ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-西暦20XY年01月25日の航星日誌- GAUMA SAIOH
さあ、みなさん、お待ちかね! 待ちに待った『URAファイナルズ』予選トーナメントの開催である!
今から3年前、生徒会役員に就任したトウカイテイオーとメジロマックイーンがクラシック世代の時、ミホノブルボンとライスシャワーとハッピーミークが新入生だった頃に、
高等部1年で圧倒的な支持によって3期に渡って生徒会長を勤め上げた“皇帝”シンボリルドルフと共にトレセン学園の黄金期を主導したちびっ子理事長:秋川 やよいが立ち上げた前代未聞の大規模レースである。
すでに『URAファイナルズ』がどういった点で異例のレースなのかは何度も語られたが、先日の夜に開催直前の特別番組が放送され、そこで改めて『URAファイナルズ』を開催する意義と特徴が語られることになった。
これは生放送というわけではなく、実際に放送された時間帯には競バ場の調整ルームに多くの競走ウマ娘がすでに入っていることもあり、出走バによる選手宣誓の場面などは『生徒会選挙』の前に収録されたものである。
その特別番組を私は出演者であった“皇帝”シンボリルドルフと一緒に鑑賞することになり、
秋川理事長と二人三脚で『URAファイナルズ』の開催に協力していた前生徒会長:シンボリルドルフから裏話をいろいろと聴くことになり、いかに秋川理事長が優秀な経営者だったかを知ることになった。
母親であった前理事長から理事長職を世襲した親の七光りといろいろ言われているが、
実際には高等部1年で一分の隙のない最強のウマ娘として若くして生徒会長職になるのを内外に“皇帝”シンボリルドルフが認めさせたように、
秋川 やよい自身も見た目通りの若さで大学に飛び級で卒業して理事長になっているのだから、夢の舞台で働く大人の中では学歴と学力はトップクラスであり、個人の財力も凄まじいものがあった。
もっとも、最初から秋川 やよいが先代理事長である母親が始めた暗黒期からの脱却:“ウマ娘によるウマ娘のためのウマ娘のウマ娘レース”への回帰のための英才教育を施されていたのも事実であり、
だからこそ、『URAファイナルズ』開催にとんでもない額の私財を擲って社会に還元しているわけであり、妹のためにまとまった資金を稼ぐ目的でトレーナーになった斎藤 展望とは何もかもが大違いである。
豪快で幼い外見で年齢の割に落ち着きのない性格でいろいろと侮られることも多いが、それをトレセン学園の最高責任者である理事長の年相応の姿だと思っているやつがいるなら、そいつは相当な世間知らずの苦労知らずの恩知らずの不逞の輩だろう。
全てが全て演技であるはずもないが、もっとも効果的な嘘というのは
つまり、理事長という最高責任者らしからぬ豪快な性格は、半分は自分の趣味やワガママを押し通すためのものだろうが、もう半分は自由で開放的な黄金期であることを内外に印象づける必要性があったから演出しているものだ。
と言うより、やはり自分の趣味やワガママを周囲に見せつけているのも、見えないところでいろいろとまじめな話をしていることで周りに心労をかけないために偉い人がする典型的な気分転換のストレス解消法だ。
それこそがやる必要性とやりたい欲求を両立させた趣味と実益を兼ね備えた表向きの態度なのだから、それを新人トレーナーたちと大して変わらない歳でやりきることを決めた不退転の覚悟と使命感に敬意を払いたい。
そういう意味では、やはりトレセン学園の黄金期を一番に支えていたのは最高責任者である秋川理事長であり、生徒会長:シンボリルドルフも偉大ではあったが、秋川理事長の手腕と忍耐に比べたら――――――。
実際、『URAファイナルズ』開催のために一気に需要が増える芝の買い付けも、一時は生産者側のトラブルで供給が間に合わなくなる危機に見舞われたが、最終的には各方面の協力もあって計画通りの量を賄うことができたのだ。
――――――これを一流の経営者の手腕と言わずして何とする?
