ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第7話秘録 希望と絶望、支配と調和、並行宇宙と異世界

-シークレットファイル 20XY/01/26- GAUMA SAIOH

 

その男は、基本的には戸籍謄本のためだけにマンションを買ってハウスキーパーに部屋の清掃を行わせるだけで、ほとんど家に帰ることがない海の男であった。

 

そう、ホテルや船の客室、公園のベンチ、裏通りの階段の踊り場、木の陰、ネットカフェ、レンタカーの中、女の家など、行く先々で好きなように寝られるというのが男のタフさを雄弁に語っていた。

 

そのため、基本的には長居はしない男なのだが、その男が1週間近く同じホテルに泊まり続けるのは極めて珍しいことであり、

 

“皇帝”シンボリルドルフと秋川理事長の二人三脚で切り拓かれた黄金期の終焉を見届けに『URAファイナルズ』開催で日本中が盛り上がるのを肌で感じながら、

 

トレセン学園の名教官の姿を隠れ蓑にアシスタントコースの生徒たちを次々と自分好みに調教していった充実した日々のことを思い返していた。

 

そんな中、日本に帰ったら必ず故郷の地酒を一人で呑むことにしていた男が、初めて同じ杯で飲み交わす相手を見つけた――――――。

 

『URAファイナルズ』予選トーナメント後半となる2日目の夜も私は暗黒期を跳梁した“悪魔の権化”水鏡教官と一緒に酒を酌み交わしていた。

 

 

その男は元々はこの世界の生まれではなく、異世界の異種族との間に生まれたハーフであった。

 

 

そして、ヒトとウマ娘が共生する世界において 確認できる限り5代前からヒト同士で婚姻してきたことでウマ娘の因子が極めて薄い一族であったことから 異世界の異種族の因子が非常に濃い存在となっていた。

 

その男はヒトとシカ娘が共生する異世界で生まれ落ち、取り替え子によって父親の許に送り返された双子の片割れであった。

 

そのため、ウマ娘と比べて 森の民の気質と文化性を受け継ぐ血筋のためか 霊性が非常に発達しており、これはたしかに霊性に劣る物質主義のウマ娘世界の女の子たちを次々と自分好みに調教できるわけである。

 

むしろ、走ることが遺伝子レベルで大好きでありながら自分でターフの上を走ることのないアシスタントコースのウマ娘にとっては自分の中の闘争本能に蓋をして生きていることもあり、

 

表面上は割り切っているように見えてもアスリートコースの出走バたちに対する燻った感情を誰しも秘めているため、ぬるりと“悪魔の権化”らしく相手の心の隙間に入り込むことを容易にしていたのだ。

 

なので、闘争本能を剥き出しにしたアスリートコースの競走バは感情が暴走しやすくなるリスクを強く認識していたため、アシスタントコースのウマ娘に狙いをつけるようになっていた。

 

実際、ヒトとシカ娘が共生する世界では直接的な殴り合いは滅多にしないらしく、白黒つける方法は歌詠みや相撲、射的や鳥占などの天に任せるシャーマニズムに則った形式らしい。

 

そういった世界が本当の生まれ故郷であったため、後に自身が女王陛下として忠誠を誓うことになった“ウサギ耳”のウマ娘のトレーナーと一緒にシカ娘の世界に渡って自身が生まれた意味を知ることで、暗黒期に跳梁した“悪魔の権化”は改心したのだった。

 

つまり、トレセン学園以外に自分が生きる道があることを知り、そこで本当に自分が必要とされていることを知ったことで、トレセン学園を裏で操ることはもう辞めにしたのだ。

 

これが表にはならない1つの大きな契機となって、男が自主退職という扱いでトレセン学園を去ったことで、トレセン学園の暗黒期は終焉に向かっていったわけなのだが、

 

その後のあれほど到来を待ち望んだ黄金期の本質は多様性という言葉で美化された無秩序と言って差し支えなく、統制によらない人徳によって支えなくてはならない砂上の楼閣であった。

 

結局、未知なる可能性への挑戦によるそのリスクを恐れる人間が大半で、安定した秩序を求めて人々は統制を強めていくことを知ることになったのだ。

 

自身が後見人となって黄金期を切り拓いた“皇帝”シンボリルドルフの後釜が“女帝”と“怪物”なのを見て、男は早々にトレセン学園に見切りをつけていた――――――。

 

 

――――――黄金期の情熱は熱しやすく冷めやすく、常温のぬるま湯に浸かる時代が続いた後に、凍りつくような寒さの暗黒期へと至るだろう。

 

