ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第5話秘録 流れ星に願いを託して

-シークレットファイル 20XY/01/22- GAUMA SAIOH

 

だからね、いいかげんにしろって話だよ。

 

今日は『生徒会総選挙』で、“皇帝”シンボリルドルフの退位の礼にして、“帝王”トウカイテイオーの立太子の礼だと言うのに、

 

なんで私は 同時刻 トレセン学園とはまったく関係ない場所で筋肉ムキムキのマッチョマンのヘンタイの相手を何度もしなくちゃならないわけ!?

 

そうだよ、あの“目覚まし時計”だよ! 時間が巻き戻ったんだよ! 時の牢獄にまた囚われたんだよ!

 

どうも、あの筋肉ムキムキのマッチョマンのヘンタイの外見をした人造人間を無力化しただけじゃダメだったらしく、

 

首も刎ねられて四肢切断のバラバラ死体になった人造人間を回収して、内心ではウキウキになって明らかなオーバーテクノロジーの塊である人造人間の解析が ある程度 済んだところでやり直しよ!

 

いや、たしかに人造人間の出所や標的が誰なのか、根本的な解決に繋がる手掛かりが何一つ得られなかったわけなので、ある意味 やり直しはありがたい状況でもあるのだが、命懸けの戦いは何度もしたいとは思わない。

 

またターフの上に感電トラップなどを 一切合切 用意するのもアレだし、動力源が四肢にあることが判明し、WUMAと同じくプラズマジェットブレードだけで無力化ができることもわかったので、

 

そこで今度はアグネスタキオン’(スターディオン)を偵察に出して いったいどこから人造人間が現れるのかを時間を遡って追跡調査することになった。

 

スーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)は単独で飛行可能で光学迷彩も使えるので、府中市上空を滞空してジェットパックで空を飛ぶ人造人間を見つけ出すのは容易なことだった。

 

更に、時間跳躍によって時間逆行も可能なので、府中市の空を飛ぶヘンタイを発見次第 その出所を時間を遡って突き止めることも容易であり、

 

三女神がこの時間の牢獄で私に見つけ出させようとしている何かを探し当てるまでは時間が巻き戻ることはわかっているので、寿命を縮める時間跳躍のリスクも ある程度 無視することができた。

 

そうして、府中市上空で空を飛ぶヘンタイを発見して時間を遡ってマッチョマンの追跡を行うと、府中市内でマッチョマンが道行く人たちに聞き込み調査をしていたことが判明した。

 

その日時をしっかりと頭で記録しながら、府中市の街中で浮いた巨漢を光学迷彩で姿を隠しながらアグネスタキオン’(スターディオン)に指向性マイクを持たせて追跡させると、

 

中央トレセン学園という夢の舞台の城下町である府中市にあるURA公認の『トゥインクル・シリーズ』に出走するスターウマ娘のオフィシャルショップに足を運んで、じっくりとウマ娘のブロマイドを閲覧していたのだ。

 

う~む、斎藤 展望は身長:185cmの宇宙移民にとって望ましい逞しい体格だが、それが裏目に出て ただでさえトレセン学園の日常で威圧感を放って浮いているのと同じように、

 

筋肉ムキムキのマッチョマンのヘンタイも195cmはある筋骨隆々の体格なので、膝を屈めてトレセン学園の競走ウマ娘のブロマイドを真剣な眼差しで1枚1枚見ている様は一見するとにこやかな店の空気を重苦しくしていた。

 

あの巨漢のヘンタイとは10cmは身長差があるものの、それでも現代日本人男性の平均身長:170.6cmを大きく上回る体格のため、私では目立ちすぎて市内で尾行することができない。

 

なので、私は店内のカメラシステムを掌握して監視しながら、引き続き光学迷彩で姿を隠しながらアグネスタキオン’(スターディオン)に追跡を任せながら、

 

通常の時間の巻き戻しは3回までが原則であることを胸に刻んで、4周目に突入する前に人造人間の目的と出所を突き止められるように、スーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)の時間跳躍を上手に使いこなさなければならない。

 

そして、筋肉ムキムキのマッチョマンのヘンタイをどうにかして随分と経ってから時間の巻き戻しが起こった真相を探るために、今日の『生徒会総選挙』が終わった後に何が起きたのかをしっかりと見届ける必要があった。

 

 


 

●3周目:『生徒会総選挙』の数時間前

 

――――――府中市内のテナント募集中の空きスペースにて

 

ズバズバズバアアアアアアアアアアアアアアアアン!

