ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第1部 GIII:翼覆嫗煦のチーム<アルフェラッツ>
第0話   過去と現在と未来に捧ぐ新人トレーナー


-西暦20XY年01月15日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

世界の命運が懸かった年末年始が人知れず終わりを告げ、束の間の安息の中で三保の松原で富士山と一緒にご来光を拝んだのが2週間前となる。

 

そうして“斎藤 展望”として骨を埋める覚悟を決めて府中市に戻った後は、表向きはトレセン学園のトレーナーをしながら、裏でひたすら奥多摩攻略戦の戦後処理に明け暮れていた。

 

WUMAの本拠地:百尋ノ滝の秘密基地の掌握も重要であり、並行宇宙の地球を支配した超科学生命体のテクノロジーの解明も急務であり、技術者として一番に楽しみな時間でもあった。

 

そのため、スーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)の時間跳躍能力は一度行ったことがある場所なら空間的な繋がりを完全に無視して一瞬で移動できるので、

 

実際には年明けからは府中市の中央トレセン学園よりも奥多摩の川苔山:百尋ノ滝を拠点に活動するようになっていた。

 

このとおり、WUMA殲滅作戦は本拠地である奥多摩を完全攻略したことによって終了したが、

 

実際にはWUMAの地球侵略を阻止したことでWUMAの戦略目標の達成が不可能になるように導いたことで、次の段階となるWUMA掃討作戦に切り替わっただけで、多摩地域に割拠していたエルダークラス:ヒッポネイピアの軍団の残党が健在であった。

 

また、WUMAの残党である船橋トレセン学園に巣食っていたエルダークラス:ヒッポクラテアの軍団をまるごとエルダークラスを超越したスーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)に絶対服従させたはいいが、

 

船橋トレセン学園の運営に関わる重要ポストが尽くWUMAによって“成り代わり”がなされたことにより、WUMAの存在は闇から闇へと葬るべきだが、表向きは無辜の民に化けているバケモノの排除は極めて難しい判断が要求されていた。

 

WUMAが化けた職員を更迭して船橋トレセン学園の運営の入れ替えを行ってから始末するのが穏当な判断なのだが、それにはとにかく時間がかかるし、待っている間に面従腹背の裏で出し抜かれる可能性が無きにしもあらずなので油断大敵であった。

 

いっそのこと、爆弾テロで船橋トレセン学園を壊滅させてスッキリさせるのが人類のためだと思うこともあるのだが、

 

船橋トレセン学園(=船橋競バ場)の近隣が『皐月賞』『有馬記念』で賑わう中山競バ場なので間接的に中央トレセン学園の『トゥインクル・シリーズ』への悪影響が懸念された。

 

当然ながら、国家権力である日本の警察;特に東京都を管轄とする『警視庁』との協力も警視庁警備部の藤原さんを通して要請しているのだが、

 

ここに来て完全に“斎藤 展望”は『警視庁』から目の敵にされたらしく、WUMAの案件に関わることで次から次へとキャリア組がエリート街道から脱落する現状に恐れ慄いたようだ。

 

現場を知らない人間からしても、私が一人で集めてくるWUMAの情報というのはあまりにも現実離れして胡散臭いものらしく、

 

WUMAの脅威を書類で理解できない連中が『警視庁』で幅を利かせることになって、年明けからのWUMA対策班の動きは目に見えて悪くなった。

 

せっかく転がり込んできた地位を失いたくないがために、見て見ぬ振りをして知らぬ存ぜぬで押し通したいというのがWUMA事件以降の『警視庁』の幹部連中の正直な気持ちということだ。

 

なので、もう警察;特に『警視庁』には期待しない。もっとも、最初のWUMA事件となった中央トレセン学園学生寮不法侵入事件の対応の悪さから最初から信用なんかしてなかったが。

 

そういうわけで、私は船橋トレセン学園に巣食っていたヒッポクラテアの軍団の存在は警察には教えてないし、WUMAの本拠地である百尋ノ滝の秘密基地のことだって教えていない。

 

WUMA討伐作戦:奥多摩攻略戦で得られた情報で『警視庁』に与えて対応して欲しいのは、とにかく多摩地域の潜伏しているヒッポネイピアの軍団の残党であり、

 

1周目で船橋トレセン学園に巣食うヒッポクラテアの軍団で実験して得られたデータを基にして摘発を地道にやってもらう他なかった。

 

それはそれとして、斎藤 展望がやり残したことであるトレセン学園のトレーナーをやりながら、私自身の『宇宙船を創って星の海を渡る』という夢のために忙しない日々を送っていたのだった。

 

 


 

――――――トレセン学園/元 岡田Tのトレーナー室

 

斎藤T「さて、これで百尋ノ滝との往復ができるようになったか?」 ――――――ユニットシャワールームに偽装した装置を見やる。

 

アグネスタキオン「トレーナーくん、私は未だに納得がいかないんだが、どうしても部室を引き払わなくちゃいけないのかい?」

 