 

私が推測するに、男の一族が常に善良と評され、ウマ娘の因子が薄い一族になっているのは、元々からシカ娘の因子が混じっていたからなのだと思う。

 

実物のウマやシカの世話をしたことはないが、ウマとロバからラバが生まれることはあっても、ウマとシカからバカが生まれることは生物学的にありえないことぐらいは知っているため、

 

おそらく、男の一族が茨城県鹿嶋市の出身なのも、文字通りに“鹿”の字が入っている鹿島神宮との縁がそのことを物語っているように思えた。

 

つまり、遠い先祖から受け継いできたシカ娘の因子がウマ娘の因子を遠ざけることになり、本能的に男の一族はウマ娘との間に子が生まれづらいことを理解して、ヒトとの婚姻を結んできたのではないだろうか。

 

あるいは、昔はウマ娘以外にもたくさんのアジン娘との交流があった名残として、その一例としてシカ娘の末裔たちが鹿島神宮の辺りに定住したのだと考えると、未来に希望が持てるではないか。

 

 

――――――シカ娘のハーフである男はいまや未知なる可能性を求めて新天地を目指す宇宙移民の私にとって最高の興味と研究の対象となった。

 

 


 

―――――都内のとある高級ホテルのスイートルーム

 

ジャージャージャー!

 

水鏡I「おお……、3ヶ月間 意識不明の重体だった割には いい筋肉しているねぇ、お前さん……」

 

斎藤T「そういう水鏡教官も若返りの泉で20代になってもしっかりと身体を維持してますね」

 

水鏡I「そりゃあ、体力がなくちゃ女を昇天させ続けることはできねえからな。腰が砕けるぐらいまでやって『もう許してぇ……』って言わせるのが俺の生き甲斐だし」

 

斎藤T「――――――生まれたての子鹿のようにしちゃうんですか」

 

水鏡I「…………!」

 

水鏡I「ああ、そんな感じ」

 

水鏡I「というか、そこからが本番だぜ? そこからもっともっと深いところに連れて行ってやるのさ」

 

水鏡I「でも、ウマ娘の因子が強い人間と比べたらシカ娘の因子の人間はひ弱だからさ、それで 人一倍 悪意とか汚れに敏感でガキの頃はすぐに気分が悪くなって大変だった……」

 

水鏡I「だから、俺は生きていくために自然と負けず嫌いで上昇志向が強くて他人を屈服させることに悦びを覚える最低野郎にならざるを得なかったと今なら思う……」

 

水鏡I「自分自身も悪に染まって臭いを同じにしないと生きていけなかったから、強がりを重ねるうちに“悪魔の権化”なんて呼ばれるようになっちゃってさ……」

 

斎藤T「それでも、シカ娘の因子として自然と善と悪を選り分けてしまう本能が最後の良心を残し続けていたわけなんですね」

 

斎藤T「さあ、お背中 流しますね」

 

水鏡I「ああ。頼む」

 

水鏡I「まあ、ウマ娘よりかはひ弱なシカ娘だけど、都会に飼いならされたウマ娘より遥かに危険予知に長けていて、本能的に超えちゃならない一線がわかるから非常に長生きしやすいぞ」

 

斎藤T「たしかに、ウマ娘は闘争本能の強さから掛かりやすくて、突っ走ってしまいがちですからね」

 

斎藤T「私もその因子を色濃く受け継ぐ身なので そのことを常々戒めていますけど、」

 

斎藤T「最初にウマ娘に撥ねられて3ヶ月間の意識不明の重体になっていながら、この半年で割と死にそうになった場面が両手で数え切れないほどあるんですよねぇ……」

 

水鏡I「でも、こうして生きている。絶体絶命の状況を重ねても生き残れる天運をお前さんは持っているわけだ」

 

水鏡I「俺の直感は正しかった。お前さんを敵に回して生き残れる気がしない」

 

 

水鏡I「しかし、世界は広い――――――」

 

 

水鏡I「トレセン学園に集まる競走バ以外にも世の中には農耕バ、荷役バ、警察バ、軍隊バ、格闘バなどなど いろいろな形態のウマ娘がいるのに、トレセン学園のトレーナーは競走バしか知らないのが大半だ」

 

水鏡I「そして、建前上ではウマ娘どころか身体能力が相応ならヒトでも入学できることになっているが、実際にはトレセン学園の入学試験の段階でヒトはウマ娘との圧倒的身体能力の差で後塵を拝することになる」

