ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-西暦20XX年12月07日の航星日誌- GAUMA SAIOH
――――――幻覚を見た。
深夜、再び謎の発光現象が発生したトレセン学園の中央広場の三女神像の噴水の調査をしていた時だった。
成虫は寿命が半年とされるコーカサスオオカブトに転生してしまった異世界の賢者:ケイローンの寿命は残りわずかで、
『有馬記念』『URAファイナルズ』への調整のために先輩が全身全霊を込めた担当ウマ娘:ハッピーミークの最終トレーニングを施す傍ら、
私は異世界の叡智を記録することにも力を入れて、異世界の怪人:ウマ女“フウイヌム”の支配する並行宇宙の地球の超科学文明に思いを馳せていた。
とにかく時間がないので要点から話してもらえるのだが、ケイローンの身体がコーカサスオオカブトなので意思疎通の手段が肉体次元を超越した精神世界のテレパシーしかないため、どうしても聞き取りには膨大な時間が必要となった。
本来の肉体を時間跳躍によって失ってしまい、コーカサスオオカブトに魂を宿して生き永らえた代償として、その小さな身体でテレパシーの使用も都度休みを挟まないといけないのだから、非常に気の長い調査となった。
それでも、地道な聞き取り調査によってWUMAに関する大まかなことは把握できたので、府中市に潜むWUMAを駆逐するための具体的な手段を講じる段階へと移った。
そして、いつかのようにアグネスタキオンと一緒に買い出しに行って、部活棟に荷物を運び入れようとした途上、誰もいない三女神像の噴水が謎の発光現象を起こしていたのを再び目撃することとなった。
あの時とちがうのは、呼び出せば妹:ヒノオマシの許から賢者ケイローンが空間跳躍してくることであり、この不可解な現象に関する意見を求めることにしたのだ。
もちろん、今は北半球の12月だ。夏が盛りのカブトムシの身体には寒空は身体が堪えるので、ホカホカのタオルに断熱材で覆った飼育容器に入れて、再調査していた時にそれは起こった――――――。
斎藤T「は」
斎藤T「え?」キョロキョロ・・・
アグネスタキオン「おや、どうしたんだい?」
斎藤T「今さっき、幻覚を見た」
アグネスタキオン’「ほう、どんな?」
斎藤T「いや、見たこともない“人生真っ盛りの三十路のおっさんって感じのヒトの男性”と“肩にサバトラ猫を乗せた二十代の若いヒトの男性”が光の彼方へと駆け抜けていくイメージ――――――」
斎藤T「…………?」
斎藤T「いや、二人共、ウマ娘と二人三脚で走っていた――――――?」
斎藤T「私を追い越す時に見えたのは、もしかしてスーパークリークとシンボリルドルフ――――――?」
アグネスタキオン「ほう、それは非常に興味深いことだねぇ? なあ、
アグネスタキオン’「ふぅン、モルモットくんも同じような幻覚を見ていたわけか……」
斎藤T「え、まさか――――――」
アグネスタキオン「私の場合はハヤヒデくんとブライアンくんだったね」
アグネスタキオン’「私の場合はそこのコーカサスオオカブトと翼の生えた会長だったね」
アグネスタキオン「ハハハ……アーッハッハッハ! 素晴らしい!」
アグネスタキオン’「何者かが中枢神経に干渉したというのかい!? 実に面白いビジョンじゃないか!」
アグネスタキオン「たまらないねぇ! 力が――――――力が溢れ出てくるよッ!」
アグネスタキオン’「ああ! まるで漫画だな! これこそウマ娘に秘められた真の能力が開放された瞬間とでも言うのかい!?」
斎藤T「…………!」
斎藤T「――――――三女神は子々孫々たるウマ娘を導くと信じられており、」
斎藤T「トレセン学園に通うウマ娘たちは『三女神像』の前でお祈りをし、『トゥインクル・シリーズを走り抜けた先輩ウマ娘が像に託した想いを受け取り力に変える』という儀式を伝統的に行っている言う」
斎藤T「本当にそうなのか、ケイローン!?」
――――――どうやら、この世界は本当に素晴らしき偉大なる神々に守護されているみたいだね。
斎藤T「ビワハヤヒデとナリタブライアンの最強姉妹が今シーズン『URAファイナルズ』を最後に上位リーグに移籍するって話だから、まあ そこそこ付き合いがあるし、わからなくはないが……」
斎藤T「あれは……、私が見たウマ娘と二人三脚で私の前を走り抜けていった二人も過去のトレセン学園のトレーナーだったってことなのか……」
斎藤T「じゃあ、
――――――きみを通じて私と彼女;二人のエルダーの因子が継承されたようだ。
斎藤T「私を通じて二人のエルダー――――――」
斎藤T「…………!」カアアアア!
