ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第12話秘録 この空の下で絶対なのは帝王ただひとり

-シークレットファイル 20XX/12/10- GAUMA SAIOH

 

今年の『有馬記念』は12月23日の中山競バ場で開催される。

 

実は、『有馬記念』は1956年12月23日に第1回『中山グランプリ』として開催されたのが最初であり、奇しくも第1回大会と同じ日に開催されることになった。

 

いや、別に開催日が重なることは特段珍しいわけではないのだが、『有馬記念』の歴史を調べていてちょっとばかりへぇと思った程度の薀蓄である。

 

 

つまり、“皇帝”シンボリルドルフにとってトレセン学園の命運を賭けた決戦の日まで2週間を切った。

 

 

突如として『ジャパンカップ』で三度目の復活を果たして“クラシック三冠バ”ミホノブルボンとハナ差で2着にもつれ込ませたトウカイテイオー’の姿は鮮烈であり、

 

あれが去年の『有馬記念』で三度目の骨折をして以降は公式戦に一度も姿を見せていなかったトウカイテイオーなのかと誰もが目を疑い、実況と解説をして『全盛期の姿で完全復活!』とさえ言わせたぐらいだ。

 

次にミホノブルボンがトウカイテイオーと対決したらトウカイテイオーが圧勝するんじゃないかと言うぐらいに、ミホノブルボンに追い縋った存在として期待十分であった。

 

 

しかし、そのミホノブルボンはなんと芝・2500mの『有馬記念』ではなく、12月22日のダート・2000mの『東京大賞典』への出走となったのだ。

 

 

これには内外で様々な憶測が行き交うことになり、年の瀬に行われる『URAファイナルズ』で芝・長距離を走るはずのミホノブルボンにとっては意味不明のローテーションとも言えた。

 

完全復活のトウカイテイオーに恐れをなして逃げたにしてはあまりにも無謀過ぎるローテーションであり、そのことから担当の才羽Tに対して批判以上に困惑の声が上がった。

 

そして、日本のダート競バの1年を締め括る総決算レースに突如として殴り込みにきた“クラシック三冠バ”ミホノブルボンを返り討ちにしようと、トレセン学園のダートウマ娘たちは例年以上に燃え上がっていた。

 

もちろん、『有馬記念』でライバル対決になると思われた飯守Tのライスシャワーも驚く結果になり、

 

実際に飯守Tが才羽Tのところに殴り込みに行ったところ『楽しみは最後にとっておく』という才羽Tの言に納得したらしく、

 

それなら『URAファイナルズ』で決着をつけるということで気持ちを切り替えて『有馬記念』で優勝候補と目される“悲運の天才”トウカイテイオーの打倒を目指すことになった。

 

 

しかし、実はこれも“皇帝”シンボリルドルフが描いたトレセン学園の世代交代のシナリオを実現するべく、密かに“皇帝”と協力関係を結んでいた“驚異の天才”才羽Tの舞台演出の一環でもあったのだ。

 

 

そう、舞台の準備はあの『ジャパンカップ』の日の時点でなされており、あの喫茶店は才羽Tの親戚が店主(マスター)を務めている穴場だったのだ。

 

そのため、WUMA対策班の藤原さんと“皇帝”シンボリルドルフ、本物のトウカイテイオーと担当トレーナーを交えて、『有馬記念』において昨年の雪辱を果たしてトウカイテイオーが勝利するシナリオがあの密会の場で組み立てられていた。

 

よって、才羽Tは『有馬記念』の演目をトウカイテイオーの真の復活劇として譲った代わりに、海外遠征の布石として『東京大賞典』に出走させることをしていたのだ。

 

この『東京大賞典』は国際G1レースでもあるので、『ジャパンカップ』に引き続き 国際招待された海外バとの真剣勝負ともなる(もっとも、12月はじめの『チャンピオンズカップ(ジャパンカップダート)』が海外勢としては本命だが)。

 

もちろん、ミホノブルボンも勝つ気満々であり、『URAファイナルズ』初代チャンピオンになるための緒戦として『東京大賞典』を走破するべく、秘密の特訓をしていたのであった。

 

そもそも、2年目:クラシック級で“クラシック三冠”を達成した時からダートで走るトレーニングもし始めていたというのだ。

 

まさに天才がやることであり、常人には真似できない戦略と感性であり、その目に映すのは世界というとんでもない夢想家であった。

 

そのため、尋常ならぬ努力家であるミホノブルボンが本当に『東京大賞典』で勝利してしまったら、それはもう天才と呼ばれていたトウカイテイオー以上に凄まじい名バの証明にすらなってしまう。

 

そういうわけで、12月22日の『東京大賞典』と12月23日の『有馬記念』の2本立てでクリスマス前の土日休みに連続して奇跡を演出しようと言うのが、“皇帝”シンボリルドルフと“天才”才羽Tが立てた感動のシナリオというわけである。

 

 

――――――だが、その前に『ジャパンカップ』での因縁に決着をつけなければならない。

 

 

偽りの復活劇を演じた偽物のトウカイテイオー’と岡田T’を本物のトウカイテイオーと岡田Tが下してこそ、その奇跡には真の価値がある。

 

誰にも知られることがなく闇から闇へと葬らなくてはならない宿命の対決が『名家』シンボリ家の別荘地にある芝・2000mのトレーニングコースで執り行われようとしていた。

 

シンボリ家の使用人たちに扮して、その立会人として唯一無二のWUMA殺しである私とスーペリアクラスに進化したアグネスタキオン(スターディオン)’に加えて、WUMA対策班が詰め掛けることになった。

 

