ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第3話   栄華を極めたら――――――

-西暦20XY年01月18日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

基本的に日本ウマ娘トレーニングセンター学園(中央トレセン学園)の生徒たちは中高一貫校の生徒として学業が本業なんだけれど、

 

それと同時に国民的スポーツ・エンターテイメント:中央競バ『トゥインクル・シリーズ』の出走バとして活躍することを義務付けられて入学している。

 

そして、府中市にある中央トレセン学園がURAが管轄するものでは日本最高峰のレベルとされており、ここを本校として日本各地に分校がいくつか設置されていた。

 

もっとも、分校はあくまでもサテライト会場や遠征の宿泊地のような本校の附属施設の扱いであり、そこの保守点検業務のために本校に入学できない三流どころを養成している面が強かった。

 

実際、中央トレセン学園では出走バとなるアスリートコースと運営に携わるアシスタントコースが生徒たちに用意されており、

 

当然ながら府中市の本校の総生徒数2000名弱の生徒の大半がアスリートコースなのだが、分校になるとアシスタントコースに在籍する生徒の比率が大きいのだ。

 

当然ながら、“中央の中の中央”である府中市の中央トレセン学園は日本最高峰と評されるだけに最新設備と環境が整っており、ここでトレーニングを受けられることが最大のメリットでもあった。

 

 

なので、当然ながら設備の更新や維持のためには莫大な費用がかかるわけであり、その資金源となる学費も連動して非常に高くなるわけである。

 

 

となれば、貧乏苦学生ではいくら才能があっても成長し切ることは難しいわけであり、そうした不公平から奨学金制度が非常に充実することになったが、

 

結局、夢の舞台の主役になれなければ賞金は手に入らないので、何者にもなれずにそのままバカ高い学費を支払い続けて卒業した結果、その後の人生が奨学金返済で首が回らなくなるよりかは、早々に見切りをつけて第2の人生のために引退即退学が常識ともなっていた。

 

更に言えば、府中市のトレセン学園の全員が全員、アスリートコースの平地競走の出走バになるわけではないが、

 

年間のURA重賞レースはせいぜい100ぐらいで、その半分ぐらいがG3レース、残りをG1レースとG2レースでその半分を分け合っている上に、バ場や距離の適性や出走条件によって更に出走できる数は絞られる。

 

だからこそ、G1レースで勝利することがウマ娘にとっての憧れであり、国民的スポーツ・エンターテイメントとしてのウマ娘レースの醍醐味なのだ。

 

 

そこで課題となってくるのが、中高一貫校としての中央トレセン学園におけるシニア級:3年目以降の生徒たちであった。

 

 

なぜ競走ウマ娘にとってデビューしてからの1年目:ジュニア級、2年目:クラシック級、3年目:シニア級の最初の3年間が重要なのかと言えば、

 

ウマ娘がヒトを超越した身体能力を発揮していく“本格化”が思春期における二次性徴が著しい時期の3年前後のものとされているからだ。

 

どれだけ見積もってもウマ娘としての最盛期は長い人生における十代の中のわずか数年の青春にしかないという れっきとした事実があるため、

 

古来から強いウマ娘を育てるためにティーン・エイジャーのウマ娘の学制をどうするかで頭を悩ませながら発展してきて今日に至るのがこの世界における近代教育制度であり、

 

日本では最終的に中高一貫校の6年間で『トゥインクル・シリーズ』に参加できる資格と猶予を提供することになっていた。

 

ただ、21世紀になり、昨今では文明の発展によって人類全体の寿命が伸びたことで、本来ならば3年程度が限界とされていた競走ウマ娘の選手寿命も長生きするようになり、

 

そこから長らく勝ち過ぎて競バが退屈になるような息の長いウマ娘たちが現れ始め、続々と優駿競バ『ドリーム・シリーズ』への昇格という名の追放を受けるようになり、少しずつ状況が変わり始めていた。

 

そして、秋川理事長とシンボリルドルフが象徴となった中央トレセン学園の黄金期には総生徒数2000名弱のマンモス校にまで発展し、夢の舞台のその先となる『ドリーム・シリーズ』へと羽ばたいていく生徒たちが次々に現れたのだ。

