ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第3話   先輩の想い人は天才トレーナー

-西暦20XX年08月10日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

間もなく盂蘭盆会となり、全寮制のトレセン学園が静かになる。

 

お盆休みで帰省するウマ娘も多いのだが、勝利を掴むまでは故郷には帰らない不退転の決意を固めているウマ娘も少なくなかった。

 

私は先輩からお暇をいただくことになったが、つい先日 唯一の肉親である妹:ヒノオマシに退院報告してきたばかりなので、家に帰るつもりはなかった。

 

むしろ、このお盆休みの間に妹と約束した『宇宙船を創って星の海を渡る』という壮大な夢の実現のための準備に追われることになるのだ。

 

そう、波動エンジンの実現に向けて、効率よく賞金を稼ぐためにウマ娘レースに関する知識とノウハウを徹底的に吸収するのだ。

 

幸い、今年の年の瀬に開催される新レース『URAファイナルズ』の栄えある初代チャンピオンの座を目指して猛者たちが残り続けているのだ。

 

私は皇宮警察であった両親の遺品や必要な機材を寮に搬入して、先輩から譲り受けた研究資料を読み漁ることになった。

 

一方で、トレセン学園の生徒会もお盆休み間際の追い込みに入っており、副生徒会長がもうひとりの副生徒会長を探し回っている場面に出くわすことになった。

 

その際、斎藤 展望を一目見た“女帝”の眼差しは冷気を放っており、それに倣って斎藤 展望を見る周囲の目がきつくなっていた。

 

口々に斎藤 展望のことを“あれが噂の恥知らず”“来て早々ウマ娘に撥ねられた男”“勝ち馬にこだわる守銭奴”“桐生院家に擦り寄る太鼓持ち”などと罵る声も聞こえてきたが、今更 男の過去の行いを変えることなどできやしない。

 

 

――――――地球時代から宇宙時代へと移り変わっても人の営みは何ら変わることはない。

 

 

私も波動エンジンの開発エンジニアとして人類最高峰の頭脳を持っていることを妬まれていたことだし、

 

得てして、本物は嫉妬している時間があったら自己研鑽に精を出すものである。

 

そう、この状況の中で悠然と己に課せられたタスクをこなしている本物はすぐに見つかった。

 

それは先輩の同期となる ある意味において私と同じ“エンジニア”と呼べる天才トレーナーと”サイボーグ”と噂されるウマ娘の二人組であったのだ。

 

 


 

 

――――――カフェテリアのテラス

 

ミーンミンミンミーン!

 

――――――

ミホノブルボン「マスター」

 

才羽T「いい調子だぞ、ブルボン」

――――――

 

斎藤T「あれが先輩の同期の無名に過ぎなかった天才トレーナーと担当ウマ娘か……」ピッ ――――――トレセン学園各所の監視カメラの映像

 

斎藤T「元々はトレセン学園に来る前からある程度の実績を残していたミホノブルボンではあったが、」

 

斎藤T「彼女の適性は【短距離(スプリンター)】、子供の頃からの夢であり意志であった三冠バになるには【遠距離(ステイヤー)】の適性が不可欠――――――」

 

斎藤T「そのため、自身の夢に固執するウマ娘と方針の合わない前トレーナーは喧嘩別れに近い形で契約解除となり、」

 

斎藤T「更に、前トレーナー説得のために行った長距離走を走りきれなかったことにより、長距離に対するトラウマも背負ってしまう」

 

斎藤T「すでに夢破れたり。誰が見てもミホノブルボンは再起不能にまで追い込まれた――――――」

 

斎藤T「しかし、捨てる神あれば拾う神あり、そこに手を差し伸べた新人トレーナーが現れ、彼女の逆転劇が始まることになる――――――」

 

 

――――――結果、ミホノブルボンはなんと去年のクラシック級で『皐月賞』『日本ダービー』『菊花賞』全てを制覇して三冠バの栄冠を掴みとっているのだ。

 

 

斎藤T「それを導いたのがミホノブルボンが初めての担当となる新人トレーナー……」

 

斎藤T「まさしく天才と言わざるを得ないな」

 

斎藤T「宇宙船エンジニアの私が賭けるとしたら、もう彼しかありえないな」

 

斎藤T「たぶん、『URAファイナルズ』の前に控えている『ジャパンカップ』『有馬記念』の優勝も狙って、その勢いで『URAファイナルズ』で有終の美を飾るってところか」

 

斎藤T「う~ん、適性は【短距離】だけど、【マイル】でも【中距離】でも勝ってるし、【遠距離】も克服しているから、」

 

