、安心したまえ。我々は“ヤフー”とはちがう」

 

シンボリルドルフ’「我々は平和を愛する心を持ち、非常に知性あふれる高貴な精神性を持つ社会的生物だ」

 

シンボリルドルフ’「我々の適切な管理の下でならヤフーと言えども生存を許そうではないか」

 

シンボリルドルフ’「そう、きみのような()()()()()()()()の存在を求めていたのだよ」

 

 

シンボリルドルフ’「きみのような()()()()()()()()が見つかったとあれば、あとは繁殖に必要な数だけ確保しておけば、この星はヤフーの脅威から解放されることだろう」

 

 

斎藤T「な、何を言って――――――」

 

シンボリルドルフ’「そこのケイローンは我々の裏切り者だ。我々こそが悪の権化だと不遜にも言い放ったが、」

 

シンボリルドルフ’「それなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という矛盾が生まれないか?」

 

シンボリルドルフ’「我々はヤフーの脅威から宇宙を守る平和の使者なのだから、悪であるはずがないだろう?」

 

シンボリルドルフ’「だから、安心して我々の管理を受け容れたまえ」

 

斎藤T「詭弁だ! そんなのは嘘つきのパラドックスだ! 自分たちに都合がいいように問題を単純化して自己肯定しているだけだろう!」

 

シンボリルドルフ’「ふん――――――」

 

斎藤T「え――――――」

 

シンボリルドルフ’「ちっ」

 

斎藤T「なっ!? め、目の前――――――」

 

斎藤T「…………う、動きが見えなかった!? それどころか、動く前兆や気配すら感じなかったぞ!?」

 

シンボリルドルフ’「ケイローンめ、すばしっこい……」

 

シンボリルドルフ’「だが、我々の知性あふれる高貴な精神性を宿した肉体を捨ててまで得たヤフーにも劣る虫ケラの身体で満足か?」

 

 

気づいた時にはとんでもないことに巻き込まれてしまった。

 

監視もこの辺りで切り上げて今も研究に没頭しているだろうアグネスタキオン(アグネスターディオン)がいる部活棟の実験室で一眠りしようかと思った時に、

 

確証はないがヒノオマシが飼っているはずのコーカサスオオカブトがタイミングよく姿を現したかと思った瞬間、

 

偽物のトウカイテイオー’をトレセン学園の校舎屋上から監視していたところに新たに現れたシンボリルドルフ’の偽物が私の目の前に現れたのである。

 

ありえない。どんな身体能力があろうとも、塀に囲まれた学生寮から同じく柵に囲まれたトレセン学園の校舎屋上に一直線に迫ることなんてできるはずがない。

 

しかも、これまで遭遇してきたWUMAの正体――――――、馬のマスクを被った全身白タイツのふざけた格好の怪人:ウマ女の状態でもないのに、これである。

 

そして、明確にコーカサスオオカブトのことを“皇帝”の姿や声でもって“裏切り者のケイローン”と名指しするのだ。

 

 

これで隕石が降ってきた夜に遭遇することになったコーカサスオオカブトとWUMAの関係性は明白となった。

 

 

コーカサスオオカブト:ケイローンはWUMAの脅威を察知して ずっと私のことを助けてくれていたのだ。

 

しかし、やはりというかWUMAという存在は“世界的な未確認侵略生物”であった。

 

我々ヒトのことを“ヤフー”という蔑称をつけて公然と差別しており、基本的にこちらの発言を認めない姿勢のため、対話による和解など到底不可能だと思わせるのに十分な邪悪さであった。

 

何となくだが、かつて“怪物”ナリタブライアンがWUMAに対して本能的に恐怖を感じたのも納得がいくほどの異物感があり、“ヒトとウマ娘の統合の象徴”たるシンボリルドルフの顔で他の全てを心底汚らわしいと蔑んだ表情には拒絶感が湧き上がった。

 

しかも、こちらが本当は何も知らないことを察することなく、自分たちの使命だの価値観だの言いたいことを一方的に喋ってくれるのでWUMAの狙いがわかって大助かりではあったが、

 

“皇帝”シンボリルドルフの情事について何の配慮もなく『汚らわしい』と吐き捨てるような地球外知的生命体には腸が煮えくり返るほどの怒りを覚えてしまった。

 

だが、その能力は圧倒的であり、これまで遭遇してきた怪人:ウマ女はまだ動く前兆や気配などを感じ取ることができたものの、

 