 

これにより、“最初の3年間を走り抜く”という『URAファイナルズ』の基本的な出走条件にもなっている従来の競走ウマ娘の目標は終着点から上位リーグへの通過点になりつつあり、そのことが更なる格付けに繋がることになる。

 

それは同時に、たとえ最初の3年間を走り抜くことができても そこからは下降気味になってしまうという“本格化”の期間の長さに恵まれなかった()()()()()()()()()()競走ウマ娘たちに新たに突きつけられた残酷な現実にもなった。

 

 

そう、中高一貫校の6年間のうちの3年間で夢の舞台を走り抜くことができれば満足だった時代からなくなりつつあるのだ。

 

 

むしろ、その先となる『ドリーム・シリーズ』に昇格できなければ()()()()()()()()()()()()()()()()という新たな価値観が生まれ、

 

これからは担当トレーナーの指導力と担当ウマ娘の才能だけじゃなく、どれだけ故障せずに勝利を積み重ねて上位リーグに昇格できるかの運と実力を兼ね備えた 緻密で遠大な人生設計まで求められる時代になりつつあるのだ。

 

そうなれば、“三冠ウマ娘”ナリタブライアンと三ケ木Tのようなウマ娘の才能だけで勝ち上がってきた名コンビは完全に価値を失っていくことだろう。

 

あの2人の成功が“皇帝”シンボリルドルフと“皇帝の王笏”たる彼が切り拓いたトレセン学園の黄金期の流れを確実にしたのだから、その2人が評価されないような時代が来るなら それはもう――――――。

 

 

なので、『トゥインクル・シリーズ』の位置づけはいつしか『ドリーム・シリーズ』の単なる下位リーグとなって国民的スポーツ・エンターテイメントの座を明け渡すことになるのだろう。

 

 

しかし、選手寿命が伸びることによって『トゥインクル・シリーズ』の絶対的立ち位置が揺らぐのが自然な流れだとしても、

 

そうなると、ただでさえ狭き門に狭き門を重ねて潜り抜けて夢の舞台の3年間を走り抜くことができるように頑張り通すことができても、

 

そこから更に『ドリーム・シリーズ』に昇格して活躍できるだけの選手寿命を求められるようになったら、ますますトレセン学園の生徒たちの間の格差が拡がっていくことにならないだろうか。

 

つまり、田舎の貧乏苦学生が才能1つで伸し上がったところで、通過点に過ぎない『トゥインクル・シリーズ』での活躍までが精々だと言われてしまう時代が来てしまったのなら、もう狭き門を潜る勇気を持つ者はいなくなるのではないかと思ってしまう。

 

どれだけウマ娘が生まれながらの闘争本能に身を任せて挑んだところで、自分以上のウマ娘たちとの激闘に敗れて自身の能力の限界を知って引退即退学になっていることが問題視されている現状を踏まえれば、楽観的な観測などできるはずがない。

 

それが秋川理事長とシンボリルドルフの理想の集大成である『URAファイナルズ』開催を素直に感心する一方で、

 

その実態が最初の3年間を多くのウマ娘たちが最後まで走り抜いて気持ちよく卒業してもらうためのレースであることと、最初の3年間以降も走り続けようとする現役ウマ娘たちが存在していることの間にある違和感の正体であった。

 

 

要するに、『URAファイナルズ』によるトレセン学園の更なる繁栄の時代は選手寿命が伸びて『ドリーム・シリーズ』に移籍する名バが増えるに連れて翳りゆくのが定めなのだ。

 

 

“皇帝”シンボリルドルフがそうであるように『ドリーム・シリーズ』に送り出すのがトレセン学園の役目だと割り切れるのなら それでいいのだが、抜き差しならないものを感じている。

 

とにかく、中央トレセン学園の引退即退学の原因となっている一番の理由が金銭面での問題であり、

 

たとえ引退を検討するぐらいに“本格化”のピークを過ぎたとしても挑戦できる機会は残しておくべきであり、残留するためにも学費を抑えることができれば それだけ可能性は拡がる。

 

