ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第一次決戦Ⅳ めぐってきた決戦前夜

――――――目標:12月31日までにWUMAを殲滅せよ!

 

 

『有馬記念』翌日の12月24日の聖夜を起点とする激動の2周目(オーバータイム)が始まった。

 

この日のうちに多摩地域に軍団を展開している4人のエルダークラスのひとり:ブラックサンタクロース(仮称)を討伐し、

 

翌日:25日にWUMAの本拠地である奥多摩を攻め落とさないと、26日には奥多摩はやつらの空間跳躍技術のちょっとした応用である無限の城門によって隔離されてしまう。

 

そうなったら、もう人類科学では対抗しようがなく、奥多摩を要塞化した超科学生命体の文明の波が21世紀のヒトとウマ娘が共存する地球を覆うことになる。

 

しかし、ただ勝てばいいという話ではなかったことを、私は船橋市に展開していたエルダークラス:ヒッポクラテアをいつでも討伐しに、あるいは玩具(モルモット)にできるようになった過程で学んだ。

 

そのための1周目(ファーストタイム)であり、WUMAを殲滅したらアグネスタキオン’(スターディオン)という地上最強の超科学生命体であるスーペリアクラスが生き残る事実を決して忘れてはならない。

 

そして、自身がWUMA(バケモノ)であるという宿業から逃れられないアグネスタキオン’(スターディオン)の悲哀を理解した上で、WUMAの殺人衝動との付き合い方を模索していかなくてはならず、いつまた人類の敵になるかわからない問題に向き合わなくてはならなかった。

 

その問題の本質が表現の自由(フリーダム)束縛からの自由(リバティー)にあることをヒト社会の中でのウマ娘たちの抑圧された暮らしぶりから学び取ることができた。

 

それにしてはラスコーの壁画に記録されるほど古代からヒトとウマ娘の絆があるわりには、現状におけるウマ娘のヒト社会での抑圧された暮らしぶりには疑問が湧いてくる。

 

まるで、怪人:ウマ女が正体であるWUMAこと並行宇宙の地球の支配種族たる超科学生命体“フウイヌム”だが、空間跳躍能力の方が後付で、擬態能力の方が元々あったとされる賢者ケイローンの証言に通じるものが――――――。

 

 

24日のメリークリスマスに沸き立つ聖夜に多摩地域のあちこちに巨岩を降らせるというブラックサンタクロースっぷりを披露した多摩地域に割拠する3人目のエルダークラスの倒し方はいくらでもある。

 

まず、やつらの第一目的が裏切り者である賢者ケイローンを始末することにあり、たった4人のエルダークラスの軍団だけでヒトとウマ娘が暮らす地球を侵略してきたのはあくまでついでの事前準備に過ぎない。

 

そのため、一市町村を丸々“成り代わり”するには程遠い限られた人数での諜報活動に専念する傍ら、賢者ケイローンの足取りを追って虱潰しに探し回っていたようだ。

 

なので、肉体を失って虫ケラに身を窶していようとも下っ端のジュニアクラスが即座に裏切り者の成れの果ての姿なのを見破ってくるぐらい同胞の存在に敏感なので、

 

ブラックサンタクロースが現れた瞬間にその虫ケラを呼び寄せて気を引けば、何も知らずに勝手に向こうの方からこちらにノコノコと向かってきてくれるはずだ。

 

やつらはたしかに強い。地球人類がどう逆立ちしても勝てそうにないほどの超科学生命体の名に相応の能力と文明を築き上げている。

 

しかし、やつらは非常にシンプルでわかりやすい“フウイヌム”の進化形態に即した階級社会を徹底しているがための“階級の下の平等”によって、同じクラスの同格とは上下関係が築けないことが転じて、横の繋がりが希薄で同格の相手との情報共有をあまりしないらしいことがわかってきている。

 

つまり、上下関係には厳しいが逆に横の繋がりが希薄ということは、侵略軍の司令官であるエルダークラスたち4人の間で情報共有というものがあまりなされていないらしく、

 

私が府中市の中央トレセン学園を侵略していたエルダークラス:ヒッポリュテーを『ジャパンカップ』の夜には討っていたことも、船橋市の地方トレセン学園の理事長に擬態していたエルダークラス:ヒッポクラテアを年末まで玩具にしていたこともまったく伝わっていない気配だった。

 

 

そう、やつらはこの“斎藤 展望”という唯一無二のWUMAキラーの存在をまったく知らないまま、同胞が次々と討たれていっていることも把握できずに滅びるというわけなのだ。

