ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第4話   もうひとつの世界への入り口

-西暦20XY年01月19日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

最初に言っておく。私にはいろいろな肩書がある。決して一言では説明できない多様性を持った複雑極まりない人間だ。

 

手始めに、この身体の本来の持ち主である“斎藤 展望”は両親が皇宮警察であり、それも天皇・皇后 両陛下の身辺警護を担当したような世界でもっとも誉れ高い役職に就いていた両親の血筋と才能を受け継いでいる。

 

それも、私が生まれ育った23世紀の地球とは異なる進化と歴史を歩んだヒトとウマ娘が共生する世界において、由緒正しき天皇家に仕えてきた『名族』の末裔である父親と世界最高峰の警察バの母親の間に生まれたハーフである。

 

そして、自身も両親の後を継ぐ者として皇宮警察官を目指していたが、両親が妹を残して事故死したことによって、唯一の肉親にして警察バとして最高の血筋と才能を受け継いだ最愛の妹のために人生を捧げることになった。

 

そのため、国民的スポーツ・エンターテイメントであるウマ娘レースのトレーナーになって一攫千金を狙うことになるが、あまりの余裕の無さからくる強引さから配属して早々に“学園一の嫌われ者”として悪名高くなってしまう。

 

当然、すぐに免職・解雇の対象になるのだが、時同じくして4月中に学外でウマ娘に撥ねられて3ヶ月間の意識不明の重体に陥る天罰を受けることになったのだ。

 

結果、どういった因果か、本来の“斎藤 展望”の魂は肉体から離れ、23世紀の宇宙船エンジニアである世紀の天才の私がワープ航行中の波動エンジンのトラブルによって四次元空間で肉体を失った状態で、空っぽになった“斎藤 展望”の肉体に宿ることになったのだ。

 

 

――――――もう、これだけでいっぱいであろう。

 

 

だが、私が“斎藤 展望”として活動しだした7月から12月までの期間(シーズン後半)で、私は21世紀の人間としても、元々の23世紀の人間としても、ありえないような体験を積み重ねていくことになった。

 

その最たるものこそが、未知との遭遇。第八種接近遭遇:宇宙人による侵略であり、

 

並行宇宙の地球の支配種族である“フウイヌム”こと怪人:ウマ女――――――WUMA:Worldwide Unidentified Miscreant Alien《世界的な未確認侵略生物》との暗闘の日々であった。

 

擬態対象への完全な擬態“成り代わり”を繰り返し、這い寄るように人間社会を乗っ取るために密かな侵略を繰り出す恐るべき超科学生命体であり、

 

WUMAの存在が明るみになった時の社会秩序への悪影響を考えれば、決して公表すべきではない 闇から闇へと葬るべき 忌むべき存在であり、その戦いは非常に孤独なものであった。

 

それでも、年末の1週間での奥多摩攻略戦によって、WUMAの本拠地となっていた川苔山:百尋ノ滝の地下に存在する秘密基地を制圧することに成功し、

 

やつらの侵略の要である“潜航艇”を四次元空間で消滅させることで、やつらは本国から増援を呼ぶことができなくなり、WUMAの本格的な地球侵略をこうして未然に阻止できたのである。

 

ついでに、奥多摩に割拠するエルダークラス:ヒッポカンポスの軍団を全滅させ、船橋市のエルダークラス:ヒッポクラテアの軍団を服従させることに成功。

 

また、府中市のエルダークラス:ヒッポリュテーの軍団の残党がいたが、横嶋Tに擬態したことで人格を染め上げられたシニアクラスの一個体がクーデターを起こし、

 

他のシニアクラスを暗殺して残党を丸ごと自身の傘下に組み込んだ後、奥多摩の本拠地を占拠しようと押し寄せたのだが、そこでまさかのNINJA:斬馬 剣禅の登場によって返り討ちにすることができた。

 

よって、残るは多摩地域のエルダークラス:ヒッポネイピアの軍団の残党たちであり、すでに散り散りになって追跡が困難な残党の追討をNINJA:斬馬 剣禅にお願いしていた。

 

 

箇条書きにするとこんなところだが、協力者がいたにしても、単身で超科学生命体の軍団を各個撃破していく難行を半年でやることになったのだから、いかに21世紀の地球が滅亡の危機と隣り合わせになっていたかにゾッとしてしまう。

 

 

しかし、単身で怪人:ウマ女の軍団を打倒できるだけのこの世のものとは思えない力と世界を救った英雄に相応しい報酬を得ることができたのだ。

 

また、その過程で“斎藤 展望”の学園一の嫌われ者の悪名はついて回ったものの、逆に興味本位で周りの人間から言い寄られることがなくなり、本当に信頼できる人たちからの知遇だけを得ることができたのだ。

 

そういう意味では、学園一の嫌われ者として最初の動きでさえも計画的犯行だったのじゃないかと、生徒会長:シンボリルドルフが冗談めかして言うぐらい、私は完全なマイナスの状態から大逆転してみせたのだ。

 

それはそれとして、今は肉体から離れて何処かへと消えた“斎藤 展望”への義理立てでトレセン学園や斎藤家への奉仕に明け暮れながら、

 

私は私で宇宙移民らしく『宇宙船を創って星の海を渡る』という夢を追い求めてヒト・モノ・カネを集めて回り、21世紀の地球圏統一国家樹立がいまだならずの御時世で恒久平和実現への技術革新に邁進するのであった。

 

そう、この世界に“斎藤 展望”として生まれ変わってWUMA撃滅に明け暮れた半年間は、年明けからの革新に繋げるための序章であり、未知なるカダスを夢に求めるような日々が始まったのだ。

 

 


 

 

――――――トレセン学園/元 岡田Tのトレーナー室

 

・・・ガチャン!