しかし、“皇帝”シンボリルドルフとしては、本物であることや偽物であることは関係なく、勝った方を『有馬記念』に勝利をもたらすトレセン学園の未来を担う“帝王”として扱うつもりであった。その内心はどうであれ。

 

偽物に自身の存在を奪われた『ジャパンカップ』以来、シンボリ家の別荘地でトレーニングに積み重ねていた本物のトウカイテイオーに場馴れの優位性はあるものの、全盛期の過去の自分に打ち勝てるかどうかは未知数であった。

 

もちろん、偽物のトウカイテイオー’の正体はウマ娘が本能的に絶望と恐怖に追い込まれる怪人:ウマ女なので骨折の恐れもないだろう。擬態能力を駆使した治癒能力は絶対に敵わない。

 

付け入る隙があるとすれば、相手がジュニアクラスということで完全に擬態対象に成りきっている点だが、

 

トレセン学園で暗躍していたエルダークラス:ヒッポリュテーによって『ジャパンカップ』での敗北を淡々と受け容れるように調整を受けていたため、肉体的にも精神的にも極めて安定しているのも手強いところだ。

 

一方、本物のトウカイテイオーにしてみれば『有馬記念』出走を賭けた久々の模擬レースであり、いつまた故障するかもわからない不安と自身の存在価値を天秤に掛けた死闘となるだろう。

 

もちろん、こちらには時間跳躍が使える最強の超科学生命体:アグネスタキオン(スターディオン)’がいるのだが、いくら仕組まれた決戦とは言え、本当にズルをするのは直向きにターフの上で走ってきたウマ娘たちへの侮辱となる。

 

だから、“皇帝”シンボリルドルフはトレセン学園の未来を自身の天運に全て賭けて静かにバ場を見下ろしていた。

 

 


 

 

斎藤T「………………」

 

シンボリルドルフ「きみはやはり『本当に勝てるのか』だなんては訊いてこないんだな」

 

斎藤T「“皇帝”陛下が望んだことを信じるのが臣の務めですから」

 

シンボリルドルフ「……訊きたいことがあるみたいだね」

 

斎藤T「はい。私的なことなのですが、三女神像で行われているおまじないの儀式で幻覚を見たのです」

 

シンボリルドルフ「――――――『幻覚』」

 

斎藤T「私が目撃したのは、何というのでしょう、“人生真っ盛りの三十路のおっさんって感じのヒトの男性”と“肩にサバトラ猫を乗せた二十代の若いヒトの男性”でした」

 

斎藤T「賢者ケイローンが言うには、私はその二人の先人たちの後を継いで、未来からの侵略と過去からの遺産に敢然と立ち向かう宿命にあるとのこと」

 

シンボリルドルフ「――――――『猫を肩に乗せた』?」

 

斎藤T「ここでお訊ねしたいのは、この二人の先人たちにそれぞれスーパークリークとシンボリルドルフの姿がオーバーラップして見えていたということで、」

 

斎藤T「この二人の先人に関して知っている情報を教えてもらいたいのです」

 

シンボリルドルフ「――――――『スーパークリークと私』?」

 

シンボリルドルフ「……そうか。()()()()()()だったのか」

 

シンボリルドルフ「なら、何も心配することはなかったのだな」

 

斎藤T「あの……」

 

 

シンボリルドルフ「ありがとう、斎藤T。きみが来てくれたのは全ては尊い三女神の導きだったというわけだな」

 

 

斎藤T「……何の話です?」

 

シンボリルドルフ「私が幼い頃の中央競バ界が暗黒期だったことは知っているな?」

 

斎藤T「そこから御自らの手で秋川理事長と共に黄金期を築き上げたことも当然」

 

シンボリルドルフ「幼い頃の私は腐敗しきっていた中央競バ界の惨状に絶望しきって、競走バとしての生き方から逃げようとしていたんだ」

 

斎藤T「え」

 

シンボリルドルフ「あの頃は、中央と地方の人気が逆転された上に、天災人災によって競走バの存在価値と担当トレーナーの社会貢献が問われた低迷期でもあったんだ」

 

シンボリルドルフ「だから、私は国民的スポーツ・エンターテイメントの主役である競走ウマ娘として生まれてきたことに嫌気が差すようになっていてね」

 

シンボリルドルフ「その大変な時期に活躍したのが荷役ウマ娘・農耕ウマ娘・格闘ウマ娘・軍隊ウマ娘であり、天災人災においては競走ウマ娘にできることは何もなかった――――――」

 

シンボリルドルフ「きみから見ても競走ウマ娘は長期的に見て脆弱な存在に見えるだろう? 中央での故障率を見ても競走ウマ娘の全盛期は長い人生においては本当に儚いものだ……」

 

斎藤T「それは………………」

 

シンボリルドルフ「だから、私は競走ウマ娘なんて小綺麗に整ったターフの上でしか走れない脆弱な存在に生まれてきたことを恨んでいたぐらいだ」

 

シンボリルドルフ「わかるだろう。近代ウマ娘レースは 王侯貴族がバルコニーから見下ろせる範囲で ウイニングライブの権利を得るために宮廷舞踏家のウマ娘たちが競走したものが起源だ」

 

シンボリルドルフ「つまり、ここから見下ろせるだけの範囲しかない狭い世界にしか私の居場所がないみたいで息苦しかった……」

 

シンボリルドルフ「両親にも酷い言葉をぶつけて傷つけてしまった……」

 

斎藤T「そんなことが……」

 

 

シンボリルドルフ「そこから私の心を繋ぎ止めてくれたのが“魔王”スーパークリークの担当トレーナーとなった通称“ウサギ耳”のトレーナーだったんだ……」

 

 

斎藤T「――――――“ウサギ耳”?」

 

