ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
――――――目標:12月31日までにWUMAを殲滅せよ!
24日の深夜、世間では子供たちがサンタさんからのプレゼントを夢見て寝床につき、恋人たちが愛を囁き合う聖夜――――――、
25日の夜明けまでに、ついに並行宇宙からの侵略者であるWUMAの本拠地である奥多摩に乗り込むことができた、空から。
WUMAの超科学生命体としての超越した能力は正体である怪人:ウマ女の異形でしか発揮することができない。
そのため、SATを一瞬で全滅させるほどの戦闘力を標準装備しているWUMAを排除するなら、能力を封じられた
しかし、最上位のエルダークラスすら超越したスーペリアクラス:
さながらグリゴリの天使であり、身を覆い隠すほどの巨大な純白な翼と自由の女神の冠を模した角を展開した容貌であった。
惜しむらくは純白な翼とマッチしない無骨な夜間迷彩のスニーキングスーツで風情が色褪せ、一般大衆に見つかるわけにもいかないのでステルス迷彩で姿が見えなくなることだが。
飯守Tと駿川秘書が2人で食事していた高級レストランでの晩餐の後、私は府中市のビルの屋上に満載にした装備品を密かに
もう一瞬である。1秒にもならない一瞬で時間跳躍の下位能力である空間跳躍で奥多摩に侵入することができるため、開けた空間が確保できているなら物質転送装置なんていらないぐらいであった。
翼を持つことで閉鎖空間でなければどんな座標にでも一瞬で移動できるエルダークラスの存在自体が一種の物質転送装置と化していた。
もちろん、イメージ力が重要な四次元能力なので正確な座標に止まるためには正確な情報が必要不可欠で、
一度も奥多摩に行ったこともない上に そもそも空を飛んだ時のイメージもない状態でどうやって奥多摩の川苔山にピンポイントで到達するかという根本的な問題に直面したのだが、
そこはエルダークラス:ヒッポリュテーの記憶を継承していたので、奥多摩の川苔山のどの辺から飛び立ったかの感覚と光景がしっかりと
そう、府中市から青梅線で2時間を掛けて奥多摩に乗り込むことや、そこから6時間ほどの登山で川苔山:百尋ノ滝を目指す想定は何だったのかと思うぐらいに、あっさりと百尋ノ滝に到着することができてしまった。
ちなみに、以前までの『奥多摩から川苔山:百尋ノ滝まで6時間』という想定は、私ともあろうものが、
1周目の最後となる船橋トレセン学園での日々で、改めて川苔山:百尋ノ滝への登山ルートを練っていたら、普通に『1時間半で百尋ノ滝に到達できる』という事実を知ることになった。
だが、
そして、25日は眠り続けて、目が覚めた26日には奥多摩が完全に隔離されて、そこから船橋市に割拠するエルダークラス:ヒッポクラテアを討伐する流れになって、WUMAについて多くのことを知ることになった――――――。
この
――――――百尋ノ滝。川苔山から日原川へ流れ込む川苔谷上流部にあり、奥多摩山域でも有名な滝の一つである。
「尋」は古く日本で用いられた長さの単位であり、現在のメートル法では約1.818mである。およそ2mと考えてもらって問題ない。
そのため、「百尋」とは181.8mとなるが、実際の落差は約40mほどしかないわけで、4.5倍しないと本当の意味での「百尋ノ滝」とは言えないものであった。
しかし、東京から日帰りできて登山初心者でも年間を通じて楽しめる四季折々の顔を見せてくれるため、川苔山:百尋ノ滝は人気の登山スポットになっていた。
春の新緑、夏の避暑地、秋の紅葉、冬の氷瀑――――――。残念ながら名物である氷瀑を見るにはまだまだ寒さの厳しい時期ではなかったが、宇宙移民にとっては滝の荘厳さは心惹かれるものがあった。
だからこそ、年間を通じて登山客が多い川苔山:百尋ノ滝に並行宇宙からの侵略者が降り立ったことで、誰にもわからない静かな侵略が20XX:今年の後半から始まっていたのだ――――――。
●2周目:12月24日から25日にかけての夜
斎藤T「これが百尋ノ滝か……」
アグネスタキオン’「不思議だね。一度も来た憶えがないのに、ここのことをよく知っている気がするよ」
アグネスタキオン’「まあ、それがヒッポリュテーから受け継いだ記憶と感覚なんだけどね」
斎藤T「ついにここまで来たんだな。一瞬だったけど」
斎藤T「けど、ピアニストはたった数分の1曲、あるいは数時間のコンサートのために何日も何時間もかけて練習を重ねてくるものだ」
斎藤T「そして、長い人生の中で 実力を発揮した その一コマから全てが変わり始める」
斎藤T「――――――ここで全てを出し切る!」
アグネスタキオン’「エルダークラスは4人――――――」
アグネスタキオン’「船橋市のヒッポクラテア、府中市のヒッポリュテー、多摩地域のヒッポネイピア――――――」
アグネスタキオン’「残るは奥多摩に陣取るヒッポカンポスとなるわけだね」
斎藤T「ああ、狙うはヒッポカンポスの首だ!」
斎藤T「しかし、守衛は本当にいないのか? ここがやつらの巣窟の入り口なのだろう?」