なので、私はヒトとウマ娘が共生する21世紀の異なる進化と歴史を歩んできた地球におけるトレセン学園理事長の平均がわからなかったので、当初は秋川理事長の偉大さを測りかねていたが、別に若いからといって侮ったことはない。
外見だけで判断するのは宇宙の果ての未知なる世界を探索することになる宇宙移民にとっては致命的な欠点であり、
たとえば、突如としてトレセン学園を襲撃してきた謎の人造人間が機密保持のために自爆用に戦術核爆弾を内蔵している可能性ぐらい想定できなくちゃ。
だからこそ、科学的な態度が必要不可欠であり、全ての情報が得られるわけじゃないにしても、可能な限り憶測で物事を判断することだけは排除しなければならない。そう立ち回る努力をするのは義務なのだ。
とは言え、科学万能主義者の誤解としてガリレオ・ガリレイの地動説を異端審問に掛けて教会が認めなかった話が多々挙げられるが、
一方で、この件で話題となった科学と宗教の対立という構図は19世紀の科学者たちがオッカムの剃刀で単純化したストーリーであることを知らないことが多い。科学万能主義者でさえも当時の宗教裁判が三権分立と完璧な教義による私情を持ち込まない審議の結果だと無意識に設定しているのだ。
そもそも、当時のガリレオ・ガリレイは『地動説が正しい』という仮説を述べた――――――。つまり、
地動説の確固たる証明ができたのはジェームズ・ブラッドリーの光行差の発見、フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ベッセルによる年周視差の観測の成功によるので、
よって、ガリレオ・ガリレイは『地動説が正しい』という科学的な証明はしていないのだから、ガリレオ・ガリレイがどれだけ慣性の法則の発見などで確信を持っていようが憶測で物事を判断していたことに他ならない。
だから、予想や仮説が正しかったことと科学的な証明が果たされたことはイコールではない。
そこを21世紀の科学万能主義者たちは履き違えており、それがわかってないから科学的な態度を自分たち自身が貫けないわけである。
それが21世紀を生きる人々に足りない基本的な姿勢であり、まだまだ教育改革の必要があることをSNSの書き込みなどを調べていてひしひしと感じていた。
だからと言って、過去の人間や先人たちに対して後から間違っていることが証明されている事柄を信じているのを嘲ることも許されないことで、自分が相手と同じ立場になってみてどう思うのかをまず考える習慣が第一なのだ。
そういう意味では、昨今で人気となっている人狼ゲームは相手を疑うことを前提にしているゲーム性でありながら、他者の視点から真相を推理するという点で、他者の気持ちを汲み取る教材としては非常に好ましいゲームであった。
もちろん、与えられた情報や展開次第なので、23世紀のどこに出しても恥ずかしくない地球の代表者の1人を自負する私でも必ず勝てるわけではないが、やはり勝率は9割前後を維持できているのがその証明にもなろう。
よって、それが間違っていることを知っているのとそれが間違っていることを証明することは同じようにイコールではない。
そこが徹底されていると、無知から生じる偏見や先入観を取り払った別け隔てない円滑なコミュニケーションが可能になるわけであり、自然と揉め事も減ってくるのだ。
そういうわけで、秋川理事長の苦労を知ろうとしない上っ面な人間が多いこと多いこと。それでいて自分こそが一番の苦労人だと堂々と人前で言える人間の神経を疑うよ。
お気楽そうにしているように見えるのが腹立たしいのなら、いつも深刻そうな態度をしている相手と仕事するのが自分にとって働きやすいのかを考えてみればいい。
そういったことを経営者としてあらかじめ考え抜いた上でああした態度をとっていることぐらい勉強して欲しいものだ。それが自分にとっても利になる。
一方で、好ましいと思われる態度をとっていても自分でものを考えないアホ共に理不尽に腹立たしく思われることさえあることもセットで覚えておくといいだろう。
そう、多様性を認めるということは支持率100%にならないことに決して腹を立てないことであり、それが嫌ならば独裁者になって自身を崇拝させればいい。それを想像すれば、自分がどういった人間なのかがわかるはずだ。
だが、多様性を認められない国家がどういった運命をたどることになるかは、近代化に失敗して西洋列強にパイにされた清朝の末路を見ればはっきりわかる。
そうならないために、宇宙移民はあらゆる可能性を想定して多様性に順応する過程で外見や憶測で物事を判断することは
――――――都内の子供たちを集めた『URAファイナルズ』予選トーナメント観戦プログラム
シンボリルドルフ「それでは、餅搗き競争のリハーサルを始めるとしましょう」
スーパークリーク「準備はいいですよ~」
シンボリルドルフ「では、お願いします」