アグネスタキオン「どうしたんだい? きみがそこまで動揺するだなんて珍しい。そこのカブトムシから何を聞かされたんだい?」
斎藤T「いや、私は――――――」
アグネスタキオン’「ふぅン? きみ、会長に化けたエルダー相手に大立ち回りしたのは聞いていたけど、まさか
斎藤T「なっ」
アグネスタキオン「?」
アグネスタキオン’「ありがとう、賢者ケイローン。後のことは全て私にまかせたまえ」
――――――ああ。それを聞いて安心した。ヒッポリュテーも喜ぶことだろう。
斎藤T「……ケイローン」
アグネスタキオン「おい、わかるように説明したまえ、きみたち。私だけ除け者にするな」ムスッ
アグネスタキオン’「おおっと! すまないねぇ、
アグネスタキオン「な、なんだって!?」
アグネスタキオン’「まあ、私の正体がWUMAなんだから、元から身体の作りがちがっていたわけだが、私は
斎藤T「本当か、それ!」
アグネスタキオン’「ああ。今さっき時を見てきたよ」
アグネスタキオン「なに?」
斎藤T「どうだった? 四次元世界に行ってきた感想は?」
アグネスタキオン’「まあ、そこまで長い時間を移動することはやめた方が良さそうだったね」
アグネスタキオン’「10年前の過去に時間跳躍したケイローンの肉体が崩壊するぐらいだったんだ。小説やアニメのように恐竜時代や原始時代に行くだなんてことはやめたほうがいい」
斎藤T「そうか」
アグネスタキオン’「なるほど、これが“果て”か。ウマ娘がどうのこうのという次元じゃなくなってしまったな」
アグネスタキオン’「だから、きみが求めていたものは私が果たそうじゃないか」
アグネスタキオン’「そう、私はエルダークラスをも超越した――――――、何と言えば言いのだろうな?」
斎藤T「――――――
斎藤T「なら、奇を衒うことはない」
斎藤T「現実の粒子ではない“
アグネスタキオン’「――――――『スーパーターディオン』?」
斎藤T「ああ。
――――――だから、“フウイヌム”の多種族的カーストの新たな頂点に立つ者『
アグネスタキオン’「――――――『スーパーターディオン』に因んで『スーペリアクラス』か。悪くないよ」
アグネスタキオン「……だから、私を除け者にすーるーなー!」ムスッ
斎藤T「あ、すまんすまん」
斎藤T「どうやら、目には見えない次元での因子継承が行われたみたいだな」
斎藤T「はっきりとしたことはわからないが、不思議と力がみなぎっている感じがしてならない」
斎藤T「――――――あの二人が誰だったのかを調べておかないとな」
アグネスタキオン’「む、謎の発光現象が収まったな。やはり、三女神とやらは私たちを呼び寄せていたということか」
アグネスタキオン’「では、撤収だ。これ以上の調査の必要はない」
アグネスタキオン’「そうだ、私がケイローンとヒッポリュテーから継承した力を体験してもらった方が理解が早いだろう」
アグネスタキオン’「モルモットくん、私は
アグネスタキオン「あ、おい――――――」
斎藤T「はいはい。行って来い 行って来い」
アグネスタキオン’「それじゃ、ちょっとばかり“果て”を見てもらうぞ、
パチン!
