ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第一次決戦Ⅶ 黄金に光り輝く新人トレーナー -終結-

――――――目標:12月31日までにWUMAを殲滅せよ!

 

 

終わったよ、みんな。とりあえずはWUMAの侵略はこれで解決できたと思っていいんじゃないかな。私はもう疲れた。

 

一夜にして多摩地域に割拠していたエルダークラス:ヒッポネイピアを討って、奥多摩のヒッポカンポスの軍団:111体全てを殲滅して、更には府中市のヒッポリュテーの軍団の残党:100体近くを百尋ノ滝で討った。

 

あとは、船橋市のヒッポクラテアの軍団をスーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)に絶対服従させるぐらいか。

 

そうそう、多摩地域のヒッポネイピアの軍団の残党に関しては、WUMAの四次元能力を封じることができるNINJAにまかせることにしたよ。

 

いや~、まさか21世紀の地球でNINJAの助けを得られることができたとは思わなかったよ。いたんだな、NINJAって本当に。感激だ。

 

私も四次元空間の感覚を記憶している“特異点”としてWUMAが使ってきた四次元能力を逆利用した時間跳躍でヒッポリュテーの軍団の残党を始末したけど、

 

WUMAの思考力を縛り上げるNINJAの忍法:金縛りの術がピンポイントに刺さって お得意の空間跳躍を封じられたWUMAの動揺を突いて次々と葬っていた。

 

本当に凄かった。WUMAの細い脚じゃ百尋ノ滝の辺りの不整地は不得意だったにしろ、100体近くがズラリと集まっていたことで仇になって身動きがとりづらかったにしろ、NINJAの驚異的な身体能力で飛び回って直刀で次々と首を刎ねていったのだから。

 

そこに自分たちが用意していた大量の神経ガスが流出したことで崩壊に歯止めがかからない――――――。

 

そのことで動揺した横嶋T’に擬態していたクーデター軍団の首魁だったシニアクラスが正体を現して空間跳躍を使った瞬間、私の時間跳躍が発動;全ての決着がついたというわけだ。

 

まさに未来と過去の存在の時空を超えたコラボレーション。予想もつかなかった天敵が2人も同時に現れたことでWUMAの命運はこれで潰えたというわけだ。

 

 

そして、あの覆面の男(NINJA)は“斬馬 剣禅(ざんば けんぜん)”と名乗っていた。まさに(WUMA)をも斬り捨てる剣の(極意)を得た男だった。

 

 

その斬馬 剣禅だが、やたらと『ヒノオマシを不幸にしたら殺す』と脅してくるので、ヒノオマシとはどういう関係かを聞き出そうとすると『察しろ』としか言ってこなかった。

 

覆面の下の素顔はわからないが、目元を見る限りは“斎藤 展望”と同じぐらいの20代男性の若くて鋭いものだったので いろんな可能性が思い浮かんだが、結局はよくわからないままだ。

 

また、本当はNINJAの存在を知った者は口封じするのが決まりだったのだが、この場で殺さない代わりにWUMAに関する情報を包み隠さず提供することで難を逃れることができた。

 

実際、ここで討ち取った奥多摩の軍団と府中市の軍団はちゃんと灰の山の数を数えても、まだまだ多摩地域の残党と船橋市の軍団が健在なのだ。

 

なので、船橋市の軍団は船橋トレセン学園の存続のためにもアグネスタキオン’(スターディオン)に絶対服従させるにしても、

 

多摩地域のエルダークラス:ヒッポネイピアを討つことはできたが、その配下となるシニアクラスの10部隊がどこにいるかなんて現時点でもわからないので、ここはNINJAの情報網にお願いする他なかった。

 

むしろ、WUMAに対抗できるだけの異能を持ったNINJA軍団が現代でも存在しているのなら、もう私が出る幕ではなくなったので、思わぬ味方の出現にホッと一安心である。

 

むしろ、なんで最初からWUMA退治をしていなかったのかを訊くと、NINJAもそんなに暇ではなく、普段からいろんな顔を持って兼業しているので、WUMAの存在は『警視庁』からの情報で知っていても動くに動けなかったらしい。

