ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第6話秘録 あなたとお前でバカ息子

-シークレットファイル 20XY/01/25- GAUMA SAIOH

 

あの天災人災もあってウマ娘レースがかつてないほどの腐敗と人気低迷に苛まれていた暗黒期を終焉に導いた原動力となったチーム<シリウス>とチーム<アルフェッカ>――――――、

 

結果として善玉と悪玉に分かれて『トゥインクル・シリーズ』を盛り上げることでウマ娘レースの信頼と人気を回復させることになったのだが、

 

現在の黄金期へとバトンを渡したトレセン学園の歴史に欠かすことができない2つの名チームの仕掛け人は理事会役員でも、トレーナー組合員でも、生徒会役員でもなかった。

 

 

なんと、およそ20年間に渡って狭き門を潜り抜けて夢の舞台に辿り着いたウマ娘たちに最初にターフの走り方を教えてきた名教官(Instructor)こそが初老になって学園を去った後も黄金期を支えた“女王()の海賊”だったのだ。

 

 

それでいて完全な正しいことをしている“白”ではなく、暗黒期の裏でトレーナー組合から上納金を巻き上げて『名門』たちを震え上がらせていた誰にも正体を悟られることのないまま、悠々と学園を去っていった組織的犯罪集団(マフィア)の元締めでもあった。

 

現在になっても誰もその正体を知る者がいないとされ、それでいて汚職や贈収賄で摘発されたURAや『名門』の大物ですら、その意向には絶対に逆らえなかったため、トレセン学園史上最大の悪人“悪魔の権化”とも呼ばれていた。

 

そのため、腐敗した組織の大粛清によって黄金期を迎えて健全化されたとされる現在のURAやトレセン学園の上層部からもいつ忍び寄ってくるかわからず恐れられており、

 

上層部が正体不明の“悪魔の権化”の存在を忘れずに常に警戒していることで、組織の健全性が保たれるという皮肉な結果を招いていた。

 

いや、それこそが堕落の象徴とされる悪魔に対する正しい心構えであり、その高貴な精神が保たれているうちは黄金に輝いていられるだろう。

 

 

なので、正しい意味で“悪魔の権化”を演じきった怪傑が私の目の前にバスローブ姿でソファで寝そべりながら不敵に出迎えてくれたのだ。それはまさしく“試す者(サタン)”の有り様であった。

 

 

そして、オグリキャップ以前の地方競バの怪物:ハイセイコーの活躍を体験していた世代に生まれ、

 

およそ20年間の時間の移り変わりで徐々にハイセイコーの遺産であるウマ娘レースの人気が翳りゆくのに怒りを感じていたようでもあり、

 

話してみると、類稀な野心家ではあり 前述通りの相当なワルである自覚を持った悪人であるものの、それでいて良識や美学を持ち合わせており、善人らしい純粋さと悪人らしい狡猾さによる独自の世界観を持っている印象だった。

 

というより、最初に目にした瞬間に明らかに()()()()()()の住人ではない異質な雰囲気を醸し出しており、正直に言って何と表現したらいいのか、判断に困る掴み所のない危ない魅力を放っていた。

 

少なくとも、この男は性質が完全に日本人のそれではない。顔の作りからして西洋人の血が多く流れているのが大きい。

 

その風貌は海外ドラマに出てくるマフィアの首領であり、それでいて陰湿なことを嫌う清廉さと明るく物事を楽しむ豪放磊落さも併せ持ち、清濁併せ呑む度量の大きいロマンチストでもあったようだ。

 

なので、世が世ならば、この男は宇宙海賊の船長にでもなっているのがお似合いだった。

 

 

――――――名を水鏡 久弥と言い、この男もまた大海を征く荒波の王者であった。

 

 


 

―――――都内のとある高級ホテルのスイートルーム

 

水鏡I「は」

 

水鏡I「俺が“宇宙海賊の船長”――――――?」

 

斎藤T「………………」

 

シンボリルドルフ「………………」

 

水鏡I「アーハッハッハ! 俺が女王陛下から“女王()の海賊”と呼ばれていることを一発で見抜くとは、お前も大したタマじゃねえかよ!」

 

水鏡I「ほら、やっぱり、おもしろいやつだったろう、シリウス?」 ――――――シリウスシンボリの膝の上に頭を乗せている!

 

シリウスシンボリ「ああ。アンタの見込み通りのやつだったよ、こいつは」 ――――――傍から見ると同年代の危ない雰囲気の大人のカップルに見えた。

 

水鏡I「それじゃあ、お前さんは自分を例えるのなら何だ?」 ――――――“若返りの薬”とやらで40代には見えない若さ!

 

 

斎藤T「――――――“宇宙移民の船長”です」

 

 

水鏡I「ハハッ! ハハハ! アーハッハッハ! アーハッハッハ!」

 

水鏡I「いい! 最高にいい! 嬉しくなると人間って思いっきり笑いたくなるもんなんだな! 今世紀最高に笑ったかも!」

 

水鏡I「俺のことを“宇宙海賊”と評して、自分は“宇宙移民”ってところが実にルドルフ好みのお行儀の良さを感じないか!?」

 

水鏡I「それでいて、いっちょ前に俺と同じ“船長”だと言い切れる辺りが、只者じゃねえよな」

 

シリウスシンボリ「へえ、それなら取っ組み合いになったら、どうなる?」

 

水鏡I「――――――勝てねえかもしれねえな」

 

シリウスシンボリ「え」

 

水鏡I「正直に言って、こいつには絶対に勝てねえ。俺の勘がそう告げている。こいつは絶対に敵に回しちゃならねえ存在だ」

 

シリウスシンボリ「なんだって? アンタにそこまで言わせるほどなのかい?」

 

水鏡I「当然だ」ビュン! ――――――不意にアイスピッケルをシンボリルドルフの方に投げつける!