このシンボリルドルフ’の偽物は明らかに別格であり、気づいた瞬間にはコーカサスオオカブト目掛けて私の目の前に踏み込んできており、

 

ほとんど密着の状態にまで持ち込まれたと言うのに、私の頬を掠めた強烈な突きや踏み込みによる衝撃が一切感じられなかったのだ。

 

おかしい。どれだけ高速移動しようとも大気圏内である以上は絶対に空気抵抗から風を切るはずなのに、それすらなかった。

 

気づいた時には拳が突き出されることなく、すでに私の耳元に拳が置かれている状態だったのだ。

 

それどころか、目にも留まらぬ速さという表現があるが、こうして私の目の前にピタリと停止するのならば一瞬でも止まるために減速する様子が目に留まるはずなのだ。

 

むしろ、それほどまでの高速移動で急停止した時の風圧で私の身体が切り刻まれるか吹き飛ばされるかするはずなのに、私の身体は何の衝撃も受けていないのだ。

 

遠くから見下ろしていたはずの学生寮からトレセン学園の校舎屋上まで一瞬で移動したことを考えても、これがただの高速移動なんかじゃないことは明らかだった。

 

それだけにいつでも殺せるためか、完全に私のことは眼中にない様子であり、シンボリルドルフ’の偽物は何もない虚空を睨んだままだった。

 

近くにいるはずの あれだけ目立つ羽音を立てるコーカサスオオカブトの気配はすでにない――――――。

 

 

斎藤T「こ、この――――――」

 

シンボリルドルフ’「さて、多少の野蛮さはヤフーだから目を瞑るとしても、貴重な()()()()()()()()()のサンプルだ。どうすればおとなしくしてくれるか――――――」

 

シンボリルドルフ’「そう言えば、この女は相当にきみのことを評価しているようだな」

 

シンボリルドルフ’「なるほど、()以外に見つけた“ヒトとウマ娘の統合の象徴”たる自分の使命を理解してくれている同志――――――」

 

シンボリルドルフ’「そして、皇宮警察騎バ隊の血筋のハーフという日本国最高の高貴な血統のウマ娘から生まれたヒトの子か」

 

シンボリルドルフ’「――――――“アグネス家の最高傑作”と結ばれるなら それでよし」

 

シンボリルドルフ’「でなければ、シンボリ家の誰かを宛てがってでも取り込みたいと――――――」

 

斎藤T「――――――今っ!」 ――――――腰に履いた誘導棒;プラズマジェットブレードを振り抜こうとする!

 

 

斎藤T「え」

 

 

斎藤T「え――――――?」

 

シンボリルドルフ’「たしか、ウマ娘の腕っ節に敵うヒトなど存在しないのだったな」

 

斎藤T「い、いつの間に押し倒されていた――――――!?」 ――――――次の瞬間にはすでにシンボリルドルフ’に馬乗りされていた!

 

 

シンボリルドルフ’「――――――そうか。ヤフーはこういうのに弱いのだな」ニヤリ

 

 

斎藤T「!!!!」ゾクッ

 

斎藤T「ま、まずい!」ジタバタ

 

シンボリルドルフ’「ジタバタするな。喜べ、友好の証としてきみたちに愛の印を授けようではないか」ガシッ

 

斎藤T「は、放せ!」 ――――――両手を掴まれてしまう!

 

斎藤T「うううぐうううううううううう!」グググググ・・・!

 

斎藤T「こ、このぉ……!」

 

斎藤T「や、やめろ! その顔で私に――――――」

 

斎藤T「あ――――――」

 

 

ズキュウウウウウウン!

 

 

シンボリルドルフ’「――――――」

 

斎藤T「――――――」

 

 

 

 

シンボリルドルフ’「………………」

 

斎藤T「ゴホゴホ・・・」

 

シンボリルドルフ’「ど、どうだ? きみたちが恋焦がれているキスの味は?」ドキドキ

 

斎藤T「…………ふざけるな」ボソッ

 

シンボリルドルフ’「なに?」

 

斎藤T「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなあああああああああああ!」ペッ

 

 

斎藤T「他人の姿を弄んでいる偽物とわかっていて心を奪われてなるものかああああ!」ゴチーン! ――――――起き上がりの頭突き!

 

 

シンボリルドルフ’「きゃっ!」フラッ

 

斎藤T「今だ! どけっ!」ドン! ――――――突き飛ばして馬乗り状態から脱出!

