ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-西暦20XX年12月24日の航星日誌- GAUMA SAIOH
この年のクリスマスイブは『東京大賞典』でのミホノブルボンと『有馬記念』でのトウカイテイオーの奇跡の勝利が連続した日の翌日であった。
そのため、『URAファイナルズ』の開催日程が来年の初めの3ヶ月になったことを受けて、国民的スポーツ・エンターテインメントである『トゥインクル・シリーズ』の一年は感動の余韻に包まれて締め括られた。
それと同時に、シンボリルドルフとトウカイテイオーの引退が報じられることにもなり、人々は1つの時代が終わったことを肌で感じながら、しんしんと雪が降り積もる聖夜を迎えたのであった。
――――――クリスマス。救世主降誕。
馬という生き物が存在せず、代わりにウマ娘と言うヒトに極めて近い生き物が存在する世界においても、イエス・キリスト―――ナザレのイエスは存在していた。
バイブルの勉強で私はその降誕場面の場所は“馬小屋”だと記憶していたが、改めてホテルに置いてあったウマ娘の世界のバイブルを読み返したら“家畜小屋”と表現されており、それで記憶違いだったことを思い出した。
そうだった。西洋だと降誕場面の模型に使われるのが牛と驢馬なのだから、日本で馬小屋だとしているのはこの“家畜小屋”の翻訳を重ねることで“家畜小屋”=“馬小屋”という誤訳が生まれたというのが結論であった。
そう、時代ごとに翻訳を重ねることによって単語の意味が変わってしまい、それによって生まれた誤訳がありもしない伝承を生み出したという一例として記憶に残っていた。
すなわち、イエス・キリストが馬小屋で生まれたという伝承と日本の厩戸皇子:聖徳太子との類似性は誤訳から生まれたガセネタに過ぎない――――――。
これは私が23世紀の日本人の宇宙移民だったからイエス・キリストと厩戸皇子の例で教え込まれたことであり、
これから広大な宇宙でバラバラに散らばってそれぞれの歴史と文化を育んでいくことになる一方で、単語の意味を取り違えることで誤解が広がることがないよう、普遍的な価値観と意思疎通の重要性を伝えていた。
そして、23世紀の宇宙時代では宇宙の創造神の下に全ての宗教が共存することになり、宗門宗派の枝葉末節の些細な教えのちがいにこだわって他人を貶めたり罵ったり殺めたりする人間などいない。
それは“神”という存在や言葉、概念に対して“全知全能の存在”などという現実では絶対にあり得るはずがない漠然としたイメージで語らなくなっているのが第一である。
そのことを誰もが理解した時、地球上における宗教紛争は初めてなくなるわけであり、結局は無知であることによって偏見が生じるのを防ぐ本当の学問や心の教養が敷衍されることで真の平和は達成されたのだった。
だから、宇宙移民船の閉ざされた社会の中で何世代に渡って星の海を渡る旅もできるわけであり、この時代における宇宙船『地球号』の漂流はまだまだ続きそうである。
何にせよ、来年1月の『URAファイナルズ』の予選まで時間をもらうことができた――――――。となれば、これから私にしかできないことをするだけのことである。
――――――目標:12月31日までにWUMAを殲滅せよ!
アグネスタキオン「…………きみ、私のことを置いていくつもりじゃないだろうね?」
斎藤T「………………」
アグネスタキオン「沈黙は肯定だよ?」
アグネスタキオン「きみがやろうとしていることは常に2つに1つだ」
アグネスタキオン「昨日、会長に言ったことは全て嘘だったのかい、きみ?」
斎藤T「さてな。私は“目覚まし時計”を使うから自分が死ぬだなんてことは微塵も思っていないけどな」
アグネスタキオン「――――――WUMAを一掃する算段があるということだね、それは?」
斎藤T「ああ。それで全てが解決するという保証はないが、少なくとも来年からのお前のメイクデビューに集中できるようになる」
アグネスタキオン「……わかったよ。好きにしたらいい。それ以外にどうしようもないことだしね」
アグネスタキオン「ただ、私に
斎藤T「ああ。そっちもあり得ないような目標を立てて ようやく“
アグネスタキオン「必要なものがあったら遠慮なく言いたまえ。もっとも、言われるまでもなく必要なものは用意できているだろうけどね」
アグネスタキオン「妹君と一緒に首を長くして待っているからね」
斎藤T「ああ」
アグネスタキオン「またバイクに乗せて連れて行ってくれよ、スピードの彼方へ。楽しみにしているから……」
斎藤T「ああ。
斎藤T「さて、遺書も用意したことだし、府中市で過ごす人生最後の一日になるかもしれないな……」
斎藤T「――――――“
斎藤T「ここからが長い道程になりそうだ。“目覚まし時計”もセットしたことだし何回のコンティニューで目標を達成できるかな、ケイローン?」
斎藤T「それとも、闇に葬られるのは私の方か――――――?」
――――――待たせたな、WUMA共! ここらで決着をつけてやる! お前らに新年の朝日は拝ませない!