斎藤T「ああ。6月から新バ戦(メイクデビュー)してクラシック戦線(ロード)を走り通すためには完璧なスキャンダル対策が必須だ」

 

斎藤T「だから、実験がしたかったら百尋ノ滝の秘密基地(セーフハウス)でこれからはやることだ」

 

斎藤T「それに、肉体改造強壮剤をはじめとする薬物濫用に対する監視もつけてアンチ・ドーピングは徹底する」

 

斎藤T「そうでもしなければ、お前はすでに中央トレセン学園での悪名が知れ渡っているのだから、悪徳記者に素っ破抜かれて出走権の剥奪やURAの登録抹消も有り得る。勝ちに行くなら潔白を証明できるようにしろ」

 

斎藤T「だから、これでもう他人で実験する前に自分で新薬を試すこともできなくなる――――――」

 

斎藤T「それに今までは“皇帝”シンボリルドルフが部員1名の化学部の存在を守ってくれていたのだから、来年度からはどうなるかはわからないんだ。副会長:エアグルーヴが律儀に守ってくれるとは思えない」

 

アグネスタキオン「……そうかい」

 

アグネスタキオン「で、本当に完成したのかい?」

 

 

――――――瞬間物質移送器とやらは?

 

 

斎藤T「どうやら成功したみたいだぞ。試料として移送した岡持ちが送り返されたな」

 

アグネスタキオン「おお」 ――――――ユニットシャワールーム内に複数の岡持ちが現れた!

 

斎藤T「中身を確認してくれ」

 

アグネスタキオン「ああ」ガチャ

 

アグネスタキオン「ふぅン。これがかの有名な“シュレディンガーの猫”というやつかい?」

 

斎藤T「いや、モルモットと金魚とサボテンとラーメンと蚊取り線香だろ? 移送実験のためにホームセンターで買ったやつだ」

 

アグネスタキオン「見たところ、異常はないようだね」

 

斎藤T「そうか。後は自動設定にして耐久試験を24時間行わせるだけだ。本当は720時間はやりたいところだけど」

 

斎藤T「これが成功すれば、ポータルを設置して任意のポータルに一瞬で移動することができるようになり、流通革命が起こる――――――」

 

アグネスタキオン「これはいったいどういう原理なんだい? きみは私にこれを使って学園と往復しろと言うのだろう?」

 

斎藤T「結論から言うと、こいつは物質転送装置じゃない。物質を量子レベルにまで分解して転送ビーム化してエネルギー波として運んで目的地で再物質化するみたいな万能なものじゃない」

 

斎藤T「この場合の『転送』っていうのは情報工学用語で、情報やデータを信号として一方の装置から他の装置へ移動させ、形式を変えずにそのまま移動させることを意味する」

 

斎藤T「だから、形式を変えて情報やデータを移動する場合は『伝送』と言って、物質が意図せず伝送されてしまったら『元の物質が別の物質に再構築される』という事故が起きたということになる」

 

斎藤T「ここまで物質転送装置で想定できるリスクとして理解できるな?」

 

アグネスタキオン「ああ。だから、本当に使って大丈夫なものなのか不安なんだが」

 

斎藤T「それに対して、これはあくまでも移送器。運びたいものを量子化するのではなく、運ぶための経路の方を量子化して転送空間を構築して輸送距離を極限まで短縮させるものなんだ」

 

斎藤T「だから、まずはポータル同士を結ぶ経路がないと使えないし、物質を転送ビーム化した方が重量やコストの面で優れていると考えられるから、この移送器は転送装置と比べると下等なものと言える」

 

斎藤T「けど、物質が分解されずに別のポータルに送り届けられるわけだから、貨客の安全面には関しては安心できるだろう?」

 

アグネスタキオン「なるほど。そう言われると『転送』ではなく『移送』だから安心できるというわけだね」

 

斎藤T「まあ、移送中に物質が転送空間で流出する危険性が付いて回るけど、それはいかなる距離の輸送においても避けられない問題だから、圧倒的な距離と時間の短縮の利点に比べたら些細な問題だろう?」

 

アグネスタキオン「ふぅン。けど、ここはトレセン学園の施設内なのに、どうやって川苔山の地下深くにある秘密基地までその経路を結ぶんだい?」

 

 

斎藤T「いい質問だ。ここからが並行宇宙の地球から侵略しに来たWUMAが誇る空間跳躍技術の真骨頂だ」

 

 

斎藤T「そもそも、やつらは橋頭堡を確保するために先遣隊には必ず超科学生命体の技術の結晶である潜航艇を使う必要がある」

 

斎藤T「そして、潜航艇によって地下深くに築かれた秘密基地には後続部隊を呼び寄せるために必要な港湾施設と並行宇宙座標を表示する標識が設置されるのは容易に想像がつく」

 

斎藤T「更に、やつらは去年のクリスマスには奥多摩を完全に隔離するという地球侵略の次の段階のために、境界線となる場所に子機を設置して侵入者が入ってこないように監視するために奥多摩の全戦力を展開していた」