アグネスタキオン’「ああ。おそらく、使える駒は全て出払っているはずだよ」
アグネスタキオン’「おそらく、26日に奥多摩をこの世界から隔離させる最後の仕掛けを発動させるために警戒網が境界線まで押し拡げられているはずだ」
アグネスタキオン’「つまり、青梅線などの陸路が最終防衛ラインになっていて、そこを突破されないように25日以降に多摩地域の各地で不可解な現象が多発するようになるわけさ」
斎藤T「となると、のんびりはしていられないな」
斎藤T「ヒッポネイピアが聖夜に巨岩を多摩地域に降らせることで奥多摩を分断する布石に打っていた以上、多摩地域にブラックサンタクロースが現れなかったことは配下であるヒッポネイピアの軍団はすでに知っている」
斎藤T「時間との勝負だ。やつらの自主独立性に期待して、情報伝達の遅れに乗じて、一夜にして本拠地を制圧するぞ」
アグネスタキオン’「ああ。気をつけてくれたまえよ。ヒッポリュテーの記憶があるとは言え、全てがそのままである保証はないのだから」
――――――こうして滝の裏側に偽装された意外と大きいエレベーターから
ヒッポリュテーの記憶と賢者ケイローンの推測を照らし合わせたWUMA襲来の経緯では、やつらは
直接的に並行宇宙にある本国を結ぶワープゲートを築き上げることもできなくはないようだが、そのために必要なエネルギーと機材は手軽に用意できるものではないらしく、
また、本国との並行宇宙航路が確立されなければ自分たちが本国に帰ることも、本国からの援軍を呼び寄せることもできないため、
裏切り者であるケイローンを討伐しに来た先遣隊の宇宙船は侵略の橋頭堡を築くために最初に派遣される"潜航艇”と分類される小型タイプであった。
侮ることなかれ。この最初に派遣されて比較的少人数で現地調査を実施する
この“潜航艇”自体が最終的には本国からの本格的な侵略部隊を安全に呼び寄せるための並行宇宙航路における灯台や管制塔となるのだ。
そのため、“潜航艇”には最初に現地住民に発見されないようにお得意の空間跳躍技術のちょっとした応用によって地下に潜って秘密基地を築き上げるトンデモ機能が備わっていた。
具体的には、自分に当たる光を空間跳躍で当たらなくすることで不可視を体現するWUMAのステルス迷彩と同じく、周囲の物体を空間跳躍で
そこから空間歪曲させて押し拡げた地下空洞に基礎工事をすることによって、どんな場所の地下にも安定した居住空間を築き上げることができる。
なので、東京都心の発達した地下迷宮で使う分には相性が悪い機能だが、奥多摩のような地下が手付かずの場所に地下要塞を築き上げることがいくらでもできるため、都心から離れた奥多摩に降り立ったことはやつらにとってはいつもどおりだったのだ。
むしろ、未開の文明を侵略するのが前提なのだから、未開の不整地でも安定した橋頭堡を築き上げる目的に適ったトンデモ機能と言えよう。まず地下に潜られたら追撃しようがない。
そんなわけで、まずは現地住民に見つからないように地下要塞を築き上げてから地上の様子を見て回ったら、そこが奥多摩の川苔山:百尋ノ滝の近くだったというわけで、
年間を通じて訪れる登山客に“成り代わり”をして21世紀のヒトとウマ娘が共生する地球の侵略の第一歩を始めることになったわけである。
要は、やつらの宇宙船である“潜航艇”を破壊すれば百尋ノ滝の秘密基地の機能は停止する――――――。
しかし、すでに百尋ノ滝の地下に広大な秘密基地が築かれているし、“潜航艇”を破壊したところで世に解き放たれたWUMAたちの悪行が止まることはない。命令はいつまでも実行され続ける。
やはり、侵略を指揮している最上位のエルダークラスを排除して命令系統の崩壊による組織の無力化しか手はないのだ。
そんなわけで、SATの装備を参考にプラズマジェットブレードや猟銃などを満載にした完全武装の状態で、裏切り者のスーペリアクラス:
斎藤T「凄いな。やつらの侵略の手口はヒッポリュテーの記憶とケイローンの証言から理解できていたけど、本当にこんな地下要塞が奥多摩に築かれているだなんて……」
斎藤T「しかも、これは地下要塞というよりは地下宮殿の趣があるな……」
斎藤T「超科学の未来感はあっても清潔感や品位というものが感じられて、SF映画で見られるような無骨な機械化がなされていない空間だ……」
斎藤T「嘘であって欲しかったな。先遣隊の装備だけでここまで風情のある改築や優雅な装飾が行えるだなんて、人類はSF映画の空想ですらも負けているな……」
斎藤T「紅茶にうるさい英国紳士のように、先遣隊の装備でさえもこれだけの飾り付けを行える余裕と文化性が標準搭載されているわけだ……」
太陽に準じる光源に照らされた地下空洞にはやつらの肌の色を思わせる美白を基調とした西洋風の古典的な街並みと城塞が聳え立ち、トレセン学園を思い出させる清水が湧き出る噴水の広場や芝生の緑も見えた。
高度な科学文明と精神社会の融合、超能力を含む超人的な特異能力を持つ極めて長寿な人類や動植物が描かれることがあるのがアガルタである。
まさにその条件に相応しい地下世界が東京都心の近くの奥多摩山中に築かれていたことに驚愕を禁じえない。これだけで人類社会がWUMAに勝てるところが何一つとしてないと自信喪失してしまう。