 

シンボリルドルフ「――――――っ!」ビクッ

 

斎藤T「おっと」パシッ ――――――シリウスシンボリに投げつけられたアイスピッケルを余裕でキャッチ!

 

シリウスシンボリ「あっ!」

 

水鏡I「わかったか。こいつ、完全に俺の動きを読んでいやがる。瞬発力はウマ娘にはさすがに及ばないにしても、それ以前に投げようと俺が思った一瞬で対応してた」

 

シンボリルドルフ「あ、ありがとう、斎藤T……」

 

斎藤T「どういたしまして」

 

水鏡I「なあ、斎藤T。それが皇宮警察の血統と素質が成せる業なのかは知らないが、平和ボケした日本で明らかにそれはありえないだろう」

 

 

水鏡I「一人でWUMAとかいう()()()()()()()()()と戦ってきたっていう武勇伝は本当らしいな」

 

 

斎藤T「え? 今、なんて――――――?」

 

斎藤T「――――――『ウマの頭』って言ったんですか?」

 

水鏡I「ああ、見たまんまのウマの頭――――――、怪人:ウマ女ってやつだろう。お前さんの報告書の通りだったな」

 

シリウスシンボリ「――――――『怪人:ウマ女』って何の話だ、おい?」

 

 

水鏡I「斎藤Tってさ、()()()()()()()()()()()()をどれだけ知っている?」

 

 

斎藤T「!!」

 

斎藤T「それは()()()()() ()()()じゃない時期のを含めてもいいのなら」

 

シンボリルドルフ「え」

 

水鏡I「……なるほど。道理で人が変わったわけだよな、3ヶ月間の眠りの後で」

 

シンボリルドルフ「ど、どういうことです……?」

 

斎藤T「むかし、荘子は夢の中で胡蝶となり、自由に楽しく飛び回っていたが、目覚めると紛れもなく荘子である――――――」

 

シンボリルドルフ「?」

 

斎藤T「しかし、荘子が夢の中で胡蝶となったのだろうか、それとも、胡蝶が見る夢の中で荘子となったのだろうか――――――」

 

 

水鏡I「――――――胡蝶の夢、だな」

 

 

斎藤T「はい」

 

シリウスシンボリ「さっきから何を言ってるんだ? 私やルドルフにもわかるように話せよ、二人共」

 

水鏡I「要するに、今や学園一の嫌われ者:斎藤Tは新年度早々にウマ娘に撥ねられて意識不明の長い眠りの中で宇宙移民だった自分の夢を見続けていた――――――、()()()()()()()()()()()()()()()()という話さ」

 

シンボリルドルフ「!!!!」

 

シンボリルドルフ「だから、突然『宇宙船を創って星の海を渡る』ことを夢だと言うようになった――――――!?」

 

斎藤T「そんなところです」

 

シンボリルドルフ「それは文字通りに『心が入れ替わった』とでも言うべきことなのでしょうか……?」

 

水鏡I「――――――夢と現の渾然一体の境地:逍遥游の1つの完成形として、文字通りの無窮な宇宙の中で心を遊ばせているってわけなのかな?」

 

水鏡I「つまり、誰よりもこの世のしがらみから解放された究極の自由を体得した存在――――――」

 

シリウスシンボリ「それがこいつだと?」

 

水鏡I「そこのところは俺でもわからないけど、少なくともこいつは自分に正直に生きながら それ以前の斎藤Tとしての在り方を崩さないことに終始しているようだから、絶対に裏切らない人間だと俺は思うな。味方にできたら最高だな」

 

水鏡I「普通に考えて、自分が学園一の嫌われ者だって評判なら、その汚名をすぐにでも返上するか、その場から逃げ出すだろう?」

 

水鏡I「けど、斎藤Tは学園一の嫌われ者の評判をそのままにしながら居直りを決め込んでいるところが、ホントに俺そっくりだと思ってな」

 

 

シンボリルドルフ「それは水鏡教官がトレセン学園の3Tの中で一番に存在感の薄い教官(Instructor)――――――、“悪魔の権化”として当時のURA幹部や『名門』の大物たちに一番に恐れられていたのとそっくりということですか?」

 

 

水鏡I「実際にそうだろう、ルドルフちゃんよぉ?」

 

水鏡I「俺の場合はトレセン学園の利権に群がる悪党共の親玉から一番に恐れられて、姿を見せない“悪魔の権化”として暗黒期を跳梁していたわけだが、」

 

水鏡I「こいつの場合は生徒会役員から一番に頼りにされる縁の下の力持ちになりながら、学園一の嫌われ者として他人を近寄らせないからな」

 

水鏡I「つまり、トレセン学園は見事に俺の二代目とも言える影の支配者――――――、いや、不正をしているってわけでもないから、光の支配者の座に収まったわけだよ」

 

斎藤T「光がなければ何も見えませんけど、光を直視したら何も見えなくなりますからね。たしかに同じですね」

 

水鏡I「しかも、俺と同じでトレセン学園に来た理由は最初から金儲けだろう?」

 

斎藤T「本当にそっくりですね」

 

シリウスシンボリ「……何だよ、それ? それじゃあ、アンタじゃなくて、こいつが学園の裏の支配者になってくれればよかったじゃないかよ」

 