斎藤T「――――――消えた」
斎藤T「けど、四次元世界に突入するまでの乱れた時間の流れを目で追うことができたぞ」
斎藤T「これが“特異点”ということなのか、ケイローン?」
――――――そうだ。その深淵に到るためには
斎藤T「…………まあ、一足先に地球によく似た新惑星で開拓生活をやらせてもらっていると考えれば、私としては特に問題はないのか」
斎藤T「惜しむらくは宇宙移民として習得した技能の大半が活かせないぐらいに開拓されきった世界――――――」
斎藤T「なら、宇宙移民として目指すのは新たなる未知の世界――――――」
斎藤T「けれど、それじゃあ“斎藤 展望”はいったいどこへ消えてしまったと言うんだ?」
私は“斎藤 展望”の身体を借りて21世紀のウマ娘と共存共栄している地球で生き永らえている23世紀に外宇宙へと旅立った宇宙移民船の一員にして波動エンジンの開発エンジニアという世紀の天才――――――。
その途上の空間歪曲型ワープの最中に起きた波動エンジンの暴走事故によって宇宙から肉体が消滅し、その魂はM理論に基づく多次元宇宙の並行宇宙に流れ着いたものだと理解している。
そう、私は三次元の物質世界から跳躍してしまったことで世界の外側である高次元世界と接続した“特異点”となっていたようなのだ。
難しく考えることはない。言うなれば映画のフィルムを1つの世界と考えるとわかりやすい。
空間歪曲型ワープにおいては、映画のフィルムがぐわんぐわんに波打っていると考え、ある1コマと別の1コマが波打って近接した瞬間に飛び移ることで時間跳躍を可能としているわけなのだが、
私の場合は元の映画のフィルムにすぐに戻ることができなかったことで三次元の物質世界の肉体が消滅して、肉体を失った魂が別の映画のフィルムの世界に流れ着いて新たな肉体を得たのが現在の“斎藤 展望”ということだ。
そして、新たな肉体を得た“特異点”が高次元世界での感覚を記憶し続けている限り、WUMAが能動的に発動できる空間跳躍などの超次元的な事象を認識することが可能となっていた。
ただ、この身体でWUMAと同じ超能力を発動するためには肉体的な鍛錬に精神的な修養が必要不可欠ということらしく、現状はせいぜい相手の四次元能力を感知して逆利用する程度しかできない。
しかし、相手が1コマの中だけの空間跳躍しかできない映画世界の住人に過ぎないのに対し、こちらは時間跳躍によって1コマ1コマを自由にフィルム編集を行うことができる映画世界の創造主に等しい存在――――――。
WUMAがこちらが認識できる範囲で四次元能力を使った瞬間に“特異点”である私が思ったように世界が書き換えられると言っても過言ではなく、“特異点”である私の存在もまたスーペリアクラスなのである。
ただ、生体波動エンジンを内蔵しているに等しい怪人:ウマ女とはちがって、能動的に四次元能力を発動させるための
これまでは“特異点”である賢者ケイローンに触れることで一時的に四次元への感覚を研ぎ澄ませてもらった上でのどうしても受動的な発動に留まっていた。
要するに、スーペリアクラスに匹敵する“特異点”である私は全知全能の神になったというわけではない――――――。
実際、シンボリルドルフ’に化けたエルダークラスに対しては、まだ四次元能力に対する理解がなかったとは言え、その空間跳躍の前に為す術もなく 押し倒されたことも認識できないまま唇を奪われてしまったぐらいだ。
あそこから逆転することができたのはエルダークラスをも上回る四次元能力を発揮して“特異点”が望む未来に時間跳躍した結果というわけであり、
それは端的に言うと“そうなること”を望む意志力がエルダークラスを上回った瞬間に初めて相手の四次元能力を逆利用した必殺のカウンターが炸裂するのだ。
つまり、相手が四次元能力なんか使わずに普通にヒトを凌駕するウマ娘を本能的に絶望に追いやる怪人:ウマ女としての超越した身体能力だけで殴り合いになったら、まず間違いなく“特異点”としての特性を活かすことができないまま私は一方的に嬲り殺しにされていたことだろう。
四次元能力は物質世界の肉体の次元を超越した部分で性能が左右され、時間跳躍能力は空間跳躍能力の完全上位なので、空間跳躍に依存した上位クラスほど“特異点”である私にとっては返り討ちにしやすい反面、
実際のところ、最初に遭遇した エルダークラスの血統とは言え 空間跳躍がまだ未熟なジュニアクラスの怪人:ウマ女がもっとも私を甚振って追い詰めたわけであり、