 

斎藤T「その遠隔操作可能な子機を回収して原理を解析した結果、やつらは時間跳躍とまではいかなくても実質的に空間跳躍能力の上位ともなる空間跳躍技術を確立していたことが明らかになった」

 

斎藤T「この瞬間物質移送器はその子機に内蔵されていた核心技術を移し替えた簡単な試作品だ」

 

アグネスタキオン「――――――きみさ、()()()()()()ねぇ?」

 

アグネスタキオン「それで、まだ肝腎な答えをもらっていないけど?」

 

斎藤T「ああ、そうだったな」

 

斎藤T「結論から言えば、あらゆる環境や状況を想定した侵略兵器に使われている技術だ。それは必然として決して環境や状況に左右されないようにポータルとポータルを結ぶ転送空間を築くものでなければならない」

 

斎藤T「それはすなわち四次元的な答えだった」

 

アグネスタキオン「????」

 

斎藤T「ここにいつもの空間跳躍と時間跳躍の例えに使う35ミリフィルムがあるだろう」

 

斎藤T「今回の空間跳躍能力の上位ともなる空間跳躍技術というのは時間跳躍しているわけじゃないんだけど、WUMAが生身でやる空間跳躍能力を超えたものとなる」

 

斎藤T「つまり、この35ミリフィルムにこんなふうに台紙を重ねたみたいな感じに、フィルムの外側である虚空:四次元空間に食み出しながらフィルムに張り付いている――――――裏世界に通じたトンネルでポータルとポータルを一直線に結ぶものとなっているんだ」

 

アグネスタキオン「…………??」

 

アグネスタキオン「――――――!!」

 

アグネスタキオン「ふぅン。わかったわかった。だいたい理解できたよ」

 

アグネスタキオン「そうか。トンネルか。たしかに物質世界である三次元世界ではない四次元空間に()()()()()()()を通せば何の障害物もない理想的な直線路になるね」

 

アグネスタキオン「そこからはWUMAお得意の空間跳躍能力で直線距離を極限まで短縮させるということかい」

 

斎藤T「そういうことだ。従来の空間跳躍能力の補助として空間跳躍技術が成立したと見ていいだろう」

 

斎藤T「だから、この偽装したユニットシャワールームには空間跳躍をするために必要な最初の加速のために少し強力なバキュームが内蔵されている」

 

アグネスタキオン「バキューム程度の吸引力が加速になるのかい?」

 

斎藤T「なる。けど、本当は必要ない。地球上で使うのだったら 元々 あらゆる物体に重力がかかっているから、バキュームを取り付ける必要はない」

 

斎藤T「ただ、この移送器が設置されている場所が傾いている場合や寝かせた状態でも問題なく作動するようにバキュームを搭載している。無重力空間での使用を念頭に入れている」

 

斎藤T「他にも、真空状態を作るためや物質を吸着して固定させるためなどあり、ユニットシャワールームとして使用した後のルーム内の乾燥にも使えるし、同時に物干しスペースにも活用できるぞ」

 

斎藤T「ちなみに、シャワールームとしての機能はいつだったかお前にも実用化のテストを手伝ってもらった完全循環型洗面台(シャンプーボウル)の構造が応用されているから、タンクに必要な分の水を入れた後はフィルターが完全に汚染されるまでは何度でも浄化水を使い回すことができるぞ」

 

斎藤T「惜しむらくは、発電機までは内蔵できなかった――――――この時代の発電機の設計の古臭さには本当にイライラさせられる」

 

アグネスタキオン「そうかいそうかい。なんだかんだ言って ついにユニットシャワールームの実用化に漕ぎ着けたわけか」

 

アグネスタキオン「これでシャワー室にいちいち行く必要もなくなったね」

 

斎藤T「……まあ、そうなんだが。本当はお前の出不精を悪化させないようにしたかったんだが、部室がなくなるんだから しかたがない」

 

 

斎藤T「ユニットシャワールームとしての機能を説明しよう。この台座になる黒い部分だな」

 

 

斎藤T「このユニットシャワールームは完全循環型洗面台(シャンプーボウル)の構造をそのまま適応しただけのものだから、原理については 今更 説明することもないだろう」

 

斎藤T「ただ、ユニットシャワールームだからな。洗面台(シャンプーボウル)よりあらゆる意味で大きいぞ」

 

斎藤T「接地面積や重量、内蔵タンクやフィルター、湯沸かし器の容量も大きいから、使用電力や維持コストはこれだけでも3倍以上にはなるだろう」

 

斎藤T「また、立ったままシャワーを浴びるだけならもっと面積を狭めてもよかったのだが、これは瞬間物質移送器でもあるから、こうやって段差に腰掛けて足を伸ばすことができるぐらいには広々としているぞ」

 

斎藤T「そして、八角形の構造の瞬間物質移送器の正面にシャワーヘッド、洗面台、シャワーラックが収納されているから、移送に巻き込まれる心配はほぼないだろう」

 

