ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-西暦20XX年12月22日の航星日誌- GAUMA SAIOH
――――――“クラシック三冠ウマ娘”ミホノブルボン、飛び入り初参戦のダートレースとなる『東京大賞典』を制覇!
地方競バ界『ローカル・シリーズ』においては初めての国際G1レースであり、中央競バ界『トゥインクル・シリーズ』の所属ウマ娘にも参加資格が与えられる、
日本のダートウマ娘レースの1年を締め括る総決算レース『東京大賞典』の大井競バ場はかつてない盛り上がりを見せることとなった。
驚異の天才トレーナー:才羽Tの“クラシック三冠ウマ娘”ミホノブルボンはダートの上でも強かった――――――。
そして、その事実を観衆の記憶に焼き付ける偉業を果たした才羽Tの演説パフォーマンスに日本中が熱狂することになった。
“クラシック三冠ウマ娘”ミホノブルボンはトレセン学園を卒業するまで日本と世界の隅々まで走り続けることを天地神明に誓ったのだ。
それは“皇帝”シンボリルドルフとはまったく違った伝説をトレセン学園の歴史に刻もうという壮大な夢であり、まさしく“皇帝”シンボリルドルフが求めていた新たな時代の幕開けであった。
中央だとか地方だとか、G3だとかG2だとかG1だとかは関係なく、全てのウマ娘が輝ける舞台のために界隈の隅々まで目を向ける王者の存在は“皇帝”陛下の理想のその先にあるものであったのだ。
そのため、秋川理事長が一番に評価しているのも頷けるものがあり、より先進的で より創造的で より発展的な新たな潮流が生まれようとしていた。
同時刻、翌日の『有馬記念』に向けてのハッピーミークの最終調整を終えて部屋に戻った時、“皇帝”陛下からただ『感無量』とだけ書かれていたメールが届いていたのを見て、
“皇帝”陛下と一緒に思い描いたシナリオの通りに才羽Tとミホノブルボンが『東京大賞典』で勝ったのを察し、これで“皇帝”陛下が憂えなく明日を迎えられることを嬉しく思った。
さて、明日は『有馬記念』で担当ウマ娘が出走するわけなのだが、その担当トレーナー:桐生院 葵は大井競バ場に観戦に行っていた。
それだけに私が先輩とハッピーミークからどれだけ信頼されているのかがわかると同時に、先輩が才羽Tのことをどう想っているのかもわかるというものだった。
同じように『有馬記念』に出走するライスシャワーの最終調整を終えた担当トレーナー:飯守Tと互いの健闘を祈って、中山競バ場の調整ルームに担当ウマ娘を送り出した。
――――――その際、明日の主役であるトウカイテイオーの担当トレーナー:岡田Tとも擦れ違った。
勝負の世界に絶対などない――――――。しかし、明日の大一番には“皇帝”陛下のエゴによってトウカイテイオーに勝ってもらわないといけないのだ。
それはつまり、名門トレーナーである桐生院 葵の担当ウマ娘:ハッピーミークが負けることが条件ともなっており、
大恩ある先輩の担当ウマ娘が負けるのは見たくないと思いながらも、“皇帝”陛下の勅命を受けた身としてトウカイテイオーには何としてでも勝ってもらわないと困るという二律背反を抱えることになった。
そもそも、トウカイテイオーにそれだけの価値があるのかは私にはわからないが、実力で総生徒数2000名弱のトレセン学園の顔役になることを認めさせることをただ願うのみである。
正直に言うと、“皇帝”陛下が憂うトレセン学園の未来がどうだのといったことは私個人としては心底どうでもいい話だった。
はっきり言って、波動エンジンの開発エンジニアである私が23世紀の宇宙科学を先取りして21世紀の地球の文明を促進させることの方がはるかに人類のためになるし、
この世界で“斎藤 展望”として生きることを決めた時からトレセン学園での日々は近代ウマ娘レースの人気を利用した人脈作りに使われる踏み台としていたのだ。
なので、名門トレーナー一族の桐生院T、中央から世界の果てまで行こうとする才羽T、警視総監の息子である飯守T、それに和田Tや岡田Tといった大物トレーナーとも知り合いになったのだ。
他にも、競走ウマ娘の『名家』であるシンボリ家やメジロ家、アグネス家とも個人的なコネを持つことができているし、宇宙船開発のための投資にはもう困らないだろう。
