ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第5話   生徒会総選挙に現れた明暗境界線

-西暦20XY年01月22日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

もうね、いいかげんにしろって話だよ。

 

この日は『生徒会総選挙』の開票日で、火曜日定例の全校集会でその結果を報じて生徒会役員の就任式もやるわけなんだけど、

 

基本的に内々で生徒会役員になることを打診されて立候補した者だけの信任投票なので対立候補がいないし、何の問題もなく終わると思っていた。

 

台本通りの開票結果と就任式で“皇帝”シンボリルドルフが生徒会長の座を“女帝”エアグルーヴに譲り渡してウイニングライブが行われたまでは既定路線だったのだけれど、

 

ところで、私は 昨日 学校裏サイトならぬ学校裏世界を歩かされることになったのに、今日もまた日めくりカレンダーが数時間前に頭の中に浮かんできており、嫌な予感しかしていなかった。

 

 

――――――実際、人生ってのは何があるかわからないものだ。

 

 

突如として、窓を突き破って講堂に筋肉ムキムキのマッチョマンのヘンタイが乱入してきて、次々と生徒たちに暴行を加えるという目を疑うようなテロリズムが起きたのだ。

 

当然、こうした学園の式典などでは警備を行っているERTが対処に動いたが、その前に生徒一同が集まる講堂は『生徒会総選挙』どころではない大パニックになり、我先へと出口に生徒たちが殺到することで大勢の負傷者が発生した。

 

その時、私は学校行事では部外者の扱いになるトレーナーのひとりとして『生徒会総選挙』の中継映像を自室で見ることなく他のトレーナーたちと一緒に大画面で見ていたわけであり、

 

大切な担当ウマ娘たちが襲われていることを知って動転したトレーナーたちもまた我先へと講堂に詰めかけたせいで、ますます混沌とした状況になってERTの到着が遅れることになった。

 

その間にも、トレセン学園に突如として現れたムキムキマッチョマンの侵略者は逃げ惑う生徒たちに無作為に襲いかかり、暴力を振るった。

 

もちろん、講堂にいるのは教職員以外にはヒトよりもはるかに身体能力に優れているウマ娘ばかりであり、

 

パワーにおいては農耕バ、スタミナにおいては荷役バに劣るものの、スピードにおいてはピカイチの競走ウマ娘たちは自慢の脚力で翻弄する肉弾戦を展開し始めた。

 

相手が男であることを理解するなり、こういった荒事に自信がある勇敢なウマ娘が筋肉ムキムキのマッチョマンのヘンタイに力を合わせて対抗するものの、そのヘンタイは規格外の存在でもあったのだ。

 

なんと、強烈な脚力から繰り出される蹴りをボディに叩き込んだウマ娘の方が骨が砕けることになってその場で蹲ることになり、そのことに全く意に介さずに巨漢がウマ娘に容赦なく暴力を振るう様を延々と見せつけられるのだ。

 

 

私は逸る気持ちを抑えてその様子を大画面でじっくりと観察しながら、時間が巻き戻ることの予兆である“目覚まし時計”の日めくりカレンダーが発動したことの意味を噛み締めながら、冷静に対策を練っていた。

 

 

そうこうしているうちに、人間離れした頑丈さによって打撃が全く通じないことを察して組み付いて押し倒そうとすると、目に見えない力で組み付いたウマ娘が 全員 壁に叩きつけられることになり、更にパニックは加速していく。

 

私の周りでは勇敢にも立ち向かって返り討ちに遭ったウマ娘の担当トレーナーたちが血相を変えてこの場から飛び出したり、その場で絶叫して泣き崩れたり、携帯電話で懸命に呼びかけたりして阿鼻叫喚であった。

 

そんな中で悠然と中継映像を見ているのは私ぐらいなもので、他は呆然とした表情や動揺や絶望の色に染まった顔でただただ画面の前で立ち尽くすだけだった。

 

そして、壁に叩きつけられて動けなくなったウマ娘に対して、侵略者が乱暴に髪を掴み上げて何かを確認しては無造作に投げ放つ様子が大きなヒントになった。

 

そう、このことに真っ先に気づくことが敵の狙いを看破するために必要な観察力と胆力であり、どうせ遅れてやってきたERTが身を挺して更なる戦闘データを採ってくれるのだから、私は冷徹なまでに今は画面に集中していた。

 

 