もちろん、どうにかして才能ある貧乏苦学生の金銭面の負担を減らしてやりたいところだが、それは最高の環境を維持して生徒たちに公平に提供するためには必要不可欠な徴収なので、これをカットするわけにはいかないのだ。

 

ただでさえ、莫大な寄付金を『名門』や『名家』から受け取って成り立っているのが世界有数の実力を有する中央トレセン学園なのだから、やはり発祥からして王侯貴族の金持ちの道楽で成り立っていることがわかる。

 

となれば、設備維持のためにコストカットができないなら人件費を削るのが一番であり、そうするためには給料を渡さなければならないトレセン学園の職員や関連施設の従業員や、夢の舞台の主役である生徒たちの福利厚生にかかる費用を減らしていく他ない。

 

ところが、ここではヒトとウマ娘の絆から生まれる不思議なパワーを信仰している他、ウイニングライブなど機械が代行できないような独特のセンスの世界が拡がっているため、軽々しく免職・解雇することは絶対にできない。

 

ならば、できるのはインフラ設備の機能性向上による生活費の大幅な節約であり、これならトレセン学園以外の場所でも需要があるため、そのための技術革新は決して無駄にならない。

 

これこそが私の狙いであり、地球圏統一国家が成立していない頃の紛争や貧困が絶えない21世紀の地球を恒久平和に導くための宇宙時代への文明開化の第一歩であった。

 

 


 

――――――トレセン学園/元 岡田Tのトレーナー室

 

シンボリルドルフ「――――――これがきみの『URAファイナルズ』の分析結果というわけか」

 

シンボリルドルフ「結局は学費の問題で退学する生徒は後を絶たない、と」

 

斎藤T「結局はそこです。何をするにしても日本最高峰のトレーニング環境を維持するための莫大な学費を支払うことができないことで退学になるので、」

 

斎藤T「これからは最初の3年間を『URAファイナルズ』までみんなが走り切って引退即退学とはならないでしょうが、」

 

斎藤T「それでも、レースで賞金を稼げなくなれば、奨学金の返済でこれからの人生の負債が膨らむ前に退学を選ぶことが顕著になるだけです。引退即退学から()()()退()()の時代です」

 

斎藤T「特に、中等部1年生の時点でデビューすることができた所謂“エリート”がもし中等部3年のシニア級:3年目で引退を決意するほどに活躍ができなかった場合は、天下のトレセン学園を中等部で卒業して夢の舞台から下った普通の高校生としてこれからを生きていくしかなくなるわけです」

 

斎藤T「それは闘争心の強いウマ娘にとってはとても屈辱的なことのはずです。中高一貫校の6年間の半分しかいられずに夢の舞台から追いやられるわけですから」

 

斎藤T「そうなると、中等部1年でデビューするエリート路線を目指す生徒がかなり減るんじゃないかと思いますね」

 

斎藤T「そして、自分は勝つという絶対的な自信 または現実が見えていない無謀さで『選抜レース』に出てくる新入生ばかりになり、トレーナー側としても分の悪い賭けになってきてスカウトにも慎重になっていくことでしょう」

 

シンボリルドルフ「つまり、新入生たちの『選抜レース』が盛り上がりに欠けてくるようになる――――――」

 

シンボリルドルフ「もちろん、真の実力者ならば競走相手が減ってスカウトをますます受けやすい状況にはなるが、慎重派がスカウトする側とスカウトされる側の両方で増えて、スカウトが消極的な状況に陥るわけか」

 

斎藤T「デフレですよ、デフレ。所得が減るために、消費者は消費を控えるようになって、借金をしている人の負担がますます重くなる――――――」

 

斎藤T「引退した後も見栄を張って高い学費を支払ってトレセン学園に居座ることが許されるだけの財力があれば卒業することもできるでしょうが、自分の学費が他人のトレーニング代になって消費されるのを喜べるウマ娘なんているわけないですから」

 

シンボリルドルフ「そうだな、自分の学費の元を取ろうとして懸命にトレーニングに打ち込んでいることもあるしな」

 

シンボリルドルフ「となると、どうにかして学費を抑えて経済的な負担を抑えないと、教育現場としてはよろしくない現状の根本的な解決には成りえないか」

 