 

人造人間「」ドサッ ――――――首を刎ねられ 四肢は切断されて ダルマ状態!

 

斎藤T「動力源が四肢にあることが最初からわかっていれば、人造人間だろうが こんなもんだ」フゥ・・・ ――――――焼き切れた誘導棒に偽装した使い捨てのプラズマジェットブレード!

 

アグネスタキオン’「相変わらず、怖いものなしだねぇ」

 

斎藤T「それは語弊がある言い方だな」

 

斎藤T「怖いものから身を守るために勇気を振り絞って戦っているのだからな」

 

アグネスタキオン’「それはそうだったねぇ!」クククッ!

 

斎藤T「手筈通り、こいつを百尋ノ滝で分析しておいてくれ」

 

斎藤T「特に、多重プロテクトが掛けられているメモリーの解析を最優先でな。これが一番時間が掛かって2周目では結果を見ることができなかった」

 

アグネスタキオン’「結局、最終手段として私が会長に変装して誘い出しても、その場で抹殺に動いたわけでもなく、ノコノコとこの場所についてきたわけだからねぇ……」

 

アグネスタキオン’「はっきりとした目的はわからずじまいのままさ」

 

アグネスタキオン’「ただ、厳つい外見に反して慎重な対応を選べる辺り、目標設定が曖昧かつ明確になっているらしいことはわかった」

 

斎藤T「とりあえず、シンボリルドルフに変装したお前の誘いに乗るぐらいだから、何のためにDNA鑑定機能が内蔵されているのかがわかんなくなってきた……」

 

斎藤T「シンボリルドルフに擬態して表面上のDNA鑑定を騙せたのならまだしも、なぜアグネスタキオンのDNA鑑定をした上で誘いに乗ってむざむざ斬られたのか――――――、これがわからない!」

 

 

侵略者の排除そのものはわかってしまえばWUMA以上にあっさりとこなすことができていた。できてしまっていた。

 

プラズマジェットブレードでバラバラにできる程度の敵だとはっきりわかった上に、機密保持のために内蔵した戦術核爆弾も動力源が四肢にあるために四肢を同時に切断すれば無力化できていたのだ。

 

なので、空間跳躍すら使えない ただの機械の木偶の坊の相手なんて 超科学生命体よりも遥かに楽に捌けていた。

 

しかし、機械であるために簡単には口を滑らせない情報セキュリティは並行宇宙の支配種族であるが故の傲慢さと増長によって訊いてもいないことを自分から自慢気にペラペラと喋りだすWUMAと比べたら非常に堅固であった。

 

そのため、ハード面でのスペック解析があらかた終わり、真っ先に調べるべきだった肝腎のメモリーなどのソフト面での分析結果を待って寝床に就いた結果、時間の巻き戻しが発動して3周目の今に至る。

 

このことから、黒幕の狙いや情報を探るためにはトレセン学園で人造人間を取り押さえたところで意味がないことから、トレセン学園に来襲する前に時間を遡って府中市内を屯するマッチョマンを追跡した。

 

驚くことに、数時間後にはトレセン学園を襲撃する侵略者は威圧感を放つ巨漢でありながら非常に紳士的な態度を貫いて市内に存在する『トゥインクル・シリーズ』のオフィシャルショップを歩き回っていたようなのだ。

 

 

おそらく、人造人間の内部構造から判断するに、内蔵されたDNA鑑定機能で標的と思しき人物かどうかを直に判断してから事に及ぶように命令されているはずなのだが、これがよくわからなかった。

 

 

標的が誰だかわかっているのなら、さすがに標的の写真や基本的な情報を記憶(インプット)させられているはずなのだから、わざわざDNA鑑定機能を内蔵するまでもないだろう。これがわからない。

 

DNA鑑定機能なんて、暗殺用人造人間にはもっと他に必要なものがいろいろあるはずなのに、わざわざその場でDNA鑑定できるようにした意図を掴みかねていた。

 

しかし、アグネスタキオン’(スターディオン)が少しだけ擬態能力を使って背丈や髪の毛をイジって外見だけシンボリルドルフに変装する前に、アグネスタキオンの姿で近づいた場合にヒントが出た。

 

どうも、アグネスタキオンの姿で近づいた場合は穏やかな態度で誘われても断りを入れるのだが、しばらくしてからシンボリルドルフに変装して誘った場合はノコノコとテナント募集中の空きスペースに誘い込まれたのだ。

 

これによって、少なくともDNA鑑定機能を内蔵していながら外見でまず相手を判断する基準があることが判明する。

 