まあ、それらは全て三女神やWUMAといった超常的存在との接触によって得てしまったものであり、多大な労力やリスクと引き換えに得ることができたものではある。
そのため、トレセン学園という環境が新惑星での新たな人生の最高のキックスターターになったことへの報恩感謝をしなくてはならず、こうして割りに合わないと思いながらも厄介事を引き受ける他ないわけなのだ。
もっとも、トレセン学園での日課は可能な限りAIを育成してボット化して処理させているので、直接的なトレーニングの指導ぐらいしか他人のために時間を割いていない。
逆に言えば、ボット化して処理できる程度の仕事とハッピーミークのトレーニングをこなすだけで、
地球の未来という崇高なる目的のために、宇宙船開発やWUMA撲滅のための研究開発に取り組むことが許されているわけであり、
なので、たかが数時間程度の担当ウマ娘:ハッピーミークの面倒を見ることを嫌がるわけにもいかなかったのだ。
しかし、こうして名門トレーナーが育てたハッピーミークと天才トレーナーが育てたミホノブルボンの方向性が最終的に似通ったものになっているのは興味深い。
トレーナーとしての実力で言えば、芝もダートも短距離も遠距離も走り抜けるようにハッピーミークを育成して年間勝利数最多記録に迫る成績を叩き出した桐生院Tは一級品と言えるものがある。
事実、ミホノブルボンよりもハードトレーニングをしているというわけでもないのに様々な条件のレースに出走して勝ち続けてきたハッピーミークはトウカイテイオー以上の天才とも言えた。
いや、かつての世代の中心であったトウカイテイオーやメジロマックイーンが故障に悩まされてきたのをまざまざと見せつけられた後だと、
厳しいローテーションで組まれる あらゆる条件のレースにいつでも出走して いつもの無表情のまま次のレースでも好成績を残し続けるハッピーミークはまさに『無事是名バ』であった。
その割にはライスシャワーの人気に及ばないのは、控えめな性格のハッピーミークには人を惹きつける才能がなかったということでもあるが、
トウカイテイオー以上の才能を誇りながらも驚くほど控えめで我慢強く頑健だったからこそ、新人の名門トレーナー:桐生院Tとの相性は抜群だったとも言える。
私としてもハッピーミークについては“クラシック三冠バ”であるシンボリルドルフやナリタブライアンと比較するとあまりにもおとなしい気性のウマ娘であったために、
本当に名門トレーナー:桐生院Tが一族の誇りを賭けて求めるほどの逸材なのか疑問に思っていたが、観察していくと才羽Tのミホノブルボンなんかよりもあらゆる面で才能豊かな人材であったことがわかった。
正直に言って、現役引退したら宇宙移民船のクルーとしてスカウトしたいぐらいに人格や知能が安定しているのだ。ただ、華がないだけで。
最近になってわかったのだが、先輩は新人の名門トレーナーということで非常に保守的な姿勢の持ち主であると同時に、名門トレーナーとして実績をとにかく出し続けなければならない重圧に苛まれていたようであった。
だから、安定を重視して様々な重賞レースに出走させ続け、担当ウマ娘のみならず自身を勇気づけようとしていたことがこれまでの戦績から浮かび上がってきていた。
しかし、その傾向がハッピーミークの人気がイマイチになっている原因ともなっており、元々 ハッピーミークが地味な存在なのに加えて、名門トレーナーの点数稼ぎに使われているという負のイメージを抱え込むことにもなった。
一応、『天皇賞(秋)』で堂々と1着になったことでイメージ改善もされつつあるのだが、それ以上に『その日上演された悲劇の主役:メジロマックイーンが万全だったら』という声が残り続けるぐらいには、スター性に欠けていた。
そして、厳しいことを言わせてもらえば、新人ということで経験不足だったとしてもハッピーミークの才能に先輩の才能がまったく追いついていないように見受けられた。相性は抜群ではあるが。
そう、ハッピーミークは受動的な性格のために自らの才能を活かしきれず、桐生院Tは保守的な性格のために担当ウマ娘の才能を伸ばしきれないのだ。
そこが桐生院Tの担当ウマ娘:ハッピーミークの限界であり、二人の相性は抜群ではあるが、イマイチ冴えない組み合わせとも言えた。