斎藤T「いえ、私がどうこうしたところで、私が拭き取る以上に汚れは溜まっていくものです」

 

斎藤T「そのために、神社では年越しの大祓というのがあるわけで、それにならったのが年末の大掃除ですから、自分で自分の心に溜まった汚れを定期的に掃除しないと人間も組織もいくらでも腐敗します」

 

 

水鏡I「そう、結局は繰り返されるんだよ」

 

 

水鏡I「俺が学生の頃は地方から成り上がったハイセイコーが人気で、それでウマ娘レースの人気が高まっていった時期でさ、」

 

水鏡I「それがオグリキャップの登場によって黄金期への架け橋がかかるまで、いつの間にかお前らが言う暗黒期になっちまっていたわけだから、」

 

水鏡I「やっぱり、こいつは俺の二代目だから、そのことがちゃんとわかっているわけだよ」

 

シンボリルドルフ「なら、どうして斎藤Tは無意味になるとわかっていて、私が卒業した後のトレセン学園のことを引き受けてくれたのだ……?」

 

 

斎藤T「進化と歴史は決して歩みを止まることがないからです」

 

 

水鏡I「へえ? それが宇宙移民の時代における基本的な歴史観や価値観ってやつかい?」

 

斎藤T「はい。どんなに悲劇の歴史や暗黒時代の中であっても、総人口は順調に右肩上がりになっているじゃありませんか」

 

シンボリルドルフ「?」

 

シリウスシンボリ「いや、まあ、それは世界的に見ればそうだろうけどよ……?」

 

斎藤T「歴史を紐解けばわかるように、戦乱の時代や疫病の時代で世界人口が激減した時期があっても、最終的に技術革新を踏まえた政治改革によって人口の推移は常に右肩上がりになっているんです」

 

斎藤T「つまり、人類の進化と歴史は常に右肩上がりの正弦波の波になって、谷あり山ありを繰り返しながら、時間の経過と共に水準はどんどん上がっていっているんですよ」

 

シリウスシンボリ「へえ……?」

 

水鏡I「ああ、なるほどね。マクロな視点では右肩上がりしているように見える直線になっていて、ミクロな視点では正弦波になっていて山あり谷ありを繰り返しながら成長していっているというわけね」

 

水鏡I「図に書くとこんな感じだぞ、シリウス」ササッ ――――――手が届くところに置いたメモ帳とペンでササッと右肩上がりの直線にギザギザを重ねた図を書く。

 

シリウスシンボリ「ああ、そういう意味か。なるほどな、そういうことか、斎藤Tが言いたいことは」

 

シリウスシンボリ「ほら、ルドルフも見ろよ。こういう上がり下がりが絶対に繰り返されるのをわかって、谷の時期と山の時期を昇っていくのが人生だってな」

 

シンボリルドルフ「すると、『壁を超えていく』などの表現にも通じていますね、それは」

 

シンボリルドルフ「そうか、結局は避けては通れない山道や下り坂が待っているわけか……」

 

水鏡I「――――――水戸黄門の主題歌だな」

 

斎藤T「そして、一人一人の人生がそうであるなら、一人一人の集合である国家や世界の運命だってそうなっているということになりますよね」

 

 

水鏡I「かぁーッ! 気に入ったぜ! 気に入ったよ、お前さんよ! お前さんに会うためなら喜んで世界の外側から駆けつけてやるからな!」ガシッ ――――――立ち上がってご機嫌な表情で手を取った。

 

 

斎藤T「こちらこそ、ありがとうございます!」ガシッ ――――――こちらも快く強く握り返した!

 

シリウスシンボリ「おいおい、私と会うよりも嬉しそうじゃないか、ああ?」

 

水鏡I「これもあれだよ、別腹ってやつだ」ニヤッ

 

シリウスシンボリ「……そうかよ!」スッ

 

シリウスシンボリ「じゃあ、私はもう寝るから、後はご自由に」

 

シリウスシンボリ「ルドルフももう帰って寝ておきな。こうなったら、なかなか寝かせてくれなくなるから」

 

斎藤T「私もそうした方がいいと思います。あなたはまだ未成年ですし、明日も早いのですから」

 

シンボリルドルフ「ああ、わかったよ、斎藤T」

 

 

シンボリルドルフ「では、あらためて水鏡教官。これまで影から黄金期をずっと支え続けてくださり、ありがとうございました」

 

 

水鏡I「ああ、いいってことよ。俺の女王様の命令だったし、女王様は最初からルドルフちゃんのことをずっと可愛がっていたからな」

 

水鏡I「それに、女王手ずから書き上げた予言書『プリティーダービー』に予言された通りの、今までになかった最高に盛り上がれるトレセン学園の未来をこの眼で拝むことができたんだ」

 

水鏡I「俺は思ったよりも、ハイセイコーが切り拓いた時代を生きて、その仕上げにオグリキャップが切り拓いた先の時代を俺自身が陰ながら支えることができて、幸せだったかもしれないな」

 

水鏡I「その最後の最後になって、こうして俺の二代目とも言えるような、それでいて真っ当な道を歩む“宇宙移民の船長”とも美味い酒に酔うことができるんだ」

 

 

――――――付き合ってくれるだろう、御一献?

 

 

 

 

カツーーーン!