どうやら、1周目の最後に見た光景で侵略者に襲われそうになっていた秋川理事長もそうだが、それを身を挺して引きつけたシンボリルドルフやトウカイテイオーに共通する外見の特徴に秘密がありそうだった。

 

 

――――――トレセン学園/元 岡田Tのトレーナー室

 

斎藤T「……いったいどういうことなんだ?」

 

アグネスタキオン’「()の姿で近づいた時は会長:シンボリルドルフにはない外見の特徴でDNA鑑定をする判定から漏れていたとするなら――――――」

 

アグネスタキオン’「ハッ」

 

アグネスタキオン’「たぶん、きみの証言にある1周目で秋川理事長が襲われそうになったことや、わざわざ講堂に乗り込んで暴れ散らかしながらもウマ娘の顔を確認する謎の行動をとっていた理由がわかったかもしれない」

 

斎藤T「わかるのか!?」

 

アグネスタキオン’「ああ。秋川理事長やシンボリルドルフに共通する特徴で、()にはないものだ。そう考えると、その最初の選別の後にDNA鑑定が必要になるのにも一応納得できるかもしれない」

 

斎藤T「何なんだ、それは?」

 

アグネスタキオン’「ああ」

 

 

アグネスタキオン’「二度の接触で目の動きを直に確かめて薄々感じていたんだが、あの人造人間は()()()()()()を最初に見て 標的かどうかを判断していたんだよ」

 

 

斎藤T「は?」

 

斎藤T「――――――『前髪』?」

 

斎藤T「……いや、たしかに秋川理事長やシンボリルドルフは『前髪が白い』って目立つ共通点があるのはわかるけど?」

 

斎藤T「え? あれって、染めてるんじゃないの? 今まで深く考えたことないけど、過去の名バに肖って染めてるみたいな感じじゃないの?」

 

アグネスタキオン’「いや、あれは地毛だよ」

 

斎藤T「えええええええ!? 染めてるんじゃないの? 本当にあそこだけ白髪なの? 随分とキレイな菱形の器用な白髪をした子を見かけたことがあるんだけど!?」

 

アグネスタキオン’「そうだよ、モルモットくん」

 

アグネスタキオン’「あれもね、ヒトにはなくてウマ娘にはあるという ウマ娘の謎の1つとされている“星”と呼ばれている白斑だよ」

 

斎藤T「――――――“星”? ――――――『白斑』?」

 

アグネスタキオン’「たとえば、きみがいうように おでこの辺りで前髪が白斑になっているのが基本形の“星”で、」

 

アグネスタキオン’「人造人間がおそらく探していたのは“流星”という髪の毛の先までまるまる白斑になったウマ娘だと私は思うよ」

 

斎藤T「――――――“流星”」

 

斎藤T「あ、そう言えば『有馬記念』で実況が終盤に物凄い勢いで追い上げたトウカイテイオーとシンボリルドルフを“流星”に擬えていたけど、あれってそういうことだったのか」

 

アグネスタキオン’「ああ。全てのウマ娘に“星”があるわけじゃないけど、これも耳や尻尾と同じく、ヒトにはないウマ娘の外見的特徴の1つに数えられるものだからね」

 

アグネスタキオン’「どうだい? 少なくとも、きみの記憶の中であの人造人間は“流星”のウマ娘に探りを入れていなかったかい?」

 

斎藤T「……言われてみれば、そうだったような気がする。中継映像だったから自信はない」

 

 

斎藤T「じゃあ、『標的は“流星”のウマ娘』ということぐらいしか情報がない状態でやってきたのか!? いくらなんでも情報不足だろう!?」

 

 

アグネスタキオン’「おそらくね。その上で、DNA鑑定をして標的の確実なる抹殺を仕掛けてきたんだと思うけど」

 

斎藤T「けど、それなら 尚更 おかしいだろう!?」

 

アグネスタキオン’「ああ、わかってるよ」

 

 

――――――目の前でDNA鑑定をして標的を判別するぐらいなら最初から標的の情報を持っているはずだ。

 

 

アグネスタキオン’「トレセン学園に所属している競走ウマ娘の基本的な情報は全て公開されているんだ。どのウマ娘が“流星”をしているのかも全校生徒の写真を見ていけば自ずと絞り込めるはずなんだ」

 

斎藤T「もしかして『標的は“流星”のウマ娘に変装している』とか? それも、『胎毛ぐらいしかDNAの試料がなかった』とか? 探しているのは御落胤か?」

 