そういう意味では“ケミストリー”というものがいかに重要なのかを考えさせられることになった。
これが“皇帝”シンボリルドルフが追い求めてやまないヒトとウマ娘が織りなす不思議な絆の力というやつだろう。
実際、トウカイテイオーと岡田Tと比べたらハッピーミークと桐生院Tの方が圧倒的に才能や実績があるのに対して、世間の人気ぶりはそうでもないのだから。
一方、才羽Tの存在は規格外の一言であり、セオリーを踏まえた上で我が道を行く姿勢が
入学当初のハッピーミークの素質と比べたらミホノブルボンがなんで“クラシック三冠バ”になれたのかが不思議なぐらいに差があったはずなのだ。
人格面で言ってもハッピーミークとミホノブルボンはどっこいどっこいなのだから、才能がある分だけハッピーミークの方がまだスターウマ娘に相応しいはずだった。
正直に言って、機械オンチというだけなら まだ可愛げがあるが、何もしていないのに機械を壊すようなやつに命を預けたくないので、私としては宇宙移民船のクルーとしてスカウトしたくない。
そう、ハッピーミークとは正反対に私としてはまったく評価できないウマ娘であった。別に人格否定というわけではないが、あまりにも機械適性がなさすぎるのは痛すぎる。
はっきり言って才能がないといえる そんなミホノブルボンが最終的には『ジャパンカップ』で全盛期のトウカイテイオー’相手にハナ差で勝ち切る程の最強のウマ娘にまでなってしまったのだ。
そして、今日の『東京大賞典』でまったく走ったことがないダートレースに初参戦で優勝を飾ったのだから、もはや既存の競バの常識はこの天才トレーナーの才覚と手腕によって打ち砕かれ、
トウカイテイオーやメジロマックイーン、ハッピーミークのような才能も血統もなかったミホノブルボンはまさしく『名家』も『名門』もない“皇帝”陛下が望んだ新たな時代の象徴となる存在へと至ったのだ。
ウイニングライブの当日券は『東京大賞典』でミホノブルボンが1着になって1時間経たずに完売になり、視聴率も過去最高記録に達していたようだ。
そして、明日の『有馬記念』のために中山競バ場近くのトレセン学園が押さえていたホテルの一室で今日の『東京大賞典』とウイニングライブのハイライトを観終えた。
その感想――――――、明日の主役となるトウカイテイオーには悪いが、今のミホノブルボンには絶対に勝てないだろう。
いやはや、『有馬記念』にミホノブルボンが出走していたら、トウカイテイオーの真の復活劇は絶対に失敗に終わっていただろうから、ダートレースも走るように準備させていた才羽Tには返しきれない恩ができたな。
そんなわけで、ハッピーミークや先輩には申し訳ないが、明日はトレセン学園の命運を賭けたトウカイテイオーのためのレースとなる。
いや、『有馬記念』にまた出走できるぐらいには人気なんだから、普通に生徒会メンバーに入れるとは思うが、その相方が『天皇賞(秋)』で引退したメジロマックイーンということで不安でもあるのか――――――。
とにかく、“皇帝”シンボリルドルフがそう望んだのだから、本来はトレセン学園の門外漢である“斎藤 展望”としては、公正中立の立場からより良い未来になることだけを願って明日を迎えるだけだ。
そんなわけで、トレセン学園に同期で配属になった名門トレーナーと天才トレーナーの考察を終えて、今頃 二人がどう過ごしているのかを気に掛けながら、ベッドに身を預けるのであった――――――。
――――――だが、この一夜は長く苦しい眠れぬ夜となってしまったのである。
――――――深夜:中山競バ場近くにあるホテルのロビー
才羽T「待っていたよ、斎藤T」 ※現在5周目!
斎藤T「――――――まさか都市伝説の“目覚まし時計”なんて持っていたわけですか、才羽Tは」ゼエゼエ
才羽T「ああ。けど、ミホノブルボンがこれまで勝ち続けてきたのは彼女の実力だから、そこは信用して欲しい」
斎藤T「じゃあ、『天皇賞(秋)』の時に二言三言で協力してくれたのは――――――」
才羽T「斎藤Tのように使用者じゃなくても記憶を持ち越せるわけじゃないけど、ベテラン使用者だから すぐに察するものがあったってことだね」
才羽T「あ、とりあえず、席にどうぞ。息を切らしてまで駆けつけて来てくださったのだから」
才羽T「僕はね、この“目覚まし時計”でどれくらいのことができるのかを何年も試してきたから、疑問に思ったことがあったら訊いてね」
