ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第4話   数奇な運命の始まり

-西暦20XX年08月15日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

この日、私は藤原さんに連れられて妹:ヒノオマシと一緒に斎藤 展望の両親の墓参りに行った。

 

本来はお盆休みの間は寮に閉じこもってトレーナーの能力を磨くことに専念したかったのだが、

 

藤原さんからの呼び出しと、すぐに帰ってこれる近場なので、息抜きと斎藤 展望の親孝行も兼ねて、今日は寮を出ることにした。

 

もうすでにこの身体は斎藤 展望のものではなくなっていることを心の中で墓前に報告し、

 

私は密かに一人、不慮の事故でウマ娘に撥ねられて肉体を失ってしまった斎藤 展望の弔いもしていた。

 

そして、斎藤家の親戚一同に1ヶ月遅れの斎藤 展望の退院報告を行うことになった。

 

そこには、皇宮警察だった両親の友人知人親戚縁者が集まっており、そこで斎藤 展望の両親がどういった人間だったのかを具体的に知ることができた。

 

どうやら藤原さんが集めてきてくれたみたいであり、そこでトレセン学園のトレーナーになったことに対して様々な質問が寄せられることになった。

 

ちなみに、斎藤 展望がヒトとウマ娘のハーフなのだから当然といえば当然なのだが、

 

友人知人親戚縁者にウマ娘が多数いる状況に頭で理解できていても違和感が拭えなかった。

 

中にはトレーナーの名門:桐生院 葵の弟子になったことを聞きつけた人もいて、先輩との仲を興味本位に訊ねるおばちゃんもいたのだが、

 

残念ながらすでに想い人がいて脈がないことを伝えると、それこそ残念そうに私に慰めの言葉を掛けてくれるのだった。

 

しかし、ここで私からの所信表明に親戚一同や両親の友人知人たちが例外なく驚くことになった。

 

 

――――――今までは両親が死んでその後を継ぐことばかりを考えて金と妹のために走ってきた。

 

 

――――――けど、今度からは自分自身の夢のために生きる。

 

 

――――――()()()()()()()()()()()()()

 

 

――――――トレセン学園はそのための資金集めの手段。通過点に過ぎない。

 

 

――――――そのために力を貸して欲しい。私もみんなのためにできることがあったら力を貸す。

 

 

そして、トレセン学園のトレーナーとしての力量を一目で理解させるために、私は両親の同僚や上司もいる眼の前でうまぴょいを披露したのだった。

 

トレセン学園のトレーナーは花形職業として要求される能力が極めて高く、こうして歌って踊って輝けるだけの頭脳と運動神経があることに宇宙船エンジニアの私は自分のことながら心底驚いた。

 

しかし、斎藤 展望の両親は皇宮警察の人間であり、不幸な出来事がなければ斎藤 展望は妹と一緒に親の道を継ぐための修練を重ねてきていたのだ。

 

つまり、急な路線変更で畑違いではあったものの、斎藤 展望という人間もまた両親の優れた才能と血筋を受け継ぐ世界トップクラスのエリートの一人でもあったのだ。

 

おまけに、高身長かつルックスとガタイの良さも兼ね備えているのだから、まさに文武両道を体現した宇宙開拓時代では理想的な体型の持ち主でもあるのだ。

 

なぜなら、基本的に無重力空間に長居していると筋肉量や骨量の低下を引き起こし、地上に降りた際に回復するまで寝たきり生活を余儀なくされるからだ。

 

そのため、惑星開拓の使命を帯びた宇宙移民からすると、21世紀の日本の若者の細さに驚愕してしまう。もっと肥えて身体を丈夫にして欲しいと願うばかりだ。

 

そのうまぴょいの結果、ウマ娘のご婦人方の黄色い声援を受け、場は拍手喝采の興奮に包まれ、プレゼンテーションの掴みとしては上々。

 

こうして斎藤 展望の名前と身体を借りて生きることを決めた私は両親の遺産であるコネをこの場で継承することに成功し、

 

まずは私の専門である宇宙船エンジニア;特に波動エンジンの開発に繋がる道を得るために、

 

私にとっては100年前となり ここにいる人たちにとっては100年後となる 22世紀の大量生産品の宇宙船の設計図のデータを預けるのだった。

 

また、専門は宇宙船エンジニアだけれども、それ以外の分野が不得手というわけでもないので、

 

他にも23世紀の宇宙開拓時代の発明を21世紀で再現した簡単な試作品を披露することで、斎藤 展望のことを“未来の発明王”だと認識させることに成功した。

 