 

斎藤T「よし、これで向こうに行く準備ができたな」

 

斎藤T「では、出発する前に最後の確認をしておこうか」

 

斎藤T「トレーナー室の入り口にあるスケジュールボードにはきちんと今日明日が遠征になることは明記した」ヨシ!

 

斎藤T「いつもシャワーを使っているナリタブライアンには昨日ちゃんと伝えて非常食も渡した。他の人たちにもメッセージも送ったし、予定表アプリやデータベースにも入力してある」ヨシ!

 

斎藤T「扉に閂をして物理的に開かないようにした」ヨシ!

 

斎藤T「そして、万が一 扉を破った場合には火災報知器が鳴るようになっている」ヨシ!

 

アグネスタキオン「それだけじゃなく、粘着式トラップもこの通り!」クククッ!

 

斎藤T「これで万が一に私のトレーナー室に土足で踏み込んできた連中の物的証拠を確保できる」ヨシ!

 

斎藤T「監視カメラやセンサーも異常なし」ヨシ!

 

斎藤T「必要な物資はすでに移送済み」ヨシ!

 

斎藤T「では、行こうか」

 

アグネスタキオン「ああ」

 

 

――――――いざ、百尋ノ滝の秘密基地へ!

 

 

そうしてトレーナー室に置かれた完全循環型ユニットシャワールームに偽装された瞬間物質移送器が本来の機能を発動させる。

 

外見は八角形型の培養槽やミキサーに似ているユニットシャワールームがSFに出てくるワープ装置の一種であるとはまさか誰も思うまい。

 

当然、遠隔地に物質を移送するだけのエネルギーを家庭用電力で賄えるかという真っ当な疑問に答えれば、もちろん莫大なエネルギーが必要になり、地域一帯が停電になるレベルなので不可能である。

 

むしろ、地域一帯が停電になるだけでそれが実現できる超科学生命体の並行宇宙の地球を支配するに相応しい科学力の高さを評価すべきだろう。

 

では、どうやって瞬間物質移送器の動力が賄われているのかと言えば、この偽装されたユニットシャワールームの本来の機能が発動する際に、子機である瞬間物質移送器に親機からエネルギーを直接的に移送されているからできることである。

 

つまり、最初に親機と子機の間に目に見えないエネルギーラインのパスを繋げておく必要があり、この瞬間物質移送器の子機はあらかじめWUMAが別用途で使っていたものを移植したものなので、パスの接続に問題はなかった。

 

そして、瞬間物質移送器を使用する際は親機からエネルギーを送電してもらう必要があるため、まず親機にアクセスする手順を踏まないと瞬間物質移送器として使うことができない。

 

なので、まさか百尋ノ滝の地下深くに存在する親機にアクセスする必要があるだなんて普通はわかるわけがないので、

 

完全循環型ユニットシャワールームに偽装された瞬間物質移送器の機能が明るみになることは絶対にないため、本当は出発前にここまで防犯対策をしておく必要はない。

 

ただ、完全循環型ユニットシャワールームはウマ娘4人ぐらいで組み立てができるもののため、盗もうと思えば持ち出しが可能であることから、用心するに越したことはない。

 

 

ところで、WUMAたちはこの瞬間物質移送器を積極的に活用することはなかった。

 

 

それはなぜかと言えば、まだ侵略が本格化する次の段階が進行していない時期であったのも一因にあり、

 

どれだけ技術革新によって改良されているにしても、21世紀の地球では使うだけで地域一帯が停電するレベルの電力を必要とするだけに、迂闊に家庭用電力からエネルギー供給を受けるわけにもいかなかったのだ。

 

そして、私がそうであるように 万が一にもポータルが盗まれて その技術が明るみになるリスクをまず考えてしまうので、

 

そもそも、やつらには空間跳躍能力が備わっている他、擬態能力を活用することで欲しいものがその場で手に入るので、瞬間物質移送器の運用には消極的であった。

 

なので、ポータルを置いたところにしか移送できない瞬間物質移送器のありがたみがWUMAにはあまり感じられないし、侵略の尖兵たる先遣隊としては活用する場面がない。

 

ジュニアクラスは完全に擬態対象に成りきってWUMAの技術に触れることもないし、シニアクラスは擬態対象に成りきっているジュニアクラスの監視で忙しいし、エルダークラスは一飛びで本拠地から往復できるのでまず使わない。

 

そういうわけで、本国からの増援を大量に呼び寄せて侵略を本格化させる段階まで行けば瞬間物質移送器も大々的に利用されることになるのだが、基本的に先遣隊には不要なものであった。

 