 

水鏡I「けど、後塵を拝することになるのはヒトだけじゃないんだ。競走バとして生まれることができなかったその他のウマ娘も同じことなんだ」

 

水鏡I「だから、アシスタントコースのウマ娘たちは自分で夢の舞台を走ることができない現実を呑み込んだ上で入学していることになっているが、実際にはそう割り切れないのが人間の感情ってもんさ」

 

水鏡I「俺の中のシカ娘の因子はそういう社会の矛盾を見つけるのが大の得意でね――――――」

 

水鏡I「とカッコよく言ってみたものの、実際には嫌でも目についちゃうから『夢の舞台でバリバリに活躍してガキの頃に見下してきた連中を見返してやろう』という野望との折り合いをつけた結果が“悪魔の権化”なわけだ」

 

斎藤T「逆境を跳ね返した忍耐と根性が揺るぎない自信と能力を支えたわけですね」

 

水鏡I「そういうことだ。お前さんはもっと凄い逆境を跳ね除けているけどな」

 

水鏡I「――――――辛くはなかったかい?」

 

斎藤T「そりゃあ、辛いですよ。相手は超科学生命体で、WUMAの擬態能力と空間跳躍能力に対抗できるのが私しかいないから、誰も助けにならないですから」

 

斎藤T「何とかWUMAの侵略を阻止できたのも、WUMAという並行宇宙の支配種族の習性を利用する他なかったですし」

 

斎藤T「あれがこの世界の人間と同じ思考で擬態能力と空間跳躍能力を駆使したら、もう誰にも止めることなんてできません」

 

水鏡I「そうか。邪神パレスとの戦いもヤバかったどころの話じゃないが、俺たちの知らないところでたった一人でそんなバケモノと戦い続けていた英雄がいたわけなんだよな……」

 

 

水鏡I「俺はお前さんが“斎藤 展望”で在り続けて良かったと心底思っているよ」

 

 

水鏡I「お前さんがトレーナーを辞めてトレセン学園を去っていたら、8月末の最初のWUMA事件でトレセン学園は大惨事になっていただろうし、」

 

水鏡I「俺はこうして“皇帝”シンボリルドルフを介して斎藤 展望に会うこともできなかったからな」

 

斎藤T「まったくですよ。WUMA対策のためにトレーナーをやっている場合じゃないと思いながらも、WUMAの目的が『ウマ娘の解放』だったことから、トレセン学園に身を置き続けるのが最適解だったわけですから」

 

 

――――――まさしく、人生塞翁が馬。

 

 

そう、私が“斎藤 展望”がやり残したこととしてトレセン学園のトレーナーを真面目にやろうとしたことが、結局はこうしてヒトとウマ娘が共生する21世紀の地球を救う最短の道だったことを理解することになった。

 

去年のクリスマスで賢者ケイローンを抹殺するためにやってきたWUMAの侵略は阻止できたものの、未だに多摩地域の残党は健在で、これをどう掃討するかで頭を悩ませている一方で、

 

賢者ケイローンが時間跳躍でやってきた そう遠くない将来に WUMAが本格的に侵略してくる絶望の未来が待ち構えており、

 

そこから更なる未来から暗殺用人造人間が送り込まれるほどに絶望の未来に舵を切る因子が集まっていることに私はどうしようもなさを感じていた。

 

WUMAが侵略してきた状況と同程度の未来の変化では絶望の未来に収束する可能性が高く、絶望の未来を回避するためには同程度の未来の変化を思いっきり逸脱させるしかない。

 

よって、絶望の未来よりも圧倒的に進化した文明になるか、圧倒的に後退した文明になるかの2択となるのだが、誰がどう考えても前者を選ぶのが正しいと答えるはずだ。

 

 

問題は、そう遠くない未来にそこまでの差が開くほどの圧倒的に進化した文明になる未来像が私には思い描けなかったことにあった。

 

 

いや、やろうと思えば、私が23世紀の宇宙科学を再現して200年先の世界を先取りすることもできるのだが、高度な文明には高度な精神が伴うべきであり、

 

未だに地球圏統一国家を樹立できないような愚かな21世紀の人間たちが23世紀の未来科学を悪用して第三次世界大戦を引き起こすかもしれない危険性があった。

 

なので、私としては命からがらWUMAの先遣隊による侵略を阻止できたのに、絶望の未来を回避するためにもたらした23世紀の宇宙科学が21世紀の地球を滅ぼす火種になるかもしれないという危惧から二の足を踏む状況になっていたのだ。