 

シンボリルドルフ’「お、おのれ! ヤフーがよくもこの私に! 付け上がるな!」ドタッ

 

斎藤T「本当の姿を見せてみろよ! まさか、自分の姿が醜いからって他人の姿を盗んでいるじゃないだろうな?」バッ ――――――誘導棒を構える。

 

シンボリルドルフ’「――――――後悔するなよ、ヤフー!」

 

斎藤T「来たか!」

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

相手が生物である以上、プラズマジェットブレードに絶対に耐えられるはずがない――――――。

 

向こうの方から密着してきたという絶好の好機到来で すかさず誘導棒に偽装したプラズマジェットブレードでバケモノを一刀両断にしようとした次の瞬間、

 

私は押し倒されたことも理解できないままシンボリルドルフ’の偽物に馬乗りされており、そこからウマ娘の力に抑え込まれて熱い口付けを喰らわされる羽目になってしまった。

 

生まれて初めてのキスの味は意識が蕩けてしまうような甘美なものであり、相手を本能のままに求めてしまう情動に煽られ、敵を討ち果たすべき意志が吸い取られてしまった。

 

もう何もかもがどうでもいい――――――。このまま快楽に身を委ねてしまいたいという欲求と目の前にいる絶世の美少女に対する欲望が沸々と湧き上がっていく。

 

そう、あのままだったら、本当に口付けだけで身も心も堕とされていたところだった。

 

 

ところが、薄れていく意識を一気に現実に戻す興醒めなことが起きてしまうのであった。

 

 

それは非常に単純で、口付けが長過ぎたことで危うく酸欠で私が死にかけたというだけのことである。

 

というより、相手が“皇帝”シンボリルドルフの過去の記憶や体験を完全に再現した存在だということを踏まえても、

 

“皇帝”陛下が初心なのか経験が1回だけなのかは知らないが、他人の情事を虚仮にしたバケモノの分際で私にも心臓の高鳴りが伝わってくるぐらいに緊張していたのがわかった。

 

それによって、相手は息を止めながら私の唇を深々と奪っていたわけなので、毒が塗られていない新手の死神の口付けで意図せず私は普通に殺されそうになっていた。

 

間一髪、相手が離れてくれたおかげで九死に一生を得たが、“皇帝”陛下の情事が相手を殺しかけるようなものであるはずがない。

 

さっきの口振りやしている最中の心臓の高鳴りと言い、全体的にヤフーとみなして見下している地球人の文化に対して無知で無理解なのもあって、加減がわからないのだろう。

 

つまり、擬態対象の記憶や体験を頭で理解していても、いざ自身が実践するというのは別の話だというのがこれでわかった。

 

あるいは、WUMAとしての自我を保つために擬態対象に成りきれていない弊害とでも言うべきか――――――。

 

ともかく、相手が自ら晒した隙を突いて頭突きをかまして押し退けると、私はすかさず誘導棒に偽装したプラズマジェットブレードを再び手にとった。

 

そこから刺し違える覚悟でWUMAを挑発して その真の正体を現すように迫った。

 

偽物だとわかってはいても、改めて向き合った時に這い寄った私の心の弱さ故に“皇帝”シンボリルドルフの御姿を傷つけることは憚られた――――――。

 

そして、真の姿を現した怪人:ウマ女は今までとは何もかもがちがった。

 

 

斎藤T「――――――こいつは今までのやつとは全然ちがう!?」

 

怪人:ウマ女「モウコウナッタラ マエホドヤサシクハナイゾ?」

 

斎藤T「――――――角が生えてる!? ウマはウマでも一角獣(ユニコーン)の怪人ってことか!?」

 

怪人:ウマ女「ホウ、キサマハ ヤハリ フツウノヤフートハコトナルヨウダナ」

 

怪人:ウマ女「ナラ、コウエイニオモウガイイ! ワタシノキュウキョクノスガタヲミルコトガデキルノハ コノホシデハ キサマガサイショデサイゴダ!」

 

斎藤T「な――――――」

 

斎藤T「翼が生えて――――――」

 

怪人:ウマ女「サア、エラベ! コノバデシヌカ、ワタシノモトニクルカ!」

 

斎藤T「――――――まさか、有翼一角獣(アリコーン)の怪人だったとはな」

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

斎藤T「ケイローン!」パシッ ――――――コーカサスオオカブトを再びこの手に。

 

怪人:ウマ女「チョウドイイ。サア、ケイローンヲシマツシロ。ソウスレバ、エイエンノハンエイガヤクソクサレルダロウ」

 

斎藤T「こんなことに巻き込んでおいて、当然 勝てるんだろうな?」

 