 

――――――そう、現に地球人に技術を奪い取られて活用されるぐらいなのだから。

 

 

 

――――――百尋ノ滝の秘密基地

 

アグネスタキオン「ハッ」

 

岡田T「おつかれさまです!」 ――――――手にはタブレットコンピュータが握られている。

 

アグネスタキオン’「やあやあ! よく来たね! しばらくぶりだよ!」

 

アグネスタキオン「お、移送に成功したか……」ホッ

 

斎藤T「さて、報告は確認しているが、あれからWUMAの本拠地がどんなふうに様変わりしたことか」

 

岡田T「スゴイですよ! さすがは超科学生命体の遺産です!」

 

岡田T「さあ、バルコニーから見ますよ。着いてきてください」

 

アグネスタキオン「ほう」

 

 

――――――そして、移送先の城塞のバルコニーから見える光景は百尋ノ滝の地下深くあるとは思えない光景であった。

 

 

アグネスタキオン’「どうだい! WUMAの技術の結晶である潜航艇は四次元空間に消えたけれども、この秘密基地の機能でここまでのことができるんだよ!」

 

アグネスタキオン「おお!」

 

斎藤T「大したものじゃないか! これが本当に川苔山の地下の光景なのかと改めて目を疑ってしまうよ!」

 

岡田T「未来都市っていうのはこういうものなんでしょうね」

 

斎藤T「ああ。やつら、太陽に準じた光源の開発に成功しているから、無限に近い動力をあれで供給できるわけだ」

 

アグネスタキオン「地下都市なのに青い空、風にそよぐ青々とした芝生、水の都を思わせる青さを湛える水路か――――――」

 

斎藤T「ただ、以前に来た時はやつら色の純白な西洋建築で統一されていたんだがな」

 

アグネスタキオン’「ああ。あれも悪くはないセンスだったけど、これからは私たちの研究施設として存分に使うから、区画整理をさせてもらったよ」

 

 

斎藤T「わかるよ。この城塞のバルコニーから見下ろせた西洋庭園がウマ娘レースのバ場になっているし」

 

 

岡田T「そうそう。近代ウマ娘レースのルーツになっている王侯貴族の庭園で踊りのセンターの座を賭けてレースをした踊り子たちの歴史に因んでね」

 

斎藤T「これはまた、やつらにとっては強烈な屈辱だろうな」

 

アグネスタキオン’「そうだねぇ。やつらにとってこの世界は野蛮な猿人類“ヤフー”によって“フウイヌム”の同胞たるウマ娘が愛玩動物扱いされている間違った歴史だからねぇ」

 

アグネスタキオン「ざっと見たところ、府中:東京競バ場を再現した感じかい?」

 

岡田T「まあ、見た目だけはね。芝は元々ここで使われていたもので構成してある」

 

岡田T「見取り図と比較すればわかるとおり、府中:東京競バ場はテーマパークとしても完成された場所だから、この本丸からバ場を構成する際の参考になったよ」

 

 

 

――――――アグネスタキオン、これがきみ専用の練習場だ!

 

 

 

アグネスタキオン「大した贈り物――――――、いや、お年玉じゃないか! たまらないねぇ!」ハハハ!

 

斎藤T「よかった。喜んでもらえたみたいだ」

 

アグネスタキオン「いや~、私への贈り物にバ場を用意してくれるだなんてね! これ以上の贈り物が他にどこにあるっていうんだい?」クククッ!

 

アグネスタキオン’「どうだい、モルモットくん? 私の判断に間違いがなかっただろう? 私も同じアグネスタキオンなのだからね?」

 

アグネスタキオン’「――――――私の演技力も大したものじゃないか」

 

斎藤T「いや、あの時()()()()()()()買わせたんだろう? 私が本当に意味もなくダイヤモンドのネックレスなんて贈るわけないだろう?」

 

斎藤T「なんとなくわかってたさ」

 

アグネスタキオン’「そうかい」フフッ

 

アグネスタキオン’「まあ、同じ炭素ならダイヤモンドよりもカーボンナノチューブのサポーターの方が喜ぶだろうと思うきみなんだからさ」

 

アグネスタキオン’「そうさ。そんなものより、もっと実用的なものを贈りたいに決まっている」

 

 

アグネスタキオン’「そこで、私が()のために秘密の練習場を用意したというわけさ!」ドン!

 

 

岡田T「ああ 羨ましい! おひとり様専用にしておくにはもったいないぜ! テイオーにも使わせたかったな!」

 

岡田T「けど、それだけじゃなかったんだな」

 

アグネスタキオン「え」

 

斎藤T「?」

 

岡田T「府中:東京競バ場を再現できたということは――――――?」

 

斎藤T「――――――ということは?」

 

岡田T「チェエエエエエエエエエエエエエンジ!」クワッ!

 

 

――――――キョート・レースコース! スイッチ・オン!

 

 

斎藤T「お、おおおおおおおおお!?」

 

アグネスタキオン「まさか――――――」

 

アグネスタキオン’「そのまさかだよ」クククッ!