シンボリルドルフ「えい!」ペチッ
スーパークリーク「はい!」コネッ
シンボリルドルフ「えい!」ペチッ
スーパークリーク「はい!」コネッ
シンボリルドルフ「えい!」ペチッ
スーパークリーク「はい!」コネッ
シンボリルドルフ「えい!」ペチッ
スーパークリーク「はい!」コネッ
シンボリルドルフ「えい!」ペチッ
スーパークリーク「はい!」コネッ
シンボリルドルフ「えい!」ペチッ
スーパークリーク「はい!」コネッ
斎藤T「おお、速い速い!」ペチッ
アグネスタキオン’「こっちも負けてられないね!」コネッ
斎藤T「ああ。三色餅を子供たちに食わせてやらにゃ、年長者としての務めが果たせん!」ペチッ
斎藤T「おい、アルヌール! 杵で臼を叩き壊すなよ! 見てわかるだろう!」ペチッ
アルヌール「問題ない」ペチッ
シリウスシンボリ「それじゃ、お手並み拝見だ、
アルヌール「――――――」ペチッ
シリウスシンボリ「おい、シュワちゃん!」
アルヌール「何だ?」ピタッ
シリウスシンボリ「声を出さねえとタイミングが掴めねえだろうが! よく考えろ!」コネッ
アルヌール「わかった」
アルヌール「えい」ペチッ
シリウスシンボリ「ほら!」コネッ
アルヌール「こんな感じか?」ペチッ
シリウスシンボリ「そら、いい調子だぞ、シュワちゃん! そのまま続けろ!」コネッ
アルヌール「わかった」ペチッ
シリウスシンボリ「待ってろよ、おチビ共。すぐにできたての三色餅をたらふく食わせてやるからな」コネッ
今、私たちがいるのはトレセン学園OB会による地域交流イベントを兼ねた『URAファイナルズ』予選トーナメントの観戦プログラムである。
【短距離】【マイル】【中距離】【長距離】【ダート】の5部門のレースが全国の競バ場で2日間に渡って一斉に開催されるのを5つの巨大なスクリーンで未来の競走ウマ娘たちを大勢招いて観戦させるものであった。
そういった学外での『URAファイナルズ』を盛り上げていくための催しに元生徒会長:シンボリルドルフに招待されることになり、私はこうして大量の三色餅を用意するための労働奉仕をさせられていた。
否、肉体改造強壮剤による常人を超えた筋力を役立てるために、昔とった杵柄、肩をはだけて自ら杵を振るって餅搗きを披露していた。
そして、ここで1つの見世物として、三色餅に因んだヒト 対 ウマ娘 対
ヒトより卓越した身体能力が自慢のウマ娘であっても杵で臼を破壊するわけにもいかないため、この餅搗き勝負は宇宙船のクルーで一番の餅搗き名人である私に分があった。
一方で、さすがは未来からやってきた人造人間:アルヌールであり、人間精密機械として餅搗き名人である私の完璧な動きをトレースして一寸たりとも違わぬ一定のペースを保って小気味よく餅搗きをする。
195cmの巨体で筋肉美が光る肩をはだけた和装で餅搗きに精を出すという、とにかく目立ちまくる筋肉ムキムキマッチョマンの姿はとにかく目を引いた。
しかし、むさ苦しい男たちの餅搗きの中で桃色の餅を搗く かつてのトレセン学園の顔役である シンボリルドルフがそれに負けじと肩をはだけた弓道着姿で餅を搗くのだから、そこであつあつの餅の湯気で火照った表情が人々の目を引いた。
結果としては、カメラ判定になるほどの接戦にもつれ込んで、ここではシンボリルドルフに花を持たせるために(本当は餅搗き名人である私が一番先に餅を搗き終わったけど!)彼女に勝ちを譲ることにした。
というのも、斎藤 展望は学園一の嫌われ者でなければならないし、未来から送り込まれた人造人間が周囲の関心を寄せられるわけにもいかない。引き立て役になって その存在を隠さなければならない。
なので、ヒトや機械が単純な筋肉労働でウマ娘相手に互角の餅搗き勝負を繰り広げたこと自体がシンボリルドルフからするととんでもないことだったのだが、ここはいつもの“皇帝”らしく互いの健闘を称えて後、盛大な拍手が響き割った。
その後、出来上がった三色餅で大きな鏡餅を作って皇祖皇霊の天神地祇と三女神に供えた後、すでに始まっている『URAファイナルズ』の予選レースを5部門全てを大画面で同時に観戦しながら、
いろんな形で三色餅を子供たちと食べることになり、『URAファイナルズ』が開催できたことをシンボリルドルフが子供たちに未来のスターウマ娘になることを願いながら祝いだ。
私はぜんざいと雑煮を味わいつつ、もち米の赤飯も口にいれながら、ミホノブルボンやナリタブライアンと言った顔見知りのウマ娘が予選を楽々と突破していくのを見た。
おお、未勝利バが奇跡の予選突破で感激のあまりに胴上げまでしているぞ。予選突破しても勝利にはならないけど、予選突破の賞金はちゃんと出るから初めての入賞で大喜びだな。
もちろん、子供たちにとっては世界的にも異例なトーナメント戦は応援しているほんの一握りのスターウマ娘が出てこない限りは退屈にもなってくるので、“最強の七冠バ”シンボリルドルフにドシドシ質問をぶつけていた。
