ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第14話   三度 落陽を迎えても 帝王は有馬記念に歴史を刻む

-西暦20XX年12月23日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

 

――――――『URAファイナルズ』初開催を目前にした今年の『有馬記念』はまさに帝王のための舞台であった。

 

 

去年の『有馬記念』で惨敗を喫した本物のトウカイテイオーにとっては実に1年振りの出走であり、再び訪れた『有馬記念』であった。

 

今年の『ジャパンカップ』でトウカイテイオーがかつてなろうとしてなれなかった“無敗の三冠ウマ娘”ミホノブルボンとハナ差で偽物のトウカイテイオー’が2着だったことは当然ながら関係ない話である。

 

しかし、全盛期の自分に擬態した偽物のトウカイテイオー’を 場馴れの優位性や入念な対策があったとはいえ 己の存在価値を賭けた模擬レースで追い抜いたトウカイテイオーの偉容に私は感動していた。

 

正直に言って、私はただ走るだけの競技に感動を覚えることはないと思っていたが、思いの外 感動してしまったぐらいに他人の担当ウマ娘:トウカイテイオーに入れ込んでいたのだ。

 

あの場で本物が偽物に負けた方が面倒な展開になるから応援していた面もあったのだが、あの模擬レースで私は思わず『負けるな!』と画面越しに手に汗を握って声を上げたぐらいなのだから。

 

そう、ただ走るだけの競技の結果には 職業柄 関心はあっても本質的な興味はなかった。そこには宇宙時代の人間にとって重要なイノベーティブなものが感じられないから。

 

しかし、私は知っていた。トウカイテイオーが世間から見放されようとも、担当トレーナーが倒れようとも、自身の夢であった“無敗の三冠ウマ娘”になれなくても、三度目の復活を期して一人になっても走り込んでいたのを。

 

そのことをWUMA絡みで私は知ることになり、『ジャパンカップ』で偽物に自分の居場所と存在と名前を奪われて今度こそ絶望しても、その偽物に完全に能力で劣っていようとも、最後には執念で勝ったのだ。

 

私はその透徹した意志に敬意を払う。普通ならば全盛期の過去の自分に勝てるとは思わないところを良い意味で裏切ってくれたのだから。

 

そして、トウカイテイオーを誰よりも信じ抜いた“皇帝”の神威に改めて礼賛を――――――!

 

そうして自身が尊敬する偉大なる“皇帝”シンボリルドルフの願いをを受け継ぐ者となって、“皇帝”とはちがうトレセン学園の新たなる象徴となるべく、中山競バ場に再び立ったのだ。

 

中山競バ場に至るまでの壮絶な葛藤と苦難を乗り越えてきた足跡があったことを理解できたからこそ、ただ走るだけの競技に私は大いに感動することが出来たのだ。

 

否、ただ走るだけの競技の結果に感動したのではない。そこに生きる人々の偉大なる意志とその足跡にこそ人間は感動するのだ。

 

 

――――――下見所(パドック)に姿を見せた時に観衆が一斉に驚きの声を上げた。

 

 

そこには『ジャパンカップ』で完全復活した全盛期の“天才”の才気煥発と若さ溢れる真っ白い勝負服の姿はなかったのだから。

 

初めてお披露目となる真っ赤な勝負服を着込んだトウカイテイオーには今まで感じたことがない“帝王”の覇気と風格が備わっており、完全に別人となっていたのだ。

 

何も知らない観衆は『ジャパンカップ』から『有馬記念』の間にトウカイテイオーの身に何があったのかを大いに疑った。

 

皮肉なことに、結果として『ジャパンカップ』で替え玉となったWUMAが擬態した偽物の方が本物らしいという声が上がることになり、

 

この『有馬記念』で1年振りに出走することになった不屈不撓を貫いた本物の方が偽物のように思われる始末であった。

 

 

――――――これだから私はこの時代が嫌いだ。本当の愛というものを学ばずに互いを傷つけ合うだけの誰のでもない大地の揺り籠で眠り続けるだけの過去の地球人類の存在が気に入らない。