 

岡田T「ほら、わかるかい? あそこの芝・外回りの第3コーナー“淀の坂”! あれも再現できたから!」ピッ

 

アグネスタキオン’「この通り、京都競バ場の特徴的な斜面も再現できたよ」

 

アグネスタキオン’「まあ、中央トレセン学園で保管されてた各競バ場の3Dモデルを読み込ませた後に手直しをしただけだから、一から造ったわけじゃないけどね」

 

アグネスタキオン「つまり、この空間自体が巨大な3Dプリンタのようなもので自在に造形できるというわけなんだね!」

 

斎藤T「報告にはあったが、さすがは超科学生命体の空間跳躍技術だな……! 凄まじい!」

 

アグネスタキオン’「別に、そこまで難しくはないさ。21世紀の地球の回路設計や建築設計を足して2で割ったような都市設計図を操作するだけだしね」

 

岡田T「俺にはさっぱりだったけど、現代人(俺たち)向けにスターディオンさんがインターフェースを改良してくれたおかげで、俺でもバ場の造成ができたからな!」

 

斎藤T「――――――楽しかった?」

 

岡田T「ああ! メッチャ楽しい! 実際に目の前でバ場を弄くり回せるんだよ! 東京の地下鉄のモデルを創り上げる鉄オタの気持ちがわかったかもしれない!」

 

岡田T「だから、見てください、斎藤T! これが今の俺の最高傑作です!」

 

岡田T「チェエエエエエエエエエエエエエンジ!」クワッ!

 

 

――――――ナカヤマ・レースコース! スイッチ・オン!

 

 

アグネスタキオン「おお!」

 

斎藤T「?」

 

斎藤T「え? 去年の『有馬記念』はハッピーミークのサブトレーナーとして観戦してましたけど、改めて見ると中山競バ場ってこんな造形だったんですか?」

 

斎藤T「ちょっと見取り図を見ても理解できないんですけど、中山競バ場ってどういう造りになっているんです?」

 

岡田T「ちょっとわかりづらいでしょうから、平面の走路図がこんな感じです」ピッ

 

斎藤T「え? 何だ、この入り組んだトラックはいったい――――――?」

 

岡田T「それで、高低断面図のデータを反映させると、目の前のバ場の状態になるわけですよ」ピッ

 

斎藤T「おお。高低差のない平面なトラックも再現できるんだ」

 

岡田T「競バシミュレーターとしては最高ですよ、これ! マーキングだって反映されますから、あの辺がゴール前の逆転劇に繋がる“急坂”ってのもわかりますし!」

 

岡田T「あ、そうだ。見ててください。こうすれば『有馬記念』で走る芝・2500mが丸わかりですよ」

 

斎藤T「へえ、トウカイテイオーやハッピーミークが走っていたのはあんなコースだったんだ……」

 

斎藤T「あ、そうか。見慣れてないこともあったけど、バ場だけ再現した光景だし、バルコニーから見下ろす形で観戦はしてなかったな……」

 

岡田T「更に、調整を加えれば荒れたバ場にも重バ場にも変えられます!」

 

アグネスタキオン’「雰囲気を出すために天気でも変えてみるかい? 風も吹かせるかい?」

 

アグネスタキオン「おお、暗くなって風も吹いてきたよ! 小雨も降ってきたね!」

 

アグネスタキオン’「どうだい? きみの練習に合わせて秘密基地全体の天候だって変えられるんだよ?」

 

アグネスタキオン「そうかい! そいつはたまらないねぇ!」

 

岡田T「そうです! 世界最高のトレーニング場ですよ、みなさん!」

 

斎藤T「………………恐るべしWUMAの科学力! こんなの、23世紀の宇宙科学でも到底実現できないことだ!」

 

 

そう、斎藤家の年末年始が終わってから、岡田Tとアグネスタキオン’(スターディオン)には百尋ノ滝の秘密基地にずっと行かせていた。

 

スーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)の時間跳躍能力ならば、一度行ったことがある場所なら いつでもそこに行くことができた。

 

最初は私も一緒に誰もいなくなった無人都市を見て回ることになり、唯一の出入り口である百尋のエレベーターで爆殺したヒッポカンポスの軍団が眠る共同墓地で黙祷を捧げた。

 

そして、WUMAの遺産として何があるのかを調べてみたところ、瞬間物質移送器なるものが存在することを知ることになり、ちょうどその頃に完成していた完全循環型ユニットシャワールームを改造して実用化できないかを検討することになったのだ。

 

そのため、トレセン学園で瞬間物質移送器のテストをするためにある程度まとまった空間が要求されたため、岡田Tのトレーナー室を譲り受けることになった。

 

 

だから、年明けで部活棟の実験室を引き払って岡田Tのトレーナー室に拠点を移すことになったのである。

 

 

瞬間物質移送器の実験に成功すれば、こうして百尋ノ滝の秘密基地に瞬間的にアクセスすることができるようになり、学園から貸し与えられた限られた空間と設備の実験場が不必要となるからだ。

 

そうなれば、これから競走ウマ娘として『トゥインクル・シリーズ』に出走することになるアグネスタキオンのドーピング疑惑の証拠を隠すのも容易であり、スキャンダル対策にももってこいだった。

 