今回の事件も結局は私が何とかするしかないのだから、今すぐにでも侵略者をプラズマジェットブレードで八つ裂きにしたい衝動を抑えて真実にのみ意識を向けるようにしていた。

 

 

そして、ERTの身を挺した作戦もあって講堂の床を踏み砕く駿川秘書の尋常ならざる鉄拳によって一時は沈黙した――――――。

 

と思われた筋肉ムキムキのマッチョマンのヘンタイは胸部が陥没した状態で()()()を果たしたのだった。

 

先程の渾身の一撃で片腕が使い物にならなくなっていた駿川秘書が再び鬼気迫る表情で反対の腕で陥没した胸部に追撃するものの、もうすでに脅威と見なされなくなっていたらしく、軽くいなされてしまった。

 

それよりも、秋川理事長に狙いを定めたらしく、現場に駆けつけたトレーナーたちが我が身を犠牲にしてでも立ち塞がるが、ウマ娘が敵わないのに大の大人が束になったところで負傷者の山が増えて死屍累々に彩りを添えるだけだった。

 

しかし、ここでトウカイテイオーとシンボリルドルフが立ち向かうと、途端に秋川理事長から狙いを変えることになり、2人が囮になって死屍累々の講堂から凶悪犯を連れ出すことになったようだ。

 

 

――――――そこで、“目覚まし時計”の針が反時計回りして、時間は巻き戻ったのだった。

 

 


 

 

●2周目:『生徒会総選挙』の数時間前

 

斎藤T「ハッ」

 

斎藤T「…………そうですかい」ハハッ

 

斎藤T「何が起こるのか、どうすればいいのか、必要な情報は与えたから、今回は『生徒会総選挙』が何事もなく終わるようにしろというわけね」

 

斎藤T「とりあえず、あれは明らかに人間じゃないな」

 

斎藤T「競走ウマ娘が蹴りを入れて逆に脚が砕ける強度といい、駿川秘書の渾身の一撃で胸部が陥没して一時は沈黙していたのに すぐに()()()していたからな」

 

斎藤T「しかも、あれだけの猛攻を受けながら息が上がることもないスタミナ、人間味も感じられなかった無慈悲で正確無比の精密機械のような立ち回りのテクニック――――――」

 

 

――――――つまり、侵略者は超高性能な人造人間(アンドロイド)ということか。

 

 

斎藤T「襲撃を未然に防ぐためには、『生徒会総選挙』が行われている講堂に窓から侵入してくる前に取り押さえる必要があるな」

 

斎藤T「そして、侵略者はトレセン学園をただ混乱に陥れたいわけじゃない。明確だが曖昧なはっきりとした目標設定を与えられた()()()というわけだ。帰還させられるはずもないからな」

 

斎藤T「じゃあ、その目標設定とは何だ?」

 

斎藤T「秋川理事長が一番の標的だと思っていたが、最後の場面だとシンボリルドルフとトウカイテイオーを追いかけていたことだし、その他大勢のウマ娘の顔を調べ上げてもいたよな?」

 

斎藤T「何かを探しているのは明白だが、あれほどの人造人間を捨て駒にできるということは絶対に暴れ回ることなんかが目的じゃない」

 

斎藤T「その場に留まって暴れることで()()()()()()()()と踏んでいるからこそ、相手を殺さない程度の手加減(リミッター)を施した暴力装置を送りつけているはずだ」

 

斎藤T「私が黒幕なら、あの場にいる標的の誰かを確認できたら標的の確実な抹殺と機密保持のために()()()()()()()()()()()()()ように爆弾を仕込むな」

 

斎藤T「でないと、拳を振り上げれば間違いなく肉体がバラバラになるだろうに、それをわざわざ抑えて慎重に標的を探させる鉄砲玉にした意味がわからない」

 

斎藤T「おそらく、標的の情報は大雑把に言えば明確だが、細かい特徴が曖昧だから、こうして堂々と乗り込んで暴れ回ることを選択したのだろう」

 

斎藤T「それなら、尚更 秋川理事長とシンボリルドルフとトウカイテイオーに注意が向いた理由は何だ?」

 

斎藤T「別に倒すだけだったら、どうとでもなるんだ。どうとでも」

 

斎藤T「けど、あの人造人間を倒したとして、あれほどの人造人間を鉄砲玉にするようなやつが黒幕なんだから、絶対に次もある!」

 

 

――――――誰をこれから守るのが正解なんだ?