斎藤T「そもそも、『トゥインクル・シリーズ』は公営競技(ギャンブル)なんですから、出走バの側もバカ高い学費の当てをレースの賞金にしている時点で自分の人生を丸ごと賭け金にしているんです」

 

斎藤T「それがあるからこそ、たとえG3レースであっても出走バの真剣勝負が成り立っているところがあります」

 

斎藤T「裕福じゃないからこそ格の低いレースに出走したくなる必死な連中もいるんですから、」

 

斎藤T「逆に学費を格安にしたら、退学勧告を受けない程度にG3レースでそこそこの活躍をしたらとっとと引退してトレセン学園卒業まで居座る 質の悪い競走ウマ娘が生まれることにもなります」

 

斎藤T「現に、実力はG1出走可能であってもG2勝利やG3勝利で小遣い稼ぎを目標にして手を抜いている志の低い者たちがいるわけですし」

 

シンボリルドルフ「それも問題だな。安すぎてもいけないし、高すぎてもいけないか」

 

斎藤T「でも、コストカットしようがないんです。ロボットという量産品ではなくスターウマ娘というハンドメイドをプロデュースしている以上は常に流行の最先端であるためにも人件費を削るわけにはいかないんです」

 

シンボリルドルフ「だから、極限までインフラ設備の高効率化による生活費の大幅な節約が求められるわけか」

 

シンボリルドルフ「そして、選手寿命が伸びることによって『ドリーム・シリーズ』の人口が順調に増えていくことで、将来的に『トゥインクル・シリーズ』での最初の3年間が終着点から通過点に成り下がり、」

 

シンボリルドルフ「いずれ才能だけで戦うウマ娘たちが狭き門を潜る勇気や希望を持てなくなり、近代ウマ娘レースの原点であった王侯貴族の道楽に時代逆行して、競技人口の固定化による緩やかな衰退が始まるという別の問題も同時進行している――――――」

 

 

シンボリルドルフ「まいったな。これは問題だらけだ……」ハハッ

 

 

シンボリルドルフ「中央官庁の官僚たちめ、『URAファイナルズ』の開催協力だけで終わりだと思うなよ……」

 

斎藤T「………………」

 

シンボリルドルフ「でも、きみがどれだけウマ娘たちの想いを汲んでいるかもこれでよくわかったよ」

 

シンボリルドルフ「本当にありがとう。きみには本当に助けられてばかりだな」

 

斎藤T「まあ、できることから手を付けていく他ないですね」

 

斎藤T「これもまた私にとっては『宇宙船を創って星の海を渡る』ための積み重なる一歩です」

 

シンボリルドルフ「そうだな。私も秋川理事長や多くの者たちと夢見た理想への一歩を着実に歩んでいるんだ」

 

 

――――――あらためて、“同志”と呼ばせてもらってもいいかな?

 

 

いよいよ、来週の火曜日は『生徒会総選挙』となり、前代未聞のトーナメントレース『URAファイナルズ』開催前のトレセン学園生徒会役員の世代交代と1つの時代の終焉を象徴する盛大な式典が催されることになる。

 

もはや、誰が生徒会役員になるかは内々で決まっているし、そのことは周知の事実として知れ渡っているにしても、建前上は民主的な手続きに則って生徒たちの代表として選出されるので、

 

冬休み明けのトレセン学園は立候補者の演説と共に始まる選挙活動を経た投票日を前日:月曜日に行い、開票と当選を翌日:火曜日の午後の全校集会に間に合うように処理するという。

 

そして、宮廷舞踏家のウマ娘たちがセンターの座を賭けてレースで決したのが近代ウマ娘レースとウイニングライブの起源であり、

 

そのエリート校ということもあって、新生徒会長は就任演説の代わりに当選者と推薦人2人によるウイニングライブをするのが慣習となっている。

 

これはURA公認ではない学園独自のウイニングライブであり、生徒会長に立候補する者と推薦人は必ず踊れる者でなければ、生徒たちの長として示しがつかないというわけである。

 

そのため、高等部からずっと3期に渡って生徒会長職に就いていた“皇帝”シンボリルドルフと一緒に踊れる権利を巡って 毎年 推薦人の募集は殺到しており、

 