 

 

さて、今年の『有馬記念』は『URAファイナルズ』という新たな大舞台が控えていようとも決してファンの期待を裏切らない実力と人気を兼ね備えたスターウマ娘が勢揃いである。

 

まずは、昨年の『宝塚記念』『有馬記念』――――――“春秋グランプリ”制覇のメジロパーマー、『有馬記念』二連覇を目指す。

 

お次は、今年の『宝塚記念』でメジロマックイーンに『天皇賞(春)』のリベンジを果たして“春秋グランプリ”制覇を狙うライスシャワー、ここでメジロマックイーンに続きメジロパーマーをも討ち果たして新たな“春秋グランプリウマ娘”となるか。

 

最大の注目は“三冠ウマ娘”ナリタブライアン、トレセン学園卒業となる“皇帝”シンボリルドルフの後継者として再度『有馬記念』の栄冠を手にすることができるか。

 

そして、同じく今年でトレセン学園を卒業して『ドリーム・シリーズ』に移籍することになるBNW筆頭のビワハヤヒデとの姉妹対決にも観客の興奮が大いに高まる。

 

未だG1勝利ならずともファン人気投票上位は決して外さないブロンズコレクター:ナイスネイチャ、強豪揃いの『有馬記念』のバ場に堂々と参戦。

 

それから、『天皇賞(秋)』で堂々とG1勝利を飾った年間最多勝利数に迫る活躍を見せつけた『名門』桐生院家が見出したハッピーミーク、好走を期待したいところ。

 

ざっとこんなところ。あとは以下省略。普通に考えるならビワハヤヒデとナリタブライアンが勝ちそうだが、トウカイテイオーが勝つシナリオとなっているので、他に注目すべきウマ娘はいない――――――。

 

 

――――――いや、あれは誰だ? 外国バにも優先出走枠があったが、ルナシンボル:Lunar SymbolとかいうアメリカのG1レース『パシフィッククラシック』勝利ウマ娘は?

 

 


 

 

ナリタブライアン「………………」

 

ビワハヤヒデ「………………」

 

ナイスネイチャ「………………」

 

 

トウカイテイオー「――――――」ゴゴゴゴゴ!

 

ルナシンボル「――――――」ゴゴゴゴゴ!

 

 

ナイスネイチャ「先月の『ジャパンカップ』で奇跡の復活を果たしたテイオーがまるで会長みたいな雰囲気になっただけでも驚きだって言うのに――――――」

 

ナリタブライアン「ああ。ダートが主流のアメリカのG1勝利ウマ娘とも戦うことになったか」

 

ナリタブライアン「おもしろい。昨日の『東京大賞典』でミホノブルボンがダートレースに飛び入り初参加で優勝したように、お前も飛び入り初参加で日本のターフで王座を奪い取るつもりか」

 

ナリタブライアン「そうやって簡単にやれると思うなよ! なあ、姉貴!」

 

ビワハヤヒデ「ああ、レースというのはおもしろいな、ブライアン!」

 

ビワハヤヒデ「私の理論が世界に――――――、そして、ブライアンの背中に届くのかを試す絶好の機会だ」

 

ナイスネイチャ「いやいやいや!」

 

ナイスネイチャ「ルナシンボルさんってどう見ても会長ですよね……?」

 

ナリタブライアン「何を言っているんだ? 会長なら放送席で実況と解説と同じ場所から見ているじゃないか?」

 

ナイスネイチャ「それはそうなんだけど……」

 

ビワハヤヒデ「シンボリ家は海外交流も盛んなのだし、向こうに会長にそっくりな血族がいたとしても不思議ではない話だ」

 

ナイスネイチャ「………………『サンルイレイステークス』の海外遠征が会長の最後のレースって聞いていたけど」

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

ミホノブルボン「マスター、いよいよ始まりますね」

 

才羽T「ああ」

 