 

 

斎藤T「考えろ! 窓を突き破って講堂に侵入してきたのなら、そこに罠を仕掛けることはできる!」

 

斎藤T「けど、敵の狙いがわからないと根本的な解決にならない!」

 

斎藤T「それなら、シンボリルドルフとトウカイテイオーに最初から囮になるようにお願いするべきか?」

 

斎藤T「わからん! 学園に混乱をもたらすなら、たしかに『生徒会総選挙』で生徒たちが集結しているあの場面が一番の狙い目だが、秋川理事長に目が向いてながらシンボリルドルフとトウカイテイオーに誘い出された理由がわからない!」

 

斎藤T「どうにもやり方がスマートじゃない――――――。狙いを絞らせないように立ち回っているということなのか?」

 

斎藤T「けど、ひとりひとりを調べてみないとわからないから肉弾戦を――――――」

 

斎藤T「何だ? 勇敢なウマ娘を探しているのか? 何なんだ、どうなんだ?」

 

斎藤T「いや、そういうことなら、いろいろと試してみようじゃないか」

 

 

――――――超科学生命体と人造人間のどちらが手強いのかを!

 

 

 

――――――トレセン学園/講堂近くのグラウンド

 

アグネスタキオン’「ERTが講堂を囲んで警戒態勢になっている傍らで、きみも頓珍漢なことをするもんだねぇ」 ――――――シンボリルドルフに変装中!

 

岡田T「よし、テイオーに似せたマネキンはこんな感じでいいかな?」 ――――――トウカイテイオーに変装させたマネキン人形!

 

斎藤T「そして、その隣には電力供給の問題をWUMAの空間跳躍技術で解決してターフの上に設置できた立体ホログラム装置で投影した秋川理事長だ」

 

斎藤T「あとは、去年の8月の学生寮不法侵入事件と同じように、あの人造人間が遠目から見たお前の変装、マネキン人形や立体ホログラムに引っ掛かって芝で偽装した感電トラップを踏むだけだ」

 

アグネスタキオン’「しかし、冬は日の入りが早いとは言っても、まだ日没には早い午後の晴天だよ?」

 

斎藤T「わかっている。はっきりとした変装と立体ホログラムであることがわかるからこそ、あの人造人間が最初に生物学的特徴で標的を探っているかを見ることができる」

 

アグネスタキオン’「もし真上を素通りされたら?」

 

斎藤T「その時はここまでシンボリルドルフが囮になって感電トラップに誘い込む手筈になっている」

 

岡田T「え? 筋肉ムキムキのマッチョマンのヘンタイが襲ってくることを話したんですか?」

 

斎藤T「いや、もしもの時に備えて講堂の外で私が待機していることは伝えているから、賢明な“皇帝”陛下なら真っ先に行動に移してくれると信じている」

 

アグネスタキオン’「果たして、うまくいくかねぇ?」

 

斎藤T「何とかして鹵獲するしかないだろう。敵の狙いがわからないのだから」

 

斎藤T「それに、私なら あの人造人間をデータ収集の捨て駒にして機密保持のために自爆装置を入れるから、何が何でも機能停止に追い込まないとだぞ」

 

岡田T「ヒッ」

 

斎藤T「だから、可能な限りの好条件が揃った ここで爆弾処理をするというわけだ」

 

アグネスタキオン’「人造人間とやらが窓を突き破ってきたルート上で、できるだけ講堂から離れていて、感電トラップを覆い隠せるような場所ねぇ……」

 

斎藤T「とにかく、駿川秘書の講堂の床を割るような怒りの鉄拳で胸部が陥没しても平気だったのを見るに、メインの動力炉の他に予備の動力炉が絶対にあるはずだから、感電トラップで一度は機能停止が確認できても油断はできない……」

 

斎藤T「よし、岡田Tがトウカイテイオーのマネキンはこれで十分だと言うなら、校舎屋上からの監視と録画をお願いします」

 

岡田T「わかりました」

 

岡田T「気をつけてください」

 

斎藤T「はい」

 

 

タッタッタッタ・・・

 

 

アグネスタキオン’「ところで、変装のために髪や身長を伸ばすぐらいなら、私が会長そのものに擬態すればいいんじゃないかい?」 ――――――シンボリルドルフに変装中!