年明けからシンボリルドルフが推薦人と一緒のウイニングライブの練習に明け暮れていたのも良い思い出となっている。

 

そして、今度は次期生徒会長である“女帝”エアグルーヴと一緒にウイニングライブするために推薦人が殺到することになり、

 

エアグルーヴはその練習に明け暮れるようになっていたので、これではたしかに『URAファイナルズ』出走は難しいものがあった。

 

そういう意味では、第一線を引いて生徒会活動に専念している功労バたちにとっての最後のウイニングライブが生徒会長就任ウイニングライブということになるのだろう。

 

とは言っても、選挙の告知は去年の12月にはなされており、そこで『トゥインクル・シリーズ』で活躍した名バたちが出揃うので、

 

選挙対策委員会を独自に結成して誰と誰が推薦人の2つの枠をとるのかを立候補者の熱心な支持者同士で決める熾烈な戦いがあらかじめ済んでいる。

 

なので、基本的に“皇帝”シンボリルドルフ1強体制を引き継ぐ“女帝”エアグルーヴ1強体制のため、対立候補がいない信任投票なので そこまで熱心に選挙活動に力を入れる必要もなかった。

 

ウイニングライブの練習も選挙活動の1つに数えられているのが非常にユニークであり、当然ながら制服や体操服で踊るわけにもいかないし、

 

普通は一生に一度しかないだろう生徒会長就任ウイニングライブということもあって、たとえG1未出走であってもG1レースでしか着られない勝負服を着込んでの盛大な晴れ舞台が展開されることであろう。

 

それでも、3期に渡ってトレセン学園を導いてきた偉大なる“皇帝”の後を継ぐことになるプレッシャーは尋常ではなく、

 

“女帝”エアグルーヴはやや掛かり気味になってウイニングライブを完璧に仕上げようと無理をしているようにも思えた。

 

 

そんな中、私は間もなく元会長になるシンボリルドルフからの勅命でシンクタンクとして意見を提出するのだった。

 

 

それはもう、個人的な主従関係としてシンボリルドルフが卒業してからも力を貸すことを誓うものでもあった。

 

本当は“斎藤 展望”が皇宮警察であることとシンボリルドルフが“皇帝”と呼ばれていたことに掛けた洒落に過ぎなかったのだが、

 

やがて、三女神像のおまじないの儀式によって“ウサギ耳”や“皇帝の王笏”の因子を継承した結果、互いを必要とする関係だったのがわかっていき、こうして協力関係を結ぶことになったのだ。

 

実際、トレセン学園の黄金期を牽引することができたシンボリルドルフの実家である名家:シンボリ家のウマ娘レース界隈における影響力は絶大で、

 

()()()()としてヒト社会と運命を共にしているウマ娘たちの支持を取り付けて技術革新を推進するにはなくてはならない要素となっていた。

 

そういう意味では、すでに“斎藤 展望”は“皇帝”の御墨付きということで、ウマ娘レース界隈ではほとんど怖いものなしの存在になっていた。

 

しかし、それだけに互いが実現しようとしているものがあまりにも理想が高すぎるため、“皇帝”からの勅命はこちらの能力の限界ギリギリまで突き詰めるようなものがあり、これからも馬車馬のように働かされることだろう。

 

 

――――――ええ、やってやりますとも。これは『宇宙船を創って星の海を渡る』という夢のために必要なことだから。

 

 

 

ジャー、ジャー、ジャー・・・

 

飯守T「――――――基本的には最初の3年間までのトレーナー契約を結ぶもんだ」

 

飯守T「けど、俺はライスの次の子を探すよりも、8月末の事件のようにトレセン学園の子たちが安心して生活ができるようにしなくちゃいけないと思っているんだ」

 

飯守T「だから、トレセン学園のご意見番になったお前の分析結果を踏まえると、やっぱり3年間の基本契約も時代に合わなくなっているのかもしれないな」

 

斎藤T「シニア級:4年目を迎えるライスシャワーの今後の活動はどうします? 中等部卒業に合わせてトレセン学園を卒業するという道もありますよ?」

 