斎藤T「先輩のハッピーミークと同じぐらい幅の広い走り方ができるみたいだな」バキッ ――――――割り箸を割る。

 

斎藤T「けど、一番の武器はドン底から這い上がってクラシック三冠バにまでなった不屈の精神か」クルクル ――――――透明な碗につゆとわさびをかき混ぜる。

 

斎藤T「そりゃあ、世紀の逆転劇にファンが多いわけだな」カチッ ――――――スライダー式ローリング流しそうめん機の電源を入れる。

 

 

斎藤T「一応、私はここにいる目的を得ることができたけれど、私にそこまでウマ娘に勝たせたいという思いがこもるのだろうか?」ズズー! ――――――スライダー式ローリング流しそうめんを啜る!

 

 

斎藤T「あーあ、斎藤 展望の両親の遺品を持ち込めば少しでもやる気に繋がるかと思ったけど、斎藤 展望の記憶の欠片なんて何も思い浮かんでこない!」ズズー!

 

斎藤T「まあいい。運命の出会い――――――まさしく『馬が合う』相手に恵まれるかもわからないのだし」ズズー!

 

斎藤T「ん?」チラッ

 

ゴールドシップ「ふふ~ん♪」ズズー!

 

斎藤T「………………誰だ、コイツ?」ズズー!

 

 

私が桐生院先輩がいつも話題に上げる天才トレーナーと不屈の三冠バのウマ娘の訓練の様子をトレセン学園の監視所のカメラと繋げて観察しながら、

 

斎藤 展望の実家にあったパーティーグッズであるスライダー式ローリング流しそうめん機を組み立てて、流しそうめんを一人啜って人気のないテラスで納涼していると、

 

いつの間にか 見知らぬウマ娘が食堂の碗と箸を持ってきて、私が用意した つゆ、わさび、ごま、きざみのり、てんかす、そうめん、各種天ぷらを勝手に胃袋に収めていった。

 

しかし、私は大恩ある先輩:桐生院 葵が心を寄せている驚異の天才:才羽 来斗の練習風景を見逃さないようにそうめんを啜りながらディスプレイに集中する他なかった。

 

結果、私は少なくとも2人前のそうめんセットの半分の半分しか食べることができず、

 

終いには見知らぬウマ娘は流しそうめん機にプチトマトとかイチゴ、固形チョコなんかを流し始めた。

 

それが勝手に平らげたそうめんセットのお代か。流しているのがゴディバの高級チョコレートなのが非常に腹立たしい。完全におちょくられていた。

 

ちなみに、この世界のゴディバチョコのロゴについてなのだが、ゴディバ夫人が馬ではなく牛に乗せられていた。

 

 

ゴールドシップ「ごっそさん!」ダダッ!

 

斎藤T「…………後で憶えていろよ、イタズラ者め」ハア

 

斎藤T「あーあ、夏場だからゴディバチョコが溶けちゃう! でも、ゴディバチョコが流しそうめん機に流されているのはもっと嫌だ!」パクパク・・・

 

斎藤T「とりあえず、流しそうめん機から碗に移しておけば、少しはマシな見た目になるか?」チャポン・・・

 

斎藤T「さて――――――」

 

 

アグネスタキオン「いや~、まいったまいった。毎度この時期になるとカフェテリアが閉まるのが早くて困るよ……」

 

 

斎藤T「……あの、そこの方」

 

アグネスタキオン「うん? なんだい?」

 

アグネスタキオン「こっちは研究に夢中すぎて 丸1日 何も食べていないんだ……」

 

アグネスタキオン「それなのに、カフェテリアが閉まっているときた――――――」

 

斎藤T「あの、ゴディバチョコです。よろしければ、どうぞ。何ならプチトマトやイチゴなんかと一緒に」

 

斎藤T「あ、喉も渇いてますよね。そうめんのつゆを割るのに使う水も余ってますのでどうぞ」

 

アグネスタキオン「おお、この際 贅沢は言ってられないか。ありがたくいただくとするよ」

 

 

ミーンミンミンミーン!