アグネスタキオン’「……その可能性もなくはないんだろうけど、それなら講堂で襲撃する意味はないだろう?」

 

アグネスタキオン’「ウマ娘の顔は整形できても、耳や尻尾、“星”なんかは整形しようがないんだ」

 

アグネスタキオン’「内蔵した核爆弾でトレセン学園や学生寮をまとめて消し飛ばせば標的の抹殺は果たせるのだし、トレセン学園に標的がいることはわかっていてもトレセン学園で自爆できない理由があるはずなんだよ」

 

アグネスタキオン’「そして、今はメモリーの解析結果を待つしかないのだけれど、それが時の巻き戻しまでに間に合うかどうか――――――」

 

斎藤T「少なくとも『“流星”のウマ娘の姿をしている生徒の中から 直接 DNA鑑定をして標的を割り出す必要がある』ことはわかった――――――」

 

斎藤T「そして、府中市内のオフィシャルショップでトレセン学園の競走ウマ娘の情報を探っていたことはわかったから、次の4周目で最後にしたいな」

 

斎藤T「とにかく、2周目は人造人間のオーバーテクノロジーの解析に夢中になって、侵略者が現れなかった場合の本来あるべき『生徒会総選挙』がどうなってしまっていたのかを忘れていたからな……」

 

斎藤T「……無事に終わってくれているよな?」 ――――――ディスプレイで就任式の中継映像を見ている。

 

アグネスタキオン’「今の所は、特に何かあるわけじゃないようだね」 ――――――ディスプレイで就任式の中継映像を見ている。

 

 

不可解な状況は続いたままだ。

 

1周目で『生徒会総選挙』が執り行われている講堂を襲撃してきた侵略者を2周目でターフの上で撃退した後、

 

3周目が始まってトレセン学園を襲撃する前に府中市内で侵略者を鹵獲して、急いで『生徒会総選挙』の様子を監視することになった。

 

とにかく、侵略者である人造人間のメモリーが解析できれば全てがわかるはずだが、それにはWUMAの遺産である百尋ノ滝の秘密基地の解析装置を使っても1日以上はかかる――――――。

 

超科学生命体の解析装置を使っても容易に解除できないプロテクトを施せるのに、装甲材はプラズマジェットブレードで普通に切断できる程度の人類科学の範疇にある極めて人間的な科学力の存在――――――。

 

 

あとで考えると、それこそが突然現れた人造人間の出所の大きなヒントだったのに、私はそれに気づくことができなかった。

 

 

というのも、もしかしたら他にも人造人間がいる可能性もあったし、寝床に就いて日付が変わる瞬間に時間の巻き戻しが起きたと考えるなら、今日一日は警戒を緩めることは許されなかったのだ。

 

世にも奇妙な時間が巻き戻る“目覚まし時計”による時間の牢獄は問題解決ができる人物が巻き込まれるようになっており、

 

基本的にはタイムリミットまでに解決しなければならない;裏返すとタイムリミットになるまでに必ず解決できる問題に立ち向かうように仕向けられるものだ。

 

なので、少なくとも今日一日の中で知り得た情報から展開を予測できるものの中に解決すべき問題の本質が浮かび上がるはずなのだ。

 

今回の場合はそれが二段構えになっていると思われ、人造人間の襲撃は前座であって1日の終わりに時間が巻き戻ることになった本質的な問題とはちがう。

 

それを一石二鳥の要領で、一度に私に解決させようと三女神は考えておいでのようだ。あるいは、私にしか解決できない事態になっているとも言える。

 

だから、今回の本質的な問題とは何なのかを見逃さないためにも、本日のメインイベントである『生徒会総選挙』の様子を一瞬たりとも見逃さないように目を凝らして画面を凝視していた。

 

 

斎藤T「新生徒会長になったエアグルーヴと推薦人のウイニングライブが終わったな」

 

アグネスタキオン’「まったく()のことじゃないのに、なぜだか懐かしい気分にさせられるねぇ」

 

斎藤T「エルダークラス:ヒッポリュテーが擬態していたことで得たシンボリルドルフの記憶がそう思わせるのだろう」

 

アグネスタキオン’「ああ。さすがに3期に渡って会長職に当選することにもなれば、この生徒会長当選のウイニングライブも3回もやっているから、慣れるもんさ」

 

 

アグネスタキオン’「けど、()()()()()()()()()()()()()

 

 

斎藤T「――――――!」

 

斎藤T「……“女帝”エアグルーヴは理想主義者だ。周りもそれをよく知っている」

 