シンボリルドルフ「ああ。ウマ娘にしては異様に耳が長かったことで付けられた仇名でもあり、それと同じぐらいに並外れた180cmの体躯と豊満さと男気を誇った魔性のウマ娘だった」

 

シンボリルドルフ「彼女は世間的には悪役トレーナーとして名を残しているが――――――、」

 

シンボリルドルフ「その実、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()トレセン学園の真の救世主でもあったんだ」

 

斎藤T「どういう意味です?」

 

シンボリルドルフ「言葉の綾さ。今が黄金期と言われるなら、その前の時代はどうあっても見劣りする時代だったと言われてしまうのだから、当時 幅を利かせていた連中からしてみれば最悪の侮蔑だろう?」

 

シンボリルドルフ「そうなれば、たとえ改革の意志があったとしても、自分たちの批難に繋がることに協力する気にはなれないだろう」

 

斎藤T「つまり、暗黒期の原因となっていたトレセン学園の膿みを出し切って黄金期をもたらした影の功労者――――――」

 

 

シンボリルドルフ「そして、彼女は偉大なる予言者でもあったんだ。予言者だったからこそ黄金期の到来のために全てを擲って私に栄光のバトンを渡してくれたんだ」

 

 

斎藤T「――――――『予言者』?」

 

シンボリルドルフ「彼女はトレセン学園で活躍することになる名バたちの目録となる未来の予言書『ウマ娘 プリティーダービー』を私にくださったのだ」

 

シンボリルドルフ「ある程度は読みが外れているところはあったが、外見や性格、脚質や適性に関してはピタリと予言していた」

 

シンボリルドルフ「特に暗黒期ではありえないぐらいに自由な気風に染まった個性豊かな勝負服を全て正確に絵に残していたことが予言書の最たるものだった」

 

シンボリルドルフ「そして、私自身が予言書を信じるきっかけになったのは、『沈黙の日曜日』の予言だった」

 

斎藤T「…………なんですって!?」

 

シンボリルドルフ「予言を信じてさえいれば防ぐことができたかもしれない悲劇を前にして、私は彼女から与えられたものの大きさを初めて理解することができた」

 

斎藤T「じゃあ、その予言書には――――――」

 

シンボリルドルフ「ああ。私が“七冠ウマ娘”となってトレセン学園の黄金期を牽引する最強の生徒会長として長らく君臨することも、三度の敗北で引退することも全て予言されていた」

 

斎藤T「まだ引退宣言はしていない辺り、ちがいますけどね」

 

シンボリルドルフ「それでも、大筋は合っている」

 

シンボリルドルフ「そして、トウカイテイオーという“天才”が私のことを慕い、私も期待を寄せたところ、“無敗の三冠ウマ娘”の夢は果たされなかったということすらも予言されていた」

 

斎藤T「それじゃあ、あのメジロマックイーンの引退に関しても?」

 

シンボリルドルフ「いや、彼女の予言に関してはかなり結果がちがっていた」

 

シンボリルドルフ「というよりは、『ミホノブルボンとライスシャワーに関する戦績がまったくちがった』といった方が正しいか」

 

斎藤T「――――――才羽Tと飯守Tの二人は予言を変えた?」

 

シンボリルドルフ「それはわからない。けれども、()()()()()()()()()()()はここ最近でそう強く思うようになっていたことだ」

 

 

シンボリルドルフ「そして、トウカイテイオーが三度目の復活を果たした『有馬記念』でビワハヤヒデに勝つという予言がなされていた」

 

 

斎藤T「!!」

 

斎藤T「その予言に全てを賭けるのですか?」

 

シンボリルドルフ「いや、こうして予言書『ウマ娘 プリティーダービー』のことを話していると、」

 

シンボリルドルフ「あの予言書はトレセン学園に黄金期をもたらすための方向性を示したものであり、それを踏まえて最善の選択をする自由と未来に立ち向かう勇気を与えるものだったかもしれないな……」

 

シンボリルドルフ「だから、私に血の宿命に抗わずにトレセン学園に進む勇気を与えてくれた“ウサギ耳”の偉大なるトレーナーには感謝しかないな……」

 

斎藤T「なるほど、そういうわけで賭けに出たわけですか」

 

 

シンボリルドルフ「それと、きみが三女神像のおまじないの儀式で見たであろう もうひとり先人というのは、私の担当トレーナーだ」

 

 

斎藤T「……そうじゃないかとは思っていましたが、写真とは随分とちがった見た目でしたけどね」

 

シンボリルドルフ「どういった姿を見たのかはわからない。けれど、飼育禁止のトレセン学園で()()()()()()()()()()()()()()()()()のは今も昔も彼ひとりしかいない」

 

シンボリルドルフ「公式の場ではそんな姿を見せるわけにもいかなかったが、彼は常々ペットのぬいぐるみを持ち歩いて撫で回していたような変人だったよ」

 

シンボリルドルフ「その、私もその対象だったのだがな……」フフッ

 

斎藤T「おお、それが“皇帝の王笏”と呼ばれた最強の新人トレーナー……」

 

シンボリルドルフ「ああ。中等部の頃はよく撫でてもらっていて、今でも懐かしく思うよ」

 

斎藤T「――――――その人は今どこに?」

 

シンボリルドルフ「…………冗談だと笑い飛ばしてくれてかまわない」

 

 

――――――未来だよ。私たちは()()()()()()()()()輝く未来をこの手に掴むと決めたんだ。

 

 

斎藤T「…………!」

 

シンボリルドルフ「私は今でも彼のことを愛している。()()()()()()()()()()とずっと恋い焦がれている」

 

シンボリルドルフ「でも、()()()()()()()()()()()()()()悲しい未来にしないためにも、私はその幻想を振り払って“皇帝”で在り続けなくてはいけないんだ」