 

少なくとも、NINJA:斬馬 剣禅がWUMA退治に動いたのはなんと12月からであり、とりあえず第一発見が報じられたトレセン学園を監視することになり、

 

昨夜24日から怪しい集団がゾロゾロと奥多摩に向かっていくのを追跡したところ、百尋ノ滝に辿り着いてヒッポリュテーを失って独立を目論んだクーデター軍団と衝突することになったという。

 

本来ならばNINJAと言えども単身で集団とぶつかるのは愚の骨頂であったのだが、やつらが用意していた神経ガスを逆利用することで一網打尽にできる勝算を神経ガスにやられていた私が結果として引き出したことで加勢してくれたそうだ。

 

つまり、勝ち誇ってペラペラと大事な情報を喋りすぎた横嶋T’に擬態したシニアクラスの落ち度というわけだ。

 

 

しかし、斬馬 剣禅が本当に人間なのかどうかは怪しいところがあったのはここだけの秘密だ――――――。

 

 

朝日が差し込む中での 明らかに100人以上が乱戦するには不向きな地形の百尋ノ滝での死闘だったので、さすがのNINJAも気付かないうちに負傷していたのを私は見逃さなかった。

 

灰の山を数え終えてふと見るとNINJAの左手の薬指がなくなっており、私が看ようとすると慌てた様子で応急処置をし出したのだ。その慌て方と応急処置の仕方からして違和感があった。

 

また、NINJAがどれだけ人間離れした存在なのかは23世紀の宇宙時代でも語り継がれてはいたが、伝説上の存在なので吸血鬼(ヴァンパイア)並みに能力の振れ幅があるのも知っていた。

 

それでも、ヒトを凌駕する身体能力を有するウマ娘が本能的に恐怖するほどの怪人:ウマ女と真向勝負を仕掛けて生き残るだけの戦闘能力の高さはいったい何だと言うのか?

 

まあ、それを言ったら『突如として神経ガスを克服して()()()()()()()()()()()()()()の私の存在こそいったい何なんだ!?』という話だけど!

 

 


 

 

●2周目:12月25日の夕方

 

――――――府中市:トレセン学園/生徒会室

 

シンボリルドルフ「斎藤T! もう きみというやつは! こんなにも心配させて!」ギュッ

 

斎藤T「……“皇帝”陛下」 ――――――ローブに全身を包まれて車椅子の上で力無く項垂れている。

 

アグネスタキオン「……むぅ」 ――――――車椅子を押して介護している。

 

トウカイテイオー「……会長!?」ドキッ

 

シンボリルドルフ「もう無茶なんかしないでくれ」

 

シンボリルドルフ「きみには担当ウマ娘がいて、最愛の妹がいて、これからのきみの活躍を楽しみにしている私のようにきみのことを心配している人間がいるんだぞ?」

 

シンボリルドルフ「でも、本当によくやってくれたよ。ずっとずっと――――――」

 

シンボリルドルフ「きみは本当に私が探し求めていた新人トレーナーの一人だったよ」

 

斎藤T「……まだ全てが解決したというわけではありません。あくまでも、解決の目処が立ったというだけで、それを実行に移す必要があります」ボソボソ ――――――小声で喋るぐらいしかできないぐらいに消耗していた。

 

シンボリルドルフ「わかっている。報告書には目を通したよ」

 

シンボリルドルフ「しかし、ここに来てNINJAか……」

 

シンボリルドルフ「それに、船橋トレセン学園がやつらの巣窟になっているわけか……」

 

シンボリルドルフ「()()()()()()()()()()()()()()と考えるとゾッとするな……」

 

シンボリルドルフ「こうなってしまってはもうどうしようもないな……」

 

斎藤T「……はい。満点の正解なんてありえません、もう」ボソボソ

 

 

シンボリルドルフ「ありがとう。きみは世界を救った英雄――――――いや、救世主だよ。今日がクリスマスなだけに」フフッ

 

 

斎藤T「……お褒めいただき、光栄です」ニコー

 

トウカイテイオー「……か、会長」ジトー

 