それから、アンチ・ドーピングのイメージを確立するために生化学から人間工学に切り替えた実験設備をトレーナー室に構えることになり、元々の生化学の実験設備は百尋ノ滝に移転させることで納得させることになった。

 

 

なので、こうして偽装した完全循環型ユニットシャワールームからアクセスできる百尋ノ滝の秘密基地にある自分たちだけの広大な実験場を獲得できたアグネスタキオンの表情はかつてないほどに夢と希望に満ち溢れていた。

 

 

それは科学者ならば誰だって一度は夢見る自分だけの秘密基地には心躍るものがある。

 

私とて内心では知的探究心と興奮が冒険しそうになっている。

 

正直に言って、トレセン学園のトレーナーであることを放り出して、WUMAの遺産である未知のテクノロジーの解明に乗り出したい衝動でウズウズしているぐらいだ。

 

とりあえず、実際に百尋ノ滝の秘密基地で生活をすることが可能なのかを岡田Tとアグネスタキオン’(スターディオン)に検証してもらい、完成した瞬間物質移送器で移送が問題なくできることまでは確認できた。

 

これで私の担当ウマ娘:アグネスタキオンが『トゥインクル・シリーズ』で勝って当然と言えるほどの反則級の武器が手に入った。

 

もちろん、レースは展開次第で何が起きるかわからないものなので油断大敵だが、クラシック級:2年目ではほとんどのウマ娘が初めて走るはずの各競バ場を再現したコースで練習できる優位性は言うまでもないだろう。

 

なので、岡田Tには引き続きクラシック戦線で走ることになる代表的なバ場を優先して再現パターンを組んでもらうことにし、再現したバ場ごとに基本給にプラスすることにした。

 

その一方で、基地の機能を使って東京競バ場をはじめとしたバ場を再現するなど、担当ウマ娘を三度も故障させた負い目から鬱病になっていた岡田Tに新しく熱中できるものが見つかったようで、元気溌剌とした表情と力のこもった瞳を見て そのことを非常に嬉しく思う。

 

 

スタスタ・・・

 

斎藤T「さすがに、メインストリートの純白に調えられた西洋の街並みには手を出していないか」

 

斎藤T「まあ、ここから見える本丸だけでも十分過ぎる広さだからな」

 

斎藤T「これはたしかにちょっとした国の規模にもなるから、本国から呼び寄せるはずだった増援のことを思うと、本当に何とかなって良かったよ……」

 

斎藤T「改めて、トレセン学園もそうだが、競バ場ってのはとにかくデカイんだな」

 

アグネスタキオン「本当に広大だねぇ。全国各地の競バ場を入れても余りそうなのに、本当に地下空間なのかい、ここは?」

 

斎藤T「そうでもあるし、そうでもないと言える」

 

 

斎藤T「ここはやつらの超科学の空間跳躍技術の応用で本来の地層を歪ませて築かれた場所なんだ」

 

 

斎藤T「あるいは、宇宙の膨張を利用して空間を自在に圧縮・展開させているとも言える」

 

アグネスタキオン「????」

 

斎藤T「ほら、遥か頭上に見える人工太陽も実際にはあそこに見える百尋のエレベーターよりも低い位置にあるはずなんだけど、あれが歪曲空間を発生させる力場の中心となる支柱になっているんだ」

 

斎藤T「あれがあるから最初に地下空間に拠点を築き上げるのが役目となる潜航艇がなくなった後も、百尋ノ滝の地下に広大な居住空間を維持することができているんだ」

 

斎藤T「だから、この空間は超科学で再現された“天球”と言えるのかもしれない」

 

アグネスタキオン「――――――観測者を中心とした半径の無限に大きい仮想的球面だったね」

 

斎藤T「そう、実際の距離を極限まで短縮させる空間跳躍技術をもってすれば、逆に無限遠に存在する物体を設置することも可能なんだ」

 

アグネスタキオン「それはつまり、百尋のエレベーターよりも低い位置にありながら、実際にはどれだけ近づこうとしても辿り着けない場所に、あの人工太陽とやらは存在するのかい?」

 

斎藤T「ああ。証拠に、スーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)に試しに飛んでいってもらったけどまったく辿り着けなかったんだ。天井まで百尋(181.8m)ぐらいの高さのはずなのに」

 

斎藤T「直線コースなら極限まで距離を短縮することができるはずの空間跳躍でもってしても辿り着けないとすれば、それは目で見る事実よりも遥かに遠くに存在している無限遠の物体という推測が成り立つんだ」

 

斎藤T「無限遠――――――、つまり無限大に収束してしまっているから具体的な距離が想像・算出できないんで、スーペリアクラスの空間跳躍でもってしても辿り着くのが無理なんだな」

 

斎藤T「おそらくは、四次元における並行宇宙座標を参照させることで三次元の物質世界のどんな場所でも安定できるようになっているはずなんだけど……」

 

アグネスタキオン「????」

 

斎藤T「結論から言えば、あの人工太陽は潜航艇で持ち込んだものじゃないんだ」

 

斎藤T「瞬間物質移送器と同じで、あらかじめパスを繋げて潜航艇からアクセスすることで無限大のエネルギーをこの歪曲空間に供給して恒久的に安定させていることがわかっている」