 

斎藤T「そんなことが――――――」

 

シンボリルドルフ「ハッ」

 

シンボリルドルフ「そうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだな……」ポタポタ・・・

 

 

シンボリルドルフ「いや、私のために天は素晴らしき3人の無名の新人トレーナーをその時々に遣わしてくれていたのか……」ボタボタ・・・

 

 

シンボリルドルフ「ううっ!」ガバッ

 

斎藤T「あ、ちょっと――――――!?」ドキッ

 

シンボリルドルフ「すまない。今だけは“皇帝”ではなく“新堀 ルナ”として胸を貸して欲しい……」グスン・・・

 

シンボリルドルフ「私は、私のような卑怯な女に“皇帝”なんて大役が務まるのかどうか、ずっとずっと不安だった……」ボタボタ・・・

 

シンボリルドルフ「競走ウマ娘や『トゥインクル・シリーズ』の人気が低迷した時代に『名家』の看板と期待を背負ってターフの上を走ることを義務付けられた人生が嫌で嫌でしかたがなかった……」

 

シンボリルドルフ「それでも、そんな暗黒期で『私の笑顔が見たい』と言って“ウサギ耳”の無名の新人トレーナーは誰にも称賛されることがない戦いをやり抜いて、私に予言書の通りの黄金期に到る道を整えてくれた……」

 

シンボリルドルフ「そして、私が予言書にあった“皇帝”になるための茨の道を共に歩んでくれたのが私のために時を超えてきた無名の新人トレーナーだった……」

 

 

シンボリルドルフ「彼がいたからこそ私は一人の人間が得るべき愛の在り方と一生分の喜びと悲しみを知って“ヒトとウマ娘の統合の象徴”として生きる決心ができたのだ……」

 

 

シンボリルドルフ「それから現れた3人目の無名の新人トレーナーこそがきみだよ」

 

シンボリルドルフ「きみのことを私は出会う前からずっと待っていたのかもしれない――――――」

 

シンボリルドルフ「だから、テイオーのことや後のことを全てまかせてもいいだろうか?」

 

斎藤T「!」

 

斎藤T「………………」

 

 

――――――まだ本日のメインイベントである宿命の対決が始まる前だと言うのに、そもそも担当ウマ娘のデビューすらやっていないサブトレーナーでしかないのに、いろんなことがわかってしまった。

 

 

詳細はまだわからないが、黄金期を築き上げることになった“皇帝”シンボリルドルフのトレセン学園での6年間にも決して語られることがないヒューマンドラマがあり、

 

それ以前の暗黒期と呼ばれていた時期でもトレセン学園に入学するかどうかの葛藤と苦しみを抱えた日々を送っていたらしいことが本人の口からそれとなく聞かされることとなった。

 

そして、私が因子継承することになった二人の先人たちもとんでもない経歴の無名の新人トレーナーだったらしく――――――、

 

そうか。だから、皇宮警察の息子である無名の新人トレーナーだった“斎藤 展望”をすぐにクビにすることなく、こうしてシンボリルドルフは期待を寄せていたわけなのか。

 

それと、賢者ケイローンがやってきた10年後の未来――――――、異世界からの侵略者“フウイヌム”によってヒトが奴隷階級に貶められる絶望の世界を救う存在が現れるという予言との関連性も感じられた。

 

ということは、“ヒトとウマ娘の統合の象徴”たる“皇帝”シンボリルドルフの存在はこの世界にとって極めて重要な要素であると考えられ、

 

そのシンボリルドルフが自身の後継者として目を掛けていたトウカイテイオーもこれから時代において非常に重要な働きをすることが予想された。

 

そうなると是非とも見てみたいものだ、その予言書『ウマ娘 プリティーダービー』というやつを。

 

それと“ウサギ耳”のトレーナーの足跡を追う必要もあるだろうし、新たな事実が新たな謎を呼ぶ今の状況はちょっとした冒険活劇みたいで心が躍る展開でもある。

 

 

――――――だから、『本物が偽物の勝つ』という王道に期待して、その時を静かに待ち続けた。

 

 

一応、偽物のトウカイテイオー’と岡田T’は何も知らずに呼ばれており、芝・2000mの模擬レースをシンボリ家の別荘で行うことだけ伝えてあった。

 

そのため、“皇帝”シンボリルドルフが直々に『有馬記念』に向けた秘密の特訓をしてくれるものだと浮かれて偽物のトウカイテイオー’が合宿に現れた。

 

バ場に着くまでは完全に“皇帝”シンボリルドルフはトウカイテイオー’に対して学園にいる時と変わらぬ朗らかな表情で応対していた。

 

一方、私は別荘で働くシンボリ家の使用人に扮して いつでも偽物のウマ娘とトレーナーを始末できるように C4爆弾を送迎車にセットしながら、藤原さんのWUMA対策班と一緒になって警戒を怠らなかった。

 

そう、人目につかないように本物のトウカイテイオーと岡田Tの療養と特訓のために選ばれた別荘地であるが、同時に馬脚を現した偽物を人知れず始末するための処刑場としても選ばれていたのだ。

 

そして、勝負服を来たシンボリルドルフとトウカイテイオー’がトレーニングコースに現れた時、満を持して本物のトウカイテイオーが現れたのであった。

 

 

トウカイテイオー「その勝負、ちょっと待ったー!」

 

トウカイテイオー’「うわっ!?」

 

岡田T’「こ、これはいったいどういうことだ!?」

 

トウカイテイオー’「ぼ、ボクが二人いるだなんてどういうこと~!?」

 

トウカイテイオー「ちがう! テイオーはこのボクだぞ、偽物め!」

 