 

斎藤T「お、美味い!」ゴクッ

 

水鏡I「どうだい、本場の命の水(ウイスキー)の味は? アイリッシュウイスキーらしい、まろやかで深くてコクのある純粋な味わいが楽しめるから、飲み慣れてないやつにも好評でね!」ゴクゴク

 

水鏡I「それでだな、ルドルフちゃんが後事を託すに値すると認めた相手なんだから、昔のことをいろいろと知っておきたいだろう」

 

水鏡I「なら、喜べ。お前にとって先輩である影の支配者が光の支配者になるお前さんに有り難い昔話をしてやろう」

 

水鏡I「まあ、他に話せる相手もいないことだし、酒の席での戯言だと思って、黙って聞いてくれや」

 

斎藤T「どうぞ」

 

水鏡I「俺はトレセン学園の教官として最新のトレーニング器具の専門家になるべく、海外のトレセン学園のトレーニング事情の視察に結構行っててな」

 

水鏡I「そうした中で、パート1に格付けされている本場のイギリス・フランス・ドイツ・アイルランドのウマ娘レースを見てきたが、やっぱり日本は遅れていると思い知らされたもんだよ」

 

水鏡I「だから、最新のトレーニング器具の輸入やトレーニング法の導入を積極的に働きかけた結果、俺は名実共に名教官の一人に数えられるようになってな」

 

 

水鏡I「けどな、俺の本当の目的はカネやチヤホヤされることのために夢の舞台に居座ることだったから、ようやく俺のやりたいことがやれるようになってきたってわけよ」

 

 

水鏡I「まあ、そもそものきっかけは俺の歳の離れた従兄がウマ娘レースの熱烈な大ファンで、ハイセイコーによる人気上昇の時代の流れに乗ってトレーナーになったのが一番に大きかったな」

 

水鏡I「初めての担当ウマ娘でG1勝利を掴んだぐらいだ。従兄には情熱だけじゃなく才能があったよ」

 

斎藤T「なら、どうして教官になったんです? そこまでの才能がある従兄がいたのなら?」

 

水鏡I「簡単さ。俺の従兄は間違いなくトレーナーとしての情熱も才能もあった。担当ウマ娘からの信頼も厚かったさ」

 

水鏡I「けどな、あっさりと従兄の誇りと栄光は崩れ去ってしまったんだよ……」

 

 

――――――他ならぬ自慢の担当ウマ娘との不純異性交遊で妊娠までさせていたことがバレたからな。

 

 

斎藤T「………………!」

 

水鏡I「まあ、表沙汰にはなってないけど、闇に葬られることにはなったな」

 

水鏡I「当然、従兄は社会的制裁を受ける前に一身上の都合により辞職になったし、担当ウマ娘も故障したとか適当な理由をつけて引退よ」

 

水鏡I「そして、担当ウマ娘は自分たちでレースで稼いだカネで堕ろしたってな」

 

水鏡I「妊娠数ヶ月でお腹に赤ちゃんを抱えた状態で重賞レースに参加しようとしていたんだから、そりゃあ絶対に産ませられるわけもないよな!」

 

水鏡I「それで、従兄は一族の誇りから一気に一族の恥として勘当されたし、自分の子を宿した担当ウマ娘とも二度と会わせてもらえずに、たぶんその辺で野垂れ死んだんじゃないかって」

 

 

水鏡I「でもな! 従兄は俺が言うのも変だが真面目な人間で、俺のように善良な家庭の一族に生まれ育ちながら有り余る野心を抑えるのに苦労したこともない、本当にただの善良な性質の人間だったんだ!」ドン!

 

 

水鏡I「それを台無しにしたのは、従兄が大事に大事に育て上げた結果、つけあがった担当ウマ娘なんだ! そいつは自分の感情の赴くままに善良な従兄から全てを奪っていったんだ!」

 

水鏡I「それなのに、従兄ばかりが悪者にされて! 泣く泣く親の命令で愛する人の子を堕ろしたとか美談にするんじゃねえよ!」

 

水鏡I「――――――どうすることもできねえだろうが! ヒトよりも力の強いウマ娘が掛かったらよぉ!?」

 

斎藤T「それはたしかに気をつけてもどうにもならないことですよね。ヒト同士でもあり得ることなんですから」

 

 

水鏡I「だから、俺も従兄に憧れてトレーナーになるのを止めて、教官になる道を選んだ」

 

 

水鏡I「今までトレセン学園に行くことばかり考えて 突然 身内の恥が出てきたら、俺のトレーナー人生は最初からどん詰まりだからな。トレーナー認定試験もわざと落とした」

 

水鏡I「だから、“トレーナーの成り損ない”として滑り止めだった教官(Instructor)として採用されて、俺はひたすらに従兄が傷跡を残していった一族の汚名を雪ぐために模範的で在り続けた!」

 

水鏡I「まあ、元から俺の一族はそういった傾向が強かったみたいだから、周りが性犯罪者の親戚をどう見ていようが、表面上は善良な人間を装うのは息を吐くように簡単だった」

 

水鏡I「だからなのか、俺の一族が善良であるから俺は悪徳にも敏感で、ハイセイコーによって かつてないほどの活気に満ち溢れて膨らんだ公営競技の利権で組織の腐敗が進行していくのを肌身で感じられたみたいだ」

 

水鏡I「元々、俺は生まれながらの善良な一族にして その中で異端児でもあったみたいだから、」

 

水鏡I「カネやチヤホヤされることのために従兄に憧れてトレセン学園のトレーナーになろうとしていたが、しかたなく教官の立場でそれができるかどうかを検討してみて、」

 

水鏡I「そして、俺はいわゆる“トレセン学園の3T”の教育体制の隙を見つけ出して、最終的にトレーナー組合から上納金を巻き上げる正体不明の首領“悪魔の権化”になったというわけさ」

 

斎藤T「それでよく尻尾を掴ませなかったですね」

 

 