トウカイテイオー「でも、本当に大丈夫、斎藤T? 毒ガスを食らったって聞いたけど平気なの?」

 

斎藤T「ああ。それに関しては――――――、アグネスタキオン。きみの研究が誰かを、私を、ひいては世界を救ってくれたよ」ボソボソ

 

斎藤T「だから、今回の奥多摩攻略戦の最大の功労者として報いてあげて欲しいんだ」ボソボソ

 

アグネスタキオン「え、そうかい……」

 

アグネスタキオン「私は別にきみが無事に帰ってきてくれただけでも十分だよ……」モジモジ・・・

 

 

シンボリルドルフ「それはよくないな、アグネスタキオン」

 

 

アグネスタキオン「……会長?」

 

シンボリルドルフ「アグネスタキオン、最初の『選抜戦』以来 全てのスカウトを断って ひとりでただひたすら待つことを選んで ようやく得られたきみだけの担当トレーナーなんだぞ」

 

シンボリルドルフ「きみはもう少し自分の感情を素直に表現できるようになった方がいいぞ」

 

アグネスタキオン「え」

 

トウカイテイオー「そうだよ。レースで勝つためには我慢することも必要だけど、我慢のし過ぎは身体に毒だし、何よりトレーナーに心配をかけちゃうからね」

 

トウカイテイオー「それに、きみが待ち望んだトレーナーは世界だって救えるんだから女の子の願いを叶えるぐらいなんてことないよ」

 

シンボリルドルフ「だから、これから始まる 過酷なレースの世界で送る青春を 目一杯 楽しんで欲しいんだ」

 

 

――――――私には()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

アグネスタキオン「会長……」

 

トウカイテイオー「さあ、遅咲きの大型新人くん。吾輩のような“無敗の二冠バ”を目指して励み給えよ」エッヘン

 

アグネスタキオン「テイオーくん……」

 

アグネスタキオン「なら、トレーナーくん――――――」

 

斎藤T「……ああ」

 

 

ナリタブライアン「会長! 斎藤Tが帰ってきたのは本当か!?」ガチャ

 

 

アグネスタキオン「………………」プクゥ

 

斎藤T「………………」

 

ナリタブライアン「ん?」

 

トウカイテイオー「タイミング悪すぎですよ、ブライアン先輩……」アチャー

 

シンボリルドルフ「ああ。せめて、ノックぐらいはして欲しかったな……」

 

ナリタブライアン「何を言っている?」

 

ナリタブライアン「それよりも、そこのローブを被っているのは斎藤Tか? そうなんだな!?」ガシッ

 

アグネスタキオン「あ、いや、ちょっと待ってくれ、ブライアンくん――――――」

 

ナリタブライアン「うおっ!? な、何だ、これはあああああああああ!?」

 

 

ピカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

 

 

奥多摩で神経ガスに冒された私を死地から救ってくれたのは、アグネスタキオン特製の肉体改造強壮剤であった。

 

この場合は普段遣いしているものではない特別製であり、まさしく最後の切り札となる諸刃の剣;一時的な強化(ドーピング)を邪道とするアグネスタキオンにとっては甚だ不本意な代物であった。

 

私があの場で直面した生命の危機が任意で筋肉発達を行える;新陳代謝を活性化させることで神経ガスへの免疫を獲得させたらしい。

 

実は、神経ガスは脳内の中枢神経や感覚神経に対する作用は弱く、運動神経を阻害するだけでしかないものなのだ。もちろん、それだけでも致命的な重体に陥るのは知っての通り。

 

そのため、急激な筋肉発達によって神経ガスと共有結合した分解できないアセチルコリンが排出され、結果としては少量の毒素を継続的に取り込んだことによって神経ガスに対する耐性を獲得するに至ったというわけである。

 

正確にはアセチルコリンを分解する酵素アセチルコリンエステラーゼと共有結合することで筋肉緩和を阻害させる神経ガスの成分に先んじて無効化する未知の化学反応が体内で起きているらしい。

 

要するに、神経ガスから酵素アセチルコリンエステラーゼを守る盾になる免疫が急激な新陳代謝によって誕生したようなのだ。

 