斎藤T「そうそう、ドライヤー用のコンセントとラックもあるから、シャワーを浴び終わったら、そのまま洗面台で髪を整えることもできるな」

 

アグネスタキオン「そうだね。おかげで、実験室に置くことができなかったぐらいだよ」クククッ

 

斎藤T「そして、バキュームを利用して部屋干し乾燥機としても使うことができるから、バスタオルや衣類を干すのにも使えるだろう」

 

斎藤T「これを見ろ。この瞬間物質移送器は八角形になるように設計されているが、実際には上下左右に拡張されているな」

 

斎藤T「真正面にシャワーヘッドなどが収納されているスペースを開ければ三面鏡になっているのはわかるな」

 

斎藤T「そして、左右には小さいながらもハンガーラックが収納されている。ここでは試しに左側にバスタオル、右側に衣類をかけているな」

 

斎藤T「どうしてユニットシャワールームにハンガーラックがあるのかと言えば、こうやって左右のハンガーラックを引き伸ばして合体させることができるからだ。こうすればシャワールームの中で物を干したり着替えたりすることができるだろう」

 

アグネスタキオン「おお! これは確かに便利だねぇ!」

 

斎藤T「ただし、これが偽装された瞬間物質移送器である以上は、シャワールームとして利用している人間が誤って移送されないように、移送器の機能とシャワールームの機能が排他的構造になっている」

 

斎藤T「つまり、両方の機能を同時には絶対に使えない安全設計となっている」

 

斎藤T「だから、アグネスタキオン’(スターディオン)が向こうから帰ろうとしている時にお前がシャワーを浴びていたら帰れないから、そこはしっかりと連絡を取り合ってくれ」

 

斎藤T「そして、今はガラスが透明なままだが、これからは使用中は必ずスモークが掛かるようになるぞ」

 

斎藤T「この技術は知っているだろう。都内の公共トイレで使われるようになった()()()()()()()()()()特殊な曇りガラスだ」

 

アグネスタキオン「へえ。じゃあ、透明になっているのは通電されている状態なのかい?」

 

斎藤T「そう。だから、停電になった場合はスモークになるから安心して使えるな。それに使用していない時は必ず透明になっているから未使用であることと中の状態が一目瞭然というわけだ」

 

斎藤T「これによって、瞬間物質移送器が使用されている時の目眩ましにすることができる。今の状態は導通確認のためのテストモードだから以降は回路を切っておく」

 

斎藤T「そして、省エネのためにドアセンサーに連動してガラスに通電される仕様にもなっている」

 

アグネスタキオン「なるほど。こうすることによって私が百尋ノ滝の秘密基地から瞬間移動して帰ってきているのを部外者に見られる心配がなくなるわけだね。よく考えられているよ」

 

斎藤T「そうだ。だから、トイレ用擬音装置(音姫)ならぬシャワー用擬音装置(音姫)も搭載されている。スピーカーがついているわけだな。一応、中からマイクで話すことも可能だ」

 

斎藤T「また、向こうのポータルからある程度の操作ができるようにもなっている。そうしないとシャワーを使った後片付けをしないせいで、移送できなくなる可能性もあるからな」

 

斎藤T「よって、この試験映像のようにハンガーラックの収納やシャワーヘッドの格納も向こうのポータルから遠隔操作でできるようになっているが、しっかりと後から使う人のことを考えろよ?」

 

斎藤T「少なくとも、この八角形の段差の範囲の空間には何もない状態を常に保つように心掛けろ。わかりやすいだろう」

 

アグネスタキオン「ああ。肝に銘じておくよ」

 

斎藤T「基本的な仕様については以上かな」

 

斎藤T「他にも、瞬間物質移送器ならではの気密性を最大限活かして外部から大量の水を移送してお風呂にする使い方も検討中だ。八角形の段差の構造は移送範囲の識別も兼ねた構造だ」

 

斎藤T「だから、百尋ノ滝の天然水の水風呂にすることも理論上はできなくもないぞ?」

 

アグネスタキオン「いや、ここまで自己完結したシャワールームがトレーナー室で使えるだけでも十分さ」

 

アグネスタキオン「じゃあ、これから24時間の移送器の耐久試験だね、トレーナーくん」

 

斎藤T「ああ。これに成功すれば、シャワーを使ってもいいぞ。積極的に性能テストのモニターになってくれ」

 

斎藤T「ただ、瞬間物質移送器としてはまだ性能テストが不完全なところがあるし、ポータルも百尋ノ滝以外にはないから、私とアグネスタキオン’(スターディオン)で運用試験を続けていくからな」

 

 

――――――だから、新年度を迎える前に部室を引き払ってくれ。

 

 

正直に言って、他にもいろいろとやらなくちゃならないことが山程あるのだが、今の私は高揚感を覚えていた。

 