飯守T「卒業はないかな。ライスもやる気十分だし、これからもミホノブルボンの背中を追い続けるさ。俺もトレーナーとしての意地があるしさ」

 

斎藤T「そうですか」

 

飯守T「ただ、()()()()と言われると、ライスもいつまで“本格化”を維持して走れるかが心配になってくる頃だけどな」

 

斎藤T「やはり、3年程度ですか」

 

飯守T「ああ。良くて4年で、そこから身体を休めていけばナリタブライアンのように全盛期とまではいかないまでも8割ぐらいの能力で『ドリーム・シリーズ』を走れるって感じだ」

 

飯守T「そういう意味では古バでもう若くないから、『ドリーム・シリーズ』からは才能任せの走りはもうできないってことで、プロ野球選手と同じように徹底した健康管理で能力維持に励む感じだ」

 

飯守T「だから、『ドリーム・シリーズ』で勝つなら、今よりもっとストイックな生活を送らなくちゃならないから、」

 

飯守T「ミホノブルボンなら間違いなくできるだろうけど、ライスの場合はよくて五分五分で、それこそ長続きしないと思うんだ」

 

飯守T「そう考えると、どうして才羽Tがあの世代の中でミホノブルボンを選んだのか、ようやくわかったような気がするな」

 

 

――――――真の才能は少ない。そして、それに気づくのはもっと少ない。

 

 

飯守T「ってな」

 

斎藤T「それも例の語録からですか?」

 

飯守T「ああ。才羽Tはたぶん短距離ウマ娘(スプリンター)長距離ウマ娘(ステイヤー)とかの素質云々より、斎藤Tが指摘した真の才能である選手寿命を見て 決めていたんだと思う」

 

斎藤T「なるほど。私は生徒会長のお気に入りですが、才羽Tは秋川理事長のお気に入りになるわけです」

 

飯守T「まあ、斎藤Tは功績を表に出すわけにはいかない事情もあるしな。派手好きな秋川理事長とは相性が悪いのもわかる」

 

飯守T「思うに、才羽Tは自分のことを太陽に擬えていたけど、斎藤Tはもっと、こう、何か大きな働きを担っているんだと思うな」

 

斎藤T「つまり、太陽の遍く降り注ぐ光の恵みを司るのが才羽Tで、私は太陽系の中心として惑星の公転を司るみたいな感じなんでしょうね」

 

飯守T「あ、何かそんな感じ! そんな感じがする! 目でははっきり見えないけど、太陽を中心にした公転があるから季節があって、季節ごとの星の海を地上から見ることができる、みたいな?」

 

斎藤T「しっくりきましたね」

 

飯守T「ホントだよ」

 

飯守T「けど、ライスには夢を掴んでもらいたいな」

 

 

――――――競走ウマ娘としての使命を果たし終えた後の社会人としての第2の人生で。

 

 

 

 

ナリタブライアン「相変わらず、ここに来ると珍しいものが食えるなぁ」ガツガツ

 

ナリタブライアン「このマグロの漬け丼はなかなかだぞ。焼き魚もこれぐらい旨味があれば食えるのにな」ガツガツ

 

飯守T「毎日ここで飯を食っているわけか……」

 

斎藤T「まあ、これもどれだけ効率良く食事のオーダーをこなせるかの研究を兼ねてますので」

 

斎藤T「空いたトレーナー室を使っていいのなら、完全循環型ランドリーで汗や泥塗れのジャージが洗えるようにしてもいいですよ」

 

飯守T「さすがにそこまでは許してはくれないだろうけどな。でも、あったら便利だよなぁ……」

 

斎藤T「部活棟の何割かを譲ってもらったら、もっと便利になりますけどね」

 

飯守T「でも、部活棟に足を運ぶのが億劫じゃないか。校舎に近い立地だからブライアンは利用しているんだろう?」

 

斎藤T「それもそうか……」

 

飯守T「それに、ブライアンのような物臭のためにランドリーまで置いたら、斎藤Tがジャージを干すことになるから、いろんな意味で止めといた方がいいぞ」

 

斎藤T「それはたしかに」

 

ナリタブライアン「おい、私のことを何だと思っているんだ?」

 

 