斎藤T「レースの世界に必然はないにしても、それ以外の場所では完璧でなければいけないと思いこんでいるような彼女だ」

 

アグネスタキオン’「ああ。だから、()()()()()()()()()()()()が言うんだ」

 

 

――――――彼女は、“女帝”は1年で精根が尽き果てるんじゃないかって。

 

 

アグネスタキオン’「何か、新生徒会長就任のウイニングライブを見ていて、無性に物悲しさや罪悪感を覚えてしまうんだよ……」

 

斎藤T「去年の11月の『ジャパンカップ』までにヒッポリュテーに擬態されたシンボリルドルフの記憶がそうお前に囁くのなら、当然 本物のシンボリルドルフも同じことを感じているはずだよな――――――」

 

斎藤T「あ――――――」ゾクッ

 

 

そして、トレーナー室のディスプレイで『生徒会総選挙』の就任式の様子を何事もなかったかのように観賞していると、新生徒会長:エアグルーヴと推薦人による就任式専用の特別なウイニングライブがお披露目になった。

 

それを見終わった私は前生徒会長として3期も務めた“皇帝”シンボリルドルフとしての感想を代わりに呟いたスーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)に同意していた。

 

私としても、記憶喪失の体で初めて見た就任式のウイニングライブはさすがは偉大なる母親の理想を受け継ぐ理想主義者による完璧なパフォーマンスに最初は思えたのだが、

 

はたして先代となる“皇帝”シンボリルドルフのものと比較したらどうなるかと想像すると、どう考えても連続3期を務めたシンボリルドルフの方がより完璧に仕上げているだろうことは言うまでもなく。

 

しかし、門外漢である私でさえもそう思ってしまうのだから、少なくとも“皇帝”シンボリルドルフが生徒会長になってからの生徒会を見慣れている一般生徒たちだって そう比較するのは自然なことであった。

 

それは当然、その後を継ぐことになった“女帝”エアグルーヴにしても――――――。

 

だから、ふと論語にあった『子、韶を謂ふや美を尽せり、又善を尽せりと。武を謂ふや美を尽せり、未だ善を尽さずと』の故事を思い出していた。

 

別に『“女帝”に善がまったくない』というわけではないが、『“皇帝”ほどの善がない』というのは歴然とした事実であろう。

 

つまり、“女帝”では“皇帝”ほどに人々を突き動かすような感動を与えられなかったことを“皇帝”の記憶を持つスーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)が人間社会に無理解なところがあっても率直に感じ取っていたようなのだ。

 

それは私にしてもそうであり、“皇帝”の為人やその胸中を知っているからこそ、その二代目となる“女帝”は偉大なる先代の存在と自身を比較して至らぬと卑下しているから、ウイニングライブの感動がイマイチに思えた。

 

そのことはウイニングライブが終わった瞬間の講堂に集まっている一般生徒たちからの熱狂が思ったよりも抑えめに感じられたことが悠然にそのことを物語っていたのだから、壇上の“女帝”本人もその落胆のような静けさを感じ取っているにちがいない。

 

何しろ、私にとっては初めてでも他ならぬ“女帝”自身も3度に渡る“皇帝”による就任式のウイニングライブを間近に見ていたはずなのだから、嫌でもその温度差を体感できてしまえるのだ。

 

これでは『一頭の狼に率いられた百頭の羊の群れは一頭の羊に率いられた百頭の狼の群れに勝る』ということになりかねない――――――。

 

 

斎藤T「あ、わかったかも……」

 

アグネスタキオン’「何がだい?」

 

斎藤T「やだなぁ……、門外漢の私はあんまり干渉したくないんだけどな……」

 

アグネスタキオン’「………………?」

 

 

斎藤T「なあ、超科学生命体である“フウイヌム”って運不運とか運命とか宿命とか信じるかい?」

 

 

アグネスタキオン’「いや、“フウイヌム”の完璧な統治には運不運なんてものが介在する余地がないと信じ込んでいるから、エルダークラスの全員がきみに狩られることになったんだろう?」

 

斎藤T「そうだよな……」

 

アグネスタキオン’「なんだい? きみの言う『運不運』とやらが今回の“目覚まし時計”の発動の原因に繋がっているのかい?」

 

 

斎藤T「……日付が変わった頃に“目覚まし時計”が発動した理由は“皇帝”から“女帝”に譲位されたことに他ならないんだよ」

 

 

アグネスタキオン’「はあ?」

 