しかし、百尋に思える入口となる百尋ノ滝のエレベーターから見下ろせる街並みには人の気配はなく、無人の街並みが虚無感を生み出していたのも事実だった。
これだけ見晴らしがいい街並みで地下空洞の壁面全体に装飾を施すほどに気を回せるのだから、エレベーターから降りてくる侵入者の存在に気づいていないはずがない。
なので、軍団のほとんどが出払っているにしても、絶対に誰かいるはずの状況で誰もいない静寂が逆に緊張感を高めていた。
アグネスタキオン’「見た感じだと、そこまで変わっているようではないみたいだねぇ」
アグネスタキオン’「まあ、元々 派遣されたのは4個軍団を乗せた“潜航艇”だから、人手が圧倒的に足りないのは最初からわかりきっていたことだけど」
斎藤T「なら、どうして?」
アグネスタキオン’「それは
アグネスタキオン’「裏切り者の討伐指令は急な話だったからね。裏切り者一人を始末するのに4個軍団は大げさだが、そのまま侵略するには心許ない軍団の数だったね」
斎藤T「ちょっと待て!? エルダークラスの階級そのものが
アグネスタキオン’「それは少しちがうかな。地球人が自分たちとまったく同じ存在の中から国家元首や代表を選出するのとはわけが違う」
アグネスタキオン’「言うなれば、あれは“神”とでも言うべき絶対的な存在――――――」
斎藤T「なに!? 初耳だぞ、そんなこと!?」
アグネスタキオン’「あ、語弊があったね。なら、あれは“統一意思”とでも言うべき存在とでも理解してくれたまえ」
斎藤T「?」
アグネスタキオン’「つまり、“マザー・ブレイン”とでも訳した方がいいかな?」
斎藤T「――――――“マザー・ブレイン”だって?」
アグネスタキオン’「ああ、この世界だと
アグネスタキオン’「残念ながら私は“マザー”から直接指令を受け取る立場じゃなかったから詳細はわからないけれど、エルダークラスは“マザー”からの指令を受け取って活動しているみたいだよ」
アグネスタキオン’「そして、全ては“マザー”から生まれ“マザー”に帰っていくのが“フウイヌム”の死生観でもあるんだ」
アグネスタキオン’「だから、私たち“フウイヌム”は
斎藤T「なるほど、西洋の一神教において人間とは神の似姿であり、地上において神の意志を代行する存在というのと同じわけだな」
斎藤T「それを唯物論的なSF作品で例えるなら、“マザー・ブレイン”という“神”であり、“統一意思”であり、“統制機構”というわけか」
アグネスタキオン’「そう、末端だった私は“マザー”を見たことがないし、ヒッポリュテーの記憶にも“マザー”の使者である伝令しかいないから、本当に“マザー”なんて存在しているかどうかを疑っているわけさ」
アグネスタキオン’「もしかしたらその正体が高度な人工知能かもしれないしね」
斎藤T「WUMAは人工知能の発達したエゴによって使い潰される宇宙侵略の手駒である可能性も無きにしもあらずか」
アグネスタキオン’「それが賢者ケイローンが触れた禁忌なのかもしれないねぇ……」
斎藤T「ああ。どう考えても、超科学生命体である“フウイヌム”が空間跳躍能力より先に擬態能力が備わっていた侵略的外来種の種族なのは不自然だしな」
斎藤T「上位存在の命令に絶対服従の階級社会が維持されていながら、侵略を是として他種族の文明に触れて感化されるリスクに常にさらされているわけだからな」
斎藤T「今まで『なぜWUMAは侵略するのか』という根本がわからなかったが、絶対的存在である“マザー・ブレイン”が命令しているとなれば、話は見えてきたな」
アグネスタキオン’「さて、それが真実かどうかはわからないけれど、着いたよ」
斎藤T「自分たち以外の存在が侵入してくることを想定していないのか、それとも迎撃準備は万端なのか――――――、見せてもらおうか」
空間跳躍によって一瞬でどうにかなってしまう刹那の死線の上、WUMAを返り討ちにできるだけでそれ以外の脅威に強いわけではないので、細心の注意を払って真っ白い街中を練り歩く。
聖夜に地球侵略を次の段階に上げる準備でみな出払っているのかはわからないが、間近で見る“フウイヌム”が築いたやつら色の純白な街並みは地下都市であることを忘れ去せるほどに魅力的なものであった。
特に、地下空洞を照らす太陽のごとき光源、どこから吹いているのかわからない芝生を撫でる心地良い風、噴水の広場に代表される街中に張り巡らされた水の流れが誰も姿を見せない街中に生き生きとした鼓動を感じさせた。
侵略的外来種であるWUMAが非常に美意識の高い種族なのはわかっていたことだが、こうしてやつらの住む世界を再現した街並みを見せつけられると思わず敬意を払ってしまう。
しかし、私はWUMAを討伐しに来たのだ。やつらの親玉であるエルダークラスを皆殺しにし、やつらの宇宙船を破壊して、やつらの侵略を阻止するために来たのだ。
だから、“斎藤 展望”はやつらにとっての
目標は奥多摩に割拠するエルダークラス:ヒッポカンポスの討伐と、本国との連絡を絶ってWUMAの地球侵略を阻止することにある。