もっとも、私自身が波動エンジンの開発エンジニアという控えめに言って人類最高峰の頭脳の持ち主なので、これぐらいは朝飯前というか、

 

こうして身内からの投資を受けるために簡単な試作品を創り出す中で、私にとっては200年前も昔の21世紀の技術レベルを悪い意味で体験しているので、褒められてもあまり嬉しくはなかった。

 

とにかく、こうして両親の友人知人親戚縁者からの多額の投資を引き出して、一生涯を懸けて挑む波動エンジン開発プロジェクトは始動することになり、

 

そのコネを利用して妹:ヒノオマシが母親と同じく皇宮警察となれるように支援を取り付けることで私は斎藤 展望の遺志を叶えた。

 

今宵は8月15日、盂蘭盆会の真っ盛り、妹のためにあれだけの悪名を背負って非業の死を遂げた誉れ高き血統の彷徨える幽魂はこれで成仏できただろうか――――――?

 

 


 

 

――――――斎藤家の実家;母方の祖母(ウマ娘)の屋敷

 

陽那「兄上、本当にありがとうございます」

 

斎藤T「どうしたのかな、ヒノオマシ?」

 

陽那「本当に兄上は凄いです。父上と母上のために集まってくれた方々にあそこまで堂々と振る舞えるだなんて、尊敬します」

 

陽那「それに、本当に宇宙船の設計図を創るだなんて、兄上の夢の話を心のどこかでは疑っていた自分が恥ずかしくなりました」

 

陽那「おかげで、私は もう一度 父上や母上と同じ皇宮警察の道に挑むことができます」

 

陽那「本当にありがとうございました、兄上……」

 

斎藤T「まあ、一度は生死の境を彷徨って、兄として誉れ高き血統の妹の養育費や治療費をもっと稼がなくちゃならない強迫観念から解放されたのもあったな」

 

陽那「はい……、本当によかったです。兄上までもいなくなったら、私はもう…………」

 

斎藤T「でも、金儲けの手段として利用しようとしていたウマ娘のことを知っているようでよく知らなかったから、一から学び直したんだ」

 

斎藤T「そしたら、ウマ娘が長生きしていくためには生涯を懸けて貫ける目標がないとダメなんだって思うようになったんだ」

 

陽那「だから、私のことを兄上の夢に誘ってくださったのですね」

 

斎藤T「ああ。ここまでうまくいくとは思わなかったけど、結果としてヒノオマシを皇宮警察学校に進学できるように支援を取り付けることができちゃった……」

 

斎藤T「ホント、人生ってやつは 万事 塞翁が馬だな……」

 

 

陽那「――――――さ、『さいおうがうま』ですか?」

 

 

斎藤T「え?」

 

陽那「えっと、何です、それは?」

 

斎藤T「あ」

 

斎藤T「…………そっか。ゴディバチョコの例のように“馬”という生物は完全に存在しないわけか」

 

斎藤T「ああ、簡単に言うと『禍福は糾える縄の如し』とでも言えば伝わるか」

 

陽那「……そうですね。兄上にとっての3ヶ月間は決して無駄ではなかったということなんですね」

 

陽那「なら、私もいつまでも父上や母上を失った悲しみを言い訳にして塞ぎ込んでいちゃいけませんよね」

 

斎藤T「気負いすぎはいけないからな」

 

斎藤T「守破離だ。まずは形をものにして、そこから自分の個性を出していって、最後には日常生活にも活かすんだ」

 

陽那「はい!」

 

陽那「兄上は本当に素晴らしい方です……」

 

 

ヒュウウウウウウン・・・パァーーン!

 

 

斎藤T「花火、上がったな」

 

陽那「はい」

 

陽那「あの、兄上……」

 

斎藤T「どうした?」

 

陽那「もう少し近くにいていいですか?」

 

斎藤T「いいぞ」

 

斎藤T「父上の同僚や上司の方々を間近で見ただろう? あれと比べたら貧相な身体だよ」

 

陽那「そんなことはありません……」

 

斎藤T「そうか。ヒノオマシもトレセン学園の競走バよりも逞しい体付きになるんだろうな」

 

陽那「兄上は競走バのようにスピードを追求した流線形のような女性が好みなんですか?」

 

斎藤T「どうだろう? あそこまで引き絞った身体だと無重力生活で筋肉や骨がすぐダメになって地上に降りた時に寝たきりになりそうだから、宇宙時代の結婚相手としては不人気かも」

 