トウカイテイオー’「カイチョー! カイチョーにはどっちが本物のテイオーかわかるよね?」

 

 

シンボリルドルフ「ああ。勝った方が本物のテイオーだ」

 

 

岡田T’「ええ!? ちょっと待ってくださいよ、生徒会長! 万が一にもテイオーが偽物に負けたら――――――」

 

トウカイテイオー’「ふふーんだ。心配することなんてないよ、トレーナー」

 

トウカイテイオー’「ボクが偽物なんかに負けると思ってるわけ?」

 

岡田T’「い、いや、そんなことはないが……」

 

シンボリルドルフ「なら、決まりだな。私はバルコニーから戦いぶりを見させてもらう」

 

シンボリルドルフ「――――――勝てよ、テイオー」ボソッ

 

トウカイテイオー「うん。まかせて、会長」ボソッ

 

 

そう言って場を離れたシンボリルドルフを尻目に偽物の岡田T’の周囲に使用人に扮したWUMA対策班がいつでも取り押さえることができるように配置に着いた。

 

そして、シンボリルドルフがコースを一望できるバルコニーから姿を現して手を振ると、スターティングゲートに入っていた二人のトウカイテイオーも手を振った。

 

ここからは真剣勝負だ。本当ならばシンボリ家の別荘地に呼び寄せたところをC4爆弾で爆殺して終わりの話だったのだが、“皇帝”陛下の無茶振りでどっちが勝ってもいいようにしてしまったのだ。

 

もちろん、本物が勝つことを信じているからこその賭けだが、この一戦にシンボリルドルフの全てが込められていた。

 

もっとも、偽物からすればハンディキャップ戦を仕掛けられているわけであり、様々な面で圧倒的不利となっていた。

 

まず、私有地のトレーニングコースという情報未公開の不慣れな場所に加えて、本物は今日という日まで走り込んだホームグラウンドとなっていた。

 

また、学園の監視映像を本物の岡田Tに流して偽物の能力や傾向を確認してしっかりと対策を立てていたぐらいなのだ。

 

『ジャパンカップ』での実況と解説の言葉を信じるなら全盛期のトウカイテイオーをベースにした過去の存在に対して、いかにしてそれを乗り越えて『有馬記念』に勝利するかに全力を込めた一世一代の特訓がなされていたのだ。

 

実際にはシンボリルドルフのエゴによってトウカイテイオーを次期生徒会メンバーに入れるための箔付けとして意図された一連のレースの舞台ではあるものの、

 

自分の存在意義を“成り代わり”によって偽物に奪われたまま終わることを良しとしないウマ娘の闘争本能が人生最高にして最後のレースへの貪欲なまでの勝利への執念を昂ぶらせた。

 

そして、それを体現したかのような装い新たにした真っ赤な勝負服はもちろん予言書『ウマ娘 プリティーダービー』にあったものをシンボリルドルフが私費で再現して贈ったものであり、

 

好敵手:メジロマックイーンが『天皇賞(秋)』でターフの上で死ぬ覚悟をしていたのと同じく、トウカイテイオーとしては人生最後の『有馬記念』でリベンジを果たすことに全てを賭けていた。

 

それ故に、この一戦に賭ける両者の想いの強さと顔の表情には雲泥の差があったのはもはや言うまでもないことだろう。

 

挫折を知らないまま成長した無垢な天才と何度も挫折して復活を遂げてきた傷だらけの天才のどちらに勝利の女神は微笑むのか――――――、それは言うまでもないだろう。

 

そうだ。『ジャパンカップ』で偽物のトウカイテイオー’がミホノブルボンにハナ差で勝ちきれなかった理由はまさにそこにあったのだ。

 

 

 

――――――絶対は、ボクだ!

 

 

 

斎藤T「併走させてみた結果はご覧の通りですけど、やはり全盛期のトウカイテイオー’の方が実力としては上でしたね」

 

斎藤T「どれだけ有利な条件を突き付けても本物の天才はそれらを跳ね除けてしまう――――――」

 

岡田T「しかし、それを破ったのは天才をも上回る勝利への執念ですよ、斎藤T」

 

岡田T「本当によくやったよ、テイオー……」ポタポタ・・・

 

アグネスタキオン’「――――――感情が与える力か。これを見ていると本当に馬鹿にならないものだね」

 

斎藤T「では、岡田T。『有馬記念』での勝利を祈ってますよ。ミホノブルボンの才羽Tもそのために『東京大賞典』に変えたのですから」

 

岡田T「わかってます」

 

岡田T「……行くのですね?」

 

斎藤T「はい、それが使命ですので」

 

斎藤T「もっとも、仕掛けたC4爆弾を起爆させた後の死体確認が主ですので、すぐに終わります」

 

斎藤T「岡田Tは全てが終わるまで待機していてください。状況が混乱しますので」

 

岡田T「はい。気をつけてください、斎藤T」

 

アグネスタキオン’「おや、トレーナーくん。偽物の岡田T’をどこへ連れて行くんだい、あれは?」

 

斎藤T「え? 何をやっているんだ、あれは?」

 

斎藤T「藤原さん! 駆除対象(ターゲット)Tをどこへ連れて行くつもりなんです? 作戦通り、駆除対象(ターゲット)Uと一緒にC4爆弾で爆殺する流れですよね?」スチャ

 

斎藤T「――――――は? 『WUMA捕獲作戦』をSAT(特殊急襲部隊)が行う? 何ですか、それは!?」

 

斎藤T「報告しましたよね!? 状況証拠が揃っている以上は擬態対象に完全に成りきっている無防備状態から爆殺するのが一番だと! そのために人気のない別荘地に誘い込んだんですよ!?」

 