それにしても拍子抜けであった。本当に誰もいない。このままやつらの宇宙船があるだろう城塞の中枢に入り込めそうだ。
もしかするとヒッポカンポスも最終確認のために出払っている可能性があり、今ならば難なく秘密基地を制圧することもできるかもしれないが、空間跳躍でいつでも一瞬で帰ってくるだろうから油断は禁物であった。
さて、広場の噴水はトレセン学園の三女神像と同じような3人の怪人:ウマ女が背負う水瓶から清水が心地良い音を立てて落ちていた。
ウマ娘にとっては怪人:ウマ女の異形は本能的な恐怖を覚えるそうだから、言うなれば三女神像ならぬ“三悪魔像”とでも言うべきか。
――――――ここは大胆に打って出るべきか。“目覚まし時計”による時間の巻き戻しはまだ1回だけであり、あと2回は有効なので、一気に城下町を突破して城塞に突入してもいいような気がしていた。
宇宙移民船の波動エンジンでも利用されている空間歪曲型ワープで実現される空間跳躍能力の弱点は
時間跳躍能力が空間跳躍能力の上位互換と言われる所以は、時間の流れを映画のフィルムに見立てて その映画のフィルムの一コマから別の一コマに飛び移ることで、
一方、空間跳躍能力はあくまでも映画のフィルムの一コマの中の世界でしか働かない能力であり、別の例えになって申し訳ないが、オリガミの上のある点から別のある点へとオリガミを隣接させることで実現される。
オリガミを手に持って 任意のある点とある点が隣接するように折り畳んでもいい。とにかく、物理的にオリガミの上の任意の2つの点が隣接するようにイメージできたら空間跳躍能力は成立する。
だから、障害物がない平面的な地形ならば いくらでも空間跳躍で一瞬で距離を詰めることができるわけなのだ。
逆に、どう折り畳んでもある点の裏側にある点に隣接させることができないことから、ある点とある点をオリガミの表側と裏側に隔てる壁の存在は無視できない。
そのため、空間跳躍能力は壁抜け能力には成りえないわけであり、あくまでもオリガミを折り畳んだように詰められる距離しか跳躍できないのだ。
まあ、頑張って表面を丸めてオリガミの裏面に触れさせることもできなくはないが、表面と裏面の同じ平面座標に存在している2つの点を隣接させることは物理的には不可能であることは理解してもらいたい。
なので、もしも空間跳躍能力を極めたエルダークラスが戻ってくるにしても、地上まで直通の発進路がなければ最速で戻ってくるなんてことはできるわけがない。
よくある誤解だが、空間跳躍能力は高速移動能力ではない。ある点からある点を目指す時にその間にある距離をどう解決するかのアプローチが完全にちがう。
しかし、このように空間歪曲型ワープの空間跳躍はあくまでも直線距離を折り畳んで極限まで短縮したものでしかないので、目標まで最速で接近する高速移動能力と同様に目標まで一直線になるコース取りが重要となるのだ。
付け加えて、
何が言いたいかと言うと、滝の裏に隠された
つまり、エルダークラスの襲来に備えて直線距離で一気に詰められそうな地上との唯一の出入り口になる百尋のエレベーターに罠を設置することを私は忘れなかった。
よく見ると地上の百尋ノ滝まで伸びるエレベーターの内部面積はエルダークラスが翼を広げても問題ないぐらいであり、これは一度に大量の人員や物資を移動させるための広さだと思っていたが、
エレベーターの半透明の天井や床面の中心となる大部分が段ボール箱のようにパカッと割れそうな構造になっていたことに気づくと、
エルダークラスが秘密基地から地上に出向く際の入口と通路がエレベーターの軌道と共用になっていて、地下のエレベーターホールの屋根となる階段のないテラスからダクト内に進入することができるようなのだ。
何度か往復してみて百尋のエレベーターの全貌を解明したい気分に駆られたが、ここはグッと我慢して討伐対象であるエルダークラスが確実に利用している場所に罠を仕掛けることにした。
そう、理論上は直線コースでしか空間跳躍できない以上は、方向転換するためには必ず一瞬は止まるわけであり、
エレベーターの屋根やその高さにあるエレベーターホールの2階部分を目掛けて地上から空間跳躍で垂直降下してくるだろうエルダークラスを迎撃するにはうってつけだった。
地上との出入り口となる百尋はありそうなエレベーターがこれで壊れたって一向にかまわないのだから、よくはないが周回を前提にした
そう思って最初にエレベーターホールに罠を仕掛けて やつら色のやつら好みのやつらの植民都市に足を踏み入れたわけであり――――――。
チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
斎藤T「え」
アグネスタキオン’「あ」
斎藤T「ハッ」
斎藤T「い、行くぞ! とどめを刺すぅうううう!」
アグネスタキオン’「あ、ああ! 行こうか!」
怪人:ウマ女「アアアアア………………」ドサッ ――――――真っ黒焦げに千切れた身体に焼き焦げた翼が痛々しい。
アグネスタキオン’「さあ」
斎藤T「ああ」
斎藤T「悪かったな。安らかに眠ってくれ」ブン! ――――――介錯!