 

 

切り札としている目にも留まらぬ超高速移動を使ったが最後、その瞬間に私が相手の四次元能力を逆手にとって必殺のカウンターをお見舞いしてしまえば、ブラックサンタクロースは為す術もない。

 

ただし、空間跳躍能力で本当に一瞬だけ現れて また一瞬で移動することができるため、それでこちらの存在に気づくことなく、聖夜の日に巨岩を降らす特大プレゼントを配り続けることも十分に考えられる。

 

そこで私には1周目でその事故現場に居合わせたという実体験と新聞やSNSで確認できる詳細な時刻の情報を持ち帰って、そのブラックサンタクロースが府中市に現れるその瞬間を狙い撃つ作戦を立てていた。

 

もちろん、1周目で船橋市のエルダークラス:ヒッポクラテアの軍団を尽く実験動物(モルモット)にして得られた数々の新情報を基にしているので、多摩地域に割拠するエルダークラスが例外か防御策を持っていたらどうしようもないが、十中八九 討伐できると確信していた。

 

まあ、実際にそうなったわけで、1周目で検討していた決戦前夜を迎えることができたよ。

 

 

――――――WUMAがいくらウマ娘すら超越した優れた身体能力を持っていようが、やつらの想像を上回ってしまえば全てが無意味というわけだ。

 

 


 

 

●2周目:12月24日

 

――――――府中市の交差点にあるビルの屋上

 

 

怪人:ウマ女「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

斎藤T「手慣れたもんだな、WUMAを狩ることなんてな」 ――――――WUMA討伐完了!

 

斎藤T「エルダーよ、お前たちはたしかに強い。超能力で超重量の物体を街中に降らせることもできるし、空を飛べるから空間跳躍能力の有用性も段違いだ」

 

斎藤T「だが、その強さ故にまったく想定していないことや突発的な状況への対応力や警戒心を持ち合わせていないから、超科学生命体ともあろう存在がこんな簡単な罠に引っかかるんだ」

 

斎藤T「あ、灰になる前に角はもらっていくぞ」ベギッ ――――――根本から頭に生えた角を圧し折る。

 

怪人:ウマ女「」サァァァア・・・ ――――――力尽きて灰に還る。

 

アグネスタキオン’「ふぅン、こいつはエルダークラス:ヒッポネイピアだね」

 

アグネスタキオン’「まさか“目覚まし時計”の作用で1周目から戻ってきて早速、エルダークラスを討伐することになるとは思わなかったよ」

 

アグネスタキオン’「しかも、船橋市にいるのがヒッポクラテアという情報も持ち帰って。大収穫だったね」

 

アグネスタキオン’「けど、こうして空中を空間跳躍で瞬間移動し続けるエルダークラスの対抗策として用意したものが、まさかのカカシ作戦とはね……」

 

 

アグネスタキオン’「……よくできているじゃないか、このWUMAのマネキン。こんな粗末なものに騙されるだなんて、そのバケモノのひとりである私としては複雑な気分だよ」

 

 

斎藤T「ホント、大変だったんだぞ。怪人:ウマ女って胴体部だけ見れば豊満な女性の身体なんだけど、この世界には存在しない馬のマスクを被らせて馬の四肢で直立させるんだからさ。羽の飾りもな」

 

斎藤T「おお、これが噂のステルス迷彩か。あ、光を空間跳躍させているから見えなくなるやつだったか。やっぱり、人間には使えないか――――――」

 

斎藤T「けど、1周目の船橋市で思う存分に怪人:ウマ女の肉体や骨格を調べ上げることができたから、こうして賢者ケイローンの模型を目立つところに置いてWUMAを誘い出すことができたってわけだ」

 

斎藤T「もちろん、こんなのはしっかりと見ればマネキンだってわかる」

 

アグネスタキオン’「けれども、身体ではなく思考を専有する四次元能力である空間跳躍を使って府中市の空に現れた直後のヒッポネイピアには『有翼一角獣(アリコーン)の怪人が街中にいた』という事実だけで賢者ケイローンと早合点してしまったわけだね」

 

アグネスタキオン’「もちろん、府中市の空に現れた瞬間を捉えて、時間跳躍でその瞬間に戻って、その座標に向けてペットボトルランチャーをピタリとぶつけて来るんだから、そりゃあ冷静じゃいられなくなるさ」

 

斎藤T「ついでに、虫ケラに身を窶している本物のケイローンも呼んでいたから、その気配を感じ取って ますます事実誤認が加速するわけさ」

 