飯守T「――――――ライスと同じ庇護欲を掻き立てる妹キャラ」

 

 

ナリタブライアン「な、なにぃいいいいいい!?」

 

飯守T「いや、ライスの方が立派だよな。ブライアンの周りには世話を焼きたがる人たちでいっぱいだったから、本当に恵まれているよ」

 

ナリタブライアン「そ、そうなのか?」

 

飯守T「ああ。ライスの『選抜レース』は俺が特別に学生寮に入れて連れ出したことでやっとの思いで走ることができたからな」

 

飯守T「誰もライスを支えてくれる人がいなかったんだ。誰もかまってくれなかったんだ。独りだったんだ」

 

飯守T「それと比べたら、鬱陶しく思えたかもしれないけれど、ブライアンは独りじゃなかっただろう?」

 

ナリタブライアン「…………ああ」

 

飯守T「なあ、斎藤T?」

 

 

――――――もしもブライアンのように『ドリーム・シリーズ』に昇格していく名バが順調に増えていったら、ライスのように学生寮で塞ぎ込んじゃう子たちが増えちゃうんだよな?

 

 

斎藤T「いえ、ナリタブライアンのような才能任せのウマ娘とその才能を引き出すことで成り上がる新人トレーナーのサクセスストーリーが一切なくなります」

 

飯守T「あ、じゃあ、俺のようなやつもいなくなるわけか……」

 

ナリタブライアン「え」

 

ナリタブライアン「おい、どういうことだ、それは?」

 

斎藤T「経済の話です。『URAファイナルズ』開催によって最初の3年間を走り切ることが徹底されるようになる一方で、それと並行して選手寿命が全体的に伸びていることが問題になっているんです」

 

ナリタブライアン「いいことじゃないのか、それは?」

 

斎藤T「中高一貫校の教育現場からしてみれば、『URAファイナルズ』で引退即退学の現状が改善されるのは間違いなく良いことですし、」

 

斎藤T「そのために、年々と競走ウマ娘が故障しづらくなる環境が整っていくことも喜ばしいことです」

 

斎藤T「でも、そうやって誰もが最初の3年間を走り切ることができるのが今よりもっと当たり前になってくるようになったら、今のように最初の3年間を無事に走り切れたことのありがたみがなくなりますよね?」

 

 

斎藤T「――――――『無事之名バ』という格言の重みがなくなりますよね?」

 

 

ナリタブライアン「それは、まあ、理解できるが……」

 

斎藤T「そう、社会の発展に伴い、トレーニング技術や医療技術の進歩も相まって自然と選手寿命が伸びるようになるわけです」

 

斎藤T「特に、世界最先端のスポーツ科学を導入して設備更新に余念がない中央トレセン学園だと、それが顕著になります」

 

斎藤T「そうなると、上位リーグ『ドリーム・シリーズ』への移籍も以前では考えられない数に昇ることが予想されるわけで、夢の舞台『トゥインクル・シリーズ』が一転して『ドリーム・シリーズ』の通過点にしかならなくなりますよ」

 

ナリタブライアン「……当たり前のことじゃないのか?」

 

飯守T「ちがうんだよ。初めてトレセン学園の門を潜った時に見据える先が最初の3年間から、その先の向こう3年も付け足されるような感じになるって話だ」

 

飯守T「ほら、選手寿命が伸びて最初の3年間を走り切って『URAファイナルズ』出走が当たり前になれば、周りはみんな『ドリーム・シリーズ』での勝利を最初から目指そうってことになるだろう?」

 

飯守T「そうなると、『最初の3年間だけしか走れないウマ娘は真の名バじゃなかった』って言われるようにならないか? 当たり前じゃなかったことが当たり前になってくるとさ?」

 

飯守T「だから、トレセン学園に来る生徒たちは『ドリーム・シリーズ』まで行けるかどうかをまず考えて『トゥインクル・シリーズ』に出るか出ないかを考えるようになって、今よりもっと篩い落とされるんじゃないかってことで心配なんだ」

 

飯守T「当然、トレーナーにしてみても『トゥインクル・シリーズ』での最初の3年間だけじゃなく『ドリーム・シリーズ』でも勝てるような遠大な計画を練らなくちゃならなくなるから、」