怪人:ウマ女「」サァアアアア・・・ ――――――肉体が崩壊し灰となっていく。
斎藤T「……終わったな」
アグネスタキオン’「……終わったね、あっさりと」
斎藤T「本当に地上との連絡路が百尋はありそうなエレベーターの軌道だけだったなんて、こっちがびっくりだよ」
斎藤T「まあ、これでやつらはもう何もすることはできない。司令塔となるエルダークラスはここに滅んだ……」
アグネスタキオン’「……そうだね」
斎藤T「でも、ちょっとなぁ……、こうも簡単にエルダークラスが次々と罠に引っ掛かるとか――――――、」
斎藤T「なんかこう、策の練り甲斐もないというか、天敵がいなかったせいで脇が甘いと言うか、知能は高くても危険予知がまったくできていないぞ!」
斎藤T「こいつら、想定外の状況に弱すぎだろう!? いや、『統治はすれども侵略は下々の勤め』ってことで
斎藤T「逆に怖いんだけれども!? こっちを油断させるための壮大な罠でも仕掛けられているような気がして!?」
斎藤T「だって、並行宇宙の地球を支配している超科学生命体って話だよね!?」
斎藤T「見てよ! とりあえずWUMAを殺せるだけの爆薬を
斎藤T「ダクト内部で爆発したってのに百尋のエレベーターはまったく崩壊する気配がないし、軌道となる半透明のダクトには傷一つついていないんだぞ。何事もなかったかのように普通に動きそうだ」
斎藤T「で、一方で逃げ場がないダクト内で爆発の勢いを一身に受けて即死しなかったばかりに、必死に2階のドアを押し開けて脱出できたところで力尽きて、介錯だ」
斎藤T「……何、この何? ちょっとした爆発ぐらいじゃビクともしないエレベーターを見ればたしかに優れた科学力を持っているのはわかったんだけど、」
斎藤T「それならどうして黒焦げになって灰になったの、その優れた科学力を持つ文明人とやらは?」
アグネスタキオン’「私もびっくりだよ。私もその仲間だと言うのに、いくらなんでもこれはないね……」
斎藤T「いや、楽ができることはいいことだ。贅沢を言うつもりはない。さっさと宇宙船を破壊しよう」
斎藤T「もちろん、油断大敵だ。気を引き締めて行くぞ」
アグネスタキオン’「うん……」
嫌な気分になった。もちろん、やつらにとっての
しかし、21世紀の科学力は言うまでもなく、私が生きた23世紀の宇宙科学でさえも到底実現できそうにない超高度な科学文明を誇る並行宇宙の地球を支配している超科学生命体がこんな間抜けだと信じたくない気持ちでいっぱいだった。
だが、人間の空想の産物であるSFでは現実世界を超越した科学は人を幸せにすることができずにくだらない理由で引き起こされた諍いによって人を不幸にすることにばかり使われがちだった。
もちろん、戦争という非生産的活動から隔絶された世界に住んでいるのなら需要と供給や必要性によって安全設計に求められる水準もかなり下げられることだろうが――――――。
なのに、『これはいくらなんでもない』と思ってしまった――――――。
別に、翼の生えた怪人:ウマ女があっさりと死んでくれたことを言っているのではない。討伐対象なのだから。そのためにここに来たのだから。
そうじゃない。無様に灰になる一方で自分たちが生み出した文明の産物だけが何事もなかったかのように依然として残り続けていることに無情さを覚えたのだ。
全盛期ならばクルマを持ち上げることすら容易なウマ娘が本能的に恐怖を抱くような怪人:ウマ女なんだぞ。しかも、その最上位の存在であるエルダークラス――――――。
爆発に巻き込まれて即死しなかったのなら、必死になってダクトを突き破ろうと暴れ狂ったはずなのに、見上げる半透明のエレベーターの軌道となるダクトは爆発で煤けた程度の変化しか見受けられなかった。
そうして空を飛べるエルダークラス専用の出入り口となるエレベーターホールの2階部分のドアを押し開けたところで力尽きて真っ黒焦げの灰になったわけなのだ。
そう、怪人:ウマ女が死物狂いで藻掻いても破ることが出来ない超頑丈な半透明の素材でできたエレベーターの軌道なのだ。それだけで評価が天井知らずの夢の建築材がここにあった。
それでいて、これほどのものを造ることができる超科学文明の住人でありながら、やっていることは並行宇宙の異世界への侵略なのだ。それでいて自称は平和をこよなく愛する種族――――――。
それなのに、21世紀で用意できる程度の爆薬なんかで致命傷を負わされてしまう――――――。そこはまだいい。同じ生き物だから爆発に耐えるほどの生物の進化なんて想像がつかない。
けれども、もしかしたら一瞬でもあれば自身の蘇生を可能とする設備に空間跳躍できたかもしれないのに、自分たちが造った鉄壁のダクトに阻まれて真っ黒焦げになって力尽きるだなんて、笑えない話ではないか。
なので、複雑だった。ここに来て超科学生命体に対する期待値がとてつもなく下がったと言ってもいい。
いや、たまたま今回のWUMAの先遣隊が無能だった可能性も考慮に入れておかなければならないが、『納得がいかない』という感情が爆発跡の煤のようにこびりついていた。
それとも、高度に発達した科学文明がもたらすものが緩やかな種族の衰退や文明の退廃を招いているという可能性を波動エンジンの開発エンジニアである世紀の大天才のひとりである私が認めたくないからなのか。
こうして超科学生命体を自称するWUMAに対して様々な策を弄して対抗できた理由も、科学が発達した分だけ叡智が後退していたからとでも言うのだろうか。
この有り様を見て、私の中で『23世紀の宇宙科学を21世紀の異なる進化と歴史を歩んだ地球にもたらすことが本当に人々のためになるのか』という疑念が深まっていったのを強く認識した。
いまだ地球圏統一国家が樹立されていない様々な問題を抱えているバラバラな世界において、私がやろうとしている技術革新がもたらすものは世界の繁栄か、破滅か――――――。
ともかく、侵入して早々に討伐対象のエルダークラス:ヒッポカンポスを絶対に壊れない唯一の出入り口を利用して排除する方法が極めて有効であることを確認することができたことは喜ぼう。
しかし、あまりにも想像と違いすぎた侵略者の本拠地は本当に清廉潔白な場所であり、賢者ケイローンが自分たちの在り方に疑問に思うのも無理はない世界となっていた。