 

 

斎藤T「暑いですね……」ペロッ

 

アグネスタキオン「ああ、まったくだよ。最適な環境を調えるために空調設備は24時間運転し続けなければならないというのに、ラボの電力を止められてしまったよ」ハムッ

 

斎藤T「お盆休みの間は最低限の施設しか利用できなくなるって掲示されてましたよね」

 

アグネスタキオン「まったく、せっかくうるさい連中がいなくなって静かな環境で研究に打ち込めると思えたのに、空調や食事のことを考えると やんなってしまうよ」

 

斎藤T「洗濯や入浴もしてくださいよ。虫が湧きます。何日 着替えてないんです、その格好? 今のあなた自身が汚染源ですよ?」

 

アグネスタキオン「わかったわかった。大変面倒だが、今回の実験はここらで一区切りとしよう」

 

アグネスタキオン「そして、感謝するよ、見知らぬトレーナーくん」

 

斎藤T「?」

 

アグネスタキオン「流しそうめん機か。構造自体は非常に単純ではあるが、最近の流しそうめん機はこれほどの進化を遂げていたなんてね」

 

アグネスタキオン「ふふふ! これは新しい実験のアイデアが閃いたかもしれない!」

 

 

スタスタスタ・・・

 

 

斎藤T「トレセン学園にもあんな理科系のウマ娘がいるんだな」

 

斎藤T「何だろう? 実験とか言ってたけど、薬品臭かったから化学者なのか?」

 

斎藤T「となると、栄養ドリンクとか傷薬の開発でもやっているのかな? そういう部門があるのかな? あとで訊いてみるか」

 

斎藤T「じゃあ、ごちそうさまでした。見知らぬウマ娘たちに感謝――――――」

 

 

ナリタブライアン「おい、お前。この辺にアグネスタキオンが来なかったか?」

 

 

斎藤T「……どんなウマ娘です、副生徒会長?」

 

ナリタブライアン「いつも部活棟の実験室に籠もって 馬鹿みたいに電気代を浪費している 頭のおかしなウマ娘だよ」

 

斎藤T「それなら何日も同じ格好で薬品の臭いが立ち込める理科系のウマ娘はあっちの方に」

 

斎藤T「それと、電力供給がなくなって実験室にいられなくなったから、帰るみたいですよ」

 

ナリタブライアン「そうか。ようやく出てきたか……」

 

ナリタブライアン「毎度のことながら 注意しに行かされる こちらの身にもなれ……」

 

ナリタブライアン「情報、感謝する」

 

斎藤T「どういたしまして」

 

ナリタブライアン「………………?」

 

斎藤T「どうかしましたか、副生徒会長?」

 

ナリタブライアン「いや、大したことじゃないんだが――――――、」

 

 

ナリタブライアン「こんなところで一人で流しそうめんなんてして虚しくないか?」

 

 

斎藤T「これは意外ですね。てっきり生徒会の皆さんからは嫌われているものだと」

 

ナリタブライアン「なに――――――?」

 

ナリタブライアン「……そうか、お前が生徒会長が言っていた ウマ娘に撥ねられて3ヶ月入院の自業自得の新人トレーナーか」

 

ナリタブライアン「なら、そうやって一人寂しくしているのも自分が蒔いた種なのだから、さっさとトレーナーバッジを外して ここを去るんだな」

 

ナリタブライアン「ここにはお前の金儲けの道具になるウマ娘は一人もいない」

 

斎藤T「肝に銘じておきます」

 

ナリタブライアン「…………聞いた印象とは随分とちがうな」ボソッ

 

 

スタスタスタ・・・

 

 

斎藤T「ナリタブライアン――――――、最近の三冠ウマ娘に名を連ねる最強のウマ娘の一人か」

 

斎藤T「どうやら私はお眼鏡にかなわなかったようだね」

 

斎藤T「さて、片付けるか――――――」

 

 

ミホノブルボン「前方のテラスに未確認物体を発見。マスター、あれは何ですか?」

 

才羽T「あれって、もしかして流しそうめんじゃないか?」

 

 

斎藤T「お……」

 

才羽T「あ、すみません」

 

斎藤T「いえ……」

 

ミホノブルボン「………………」ジー

 

斎藤T「もしよろしければ、夕方 一緒に流しそうめんをしませんか、才羽T?」

 

斎藤T「初めての担当ウマ娘を三冠バに導いた天才トレーナーのアドバイスをぜひともください」

 

才羽T「そういうことなら、お安い御用で」

 

 

――――――盂蘭盆会を前に不思議な縁が結ばれていった。

 

 




●プロフィール(20XX年当時) 
名前:才羽 来斗(さいば らいと)
年齢:20代前半
所属:トレセン学園トレーナー 3年目
血統:父親(ヒト) / 母親(ヒト)

誕生日:04月11日
身長:174cm 
体重:トレセン学園のトレーナーとしてはそれなりの筋肉量
体格:普通の日本男子に見せかけて細マッチョ

好きなもの:天の道を行き 総てを司る男、太陽のような笑顔
嫌いなもの:子供の願いを踏み躙る未来の現実、曇った表情と泣き顔
得意なこと:不断の努力、失敗なんてない人生
苦手なこと:間違っていることに頷くこと
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