斎藤T「なあ、ケイローン?」 ――――――防寒対策を施した虫カゴにいるコーカサスオオカブトに語りかける。

 

 

――――――やはり、きみで間違いはなかったよ。きみは本当に私たち“フウイヌム”の想像を超えてくる。

 

 

斎藤T「超科学生命体の賢者からお褒めの言葉を預かったぞ」ハハッ

 

斎藤T「頑張ってくれ。寿命はあと僅かだろうが、明日にはやつらの本拠地に乗り込むことになるから、その時には全力を出してもらうからな……」

 

アグネスタキオン’「ペットボトルランチャーで迎撃するだなんてよく思いついたものだね。ペットボトルロケットなら知っていたけど……」

 

斎藤T「市街地上空でこちらに注意を向けさせるための手段がどうしても思いつかなくてさ。クリスマスの晩餐だからって、七面鳥を狩るための猟銃を響かせるわけにもいかなかったし」

 

斎藤T「何より、タイムリープしたその晩が勝負だったから、時間がなかった」

 

斎藤T「そこで閃いたのが、多段式ロケットを模したペットボトルロケットを発射するペットボトルランチャーだったというわけでね。これなら即席かつ いくらでも距離を稼げて対空できるんじゃないかと思ったら、うまくいったよ」

 

アグネスタキオン’「いやはや、実銃をその場で解体してペットボトルランチャーを組み立てて、その規格に合う多段式ロケットや噴射剤となる封入ガスを学園で一から作成しているんだけどね……」

 

アグネスタキオン’「しかも、その片手間にきみはマネキンを買いつけて市販のパーティーグッズを盛り付けてWUMAの模型を急拵えで造っているんだからさ」

 

 

アグネスタキオン’「でも、なんでこんな急拵えの安物のカカシにWUMAは完全に騙されたんだい?」

 

 

アグネスタキオン’「心理的要因や状況要因ならいくらでも思いつくさ。今回はそういう場面でエルダークラスを討伐するんだからね」

 

アグネスタキオン’「けれども、ここは万全を期して精巧な偽物を用意するもんじゃないのかい?」

 

斎藤T「いや、そうでもないんだな。並行宇宙の地球を支配する超科学生命体と言えども、やはり万能というわけではないわけさ」

 

アグネスタキオン’「そうなのかい?」

 

斎藤T「まあ、それに関しては生物学の勉強をしてくれ。生物学だぞ。お前の得意分野の生化学じゃないぞ」

 

アグネスタキオン’「あ、ああ……、わかった……」

 

斎藤T「予定通りだな」チラッ

 

斎藤T「さあ、今日は決戦前夜だぞ、アグネスタキオン’(スターディオン)。楽しいお食事を満喫しようか」

 

アグネスタキオン’「うん……」

 

 

――――――こんなあっさりエルダークラスを仕留めて明日には奥多摩に乗り込んでいくきみはどうしてそこまで?

 

 

やはり、1周目で多摩地域を捨てて船橋市を救ったことは結果としては大成功だった。

 

今度は多摩地域を救って船橋市は後回しにすることにはなるが、いつでも船橋市のエルダークラスは討伐ないし玩具にすることができるようになったので、

 

この調子で奥多摩を攻略できれば、司令官であるエルダークラスたちは全滅し、WUMAの侵略作戦はこれで頓挫することになる。

 

それ以上に、1周目で敵のことについて詳しく知ることができたおかげで、今回のブラックサンタクロース迎撃作戦もスムーズになり、こうして新兵器開発のアイデアも閃くことになった。

 

 

さて、1周目で得られたWUMAの新情報について一部を開示すると――――――、

 

まず、WUMAは怪人:ウマ女である。そのため、パーティーグッズの馬のマスクを被ったような全身白タイツのふざけた格好だという話はすでに聞き飽きた特徴だろう。

 

しかし、今回はその馬面が致命的な弱点となっており、まず馬は草食動物なので()()()()()()()()()()()()()という生物学の初歩の初歩の点に注目してもらいたい。

 

人間および肉食動物の視界はおよそ180度となり、草食動物と比べると視野が狭い代わりに両眼視野が広いことで立体的にものを見易くなり、距離感を掴みやすい利点がある。

 

一方、怪人:ウマ女および草食動物の視野は肉食動物よりも遥かに広く、種によっては真後ろに近い範囲も見通せるのだが、逆に両眼視野が狭いために立体視できる範囲が狭い。

 

これが亜人:ウマ娘と怪人:ウマ女の決定的な差となっており、シニアクラス以上のWUMAとしての自我を持つ擬態したWUMAの正体を看破るヒントにも繋がってくる。

 

想像してもらいたい。ウマ娘はヒトと同じ顔の作りのためにヒト社会に参画することも容易だが、果たして文字通りの馬面の怪人:ウマ女はヒトによるヒトのためのヒト社会は生きやすいだろうか?