それから新春芸能大会としてシンボリルドルフがウマ娘だからか自分で走って弓を射るウマ娘流の流鏑馬を披露し、
私もアグネスタキオンのファン数稼ぎのために23世紀の宇宙科学や現行の最新の科学のちょっとした応用実験を披露し、会場は大いに盛り上がるのだった。
そして、人造人間:アルヌールは暗黒期に欧州遠征で活躍したシンボリ家のダービーウマ娘:シリウスシンボリの興味の対象になったらしく、シリウスシンボリはアルヌールを“シュワちゃん”と呼んで子供たちと一緒に面倒を見ていた。
たしかに、私は未来からやってきた暗殺用人造人間ということで、意図的にシュワちゃんに似せたマスクに作り直して“アルヌール”を名乗らせていたが、ヒトとウマ娘が共生するこの21世紀の地球にもシュワちゃんは健在のようだ。
しかし、あの人造人間の出所が賢者ケイローンが警告した第八種接近遭遇:宇宙人による侵略よる10年後の破滅の未来より
火曜日の『生徒会総選挙』を襲撃するはずだった人造人間は“目覚まし時計”によって襲撃前の府中市内で鹵獲されることになり、侵略の中心地:奥多摩にあるWUMAの遺産である解析機で内蔵されたメモリーが暴かれることになった。
そこで超科学生命体の解析機を使って
プログラムソースを参照して比較するとほとんどそっくりであり、所々にこの時代のプログラムソースが混ざっているのを見て、私は途方も無い落胆を覚えていた。
そして、どうしてDNA鑑定機能を搭載しているのかも察しがつき、最優先抹殺目標のメモリーに書き込まれていたのは『WUMAの侵略から未来を救った英雄のパーソナルデータ』『未来の英雄のDNAデータ』であった。
どうやら、トレセン学園を襲撃する前から『未来の英雄のDNAデータ』に近い存在としてウマ娘のDNAデータを収集しており、『未来の英雄のパーソナルデータ』の写真と照合して、“流星”のあるウマ娘が未来の英雄の母親ではないかという推測をしていた。
そして、未来の英雄の母親を殺すことで未来を救われなくする――――――。
未来を救われてしまったWUMAの残党が過去に時間を遡って干渉しようとしたわけなのだ。そこから分岐したパラレルワールドを生み出すだけなのに、なんとも報われない話だ。
ただ、純粋なWUMAのプログラムソースの中に現在使われているプログラミング言語に近いものが混じっていることから、おそらくはWUMAの支配をよしと思っていた人間たちなのだろう。
それは未来の問題として未来の人間に託したいところだが、それは100年後ぐらい後の話などではなく、斎藤 展望がまだまだ元気に生きている頃なので、私の夢である宇宙開発が滞るような未来は願い下げである。
そして、共通する過去Oで何かを変えたところで未来Aの住人は分岐した未来A’の住人ではないことなど少し考えればわかるのに、どうしてパラレルワールドを生み出そうとしているのか、判断材料に乏しいので現状では推理はそこまでだった。
一方で、肝腎の『未来の英雄のDNAデータ』だが、これの元になる両親を捜索するかどうかを私は決めかねていた。
別に、未来の英雄の両親になる存在を過去の世界で抹殺するだけで望み通りの未来が創り出せるとは限らないからだ。絶対的な因果の話だ。
この世の事象は同様に確からしい確率に収束している確率論によって構築されているわけなのだから、
もしも33%の確率で未来でそうなった事実があるとして、それを過去に持ち越したら未来がそうなる33%の確率を引かせるのを後押しする因子をもたらすだけなのだ。
つまり、無駄なんだよ。過去を変えようと思って未来からやってきた時点で、過去と未来の連続性が因果律で結ばれるわけだから、それを逸脱したらどうあってもパラレルワールドに分岐する。
そもそも、たった1人か2人の過去の人間を殺したところで、未来のシナリオは最終的には長い目で見て必ず同じ結果に収束するのが確率論なのだから。
たとえば、ある家族や子孫の未来を変えたいのなら直接的にその家族を過去で救い続ければ問題ないが、それが市町村や国家単位になると1人2人を救った程度で世の中の流れが変わるのかという常識的に考えればわかる話である。
つまり、過去を変えて異なる未来に到達したいと思うのなら、それはそれ相応の規模で時代を動かすことと同義であり、
未来を救う英雄の存在を過去の世界に行って抹消したいのなら、未来を救う英雄に当てはまる素質を持った人間やその関係者を全て抹殺しないとお話にならない。
なぜなら、未来を救う英雄には固有性がないから、その場にいる誰かが状況に迫られて英雄になるしかないのだろうから。きっと、その未来を救った英雄も血統にではなく状況によって選ばれた存在だったはずである。
なので、こんな過去にまで遡ってねずみ算式に増えていくだろう関係者を全て皆殺しにするより、未来を救う英雄が未来を救う直前に遡ってその1人を抹殺するのが一番に確実な方法であろう。