 

斎藤T「つまり、恒星を卵の殻のように覆うことで恒星の発生するエネルギー全ての利用を可能とする宇宙コロニーの究極の姿:ダイソンスフィアの原理に辿り着いているんだよ、やつらの超科学は」

 

アグネスタキオン「そ、そうなんだ? すまないが、宇宙科学はそこまで詳しくないんだが……」

 

斎藤T「もう凄いよ。超巨大な物体である恒星すら覆う超超巨大な宇宙コロニーによる考えられる上で最大の太陽光発電を空間跳躍技術で極限まで最小化して実用化しているんだから」

 

斎藤T「だから、やつらの文明はエネルギー不足に悩まされることなく、潤沢なエネルギー資源によって地球の科学では机上の空論だったものが次々と実用化できているわけなんだな」

 

斎藤T「そりゃあ、超科学生命体にもなるさ。並行宇宙の地球の支配種族にもなるさ」

 

斎藤T「そして、幸か不幸か、やつらはその超科学に依存する必要がないほどに強大な怪人:ウマ女であったことから、たったひとりの地球人に本拠地を制圧されることになったんだ――――――」

 

アグネスタキオン「ふぅン。つまり、あの人工太陽からのエネルギーラインを外に引くことができれば、この地球でエネルギー革命が起こせるんだね?」

 

斎藤T「ああ。ただ、アクセス権を持つのはこの歪曲空間を作成できる機能を持つ潜航艇だけだ。その潜航艇は賢者ケイローンと共に四次元空間に消滅してしまったが……」

 

斎藤T「けど、それでいいんだ。今の地球圏統一国家が成立していないような戦争が止められない21世紀の地球人には過ぎた代物だ」

 

 

アグネスタキオン「要するに、“天球”の概念を用いて説明すると、この地下空間の天井にあるように見える人工太陽は実際には四次元空間に存在するものなのかい?」

 

 

斎藤T「そう。天井までを大気層と見做した時、そこから先の宇宙空間が四次元空間になっていると考えられるな。そういう境界線に天井が利用されているのかもしれないね」

 

アグネスタキオン「ふぅン。そう考えるとわかりやすいね」

 

斎藤T「まあ、宇宙科学が専門外なら、そこまで深く考える必要はないさ。私の趣味で研究を進めるだけだから」

 

 

斎藤T「それよりも、お前専用の練習場をこうして用意したんだから、これからはお前自身が積極的に活用してくれ」

 

 

斎藤T「私はトレーナーバッジを身に着けてはいるが、この通り“斎藤 展望”の記憶を一度は失くしている身でね。トレーナーとしての知識や指導力に関しては完全な素人だ」

 

斎藤T「それを補うのが“無敗の2冠バ”トウカイテイオーの担当トレーナーの岡田Tというわけだが、そこまで他人の世話にはなりたくないだろう」

 

アグネスタキオン「ああ。それもそうだね」

 

斎藤T「改めて言うが、私は私の夢のために必要なものでトレセン学園で得るものは十分に得たから、お前の勝敗なんかに興味はこれっぽっちもない」

 

斎藤T「最低限 担当トレーナーとしての出走チケットの役割は果たすから、勝手に走って、勝手に勝って、勝手に引退すればいい。儲けた分は手数料として山分けだが」

 

アグネスタキオン「ああ、それぐらいが私たちにはちょうどいい」

 

斎藤T「もちろん、スキャンダルになるようなことは控えてもらおう。実験場もここにあるのだから、トレセン学園にいる間はある程度は品行方正でいてもらうぞ。学生寮にもきちんと帰れ」

 

アグネスタキオン「まあ、授業なんて免除されているから、もう出る必要もないんだがね」

 

斎藤T「…………何のために学校に通っているんだ、これは?」

 

斎藤T「なんでなんだ? せっかく授業中でもおとなしくしていられるように予想問題を解かせているのにな?」

 

アグネスタキオン「さあ、なんでなんだろうね、トレーナーくん? これが私にもさっぱりだよ」

 

斎藤T「まあ、何にせよ、ここで週末を過ごす時間が楽しみでならないな!」

 

アグネスタキオン「ああ! 毎週のように外出届を出すのが面倒でしかたないけどね」

 

斎藤T「あ、そうか。証拠写真とか必要だよな。監督者としてレポートも出さなくちゃだしな」

 

アグネスタキオン「なんだかんだ言って、きみもちゃんとトレーナーしているじゃないか」フフッ

 

斎藤T「トレーナーとしての実績がつかないように立ち回らないとな。まさかとは思うが、逆指名されて追い掛け回されることになったら やりづらいこと この上ない」

 

アグネスタキオン「いや、ミークくんを模擬レースでブライアンくんに勝たせて『天皇賞(秋)』優勝に導いた実績があるのに、何を今更?」

 

アグネスタキオン「まあ、その時はいつでも言いたまえ。私の新しいモルモットとして可愛がってあげるから」クククッ!