 

 

ところが、“皇帝”シンボリルドルフに紹介されて黄金期の影の功労者であるチーム<アルフェッカ>とその仕掛け人である名教官:水鏡 久弥と出会ったことで未来の展望が大きく変わった。

 

 

WUMAの襲来以前からウマ娘の世界にはその他のアジン娘たちが存在する異世界との密かな繋がりがあり、チーム<アルフェッカ>のチーフトレーナー:ムラクモTが主宰となって異世界平和連合を結成しようと今も奮闘中なのだ。

 

つまり、WUMAが襲来するはずだった絶望の未来を異世界平和連合との友好的な遭遇に至る希望の未来に塗り替えてしまえば、宇宙移民のモットーに反することなく、私が今いるウマ娘の世界を自然な形でより良い方向に進化させられる希望が見えてきたのだ。これが目指すべき未来なのだ。

 

だからこそ、これまで私が何度も何度もトレーナーなんかをやっている場合じゃないと思いながらも、初志貫徹でトレセン学園のトレーナーで在り続けたことはそう遠くない将来におけるWUMA襲来の最終的な解決策に繋がる最適解だったのだ。

 

 

そう、私が絶望の未来を希望の未来に変えられる唯一無二の情報を持った存在となって、こうして希望の未来を担う英雄たちと繋がりを持つことができたことで未来は大きく変わる可能性を持つようになっていた。

 

 

ただし、異世界平和連合との友好的な遭遇が実現されるように急かす一方で、下手をすれば私がもたらした情報が元で破滅の未来に進むかもしれないので、異世界平和連合に丸投げするわけにもいかない。

 

なので、異世界平和連合の活動を支援できるように互いの情報共有を推進して、並行宇宙の支配種族という将来的な脅威に対抗できるようにもしてもらいたかった。

 

はっきり言って、WUMAの軍事力は宇宙最強であり、異世界にどれだけの兵力があろうとも、超科学生命体の科学力と擬態能力と空間跳躍能力に掛かればイチコロである。

 

私が構築した対策案をどれだけ国家レベルで実行できる異世界があるかはわからないが、少なくとも私はウマ娘の世界の人間に23世紀の宇宙科学を渡す勇気はないため、どこかの異世界に託すに値する叡智の種族が見つかることを祈りたい。

 

一応、エルダークラスを超えたスーペリアクラスを私は擁しているが、ヒトとウマ娘の絆が絶たれ ウマ娘がヒトを支配するようになる 絶望の未来に至る程の超科学生命体の軍事力が突如として来襲してくるのに、たったひとりのスーペリアクラスで対処できるわけがない。

 

なので、そもそもWUMAが襲来する可能性を引かない未来を不断の努力によって達成し続けなければならないことを全宇宙に知らしめることが重要となってくる。

 

それによって、多少はWUMA襲来の時期がズレ込む可能性があり、それで時間を稼ぐことも可能とされるのが、因果律によるパラレルワールド形成の仮説である。その分の努力は裏切らないのだ。

 

そう強く言えるのも、私がこれまでに夥しい数の時間の巻き戻しを“目覚まし時計”を通じて体験してきたからであり、時間が巻き戻っているように見えても実際に自分の行動によって与えた影響の分だけ状況が少しずつ変化するようになっていたのだ。

 

なので、それを一般化すれば、人類全体がより良い方向に努力し続ければ、その分だけ人類全体の未来がより良い方向に修正されていくという理屈に行き当たるのだ。

 

もちろん、因果律の実証は23世紀になってもなされていないので、完全な科学的な証明ができていない以上 憶測で物事を判断していることになるが、それを確かめるために実証すること自体は間違ったことではない。

 

よって、私は並行宇宙のバケモノがもたらす絶望の未来よりも異世界平和連合がもたらす希望の未来になることを願うばかりであった。

 

 

水鏡I「つまり、思った以上に女王陛下の活動は俺たちの地球にとって重要だったってわけか……」

 

水鏡I「邪神パレスの討伐だけでも1つの異世界が滅亡していたぐらいなのに、今度はそれとはまったくちがう並行宇宙のバケモノの襲来を阻止するためにウマ娘の世界の文明を進化させないといけない――――――、か」

 

水鏡I「――――――超科学生命体の科学力・擬態能力・空間跳躍能力によって『戦ったら絶対に負ける』という意味では邪神パレス以上の絶望感だな」

 