『有馬記念』と『東京大賞典』を終えて競バ業界は少し早めの仕事納めとなり、12月24日:クリスマスイブから私はWUMA殲滅のための作戦行動に取り掛かった。
8月半ばに初めてWUMAと遭遇してからすでに4ヶ月が経っているのだ。4ヶ月もあれば あらゆるコネクションから必要なものを取り寄せることも可能だ。
ちょうどよく武器の密輸の情報があったので、
しかし、やはり密輸されるような銃火器は管理状態が劣悪で信頼性に欠けていた粗悪なコピー品に過ぎなかった。
一応はこの時代で流通している銃火器のサンプルとして秘密の倉庫に一定数は保管しておくものの、信頼できる
なので、
相手が人間よりも身体能力が遥かに優れているWUMAであることを考えると、もっと威力と射程が欲しかったが、しかたがない。
しかも、WUMAの標準身体機能である空間跳躍によって一瞬で距離を詰められるので遠距離狙撃の利点は1発の弾丸にしか込められない。
なので、その後は接近戦で対処するしかなく、相手が四次元能力を使わずに圧倒的な身体能力で圧倒してきた場合の生存率は0%に等しかった。
どの辺りにどれくらいの数のWUMAや敵性存在が潜んでいるかもわからない状態で奥多摩の敵地に乗り込んでいくわけなので、死を覚悟して府中市を出発するのも無理ないことだった。
つまり、この12月24日:クリスマスイブが私にとっての生きるか死ぬかの分水嶺であり、世界にとっての最後の晩餐になるかもしれない聖夜となった。
コーカサスオオカブトに身を窶して いよいよ死期が迫った賢者ケイローンは私のことを救世主と言っていたが、ならば この12月を乗り越えて それが真実だったことを証明しよう。
奥多摩までは府中市からだと電車で移動ができ、事前に奥多摩駅まで下見に行った時は“
つまり、真冬の山登りであり、人気のある山なので登山道はある程度は整備されており、日帰りも可能で登山初級者も経験者が付き添えば問題ないというものらしいが、
WUMA殲滅のための重装備を背負って行軍できるほどの体力は“斎藤 展望”にはないし、敵地にはWUMAの密かな侵略によって“成り代わり”が大量にいるだろうこともあって潜入は困難を極めるだろう。
しかし、こちらには世にも不思議な時間を巻き戻す“目覚まし時計”があるので、通常は3回までリトライのチャンスが与えられると言うので、それらを最大限に活用して突破口を見出すしかない。
一方で、“目覚まし時計”を使わずに“無敗の三冠ウマ娘”に担当ウマ娘に至らせた天才トレーナーの在り方を見習って、只今を生き抜いてみせるのが本当だろう。
大丈夫だ。相手が四次元能力を使ってさえくれれば逆手に利用して全て返り討ちにすることができる。そうなることを信じよう。
敵も賢者ケイローンを追跡して処刑するために派遣されたついでに転移した先の並行宇宙の地球を次の侵略先とするために橋頭堡を築こうという程度で、まだ本格化が決まったわけじゃない。
つまり、この先遣隊を
そして、この戦いは闇から闇へと葬らなければならないものであり、山狩りのために『警視庁』を動員することはできない。
自分で何をやっているんだろうとは思っている。自分一人で何でもできるだなんてのは大した思い上がりだ。
だが、他人に任せるにはあまりにも敵について知らなすぎるのだ、誰も彼も。
だから、12月24日から12月31日までの1週間を目標期間に定め、情報を過去に持ち越して奥多摩を攻略するつもりである。
ともかく、奥多摩までは府中市からはそう遠くはない。青梅線で2時間で着く場所だ。
そのことを踏まえれば1週間の最後に奥多摩に乗り込んでいって、31日を迎えた時に時間の巻き戻しで死なずに敵地から生還するという荒業も使えるはずだ。
『天皇賞(秋)』の時の牢獄では実質的に半日を20周したので10日は歳をとったが、
さてさて、メリー・クリスマスからハッピー・ニューイヤーへと繋げることが本当にできるのか、煽てて飛び出た救世主の見せ所だ。
――――――元旦はヒノオマシと一緒に伊勢神宮に初詣だ。つまらない仕事はさっさと終わりにしよう。