陽那「なるほど。たしかに、宇宙飛行士が帰還した時は多くの人に抱きかかえられた写真が多いですね」

 

陽那「そういったところまで考え抜いているんですね。さすがは兄上です」

 

陽那「…………なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですよね?」ボソッ

 

 

斎藤T「私にも担当のウマ娘が見つかるといいな。できればG1レースも勝てるぐらいじゃないとな」

 

 

斎藤T「それで才羽Tとミホノブルボンのように運命の出会いとも言えるようなストーリーまであったら完璧だな」

 

陽那「そうですね。本当に素敵ですよね。私も一人のウマ娘として憧れちゃいます」

 

斎藤T「そうか。でも、私の先輩は片想いで終わりそうなんだけどな……」

 

陽那「……兄上は結婚するならヒトですか? それともウマ娘ですか?」

 

斎藤T「宇宙移民のことを考えると、安定を取るならヒトと子を成した方が多少は軟弱でも長生きするだろうさ」

 

斎藤T「ウマ娘の欠点はヒト以上の身体能力によって逆に壊れやすいところでもあるからね」

 

陽那「………………」

 

斎藤T「でも、それは一般論だ。結局は必要に応じて鍛えるか鍛えないかの意志の問題だ」

 

斎藤T「だから、結局はケミストリーなんだよ、フィーリング。化学反応、相性の問題だよ」

 

斎藤T「ミホノブルボンだって、適性が【短距離】だったのを少しずつ距離を伸ばして最終的にはクラシック三冠バにまで成長したんだ」

 

斎藤T「だから、ヒノオマシにだってできるさ。私たちの両親は皇宮警察の中でも最高峰の人たちだったんだから」

 

陽那「はい、兄上!」

 

 

私は集まった皆様方がお帰りになった後、縁側に腰掛けて真夏の涼し気な風を浴びていた。

 

そして、こうして浴衣を実際に着る機会に恵まれたことに神に深く感謝した。

 

宇宙時代になると合理性と生産性が重視されて、こうした伝統衣装への関心が薄まっていたため、一部ではアニメグッズの扱いにもなっていたぐらいだ。

 

やはり、皇宮警察を輩出した家系ともなると、コンビニバイトの生活では考えられないぐらいセレブな暮らしをしており、

 

斎藤 展望の母方の祖母の屋敷はこれまた宇宙時代に失われた昭和の時代を感じさせる作りとなっており、この着物も超一流のメーカーのものであった。

 

合理性と生産性に飼い慣らされた未来人の私は 超一流の着物を直に手にとって触れることによって 思わず滂沱の涙が出るほどに感激してしまったぐらいだ。

 

23世紀の科学力がどれだけ束になろうと、21世紀に現存する超一流の伝統が受け継ぐ歴史の重みと蓄積された芸術性の厚みと豊かさにはただただひれ伏すしかないからだ。

 

実際、宇宙時代になっても16世紀前後のルネサンス時代のレオナルド・ダ・ビンチやミケランジェロ、ラファエロの絵を超える人類の宝とも言える超大作が生まれていないぐらいなのだから、

 

合理性と生産性を追求する宇宙移民が忘れ去ってしまったものを私は母なる地球で再発見することになったのだ。ホモ・ルーデンスは間違いではなかったのだ。

 

それから、斎藤 展望の最愛の妹:ヒノオマシといろんなことを花火が打ち上がる中で語り合った。

 

着ている着物が超一流のものだけあって、女性用の浴衣というものは本当に女性の美しさを引き出すものであることを否が応でも認識せざるを得ない。

 

間違いなく21世紀の方が優れていると感じられるセンスの代表例と言ってもいいだろう。

 

そう、宇宙時代になると男女平等参画社会なんて当たり前で、ユニセックスの概念が公共の場で浸透しきっているので、女性だからってスカートなんて履かないのだ。

 

宇宙時代のスカートは一般的にはポンチョのボトム版となる装着が簡単な男女兼用の外套であり、

 

生地の薄いドレスを着て舞踏会をやるほどの財力がなければ、なかなかスカートなんてお目にかかれないのだ。

 

だから、私としては膝の上がチラリと見えてしまうようなミニスカートの環境はかなりクるものがある。

 

ただし、それは性的にではなく、価値観のちがい(カルチャーショック)という意味で。無防備過ぎて怪我しないか不安になってしまう。

 

 

しかし、斎藤 展望という男は両親の死がきっかけで両親から受け継いだ妹の誉れを守らんがために、これほどまでに妹から慕われるようになっていた。絵に描いたようなブラコン兄妹である。