技術者の性というやつだろう。こうして組み立てられた瞬間物質移送器の完成がWUMA討伐作戦の報酬だと考えるなら、未知への探究心がこうして満たされているのだから、年末の死闘の疲れなど吹っ飛んでしまっていた。

 

トウカイテイオーの岡田Tからトレーナー室を内々で譲り受けると、ここを新たな実験室にする約束で私の担当ウマ娘となるアグネスタキオンに部活棟の実験室からの引っ越しを要求することになった。

 

もちろん、トレーナー室よりも化学実験室の方が生化学者のアグネスタキオンにとっては利便性があるし、私としても好き好んで名門スポーツ校の化学実験室にほとんどの人間が来ることがない立地なので都合がよかったのだが、

 

これからはファン獲得数もレースの出走条件にもなる『トゥインクル・シリーズ』においてはマスコミ対策は必要不可欠であり、

 

特にアグネスタキオンの評判の悪さ:ドーピング疑惑はいつまでも残り続けているので、6月からの新バ戦(メイクデビュー)以降のマスコミの眼を考えるなら、イメージの払拭は最優先であった。

 

となれば、生化学(biochemistry)に胡散臭さを感じる連中に対してわかりやすいアンチ・ドーピングとして、人間工学(human engineering)の権威でもって疑惑を晴らすだけだ。

 

そして、所詮は食うために部数やネタに飢えている覗き魔だ。軍資金の準備も十分だし、トレセン学園で幅を利かせているトレーナーの名門や競走ウマ娘の名家ともコネがあるから怖いものなしだ。

 

 

――――――事実、今の私は“斎藤 展望”であった。

 

 

新年度早々に形振り構わず金稼ぎのために強引なスカウトや引き抜きを行う悪名高い学園一の嫌われ者になり、

 

1ヶ月も経たないうちにいきなり学外でウマ娘に撥ねられる天罰によって3ヶ月間の意識不明の重体の後、

 

どういうわけか名門トレーナー:桐生院Tのサブトレーナーに収まり、模擬レースでG1未勝利のハッピミークを“三冠ウマ娘”ナリタブライアンに勝たせる手腕を発揮した。

 

そして、いつの間にか“皇帝”シンボリルドルフとも懇意になり、メジロマックイーンの和田T、トウカイテイオーの岡田T、ライスシャワーの飯守T、ミホノブルボンの才羽Tとも親しくしている様子が見られるようになり、

 

とどめに“斎藤 展望”が皇宮警察の両親を持つ天皇家に親しい家柄の『名族』であることが密かに知れ渡ると、“斎藤 展望”に対する侮蔑の視線を感じることが極端に少なくなってしまった。

 

まあ、一番は私がアグネスタキオンと関係を持つようになって、彼女の新薬を飲まされて身体のあっちこっちが発光するようになった境遇に対する憐憫や畏怖から関わりたくなくなったようだが。

 

そう、学園一の嫌われ者:斎藤 展望と学園一危険なウマ娘:アグネスタキオンのコンビに好き好んで自分から関わろうとする者はいないわけなのだ。

 

なので、私が年明けに岡田Tのトレーナー室を貰い受けたことが知れ渡ると、途端に周りのトレーナー室で引っ越しを検討する声が聞こえてきていた。

 

そして、来年度からは岡田Tのトレーナー室の周りが空きになることが確認されただけに、親しい人たちとそうでない人たちの信頼度に天と地ほどの差があることを痛感せざるを得なかった。

 

それはそれとして、譲り受けたトレーナー室を 早速 担当トレーナーと担当ウマ娘の色に染め上げていく様子を怖いもの見たさでジロジロと見ていた連中が情報を拡散させたのだから、これからも噂は絶えることはないだろう。

 

しかし、こうして学内での拠点を実験室からトレーナー室に変えたことである大きな変化が起きたのも事実であった。

 

 

――――――その夜、

 

斎藤T「WUMAに関する情報セキュリティの構築はできたし、果たしてどこまで『警視庁』が有効活用してくれることやら……」カタッ

 

シンボリルドルフ「やあ、斎藤T。今日はどういった具合だい?」

 

斎藤T「はい。完全循環型ユニットシャワールームの耐久試験に入っています」

 

シンボリルドルフ「おお、いよいよか。ブライアンがまだかまだかと楽しみにしていたよ」

 

斎藤T「ひとまずは24時間の連続稼働で故障がないことが確認できれば、モニターを募集しようかと思います」

 

シンボリルドルフ「うん。一個人のトレーナー室に置いてあるのはいろいろと噂にはなるだろうが、このユニットシャワールームが実用化できれば気軽に入浴することができるわけだな」

 

斎藤T「そうです。徹底したユニット化によって十分な外部電力が賄えればウマ娘が4人ぐらいで現地に運んで組み立てるだけで機能することでしょう」

 

斎藤T「このモデルはコストパフォーマンスと機能性を重視したハイモデルの雛形で、単純にシャワーヘッドだけを取り付けた簡易生産品のハコなら同じ価格で8基は造れるんじゃないかと思われます」