 

斎藤T「……お前の意識がシンボリルドルフのものに侵食される恐れがある」

 

アグネスタキオン’「……そうかい」クククッ

 

斎藤T「何がおかしい?」

 

アグネスタキオン’「いや、今回の作戦はまだ最適解が見つからない手探り状態だからこそ、『私がシンボリルドルフそのものになる』という選択肢をきみが積極的に外していることに、私は満足感を覚えただけさ」

 

斎藤T「……そうしたところで高確率になるわけでもないのに、たかが変装程度のことで()()()()()()()()()()()が損なわれるのは非常に困る。それだけだ」

 

斎藤T「アグネスタキオンの人格だからこそ、WUMAの能力に溺れることもない――――――」

 

斎藤T「その信用があるからこそ、時間跳躍を駆使すれば いかようにも地球人類を滅ぼすことができる 最強の生物:スーペリアクラスの生存を許していることを忘れるな」

 

アグネスタキオン’「わかっているさ」

 

アグネスタキオン’「でも、嬉しくなるねぇ。会長よりも()を選んでもらえたみたいで」

 

アグネスタキオン’「きみの中ではシンボリルドルフよりも()()()()()()()()の方が信頼できる相手と評価されている」

 

 

アグネスタキオン’「そして、シンボリルドルフとはちがって気まずくならない相手というわけさ」

 

 

斎藤T「………………」

 

アグネスタキオン’「やっぱりね。きみも男だから初めての相手のことが忘れられないか」フフッ

 

斎藤T「勝手に満足していろ」

 

斎藤T「結局、あの一夜での出来事がこうして名もなきジュニアクラスをスーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)にするために必要なことだったのなら、受け容れるしかないじゃないか」

 

斎藤T「ホント、シンボリルドルフという一人のウマ娘のことを一生忘れられないようにする三女神の縁結びの働きにはまいっちゃうね!」

 

斎藤T「そして、シンボリルドルフ(因子継承元の擬態対象)アグネスタキオン(自身の擬態対象)の両方の要素を兼ね備えたバケモノは誰よりも“斎藤 展望”の隣にいられることに女としての充足感を得ると」

 

アグネスタキオン’「そういうことさ。わかっているじゃないか」

 

 

アグネスタキオン’「きみはね、()のためにも、会長のためにも、三女神のためにも、トレセン学園の未来を掴み取らなくちゃならないんだ。この私を隣に置いてね」

 

 

斎藤T「魔女め」

 

アグネスタキオン’「褒め言葉をどうも」

 

アグネスタキオン’「きみはその魔女の力を頼らないといけないのだから、これがものすごくたまらないねぇ!」

 

斎藤T「………………」

 

アグネスタキオン’「しかし、本当にまた使う気なのかい?」

 

斎藤T「それで機能停止に追い込むことができるのなら、黄金の肉体改造強壮剤の再使用も辞さない」

 

アグネスタキオン’「――――――間違いなく寿命を縮めるよ?」

 

アグネスタキオン’「その結果がどういう結末を生むのかもわかっているよね?」

 

斎藤T「わかってる。だからこそ、ギリギリまで人間としての最大限の努力を尽くすんだ」

 

斎藤T「つまり、お前をひとりにはさせない」

 

アグネスタキオン’「ふぅン。なら、いいんだ」

 

 

――――――きみには生きていてもらいたいから。

 

 

そして、私の記憶にある襲撃時刻に侵略者は予想通りに空から現れた。

 

生身で前傾姿勢で飛んできているということは、おそらくあれは21世紀ではまだ未完成だったはずのジェットパックの完成品を用いての侵入であった。

 

一応、アメリカの自由の女神像で飛行が行われた記録もあって21世紀の技術力でもジェットパックは実現可能のようだが、23世紀の人間である私からするとジェットパックは好きではない。

 

ジェットパックは噴出物の勢いで推進力にしている原始的なものだと真上にしか進めない上に、噴射炎や噴射水で下半身が大怪我する危険性があるため、そういった初期型のジェットパックは真上や真下に昇降する時にしか使えない上に取り扱いが非常に難しい欠陥品であった。

 

それなら身体を水平にして真横に飛べばいいという原始的な工夫も、重力下で身体を水平にしたまま飛ぶことがいかに下半身に負担をかけるかの想像力が足りていない。

 

なので、初期型の立ったままの姿勢で垂直方向にしか使えないジェットパックはすぐに噴射口の角度をつけられるタイプに改良されることになったのだが、

 

それはそれで進行方向に対して身体を垂直にして飛ぶことになるので空気抵抗が大きく、単純に身体を水平にして頭から真っ直ぐに飛ぶよりも圧倒的にスピードが出ないことで問題になっていた。