 

たとえば、ビワハヤヒデのようにメガネを掛けたウマ娘は容易に想像できるが、()()()()()()()()()というものを想像することができるだろうか?

 

そう、実用性の観点から言っても()()()()()()というのは()()()()()()であり、草食動物に適したメガネの形状を想像できないようなら、つまりはそういうことなのだ。

 

 

そのため、シニアクラスが擬態した偽物というやつは()()()()()()()()()()()()()()()()ことが多いのだ。

 

 

怪人:ウマ女としての肉体の感覚を記憶しているからこそ、本来ならば見えているはずの真横や真後ろに誰かがいることを極度に恐れる習性がある。

 

つまり、人間の視野とWUMAの視野のちがいによって、4人しかいないエルダークラスはともかく、ヒト社会に紛れて擬態しているシニアクラスは注意して見ると日常でもわかるレベルの異様な行動を無意識にとっているのだ。

 

たとえば、立体視に頼っている人間ではあまり馴染みがないが、シニアクラスが擬態した偽物は長方形のテーブルでのデスクワークが不得意になり、逆に半円形のテーブルでのデスクワークが得意になる。

 

その証拠にシニアクラスはパソコンを真正面には置かずに必ず左側か右側に詰めて、空いた側に本やプリントを斜めにして配置するという、テーブルに対してV字の配置をしたがるのだ。はっきり言って異様だ。

 

WUMAの巣窟となっていた船橋トレセン学園の職員室やトレーナー室を見て回っていた時に最初に覚えた違和感の正体がそれだった。

 

シニアクラスが擬態した偽物の多くが首回りの疲労が絶えないことで頻繁に保健室で診てもらっていたことも診療データに記録されており、視野のちがいから相当な不便さを抱えて擬態していることが窺えた。

 

 

完全な擬態を可能とする超科学生命体の侵略者のお仕事も言うほど簡単じゃないということか。

 

 

また、鼻も重要な部位である。人間の場合は呼吸は口でしがちで、口は閉じることができるが、鼻の穴が開きっぱなしなのはそこが本来の呼吸する部位であるからだ。

 

そのため、馬をはじめとする面長の動物ほど鼻の穴が詰まることは呼吸困難の致命傷に陥りやすく、シニアクラスが擬態した偽物は口呼吸よりも鼻呼吸をしがちである。

 

つまり、シニアクラスが擬態した偽物は極端に鼻呼吸を阻害する行動や装備を嫌がる。たとえば、マスクの装着を嫌がるし、鼻をかむことなど鼻への刺激が伴う行為が心理的な急所になっていた。

 

そして、別種の知的生命体である以上は味覚を誤魔化すことはできないが、そこは擬態対象の趣味嗜好に合わせるのはスパイ活動の基本なのであまりボロは出していないようだ。

 

しかし、ここでも面長の馬面であったことが食事の面でもシニアクラスの擬態を見破るヒントになっていた。ジュニアクラスはそうではないのが本当に手強い。

 

 

――――――知っているだろうか、『コップ飲みが上手にできる生物は地球上では人間しかいない』という事実を。

 

 

人間以外の生物は舌を出して舐め取った水分を喉に運ぶのが普通であり、どう逆立ちしても親指が発達した生物でなければ水を注いだコップを飲み干すことすらできない。

 

そして、馬や牛などの四本脚の動物は地面に生えている草を食べるために常に下の方向に顔が伸びているのだから、人間のようにコップを飲み干すために顔を水平以上に持ち上げるだなんてことはしない。

 

だから、怪人:ウマ女の感覚を維持しているシニアクラスはコップ飲みを下品な行いだと認識しており、母乳を飲むのと同じ要領のストロー飲みを徹底していた。

 

そういう意味では、アスリート御用達のストロータイプの水筒が日常的に使われているトレセン学園という環境は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()シニアクラスにとっては居心地が良かったと言える。

 

だが、それでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは異様な光景であろう。

 

ストロー付きのドリンクが出ない場合に備えて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから、ただの水でもマイストローを差して飲むのはやっぱり変だ。

 