こう考えると、人間の進化や環境適応も WUMAほどではないにしろ 大したものではないか。

 

しかし、おそらくは今回の特別性の肉体改造強壮剤の効果だけじゃなく、世界最高峰の皇宮警察の血統と素質を継承している“斎藤 展望”の体質も関係しているんじゃないかと思っている。

 

あるいは、神経ガスがどういうものなのかをVRシミュレーターでの体験で把握している具体的なイメージが土壇場での免疫獲得のヒントにもなっていそうだ。

 

ともかく、急激な筋肉発達;新陳代謝を任意で行うことでデトックス効果を発揮して免疫獲得に繋がったのは紛れもなくアグネスタキオンが持たせてくれた肉体改造強壮剤のおかげであった。

 

なので、本当は堂々と姿を見せて思いっきりヨシヨシしてあげたい気分でもあったのだけれど、今回の特別製の肉体改造強壮剤の副作用も半端なものではなかった。

 

 

――――――何しろ、全身が黄金に光り輝くようになり、その眩しさのおかげで100体近くの怪人:ウマ女を捌けたぐらいなのだから。

 

 

ここでも怪人:ウマ女が草食動物の目であることで視野が広いのが災いして、ただでさえ朝の日差しが差し込む状況なのに、百尋ノ滝で黄金に光り輝く奇妙な生物の存在は嫌でも視界に入ってしまった。

 

今はかなり和らいだ方だが、全身がスポットライトになったかのような眩しさの驚愕は尋常ではなく、

 

光が物体に反射したものを視界に捉えることで物が見えるわけなので、私自身は意味不明な強烈な光を出している側なので問題なかったが、意味不明な光の存在に目を潰されたWUMAたちは身動きがとれずに次々と灰になっていくことになった。

 

もちろん、こちらとしてはリスクを冒して接近戦を仕掛けて怪人:ウマ女の急所である飛節や鼻面、喉笛を容赦なく打ち砕いていくので、相手も蹄の手に変化させて 敵わないまでも こちらの皮と肉を削ぎ落としくる。

 

しかし、新陳代謝の活性化によって多少の傷は瞬間的に治癒してしまうので光り輝く奇怪な存在の勢いは止まらず、バケモノの分際で想像を絶する意味不明な存在に襲われたことで恐慌状態に陥っていたぐらいだ。

 

私もあの時は完全に普通ではなく、神経ガスで死の淵に立たされて幽体離脱しかけていたことで、肉体を超越した次元で状況把握をして次々とバケモノに襲いかかる痛みを完全に忘れた狂戦士と化していた。

 

いや、ホント、クーデター軍団の親玉であるシニアクラス一人に率いられた100体近くのジュニアクラスの大群なんて 状況がとことん味方していたとしても 物の数ではなかった。

 

こちらは最初から遥かに格上のエルダークラスを倒すために総力を上げてきており、ただの高速移動でしかないジュニアクラスの空間跳躍なんて児戯に等しいぐらいに動きがのろく感じられてしまった。

 

そして、いわゆる一流のスポーツ選手が起こす奇跡:ゾーン体験とでも言うべき超集中状態に入っていたのだろう。

 

私は四次元空間での感覚を記憶する“特異点”であるが、自分から四次元能力を発動させるための機関(キックスターター)を内蔵していないので任意で時間跳躍を使うことができないが、

 

それでも“特異点”として意識は常人を超越したものがあるため、こうしてウマ娘よりも遥かに強大な怪人:ウマ女の大群を真正面から相手取って生き残ることができたのだろう。

 

そこから、その機に乗じて神経ガスを流出させて戦いの趨勢を決定づけたのがNINJA:斬馬 剣禅だったというわけで、この副作用も含めてアグネスタキオンの功績は絶大なものであった。

 

 

しかし、普段遣いしている肉体改造強壮剤でさえもその反動となる栄養補給と休養の請求が馬鹿にならないのに、全身が黄金に光り輝くほどの特別版は更にその上を行くものであった。

 

 