だからこそ、宇宙の真理をこの場で 今一度 声に出して、自分を落ち着ける必要があった。
――――――新世界なんて来ない。ただ今まで通りの世界が続くだけ。
斎藤T「………………」
アグネスタキオン’「どうしたんだい、急に?」
斎藤T「別な言葉で言ってやろう」
斎藤T「神の国は目に見える形では来ないし、地獄の正体は人心そのものに見たり」
斎藤T「天国だの、極楽だの、楽園だのが説かれて何千年――――――、人々は未だに苦しみの中で古聖の教えを学んでは頷くばかりだ」
斎藤T「そうして藻掻き苦しみながら死んでいくのが世の常である一方で、確実に世界が素晴らしい方向に突き進んでいることを知らないんだ」
斎藤T「そのことを知るべきなんだ。連綿と続いてきた人の営みの歴史にこそ現実に起きた事象を超えたものが起き続けていることを」
――――――だから、ここですべきことは立ち止まることじゃない。
こうして私はWUMAに対する偏見と先入観をまた捨てることができた。
そう、宇宙移民である私にとっては こうした侵略者に対する警戒は職業病や宇宙時代における全人類の義務みたいなものだったのだが、
今回の侵略者であるWUMAはこれまで想定してきた
いやいや、そういう意味ではない。完全に無害な生物というわけではないのは他の種族の社会に紛れ込んで“成り代わり”をしようとする習性で明らかなのだが、
『では、侵略をしていない時のやつらの生活はいかなるものなのか』についてはこれまで考察が行き届いていなかったことでいろいろとWUMAのことを見誤っていたのだ。
そうなのだ。我々は得てして物事には多面性があることを忘れがちだ。属性やレッテルで単純化してしまいがちなのだ。誰だって公的な場と家庭とでは立居振舞がちがうように。
たとえば、アグネスタキオンというウマ娘を知らない一般人に『あいつは他人を実験台にする危険なウマ娘』としか伝えなかったら、どういった認識を持つだろうか?
つまりはそういうことなのだ――――――。
私が妹:ヒノオマシに彼女を紹介する時にそれだけしか言わなかったら、絶対にヒノオマシは私から彼女を遠ざけようと警戒心を剥き出しにして接していたことだろう。
当然だろう。私がなぜ彼女のような学内でもトップクラスに危険なウマ娘とつるんでいるか、その事情を最初に言わなかったら、あそこまでヒノオマシが彼女を信頼することもない。
そう、たしかに『あいつは他人を実験台にする危険なウマ娘』という事実は伝えたが、それ以上に『自分の夢を自分で叶えるか、誰かに託すために客観的なデータを集めている一生懸命なウマ娘』という事情をあの時に話していたのだ。
だから、そういった事前情報を踏まえた上で、学内での評判も丸っきり聞かないわけがないのに、妹:ヒノオマシは私の側に常に彼女がいることを現在でも容認しているのではないかと思っている。
――――――そう、自称:平和を愛する侵略者である超科学生命体“フウイヌム”にもある多面性を認めるのだ。全てはそこからなのだ。
ピピッピピッピピッ・・・カタン!
斎藤T「――――――入力完了。“潜航艇”はこれより四次元空間に突入後は整備用メンテナンスモード:自己解体フェイズに入る」
斎藤T「……終わったな。これで この世界にWUMAの魔の手は迫ることはないだろう。100%と言い切れないのが怖いところだが」
アグネスタキオン’「何だか拍子抜けだったね」
斎藤T「そう思うのは、我々が
斎藤T「自称:平和を愛する完全生命体であるやつらにとっては
斎藤T「だって、そうだろう? 対策なんてものは不完全な存在が必要とするのであって、自分たちを完全無欠の存在だと肯定しきっている連中にはそんなものは必要ないんだから」
斎藤T「だから、やつらの中では自分たちの領域が逆に侵略されることなんて想定されていないから、超科学生命体でありながら旧き良き時代を思わせるアナログな街並みが建ち並ぶわけなんだな」
斎藤T「つまり、やつらの懐にさえ飛び込むことができれば、こっちとしてもやりたい放題だったというわけだ」
斎藤T「いや、そもそも 擬態によって あらゆるセキュリティを無効化してくる先天的な侵略種族なんだから、
斎藤T「やつらは他の種族の社会に防御不可能な攻撃を仕掛けることができる一方で、自分たちも攻められたら弱い社会構造に陥っていたわけなんだな」
斎藤T「でも、逆に言えば、セキュリティがない社会構造ということは他人との境界線がない完全な群体になっているわけで、末端のジュニアクラスには名前すらないのがその証拠だ」
斎藤T「やつらは基本的には個体としての意識よりも群体としての意識の方が強い ある意味における
アグネスタキオン’「そうして連綿と他の世界を侵略することを習性にしていながら、自分たちが逆に侵略される恐れを抱かずに長年の繁栄と平和を謳歌していた報いを受けたか……」
斎藤T「ああ。やつらが非常に単純明快な進化形態による徹底した階級社会を築き上げているなら、同じように物事も極めてシンプルに捉えていることもわかってしまったな」
斎藤T「事前情報無しに侵略を開始しても問題がないように現地住民に擬態して一から情報収集していくやり方で侵略を 毎回 最適化しているから、事前調査やその情報共有の必要性すらない」
斎藤T「そんなわけだから、侵略を是とする自称:平和を愛する種族を疑いなく名乗れるわけだ」
斎藤T「だから、やつらは何も知らない。ただ使われるだけの駒だから想像ができなくて侵略による平和を押し付けてこれる」
アグネスタキオン’「そうだね。人間の価値観からすれば、それは本当の意味で社会性が発達しているとは言えないもので、さながら少年兵を育てているみたいで気味が悪い」
アグネスタキオン’「でも、今回はそんなふうに使い捨ての駒同然に人間の価値観からすれば渡しておかなければいけない最低限の情報や自衛の手段すらない状態だから――――――」
斎藤T「しかも、今回はやつらが侵略を次の段階に進めるために全員が出払っていたというタイミングだ」
斎藤T「おかげで、何の憂いもなく こうしてまんまとやつらの中枢に堂々と侵入して
斎藤T「――――――これが並行宇宙の地球を支配する超科学生命体への進化だと!? 笑わせるな!