 

――――――相手が強大なエルダーであるからこそ、ここで打ち勝たなければならない。

 

 

斎藤T「ああ! 愛を知らぬ隣人にはお引き取り願おうか!」

 

怪人:ウマ女「ナニヲモタモタシテイル。ケイローンヲシマツシナサイ」

 

斎藤T「悪いな。間違っていることには従えない」

 

斎藤T「そして、話し合うことに意義を見出さない連中なら尚更!」

 

怪人:ウマ女「……コウカイスルゾ」

 

斎藤T「後悔するのはそっちだ!」

 

怪人:ウマ女「……ヒジョウニザンネンダ」

 

怪人:ウマ女「ワレワレハコンナニモヘイワノコトヲアイシテイルノニ」

 

怪人:ウマ女「デハ、シヨリモオソロシイキョウフヲアタエルトシヨウ」

 

斎藤T「……来る!」

 

 

――――――交渉決裂。この瞬間から第八種接近遭遇:宇宙人による侵略行為からこの星を守るための戦いが始まった!

 

 

怪人:ウマ女「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」ズバーーーン!

 

斎藤T「え?」

 

斎藤T「あ、あれ……?」

 

斎藤T「い、いったい何が起きて――――――」 ――――――手にしたプラズマジェットブレードの外装は蒸発してパワー切れになっていた。

 

怪人:ウマ女「ソ、ソンナバカナ……。エルダーデアルワタシガヤフーゴトキニマケルダナンテ……」

 

怪人:ウマ女「ソンナ! タスケテ! シニタクナイ! ヒトゴロシ! イヤダ!」ジタバタ!

 

斎藤T「…………“エルダー”って大層な肩書の割にはその最期は“ヤフー”に命乞いか?」

 

斎藤T「みっともないと思わないのか? 潔く勝者に道を譲れ!」

 

怪人:ウマ女「ヒ、ヒィイイイイン…………」

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

――――――()()()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()()()すでに私は誘導棒に偽装したプラズマジェットブレードでエルダークラスの怪人:ウマ女を斬り伏せていたのだ。

 

私はもちろん、相手の方も何が起きたのかまったくわからない様子だった。

 

はっきりしているのは、プラズマジェットブレードの外装が蒸発し、怪人:ウマ女の両脚を溶断された上に背後から私が翼を斬り落としていたことだった。

 

ウマという生物にとって命である両脚を失い 更にはエルダークラスの特徴である翼までも失った以上は誰の目から見ても再起不能である。

 

しかし、()()()()()()()は理解できなくても、()()()()()()()()()()()()ははっきりと覚えていた。

 

怪人:ウマ女の高速移動を封じるために両脚を切断するというセオリーと、初めて遭遇する有翼のウマ女の行動を完全に封じるために翼を斬り落とそうと私はしていた。

 

そして、()()()()()()()()()私は次の瞬間にはエルダークラスの怪人:ウマ女を斬り伏せていたのだ。

 

これまで遭遇した怪人:ウマ女の飛節に蹴りを置いてカウンターキックを喰らわせたのとまったく同じことが形を変えて繰り返されたのだ。

 

そう、()()()()()()()()()()()の流れで怪人:ウマ女を討ち果たす――――――。

 

つまり、こちらが認識することができないほどの目にも留まらぬ動きができるエルダーが逆に認識できない動きを私はしていたことになるのだ。

 

そうじゃなかったら、連続使用時間が5秒のプラズマジェットブレードで相手の背後に回り込んで両脚・両翼を斬り落とすことまでできるはずがないのだ。

 

これはもう身体能力がどうとかの次元の話などではないことは理解できた。

 

その力を与えてくれていたのが、コーカサスオオカブトの姿に身をやつした裏切り者のケイローンだということもわかってきたのだった。

 

しかし、私は小心者であった。WUMAが化けていると確信が得られたシンボリルドルフ’の偽物をそのままの姿で討ち果たすことに躊躇いを覚えたような半端者――――――。

 

『ただやりづらい』という理由でバケモノの姿になるように挑発して自ら討ち果たした怪人:ウマ女であろうとも、その最期を目の当たりにして私の中で憐憫の情が湧いてしまったのだ。

 

 

斎藤T「………………」スッ ――――――力尽きた怪人:ウマ女を抱き起こして優しく摩る。

 

怪人:ウマ女「……ナ、ナニヲ? イッタイコレハ?」ナデナデ

 

斎藤T「……本当は殺したくはなかったからだ」

 