 

私からすれば、なぜに人体を浮かせるほどの推進機を背負おうとするのかがまったく理解できない。

 

姿勢制御が重要なジェットパックでの飛行は その構造上 同じ飛来物との衝突に非常に弱く、何かの手違いで姿勢制御をミスしたら最期、真っ逆さまにジェット噴射で地上に激突なんてことも簡単に起こりうる。

 

だから、体幹に推進機を取り付ける発想はどう考えても安全面や制御面のユーザビリティに配慮していない間抜けなものでしかない。鳥の翼とは根本的に構造がちがうのだ。

 

それなら、推進機を台の下に配置したフライングプラットフォームを実用化すれば安全面も確保できて拡張性にも富んでいる。気球だって頭の上に推進機を載せて飛んでいるのになぜそうしない。

 

つまり、あの人造人間がジェットパックで空を飛んできたということは、ジェットパックの噴射物への対策や要求される飛行技術は完璧であっても、ジェットパックよりも堅実なフライングプラットフォームを用意できない程度の黒幕が背後にいると判断できる。

 

まあ、私なら自爆特攻させるつもりの鉄砲玉の人造人間にフライングプラットフォームなんてものは渡したくはないが、

 

ジェットパックを取り扱う上での噴射物の対策や姿勢制御の問題で余計な予算や技術を要求される手間を考えると、どう考えてもフライングプラットフォームに乗せて突っ込ませた方がお得なのだ。

 

なので、私はノロノロと空から現れた侵略者に対して年末年始のカウントダウンで使われなくて保管されていた打ち上げ花火で容赦なく迎撃すると、日も明るいうちに広がる花火の一輪によってあっさりと墜落するのだった。

 

どう動こうがこれは必中である。なぜなら、直撃しなかったら隣りにいるスーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)の時間跳躍で直撃するまで繰り返すからだ。拡散範囲も申し分ない。

 

本当はヘリコプターか何かで輸送されてくるのなら、アグネスタキオン’(スターディオン)の飛行能力と空間跳躍能力の組み合わせで一気に乗り込んで制圧することも考えていたのだが、襲撃が単独で行われた以上は致し方ない。

 

必ずや鹵獲して人造人間の出所を掴んで、被害が拡がる前に未然に脅威を排除するだけのことだ。

 

 

アグネスタキオン’「それじゃあ、行ってくるよ」バサッ ――――――自由の女神の王冠と純白の翼を展開する!

 

斎藤T「待った。光学迷彩も忘れるな」

 

アグネスタキオン’「おっと、そうだったね」ピッ ――――――光学迷彩も起動して姿が見えなくなる!

 

アグネスタキオン’「じゃあ」ビューン!

 

斎藤T「頼もしいこと、この上ないな」

 

斎藤T「――――――空中戦はエルダークラスの独壇場だったのにな」

 

 

そして、空中制御を失って墜落する人造人間に対して、超科学生命体であるWUMAが容赦ない追撃を浴びせた。

 

エルダークラスになると生える翼は三次元移動を可能にすることで持ち前の空間跳躍能力を文字通り飛躍的に向上させるため、空中戦でエルダークラス以上のWUMAに敵う存在はありえない。

 

なので、今回の戦いはエルダークラスを超えたスーペリアクラスが味方にいるので、あっさりと終わる。

 

忘れられがちだが、空間跳躍能力を強化するシニアクラスの角によってサイコキネシスなどの超能力も使えるのだから、いかに蹴った方が脚を砕かれる頑丈な装甲を持っていようが任意の地点に落下するように目に見えない力で弾き飛ばすことなど造作もない。

 

結果、ターフに仕掛けていた感電トラップの上に叩き落とすことになり、筋肉ムキムキのマッチョマンのヘンタイは激しい火花を散らして這い蹲るのだった。

 

これでもしも自爆することがわかれば、その時は瞬時に時間跳躍で太平洋のド真ん中に捨て去るだけなので、自力で空を飛べないような敵の対策は万全だった。

 

それができるように、以前に光学迷彩の試験運用と空間跳躍の限界距離の算出のためにひとりで太平洋横断をさせていたことが役に立ってくれていた。

 

飛べないやつは 容赦なく海のど真ん中に捨てれば それで終了なのだ。それに耐えるなら、今度は溶鉱炉に突き落とすまでのことだ。

 

そして、基本的に電気製品というやつは過電流から保護するための回路が必ず内蔵されている。もちろん、過電流に耐えられるだけの容量がなければ無意味なのは言うまでもない。

 

私の予想が正しければ、こういった人造人間は人間なら黒焦げになって見る影もなくなるような感電トラップにも耐えられるはずなのだ。

 

が、しかし、侵略者はジェットパック無しで講堂に窓から侵入していた――――――。

 

そう、今はジェットパックがあるわけだから――――――。

 

 

チュドーーーーーーン!