水鏡I「実は、女王陛下はその滅びた異世界を再建して異世界平和連合の中心地にして、そこで異世界競バ『JAPAN WORLD CUP』を開催しようと考えておられてな」

 

斎藤T「なら、それを国際競走にしたのを皮切りにして、ウマ娘の世界の未来を変えていけるはずです」

 

斎藤T「ところで、その滅びた異世界と言うのはどういうところなんです? その跡地を首都にしているんですよね?」

 

 

水鏡I「ああ。キリン娘の世界だそうだ。会ったことはないが、高度な文明の残骸がいろいろと残っていたよ」

 

 

斎藤T「え」

 

斎藤T「キリン娘って、偶蹄目ウシ亜目キリン科が擬人化したやつですか?」

 

水鏡I「いや、全てのアジン娘の祖となる獣類の長となる伝説の種族という話だ。ウシ娘の仲間ではないと思うが」

 

斎藤T「あれ? まさか、本当に麒麟が擬人化したアジン娘が存在して、その文明が滅んでいた――――――!?」

 

水鏡I「お、何かキリン娘の文明について知っていることがあるのか?」

 

斎藤T「いえ、中国神話に現れる瑞獣:麒麟は足元の虫や植物を踏むことさえ恐れるほど殺生を嫌う神聖な生き物で、その麒麟を傷つけたり、死骸に出くわしたりするのは、不吉なこととされているんです」

 

水鏡I「……なに?」

 

斎藤T「だから、アジン娘の祖となる獣類の長となるキリン娘の文明が滅んだことは、アジン娘が住む数々の異世界にとって多大な悪影響を及ぼしたんじゃないかと思う」

 

 

水鏡I「――――――邪神パレスがキリン娘の世界を征服したのは滅びの序曲に過ぎなかったのか?」

 

 

斎藤T「わかりません。けど、並行宇宙のバケモノがウマ娘の世界にいずれ襲来することもその1つなのかもしれません」

 

水鏡I「……マジかよ」

 

水鏡I「いや、本当に感謝します、斎藤T。どうして滅亡したキリン娘の文明がかつてアジン世界の中心地になっていたのか、これでわかった」

 

水鏡I「これは本当に異世界平和連合を成立させて、かつてのキリン娘の王朝の文明や在り方を継承しないとマズいことになるな……」

 

斎藤T「そうですね――――――」

 

斎藤T「あ」

 

 

――――――あ、どうしよう。殺さなきゃ。

 

 

私はとんでもないことを思いついてしまっていた。

 

昨夜、私はトレセン学園が暗黒期から黄金期に移り変わる過程で暗躍していた“悪魔の権化”である名教官:水鏡 久弥との対談でとんでもない裏事情と世界の外側にあるものを知ることになり、

 

そこから互いにこの星の明日のために人知れず戦い抜いてきた英雄であることを理解し合うと大いに盛り上がり、流れで義兄弟の杯を交わすまでになった。

 

そして、名教官が裏で糸を引いていたチーム<シリウス>とチーム<アルフェッカ>の活躍の記録やその裏事情を綴った秘密文書のデータを譲り、私もWUMAとの交戦記録のデータを段階的に渡す契約も交わした。

 

とにかく、一気にデータを渡されて事の重要さを理解できないまま流出される危険性を最小限に食い止めるための措置であり、データの更新のために定期的に会合の機会を持つための取り決めでもあった。

 

その中で、未来から送り込まれた暗殺用人造人間:アルヌールに内蔵されていたメモリーとDNA鑑定機能で探していた『未来の英雄のパーソナルデータ』と『DNAデータ』を一番に渡しており、

 

私としては未来の英雄の両親となる人物を探し出すメリットはないものの、万が一に新たな人造人間が未来から送り込まれてきた時に後手に回らないようにするぐらいの用意はしておきたかった。

 

一方で、並行宇宙からの侵略者による絶望の未来を回避するために賢者ケイローンが持ち込んでしまった因子以上に、異世界平和連合との調和による希望の未来に分岐させるための因子を集めることが必要だと悟った。

 

そのため、絶望の未来に繋がる決定的要因となる因果律の因子の特定のことを考えると、やはり人造人間が持ち込んだデータは気になってしかたがなかった。

 

 

しかし、その『未来の英雄のDNAデータ』は非常に興味を惹くDNAの塩基配列になっており、超科学生命体の解析機を使っても割り出すことができない――――――、まったく未知の生物の遺伝子情報が混ざっていたのである。

 

 