飯守T「がんばれ、ライス! 新しい“春秋グランプリウマ娘”はお前だ!」

 

桐生院T「ミーク! ミーク!」

 

メジロマックイーン「テイオーさん……!」

 

和田T「去年の“春秋グランプリウマ娘”メジロパーマーでさえも掲示板に残れるかわからない大激戦が予想されるな……」

 

岡田T「テイオー……」グッ

 

藤原さん「さて、前段階はクリアしても本番で本当にこれだけの強豪揃いでトウカイテイオーが勝てるかどうか――――――」

 

陽那「勝ちますよ、きっと!」

 

ゴールドシップ「そうだぜ。約束通り100億円の応援バ券は達成されたからな。感謝するぜ、斎藤T」

 

斎藤T「……なあ、アグネスタキオン(アグネスターディオン)?」

 

アグネスタキオン「何だい、トレーナーくん?」

 

斎藤T「本当にお前と組むかどうかをこのレースの感想で決めていいか?」

 

アグネスタキオン「いいよ。私も私が目指したい“果て”が何なのかをあれからずっと考えていたからね」

 

斎藤T「なら、目指す“果て”は――――――」

 

アグネスタキオン「当然――――――」

 

 

トウカイテイオー「――――――」ゴゴゴゴゴ!

 

ルナシンボル「――――――」ゴゴゴゴゴ!

 

 

 

 

 

シンボリルドルフ『さあ、神にも悪魔にもなった“魔神”に可能性の光を――――――、『プリティーダービー』を完成させようじゃないか!』

 

 

 

 

 

――――――こうして『東京大賞典』の翌日に開かれた芝・2500mの『有馬記念』は年の瀬の『URAファイナルズ』への期待も相まって過去最高の盛り上がりを見せるのであった。

 

 

 

 

 

そして、中山競バ場のスターティングゲートが開かれた!

 

各ウマ娘、綺麗なスタートを切った。出遅れはなし。

 

先頭に躍り出たのは前回の覇者:メジロパーマー――――――、いや、ツインターボだ。G1未勝利のツインターボがメジロパーマーに先頭争いを仕掛けた。

 

ツインターボの【大逃げ】に引き摺られて速いペースでバ群が第1コーナー、第2コーナーを駆け抜けていく。

 

しかし、第3コーナーでターボエンジンが逆噴射! ツインターボの先頭はここで終わり! メジロパーマーが先頭となった!

 

おっと、ここからナリタブライアンとビワハヤヒデがメジロパーマーとツインターボを一気に追い抜いた。ヒシアマゾンも来ている。

 

ハッピーミーク、ナイスネイチャも追い縋る。トウカイテイオーとルナシンボルは好位置を維持したまま。ライスシャワーがそれに続く。

 

さあ、最終コーナーで一気にバ群がラストスパートに入った!

 

しかし、ナリタブライアン、まだ先頭! いや、ビワハヤヒデが先頭! ブライアン先頭! ハヤヒデ先頭! バ群から3バ身4バ身と差をつけていく! 

 

これはナリタブライアンか! ビワハヤヒデか! 今日のレースの女神はどちらに微笑むのか!

 

おおっと、ここでヒシアマゾン、ライスシャワー、ハッピーミーク、ナイスネイチャらを追い抜いて上がってきたのはトウカイテイオーと――――――、えっ、トウカイテイオー!?

 

と、トウカイテイオーが来た!? トウカイテイオーとルナシンボルです! 真っ白な勝負服から真っ赤な勝負服に衣替えしたトウカイテイオーとアメリカからの刺客:ルナシンボルが来ました!

 

影さえ踏ませないナリタブライアンとその背中を越えようとするビワハヤヒデの激しい格闘戦の脇を二筋の流星が並んで最終直線を駆け抜ける!

 

驚異的! ナリタブライアンとビワハヤヒデに二筋の流星が迫る! いや、追い越すか! 追い越すのか! 目にも留まらぬ流星の瞬きが燃え尽きんばかりの勢いでゴール板を目掛けて降ってくる!