水鏡I「簡単さ。俺は女は大人になってからいただくことにしている。その約束だけで女はそれまでずっと男のために何だってするようになるのさ」

 

 

水鏡I「まあ、3年間という基本契約が果たされたことで従兄が担当ウマ娘に裏切られて性犯罪者に仕立て上げられたことが大きかったように思うけどな、『大人になるのを待つ』ってのは」

 

水鏡I「そして、それは教官という3Tの中でもっとも存在感の薄い上に、トレーナーにスカウトされた以外の全てのウマ娘のトレーニングを担当しなくてはならない割りに合わない職業だからな、」

 

水鏡I「一人当たりに掛けられる時間も少ないから、当然ながらアスリートコースのウマ娘たちと親密になれる時間の長さや密度はトレーナーとは天と地ほどの差がある」

 

斎藤T「想像以上に激務だったんですね、教官というのも」

 

水鏡I「そりゃそうさ。全国各地から地方では天才とか褒めそやされたような連中が何百人も集まる場所で、それよりも圧倒的に少ない数で トレーナーのように担当ウマ娘を選べない苦労を 全部 引き受けるわけだからな、教官ってのは」

 

水鏡I「それで俺が目をつけたのは教官と同じようにトレセン学園では存在感が薄いアシスタントコースのサポートスタッフになるウマ娘だったというわけさ」

 

斎藤T「まさか!?」

 

水鏡I「ああ、その『まさか』さ」

 

水鏡I「俺は善良で無力な教官の姿でアシスタントコースのウマ娘たちを手取り足取り指導して刷り込んでいって俺好みに調教してやったんだよ」

 

水鏡I「もちろん、今ではセクハラ認定されることも昔はグレーゾーンだったし、何より俺は海外の最新式のトレーニングの導入で発言権を持つようになったから、それらしい論文を見せつけるだけで論文も読めない生徒たちは疑いもしないからさ」

 

水鏡I「いや~、あの頃は本当に楽しかった。二十歳になったアシスタントコースの卒業生たちが自分から俺に純潔を捧げてくれるように調教するのが『最高に教官している』って気分だったぜ」

 

斎藤T「それが憧れだった人に捧げた善良で無力な復讐だったわけですか」

 

水鏡I「……いや、俺は元から“悪魔の権化”と呼ばれるような頭脳を持っていたんだぞ。俺の中では従兄の存在は今となっては野望の糧になっただけだ」

 

斎藤T「そうですか」

 

水鏡I「……とにかく、俺はそうして俺の調教を受けてサポートスタッフになった子たちをあちらこちらの競バ場に潜り込ませた」

 

水鏡I「あとは、簡単な話だろう?」

 

 

――――――名門トレーナーの担当ウマ娘の大事な一戦を当日のちょっとした不具合で惨敗に追いやることぐらい。

 

 

水鏡 久弥は40代であり、暗黒期の終わりを告げる大粛清の中、長年の功績と誠実さから情状酌量で自主退職の体で学園を追い出された時が初老であり、それまでに莫大な隠し財産を持つに至った。

 

もちろん、財産と言うのは単純なカネのことだけではなくコネのことも言い、今でも競バ場に勤務する水鏡教官の教え子であるサポートスタッフに号令すれば、URAやトレセン学園の現体制をひっくり返せるだけの影響力を持っていた。

 

しかし、その影響力を暗黒期では腐敗した体制を恐怖で統制するために使い、黄金期では希望に満ちた夢の舞台で起きた不祥事の揉み消しのために行使してきた。

 

そのため、完全な善人でもなければ、まったく他人を省みない悪人というわけでもないため、独自の価値観と自身の欲求に忠実な我が道を往く人物というのが適切だと思う。

 

それは性根が善人でありながら悪人の時代が長かったからこそ、悪党のやり方を知り尽くしている強力な正義の味方にもなり、正義と悪は紙一重であることを体現した組織的犯罪集団(マフィア)の元締めに相応しい風格の持ち主であった。

 

実際、水鏡教官の先祖にシチリア島出身のイタリア人の血が流れているらしく、そういった気質と素質の因子を発現させているのもまったく不思議ではなかった。

 

その一方で、水鏡教官の一族が茨城県鹿嶋市の出身であることを聞いて、瞬間に頭の中に不思議な光景が浮かび上がってきたのだ。

 

 

――――――アメノカク。

 

 

斎藤T「鹿だ」

 

水鏡I「え」ピタッ

 

斎藤T「あなたは鹿? 歯医者(dentist)さんじゃなくて、鹿(deer)? 非力の象徴? 鹿も四つ足、馬も四つ足、鹿が越す坂ならば、馬も越せぬ道理はない?」

 

水鏡I「!!!?」ガタッ!

 

水鏡I「なんでそのことを!?」アセダラダラ・・・

 

斎藤T「え」

 

斎藤T「いえ、なんとなくあなたは鹿だなと」

 

水鏡I「末恐ろしい……。いや、それが皇宮警察の最高の血統と素質がなせる業なのか!?」

 

斎藤T「どうしたんです?」

 

 

水鏡I「いえ、こちらこそ とんだご無礼を! 貴方様はまさしく天皇家の玉体護持の懐剣にございます! 貴方様以上に“皇帝”シンボリルドルフ卒業後のトレセン学園の天下静謐を担える者はございません!」 ――――――頭を擦り付けて土下座!