もっとも数が多い上に擬態精度が非常に高いジュニアクラスと真っ向から戦うのはこういった面でも不利で、ますますエルダークラスを優先的に狩った方がいいという結論となる。
四次元能力を上位クラスのように上手く使えない雑魚ウマ女の方が手強くなるあたり、相性の面でも奇妙な3すくみを生み出す“特異点”となっていた。
斎藤T「まだ30分後じゃないか……」ガチャ・・・
斎藤T「うん、アグネスタキオンの2人のGPSの反応が地球上から消滅しているな。間違いなく三次元世界から消滅している」
斎藤T「寒かっただろう、ケイローン? ほら、部屋も暖かいし、少しは元気になったか?」
――――――ありがとう。きみが“預言の子”であったことを嬉しく思うよ。きみこそが絶望の未来から宇宙を救う救世主なのだ。
斎藤T「……それは私が“フウイヌム”の空間跳躍能力に対抗できる“特異点”だからというのもわかった」
斎藤T「けど、それなら“特異点”が“斎藤 展望”になった理由はわかるか?」
斎藤T「それに、先程の因子継承とやらについてもどういうことなんだ?」
――――――あれはね、因子継承に関しては“斎藤 展望”がウマ娘とのハーフだったからできたことなんだよ。
斎藤T「……なるほど。“特異点”と“斎藤 展望”のコラボレーションが宇宙を救う救世主の正体だということか?」
斎藤T「いやはや、この大宇宙を司る父なる神と子なる神と聖霊の三位一体ってことなのか?」
斎藤T「たしかに、23世紀には大いなる宇宙の創造神を中心にした宇宙宗教の下に国民皆信仰が実現されてはいるけど――――――」
――――――きみが因子継承した二人の先人たちもウマ娘とのハーフの肉体に宿った偉大なる魂だよ。
斎藤T「え」
斎藤T「じゃあ、あのビジョンで見た通りの外見じゃない――――――?」
斎藤T「それはつまり、私と同じようにウマ娘のハーフであるトレセン学園のトレーナーってことで間違いないか?」
――――――きみはこれから二人の先人たちの後を継いで 未来からの侵略と過去からの遺産に敢然と立ち向かう宿命にある。
斎藤T「――――――『二人の先人たちの後を継ぐ』」
斎藤T「――――――『未来からの侵略』」
斎藤T「――――――『過去からの遺産』」
――――――その最後の締め括りのために きみという存在はこの世界に遣わされたのだと三女神が教えてくれた。
チクタク、チクタク、チクタク・・・
斎藤T「そろそろだな」
斎藤T「というか、向こうはこっちがすでに実験室にいる1コマを見て時間跳躍してくるんだから、絶対にピッタリだろうな――――――」
アグネスタキオン「お、おお!?」
アグネスタキオン’「待たせたね、モルモットくん。こっちとしては1秒ぶりなんだが」
斎藤T「ああ。暇だったからカブトムシと 長いこと おしゃべりしていたぞ」
斎藤T「ほら、きっかり30分はGPSから反応がなくなって地球上から消え去っていたぞ。他にも、お前たちが使っているPDAの通信量の測定グラフもしっかりと30分間は値はゼロになっているぞ」
アグネスタキオン「え、ええ!?」
アグネスタキオン’「落ち着きたまえよ。ほら、時刻はきっかり30分後だ。三女神像の噴水の調査から帰ってきたばかりなのもテーブルの上に並べられた私たちの実験器具でわかるだろう?」
アグネスタキオン「そ、それはそうなんだが……」
斎藤T「どんな感じだった? 気づいた瞬間には“こうしようと思ったことがすでに終わっている”状態になっているのが私の感想なんだが?」
アグネスタキオン「あ、ああ……。本当に一瞬だった。次の瞬間には実験室に戻っていたからびっくりだよ……」
アグネスタキオン’「…………ふぅン、やはりというか、時間を進める方向に時間跳躍する方が楽だね、これは」
斎藤T「時間を遡るのは時間の流れに逆らうわけだからな、文字通り」
アグネスタキオン’「これが賢者ケイローンが肉体を失うことで完成させることができた時間跳躍――――――!」
アグネスタキオン’「そして、エルダークラスのヒッポリュテーの因子で“フウイヌム”の感覚を補うことで、私は
斎藤T「あ、試しにお前の背後をとりたいから、四次元能力を展開してみて」
アグネスタキオン’「わかった――――――」
斎藤T「――――――あ、ちゃんと使えてる」ツンツン! ――――――次の瞬間にはアグネスタキオン’の背後をとって ほっぺを突っついていた。
アグネスタキオン「うおおっ!?」ビクッ ――――――テーブルでカブトムシの世話していた次の瞬間には移動していたことに驚愕!