斎藤T「まあ、オカルトを徹底的に排除した超科学生命体にも、信仰心が失われた末世を生きる21世紀の人間にもわからないことだろうけどな」

 

斎藤T「端的に言えば、“女帝”エアグルーヴは“皇帝”シンボリルドルフほどの天運強運を持っていないから、確実にトレセン学園は荒れることになる」

 

アグネスタキオン’「生徒会長が交代したからって なぜそんなことが言えるんだい?」

 

斎藤T「いいか。これは普遍的無意識の世界の話であり、自然人に対する法人の運不運がどのようにして決まるのか、考えたことはあるか?」

 

アグネスタキオン’「……いや、ないな」

 

アグネスタキオン’「つまり、自然人:個人とは明確にちがう法人:集団の運不運は何によって決まるのかという話だろう?」

 

アグネスタキオン’「――――――法人:集団を構成する全員の運不運の平均とかかい?」

 

斎藤T「それは法人:集団を構成する個人個人のポジションで必要になる運不運の重みのちがいは計算に入れているか?」

 

斎藤T「責任重大な法人:集団の長と責任が分散されている末端の部下が神頼みしたくなるような事態に大小で比較されるだろう運不運の総量は同じか?」

 

アグネスタキオン’「――――――!」

 

 

アグネスタキオン’「じゃあ、生徒たちを束ねる生徒会の長たる生徒会長個人の運不運が生徒会に所属する生徒たちの運不運に大きく影響してくるということなのかい?」

 

 

斎藤T「そういうことだ」

 

斎藤T「そして、それは普遍的無意識の世界だと法的効力が発揮された瞬間からはっきりと変わる。そういう認識が当事者たちの間に定着するからだ」

 

斎藤T「たとえば、古代では発見されなかった天王星は1781年3月13日にウィリアム・ハーシェルによって発見されたわけだが、1775年から始まり1783年に終結したアメリカ独立戦争があったぐらいには科学的な時代に発見されたことはわかるだろう」

 

アグネスタキオン’「それはそうだけど、それがなんだって言うんだい?」

 

斎藤T「そう、それがなぜか、西洋占星術に1781年に発見された天王星が 早速 取り入れられて、天王星の働きが実しやかに知れ渡るようにもなっているんだよ」

 

斎藤T「そして、西洋占星術における天王星の働きとは革命・改革・革新なんだ」

 

アグネスタキオン’「それじゃあ、天王星が発見されて 人々が天王星の存在を認識したから、アメリカ独立戦争が成功したとでも言うのかい? それこそオカルトじゃないか!」

 

斎藤T「ああ、そのとおりだ。天王星が発見されたから近代革命は始まり、封建時代から民主的な世の中へと続く革命の時代に突入したんだ」

 

アグネスタキオン’「……真顔でそんな冗談を言うんだね」

 

斎藤T「信じなくてもいいが、世界の政治の裏には霊能力者や魔術師たちが背後にいて目に見えない世界から歴史を動かしてきた事実ぐらいは知っておいて損はないぞ」

 

斎藤T「実際、天皇家にだって そういった裏側の世界から玉体安穏の祈りを捧げられて万世一系の世界に冠たる皇族の血脈が受け継がれているのだからね」

 

斎藤T「つまり、日本国の運気は日本国の長人である天皇陛下の運気に支えられているわけだから、天皇陛下を崇敬しない日本人は自分自身の運気を損なう 天に向かって唾を吐く 愚かなことをしているわけだよ」

 

アグネスタキオン’「……まあ、皇宮警察の家系であり、古来から天皇家に仕えていた名族の末裔のきみが言うなら そうなんだろうね」

 

斎藤T「あと、結婚届を役場に提出した瞬間に目に見えない世界で正式に2人が結ばれることも憶えておくいい」

 

アグネスタキオン’「え、そうなのかい?」

 

斎藤T「最近は結婚式も挙げず、内縁の相手との事実婚も珍しくもないようだが、離婚調停や遺産相続の際には必ず役場での書類のやり取りが必須になることを考えれば、わかるだろう?」

 

斎藤T「あと、目に見えない世界で結婚が2人にどう影響を与えるかと言うと、両家の悪因悪果・善因善果を2人で受け持つようになるから、」

 

斎藤T「最悪の先祖を持っている相手と結婚したら それに引き摺られて不幸になるし、逆に最高の先祖を持っている相手と結婚したら 一気に運が開くぞ。結婚届を役場に提出した瞬間にだ」

 

斎藤T「つまり、人間としての最大限の努力と善行を行って血筋を残すことは子孫繁栄の秘訣でもあるんだよ」

 