 

 

斎藤T「へ」

 

斎藤T「わかるように話してください。そうじゃないと、謝罪の誠意を受け取れません」

 

水鏡I「わかりました。某の秘密を包み隠さずに全てお話いたします」

 

 

――――――某はこことはちがう世界で生まれた“シカ娘のハーフ”なのです。

 

 

斎藤T「え」

 

斎藤T「――――――『シカ娘』?」

 

水鏡I「左様にございます」

 

斎藤T「…………へえ、そんなのがいるんだ」

 

斎藤T「…………ふーん」

 

斎藤T「………………」

 

斎藤T「え、えええええええええええええええええええ!?」

 

水鏡I「驚くのは無理もありません。しかし、某が表世界から姿を消している理由の1つとして、シカ娘のハーフのDNAをこの世界に遺さないようにするためでもあるんです」

 

水鏡I「まあ、もともとウマとシカとでは交配ができないわけですが、某はハーフなのでヒトの子を生ませること自体は問題なくできるわけです」

 

水鏡I「問題はウマ娘の因子とシカ娘の因子が混じり合った嵌合体(キメラ)因子を持った存在――――――、」

 

 

水鏡I「言うなれば、バカ(馬鹿)娘が生まれる時に世界が激変するという予言がありまして……」

 

 

斎藤T「はあ!?」

 

水鏡I「ですので、その予言がより良いものであることを期待して某はもっとも信頼できる愛すべき女との子を……」

 

水鏡I「そして、まるでそのことを後押しするかのように、若返りの泉でお揃いの年齢にまでなってしまったので、某は今までの自分の在り方を貫いて愛する女にバカ娘を生んでもらおうと 今 必死になっているのです」

 

斎藤T「語呂が最悪じゃないですか、“バカ娘”って!」

 

水鏡I「日本語の妙ですな!」

 

斎藤T「しかも、語源は『鹿をさして馬となす』という故事成語で、嫌なぐらいにあなたの人生に通じていますよね!?」

 

水鏡I「まあ、某が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()親父が若い時に神社で出会った不思議な女の子と恋をした時にできた子だというのを、シカ娘の世界で知った時は全てを理解しましたけどね」

 

斎藤T「まさか、その不思議な女の子って、もしかして2本の角が生えていた?」

 

水鏡I「はい。親父は『鬼の娘と恋をした』と言ってましたけど、とんでもないです。シカ娘の世界の巫女さんがウマ娘の世界に迷い込んできていたんです」

 

水鏡I「そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしく、親父が神社で鬼の娘と出会わなくなって その思い出をずっと大事にしてお袋と結婚した時、ずっと子宝に恵まれなかったことでずっと祈願していたみたいです」

 

水鏡I「それで、『死産したはずの赤ん坊が生き返った』という奇跡が起きた――――――」

 

 

斎藤T「実際には、父親が若い時に鬼の娘との間にできた生まれたばかりの双子の片方を授かったわけですね」

 

 

水鏡I「……そこまで言ってないのに、そこまでわかっちゃうんだから、本当に凄いですね」

 

斎藤T「まあ、黄金の牝鹿から双子の姉弟が生まれて弟の方をウマが連れ去っていくのが頭に浮かんでましたから」

 

水鏡I「……はい。親父は記憶を封じられていましたけど、角が生えた不思議な巫女のお姉さんと交わっていたみたいで、赤ん坊が生き返ったと周囲に錯覚させて親父の子を半分返したというのが真相です」

 

水鏡I「なので、向こうの世界でシカ娘の双子の姉と母上に会ってきましたよ」

 

水鏡I「シカ娘の世界は本当にメルヘンチックな世界でしたよ。ここよりも機械文明が発達していなくて、自然と一体化した素朴で豊かな森の民の暮らしがどこまでも拡がっていて……」

 

水鏡I「いるだけで心が洗われるような最高の森林浴が味わえる浄土です」

 

斎藤T「それは凄いな……」

 

水鏡I「なので、一度はいらっしゃってください。ただし、向こうの世界での朔日にしか送迎ができないので、しばらくこの世界に帰ってこれなくなりますが」

 

斎藤T「それは楽しみです」

 

水鏡I「しかし、機械文明の俗悪に染まりながらも そこまでの霊性を兼ね備えた文明人が存在するとは思いもしませんでした」

 

斎藤T「他にも、いろいろな世界があったんじゃないんですか?」

 

水鏡I「ええ、それはもちろん」

 

 

水鏡I「というより、私の女王陛下;つまり、スーパークリークの担当トレーナー:ムラクモTはロバ娘の世界の王族でした」

 

 

斎藤T「――――――『遠い場所』というのはやはりそういうことか!」

 

水鏡I「しかも、ウマ娘のハーフとロバ娘の間に生まれたラバ娘の女王として、こうしたヒトとアジン娘たちが共生する世界を統合する異世界平和連合の主宰となって、あっちこっちの異世界に冒険に繰り出しているわけです」

 

水鏡I「某はその手伝いをさせていただいておりまして、女王陛下の寵愛を賜ったシンボリルドルフが卒業するまでこの地に留まって支える命を受けておりました」

 

斎藤T「だから、来年度からはもうトレセン学園を支えることが難しいという話ですね」

 

水鏡I「左様です。本当はすぐにでも馳せ参じるつもりでしたが、女王陛下のたっての願いならば聞き入れないわけには参りませぬ」

 

斎藤T「なるほど」

 

 

――――――こうして、私は並行宇宙の支配種族“フウイヌム”が襲来する絶望の未来にならないために必要なものが何であるのかをここで知ることができた。

 

 

つまり、このままだとヒトとウマ娘が共生する21世紀の地球は大きく分けて3つの可能性の未来を辿ることになる。

 