 

 

そして、百尋ノ滝の秘密基地でのオリエンテーションは終わり、世界一受けたい秘密の特訓の初日が始まった。

 

最初は府中:東京競バ場の“だんだら坂”に挑戦し、次は京都競バ場の“淀の坂”、中山競バ場の“急坂”を体験することになった。

 

もちろん、ウマ娘は身の丈に余る力で自壊しかねない繊細な生き物だ。練習で常に全力疾走して選手寿命を擦り減らすわけにはいかないので、あくまでもコースの感覚に慣れることに終始している。

 

トレーニングコーチはこの秘密のバ場の管理責任者に任命した“帝王”トウカイテイオーの 元 担当トレーナー:岡田Tが担当であり、

 

ハッピーミークのサブトレーナーをしていた私よりも圧倒的に経験豊富のため、効率的なトレーニングメニューも次々と提案してくるので頼もしい限りだった。

 

基本的なトレーニング方針としては、平日のトレセン学園で基礎練習を行い、週末の百尋ノ滝でコース練習をすることになっている。

 

やはり、何をするにしても基礎練習は重要だ。同時に専門技術も勝敗を分ける上で重要となるが、まずは基礎だ。

 

トレセン学園にあるトレーニング設備はさすがは世界最先端のものに設備更新しているだけあり、これを利用するために入学しているようなものなのだから、バカにしたものではないし、使わない手はない。

 

つまり、同じトレーニング環境での基礎練習だけではトレセン学園のライバルたちと差をつけることはできないだろうが、これが中央と地方のレベルのちがいになるのだから恥ずかしくないように励むべし。

 

その上で、中央で勝ち抜いていくための強みになるものこそがその競走ウマ娘の持ち味というわけであり、この場合は自分だけの秘密の練習場を持っていることがアグネスタキオンの最大の武器になるだろう。

 

いや、実際にはそれだけではなかったことを今更ながらに認識させられることとなる――――――。

 

 

カチッ

 

アグネスタキオン「…………フゥ」

 

斎藤T「おつかれ」

 

アグネスタキオン「ああ……」

 

アグネスタキオン’「タイムは?」

 

岡田T「うはっ!? こんなの、“本格化”を迎える前の未出走バが出すタイムじゃねえよ!?」

 

アグネスタキオン’「具体的には?」

 

岡田T「悔しいけど、テイオーが『皐月賞』に挑む前ぐらいのハロンタイムだよ!」

 

岡田T「未出走バがテイオーの最盛期のちょい手前ぐらいに匹敵する能力を有しているだとぉおおおお!?」

 

岡田T「これ、ジュニア級にいていいやつじゃないから! 逆に出走回避でレースが不成立になるんじゃないか?!」

 

岡田T「だって、勝てるわけないじゃん!? テイオーの全盛期とまともに戦って勝てるウマ娘がどれだけいるって話だよ!?」

 

斎藤T「それは、逆に困ったな……」

 

アグネスタキオン「まあ、実に4年もの歳月を肉体改造強壮剤による地道な強化で費やして、それがトウカイテイオーの全盛期に追いつくぐらいなら、上出来じゃないか」

 

岡田T「――――――ドーピング?」

 

アグネスタキオン「いや、一時的な能力強化じゃないからドーピングじゃないし、禁止物質を投与した形跡はないから合法だよ、これは。何も疚しいことはない」

 

アグネスタキオン「そうだ、きみも試してみるかい、肉体改造強壮剤? 私のトレーナーくんにも試したが、効果は絶大だったぞ! 新しい世界が開くぞ!」

 

斎藤T「やめておいた方がいいです。ドーピングではないのは確かですが、それに見合うだけの栄養補給と休養が必要になるので、下手をすると日常生活が破綻することになります」

 

斎藤T「言うなれば、短期間に常人の数倍の勢いで新陳代謝を活性化させて肉体を急成長させるものなので、栄養失調で死ぬか、力加減を間違って全身が粉々になって死ぬ恐れがある成長促進剤です」

 

岡田T「……そうなのか。じゃあ、今は要らない、今は」

 

アグネスタキオン「――――――『今は』ねぇ?」

 

岡田T「それよりも、ダメだ! これは速すぎる! 圧倒的すぎて賭けが成立しないから、URAが儲からないってことで疎まれるぞ!」

 

岡田T「そうなったら、ドーピング疑惑を掛けて追放しようとする可能性だってある!」

 

斎藤T「つまり、手加減しないといけないわけですか? 競走でウマ娘の全能力を発揮させなければならない建前があるのに?」

 

アグネスタキオン’「……能力がありすぎるのも難儀なものだねぇ」

 

アグネスタキオン「まあ、そういうことなら しかたがないさ」

 

アグネスタキオン「むしろ、余力を残して勝てばいいのだから、戦略的にも有利だろう?」

 

岡田T「それはそうなんだが、きみは脚質からしてテイオーと同じ【先行バ】だろう? このままだと能力がありすぎて結果として【逃げウマ】になるのが目に見える」

 

岡田T「実力を隠すためにポジションを抑えて【差しウマ】や【追込バ】にきみはなれるのかい?」

 

アグネスタキオン「ふぅン、できなくはないね」

 

岡田T「いや、しかしだね、脚質というのは一朝一夕で変えられるものじゃない。それは脚質というのが真剣勝負のレースで表面化するウマ娘の気性と脚力に左右される先天的な要素だからなんだ」