それが船橋トレセン学園でヒッポクラテアの軍団で人体実験や持ち物検査をしていた時に最初に驚いたシニアクラスの共通項だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()のが目立った。

 

そのため、やつらが牛耳る船橋トレセン学園の自動販売機はペットボトルや缶ジュースは徹底排除されて、ストロー付きの紙パック飲料やゼリー飲料に統一されていたのだ。

 

いやはや、本当にヒト社会に紛れて暮らさなくちゃいけない中間管理職のシニアクラスに同情してしまう。

 

ジュニアクラスは完全に人間そのものに成りきっているから生活面での不便など感じるはずがないし、

 

エルダークラスは基本的に司令塔として前線基地に座してWUMAにとって住心地がいい暮らしをしているだけに。

 

なので、『シニアクラスが擬態した偽物かどうかは()()()()()()()()()()()()()()()()()()で判別できる』という冗談が成り立つぐらいだ。

 

他にも、元が草食動物の頭と歯の作りなので()()()()()()()()()()()()()()()が挙げられた。

 

つまり、草食動物のように臼歯で飼葉をよく磨り潰して飲み込むのと同様、人間に擬態していてもシニアクラスはよく噛んで食べるので食事のペースが異様に遅くなるわけだ。

 

その様子は船橋トレセン学園の昼食時間がある時期を境に延長されていることからも知ることができる。

 

こうして自我が残るせいで無意識の行動からWUMAの擬態の判別方法や弱点などが次々と解明しており、一般人でも怪しいと思える代表的な特徴を挙げさせてもらった。

 

裏返すと、WUMAに支配されるといったいどういった社会が築かれてしまうのかも これで窺い知れることだろう。ペットボトル業界や缶ジュース業界に明日はない。

 

 

このように、WUMAはたしかに並行宇宙の地球を支配できるだけの驚異的な知能や能力を持ち合わせた全知全能に手が届くかに思えた種族であるが、自分たちの天敵がいないばかりに異なる環境で浮き彫りになる弱点を自覚できていないのだ。

 

 

そして、無敵に思えた四次元能力にも同じく性質上の弱点が存在しており、今回のように空間跳躍した直後を狙われると冷静な判断力や認識力が致命的なまでに低下することになる。

 

そもそも、三次元の物質世界に存在する以上は肉体を通じての感覚に依存しがちだが、四次元の超越世界では頭の中の出来事がそのまま現実世界に反映されるわけなので、

 

当然ながらワープする際にはワープした先の光景に意識を極限まで集中させるわけなのだから、三次元の物質世界の媒体となる肉体の感覚をシャットアウトするため、どうあってもワープの直前と直後に隙が生じるのだ。

 

言い換えると、イメージ力の強さ あるいは思い込みの強さで四次元能力を高めるのだから、四次元能力の完成度が高くなるほど三次元の物質世界での隙も完全になっていくのだ。

 

こうして下等生物である“ヤフー”と認識されている人間ごときが超科学生命体である“フウイヌム”を次々と討ち果たすことになった背景には多様性や選択肢の追求を捨てたことによる種としての停滞があったのである。

 

それはWUMAが完璧な種族だと自身を位置づけている傲慢さが招いた進化の袋小路でもあり、生成化育して絶えず進化していく大自然の掟に背いてしまったことで背負った十字架とも言えた。

 

もちろん、依然として普通の人間では太刀打ちできない程に強大な進化を遂げた種族である事実に変わりがないが、こうした傾向を抱えているという事実に辿り着いたことで、WUMA殲滅は秒読みに入った。

 

だからこそ、私は年末行事である除夜の鐘を思い出して、こうしてしみじみと思うのだ。

 

 

――――――諸行無常の響きあり。やはりお釈迦様の教えは正しかった。

 

 

そして、日本の神仏習合の伝統がいかに時代を超越する普遍の真理であったのかも、21世紀の異なる進化と歴史を歩んだ地球においても確かめることができた。

 

奥多摩のWUMAを殲滅した後、私は“斎藤 展望”としてその家族と一緒に皇室に仕える家系として伊勢神宮に初詣に出かけるわけなのだが、

 

その伊勢神宮は式年遷宮によって定期的に施設更新によって伝統技術の継承を行ってきた結果、少なくとも私が生きた23世紀になっても昔の造形を今に伝えている。その永続性に時代を超越する普遍的な真理が存在しているのだ。

 

また、西洋のキリスト教的世界観でありがちな自然と文明の対立なんかも啓蒙主義や理性主義を主張しているわりにはかなり矛盾して迷走している感があるが、

 