斎藤T「攻めている時が一番守りが弱くなるとは言うが、ここまで無防備だとはな!」
斎藤T「それとも、『
斎藤T「ふざけるな! ふざけるなぁ!」
――――――お前たち“フウイヌム”にとって“ヤフー”が支配する世界が認められないように、私もお前たちの築き上げる世界を
アグネスタキオン’「……そろそろ行こうか、トレーナーくん」
斎藤T「ああ」
斎藤T「でも、本当にこれで良かったのか、ケイローン?」
――――――ああ。ここまでよくやってくれたよ、二人共。
斎藤T「……わかってる。この場でやつらの宇宙船を破壊しても、その航跡を追って増援が来る可能性を考えると、やつらの宇宙船がこの世界に存在した痕跡を完全に抹消しなくちゃならないんだ」
斎藤T「そして、四次元空間に突入した宇宙船が別世界に転移しないように四次元空間で消滅するのを誰かが確実に見届けなくちゃならない」
斎藤T「それでも、寿命が本当に残りわずかだとしても――――――、なにも、誰もいないところでひっそりと死ぬだなんて寂しいことじゃないか、ケイローン」
――――――悲しむことはない。元いた場所に帰るだけだよ。それに私の意志はきみたちに受け継がれている。
斎藤T「ケイローン……」
斎藤T「本当にありがとう、ケイローン。あなたがここまで導いてくれた」
アグネスタキオン’「あと1分で“潜航艇”はこの世界から跳躍していくね」
斎藤T「ああ」
斎藤T「テレパシーってのは便利なものだな。通信機がなくても、こうして飛び立っていく宇宙船の外にいながらでも通信できるんだから」
――――――でも、意志だけで通じ合えるのなら私たちが肉体を持って生まれてきた意味がない。肉体があるからこそできることがあるんだよ。
斎藤T「そうだな」
斎藤T「こうして自分とはちがう誰かの手を繋ぐことができるのも肉体があるからだな、ケイローン」
斎藤T「だから、しっかりと手を繋いでいくさ」
アグネスタキオン’「?」
斎藤T「もう間もなくだ。最後に言いたいことはあるか?」
――――――きみの妹によろしく。カブトムシとして生きるのも そう悪くはなかった。成虫に限るけどね。
斎藤T「そうだったな。こうなるだろうことを見越して、ケイローンにそっくりなコーカサスオオカブトの標本を用意するのは大変だったんだからな」
斎藤T「これでヒノオマシのカブトムシの観察日記も終わりだな」
斎藤T「――――――そうか、来年からはみんなが新しいことのために生きていくんだな」
斎藤T「でも、そんなのは誰にだって言えたことだけれども、ひとりひとりにとっては大事なことでもあるんだ」
――――――そう、わからないからこそ頑張れる。その努力こそが世界をより良くしていく。その積み重ねしかないんだ。
アグネスタキオン’「10秒前だよ、トレーナーくん」
斎藤T「ああ」
アグネスタキオン’「5」
アグネスタキオン’「4」
アグネスタキオン’「3」
アグネスタキオン’「2」
アグネスタキオン’「1」
斎藤T「ゼロ」
――――――さらば、友よ。時間と空間を超越した場所でまた会おう。
罠とか錠なんて何一つなかった。通常ならあって当然の鍵付きの扉などなく、風除けや遮光のための簾がたまにある程度で防犯性は皆無だった。
そして、やつらの情報端末の操作も地球人類なら絶対に驚くことにログインの必要すらなく、一見すると大量に乱雑に並べられているように見えるデータの海を越え、
今はカブトムシの賢者ケイローンや
指紋スキャンや網膜スキャンなんてものはないし、宇宙船を空間跳躍させる重要なシークエンスもいちいち安全確認なんてしないから、必要最低限の情報だけを入力した後はほぼ次をクリックするだけで済んでしまった。
極めつけは、並行宇宙へ空間跳躍する際に経由する四次元空間は防御障壁を展開しないと いかに超科学生命体の高度な科学力の結晶と言えども無事ではいられないのに、
計算上では防御障壁の限界を超えてしまう空間跳躍の設定をしても警告やフェイルセーフが働かないぐらいなのだ。こんなの、絶対ありえない安全設計である。
――――――これが犯罪ゼロの理想社会のあるべき姿なのは頭では理解できたのだが、どうしても脳が受け付けなかった。
やはり、やつらは根本的に地球人類とは異なる社会性や価値観を持つ異種族であり、
21世紀の地球がグローバリゼーションを推進していくことでグローカリゼーションという反動が起きたのと同様に、多文化共生社会の理想を謳うにも限度がある相手に思えてしまった。
いや、絶対に歩み寄ってはいけない関係なのだと確信してしまう。互いの不幸にならないように関わり合いを持つべきではない――――――。