 

岡田T「それに、本番のレース展開を意識した練習もしづらいから脚質を矯正するというのも本当に難しいことなんだよ」

 

アグネスタキオン「ふぅン……」

 

斎藤T「――――――?」

 

アグネスタキオン’「どうしたんだい?」

 

斎藤T「そんなに難しいことかな?」ボソッ

 

岡田T「え?」

 

 

斎藤T「いや、実力は十分にあるから脚力の問題はどうでもいいとして、気性の問題なら別に本番を再現した練習に拘る必要はないんじゃないかと思って」

 

 

アグネスタキオン「ふぅン?」

 

斎藤T「とりあえず、脚質について教えていただけませんか? そうすれば解決の糸口が見出だせるかもしれません」

 

岡田T「いや、そんな簡単に脚質を変えることができるのなら、脚質:自在のウマ娘が天才だなんて言われないんだけどな……」

 

岡田T「じゃあ、わかった。今日はこれぐらいにして、俺は作戦会議のために資料を整理しておくから、適当なところで上がってくれ」

 

アグネスタキオン「ああ、わかったよ、コーチ」

 

 

タッタッタッタ・・・

 

 

アグネスタキオン’「まあ、初日としては担当ウマ娘の能力と課題が判明したわけだから上出来じゃないかい?」

 

斎藤T「そうだな」

 

斎藤T「さすがは岡田Tだな。だてに“帝王”の担当トレーナーじゃない。“皇帝”シンボリルドルフが入学した時に地方から中央に上がってきた選りすぐりの実力者だ」

 

斎藤T「こっちはただ単に勝てばいいと軽く思っていただけに、ああいった立ち回りや戦略を考えることができるのは経験豊富なベテランならではだ」

 

アグネスタキオン’「ああ。自宅療養中でもトウカイテイオー復活のためのトレーニング計画やローテーションを組んでいたぐらいだから、トレセン学園にいなくても問題なくトレーナーとしての実力を発揮していけるな」

 

斎藤T「――――――本当に惜しいことをしたな、世間様は」

 

斎藤T「間違いなく“皇帝の王笏”に匹敵する功績をこれからも打ち立てていくことができただろうに……」

 

斎藤T「まあ、そのおかげで有能な人材を確保することができたんだから、遠慮なく扱き使ってやるさ」

 

アグネスタキオン’「そうだね。打ち込めるものがないとかえって生気を失うらしいから、そうした方がいい」

 

アグネスタキオン’「そういう意味では、抜け殻のような彼を救ったのはきみだよ」

 

斎藤T「成り行き上 そうなっただけで、“皇帝”陛下からの勅命がなければ 会うこともなかったのにな……」

 

 

アグネスタキオン’「実は、私もそうなんだよ、モルモットくん」

 

 

斎藤T「ん?」

 

アグネスタキオン’「この姿も、この想いも、全て貰い物だけれど、私は今が楽しいから」

 

アグネスタキオン’「ジュニアクラスの替えの利く有象無象として使役されることに疑いを持つことがなかったから、何が楽しくて、何が悲しくて、何が嬉しいことなのかを貰い物を通して知ることができたんだ」

 

アグネスタキオン’「だから、私はアグネスタキオンという素敵なウマ娘と姉妹のような関係が結べたことがとても嬉しいんだ」

 

アグネスタキオン’「そして、ヒッポリュテーとケイローンの因子を継承したことで、私がこの世界においてバケモノの一人であるという歴然とした事実に打ちのめされて、そのことで思い悩む日々がずっと続いていた」

 

アグネスタキオン’「でもね、不思議なんだよね。きみが言うことならスゥーッと安心することができたんだ。不安を忘れることができたんだ」

 

アグネスタキオン’「だからね、こうしてきみから御礼の品としてもらったこれをつけてから、私は不思議と落ち着くことができているんだ」 

 

 

アグネスタキオン’「――――――心のこもった贈り物だからなのかねぇ?」キラキラ ――――――ダイヤモンドのネックレスが情熱的に輝く。

 

 

斎藤T「……ご褒美が欲しいのか?」

 

アグネスタキオン’「うん! ここまでWUMAの遺産の調査と区画整理を頑張ったんだから労ってくれよ、モルモットく~ん!」

 

アグネスタキオン’「しばらくぶりなんだし、いっぱい話したいことがあるんだ! 今日明日いっぱい話そうよ~、モルモットくん!」

 

アグネスタキオン’「あと、髪や尻尾も洗っておくれよ~! ユニットシャワールームは便利だけど、やっぱり洗面台(シャンプーボウル)でモルモットくんに髪や尻尾を洗ってもらうのが気持ちいい!」

 

斎藤T「はいはい、労ってやるさ。ここなら人の目を気にしなくていいからな。つきあってやるよ」

 

斎藤T「お前には助けられてきたからな。そんな安物では払いきれないほどにね」

 

アグネスタキオン’「それを言うなら、岡田Tもそうだし、テイオーだってそうだし、私もだよ」

 

 

――――――名前のないバケモノからアグネスタキオン’(スターディオン)に私を生まれ変わらせてくれたのは他でもないきみなんだから。

 

 

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