 

斎藤T「この曇りガラスなんて通電している時には透明になる仕様ですからね。コストは掛かりますけど、部屋ド真ん中に置いてもまったくの問題がないですよ」

 

シンボリルドルフ「節水対策としては是非とも大々的に導入したいものだな。特に、完全循環型構造による浄化水のほぼ完全な再利用性が素晴らしい」

 

シンボリルドルフ「夏場は特に水使用量が著しいから、各人が自前で完全循環型ユニットシャワールームを使ってくれるのなら、水道費が大いに削減できて その分だけ予算に回すことができる!」

 

斎藤T「総生徒数2000名ですからね。それだけでも生活費が馬鹿にならないから、その分だけバカ高い入学金や年間の学費の他に寄付金を募るわけですよね」

 

シンボリルドルフ「ああ。中央の名に恥じぬ世界最先端のスポーツ校としての体裁を保つためにはどうしても見栄を張る必要があるんだ」

 

 

シンボリルドルフ「そういう意味では、きみが“門外漢”であったことが何よりの福音だよ」

 

 

斎藤T「果たして、どこまで私の担当ウマ娘がやってくれるかは知りませんけれど、私は私の方できっちりと儲けさせてもらいますね」

 

斎藤T「私の発明品である新製品のモニターとしてこのトレセン学園を利用させてもらいましょう」

 

シンボリルドルフ「それでかまわないさ。きみの発明品を逸早く導入して宣伝することはこの中央トレセン学園が世界最先端のスポーツ校としての体裁を保つ目的にも一致している」

 

シンボリルドルフ「しかし、慢性的なトレーナー不足に悩まされている現状はどうにかならないものかな」

 

斎藤T「生徒数を減らすか、自然人トレーナーの資格を緩めるか、法人トレーナーを認めるかです」

 

シンボリルドルフ「生徒数を減らすのは以ての外だ。ただでさえ、狭き門である『トゥインクル・シリーズ』の夢の舞台に上がれるチャンスを潰したくはない」

 

斎藤T「なら、トレーナー不足を解消するためにトレーナーを増やすしかないわけですが、自然人トレーナーを増やすために資格のハードルを下げたら中央のレベルと品格が下がるのは避けようがありません」

 

斎藤T「となれば、残るは法人トレーナーを認める他ないじゃないですか」

 

斎藤T「さあ、立ち話もなんですし、こちらの席にどうぞ」

 

シンボリルドルフ「ありがとう」

 

シンボリルドルフ「もう、このトレーナー室にはテイオーと岡田Tの思い出の跡は残っていないんだな……」

 

シンボリルドルフ「ここは完全にトレセン学園とは切り離された別空間だ」

 

斎藤T「はい。学園の備品は全て返却した上で、搬入したものは全て自前のものです」

 

シンボリルドルフ「ついにトレーナー業でさえも機械化の流れが来ているのか。どこも慢性的な人手不足だものな。由々しきことだ」

 

斎藤T「トレーナー業が続けられなくなる原因を作っているのは他ならぬウマ娘レースを心から愛している人たちでしょう?」

 

シンボリルドルフ「――――――認めたくはないがな」

 

シンボリルドルフ「きみがこうしてこのトレーナー室を譲り受けることになったのも、全てはそういうことだからな」

 

斎藤T「勝てば勝つほど積み重なった掛け金の重みが担当トレーナーを押し潰していくわけです」

 

斎藤T「それに『名門』や『名家』の囲い込みだってあるでしょう?」

 

シンボリルドルフ「――――――和田Tの件に関しても耳が痛いよ」

 

シンボリルドルフ「私自身がきみに対してそう思っているところがあるから、どうしようもなくエゴイスティックな動物の一頭になってしまったと自分自身が怖いよ」

 

斎藤T「だから、私はそういった中央で夢破れた若者たちが社会復帰できるようにするための財団を立ち上げる予定です」

 

斎藤T「もちろん、私の夢のために奉仕してくれる労働力を仕入れるための職業安定所も兼ねてますがね」ニヤリ

 

シンボリルドルフ「つまり、トレセン学園やURAが人材流出を阻止できない場合はきみのところにどんどんどんどん元トレーナーたちが流れていくわけだ」

 

 

――――――夢の舞台に立つために狭き門を潜り抜けてきた才能あるウマ娘と同じぐらいに未来の名伯楽だったはずの者たちがね。

 

 

斎藤T「そうした方が社会の損失、無駄がないじゃないですか」

 

シンボリルドルフ「そうだな。それは認めるよ」

 

シンボリルドルフ「しかし、法人トレーナーか。その実態としては『名門』に近いものがあるんじゃないのか?」

 

斎藤T「そうですよ。特定の個人:自然人ではなく不特定の個人:法人がトレーナーになることで責任分担とリスク分散をしようという話ですよ」

 