 

実際、斎藤 展望という人間が持つ能力の高さは私自身がよく理解しているが、世間的な評価としても斎藤 展望は引く手数多の逸材だったのだろう。

 

トレセン学園という夢の舞台に降り立ったことで無名の新人トレーナーという評価になっていたが、ここにきて妹じゃなくても凄いと思った。

 

ここが生まれながらにして闘争心の強いウマ娘のハーフらしいところであり、妹のためなら自身の進路を180度変えるぐらいのことをしでかして悪名を被ることも厭わない激情家でもあった。

 

これこそが、ヒトとウマ娘の間に芽生える絆の強さとも言えるものであり、恐ろしいぐらいに気安い関係に落ち着くのを肌で感じ取れた。

 

兄妹だからと言っても、斎藤 展望は二十歳をとうに過ぎているのに、相手はトレセン学園の中等部と同い年。それが同じ部屋で一緒に寝るのは倫理的にどうかと思った。

 

しかし、波動エンジンの開発エンジニアだった頃のヒトとの関わりしかなかった頃の私には未体験のものであり、アニマルセラピーのようなものを妹から感じた。

 

ウマ娘が隣にいる時に感じるものは絶対にヒト同士の関係からは得られないものがある。

 

究極のヒト社会である宇宙船の共同生活でヒトに満たされた日々を送った私が言うのだから間違いない。

 

思うに、ヒトよりも野性的なウマ娘なのだから、ヒトよりもパーソナルスペースの取り方が激しいのかもしれないし、

 

種の保存本能で優れた遺伝子を取り込むためにヒト同士ではかえって配合の選別が厳しくなっているせいなのか――――――。

 

そう考えると、ウマ娘が得てして美人揃いと評判なのは、ヒト社会に混じって他種族が子を得るために美しくなるように遺伝子が適合していった結果なのではないかと邪推してしまう。

 

たしか、孔雀なんかはそれが顕著で、メスと交尾するためにオスの外見が派手になっていくように進化する例を考えれば、スケベのために身体ができているとも言える。

 

そこにウマ娘としてのヒトよりも激しい気性と情熱的な態度が組み合わされば、ヒト社会において適度に生存圏を確立することにもなるのだろう。

 

 

危ないところだった。ヒノオマシが斎藤 展望の妹じゃなかったら、トレセン学園の中等部と同い年の美少女の色香に魅了されていたかもしれない。

 

 

本当は後遺症の治療のために全力を振るえない今の状態でもウマ娘にはヒトなんて簡単に押さえつけられるだけの筋力があるのに、

 

どうしたことか、私の寝間着の背を力なく握って額をさらりと背中にこすり付けるように寝息を立てる妹の寝姿が思わずギュッと抱きしめたくなるほどの魔性を放っているのだ。

 

ウマ娘から生まれたヒトの子、あるいはウマ娘に育てられたヒトの子がウマ娘と結婚しやすくなる理由がこれで完全にわかった。

 

いやはや、本当に今日という日はいろんな得難きものの数々を得ることができたのだから、藤原さんには本当に感謝しなくちゃならない。

 

 

 

――――――そして、()()は真夜中に降りてきた。

 

 

 

ドッゴーーーーン!

 

斎藤T「――――――何事ッ!?」ガバッ

 

陽那「あ、兄上……」ガバッ

 

斎藤T「何か大きな音と共に地響きがした。近くで何かが起こったみたいだ」ガラッ!

 

陽那「まさか、近くで打ち上げ花火か何かが爆発したとか?」

 

斎藤T「火の手は上がってはいないみたいだけど、あっちこっちで家の明かりが点き始めたな」キョロキョロ

 

斎藤T「確認してくる。家の人を安心させないとだからな」

 

陽那「あ、待ってください! それなら、私も行きます!」

 

斎藤T「……ウマ娘の方が強い。何かあった時の頼みの綱か」

 

斎藤T「わかった。ついてきてくれ」

 

陽那「はい!」

 

 

――――――私はトレセン学園の見回りの時の装備品を可能な限り揃えて出発した。

 

 

斎藤T「何かあったんですか?」

 

近所の人「ネットを見たかい? 隕石がこの辺りに落ちたみたいなんだよ」

 

陽那「……隕石ですか」

 

近所の人「ああ。まったく困ったもんだよ。明日にでも隕石を探しに野次ウマがここに集まってくるんじゃないかな?」

 

斎藤T「いや、ニュースを見た瞬間にはここに全国各地から駆けつけているかも……」

 