斎藤T「だから、昔の人は家門の名誉を重んじたわけだ。良縁を結ぶというのはそういうことなんだ」

 

斎藤T「そう考えると、この“斎藤 展望”は良縁を結ぶだけなら最高の結婚相手だよ。少なくとも、結婚できた相手の運気が凄まじく上がることだろうよ」

 

斎藤T「ただ、皇祖皇霊に見込まれてメチャクチャな試練を課せられて世界を救う救世主になるような過酷な運命に巻き込まれる可能性があるけど」

 

斎藤T「あ、実際に斎藤家に起きた数々の悲劇を考えると、英雄と結婚できたところで幸せになれるかどうかは別問題ってことだな。両親は妹のために死んだし、遺された兄妹も悲惨な目に遭っているし」

 

斎藤T「普通の結婚の幸せを求めるなら普通の相手と結婚するのが一番だよ。可もなく不可もなく」

 

アグネスタキオン’「……それが普遍的無意識の世界というわけかい。勉強になったよ」

 

アグネスタキオン’「じゃあ、“女帝”の運不運の足りない部分を補わないと、確実にトレセン学園の黄金期は終焉を迎えるというわけなんだね?」

 

斎藤T「いや、あくまでも“皇帝”シンボリルドルフは生徒たちの代表機関の長人であって、その影響力は生徒たちに限定されているから、生徒たちの質に影響することはあっても学園全体の評判にまで関わるかはわからない」

 

斎藤T「学園全体となると、“皇帝”シンボリルドルフと二人三脚で黄金期を牽引していた秋川理事長の方が影響力は強いから――――――」

 

斎藤T「あ、そうか! “女帝”エアグルーヴは秋川理事長とそんなに相性がいいわけじゃないから、秋川理事長の運気を生徒会長として受け取れない可能性があるな……!」

 

アグネスタキオン’「ふぅン。なるほど、ここでも二人三脚の相性が大きな影響を及ぼすわけだね」

 

斎藤T「もちろん、個人の努力や力量、相性なんかも重要なんだけど、それが最適に発揮される状況に導いてくれるかどうかを決める運勢というのが運命というわけだ」

 

斎藤T「命を運ぶもの、その勢い、それが運不運となるわけだな」

 

アグネスタキオン’「それじゃあ、何がちがうんだい、“女帝”と“皇帝”とでは?」

 

斎藤T「まず、生まれ持ってきた個人の才能や家格もそうだけど、それを支えているのが“皇帝”になるに相応しい試練に耐え抜くだけの天運があることが非常に大きい」

 

斎藤T「そして、“無敗の三冠バ”にして“最強の七冠バ”としての名声と栄誉を保ったまま引退できただけでも並みのウマ娘とは雲泥の差の強運の持ち主なのがわかる」

 

斎藤T「それはね、ひとえにシンボリ家の家運がエアグルーヴの実家の家運を突き放すほどに輝いているからこそなんだ」

 

アグネスタキオン’「じゃあ、誰の家族の子として生まれてきたかで全てが決まっているのかい!?」

 

斎藤T「昔はそうだっただろう? 子孫のために善行や功績を求めるのは、自分たちが同じように先祖の善行や功績によって生かされている――――――それを理解しているから、盂蘭盆会で先祖供養するわけだろう?」

 

斎藤T「だから、先祖が繋げてくれたものを伝統として大事にするんだろう?」

 

アグネスタキオン’「……あまり実感が湧かないのは私が“フウイヌム”だからなのかな?」

 

斎藤T「いや、個人主義と物質主義の弊害かな」

 

斎藤T「昔は家族や地域の人たちが助け合わないと生きていけなかったから村社会が発達したわけだけど、」

 

斎藤T「今はひとりでも生きていけると錯覚するほどに豊かになったからこそ、逆に無為自然の中にあった本当に大事なものを見失いつつあるのが末世というわけだな」

 

アグネスタキオン’「――――――『錯覚』?」

 

斎藤T「だって、夫婦ってのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものだろう?」

 

斎藤T「ひとりの力じゃ満足に生きていけないから、もうひとりの力を借りて自分の人生を支える――――――そう神父が結婚式の時に新郎新婦に言うじゃないか」

 

斎藤T「けど、昔は村や地域が一体となって家族の営みを支えていたのに、妻夫以外の他人になる赤ちゃんの世話なんて夫婦だけでできるもんじゃないよ。だから、少子化や待機児童が問題にもなる」

 