シンボリルドルフ「そのために一人一人に擬似人格プログラムを施したAIをつけて管理しようというのは時代が早すぎるのではないか?」

 

斎藤T「現状で受け容れられるとは微塵も思っていません」

 

斎藤T「ただ、人というのは流されやすい生き物ですから、勢いに乗せられたら どうなるかはわかりませんよ?」

 

シンボリルドルフ「十分な議論の余地もなく、AI管理が浸透する可能性があるというわけか」

 

斎藤T「ちがいますよ。可能性があるのだから 想像力を働かせて あらかじめ十分な議論を尽くさないから、後手に回るだけです。時間はたっぷりあったはずだと、私ならバカにしますけどね」

 

シンボリルドルフ「目先のことしか考えずに将来を見越した議論ができないから、管理者側にとって予測できたはずの不測の事態に陥るか――――――」

 

 

シンボリルドルフ「ありがとう。きみはそうして私にこれからのことでヒントを惜しみなく与えてくれている」

 

 

斎藤T「単純な話ですよ。将来のことを語るなら、そうすることでどれだけの影響があるかを知悉して対策し切らないと死んでも死ぬ切れないほどの後悔が襲います」

 

シンボリルドルフ「そうだな。まったくもって、そのとおりだよ。どれだけ悔いても悔やみきれないことなんて私の人生にはいくらでもあったからな……」

 

シンボリルドルフ「………………」

 

斎藤T「……マテ茶です」コトッ

 

シンボリルドルフ「ああ、ありがとう」

 

シンボリルドルフ「――――――マテ茶か」

 

斎藤T「南米で常飲されている“飲むサラダ”と呼ばれているイェルバ・マテの葉や小枝を乾燥させた茶外茶です」

 

斎藤T「特に、肉食が中心のアルゼンチンで肥満や生活習慣病が少ないのはフレンチ・パラドックス同様にこのマテ茶の栄養価の高さによるものだそうです」

 

斎藤T「そして、アルゼンチンでは相手に振る舞うマテ茶で意思表示をするマテ言葉があるとか」

 

斎藤T「たとえば、熱いマテ茶は『燃える恋』、冷めたマテ茶は『歓迎していない』、泡を立てたら『きみが好き』、砂糖入りは『私の両親に会って欲しい』、シナモン入りは『愛している』、蜂蜜入りは『結婚して欲しい』とかあるみたいです」

 

シンボリルドルフ「それは面白いな。テイオーは蜂蜜入りが好きだから、いずれはそういうことになるのかな――――――」フフッ

 

シンボリルドルフ「………………!」カタッ

 

斎藤T「……どうしました?」

 

 

シンボリルドルフ「そう言えば、私のトレーナーだった彼はやたらと熱々のコーヒーや紅茶に甘いものを入れて泡立てるのが好きだったような――――――?」

 

 

シンボリルドルフ「え、もしかして彼はマテ言葉からブレンドしていた――――――?」

 

シンボリルドルフ「そうだ。彼はシナモンや氷砂糖、蜂蜜が大好きだった――――――」

 

シンボリルドルフ「それで、たしか、父親が大好きだった茶が何なのかがわからないでいた――――――」

 

シンボリルドルフ「もしかしてマテ茶が彼がずっと探していた茶だったのか?」

 

斎藤T「……なるほど。茶外茶なら わからないのも無理はない」

 

斎藤T「シナモンスティックです。意味は『愛している』ですね」コトッ

 

シンボリルドルフ「……シナモンか」クンクン・・・

 

シンボリルドルフ「――――――うっ」ジワッ

 

斎藤T「えっ!?」

 

シンボリルドルフ「い、いや、すまない。人前で泣くだなんて何をやっているんだろうな、私は?」ポタポタ・・・

 

シンボリルドルフ「でも、ずっとトレセン学園の黄金期の象徴である“皇帝”として在り続けるために彼のことは思い出さないようにしていたから、」ポタポタ・・・

 

シンボリルドルフ「ああ、ついに私は彼との思い出が詰まった この素晴らしきトレセン学園を卒業してしまうんだなって――――――」ポタポタ・・・

 

斎藤T「………………」

 

シンボリルドルフ「もうどこにもいないんだ、私の最愛の人は……」ポタポタ・・・

 

シンボリルドルフ「最愛の人が生まれ落ちる哀しい未来は他ならぬ私と彼の二人で――――――」ポタポタ・・・

 

シンボリルドルフ「きみが人知れず世界をWUMAの脅威から救ったように――――――」ポタポタ・・・

 

斎藤T「会長…………」

 

シンボリルドルフ「やっぱりダメだったよ。何にでもシナモンを入れていたきみのことを思い出してしまったよ……」ポタポタ・・・

 

シンボリルドルフ「ダメだ。会いたい、会いたいよ。まだ何者でもなかった私と一緒に“皇帝”の道を共に駆け上がっていたあの頃に戻りたい……」ポタポタ・・・

 