中国における儒教と道教が中国思想における陰と陽になっているように、西洋においてはキリスト教的世界観と非キリスト教的世界観が西洋思想の陰と陽となってもつれながら時代を前進させてきている歴史的事実がある。

 

その矛盾が別個に存在しながら陰陽合体することができた時、人類は自然と文明の対立という幻想から初めて脱却して、自然と文明の共存繁栄の時代を迎えることができるのだ。

 

そう、人間の遺伝子であるDNAが二重螺旋構造となって世代を重ねる毎に進化しているのと同じことなのだ、世界というものも。

 

その矛盾を受け容れる柔軟性と咀嚼力で世界をリードすることになるのが21世紀において世界の王となる細戈千足国(くわしほこちたるのくに)というわけなのだが、現状ではまだまだその真価は発揮されてはいないようである。

 

 

 

カツーン!

 

斎藤T「乾杯」

 

アグネスタキオン’「ああ、乾杯」

 

斎藤T「うん、大人の味のぶどうジュースだな。タンニンの渋みがよく出ているよ」ゴクッ

 

アグネスタキオン’「これを美味しいと思うわけなのかい、大人ってやつは?」ウッ・・・

 

斎藤T「ああ。素材の味を活かすのは本当に日本ぐらいなもんだぞ。紅茶もコーヒーも酒もな」

 

斎藤T「コーヒー大国のブラジルだとコーヒーに砂糖を大量に入れるのが普通だし、紅茶が人生の友のイギリスにしても香り付けしたフレーバー無しじゃ飲めないしな」

 

斎藤T「そして、酒にしてもカクテルのようなジュース割が普通だから、素材の味に拘る日本人が世界的に見ておかしいと言ってもいい」

 

斎藤T「逆に言うと、それだけ繊細な味わいの鑑賞にも耐え得る咀嚼力を先天的に持っているとも言える」

 

斎藤T「こんな極東の島国でどうして広大なアメリカの3分の1に匹敵する人口が繁栄して、GDP(国内総生産)が第3位の経済大国にもなっているのかと言えば、それだ」

 

斎藤T「ついで言えば、近代ウマ娘レースでURAが主催する競走の賞金は、世界の中でもUAE(アラブ首長国連邦)と並んでトップクラスだ」

 

斎藤T「具体的に言えば、G1賞金総額では圧倒的第1位のUAEとの差は大きいが、3位帯のカナダやオーストラリアとは3倍近くの差もあるそうだ」

 

斎藤T「そして、重賞レース全体の平均賞金額ではそのUAEとほぼ横並びの数字になっているらしいから、日本人は実質的にイギリス・フランス・アメリカなどの国際G1レースが身近な国々よりも単独主催でウマ娘レースに熱狂しているわけなんだな」

 

斎藤T「その割には世界ランキングを名を刻む本当の名バが現れないことをスイスからの帰国子女:才羽Tは嘆いているわけなんだけどね」

 

アグネスタキオン’「ふぅン、そうかいそうかい」

 

斎藤T「思ったよりも興味がないようだな、競走バなのに」

 

アグネスタキオン’「ああ。ターフの上で走るのは私じゃないからね」

 

 

駿川秘書「――――――」

 

飯守T「――――――」

 

 

斎藤T「うん。ヒッポネイピアを排除したことでブラックサンタクロースの話題は入ってこないな。最初が府中市からで本当に良かったよ」ピッ

 

アグネスタキオン’「これで多摩地域の平和は守られたわけだね。まずはおめでとう」

 

斎藤T「ありがとう」

 

斎藤T「けど、本番は明日からだ」

 

アグネスタキオン’「そうだね。奥多摩――――――」

 

斎藤T「これだけは確認しておきたい」

 

 

――――――自身の正体がバケモノであることを自覚しながら生き続ける覚悟はあるか?

 

 

アグネスタキオン’「……どうだろうね。そんなことを気にしている時点でどうにもならないところがあるかもね」

 

斎藤T「なら、お前は私と一緒にいろ。WUMAの殺人衝動を抑えるためには そもそも擬態できない相手と一緒にいるのが一番だ」

 

アグネスタキオン’「そ、それって――――――」

 

アグネスタキオン’「………………」ゴクリッ

 

 

アグネスタキオン’「きみってやつはついさっきも私の同胞を散々殺めておきながら平気でそんなことを言うんだね?」

 

 

斎藤T「怖いか? 理解できないか? だが、そういう反応なら『私の方が知能が上』だと言えるな?」

 

アグネスタキオン’「ああ、認めるよ」クククッ

 

アグネスタキオン’「そういうことなら、私のようなバケモノを見事に飼い馴らしてみせておくれよ、トレーナーくん?」

 

 

――――――それで責任をとってくれよ?