アグネスタキオン「な、なるほど。映画のフィルムのコマが飛んだようにしか見えないな、まさしく……」
アグネスタキオン’「ああ なるほど、“特異点”となった賢者ケイローンの残滓を継承した私と、生粋の“特異点”であるきみとでは、どう逆立ちしてもきみが支配的というわけか」
アグネスタキオン’「ただ、普通に殴り合いになったら“フウイヌム”である私の力の前にはどうすることもできないわけだけどね」ガシッ
斎藤T「…………肉体改造強壮剤もかなり馴染んできたけど、この能力差は如何ともし難い!」ググッ
斎藤T「けど、これでWUMAに対抗することができる!」
アグネスタキオン’「ああ。“フウイヌム”は徹底した階級社会だ。エルダークラスの因子を開放した私の命令には下位クラスの“フウイヌム”は絶対服従となるわけだ」
アグネスタキオン’「問題は同じエルダークラスの抗争になった時だが、これでしばらく時間は稼げるはずだろう、モルモットくん?」
斎藤T「上出来じゃないか!」
斎藤T「あとはジュニアクラスの完璧な擬態を見破る手段があれば、そこから駆逐していく筋道が立てられるんだがな……」
アグネスタキオン’「まあまあ、時間跳躍能力を使えば どうとでもなるのだし――――――」
斎藤T「?」
アグネスタキオン「あ、おい――――――」
アグネスタキオン’「さあ、モルモットくん。今日は思いっきり夜を楽しもうじゃないか」
斎藤T「は」
アグネスタキオン「な、なんだって!?」
アグネスタキオン’「ほら、ターフの上で実際に走るのは
斎藤T「おいおい、実験室に閉じ籠もってずっと研究三昧なのは研究者としては本望だろう? 私からしても羨ましいご身分のくせに何を言い出すんだ?」
アグネスタキオン’「うるさいなー! いくら
アグネスタキオン’「今日だって二人で買い物デートを楽しんできただろう? やっと帰ってきたと思ったら、謎の発光現象を起こしている三女神像の噴水の調査なんかに連れ出してさ!」
斎藤T「…………なあ、人が変わってないか?」
アグネスタキオン「もしかすると、上位クラスには絶対服従の“フウイヌム”だから、エルダークラスの因子が流れ込んだことで人格に変化が起きたのかもしれないね」
斎藤T「ああ なるほどな……」
アグネスタキオン「ふぅン? 『なるほど』って言うからには、きみは
斎藤T「…………想像におまかせする」
アグネスタキオン「ふぅン? たしか、『トゥインクル・シリーズを走り抜けた先輩ウマ娘が像に託した想いを受け取り力に変える』って話だったっけ?」
斎藤T「……そうだな! それは本当の話だった!」
アグネスタキオン「じゃあ、私の中にはハヤヒデくんとブライアンくんのきみに対する感情が流れ込んでいるというわけなのかな?」
斎藤T「え?」
アグネスタキオン「……すまないが、予定になかった調査は終わった。今日はもう寝るから、後はお好きに」ガチャ ――――――隣の実験準備室の寝床に着く。
斎藤T「あ、おい――――――」
アグネスタキオン’「さあ、モルモットくん! 今日は寝かせないからな! 楽しい楽しい実験の時間だ!」クククッ
斎藤T「ぐぅううううう!? 実験に協力すると言った憶えはないぃいいいいいい!」グググ・・・
アグネスタキオン’「無駄な抵抗はやめたまえよ、モルモットくん! ウマ娘にすら勝てないのに“フウイヌム”の私に勝てるはずもないだろうに!」
斎藤T「ケイローン! ケイローン! 来てくれ、ケイローン!」
――――――間もなく別れの時は近い。案ずるなかれ、私の意志は若い命に受け継がれた。
斎藤T「いや、助けて! ケイローンが来てくれれば すぐにでも逆転できるのにぃいいいいいいいい!」
斎藤T「こっちに来てよ、ケイローン!!!!」
斎藤T「ああ――――――」
アグネスタキオン’「頼みのカブトムシくんは愛しの妹君のところに帰ったみたいだねぇ?」
アグネスタキオン’「これでやっと二人きりだよ、モルモットくん」
斎藤T「ま、まさか、因子継承で受け継がれるMEMEの中には本当に継承元の想いまで――――――」
アグネスタキオン’「どうだろうねぇ? でも、侵し難い聖像である会長よりも嫌になるぐらい
斎藤T「うう……」
アグネスタキオン’「いいねぇ、最高だねぇ、顔では苦悶の表情を浮かべているのに身体は正直じゃないか、モルモットくん」ハハハハハ!