シンボリルドルフ「つらすぎるよ。一生分の愛を受け止めた後に、私はこれから他の誰かと愛し合うようになってしまうのかな……?」ポタポタ・・・

 

斎藤T「シナモンは世界最古のスパイスとも言われ、紀元前4000年頃からエジプトでミイラの防腐剤として使われ始めたと言う」

 

シンボリルドルフ「――――――?」

 

斎藤T「しかし、シナモンに含まれるクマリンは高濃度で肝障害と腎障害を引き起こすことなどから毒性が認められていて、過剰摂取は禁物だ」

 

シンボリルドルフ「え」

 

斎藤T「そして、シナモンスティックは樹皮だから食べても苦くて美味しくないし先程述べた毒性があるので、直接 口にしてはいけません」

 

シンボリルドルフ「………………」

 

シンボリルドルフ「それは私が“ミイラ取りがミイラになる”ことを心配しているのかい?」

 

斎藤T「さあ、どうでしょうね」

 

斎藤T「どのみち、“皇帝”陛下からは予言書『ウマ娘 プリティーダービー』を託されて今日に至るのですから、今度は“皇帝”自身が予言書を書いて託す番なんじゃないかと」

 

 

――――――いろいろと聴かせてはくれませんか、あなたの最愛の人だった“皇帝の王笏”について。

 

 

時の流れとはなんと残酷なことだろう。二人が愛し合った時間でさえも無情にも過去へと押し流していく。

 

しかし、こうして語り継ぐことによって人は歴史を紡ぐことができたのだ。

 

トウカイテイオーは“皇帝”シンボリルドルフの後を継いで、シンボリルドルフ卒業後の新たな時代の荒波を切り拓く“帝王”としてトレセン学園の君臨しなければならない。

 

一方で、私は“皇帝”が生涯で得た3人の過去・現在・未来を象徴する股肱之臣の最後の一人として、その後のトレセン学園の舵取りを見守ることを託された未来の人間だ。

 

ヒトとウマ娘が共生する21世紀の地球において国民的スポーツ・エンターテイメントの地位を確立している『トゥインクル・シリーズ』の夢の舞台である中央トレセン学園が変われば、未来は必然と大きく変わることだろう。

 

そう、私としては出来る限りは宇宙移民の流儀に則って文明の侵略や文化の破壊を促すような急速な改革や革命をもたらす気は毛頭ない。

 

それでも、こうして救いを求める人々がいるのならば手を差し伸べたくなるのが人情であり、良いものを取り込んで 向こうが学んでいく分には何も問題はなかった。

 

あくまでも、23世紀の未来人である私が革命を扇動して支配者になることが許されないのであって、そこに生きとし生ける人々が自分たちの手で新たな未来の可能性を模索していくのを手伝わない道理はない。

 

それは立派な損得勘定に基づくものであるし、これでも23世紀と比べたら200年も遅れている21世紀の人々の営みにケチをつけながらも十分に我慢している方だと思っている。

 

だから、あちらも私が長々とトレセン学園のトレーナーをやっているとはまったく思っていない。

 

あくまでも、トレセン学園の黄金期の象徴だった“皇帝”シンボリルドルフが卒業した後の新しい時代におけるトレセン学園の方向性が良いものになるのを期待しているのであって、“門外漢”である私が主導してトレセン学園の改革をするなど求めてはいない。

 

それはそうなんだけれども、私から得られるものを得ようとして、こうして足を運んでくださっているのだから、私も少しでも23世紀の生活様式に世の中が近づいて快適なものになるように惜しむつもりはない。

 

 

――――――この関係が非常に心地よかった。

 

 

もっと早くに出会えていたら――――――、と そう思ってしまっているようだった。正直に言って、一目会った瞬間に互いが惹かれるものがあった。

 

本質的に異性を求めているわけではないが、自身の満ち欠けを埋められる得難き存在として いつまでも心に残り続けることになるのだろう。

 

今にして思えば、この出会いは皇祖皇霊が仕組んだ尊い導きによる毛筋の幅もちがわない必然だったのかもしれない。

 

そう、“斎藤 展望”がこうしてトレセン学園にいられるのもシンボリルドルフのおかげであり、シンボリルドルフが卒業していけるのも“斎藤 展望”がトレセン学園に現れたおかげでもあった。

 

そうして、心の整理ができる相手として最後の導きを与える賢人という役割を担わされているのだとしたら、

 

それは『名家』の出身のシンボリルドルフの王道が『名族』であった“斎藤 展望”との出会いで整えられることを、ダビデ王を導いたサムエルの後を継いでソロモン王を導いたナタンの事績に擬えているように感じられた。

 

こうして23世紀の宇宙時代からやってきた魂が宿った21世紀の新人トレーナー“斎藤 展望”の身体を通じて、今ここにトレセン学園の黄金期の過去・現在・未来を象徴するトレーナー因子の継承が完成するのであった。

 

 

――――――ここより ヒトとウマ娘が共生するこの世界の 過去から現在の先の 未来が始まる。

 

 

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