斎藤T「擬態を解いて正体を現したら怪人:ウマ女の姿になって高速移動で対処不能になりますって!」

 

斎藤T「――――――たしかに現実的なWUMAの脅威を上層部に認識させるためには()()()()()()()()必要はありますが、SATの隊員を人柱に捧げるわけにはいきません!」

 

斎藤T「――――――警察バの精鋭が相手するとかじゃなくて、そもそもの怪人:ウマ女のスピードとパワーに対処することが難しいからC4爆弾で爆殺すると言っているのです!」

 

斎藤T「……くそっ! 空間跳躍の餌食になるぞ! 催眠術だとか超スピードだとか そんな程度の話じゃないというのに!」チッ

 

アグネスタキオン’「――――――時間跳躍するかい、ここは?」

 

斎藤T「ダメだ。現場を説得できる状況でもないし、上層部に直談判することもできない。無駄にお前の命を削らせるわけにはいかない」

 

斎藤T「本物が偽物に勝つのを見届けてから爆殺するだけの話だったのに、なんでこんなスマートにいかないんだ!」

 

 

今回のWUMA討伐作戦は前提として『本物が偽物に勝つこと』が絶対条件であったため、それが見事に果たされたことで感動もひとしお、予定通りに決行されるはずだった。

 

ところが、土壇場の予定変更で風雲急を告げる事態へと発展していくことになってしまった。

 

なんと、何をとち狂ったのか、WUMA討伐作戦は『警視庁』上層部からの伝達でWUMA捕獲作戦に変更されていたのだ。

 

そのために協力を取り付けていた『警視庁』のSATは最初からそのつもりで準備を進めてきていたらしく、

 

この作戦の前提としてWUMAが化けた偽物が勝っても担当トレーナーの偽物の安否は重要視されていなかったことを突いて、偽物の岡田T’の正体を暴いてWUMAを生け捕りにしようとしていたのだ。

 

たしかに成功すれば見返りは大きいだろうが、そもそもウマ娘よりも強大な存在である怪人:ウマ女を管理する方法などあるのだろうか。

 

まあ、脚を切り落としてしまえば空間跳躍しようがそれまでだが、何にしても捨て置くわけにはいかない。

 

時間跳躍も超弦理論の時間の流れに抗って行われることを考えると、三次元の物質世界の肉体に多大な負担を掛けるものとなっているため、気軽に使えるものではない。

 

しかも、認識できる範囲にしか四次元能力は影響しないので、アグネスタキオン(スターディオン)’がいきなり大捕物の現場に乱入することはできないのだ。

 

結局、使い所を見極めなければならないものの、相手の四次元能力を逆手に取ることができれば必殺のカウンターを浴びせることができるようになっただけマシか。

 

 

しかし、今回もまたくだらない警察官としてのプライドだの意地の張り合いに巻き込まれた形となってしまった。

 

 

なにしろ、WUMAの撃退実績は一民間人に過ぎない悪名高い無名の新人トレーナーが独占しており、8月末の責任問題に発展した忌まわしき事件のリベンジの機会を『警視庁』が待ち望んでいたわけなのだから。

 

そのため、ここで『警察がWUMAを対処した』という実績を作ることに躍起になっていたのだ。『警視庁』も突如として降ってきたトレセン学園で起きた事件への対応力不足の責任問題の被害者でもあったためだ。

 

こちらとしても国家権力が真面目にWUMA問題に取り組んでくれるようになってくれたのは正直に言ってありがたいことなのだが、動機が不純過ぎるのが透けて見えた。

 

SATの精鋭たちを侮っているわけじゃないが、それ以上にWUMAのことを侮っているわけじゃないからこそ、C4爆弾で有無言わさずに爆殺すると言っているのに、このわからず屋が……。

 

とにかく、大捕物の前に偽物の岡田T’を拷問して正体を暴くことができそうな場所が近くにあるはずなのだ。

 

そこでWUMAとの戦闘データも取るつもりでいるらしいから、どこかのメインホールを貸し切って万全の態勢を敷いているはずなのだ。

 

さすがは『名家』シンボリ家の別荘地だ。芝・2000mのトレーニングコースやスターティングゲートを用意しているだけあって非常に広々としている。

 

時間跳躍するなら無理やりにでも情報を聞き出して現場に突入して記憶するのが一番だ。

 

 

 

 

 

――――――結果に関しては言うまでもないことだろう。

 

 

 

 

 

作戦はものの見事に大失敗。当初のWUMA討伐作戦としても、WUMA捕獲作戦としても大失敗に終わってしまった。

 

いや、結局は偽物の岡田T’の正体であるWUMAは私が始末したわけなのだが――――――。

 

当初、拷問して生命の危機に陥らせたことで生存本能から偽物の岡田T’が正体を現すところまでは上手くいったのだが、

 

ここからはモンスター映画のお約束どおり、怪人:ウマ女の圧倒的なパワーによって拘束は力尽くで破られてしまった上に、

 

岡田Tに擬態したWUMAがシニアクラスの一角獣(ユニコーン)の怪人だったため、超能力によって暴徒鎮圧用ガス弾は全て不発となり、出鼻を挫かれてしまった。

 

ということは、担当トレーナーらしく担当ウマ娘を管理するように、ある程度のWUMAとしての自我を持ったままの偽物の岡田T’が偽物のトウカイテイオー’を管理していたということなのか――――――。

 

最上位のエルダークラスではないにしろ、下士官に相当する上位のシニアクラスをこの場で排除することができたのはWUMA対策のセオリーで言えば不幸中の幸いだった。

 

そして、角が生えたことで引き起こされる超能力による放電により、列を組んだライオットシールドによる鉄壁の布陣は一挙に瓦解することになった。

 