 

 

斎藤T「あ」

 

アグネスタキオン’「もう! 何をやっているのさ!」 ――――――空間跳躍!

 

斎藤T「すまない、助かった……」

 

斎藤T「失敗した。敵の狙いを探るために鹵獲するはずが、ジェットパックに誘爆したか……」

 

アグネスタキオン’「……マズいよ。あいつ、死んでない」

 

斎藤T「……さすがにタフだな。ジェットパックが誘爆したせいで、感電トラップが破壊された!」

 

アグネスタキオン’「けど、それで化けの皮が剥がれたみたいだよ」

 

 

人造人間「――――――」プスプス・・・  ――――――ジェットパックの爆発による衝撃で 人造皮膚が剥げて おどろおどろしい金属骨格が日の光を照り返す!

 

 

斎藤T「ああ。おかげで、内骨格(エンドスケルトン)が丸見えだ。外骨格(エクソスケルトン)ではなかったみたいだな」

 

アグネスタキオン’「どうする? 破壊するだけなら海に捨ててくればいいだろうけど、あいつは感電トラップにも耐えたし、ジェットパックの誘爆にも耐えて、自由落下でも死なずに再び立ち上がった――――――」

 

斎藤T「WUMAとは違った意味で『警視庁』のSATでも対処不可能な怪人だな。とんでもなく頑丈な基本フレームには称賛しかないよ」

 

斎藤T「けど、あれが陽電子頭脳で動いているのなら、次からはラドン温泉に漬け込んでやらないとだな」

 

アグネスタキオン’「おいおい、赤外線や紫外線ならまだしも、アルファ線からの放射線粒子で回路中の陽電子が一掃できるとは言え、放射能汚染はよくないだろう」

 

斎藤T「なら、金属加工に使われる数万度の熱量のプラズマジェットブレードで溶断できるか、試してみるか」

 

アグネスタキオン’「そうだね。もっとも融点が高い元素であるタングステンですらおよそ3400℃程度なんだから、プラズマジェットの数万度の噴射炎に直接耐えられる物体はこの宇宙には存在しない」

 

斎藤T「そう、大気圏突入時にこの時代の宇宙船が空力加熱による10000℃に耐えられるのもアブレーションのおかげであって、まだアブレーション無しで理論上は無限に大気圏突入できるウェイブライダーが登場していないしな」

 

 

斎藤T「最初に造っておいてよかった、プラズマジェットブレード!」スッ ――――――誘導棒に偽装した使い捨てのプラズマジェットブレードを構える!

 

 

アグネスタキオン’「奥多摩攻略戦の時には結構な数を用意していたのに、最終的にはC4爆弾のエレベータートラップで奥多摩の軍団を一掃したことだしねぇ。腐るほどあるね」

 

斎藤T「どうあれ、中枢神経になる電子回路を切断してしまえば鹵獲できる。あるいは、液体窒素で凍らせるのも電子回路にとっては致命的な打撃だ」

 

斎藤T「そう、あれがこの宇宙で造られたものならばな」

 

アグネスタキオン’「案外、21世紀の地球の科学力でもどうにでもなるか」

 

アグネスタキオン’「じゃあ、とっとと決めてきておくれよ」

 

アグネスタキオン’「はい、3,2,1――――――」 ――――――四次元能力発動!

 

斎藤T「――――――」カチッ ――――――プラズマジェットブレードのスイッチを入れて時間跳躍!

 

 

スパーーーーーーーーーーーーーーーーーン!

 

 

人造人間「!!?!」ゴトッ! ――――――剥き出しになった金属骨格の首をプラズマ切断で刎ね飛ばす!

 

斎藤T「――――――何だ、こんなものか」フゥ ――――――手には回路が焼ききれたプラズマジェットブレード!

 

斎藤T「あとは!」ピン! ――――――ピンを抜く!