 

残り100mを切った、並んだ、そのまま横並びで突っ込んでくる! いったいこの戦いを制するのは誰なんだ!

 

そして、ゴール! わずかに二筋の流星が最強姉妹の先を行ったように見えますが、これはわかりません! 何という大接戦! 5着はライスシャワー! 

 

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 

 

斎藤T「……終わったな」

 

アグネスタキオン「ああ、そうだね」

 

岡田T「はい! テイオーはやりました! テイオーは走り抜いたんです、最後まで!」

 

 

テイオー! テイオー! テイオー! テイオー! テイオー! テイオー! テイオー!

 

 

メジロマックイーン「テイオーさん!」

 

ゴールドシップ「よくやったぜ、テイオー! お前の走りに全宇宙が泣いた!」

 

藤原さん「まったく、さすがは“皇帝”陛下が認めたウマ娘だよ。盛大な花火を打ち上げやがった」

 

陽那「本当に凄かったです……」

 

和田T「まったく、こんなのオグリキャップのラストランみたいじゃないか」

 

和田T「まいったよ、本当に。これじゃあ、うちのマックイーンのラストランが見劣りするじゃないか……」

 

 

――――――天才はいる。悔しいが。

 

 

トウカイテイオー、完全復活! テイオーコールが中山競バ場に響き渡ります!

 

ミホノブルボンはいなかったが、ナリタブライアンやビワハヤヒデといった数々の強豪たちを抜き去ったその実力は日本中の誰もが知るところとなりました!

 

しかも、私たちは聖夜を前にして2日連続で素晴らしいチャンピオンが誕生する奇跡の瞬間に立ち会うことができました!

 

ミホノブルボンとトウカイテイオー! こんなことがあるんでしょうか! 『東京大賞典』と『有馬記念』で誰もが予想がつかなかった奇跡が続いたのです!

 

ありがとう、ミホノブルボン! ありがとう、トウカイテイオー! ありがとう、ウマ娘!

 

この奇跡の序曲によって年の瀬にいよいよ開催されることになる史上最大規模のオールスターレース『URAファイナルズ』への期待と熱気が高まっていくのを会場全体で感じていきます!

 

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 

 

ルナシンボル「……終わった」

 

ルナシンボル「……成し遂げたよ、私は」

 

ルナシンボル「……ねえ、この空の向こうで きみは見ていてくれたかな?」

 

ルナシンボル「……まだ泣いちゃダメだから」

 

ルナシンボル「……あ」

 

 

――――――流れ星。

 

 

 

さて、知っているだろうか、外国バがこうした国際G1レースで入賞した場合のウイニングライブがどうなるのかを。

 

当然、競走ウマ娘の起源が宮廷舞踏家だったことを踏まえればウイニングライブは競走ウマ娘にとっては必須の技能ではあるが、さすがに他所の国のウイニングライブまで完璧にこなすことはできない。

 

そのため、国際G1レースにおいてはそういった状況もしっかりと想定した規約が設けられており、

 

基本的に外国バは他所の国のウイニングライブは踊らないがステージの上にちゃんと姿を見せるように演出されるのだ。

 

つまり、外国バが海外遠征で獲得したウイニングライブの権利を他のウマ娘に譲るという形でステージに設けられた特等席で歓待されることになっていた。

 

それも金銀銅といった見た目で順位がわかる王座なのだから、もしも外国バに上位独占されて金銀銅の王座が並べられたウイニングライブが開かれたら、どんな思いをすることだろうか――――――。

 

それぐらい国際G1レースで外国バのための王座;特に1着バの黄金の王座がウイニングライブのステージに設置されるのは開催国にとっては屈辱的なことでもあり、

 

かつて欧州最強と名高い凱旋門賞バ:モンジューを『ジャパンカップ』で打ち破ったスペシャルウィークが“日本総大将”の誉れを受けたのはそういったところがある。

 