そこからはまさにWUMAの本領発揮であり、空間跳躍による超高速移動によって次々と蹄の手でSATを八つ裂きにしていき、血みどろの凄惨な状況を創り上げてしまったのだ。

 

もちろん、警察バの精鋭たちもいたわけなのだが、ヒトと同じように普通に為す術もなく八つ裂きにされていた。あらためて、人間なんかがまともに敵う相手ではなかった。

 

 

――――――先程まで命だったものがたくさん転がっている。

 

 

そのため、SATが一度は全滅する憂き目に遭っており、完全に間に合わなかった上にWUMAには現場から逃走されてしまったので、時間跳躍を使わざるを得ない状況になってしまった。

 

しかし、アグネスタキオン(スターディオン)’の機転で殺戮現場のカメラ映像を持ち出すことになったので、戦闘データ(決定的な画)の回収によって上層部への説得材料はこれで十分だろう。

 

問題はどのタイミングでSATを救出するかであったが、これはもう痛い目に遭った生き証人を残すために鉄壁の布陣が崩されてWUMAにSATが八つ裂きにされる瞬間しかない。

 

時間跳躍に関しては公には秘密にしておきたいので、陣形を崩された混乱の中に紛れ込むのがベストな選択と言えた。

 

 

よって、大捕物の現場を特定された時点で岡田Tに擬態していたシニアクラスの一角獣(ユニコーン)の怪人:ウマ女の命は消し飛んだ。

 

 

やっぱり、時間跳躍能力は最強であり、今日も“斎藤 展望”が怪人:ウマ女を屠ったのであった。

 

突如としてプラズマジェットブレードで両脚を切断し、超能力の制御器官である角も肉体改造強壮剤で得た豪腕で根本から圧し折って、無慈悲にも怪人:ウマ女の無力化に成功。

 

あとのことはSATにまかせて――――――、これで土壇場になってWUMA捕獲作戦の命を下した『警視庁』の面目が立ったことだろう。

 

しかし、またしても活躍した私の功績が妬まれたのか、いきなりSATに取り押さえられることになってしまった。

 

曰く、突如として現場に現れた私が擬態したWUMAではないかという恐怖に襲われたのだとか。

 

時間跳躍してきたことを公言するわけにはいかなかったので、極秘であるはずのWUMA捕獲作戦の現場に『最初からいた』ということで押し通すことに成功した。そう考えないと彼らの中で辻褄が合わないので簡単なことだった。

 

ところが、私がSATの尋問を受けている間にそんな些細な問題が吹き飛ぶほどの深刻な問題が浮上してしまったのだ。

 

 

 

――――――偽物のトウカイテイオー’はどこへ行った!?

 

 

 

そう、SATが作戦の前提として注目していなかった偽物のトウカイテイオー’に擬態していたWUMAが行方不明になっていたのだ。

 

いや、偽物のトウカイテイオー’も決して野放しにしていい存在ではなかったのだが、ここで土壇場でのSATの作戦変更が響いてしまっていたのだ。

 

当初の予定では、本物に負けた後だろうと、油断させるためにシンボリ家の別荘で丁重にもてなした後に駆除対象(ターゲット)2体を乗せた送迎車を爆破ポイントに誘導してC4爆弾で爆殺する流れとなっており、

 

元々のSATの役割はその爆破ポイントを包囲して確実な死体確認をするために呼び寄せた保険でしかなかったのだが、その保険のせいで偽物のトウカイテイオー’を取り逃す羽目になってしまった。

 

 

――――――負けられない一戦で負けてしまったウマ娘の心情を考えてみれば当然の話だろう!

 

 

偽物のトウカイテイオー’と言えども自分こそが本物のトウカイテイオーと思い込んでいるのだから、突如として現れた偽物(本物)のトウカイテイオーに負けてしまったショックは想像に難くない。

 

その時、敗戦のショックで茫然自失のウマ娘を支えてやるのが担当トレーナーの役割でもあるのだから、憧れの生徒会長に合わせる顔がなくなったトウカイテイオー’が真っ先に頼ろうとするのは担当トレーナーしかいない。

 

しかし、作戦の前提である本物が偽物に勝つのを見届けた直後に、SATが偽物の岡田T’を大捕物の舞台に引きずり込んでしまった――――――。仕掛けるのが早すぎたのだ。

 

当然、SATとは別に動いているシンボリ家の使用人に扮して監視を続けていたWUMA対策班の藤原さんはトウカイテイオー’が岡田T’を探しに出歩こうとする事態になってようやく作戦ミスを悟った。

 

藤原さんはWUMA対策班の責任者ではあるが、正式な所属は警視庁警備部災害対策課なので今回の怪人災害に関しては全般的な指揮権を持つものの、

 

SATが警視庁警備部警備第一課という別の管轄ということもあったが、警視庁警備部の誇りでもあるSATの能力を信じていたことが冷静な判断を狂わせてしまったのだ。

 

もちろん、今回の土壇場の変更によるWUMA捕獲作戦は『警視庁』上層部の意向が絡んでいるので、藤原さんには拒否権がないのでしかたがなかったのだが、

 

またしても『警視庁』が失態を犯してしまったことに、別荘地を貸してくれていた“皇帝”シンボリルドルフの怒りに触れることになったのだ。

 

私としても駆除対象(ターゲット)が2体なのでバラバラに逃げ出す可能性を考慮した立ち回りをいつでもすべきだったと反省しているのだが、

 

偽物御一行様が送迎車に乗ったところをC4爆弾でまとめて始末する計画だったのを土壇場でひっくり返されたんだから、どうしようもないだろう!