 

 

アグネスタキオン’「………………」モジモジ

 

斎藤T「……まあ、考えておくよ。お前の面倒を見ることができるのは現状では私しかいないんだからな」

 

アグネスタキオン’「そうだろう そうだろう?」

 

アグネスタキオン’「だからさ、トレーナーくん? 『ジャパンカップ』の夜と同じものを期待してもいいかな?」モジモジ

 

斎藤T「なに!?」ドキッ

 

アグネスタキオン’「だって、今夜は恋人たちが共に過ごす聖夜なんだろう? そういうのに憧れだってするよ」

 

アグネスタキオン’「私はもう“もうひとりのアグネスタキオン”じゃなくなったんだからさ」

 

アグネスタキオン’「私の正体がバケモノなら歳だって関係ないだろう? きみが恋というものを知らなかった彼女(ヒッポリュテー)の想いを受け止めたんだから、私にも情熱的な抱擁をしたっていいんじゃないかい?」

 

斎藤T「いや、それはだな……」

 

アグネスタキオン’「ダメなのかい?」

 

斎藤T「こ、これは難題だな……」

 

 

そう、因子継承をした時から“ふたりはアグネスタキオン”ではなくなってしまっていた。

 

ウマ娘の方のアグネスタキオンはいよいよ機が熟してターフの上を走ることになったのに対して、

 

中身が完全にWUMAになって超科学生命体に覚醒した“もうひとりのアグネスタキオン”だった存在はレースに対する情熱は完全に失われてしまっていた。

 

中身が完全に競走バではなくなっているのだから、外宇宙へと旅立った宇宙移民の私がそうであるように、ただ走っているだけに見える公営競技(ギャンブル)に魅力を感じなくなったのもしかたがない。

 

そういう意味ではアグネスタキオンとアグネスタキオン’(スターディオン)が互いの存在理由を賭けて相争う関係にならずにすんでホッとしてもいるのだが、

 

そうなるとアグネスタキオンには『レースで勝つ』という生き甲斐のために心血を注いで研究をしてきた情熱と積み重ねてきた日々があるから一人でもどうとでも生きていけるわけで、

 

一方で、自身を構成する要素の全てが偽物でしかないアグネスタキオン’(スターディオン)にとっては生き甲斐となるものが何もないので人間として生きていくためのあるべき芯が備わっていないのだ。

 

なので、私がこのヒト社会における居場所を与えるためにアグネスタキオン’(スターディオン)のことを責任を持って面倒を見なくてはならなかった。

 

まあ、十中八九 私が最期まで面倒を見ることになるだろうが、独り立ちする能力を持たせないのは教育における虐待なので、せっかくだから自分好みに育成することにしよう。

 

 

――――――そのためにも明日は絶対に勝たなければならない。

 

 

当初の目論見としては、アグネスタキオン’(スターディオン)を奥多摩攻略戦に参加させるつもりは毛頭なかった。

 

スーペリアクラスに進化したとは言え、もしかしたら奥多摩に潜んでいるかもしれない上位存在を超えた未知の存在にアグネスタキオン’(スターディオン)が絶対服従するかもしれないリスクのことを考えると、どこか信用できなかったからだ。

 

しかし、こちらが年末までの1週間を3周する前提でじっくりと攻略に乗り出そうとしていたら、最初の24日の段階でやつらは地球侵略を次の段階に進めてきたので計画を大きく変更せざるを得なかった。

 

つまり、敵地に突入する前日に青梅線に乗って奥多摩を目指す陸路はすでにやつらがすでに封鎖しているだろうから、当初の計画ではどうしようもなくなってしまったのだ。

 

なので、2周目の初日では絶対にブラックサンタクロースになって多摩地域に巨岩をプレゼントしてくるエルダークラス:ヒッポネイピアを討ち取る必要があった。

 

その戦利品こそがWUMAの超科学の産物:ステルス迷彩であり、その原理がWUMAの体内に備わる生体波動エンジンを利用するものなので、WUMAでないと取り扱えない代物なのだが、

 

つまり、スーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)ならば使えるわけであり、エルダークラス:ヒッポリュテーの感覚や記憶を継承しているので、取り扱いは手慣れていた。

 

 

――――――ここまで言えば、わかるだろう。もう四の五の言ってられる状況じゃないのだ。

 