そう、視覚的にもはっきりとした構造物がステージに追加されるため、黄金の王座が設置されるのを阻止したウマ娘の評価は非常に高くなるのだ。

 

そのため、国内G1クラシック路線での栄誉は“クラウン/ティアラ(王冠を戴く王様)”と呼ぶが、国外G1路線での栄誉は“スローン(王座に位置する王者)”と称えられたのだ。

 

一方で、スペシャルウィークの同期であるエルコンドルパサーは海外遠征で4戦2勝しており、2敗の内容もモンジューに敗れた『凱旋門賞』では2着、『イスパーン賞』でも2着なので、

 

エルコンドルパサーはなんと海外遠征の全てのレースで王座を獲得したことにより、“王座の怪鳥”として称えられることになった。

 

つまり、4回も他所の国のウイニングライブで代理を指名してステージに設置された王座から高みの見物をしてきた大物ということなのだ。

 

 

――――――王者の証を“王冠”とするか“王座”とするかのちがいで国内路線と国外路線で上手く両立させているのには素直に感心する他ない。

 

 

そして、私は初めて外国バがステージの奥に設置された王座から見下ろすウイニングライブというものを見ることになった。

 

銀の王座からウイニングライブを後方から見渡しているルナシンボルの表情は非常に満ち足りたものとなっていたのがわかった。

 

しかし、『DNA鑑定ではシンボリルドルフではない』と判定されているし、戸籍もしっかりとアメリカの『名家』の出身となって、ベテラントレーナーも付き添っているが、まさかそういった一面を隠し持っていたとは驚きである。

 

全ては芝・2500mの()()()()()()()この日のために積み重ねてきたものであり、

 

“皇帝”シンボリルドルフがトレセン学園の暗黒期を救った“ウサギ耳”の無名の新人トレーナーから授かった予言書『ウマ娘 プリティーダービー』に基づいた行動の結果であった。

 

 

――――――レースに絶対はないが、”そのウマ娘”には絶対がある。

 

 

予言書『ウマ娘 プリティーダービー』は基準となる『正史の巻』ともしもの未来を綴った『分史の巻』で構成されており、『正史』と『分史』を見比べながら“皇帝”陛下はトレセン学園の最良の将来を選択していた。

 

つまり、『正史』ではトウカイテイオーがビワハヤヒデと『有馬記念』で対決するのだが、『分史』ではシンボリルドルフと『有馬記念』で対決することが予言されていたらしく、

 

結果としては『正史』と『分史』が混ぜ合わさったような大激戦になったが、今回の好敵手がルナシンボルに置き換わっていた点を踏まえると、トウカイテイオーが完全な主役となる場合の『分史』に近いのだと言える。

 

 

――――――そうなるように『シンボリルドルフがあらかじめ準備をしてきていた』というわけなのだ。

 

 

本当にあなたという御方は“ヒトとウマ娘の統合の象徴”として、自分の栄誉のためではなく、この輝かしい瞬間のために全てを捧げてきたというわけなのですね。

 

やろうと思えば何だってできる“特異点”ですが、『未来をこの手に掴む』というのがどういうことなのかを学ばせてもらいました。

 

そして、予言書『ウマ娘 プリティーダービー』に記された内容が『URAファイナルズ』までなのを踏まえると――――――、

 

なあ、シンボリルドルフは見事にやりきったよ、彼女のために悲しい未来から時を超えてやってきた無名の新人トレーナーよ。

 

もう二度と会えないのだろうけれど、きみが愛した女性はきみが生まれてくることになる悲しい未来にならないように世界を救ったよ。

 

そうか、“王冠(クラウン)”“王座(スローン)”とは別のレガリアが称号に使われるなら、黄金期を“皇帝”と共に歩んだ無名の新人トレーナーは“王笏(セプター)”と呼ばれるのは自然なことだったのか。

 

 

そして、私はこうした無名の新人だった先人たちの歴史の影にある偉業と意志を受け継いで、WUMA撲滅のための果てしない戦いに身を投じることになるのだな――――――。

 