斎藤T「……一夜の過ちだけではすまなかったか、おのれぇ!」
――――――WUMAめ、根絶やしにしてやる! この世から一匹残らず!
この日を境に二人のアグネスタキオンがはっきりと別の人格と気質を持った存在へと差別化されることになった。
いや、元々がウマ娘と怪人:ウマ女という根本的なちがいがあったことから、
本物のアグネスタキオンには 昼間 人前で行動する方を担当してもらい、できるだけ人として当たり前の健康的な生活を送らせることにしていたわけで、
そのため、
それが嫌だったら、
WUMAは擬態した時に擬態対象を抹殺する衝動が働くため、どうしようもない性として“成り代わり”に対する心理的抵抗がなくなるように遺伝子レベルで設定されているのだから、擬態を解いて擬態し直した瞬間に地球人類に牙を剥くようになるのは侵略的外来種として自然な成り行きであった。
上位クラスのWUMAならば自我を両立させることによって殺人衝動を抑えることもできるだろうが、逆に自我が残り続けるせいで完全な擬態能力が失われるデメリットもあるため、
完璧な擬態が行えるジュニアクラスと司令塔として地球侵略の命令を下すことができるエルダークラスはそれぞれの長所と短所を補う関係として互いに必要不可欠なものとなっているのだ。
よって、せっかくアグネスタキオンに擬態して
しかし、今回の因子継承によって何から何まで行き届いた究極の進化を果たしたことにより、最大の問題が解決してしまったのだ。
元々 知能が並外れて高いアグネスタキオンにはエルダークラスの知能がなければ擬態できないことから、エルダークラスの血統のジュニアクラスの怪人:ウマ女が擬態していたことは以前からわかっていた。
つまり、擬態した状態のままでエルダークラスに進化して自我を獲得することができれば、完全にアグネスタキオンの人格をコピーした地球人類に味方するオンリーワンのWUMAが誕生することになる。
また、上位の存在に対して下位の存在は絶対服従であるWUMAの実態を踏まえれば、エルダークラスに進化することによって他で暗躍しているジュニアクラスを無力化することができるし、逆にこちらがエルダークラスの命令に服従させられる危険性もなくなる。
それが初めて遭遇した“皇帝”シンボリルドルフ’に化けたエルダークラス――――――、個体名:ヒッポリュテーから聞き出すことができた情報であり、状況を打開する一筋の光であった。
そして、トレセン学園で記事にも取り上げられていた中央広場の三女神像でのおまじないの儀式がそれをそれ以上のものにしてくれたのだ。
“フウイヌム”の禁忌を犯した裏切り者でかつエルダークラスをも超越した存在である賢者ケイローンの因子によって、エルダークラスさえも服従させられるかは不明だが、少なくともWUMAに服従させられることがない更なる進化を遂げた存在になったのだ。
また、私が一夜を共にしたことで因子がこびりついていたらしいシンボリルドルフ’に擬態していた初めてのエルダークラス:ヒッポリュテーの因子によって、賢者ケイローンが失っていた“フウイヌム”の肉体的要素を補ったことで、擬態を解くことなくエルダークラスを超えたスーペリアクラスへと進化したのだ。
――――――時間跳躍能力を行使する地球圏最強の超科学生命体の誕生である。
研究者であるアグネスタキオンの人格がコピーされているので基本的に戦いには向いていないが、最大の特徴である時間跳躍能力を悪用する恐れがないという意味では非常に安心である。
大丈夫。戦いになったら、人間の形をした“特異点”である私が敵を排除すればいいだけの話なので、四次元能力のスイッチとなる彼女にはむしろ安全第一で行動してもらえると更に安心である。
そんなわけで、四次元能力の解明ができた上に具体的な戦術が確立し、それを後押ししてくれたのが三女神ともなったら、気分が高揚するのもしかたがない話だろう。
しかし、この三女神像のおまじないの儀式で目に見えない次元で行われている因子継承には副作用というものが存在していた。
想いを受け継いで力に変えるということは、つまりは多かれ少なかれ因子継承で受け継いだ誰かの想いに人格が影響を受けてしまうということだ。
そして、上位クラスの命令が下位クラスにとっては絶対のWUMAにとって、ジュニアクラスへのエルダークラスの因子継承はトレセン学園の競走バたちがするのものとは比較にならないほどの影響力があった。