 

飯守T「それだけ経験も知識も乏しいのが当然の新人トレーナーなんかに自分の将来を預けられるわけもなく――――――」

 

斎藤T「結果として、出走バとトレーナーを合わせた競技人口の衰退が懸念されるわけです」

 

ナリタブライアン「……でも、それはすぐにそうなるというわけじゃないんだろう?」

 

斎藤T「元々、優駿競バ『ドリーム・シリーズ』が中央競バ『トゥインクル・シリーズ』の新陳代謝を求めて設立された経緯を考えると、当初の理念が破綻する時期が迫っているのは間違いないです」

 

ナリタブライアン「……要するに、勝って当然のウマ娘を老廃物として洗い流すことができなくなるという意味か、それは?」

 

斎藤T「それ以外に聞こえましたか?」

 

ナリタブライアン「……キレイな表現で包んだところでな」

 

斎藤T「とりあえず、今は目の前にある課題の回答として『URAファイナルズ』の恒例化を目指しますが、将来的に競技人口が飽和状態になって衰退する問題の解決策については模索中です」

 

飯守T「まあ、ブライアンはトレセン学園の黄金期の象徴として そんな明るくない将来のことなんか気にせず走れってことだな」

 

ナリタブライアン「……そうか」

 

 

――――――いよいよ『生徒会総選挙』が始まる。

 

 

それは今年でトレセン学園を卒業していく“皇帝”シンボリルドルフが象徴となった黄金期の終焉を意味した。

 

当然、生徒会役員も3期に渡って生徒会長職に就いていたシンボリルドルフが退位することによって、今までとはまったく新しい明日を迎えることになる。

 

生徒会副会長:エアグルーヴは満場一致で会長職を引き継ぐことになるが、あまりにも偉大でありすぎた先代の路線を維持するのが精々で、その影響力のちがいは言うに及ばず。

 

そして、もうひとりの副会長:ナリタブライアンも在学中に上位リーグ『ドリーム・シリーズ』に移籍することになり、そういう意味では『トゥインクル・シリーズ』の卒業レースとして『URAファイナルズ』を出走することになる。

 

 

そのため、生徒会メンバーの三者三様の一足早い卒業式が『生徒会総選挙』で成されるというわけである。

 

 

だが、それぞれの行き先で困難が待ち受けていることは先に述べた通りである。

 

この世の中に完璧なものなど存在しない。完璧なものがないからこそ、生成化育して自然は絶えず進化し続けているのだ。その可能性を信じる他ない。

 

だからこそ、先人たちは後を継ぐ者たちを憐れんで良いものを遺していこうと愛をもって生業に励むべきなのだ。

 

そして、その意志を受け継いだ者たちが問題に取り組んで少しでもより良い明日を託すことができるように、また後を継ぐ者たちのために励んでいくのだ。

 

そう考えると、新たに生徒会役員になる“帝王”トウカイテイオーと“名優”メジロマックイーンに受け継がれるものは非常に重たい。

 

でも、シンボリルドルフたち偉大な先人たちによって黄金期が切り拓かれたという記憶は残り続け、それがいつの時か黄金期の再来を目指して奮起させることになるだろう。

 

 

――――――やれるということを示す。

 

 

――――――できないことはないと示す。

 

 

――――――ウマ娘の可能性を示す。

 

 

それは“超光速の粒子”を目指すウマ娘:アグネスタキオンにとっては、自分とはちがったアプローチで“可能性”を目指すものとして受け止められることになった。

 

だから、“超光速の粒子”の名に相応しい活躍をすることを約束したからこそ“斎藤 展望”という待ちに待った担当トレーナーを得られたのだから、

 

アグネスタキオンが計画するプランAの終着点が()()()()()()()()()()()()()のは彼女なりのトレセン学園への恩返しの形だったのかもしれない。

 

トレセン学園の将来について理解したのだから、それだけ生徒会に深く関わっていく展開になっていくというわけなのだ、これから。

 

そして、まさかのまさか――――――。

 

 

――――――まさか、WUMA以外の脅威にこんなにも戦い続けることになるとは思いもしなかった。

 

 

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