肉体改造強壮剤の一時強化(ドーピング)状態が切れると同時に神経ガスから全快してWUMAを鏖殺して回った不死身の肉体が音もなく崩れ落ちてしまった。

 

それなのに意識はこの場の全てを見渡せるぐらいにはっきりとしており、身体がまったく動かない状況にWUMAを次から次へと的確に葬り去ってきた冷徹な思考は一気に焦りの色に染まってしまった。

 

助太刀してくれたNINJA:斬馬 剣禅が忍法:口寄せの術で自分の身体を貸して自動書記をして筆談してくれなかったら、“斎藤 展望”の生命が完全に力尽きることで無情にも時が巻き戻って全てが徒労に終わってしまっていただろう。

 

いや、3周目に入るなら それはそれで 2周目よりもうまくやるつもりだし、元々3周目で決着をつける心積もりでもあったので、どっちでもよかった。それで冷静さを取り戻すことができた。

 

そこからは驚異的な跳躍力で千里を駆けるNINJAに背負われて川苔山を駆け下りていったことはわかるが、NINJAに守られてトレセン学園に帰ることができる安心感から今度こそ意識を失うことになった。

 

しかし、そこからはどういった経緯があったのかは不明だが、私は麻袋に入れられて私の帰りを待っている2人のアグネスタキオンの許に配達されていたそうである。

 

私が逃したアグネスタキオン’(スターディオン)も神経ガスにやられて安静になっていたが、私が昼前にトレセン学園に荷物として配達された頃には調子を取り戻していたようである。

 

 

 

よって、WUMAの残党は多摩地域と船橋市に残ってはいるものの、世界の命運を賭けた誰も知ることがない決戦:奥多摩攻略戦はここに終結することになったのである。

 

 

 

終わってみれば 嬉しい誤算が山のように積み重なった これ以上ない完全勝利であり、一番がWUMAが理想郷(ディストピア)の住人だったことが攻略の大きな足掛かりとなっていた。

 

そして、いきなり現れたNINJAに多摩地域をまかせて本当に大丈夫なのか気掛かりではあるが、エルダークラスを失った以上は組織的行動は不可能で手詰まりになっているのだから、いずれは完全に駆逐されるだろう。

 

一方で、1周目と同じく船橋市のヒッポクラテアの軍団をこちらの方でどうにかするしかないが、奥多摩攻略戦よりかはずっと気楽なものだった。

 

だが、エルダークラス:ヒッポリュテーを排除したことで統制から解放されたシニアクラスの一個体が擬態対象の人間の思想や人格に染まってクーデターを引き起こすこともわかり、

 

やつらの侵略の中枢となる“潜航艇”が失われた影響によって、船橋市のエルダークラス:ヒッポクラテアがどう動くかも気掛かりではあり、油断はできない。

 

しかし、今は黄金の肉体改造強壮剤の壮絶な反動でほぼ廃人同然の脱力状態がしばらく続くことになり、1周目と同じように療養を余儀なくされるだろうが、1周目と同じ運命ならば船橋市の解放も同じことになるはずだ。

 

もっとも、奇跡的に生還することはできても神経ガスによる化学反応不良の全身麻痺とはちがって全身筋肉痛の慰労困憊で身動きがとれず口を動かすだけで精一杯で、全身が光る副作用も徐々に効果を失いながらも継続中であるため、要介護状態となってしまっていた。

 

 

なので、今日が12月25日でトレセン学園の終業式を迎え、翌日からは冬休みとなるため、私は療養のために実家に送り返されることが決定した。

 

 

年末年始を“斎藤 展望”の家族と過ごすという使命があったので、これはこれで望み通りの展開になったとも言える。

 

しかし、徐々に感覚が肉体の器に再定着していくに連れて全身筋肉痛の苦しみが蘇り、“特異点”としての超常的な感覚が失われていく中、車椅子に乗せられてローブに包まれた私はふと窓の外の中央広場に目が行った。

 

すると、中央広場の噴水の三女神像が不思議なほどに輝いて見えたのだ。

 