私の場合は 誰かは知らないが自分と同じくウマ娘とのハーフの身体に宿った 私よりも前にトレセン学園のトレーナーとして活躍していたらしい 二人の先人たちの後を継ぐことになっているらしく、
ウマ娘の方のアグネスタキオンは来年からは上位リーグの『ドリーム・シリーズ』に移籍するビワハヤヒデとナリタブライアンの最強姉妹の想いを受け取っていたと言った。
一方で、怪人:ウマ女が擬態している方の
つまり、目に見えない四次元的要素は“特異点”である賢者ケイローン、目に見える三次元的要素はエルダークラス:ヒッポリュテーの因子を色濃く受け継いでいたらしく、
それは要するに見た目はアグネスタキオンなのだが、中身は“皇帝”シンボリルドルフに擬態したエルダークラス:ヒッポリュテーの想いも色濃く受け継いでいるのだ。
もっと正確に言えば、見た目はアグネスタキオン。中身は担当トレーナーと愛を育んで“ヒトとウマ娘の統合の象徴”として毅然と生き貫く“皇帝”シンボリルドルフの記憶と人格をコピーしたら、地球人類の文化に理解がないのに野蛮人を魅了しようとキスに挑戦して一夜の過ちを犯したエルダークラス:ヒッポリュテーの体験と感覚を因子として刷り込まれた、理屈はわかるし好きだから実験室に閉じ籠もっていたけれども《もうひとりの自分》が外で楽しそうにしているのを見せつけられてフラストレーションが溜まっていた
なので、ウマ娘の方のアグネスタキオンとはちがって、因子継承が招き寄せた他人の記憶と体験と境遇にごちゃまぜになった超複雑な精神状態になっていた。
順番に説明してもわかりづらいこと この上ないが、エルダークラスが擬態対象の思考と記憶を持ちながら自身の自我を持ち続けているために、完全に擬態対象に成りきれていないところが混乱に拍車を掛けていた。
“皇帝”シンボリルドルフ
あと、一夜の過ちで私が死にゆくヒッポリュテーに最後にしたことが今回の因子継承の決定打になってしまっていたことを考えると、私はいつまでもあの一夜の過ちのことを忘れることが許されなくなってしまった。
いや、ホント、やればできる――――――。別に童貞を捧げたというわけではないが、これはこれで責任を取らないといけない事態というわけなのか。
そのおかげで奇跡のスーペリアクラスへと進化したのだから、ウルトラハイリスク・ウルトラハイリターンもいいところだった。
そして、私は地上に舞い降りたグリゴリの天使を見た――――――。
アグネスタキオン’「どうだい? エルダークラスなら誰でも持っている翼だよ?」バサァ
斎藤T「何これ!? 服を破っていないか、その翼!?」
アグネスタキオン’「ああ、そこは擬態能力を使って修復するから心配ないよ」
アグネスタキオン’「それよりも、翼はこんなふうに大きくしたり小さくしたりできるんだよ」
アグネスタキオン’「そして、きみも知っているように空を飛ぶこともできるし、こうやって全身を覆う盾にすることもできる」
斎藤T「へ、へえ……、繭のように全身を覆い隠すこともできるわけなのか……」
アグネスタキオン’「これで誰にも邪魔されないというわけなのだよ、モルモットくん」モジモジ
斎藤T「あ、ああ……」
アグネスタキオン’「……一応、シニアクラス以上の角も生やすことができるけど、見てみたいかい?」
斎藤T「え? 見てみたい」
アグネスタキオン’「……鬼みたいで気味が悪いかもしれないよ?」
斎藤T「そこは擬態能力があるんだから見た目なんてどうとでもなるだろう。それよりも、シニアクラス以上に生える角の特性を把握しておかないとな」
アグネスタキオン’「……文句なんて言わないでおくれよ」
斎藤T「言わない言わない。角のある動物なんてVRシミュレーターで見慣れているし」
アグネスタキオン’「じゃあ、行くよ、モルモットくん?」ニョキ
斎藤T「へえ、これで
斎藤T「おお! VRシミュレーターで見たイッカクの牙ともちがうし、サイのようなケラチンの繊維質ともちがう感じだ!」
アグネスタキオン’「………………」ドキドキ
斎藤T「触っていいか? ケイローンの話によれば、角は超能力を制御するための感覚器らしいから、結構 鋭敏かもしれないけど」
アグネスタキオン’「も、モルモットくんになら、いいよ」モジモジ
斎藤T「よし。最初は先端から根本へとツンツンしてみるぞ」
アグネスタキオン’「い、いいよ……」
斎藤T「この感じは中身が空洞というわけでもなさそうだな」ツンツン!