だから、過去に行って未来を変えることはパラレルワールドを創るだけであって わざわざタイムスリップした目的である直接的な救いにはならないし、
むしろ、逆にそうなった過去と未来の因果の連続性が確定するので、どっちみち、やっぱりタイムスリップした目的を果たせなくなるだけだ。
一方で、このままだとWUMAの支配から救った未来の英雄を抹殺しようとする残党たちとの戦いの未来になるというのが確定していることを私は知ったので、パラレルワールド化に踏み切るべきかを考えていた。
そうすれば、並行宇宙の支配種族である“フウイヌム”の侵略による絶望の未来がそもそも回避される可能性もあった。
ただ、それはつまりは賢者ケイローンの時間跳躍によって決定づけられた世界の命運が今回の人造人間を未来から呼び寄せたことにも繋がっているので、
賢者ケイローンの知る未来の地球から大きく掛け離れた異なる地球の未来を創り出さないと、絶対に“フウイヌム”によっては一度は支配される絶望の未来に陥ってしまうのだ。
つまり、10年以内に“フウイヌム”が襲来してしまう未来の地球の文明レベルを圧倒的に上回るか、圧倒的に下回るように変えていかないと、最終的な地球の未来は絶対に変えられないのだ。
なので、『未来の英雄のDNAデータ』が指し示す両親を私が探し出して保護しようが監視しようが抹殺しようが未来は大して変わらないのだから、探し出すのも億劫であった。
それよりも、こうして学校関係者ではあるが実際には部外者であるOB会に参加するように言われたのには理由があった。
それは“皇帝”シンボリルドルフが譲り渡すことを約束していた予言書『ウマ娘 プリティーダービー』のためであり、
それを書き上げたのは“魔王”スーパークリークの担当トレーナーだった“ウサギ耳”で、元々は“皇帝”シンボリルドルフが己の生まれの不幸を呪っていたのを励ますために未来はこうなるということを記したものだった。
その予言書は『URAファイナルズ』開催までのものだったのですでに役目を終えたが、こうして“皇帝”シンボリルドルフ卒業後のトレセン学園で何かしら役に立つことを願って、股肱之臣として受け取る次第であった。
ただし、それは正伝の巻の話で、トウカイテイオーやサイレンススズカに襲った悲劇やたくさんのスターウマ娘の活躍と実績などを事細かく予言した外伝の巻はそれこそ門外不出のため、
こうして暗黒期に“ウサギ耳”と行動を共にした仲間たちに鍵を渡して全員が集まった時に封印が解かれるようになっていたので、今回の会合は全て私のためでもあったのだ。
――――――それはまさに鏡開きと言えた。
斎藤T「それじゃあ、神前に供えた鏡餅を下げて鏡開きといたしましょう」
斎藤T「こうやって固くなった鏡餅を叩いて『開く』のは、神前に供えた神聖な餅を刃物で『切る』のは“切腹”を連想させ、こうやって木鎚で叩いて『割る』のも“腹を割る”を連想させるので、『開く』と言い換えているわけです」
斎藤T「そして、昔の『鏡』は丸いから“円満”、『開く』は“末広がり”を意味するので、鏡餅を食べるのはとても縁起が良いわけですよ」
斎藤T「だから、今日は最後にこの縁起が良い鏡餅を開いたものをお土産に持って帰って美味しく食べてね」
斎藤T「それではまた明日も楽しんでいってね」
子供たち「はーい!」
シンボリルドルフ「解説、ありがとうございました」
シンボリルドルフ「では、『URAファイナルズ』予選トーナメントも前半を終え、本日最後のプログラム! 最後に鏡開きといきます!」
シリウスシンボリ「いいか、シュワちゃん。ちゃんとタイミングを合わせて、床まで『開く』なんてことはないようにしろ」
シリウスシンボリ「できるだろう?」
アルヌール「できるとも」
シリウスシンボリ「なら、よし」
シンボリルドルフ「用意はいいですか!」
シンボリルドルフ「では、1,2,3!」
シンボリルドルフ「――――――」
斎藤T「――――――」
アルヌール「――――――」
――――――ズドオオオオオオオン!
スーパークリーク「今日の催しは大成功でしたね」
シンボリルドルフ「はい。本当にご協力に感謝します」
シリウスシンボリ「こっちとしては『ふざけんな』ってところだったけどな」
シリウスシンボリ「『URAファイナルズ』の開催日程の変更が『有馬記念』の後で、会場を押さえることができなかったからって、OB会にも無茶振りしやがって」
シリウスシンボリ「それで たまたま今年のOB会の幹事になっていたやつが私に泣きついてきやがった」
シンボリルドルフ「それでも、何とかしてもらえるという絶対の信頼を大人になってからも持ち続けているのは素晴らしいことだと思いますよ」
シリウスシンボリ「相変わらずルドルフは模範的な回答だな。さすがはシンボリ家の総領娘。未来の皇帝様だな」
シリウスシンボリ「ほらよ、鍵」ポイッ ――――――クラブの鍵!