今までとは少し様子がちがうが、また原因不明の発光現象が三女神像の噴水で起きており、そのことを車椅子を押しているアグネスタキオンに伝えようとしてもボソボソとしか発声することができず、車椅子が立てる音に掻き消されてしまう。

 

腕を持ち上げて指をさすことすらままならないまま、限られた視野に収まった発光現象を見つめていると、三女神像からの幻覚を再び目にすることになったのだ。

 

 

それは聖夜に沸き立つ街の上に雷光の稲光が降りると同時に、雷雲から上に伸びていく青い稲妻が成層圏へと迸り、視界はどんどん大気圏外へとスクロールしていく。

 

やがては熱圏でドーナツ状に広がる発光現象が起きたと思うと、そこから熱圏と成層圏の間の中間層で超巨大な赤い落雷のようなものが落ちるのが見えた。

 

しかし、その超巨大な赤い落雷は逆ピラミッド型に落ちたかと思えば、突如として有翼一角獣(アリコーン)の怪人:ウマ女の姿を形取った――――――?

 

何が何だかわからない幻覚だが、有翼一角獣の怪人:ウマ女のへその位置に当たる場所が中心となって、有翼一角獣の怪人:ウマ女は左上に人間の乙女、右下に有翼一角獣に分離したのだ。

 

これが何を意味するのか、私にはまるで意味がわからなかったが、どこか脳裏に引っ掛かるものがあった。

 

そうだ、左上に人間の乙女、右下に有翼一角獣が配置されている構図は――――――!

 

 

――――――それが私の次なる運命であることをこの時はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ありがとう。きみが“預言の子”であったことを嬉しく思うよ。きみこそが絶望の未来から宇宙を救う救世主なのだ。

 

 

――――――きみはこれから二人の先人たちの後を継いで 未来からの侵略と過去からの遺産に敢然と立ち向かう宿命にある。

 

 

――――――その最後の締め括りのために きみという存在はこの世界に遣わされたのだと三女神が教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴールドシップ「まいどあり~、お忍びの旦那。クリスマスプレゼントはできたてホヤホヤの状態で送り届けたぜ」

 

斬馬 剣禅「……よくやってくれた、ゴールドシップ」

 

ゴールドシップ「いいってことよ。アタシとアンタの仲だろう?」

 

斬馬 剣禅「……相変わらず調子がいいやつだな」

 

ゴールドシップ「そういうアンタも()()()()()()()よりは断然イイ男になっているぜ?」

 

斬馬 剣禅「………………」

 

ゴールドシップ「こうして改めて見ると目元とかはそっくりだぜ、モッチーによ」

 

斬馬 剣禅「……当然だろう」

 

ゴールドシップ「でも、アンタとモッチーはやっぱり別人だ」

 

ゴールドシップ「アンタもモッチーみたいにでっかい夢があれば、アタシがアンタの担当ウマ娘になってやってもよかったのにな」

 

ゴールドシップ「それとも、()()()()トレセン学園のトレーナーになってみるってのもアリだと思うぜ、アタシは」

 

ゴールドシップ「だって、今のアンタは存在自体が()()()()()()()()()()なんだからさ。面白すぎ」

 

ゴールドシップ「あ。いや、実際には()()()()になるのか、こいつは?」

 

斬馬 剣禅「……今となっては是非も無し。忘れてくれ」

 

 

斬馬 剣禅「そして、誰よりも“斎藤 展望”に相応しいのはあいつなのだから、俺としてはそれで満足だ」

 

 

斬馬 剣禅「……ヒノオマシを助けてやれなかった俺なんかに生きている価値なんてなかったんだから」

 

ゴールドシップ「……そうやってアンタは自分にも嘘をついて生きていくんだな」

 

斬馬 剣禅「……お前にヒノオマシの何がわかる?」

 

斬馬 剣禅「ヒノオマシはお前のような競走バとは比べ物にならない人類の宝だ。その宝を磨いて輝かせることができないような俺では傷つけるだけだ」

 

ゴールドシップ「まあ、アンタがそれでいいんなら、アタシから言うことは何もないぜ」

 

ゴールドシップ「じゃあな。また会おうぜ。今度は黄金の菓子を持参でな」

 

斬馬 剣禅「……二度と会うこともないだろう」

 

ゴールドシップ「とか何とか言って、本当はゴルシちゃんのかわいさに見惚れてたんでしょう?」キャハ!