近所の人「これじゃあ、お盆休みに来てくれた息子たちが都会に帰るのに邪魔になるんじゃないかって。朝早くに出て成田の飛行機の時間に間に合うかどうか……」

 

陽那「そうですね。渋滞が発生するかもしれませんね」

 

近所の人「なあ、あんた、トレセン学園のトレーナーなんだろう? とりあえず警察には電話しておいたけど、さっさと隕石を見つけて警察に引き渡しておいてくれんか?」

 

陽那「でも、隕石が落ちる瞬間を見たわけじゃないので、場所の特定なんて こんな夜中に――――――」

 

斎藤T「わかった。すぐに見つけてくるから、バリケードになりそうなもの、なければテープか縄なんかを用意して待っていてくれ。たぶん、確認自体は1時間もあればすむと思う」

 

近所の人「お、頼もしいのう! さすがはトレセン学園のトレーナー! ウマ娘にとっては入学した後が競争率が高い場所だが、ヒトにとっては入学する時が競争率が高い場所を勝ち取っただけはある!」

 

 

――――――そして、

 

斎藤T「これが隕石か。人類史上最大のホバ隕石と比べたらなんてことはないな。それでも、絨毯ぐらいの大きさなのは珍しい」

 

陽那「こ、これが隕石なんですか? 隕石なら落ちた場所にクレーターができると思うんですけど」

 

斎藤T「……たしかに。まあ、クレーターが残ってないなら、野次ウマたちに観光地化されることがなくてよかったじゃないか」

 

陽那「そうですね」

 

斎藤T「……持てるか? 絨毯ぐらいの大きさの隕石を持ち帰るのはさすがにウマ娘でも無理か?」

 

陽那「……申し訳ありません、兄上。私ひとりでは無理そうです」

 

斎藤T「となると、バリケードを設置して警察に回収してもらうことになるか」

 

斎藤T「じゃあ、ライトで全体が明るく見えるように照らしてくれ」

 

陽那「はい」ピカッ

 

斎藤T「そうそう、ものさしを置いて証拠写真を撮る。位置情報を添付して警察にメッセージ送信だ」パシャ

 

斎藤T「よし、確認はできた。一旦、戻ろう」

 

陽那「はい」

 

陽那「しかし、よく隕石の場所を特定することができましたね?」

 

斎藤T「本当だよ。家を出る前に赤外線ゴーグルで微かに垂直方向に伸びる不自然な熱量を見つけられなかったら、一晩かけても見つけられなかっただろうね」

 

陽那「もしかしたら、兄上が宇宙船を創るのを天が祝福してくださっているのかもしれませんよ」

 

斎藤T「そうだといいな」

 

 

ブーンブーンブーン・・・

 

 

陽那「兄上、ブーンブーンって何か大きな虫が飛んでいるような音がしません?」

 

斎藤T「……たしかに。大きなカブトムシでも飛んでいるのかな? にしては、物凄く大きい感じがするな?」

 

斎藤T「うおっ!?」パシッ

 

陽那「あ、兄上!?」

 

斎藤T「あ」

 

斎藤T「え? 思わず掴んじゃったけど、これって――――――」

 

陽那「わあ! 本当にカブトムシですよ、兄上!」

 

 

斎藤T「え? カブトムシってY字の角だけじゃなかったっけ? クワガタムシみたいな2本の角も生えているぞ、これ! しかも、ものさしと同じ大きさじゃないか!」

 

 

斎藤T「まさか、突然変異か!?」

 

陽那「……もしかしたら、海外のカブトムシかもしれませんね」

 

斎藤T「なに?! 侵略的外来種か!?」

 

陽那「よくはわかりませんけど、海外から輸入されたペットが飼い主の許から離れて野生化して生態系が乱されるのが問題になるニュースを見たことがあります」

 

斎藤T「叩き殺す! 侵略的外来種の存在は宇宙移民にとっては最大の病原体だ!」グッ

 

陽那「そんな! いくらなんでもかわいそうですよ! 監督不行き届きの無責任な飼い主の罪を野に解き放たれたペットが償うのですか?」

 

斎藤T「人間は社会的生き物だ。つまり、社会的責任能力を有さない存在に人権なんか認める必要はない」

 

陽那「せめて、連れ帰って飼い主になってくれる人を探しましょうよ」

 

斎藤T「……わかった」

 

陽那「とりあえず、写真は撮っておきましょう。あとでペット問題の告発に使う証拠写真になります」パシャ

 

 

ヒヒーーーーン!