1つ目は、現状維持で進んでいくと近い将来に並行宇宙の支配種族“フウイヌム”の侵略を受ける絶望の未来となり、未来の英雄が打倒しても残党が起死回生を賭けて過去に暗殺用人造人間を送りつけてくるような未来である。

 

今のところは、賢者ケイローンの時間跳躍によって絶望の未来とその過去となる現在の因果関係が結ばれたことで更なる未来から刺客が送り込まれる事態となっており、もっとも絶望の未来に至る因子が揃っている状況である。

 

2つ目は、絶望の未来よりも更に絶望的な未来を辿らせて文明レベルが圧倒的に後退した世界になることであり、この時代ではまだ第三次世界大戦の脅威が現実味を帯びているため、並行宇宙からの侵略を受けないために第三次世界大戦を引き起こして世界を破滅に導くのも1つの策ではある。

 

もちろん、その選択肢は絶対にありえないが、もしくは天変地異によって第三次世界大戦に匹敵する大破壊が起これば同じことである。地球温暖化を陰謀論にしている愚か者が跋扈している世の中だ。それも十分にあり得た。

 

3つ目は、並行宇宙の支配種族“フウイヌム”による侵略ではなく、こことは異なるヒトとアジン娘が共生する異世界を繋げていって異世界平和連合樹立によるフロンティアの拡大である。

 

むしろ、そうなる可能性:因子は十分に揃っていたのに、並行宇宙の支配種族の次の侵略先として繋がってしまったようなこの世界の業を乗り越えなければ辿り着くことは決してない。

 

つまり、このヒトとウマ娘が共生する21世紀の地球で文明崩壊ルートを辿らずに現状維持をしていると 並行宇宙からの侵略者に世界征服され、現状維持を飛び越えた希望の未来を築き上げることができれば 異世界平和連合との更なる飛躍の時代を迎えることができるわけである。

 

目指すべきは当然、現状維持を飛び越えた進歩発展向上の未来であり、実質的に未来は怪人:ウマ女たちの絶対的な多種族カースト制の支配による平和か、更なるアジン娘との交流と多様性の調和による平和の2択となっていた。

 

このことが理解できたのなら、私が自分の夢を叶えるために絶対に必要な最終的なWUMA対策は明確となった。

 

 

――――――現状維持を飛び越えた進歩発展向上した希望の未来を築き上げるしかない! それは21世紀の明治維新しかありえない!

 

 

しかし、それは23世紀の宇宙移民としては“あり”なのだろうか?

 

現状、並行宇宙と異世界の概念はイコールとして扱っており、怪人:ウマ女もシカ娘もロバ娘も等しくウマ娘の世界の外側からやってきた地球外生命体という大きな括りに入っている。

 

一方で、私としてはWUMAを並行宇宙からやってきたバケモノとして取り扱い、犯した罪に対して許しを与える必要のない怪人災害と認定して、生存圏確立のために積極的に排除することが許されているものと考えている。

 

だが、WUMAの襲来を根源的に回避するために 積極的に21世紀の地球の文明を加速させることが 果たして地球圏統一国家の国民ではない21世紀の人間に益することなのかを考えると何度も踏みとどまってしまう。

 

むしろ、バラバラの国家に飼いならされた過去の地球人には過ぎた科学の発展が第三次世界大戦や天変地異の引き金となって、絶望の未来より更に絶望的な破滅の未来に至らせる可能性だってあった。日常的に21世紀の人間に覚える不審感や嫌悪感がそう思わせるのだ。

 

下手に干渉すると2択だった未来が、選択肢から除外した まさかの最低の未来のドン底に転げ落ちる可能性に気づくと、今まで通りの在り方を貫くべきじゃないかと縮み込んでしまう。

 

 

そう、私にはそれだけの能力がある。200年先の進んだ知恵を持つ自分の決断次第で21世紀の地球の未来を創り変えることができる立場にいつの間にかなっていたのだ。

 

 

実際、私は去年のクリスマスでひっそりと世界を救っていたことだし、やろうと思えば いくらでも自分の手で未来を変えられる要素を抱えるようになっていた。

 

トレセン学園の将来についてもそうだ。基本的にはシンボリルドルフも秋川理事長も黄金期で確立された路線を可能な限り維持することを望んでいるわけだが、それではいずれは擦り減った先に暗黒期に戻ってしまう。

 

となると、地球の未来のことも考えると、やはり現状維持は悪手のように思えるが、下手なことをして今まで築き上げたものを台無しにしてしまう恐れもあり、考えが堂々巡りしてしまう。

 

そう、こうして考えると去年のクリスマスに排除できたはずのWUMAの脅威が重くのしかかってくることになり、

 

賢者ケイローンを抹殺するのが目的で現地調査はおまけの先遣隊が相手だったから何とかなったのであって、艦隊が丸ごとやってきたら私一人でどうにかなるわけがない。

 

たまたまWUMAに対して必殺のカウンターを決められる特別な力を持った個人がいたところで数の理を覆せるわけでもなく、私だけが生き残ってしまうような絶望の状況で勝利など存在するはずもない。

 

あらためて、奥多摩攻略戦をはじめとする数々のWUMA討伐作戦は数え切れないほどの幸運に支えられていたものだったと思い知らされた。

 

賢者ケイローンの時間跳躍によって絶望の未来に繋がる因子がもたらされたとしても、

 

逆に言えば、絶望の未来が到来するまでの期間は絶対にWUMAが襲来することはないとも考えることができ、

 

むしろ、賢者ケイローンが命を賭して時間跳躍してくれたおかげで、時間の猶予をもらうことができたと考えることにしよう。

 