シンボリルドルフ「ありがとうございます」パシッ
スーパークリーク「じゃあ、私の分の鍵もどうぞ」 ――――――ハートの鍵!
シンボリルドルフ「ありがとうございます」
シンボリルドルフ「あとは――――――」 ――――――ダイヤの鍵!
マルゼンスキー「ハァイ♪ マルゼンスキーよ! おまたせ!」 ――――――スペードの鍵!
シリウスシンボリ「おう、遅かったじゃないか、マルゼンスキー」
マルゼンスキー「そりゃあ、待ちに待った『URAファイナルズ』だもの。あの頃にあったら、私もあんなにも荒れることはなかったって、つい……」
マルゼンスキー「それで、観客席で応援してたのよ。昔じゃ考えられないぐらいに最高に盛り上がって凄かったのよ~」
シンボリルドルフ「それはよかったです。秋川理事長もそれを聞いて大喜びでしょう」
マルゼンスキー「もう! ルドルフちゃんったら! そういうことじゃないでしょう?」
シンボリルドルフ「え?」
シリウスシンボリ「そうだろう?」
――――――やっと、終わったんだからさ。
シンボリルドルフ「…………っ!」
スーパークリーク「よくがんばりましたね。いい子いい子~」
シンボリルドルフ「う、うぅっ……」ボタボタ・・・
シンボリルドルフ「本当に終わったんだな……?」ボタボタ・・・
シリウスシンボリ「ああ、終わったよ。凄いやつだよ、お前は」
シリウスシンボリ「本当は顔を出すつもりはなかったけど、今はお前のことを誇らしく思っているぞ、ルドルフ」
シンボリルドルフ「あ、ありがとう……」ボタボタ・・・
シリウスシンボリ「ああ、今は存分に泣け。ずっと流せなかったもんだからな」ヨシヨシ
――――――お前が好きだったあいつもこれで浮かばれたかな?
斎藤T「………………」
アルヌール「質問がある。どうして人は涙を流すのだ?」
斎藤T「シー」
アルヌール「シー」
斎藤T「ヨシ」
アルヌール「ヨシ」
斎藤T「――――――」スッ ――――――PDAに文字を打って説明する。
アルヌール「――――――」スッ ――――――同じようにPDAに文字を打って返答する。
――――――都内の高級ホテルの三ツ星レストラン
シリウスシンボリ「で、あいつの後釜がこいつだったってわけだな」
シンボリルドルフ「はい。彼には今までの誰にもなかったものがあります」
マルゼンスキー「へえ? たとえば、
スーパークリーク「どうなんですか、斎藤Tさん?」
斎藤T「私ですか? 私はトレセン学園で宇宙船を造る資金集めをしているだけですよ?」
シリウスシンボリ「とぼけるなよ。アンタからはとてつもないものを感じる。それに雰囲気がそっくりさ」
アルヌール「それは誰に?」
シリウスシンボリ「そりゃあ、私のツレにだよ、シュワちゃん」
アルヌール「――――――『ツレ』?」
マルゼンスキー「それはね、スパダリのことよ、シュワちゃん」
アルヌール「――――――『スパダリ』?」
スーパークリーク「本当に大切な人のことですよ、シュワちゃん」
アルヌール「それは恋人ということか? それとも、結婚相手のことか?」
スーパークリーク「そうじゃないですよ。そういうふうに好きじゃなくなったら恋人を止めたり、結婚生活をやめたりするような関係じゃないんですよ」
スーパークリーク「だから、私はあの人にバレンタインデーで贈るチョコは『何かしら大切なチョコ』なんです」
アルヌール「まとめると
スーパークリーク「そうですよ。よくできましたね~」ヨシヨシ
シリウスシンボリ「そもそも、籍を入れてないしな、ツレとは」
マルゼンスキー「ええ? まだ結婚してなかったの、シリウスちゃんってば?」
シリウスシンボリ「そういうマルゼンスキーも独身のままだろう」
マルゼンスキー「だって、私もクリークちゃんと同じだから」
シリウスシンボリ「待つだけ無駄だと思うけどな、そいつとはな」
アルヌール「こいつは斎藤Tで、あいつは鈴音Tで、そいつはムラクモTで間違いないか?」
シリウスシンボリ「おっと、悪かったな、『あいつ』とか『そいつ』とかで」
アルヌール「では、斎藤Tがアグネスタキオン、鈴音Tがシンボリルドルフ、ムラクモTがスーパークリークの担当トレーナーで間違いないか?」
スーパークリーク「はい。それで合ってますよ」
アルヌール「しかし、鈴音TもムラクモTも行方不明という扱いだが?」
マルゼンスキー「あ、それは――――――」
シンボリルドルフ「いや、いいんです。彼には全てを知ってもらいたいと思って、ここに呼んだのですから」