 

 

ポイッ、コロコロ・・・バァアアアアアアアアアン! シュゥウウウウウウウウ!

 

 

斎藤T「どうだ? 電子回路はどうあっても電気エネルギーを電気抵抗で熱エネルギーに変換してジュール熱を発する――――――」 ――――――液体窒素爆弾を投げていた!

 

斎藤T「となれば、自由落下して原型を留めるほどの内部骨格(エンドスケルトン)の頑丈さなら、首を刎ねられても電子回路が生きていて必ず常温以上の熱が検知されるはずだ」スチャ 

 

斎藤T「――――――そこがこの人造人間の心臓だ!」ジー ――――――サーマルゴーグルを装着!

 

斎藤T「……なるほど! こいつ、四肢に動力源を積んで、胴体に演算器を積んでいたぞ! まさにジャパニメーションが誇る巨大ロボットと同じ構造だ! 頭は飾りだ!」

 

斎藤T「考えたな。腕や脚だけになっても作業が中断されないように動力源を四肢に直接搭載できるだけの小型化ができる程度の科学力を持った敵が相手か」

 

斎藤T「そうだな。頭と腹はもっとも作業で使わない部位だからな。モジュール構造で頭や腹に動力源を載せるバカはいないか」

 

斎藤T「よし、頼むぞ!」カチッ ――――――2本目のプラズマジェットブレードのスイッチを入れる!

 

アグネスタキオン’「ほら」 ――――――四次元能力発動!

 

斎藤T「――――――!」 ――――――時間跳躍!

 

 

スパスパスパアアアアン!

 

 

斎藤T「……胴体部へのエネルギー供給は停止したな」フゥ ――――――サーマルゴーグルは氷点下に完全に染まる!

 

人造人間「」 ――――――バラバラ死体と化した!

 

斎藤T「よし、動力源はこの四肢だ。頭と腹はただの飾りだったから、四肢を塩水に浸けてきてくれ」スチャ ――――――サーマルゴーグルを外して一息!

 

アグネスタキオン’「大したことはなかったね」シュッ ――――――空間跳躍!

 

斎藤T「相手が1人だったからだ。エルダークラスを同時に複数体相手にしていたら完全に詰んでいたのと同じだ。敵が1体だけだったから対処できたんだ」

 

斎藤T「1頭の象を狩るより、狼の群れを狩る方が遥かに難しいだろう?」

 

アグネスタキオン’「それもそうだね」

 

アグネスタキオン’「けど、自爆の危険性がなくなったのなら、わざわざ塩水に浸ける必要はないんじゃないのかい?」

 

斎藤T「わからないぞ。陽電子頭脳ではないにしても、反物質や放射性物質を隠し持っていたら、それで一巻の終わりだからな」

 

斎藤T「とにかく、今はこの内骨格(エンドスケルトン)の構造を解析して、せめて敵の狙いや正体を探って時間が巻き戻るようにしたいな」

 

斎藤T「――――――解析機は十分に扱えるな?」

 

アグネスタキオン’「ああ。問題ない」

 

アグネスタキオン’「じゃあ、四肢は海水を満たした水槽に入れて保管しておこうか」

 

斎藤T「……わかった。まかせるぞ」

 

アグネスタキオン’「安心したまえ。プラズマジェットブレードでどうにかなるような相手なのだから、次からは一刀両断(真っ二つ)でも四肢切断(ダルマ)にでもしてやれるだろう?」

 

斎藤T「それは時間跳躍の発動機であるお前が側にいることが条件だからな? これまでまともにWUMAとも戦ったことはないんだからな? そこを勘違いするなよ?」

 

斎藤T「いくら肉弾戦が弱いと評される競走ウマ娘でも、それでもヒトより遥かに強大な生命体だ。それをいとも容易く返り討ちにできる人造人間の戦闘力はWUMA並みの脅威だ」

 

アグネスタキオン’「そんなふうに心配する割には口元が歪んでいるぞ、モルモットくん?」

 

アグネスタキオン’「きみ、今からどんなオーバーテクノロジーが回収できるか楽しみでならないんだろう?」

 

斎藤T「ああ。命令を実行するためのメモリさえ回収できれば、こいつの正体にあっさりと辿り着けるからな」

 

斎藤T「生物が相手だと自白剤を使わないとだし、良心がとがめると言いますか……」

 

 

――――――でも、ロボットに人権なんざねえ! 何をやっても許されるのさ!

 

 

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