 

そう、これまで“皇帝”シンボリルドルフを導いてきたのは暗黒期の“ウサギ耳”や黄金期の“王笏”といった無名の新人トレーナーだった。

 

だから、常々求めていたのは自分が去った後のトレセン学園をより良く導いてくれる次の時代を担う無名の新人トレーナー――――――。

 

ターフの上で繰り広げられる誇り高き勝負の世界よりももっと大きな世界を見据える誰かを“皇帝”はずっと探し続けていた。

 

そして、“王笏”を失った後でミホノブルボンの担当の天才トレーナーとライスシャワーの担当の熱血トレーナーがそうではないかと注目するようになった。

 

完全に『プリティーダービー』の予言から外れてミホノブルボンが自身に続く“無敗の三冠バ”にまでなり、“悪役”になるはずだったライスシャワーが名前の通りにファンから愛される名バになったのだ。

 

その上で、それぞれちがったアプローチでヒトとウマ娘の絆を体現していっており、“ヒトとウマ娘の統合の象徴”が願う理想の後継者は彼らになるのではないかと期待していた。

 

一方で、あらかじめ予言されていたとは言え、自身を慕い 自身もその才能を愛したトウカイテイオーに起きた悲劇を回避することができず、その意味を教えてくれる賢者を探し続けていた。

 

そう、暗黒期に“ウサギ耳”が導き、黄金期に“王笏”が導いてくれたように、悩める“皇帝”シンボリルドルフを新しい時代に導いてくれる誰かをずっと探し続けていた。

 

それこそがずっと探し続けていた3人目の無名の新人トレーナーのはずなのだ――――――。

 

しかし、残念ながら期待していた天才トレーナーと熱血トレーナーとはあまり接点がなく、むしろ理事長と理事長秘書との繋がりが深かった。

 

また、シンボリルドルフを導いてきた無名の新人トレーナーというのは何かしら癖のある存在であり、組織から浮いた存在であったので、そこまで問題行動が多いわけではない天才トレーナーと熱血トレーナーはその意味でもちがっていたのだ。

 

中央の顔役として誰よりも秩序正しい存在でなければならないのに、既存の秩序を超越した存在を暗に求め続けてきた“皇帝”の葛藤と苦悩は尽きなかった。

 

 

――――――そんなある年、新年度始まって早々にウマ娘に撥ねられて3ヶ月間の意識不明の重体に陥った悪名高い無名の新人トレーナーが現れたのだ。

 

 

その正体が23世紀の宇宙移民船のクルーの魂が乗り移った存在だなんてことは口が裂けても言えないのだが、

 

つまるところ、皇宮警察の両親を亡くして唯一の肉親のためにトレセン学園のトレーナーになった“斎藤 展望”こそが探し求めていた3人目だったというわけなのだ。

 

8月末の学生寮不法侵入事件で初めて生徒会室で対面した時から“皇帝”は“斎藤 展望”の異質さに心惹かれていたそうだ。

 

実際、23世紀の宇宙移民に由来する私の知見や実行力はWUMA撃退の功労者であると同時に デビューせずに退学も辞さない姿勢だったアグネスタキオンすらも動かしたとのことで ますます魅力的に見えたようだ。

 

そうして、誰にも明かすことが出来なかった秘密を共有できる現存する唯一の存在になったということで、私は“皇帝”陛下から後のことを全て託されることになってしまった。

 

 

そう、『ウイニングライブのセンターを踊るのがトウカイテイオーである』という最後の予言であり 個人的なエゴであり より良い未来に思いを託した願いを実現に導いてくれた偉大なる存在として――――――。

 

 

誰が見ても生徒会長:シンボリルドルフとしか思えないけど別人であることが証明されているアメリカの競走ウマ娘:ルナシンボルとしても、これで引退である。

 

“皇帝”シンボリルドルフのトレセン学園での6年はこれで終わりを告げた。あとは来年1月の生徒会総選挙という名の“帝王”の立太子の礼を待つだけだろう。

 