斎藤T「お前は死ぬ。だから、本当にすまない。こんな手段を選ぶしかなかった地球人類の無知と無力を嗤ってくれ」

 

怪人:ウマ女「………………」

 

斎藤T「あとは、『ファーストキスを奪っていった相手のことを憶えておきたい』っていう男のワガママかな?」

 

怪人:ウマ女「エ……」

 

斎藤T「私も男なんだなって。柄にもなく、無理やりキスされていながらも舞い上がっててさ」

 

斎藤T「お前だって、擬態対象の過去の記憶や体験で知った気になって――――――、初めてだったんだろう? 慣れないことはするもんじゃないな」

 

怪人:ウマ女「ウゥ…………」

 

斎藤T「まあ、『“皇帝”シンボリルドルフの姿を盗んでいる』っていう点で気分が悪くはなったけれど、」

 

斎藤T「そのさ、『好きな人とキスできたら本当に気持ちがいいんだろうな』って、ときめきを覚えたよ」

 

怪人:ウマ女「キミハ……」

 

斎藤T「だから、せめて痛みを忘れて安らかに眠れ」

 

 

――――――これが()()()()()()()だぞ。

 

 

私は偽善者。WUMAの存在を誰よりも危惧して率先して根絶のために準備して、いざプラズマジェットブレードで斬り刻んでおきながら、その最期をキスで締め括るような偽善者だ。

 

取ってつけたような良心の呵責のために、全身白タイツの馬面のバケモノに()()()()()()()をしてしまったのだから、人前でカッコつけて内心ではグチャメチャに精神が乱れていたようだ。

 

一方的かつ侵略的なものであったとは言え、言葉が通じる知的生命体をこの手で抹殺したという事実は決して後腐れない美談にはならなかったのだ。

 

これこそが宇宙移民がいつかは乗り越えなければならない障害だとしても、ただただ善良でありたいと願う一人の人間としては非常に堪えるものがあった。

 

そして、相手の方から無理やり唇を奪われたからと言って、自分で始末した相手との口付けの感触がたまらなくて、あれこれ理由をつけて自分から人外とのキスを求めてしまうとは、

 

追い詰められた状態になると、本当に人間ってやつは 自分でも何をしでかすか わからないものだ。この時の自分がまったくもって理解できない。

 

いや、相手が偽物だと頭で理解できていても、“皇帝”シンボリルドルフを再現した存在から求められて それを本心から拒めるかどうかを改めて自問自答すると、かなり怪しいところがあった。

 

私自身、彼女のことが好きとか嫌いではなく一個人として敬意を持って接しているからこそ――――――、

 

裏返すと、それまで性的に無関心だったからこそ、こうして強引に迫られた時に『別に受け容れてもいいか』と流されてしまうのだ。

 

未成年だとか立場がちがうなどの建前で意識しないようにしていただけで、本当のところは誰に対しても性的な執着を抱いていないからこそ、ふとしたきっかけで流されてしまう危険性があったというわけだ。

 

例えばの話、特に関係があるわけじゃないスターウマ娘にキスされたら途端に意識してしまうのと同じことで、『その気はないのだ』と思っていてもどこかで期待してしまう下心のことだ。

 

これまでヤフーと蔑んでおきながら両脚・両翼をもがれて高慢な態度を崩さずに命乞いをするような恥知らずなエルダークラスの怪人:ウマ女と同レベルの醜態だろう。

 

いやはや、これはかなり効いた。シンボリルドルフ’の偽物が色仕掛をした時に抵抗できる人間がどれだけいることだろうか――――――。

 

けれども、実物の馬を見たことがない私でも理解できるような優しいお馬さんの表情になったことは肉体組織が崩壊して全身が灰になる前にしっかりと目に焼き付けることはできた。

 

おかげで、怪人:ウマ女だったものの灰に塗れてしまったものの、これで憂えなく彼女の冥福を祈ることができた。

 

次からはこんな思いをしないように情け無用で見敵必殺を心掛けなければならない――――――、『そのための苦い思い出だった』とでも思っておくことにしよう。

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

斎藤T「――――――」パシッ

 

斎藤T「ケイローン、全てを話してもらうぞ」

 

斎藤T「あいつらはいったい何なんだ? これからどうすればいいんだ? こんなことに巻き込んだ責任をとってもらうぞ?」

 

 

――――――あらためて、私はケイローン。そして、きみこそが絶望の未来から宇宙を救う救世主なのだ。

 

 

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