 

 

斎藤T「……馬の嘶き? こんな場所で?」ピタッ

 

陽那「な、何ですか、今のおぞましい声は!?」ガクガク・・・

 

斎藤T「え、何って馬の嘶き――――――」

 

陽那「――――――“UMA”って何なんです!? “夜の鳥”と書く鵺の仲間ですか!?」

 

斎藤T「……“NUE”って何だ? 夜行性の鳥の一種?」

 

陽那「正体不明の妖怪ですよ、兄上!」

 

陽那「平安時代末期、天皇陛下の御所:清涼殿に毎晩のように黒煙と共に不気味な鳴き声が響き渡り、陛下の御心を騒がせ奉った妖怪が鵺なんです!」

 

陽那「それを退治したのが源 頼光の子孫:源 頼政で、先祖伝来の剛弓でもっての鵺退治の逸話として、皇宮警察の常識ですよ、兄上!」

 

斎藤T「いや、今のはどう考えても馬の嘶きだったが……」

 

斎藤T「――――――うっ!」ゾクッ

 

陽那「――――――ひっ!」ゾクッ

 

斎藤T「位置情報は警察に知らせたし、急いで帰るぞ!」

 

陽那「はい、兄上!」

 

 

ダッダッダッダッダ!

 

 

斎藤T「ここまで来ればもう大丈夫だろう……」ゼエゼエ

 

陽那「は、はい……」ゼエゼエ

 

斎藤T「正直に言って、命の危険を感じたぞ、さっき……」ゼエゼエ

 

陽那「き、気のせいですよ、そんなこと……」ゼエゼエ

 

斎藤T「あとで、NUE退治の話を詳しく聞かせてくれ……」ゼエゼエ

 

陽那「わかりました、兄上……」ゼエゼエ

 

斎藤T「厄介事に巻き込まれる前に帰りつければいいが……」ゼエゼエ

 

近所の人「お、帰ってきたぞ!」

 

近所の人「おい、大丈夫かい?」

 

斎藤T「ええ、何とか」ゼエゼエ

 

斎藤T「隕石の写真です。位置情報は警察に知らせておいたので、もう大丈夫です。あとは警察にまかせて寝ましょう……」・・・フゥ

 

近所の人「おいおい、兄ちゃんに言われて人を集めてきたんだぜ? それに、警察が持っていく前に隕石を見に行きたいって孫が言い出してなぁ?」

 

斎藤T「危険です! せめて、夜が明けてからにしてください!」

 

近所の人「…………!」

 

斎藤T「帰ってくる途中で馬の嘶きというか、不気味な鳴き声を聞いたんです……!」

 

斎藤T「妹が言うには妖怪:NUEかもしれない――――――そんな恐ろしい何かが隕石の近くにいます!」

 

近所の人「……そういうことなら、首を突っ込まない方がいいな。触らぬ神に祟りなしだ」

 

近所の人「とりあえず、隕石の写真、譲ってくれんか?」

 

斎藤T「いいですよ。隕石の写真が欲しい人は来てください。配信しますから」

 

 

スタスタスタ・・・

 

 

斎藤T「やっと帰れる……」

 

陽那「おつかれさまでした、兄上」

 

斎藤T「隕石が落ちた場所には決して近づかないようにコンセンサスを得て、野次ウマも入れないように森の入り口にバリケードを作る羽目になったよ……」

 

陽那「杞憂で終わればいいのですけど……」

 

斎藤T「地獄の釜の蓋が開く盂蘭盆会で百鬼夜行だなんて笑えない冗談だしな……」

 

斎藤T「それじゃあ、藤原さんが迎えに来るまで、一眠りしようか」

 

陽那「はい……」

 

斎藤T「――――――ッ!」ゾクッ

 

斎藤T「危ない!」ドン!

 

陽那「きゃっ!」ドサッ

 

斎藤T「うあっ――――――」

 

斎藤T「何だ、これは!?」タラー・・・ ――――――頬を掠めた一撃は皮膚を抉って血を流させた。

 

陽那「あ、兄上!?」

 

陽那「――――――!」

 

 

怪人:ウマ女「ヒサシブリダナ、ケイローン」

 

怪人:ウマ女「モトノカラダヲウシナッテオナ、ブザマニテイコウヲツヅケルスガタハ マサシク ムシケラナノダ」

 

怪人:ウマ女「ココデタタキツブシテヤル!」

 

 

――――――それは未知との遭遇。第八種接近遭遇:宇宙人による侵略。

 

 

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