だが、それなら、その前にやるべきことがあるはずだ――――――。

 

誰にも見送られることなく 静かに銀の王座から退場したルナシンボルに対して、なぜだか無性にそのことををやらずにはいられなくなっていた。

 

 

 

運転手「それではお送りします、お嬢様」

 

付き人のトレーナー「ルナシンボル様、さあ」

 

ルナシンボル「ああ、頼む」

 

ルナシンボル「ん」

 

ルナシンボル「……ちょっと待ってくれ」

 

 

斎藤T「――――――」

 

アグネスタキオン「――――――」

 

 

ルナシンボル「きみたちか」

 

アグネスタキオン「()()()()()()()()とここでは呼ばせてもらうが、」

 

アグネスタキオン「黄金の6年を走り抜いた偉大なる先人であるきみへの惜しみない称賛と、私のことを庇ってくれていたことへの礼を言わせてもらうよ」

 

ルナシンボル「そうか。ついに決心したのだな」

 

ルナシンボル「二人の活躍を期待しているよ、他の誰よりも」

 

斎藤T「……ありがとうございます」

 

ルナシンボル「……どうしたんだい、斎藤T?」

 

アグネスタキオン「……ほら、さっさと済ませるといいさ」プイッ

 

斎藤T「あ、ああ……」

 

ルナシンボル「?」

 

斎藤T「その、私は()()()()()()()()の代わりにはなれない――――――」

 

斎藤T「けれど、三女神像の儀式で()()()()()()()()()()()()として代わりに言わなくちゃならないことがあるんだ、あなたに」

 

ルナシンボル「…………わかった。聞かせてくれ」

 

斎藤T「じゃあ、言わせてもらいますよ」

 

 

――――――よくやったよ、ルナ。()はきみのことを誇りに思うよ。ありがとう、()はきみと出会えたことをずっと忘れない。

 

 

ルナシンボル「…………そうか」

 

斎藤T「………………」

 

ルナシンボル「ン」

 

斎藤T「え」

 

ルナシンボル「ン」

 

斎藤T「あ」

 

斎藤T「……よくやったよ、本当に」ナデナデ

 

ルナシンボル「うん、うん。うん……」ヒッグ

 

ルナシンボル「がんばったよ。ひとりでがんばったよ、ずっと……」ポタポタ・・・

 

ルナシンボル「だから、がんばるからね、これからも……」ポタポタ・・・

 

アグネスタキオン「………………」

 

ルナシンボル「ねえ、トレーナー?」

 

斎藤T「……何だい?」

 

ルナシンボル「私はね、シンボリ家の競走ウマ娘として、七冠の栄光も、トレセン学園の未来も、人としての喜びも悲しみも全て掴んだけれど――――――、」

 

ルナシンボル「そんなものなんかよりも、私が心から欲しいと思った()()()()()はこうして全て取り零していってしまったよ…………」

 

ルナシンボル「だから、嫉妬しちゃう。私が欲しかったものの最後の1つを掴んだアグネスタキオンというウマ娘のことが」

 

ルナシンボル「そう、()()を得た過去の競走ウマ娘は“魔王”となり、()()を得た現代の競走ウマ娘は“皇帝”となったのだから、()()を得た未来の競走ウマ娘はきっと――――――」

 

斎藤T「………………」

 

ルナシンボル「……アグネスタキオン、だから 勝ってくれ。それが去り行く者への餞となる」

 

アグネスタキオン「いいとも。そのために私はその時がくるまで()()()()()()()()のだからね」

 

ルナシンボル「健闘を祈る。“新堀 ルナ”が最後に愛した無名の新人トレーナーのことは決して忘れない」

 

斎藤T「さようなら、“新堀 ルナ”。私もあなたのことを決して忘れない」

 

 

――――――勝利よりもたった3度の敗北(かけがえのない人との別れ)を語りたくなるウマ娘、それは“永遠なる皇帝” 。

 

 

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