斎藤T「次は痛覚と耐久性の確認をするぞ。測定方法は肉体改造強壮剤で強化された私の握力だ。圧し折るわけにはいかないから、ちゃんと危ないと思ったら引っ込めるなりするんだぞ」
アグネスタキオン’「うん……」
斎藤T「よしよし」ガシッ
アグネスタキオン’「ん……」ギュッ
斎藤T「どうした? 痛いのか? 急所になっているなら、ここをシニアクラスの弱点と判定してこれ以上はやめるが?」
アグネスタキオン’「いや、そうじゃないんだ、モルモットくん……」
アグネスタキオン’「この角が超能力を制御するために発達した器官なのはケイローンから聞いていただろう?」
斎藤T「ああ」
アグネスタキオン’「その超能力が頭の中の思考や意志で発動させるものなのは、四次元能力を受動的に使えているきみも知るところだ」
アグネスタキオン’「つまり、この角は四次元の刺激を感知することができる器官でもあるんだ……」
斎藤T「それが?」
アグネスタキオン’「きみ、“特異点”だろう?」
斎藤T「ああ」
アグネスタキオン’「そんなきみが四次元の刺激を感知できる角に 直接 触れたら、いろいろわかっちゃうんだよ……」ドキドキ
アグネスタキオン’「嬉しくなっちゃうじゃないか。こんなにも私のことを大事に想ってくれている誰かがいることを知ったら」
斎藤T「なっ」カアアアアア!
アグネスタキオン’「だから、きみのことがどうしようもなく欲しくなっちゃう……」
アグネスタキオン’「責任を取ってくれよ。きみと出会わなければ私は殺戮の天使でいられたのに……」
アグネスタキオン’「会長の想いやその想いをコピーして恋を知ったヒッポリュテーの想いも継承されているから、余計に実験室に独りでいることが寂しくなってしまったよ……」
アグネスタキオン’「私はまだ誰でもない。本当の私はアグネスタキオンでもないし、会長やヒッポリュテーでもないんだ……」
アグネスタキオン’「でも、この気持ちは他の誰でもない私のもの。けれど、今の私を構成する何もかもが偽物でしかなくて――――――」グスン・・・
斎藤T「じゃあ、きみは誰なんだ? エルダークラスの血統とは言え、進化するまでは擬態することが目的の使い捨てのジュニアクラスに個体名なんてあるのか?」
アグネスタキオン’「そんなものはジュニアクラスには必要ない。進化した時に初めて得られるものだから」
斎藤T「なら、名前は誰からもらうんだ?」
アグネスタキオン’「わからない……。ジュニアクラスはただ擬態するだけの存在だから……」
斎藤T「わかった。これも敵に関する重要な情報提供だ。感謝する」
斎藤T「そういうことなら、スーペリアクラスに進化した記念だ」
斎藤T「よし、パッと思いついたのが2つある」
斎藤T「
斎藤T「スタディオンは古代地中海世界での距離の単位で、古代オリンピックの栄えある第一競技:スタディオン走から競技場を意味する“
斎藤T「もう1つは、
アグネスタキオン’「なら、今の私は
斎藤T「では、今後ともヨロシク、
アグネスタキオン’「うん!」
斎藤T「………………」
――――――これ、世界の平和のために私が人柱にならざるを得ないのか? だって、相手は時間跳躍で何だってできる超科学生命体だぞ? 逃げることなんてできないぞ?