 

頭に来たので、S()A()T()()辿()()()()()()()()()()()()()()迫真のシミュレーション映像(スナッフフィルム)をその場で提出して、知らんぷりをすることにした。

 

確実に始末できる時に始末しなかったら次にどういった行動をやり出すか予測がつかないのだから、

 

作戦の前提となる“皇帝”陛下の望みは叶えられたものの、WUMA対策班の本分を全うできなかったということで大失敗である。

 

SATの尋問を受けるという致命的なタイムロスがなければ、まだ時間跳躍して追いかけることもできただろうに!

 

もっとも、誰も偽物のトウカイテイオー’がどこにいたかを正確に憶えているやつがいなかったのだから、命を削るぐらいの肉体疲労を招く時間跳躍の濫用はできそうになかった。

 

そして、偽物のトウカイテイオー’が失踪した理由については定かではないが、おそらくは現在も無我夢中に走り抜けているだろうから、まともな捜索は不可能だろう。

 

外見はウマ娘でも中身は怪人:ウマ女であり、擬態能力に由来した高い治癒能力によって数十kmを走ることになる耐久競技並みの距離を苦にすることなく爆進しているにちがいない。

 

 

――――――こうしてWUMAによる“成り代わり”から存在意義を取り戻せたトウカイテイオーと担当トレーナーは最後の決戦の舞台『有馬記念』へと赴くのであった。

 

 

しかし、決して『めでたしめでたし』なんかではない。

 

WUMAの存在は闇から闇へと葬らなくてはいけないのだから、『警視庁』はまたしても今回の作戦変更で生じた作戦失敗の責任問題で揉めることになり、

 

まさかトウカイテイオーのそっくりさんの捜索願を出すわけにもいかないので、責任を取るために『警視庁』は独自に捜索隊を編成することになったのだ。

 

私としても時間跳躍がそこまで万能ではないことが骨身に染みることになり、WUMAを複数体同時に相手取るための戦術を模索することになった。

 

 

 

それからの話である。

 

本当の意味でトレセン学園に復帰することができたトウカイテイオーと岡田Tとしては、自分たちに成り変わったのが先だとしても『ジャパンカップ』を走ってくれた偽物の成績を横取りすることに対しても申し訳ないと思ったらしく、

 

せめて、事の真相を知っている相手であり、トウカイテイオーの真の復活劇のために『東京大賞典』に出走することにしたミホノブルボンと才羽Tに対してお詫びを入れに行ったようである。

 

すると、そこで偽物のトウカイテイオー’がミホノブルボンにハナ差で勝ちきれなかった理由を知ることになり、感服したのだとか。

 

それは“皇帝”シンボリルドルフの躍進を見続けた世代としてそれに続く“帝王”の存在を夢見ていた岡田Tと、“皇帝”シンボリルドルフの偉大なる業績とは別の在り方で大きな夢を叶えようとする才羽Tの差であったのだ。

 

 

そう、近代ウマ娘レースにおいて勝利の栄光を掴ませるのは担当ウマ娘の才能が従であり、担当トレーナーの手腕こそが主であったということなのだ。

 

 

元々は近距離ウマ娘(スプリンター)でしかなかったミホノブルボンが“無敗の三冠ウマ娘”も夢ではなかったと評された全盛期のトウカイテイオー’に『ジャパンカップ』で勝ったことが何よりの証だった。

 

そうだった。岡田Tは“皇帝”シンボリルドルフがデビューしたのと同じ年にトレーナーとなり、自身も“皇帝”シンボリルドルフのような栄光あるウマ娘のトレーナーになることが夢だったのだ。

 

それは裏返すと、どこまでも“皇帝”シンボリルドルフが辿った道を後追いするものでしかなく、新たな道を切り拓くだけの器量がなかったとも言えるのだ。

 

そういう意味では、必要とあれば『有馬記念』を捨てて『東京大賞典』を選ぶことができた才羽Tは融通無碍であり、自分で価値を生み出せる正真正銘の天才であった。

 

そもそも、才羽Tがミホノブルボンの担当になった動機や短距離ウマ娘(スプリンター)から遠距離ウマ娘(ステイヤー)に肉体改造を施せたのも普通のトレーナーの判断ではありえないものばかりであった。

 

なので、才能や能力は間違いなくトウカイテイオー’が上ではあったが、それでもミホノブルボンが勝つのは紛れもなく担当トレーナーの才覚と手腕によるものだ。

 

そして、それを実現させるのはウマ娘自身が抱く夢に向かっていくために勝利を掴み取ろうとする意志の強さであり、

 

それは つい先日 トウカイテイオー自身が全盛期の自分に擬態したトウカイテイオー’に勝利したものに通じるものであった。

 

だから、トウカイテイオーも岡田Tもミホノブルボンと才羽Tには敵わないと素直に感服したのであった。

 

そのことを知って“皇帝”シンボリルドルフはひとり満足そうな表情を浮かべるのであった。

 

 

シンボリルドルフ「そうか。テイオーも岡田Tも本当の意味でヒトとウマ娘の絆が生み出す力の偉大さを理解することができたか……」

 

シンボリルドルフ「そう、夢なんだ。夢の大きさが現実を変える力になるんだ」

 

シンボリルドルフ「私が“七冠ウマ娘”になれたのはそのことを“ウサギ耳”の無名の新人トレーナーに教わったから」

 

シンボリルドルフ「そして、私自身が最愛の人となる無名の新人トレーナーとそれを実践してみせた――――――」

 

シンボリルドルフ「今度は股肱之臣と呼べる無名の新人トレーナーが新しい世代に伝わるのを支えてくれる」

 

 

――――――だから、私もまた次の世代、次の時代、次の輝きのために最後の時を刻もう。

 

 

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