斎藤T「今の時代は本来あるべき自然な暮らしから逸脱した不自然な社会構造になっていることに気づいていない物質主義の悪魔:アーリマンの時代というわけさ」

 

 

斎藤T「うぅ……、じゃあ何か!? 私が“女帝”エアグルーヴの治世では足りないトレセン学園の国運を全力で補わくちゃいけないのかい!? 門外漢だぞ、私は!?」

 

 

アグネスタキオン’「おい、勝手に納得してくれたのなら、さっさとそうしてくれないか、モルモットくん?」

 

斎藤T「なに!?」

 

アグネスタキオン’「きみは()のトレーナーなのだろう? そのために全力を尽くすことを誓ってくれたじゃないか」

 

斎藤T「あ」

 

アグネスタキオン’「理不尽なことじゃないさ。むしろ、()が“ウマ娘の可能性”を世に示すために必要なことを三女神がはっきりと教えてくれたのだろう?」

 

 

――――――“皇帝”なきトレセン学園を支えろ。

 

 

アグネスタキオン’「ふぅン、実にありがたいことじゃないか」

 

アグネスタキオン’「なら、()が出走バとしてターフの上を走りきれるまで夢の舞台の屋台骨を支える甲斐性をきみが世間に見せつければいいだけのことさ」

 

アグネスタキオン’「きみが“女帝”と“怪物”の2人が“共同皇帝”になることを期待したのだから、きみも“黒衣の宰相”としての役割を果たせばいい」

 

斎藤T「………………」

 

 

斎藤T「つまり、競走ウマ娘:アグネスタキオンがこれから築き上げる伝説は三女神の導きの下に果たされるわけか」

 

 

アグネスタキオン’「きみがそう言うのなら そうなるんだろうさ」

 

斎藤T「……理屈はわかった。けど、憂鬱だよ。それがどれだけ大変なことなのか、わかるだけに」

 

斎藤T「あ」

 

 

マンハッタンカフェ?「――――――」ジー

 

ライスシャワー?「――――――」ジー

 

 

斎藤T「……そういうことか」ゾクッ

 

斎藤T「そうか。だから、私は昨日――――――」

 

アグネスタキオン’「そう、だから、きみが選ばれたのさ」

 

 

――――――そして、そんなきみに相応しいウマ娘が()であったことをこればかりは三女神に感謝しないとだね。

 

 

 

 

 

斎藤T「あ、わかった! 将来的に秋川理事長もトレセン学園を離れることになるから、トレセン学園の運気が下がるんだ! もう何年も理事長をやっていることだし、異動は有り得る話だ!」

 

アグネスタキオン’「つまり、秋川理事長と比べるまでもない運気の人間が新たにトレセン学園の理事長になることで、黄金期は終焉を迎えるというわけだね」

 

斎藤T「ああ、黄金期の象徴であるシンボリルドルフと秋川理事長がいなくなれば、それで完全に黄金期は終わるのは明白だ」

 

斎藤T「かと言って、門外漢の私が理事会の人事に口出しなんてできるものか!」

 

斎藤T「明日から生徒会長が換わったことによる影響が『URAファイナルズ』開催によってモロに出てくるはずだ」

 

斎藤T「そして、秋川理事長の異動を契機にしてトレセン学園は大きく変わる」

 

斎藤T「そこで秋川理事長のやり方に反発していた勢力が理事会を掌握して かつての暗黒期の再来となってしまうのか――――――」

 

斎藤T「まったく、面倒な話だ。斎藤 展望が競走ウマ娘を使ってトレセン学園で一儲けするだけの話だったのに……」

 

アグネスタキオン’「考えていてもしかたがないじゃないか、モルモットくん」

 

アグネスタキオン’「なら、きみにとっての転機は WUMAと初めて遭遇した 隕石が落ちた日なんだろう?」

 

斎藤T「ん? ああ、まあ、そうとも言えるな……」

 

アグネスタキオン’「なら、人造人間も鉄の塊ということで あれも隕石みたいなものじゃないか。たしか、自由落下でも平然と起き上がるほどの頑丈さなんだろう?」クククッ!

 

斎藤T「――――――悪趣味な隕石だな」ハッ

 

斎藤T「だが、そうだな。あの人造人間から得られるオーバーテクノロジーがどれほどのものをもたらすかが楽しみでならない。そういう捉え方もあるか」

 

斎藤T「だったら、祈ろうじゃないか。その人造人間が探し求めていたものに因んで」

 

 

――――――流れ星に願いを託して。

 

 

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