 

そのために私は1周目の最後の三番瀬でアグネスタキオン’(スターディオン)に発破をかけて、自分の意志で初めて飛翔させる経験を積ませていたのだ。

 

そして、“目覚まし時計”によって時が巻き戻る際には善因善果・悪因悪果・因果応報によって自分を取り巻く世界が再構築されるらしいので、その経験が果たしてどれだけ功を奏すかわからないが、無駄になっていないと信じたい。

 

だから、私はここでアグネスタキオン’(スターディオン)との関係にけじめをつける必要があった。

 

内心ではどう思っているかは正確なところはわからないが、互いを必要としている関係になっているのを確かめ合い、いざ敵地に飛び込んでいく他ない。

 

どっちにしろ、私がやらなければ21世紀の異なる進化と歴史を歩んだこの地球は並行宇宙の地球を支配した“フウイヌム”によって支配されるのだから、ここは乾坤一擲あるのみ。

 

一夜にして世に解き放たれた全てのWUMAが殲滅されるわけではないが、やつらの侵略を阻止できれば後は残党狩りを着々と行うだけである。本国から援軍が来ることはない。

 

そう、1周目に冬場の山登りを想定して府中市を歩き回ったことも本質的にはまったく意味のない行為になってしまったわけなのだ。

 

けれども、1周目での展開を踏まえて それらの対策について考え抜いて2周目を迎えたのだから、後はヒトとウマ娘の皇祖皇霊たる天神地祇と三女神の加護を信じて戦い抜くだけだ。

 

 

――――――こうして世界の命運を賭けた奥多摩攻略戦は人知れず25日の朝にて終結した。

 

 

 

 

 

斎藤T「……ひとつ勘違いをしているぞ」

 

アグネスタキオン’「?」

 

斎藤T「お前の面倒を見切れるのは私しかいないのだから、生涯に渡って長い付き合いになることだろう」

 

斎藤T「けれど、それは安直に『籍を入れる』という関係のことを指すんじゃない」

 

 

斎藤T「全てが偽物でできたお前がヒッポリュテーやシンボリルドルフの記憶や感覚を頼りに関係を求めているのなら“斎藤 展望”はやめておけ」

 

 

アグネスタキオン’「ふぅン?」

 

斎藤T「私はお前にはひとりの人間として生きていけるように教育を施したいと思っているんだ」

 

斎藤T「その時点で先生と教え子、師匠と弟子、親と子の関係になるのだから、対等ではない」

 

斎藤T「その上で、私は私自身の『宇宙船を創って星の海を渡る』という大きな夢のためにたくさんの人たちを同志として引き入れることになる」

 

斎藤T「つまり、特別な事情を抱えている人間というのはお前だけじゃない」

 

アグネスタキオン’「なんだ、そんなことか。それでもいいさ、私はね」

 

斎藤T「?」

 

斎藤T「なら、言っていることの意味がわかっているな――――――」

 

 

アグネスタキオン’「要は、きみの指導を受けて選択の自由を与えられてから私自身の人生を決めるべきなのだろう?」

 

 

アグネスタキオン’「それが()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだろう?」

 

斎藤T「……そういうことだ」フフッ

 

アグネスタキオン’「なら、きっと()()()の答えは変わることはないさ」フフッ

 

斎藤T「わからないぞ。たしかに私と()()()の出会いのケミストリーはこれから世界を救うことになるが、それ以上のケミストリーがあるかもしれない」

 

アグネスタキオン’「おかしなことを言うものだね、トレーナーくん!」

 

 

アグネスタキオン’「――――――『世界を救う以上の出会い』なんてあるわけがないじゃないか、私だけの最高のモルモットくん!」アッハッハ!

 

 

斎藤T「それもそうか」

 

斎藤T「私はきみがきみであったことを神に感謝しているよ」

 

アグネスタキオン’「ああ。私もきみという存在から始まったこの運命を心の底から楽しんでいるよ」

 

斎藤T「そうだな。全てはウマ娘レースの殿堂に身を置きながら実験三昧で退学処分を受けそうになっていた風変わりなウマ娘のおかげか」

 

斎藤T「今も実験室で一人寂しくクリスマスキャンドルに火を灯しているのかな? 実家に帰ればいいのにな?」

 

アグネスタキオン’「だったら、素敵なクリスマスプレゼントを送り届けてやろうではないか、トレーナーくん!」

 

 

――――――ずっとずっとひとりで()()()()()()()()ウマ娘に神の祝福を! もう一度、乾杯!

 

 

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