あまりにも無垢なのだ。やつらの肌の色がそのことを言外に主張しているかのようにあまりにも白くて、未だに原始の時代に生きているかのような感覚すらしてくる。
それと比べると、我々 地球人類はいかに世間の俗悪に染まって真っ黒く染まった存在なのかを思い知らされてしまうような眩しすぎる理想郷がここにはあった。
そう、完全な白と黒ほどのちがいがやつらと我々の間にはあり、多文化共生を謳って交流を持ったら、まさしく灰色に染まった世界しか生まれないような気がするのだ。
グローバリゼーションによる多文化共生の反動の話もそうだが、宇宙移民が常々想定しているような異種族間交流における文化破壊や文化的自殺行為、そこからエスノセントリズムの悲劇が起こりかねない。
やはり、他者と上手に付き合っていくためには他者とのちがいを容認できるだけの共通点の多さが不可欠だが、この場合は何から何まで共通点を見出だせない――――――。
それぐらい危機感を覚えた上に、近代革命以降の自由民主化の時代を生きる人間として持ってはいけない思想すら抱いてしまう。
言うではないか。黒は何色にも染まらない。葬式に着る喪服や裁判官の服が黒なのは操を立てる意味合いからだ。
――――――一方、白糸は染められるままに何色にも変ずる、と。ウェディングドレスの白は『あなた色に染まります』という意思表示。
こうして百尋ノ滝の地下
正確にはこの場で破壊するのではなく、すでに本国へこの世界の並行宇宙座標を送信する秒読みの段階になっていたのを逆手に取って、どこでもない四次元空間に転移させることで この世界との繋がりを完全に断つのだ。
そして、本来の目的であった『裏切り者である賢者ケイローンの討伐に成功した』という偽報もセットで送信することになっており、実際にケイローンの命は果てるので嘘は言っていない。
それでいて、やつらは自分たちの完全さを疑うことがないため、同じように同胞の
これで奥多摩に割拠するエルダークラスの排除と、やつらの本格的な地球侵略を阻止することに成功したことになる。
――――――もうやつらは何もすることはできない。やつらの侵略計画はこれによって完全に頓挫したのである。
真の支配者と想定される“マザー”からの命令を受理して作戦を立てて指揮をする最上位のエルダークラスがいなければ下位の存在はいつまでも命令が更新されないことで立ち往生するしかなく、
最初に並行宇宙に侵入して橋頭堡を構築するための機能が満載の“潜航艇”を失った以上はもうどうすることもできないのだ。
一応、その機能の一部を写したものがこの秘密基地にあるのだが、それはこの秘密基地を管理運営するのに必要な機能でしかなく、別な場所に拠点を構築する際に宇宙船を移動させた時に備えたものでしかなかった。
特に、先遣隊の宇宙船である侵略の要となる“潜航艇”に搭載されている並行宇宙にも干渉できる空間跳躍技術の一切を降ろしていくことができず、基地から宇宙船との通信も同じ世界に存在している時に限る。
並行宇宙の壁を越えて本国との連絡をつける機能は“潜航艇”を介する他ないので、侵略活動の中枢となる宇宙船を失ってしまったら他所の世界を侵略することを生態とする侵略的外来種の本領を発揮することは永遠にないのだ。
また、奥多摩を隔離する仕掛けも“潜航艇”を親機として中心に発生させて子機となる装置を現地に設置して調整するものであるため、“潜航艇”が存在しなくなった以上は奥多摩が隔離される心配はなくなった。
――――――なので、ここからはWUMA討伐作戦からWUMA掃討作戦へと切り替わることになる。
やつらが築き上げた百尋ノ滝の
おそらく、先遣隊にとっては要となる機能の中枢を担う宇宙船がこの世界から存在しなくなった影響はすぐに出ており、その異常のために奥多摩に展開していた部隊が百尋ノ滝に引き上げてくるはずだ。
となれば、地上との出入り口が1つしかない上に最高位のエルダークラスでさえも抵抗できなかったのだから、すでに敗残兵となったやつらを大量に始末するための方法はすでに確立されている。
ここに宇宙船や重要設備を爆破するために用意した大量のC4爆弾があります。
しかし、宇宙船は四次元空間で消滅させることになったので大量に余ることになりました。
唯一の出入り口である百尋のエレベーターはC4爆弾でもビクともせず、エルダークラスのパワーで持ってしても軌道となるダクトを破ることができません。
――――――ゾンビサバイバルゲームが大好きなあなたなら、何が最適解か これでわかるはず。