斎藤T「本当にいいんですか?」
シンボリルドルフ「詳細はここでは話せないが、後でまとめたデータを渡す」
シンボリルドルフ「私の担当トレーナーは私を守って遠いところに行ってしまったが、ムラクモTはこことは別の遠いところに旅立った――――――。そういうことなんだ」
斎藤T「そうだったんですか……」
シリウスシンボリ「つまり、マルゼンスキーとスーパークリークは置いていかれたってわけさ」
斎藤T「寂しくはないのですか?」
マルゼンスキー「ううん、全然」
スーパークリーク「だって、約束しましたから」
――――――必ず迎えに来るって。
アルヌール「それは結婚するという意味か?」
スーパークリーク「ちがいますよ。何かしら大切な人なのはこれからもずっと変わらないです」
マルゼンスキー「うん。これからもムラクモちゃんは私にとってのスパダリだから」
シリウスシンボリ「それで行き遅れたら世話ねえだろうに」
シリウスシンボリ「実は、この2人だけじゃないんだぜ、シュワちゃん」
シリウスシンボリ「他にも、シンザン以来の“三冠バ”だったミスターシービーも泣かせているからな、ホント罪作りな男?だったな、そいつ……」
斎藤T「え?」
斎藤T「ミスターシービーの担当トレーナーってたしか桐生院先輩の親戚の今は行方不明の桐生院兄妹って話じゃ……」
アルヌール「それは二股じゃなくて三股だったということか?」
シリウスシンボリ「実際はちょっとちがうんだな」
シリウスシンボリ「ミスターシービーの担当トレーナーである兄妹が揃ってムラクモTと一緒に向こうに行っちまったんだよ」
シリウスシンボリ「だから、ミスターシービーは完全にフラれたショックであっちこっちをフラフラしてるって話だけど」
シリウスシンボリ「そういう意味では私以上に女誑しだったんだぜ、“ウサギ耳”は」
シリウスシンボリ「実際、私も何回もベッドに誘ったのに、最終的にはヒトの兄妹を選んだしな」
斎藤T「行方不明の真相って、そうだったのか……」
アルヌール「それはどこのことだ?」
シリウスシンボリ「おっと、そこから先は言えないな、シュワちゃん」
シリウスシンボリ「世の中には頭で理解できないことなんてたくさんあるしな」
シリウスシンボリ「まあ、シュワちゃんもチーム<アルフェッカ>の秘密を知りたければ、後でこいつから話を聞くことだな」
アルヌール「わかった」
シリウスシンボリ「そういうわけだ、斎藤T」
シリウスシンボリ「暗黒期の競走ウマ娘だった私たちにとっては『URAファイナルズ』開催という形で私たちの夢をルドルフが締めくくったんだから、その先がどうなるかなんてのは私たちの出る幕じゃないのはわかっているよな?」
斎藤T「わかってます。私としても現在の本業であるトレーナーが人生の副業ですから」
マルゼンスキー「でも、正直に言って、ルドルフちゃんがいなくなった後のトレセン学園が心配なのよねぇ」
マルゼンスキー「ほら、今日もすごかったじゃない、ミホノブルボン」
マルゼンスキー「あの子が向こう3年の生徒会長になってくれるのなら、本当に何も心配事はなかったんだけどねぇ……」
斎藤T「残念ながら、ミホノブルボンにはその器はありません。特に、何もしていないのに機械を壊してしまうような彼女では大切なデータベースを破壊される恐れがあるので絶対に安心できません」
シンボリルドルフ「ええ。私もブルボンに声を掛けてみたのですが、『マスターである才羽Tの指示に従う』としか答えなかったので才羽Tに打診してみたのですが……」
斎藤T「才羽Tから見てもミホノブルボンには生徒会長は任せられないと」
シンボリルドルフ「はい。彼女は大人の言うことには従う良い子である一方、自分が決めたことにも絶対ですから、まず自分がやりたいと思ったことがないと操り人形にしかならないと」
スーパークリーク「本当に才羽Tさんは担当の子のことを真剣に考えているんですね」
シンボリルドルフ「そうですね」
シリウスシンボリ「まあ、結局は自由と統制のバランスが釣り合うところに落ち着くまで何度も揺れ動くわけだな、これからも」
シンボリルドルフ「難しい話です」
マルゼンスキー「そうよね。それこそ大人のエゴを子供に押し付けているだけよね……」
シリウスシンボリ「なら、斎藤T、アンタならどうする? 力がなければ統制はとれないが、これも私たちが暗黒期で求めた自由の結果だ」
斎藤T「さあ? 私なら統制を強化してから社会の信用を得て自由の価値観を転換させる技術革新を行いますけどね」