 

そう、もしも賢者ケイローンが時間跳躍することがなかったら、もしかしたらWUMAは襲来する未来に繋がらなかったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない――――――。

 

 

人間の科学では科学的な証明が不可能に近いとされる因果律による未来予測であるため、どこまでいっても仮説の理論でしかなく その憶測だけで判断するわけにはいかないが、

 

少なくとも賢者ケイローンの登場によって並行宇宙からの侵略者の存在を知ることができ、こうして頭を悩ませるぐらいにはその脅威を正しく理解して対応することができるようになったという事実は決して揺るがない。

 

そう、もしも賢者ケイローンが未来から警告することがなく そのまま並行宇宙の超科学生命体の存在など知る由もなくWUMA襲来の日を迎えてしまった場合の未来を考えると、

 

やはり賢者ケイローンの命を賭した時間跳躍はありがた迷惑なものなどではなかったと、改めてそう断言しよう。

 

 

――――――未来からの警告。それもまた予言や予測の類のものを信じるかどうかの問題なのだから。

 

 

 

斎藤T「………………」

 

水鏡I「どうなさいました?」

 

斎藤T「いえ、実はこのままだと将来的にWUMAの侵略によってヒトとウマ娘が共生するこの地球の文明が崩壊する可能性が大で、女王陛下が主宰の異世界平和連合にこの世界が加盟できなくなるんじゃないかと」

 

水鏡I「なんですって!?」

 

斎藤T「説明すると長くなるのですが、タイムマシン理論と並行宇宙と因果律についての知識はどれほどありますか?」

 

水鏡I「いえ、そういったことには興味はありましたけど、異世界を旅するようになってからはそんなものは無意味なもんだとばかり……」

 

 

斎藤T「では、結論だけ言いますと、現状維持のままで行くとウマ娘の世界は怪人:ウマ女の軍勢に支配されます」

 

 

斎藤T「おそらく、超科学生命体のWUMAの戦闘力はウマ娘が本能的な恐怖を覚えるほどですから、その他のシカ娘やロバ娘がどれほどのものかはわかりませんが、」

 

斎藤T「十中八九 WUMAの脅威を察知して侵略されないようにウマ娘の世界を隔離するでしょうね。そうしないとウマ娘の世界を窓口にしてWUMAが異世界を次々と侵略するはずですから」

 

水鏡I「そんな馬鹿な!?」

 

斎藤T「科学力や身体能力で対抗しようものなら、やつらには絶対に勝てません」

 

斎藤T「やつらはウマ娘以上の身体能力に加えて、超能力に擬態能力に、空間跳躍能力と超科学生命体としての知能を標準搭載していますから」

 

斎藤T「少なくとも、擬態能力を見破る手段と空間跳躍能力に対抗できる何かがないと、『警視庁』の精鋭である完全武装のSATが文字通りに瞬殺されるぐらいです。そのシミュレーション映像がデータベースに上げてあるはずですよ」

 

水鏡I「………………」

 

斎藤T「だから、お願いがあるんです!」

 

斎藤T「並行宇宙のWUMAと異世界のアジン娘連合が戦争になる未来を回避したいのなら、WUMAが襲来した未来の地球と同じ状態にならないように圧倒的に文明を進歩させるか、圧倒的に文明を後退させるかの2択しかないんです!」

 

斎藤T「もちろん、選ぶのは前者ですよね!? ですから――――――!」

 

水鏡I「落ち着いてくだされ!」

 

斎藤T「…………っ!」

 

水鏡I「大丈夫です。新年度になるまで まだ某はこの地に留まっております」

 

水鏡I「それまでに協力できることや知りたい情報がありましたら、私が目となり耳となり口となり、必ずや女王陛下にお伝えいたしましょう!」

 

水鏡I「今日、貴方様がとてつもなく強大な敵と一人で戦い続けていたことを知ることができました」

 

 

水鏡I「かつて邪神パレスとの異世界の命運を賭けた決戦の日々を思い出しますな」

 

 

斎藤T「――――――『邪神バレス』?」

 

斎藤T「――――――『異世界の命運を賭けた決戦』?」

 

水鏡I「そうです。予言書『プリティーダービー』もそうですが、どうやら我々は共有すべき情報がたくさんあるようです」

 

水鏡I「そして、我らの共通の敵と戦いましょうぞ! これからは一人じゃない!」

 

水鏡I「さあ、複雑なことやいろんな思いは忘れて、この杯を!」

 

斎藤T「はい……」

 

水鏡I「これは故郷の茨城県の地酒でして、関東地方では最も多い酒蔵を抱えている酒造りの名産地でもあります」

 

水鏡I「これは復活米を使ったもので、アメリカでも人気の銘酒ですぞ」

 

水鏡I「これを共に分け合って義兄弟の契りといたしましょう」

 

水鏡I「某はシカ娘の息子!」

 

斎藤T「私はウマ娘の息子!」

 

 

――――――二人合わせてバカ息子!

 

 

斎藤T「――――――」グイッ

 

水鏡I「――――――」グイッ

 

斎藤T「美味い!」

 

水鏡I「なかなかの飲みっぷりで!」

 

斎藤T「なら、これからよろしくお願いします!」

 

斎藤T「今日 得られた情報から導き出された絶望の未来の予測をどうにかして乗り越えて、私は『宇宙船を創って星の海を渡る』のですから!」

 

水鏡I「なら、某も好きな女とこれからも愛し合うため、女王陛下が切り拓く更なる異世界の先を目指して!」

 

 

――――――もう一度、乾杯!

 

 

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