斎藤T「じゃあ、どうして時間が繰り返され続ける状況になっているんです?」
才羽T「その答えは簡単だよ。こうしてネジを巻くと頭の中にその日の予定が書かれた日めくりカレンダーが現れて目標未達成によって時間が巻き戻るんだけど、」カチカチ
才羽T「時間が巻き戻されるのは三度までなんだ、普通は」
斎藤T「え? でも、『天皇賞(秋)』の時は20周もしたぞ?」
才羽T「実はね、長年の経験で段々とわかってきたことなんだけど、時間が巻き戻される時は一見すると状況が完全に元通りになっているようで微妙に変わるようになっているんだ――――――」
才羽T「いや、その表現には語弊があるか」
才羽T「――――――『次周に頑張った分の結果を持ち越せる』と言った方が正しいね」
才羽T「要するに、因果応報、善因善果、悪因悪果とも言う」
斎藤T「?」
才羽T「子供の頃の話なんだけど、“目覚まし時計”を使ってテスト勉強もせずに満点を取ろうとするとね、テスト問題が必ず変わるんだ、不思議なことに」
才羽T「しっかりと勉強して確実に解ける箇所だけは何周しても同じで、しっかりと暗記しようとしなかったところは絶対に変わるから、時間を巻き戻しても楽をさせてくれないんだ、これが」
斎藤T「つまり、時間が巻き戻るまでに自分が行動した結果の分だけ状況が好転したり悪転したりするように世界が再構築されている――――――?」
才羽T「だから、“目覚まし時計”によって時間が巻き戻される使用者が積み重ねて周囲に働きかけた分しか大筋の結果は変わらないんだ」
才羽T「テスト勉強しなかったらテストで赤点になるという当たり前の結果は、自身がテスト勉強をしてテストの点数を上げる努力をしない限りは絶対に変わらない――――――」
才羽T「結局、リトライが許されるのは3回までということで、僕は“目覚まし時計”で時を巻き戻しても楽をすることができないおかげで、しっかりと勉強をする習慣が身につくようになった」
斎藤T「じゃあ、例外というのは?」
才羽T「時間が巻き戻されるのを利用して天の道に背く行いをしていると、そのことを反省するまで永遠に時間が巻き戻されるんだよ、この“目覚まし時計”は」
斎藤T「なに!?」
才羽T「いや~、そのおかげで得るものもあったけれど、巻き込まれた側としては最悪でしかないよね」
才羽T「僕はね、“目覚まし時計”の力で調子に乗って親の財布を盗んで遊び呆けたり、おまわりさんの補導を受けないように夜遊びや火遊びをしたりしたらね、ずっとその日が繰り返されるという罰を受けたんだ」
才羽T「ずっと同じ日が繰り返されるのを利用して最初はむしろラッキーだと思って何周もいろんな悪さを積み重ねていくんだけど、」
才羽T「そうすると段々と運が悪くなっていくのを感じるようになって、一定のラインを越えると一気に世界が悪いものに様変わりして大変だった」
才羽T「だって、今までは僕が何かしない限りはずっと同じ行動を取り続けるはずなのに、突如として僕にとって都合の悪い行動ばかりをみんながするようになって、世界から袋叩きに遭っているような感じになっちゃってね」
才羽T「それでいろいろと追い詰められていった僕のことを最後に救ってくれたのが何周も財布を盗んでいた養親の無償の愛だったんだ」
才羽T「そこから心を入れ替えて何周もかけて僕がこれまで悪さをして困らせてきたみんなに心から謝っていくことで、ようやく僕は許されたんだ」
才羽T「あの体験がなかったら、今の僕にはなれなかったから、本当に感謝しているんだ」
斎藤T「じゃあ、『天皇賞(秋)』で担当ウマ娘と心中を決め込んでいた和田Tの時間が巻き戻されることになったのは――――――」
才羽T「うん。心中しようとしたから。“目覚まし時計”の力を利用しておきながら、辛い現実から逃げようとしたからだね」
斎藤T「やっぱり……」
才羽T「本当は『天皇賞(秋)』を走る必要なんてなかったのに、そこを二人の共同墓地にしようとした独り善がりで迷惑なところもそうなんだけどね」
才羽T「そういったところも天がご照覧になって それに相応しい罰を与えるわけだよ」
――――――天道、人を殺さず。
斎藤T「じゃあ、この状況は才羽Tが創り上げたものじゃない――――――?」 ※現在5周目!