スーパークリーク「どういう意味なんですか、それ?」
斎藤T「う~ん、手始めに門限破りが多いのが問題ですから、門限になったら強制的に学生寮に帰還させられる装備の装着を義務付けますね」
シリウスシンボリ「はあ? 本当に夢を語るな、アンタは。すぐに実現できると思っているのか?」
斎藤T「ですので、ワープ装置になるバスを門限破りが多い子のいる地域に向かわせて、それに乗ったらセーフになるように門限の定義と場所を変えます」
シリウスシンボリ「はああああ!?」
スーパークリーク「まあ!」
マルゼンスキー「え、いいじゃない、それ!」
シリウスシンボリ「アンタ、すげえな! 学生寮の外に向かわせたバスに乗ればセーフって天才かよ! なあ、聞いたか、ルドルフ?」
シンボリルドルフ「ええ。相変わらずのとんでもない発想力です」
シンボリルドルフ「――――――統制を強める一方で門限破りをする子たちにも最大限配慮した譲歩か」
斎藤T「別におかしなことじゃないはずです」
斎藤T「学生寮にいることが重要じゃなくて、学園でしっかり安否確認ができているかを見ているのなら、信頼できる関係者が送り迎えするのも同じじゃないですか」
斎藤T「どうして近くの競バ場に向かうために安全を配慮して送迎車を用意できるのに、生徒たちを保護するための送迎車を用意できないんですか? どっちも安全保護でやることじゃないですか?」
斎藤T「たしか、門限破りの最高値はグループで練習していたという10人程度でしたよね?」
斎藤T「それなら、門限破りしそうだと自覚している子にGPSで追跡できるバッジでもあらかじめ配って安否確認をはっきりさせれば、それにも乗らないような跳ねっ返りを問答無用で叩き出すことができます」
斎藤T「どうです? 門限破りの可能性をあらかじめ自己申告してワープ装置のバスに乗せることで安否確認を確実なものにすれば、理想から程遠くても それに近づけることは十分に可能だと思いますが」
シリウスシンボリ「………………」
マルゼンスキー「………………」
スーパークリーク「まあまあ!」
シンボリルドルフ「どうですか、彼は?」
シリウスシンボリ「ああ くそくそっ! ふざけんな! なんでもっと早く生まれてこなかったんだよ、アンタはよ……!」
シリウスシンボリ「最高だよ! アンタはツレと同じで学園の連中とはまったくちがう視点で物事を考えている!」
シリウスシンボリ「アンタ、いったい何なんだ? 本当は
斎藤T「いえ、身分を詐称したことはないですが――――――」
アルヌール「――――――シリウスシンボリのツレというのは担当トレーナーのことか?」
斎藤T「お」
シリウスシンボリ「あ? ちがうぞ、シュワちゃん。私のツレは担当トレーナーなんかじゃねえよ」
斎藤T「え?」
アルヌール「――――――担当トレーナーがツレじゃない?」
スーパークリーク「はい。シリウスさんのツレは担当トレーナーじゃありません」
マルゼンスキー「まあ、マンツーマンで何年も一緒に二人三脚で夢を目指すことになる担当トレーナーに憧れるのはトレセン学園の生徒なら誰もが夢見ることよね」
マルゼンスキー「流れから言って そう勘違いするのも無理ないわ、シュワちゃん」
シンボリルドルフ「――――――あの人か。考えなくても一番世話になったな」
斎藤T「………………」
シリウスシンボリ「アンタ、いいよ! ツレに会わせたら絶対におもしろいことになる!」
シリウスシンボリ「なあ、明日もOB会に出るんだろう? スイートルームにいるから会っていきないよ! 今日泊まる部屋だって用意してやるからさ!」
シンボリルドルフ「そうでしたか。いらっしゃるのなら、私もこれまでのお礼を言わせてください」
アルヌール「そのツレとはどういう人物なのだ?」
マルゼンスキー「そうねぇ、ロマンスグレーよ、シュワちゃん!」
アルヌール「――――――『ロマンスグレー』?」
スーパークリーク「そうですねぇ。ある意味、私の大切な人と同じ人ですね」
スーパークリーク「あ、でも、広い意味ではあの人も斎藤Tさんも同じでしたね」
斎藤T「え?」
シリウスシンボリ「まあ、とにかく、アンタはツレに会ってけ」
シリウスシンボリ「それと、ルドルフからもらうもんをもらっておけよ。そのためにわざわざ来てやったんだからな」
――――――覚悟しておけよ、私のツレはチーム<アルフェッカ>とチーム<シリウス>の仕掛け人なんだからな。