 

斬馬 剣禅「……冗談はジョーダンだけにしろ」

 

ゴールドシップ「そうだな。そう言えば メリー・クリスマスの挨拶代わりのラリアットを極めてなかったぜ、アタシとしたことが」

 

斬馬 剣禅「さらばだ、戦友」シュッ

 

ゴールドシップ「ああ! 共に人々の平和を守ろう!」グッ

 

 

 

ゴールドシップ「……行っちまいやがったか、あの野郎」キリッ

 

ゴールドシップ「しっかし、モッチーは相変わらず病院とかと縁があるよな。今回も病院じゃないけどベッドから離れられない状態になって帰ってくるしさ」

 

ゴールドシップ「まあ、あれが“クリスマス・キャロットの予言”で言われていた救世主の正体だったわけか」

 

ゴールドシップ「まさか、本当にこのゴールドシップ様を差し置いて黄金に光り輝くだなんてな……」

 

ゴールドシップ「にしても、今年の“クリスマス・キャロットの予言”もびっくりするような内容だった」

 

ゴールドシップ「相変わらず、アタシのレーダーは受信しまくりだぜ」

 

 

――――――聖夜(クリスマス)に現れるキャロット・スプライト(人参型 超高層紅色型雷放電)はよ。

 

 

今年も聖夜に大型のレッドスプライトが観測されたことが太平洋側に住まう気象マニアの間で湧き立つことになった。

 

レッドスプライト(red sprite)とは雷雲から落ちる雷とは発生が異なる発光現象だが、超高層雷放電に付随して発光するといわれている中間圏発光現象の1つである。

 

名の由来はその色 (red)妖精 (sprite)のように発光時間:1秒以下のコマの中でひょっこり姿を現すことからであり、

 

スプライトの種類はその形状によって分類されており、日本においては太平洋沖では“キャロット”が、日本海側では“カラム状”及び“妖精型”が出やすいといわれている。

 

スプライトの発見はアマチュアの撮影によるものが最初だったように、そこまで高価ではないビデオカメラで撮影できることもあって、学生の間でも非常に盛んに観測できるアマチュア好みの気象現象として親しまれていた。

 

とにかく、一度見たら圧倒される雷雲の更に上の高度20–100kmで観測できる超巨大な発光現象がレッドスプライトの魅力であり、その発生メカニズムがわからないこそレッドスプライトの名の由来になった具象性の神秘性が引き立つ。

 

世界的に見てニンジンが特に大好きな日本のウマ娘なら、キャロット・スプライト(ニンジンの妖精)の名の響きを聞いて興味を引かれないわけがないのだ。小学生の自由研究のテーマとしても人気であった。

 

そして、気象マニアの熱が高じて このレッドスプライトから発する電波から何かを受け取ろうとして 人知れずオカルティストたちが続々と生まれていたのが21世紀の異なる進化と歴史を歩んだ地球でもあった。

 

そのため、このゴールドシップという奇天烈なウマ娘も興味を示さないわけがなく、今年もレッドスプライトの観測のためにトレセン学園にビデオカメラを四方八方に仕掛けて待ちわびていたわけなのだ、奥多摩で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トウカイテイオー’「ボクはあんな……、あんなバケモノなんかじゃないやい……」

 

トウカイテイオー’「でも、それじゃあボクはいったい何なの!? ボクはいったいどうしたらいいの!?」

 

トウカイテイオー’「トレーナー! カイチョー! みんな……!」

 

トウカイテイオー’「誰か、助けて……。誰か、教えてよ……」

 

トウカイテイオー’「――――――ボクはいったい誰なの?」

 

 

 

――――――これにて序章(チュートリアル)は終わり。黄金に光り輝く新人トレーナー“斎藤 展望”のヒトとウマ娘が共存する21世紀の地球をめぐる冒険譚が幕を開けることになる。

 

 

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