才羽T「誰かが追い詰められた状態で“目覚まし時計”を使ってドツボにはまったのだろうね」
才羽T「そして、すでに5周目になっているわけで、与えられた3回のチャンスをふいにしている」
才羽T「これは現実逃避に“目覚まし時計”を使った報いで天の道に背いて時間の牢獄に囚われたのだと推測できる」
才羽T「だから、5周目になったら何か確実な変化が起こると踏んで、こうしてロビーで待っていたら、斎藤Tが息を切らしてやってきてくれた」
斎藤T「………………そうか、5周目になって“
斎藤T「…………“目覚まし時計”の出処は? 再発を抑えるためにも供給元を絶たないと!」
才羽T「それについてはわからない。幼い頃に養親から贈ってもらったのが“目覚まし時計”で、こうしてネジを巻く時に頭の中で日めくりカレンダーが出てくることを少し不思議に思っていたぐらいで」
才羽T「ただ、僕が今回“目覚まし時計”を持っている理由は『有馬記念』でトウカイテイオーが“帝王”として認められることを願ってのものだったから」
斎藤T「――――――!」
才羽T「ああ、トウカイテイオーが勝つ必要はないよ。勝ったところで“皇帝”の後を継ぐ“帝王”だと認められるようなものじゃないと意味がないからね」
斎藤T「……それもそうか」
才羽T「けれど、『有馬記念』の前夜で時間が巻き戻されて5周目に入ったということは、『有馬記念』に関係する致命的な何かがこの夜に起こっていることに他ならない」
才羽T「ただ、それ以上のことは僕にはわからない」
才羽T「けれど、斎藤Tが来てくれた。ということは、斎藤Tになら この事態を解決する力があるんじゃないかと僕は期待しているんだ」
斎藤T「そういうことなら――――――、才羽Tが巻き込まれたということは、才羽Tに親しい誰かが“目覚まし時計”の使用者ということになりませんか?」
斎藤T「時間の牢獄から脱出するためには誰かが働きかけて反省を促さなくちゃならないのでしょう?」
才羽T「――――――!」
才羽T「……そうか、なるほど。その発想はなかったな」
才羽T「てっきり“目覚まし時計”の日程が被ったから僕も巻き込まれたんだと思ったけれど、」
才羽T「時間の牢獄からの脱出方法が誰かからの助け舟に乗ることだとすれば、こんな夜に動ける人間は限られているから、必然と“目覚まし時計”の扱いに長けている友人知人になるのか……」
才羽T「そうだ。でないと、同じ日に“目覚まし時計”を使ったとは言え、無関係の僕に時間の牢獄から見ず知らずの誰かを助け出すことなんてできないものな……」
斎藤T「つまり、才羽Tの友人知人の誰かが“目覚まし時計”を使わざるを得ない状況にまで追い込まれていたわけですね?」
斎藤T「そして、それは過去に“目覚まし時計”の力を借りて『有馬記念』に繋がる活躍をしておきながら、繰り返される時間の中で現実逃避の罪を犯し続けている――――――」
斎藤T「え、誰なんです?」
才羽T「……誰なんだろうね?」
状況説明としては、私が12月22日23時45分頃に部屋の明かりを消して眠りに就いて、再び目覚めたら12月23日03時45分であり、そこから二度寝をしたことで時刻が12月22日23時55分に巻き戻されていた――――――。
思わず『有馬記念』を寝過ごしてしまったのかと思いきや、冷静に考えるとチェックアウト時間を越えているのにホテルから追い出されていないのも変だし、
PDAやテレビを確認して日付が変わる前に時間が巻き戻されていたことを確かめると、『天皇賞(秋)』の時と同じ状況になっていたことに思い至った。
しかし、あの時とは状況はまったく異なり、『有馬記念』前夜ということで“目覚まし時計”の使用者を探し出すことは比較にならないほど困難を極めた。
そこで以前も活躍してくれた“
結局、北へ向かって随分と練り歩いたところで時間が巻き戻されたことで“
なにしろ、『天皇賞(秋)』の時は日中だったのでやろうと思えばいろいろなことができたのだが、
今回の場合は『有馬記念』前夜ということでほとんどの店が閉まっているし、多くの人たちが眠りに就いている状況なので、やれることがほとんどなかった。
しかし、こうして5周目を迎えるまではじっとしていてもやることがないし、どうせ不貞寝したところで時間が巻き戻されたら状況は全て元通りになるので、開き直って深夜の船橋市で楽しみを見つけることにしたのだ。
あるいは、“
暇だったので、深夜のふなばし三番瀬海浜公園まで来て、真冬の東京湾を眺めることもしていた。
そうして5周目を迎えて目覚めた時、確実に
5周目で何かが変わった理由は、幼い頃から“目覚まし時計”を使い続けていたベテラン使用者である才羽Tからの説明を受けて理解することができた。
最初の失敗の後に発動する“目覚まし時計”は3回までは目的達成のために力を貸すが、その中で不徳となる行いをしていると本来はありえない5周目が始まり、そこからは時間の牢獄に閉じ込められてしまうのだ。
そして、その時間の牢獄から罪人を助け出すために親しい誰かが救いの手を差し伸べるべく時間の牢獄に巻き込まれるといったところであり、
どうやら、今回は才羽Tから“目覚まし時計”の使い方を教えられた上で、才羽Tとも因縁の深い誰かを時間の牢獄から救い出すための長く苦しい旅となるようだ。
――――――さて、何周で事件解決となるのかを今から予測してみよう! いや~、楽しみだな~! ふざけやがって!