つまり、未来の英雄は地球外生命体の混血であることが確定しており、おそらくは地球外生命体のクォーターにしか思えないほどの嵌合体(キメラ)遺伝子であった。もうメチャクチャである。

 

父親はおそらくヒトのハーフだと思われるのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の遺伝子を持っており、

 

母親は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の遺伝子を持っているため、解析機にある遺伝子情報のライブラリでは照合が――――――。

 

 

あ、わかった。この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の遺伝子って、ウマ娘に擬態したWUMAの遺伝子じゃ――――――。

 

 

年代を考えても賢者ケイローンを追ってきた先遣隊の生き残りぐらいしかWUMAは存在しないし、絶望の未来で新たな地球の支配者になった“フウイヌム”がわざわざウマ娘に擬態して子を成すことはないのだから――――――。

 

そこまでは推測がついたが、問題は父親の方であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の遺伝子が完全に謎だったのだが、それが昨夜の水鏡教官との対談でその出所に目星がついたのだ。

 

なので、ウマ娘以外のアジン娘たちが共生する異世界を渡っている異世界平和連合に捜索を依頼するのが一番だと気づいたのだ。

 

 

水鏡I「なるほど。未来から送り込まれた人造人間が握っていたDNAデータを解析したら『他の異世界のアジン娘のハーフがウマ娘の世界をWUMAの支配から解放する未来の英雄の父親になる』ってことを示しているのか」

 

水鏡I「それでもって、母親の遺伝子が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の遺伝子ってことで『この時代にやってきてウマ娘に擬態したWUMAの残党が未来の英雄の母親になる』って――――――?」

 

水鏡I「おいおい、こいつはとんでもないタイムパラドックスじゃねえかよ?」

 

斎藤T「因果律の連続性を考えると、すでに紐付けられて()()()()()()()()()()()()自体がWUMA襲来の強烈な因子になっているので、やはりこの時代にやってきたWUMAは完全に駆逐するべきでした……」

 

水鏡I「けど、ここまでユニークな因子の持ち主だと、アジン娘のハーフの父親とウマ娘に擬態したWUMAの母親の間に生まれた子供じゃないと、未来の英雄だなんて大役を務まらないんじゃないのか?」

 

斎藤T「いえ、もしかしたら、それを生み出すのはあなたかもしれないじゃないですか」

 

水鏡I「嫌なことを言うなぁ……」

 

 

――――――シカ娘のハーフである俺が“流星”のあるウマ娘に擬態したWUMAと子を生む可能性か。

 

 

水鏡I「パーソナルデータにある未来の英雄の写真にきっちりと特徴に“流星”があるって分析されているし、髪の色も鹿毛だもんな、この青二才は!」

 

水鏡I「うわぁ! どことなく俺と俺の愛バ:シリウスシンボリの両方の特徴を持っているようにも見えるから困る!」

 

水鏡I「まさかな? まさかな……!?」

 

水鏡I「本当にシカ娘のハーフである俺とウマ娘であるシリウスの間に子ができなかったからって、WUMAの擬態能力を利用して代理母出産させた結果がこれなのか!?」

 

 

水鏡I「――――――『シカ娘とウマ娘の因子を両方持つバカ(馬鹿)娘が生まれたら世界が激変する』という俺がシカ娘の世界で聞かされた予言の正体ってこれなのかよ、おい!?」

 

 

斎藤T「まあ、データを見る限りは完全な男なので、肝腎の()()()の方はあなたの双子の姉がそうであったようにシカ娘の世界にいるのかもしれませんが」

 

斎藤T「まさかこうしてドンピシャな人物に巡り合うとは、これも皇祖皇霊の尊い導きか……」

 

水鏡I「これが俺の()()()()になるってのか……?」

 

水鏡I「でも、鹿毛で“流星”という条件だけなら、シンボリ家にも結構いるしなぁ……」

 

水鏡I「それこそ、シンボリルドルフだってそうだろうし――――――」

 

水鏡I「わかった。英雄の父親の遺伝子については最速で調べておく。まさに俺のことかもしれないし」

 

斎藤T「その他にも、アジン娘の因子が流れている人物をリストアップしなければなりませんよ」

 

水鏡I「――――――場合によっては絶望の未来の因子になる両親を殺すべき、か」

 

 

斎藤T「ただ、それだけに“未来の英雄”の誕生には並行宇宙と異世界の両方が関わっていることがこれではっきりしました」

 

 

斎藤T「なので、現状維持で精一杯だと並行宇宙からの支配、進歩発展向上が果たされれば異世界からの調和がもたらされることにも納得がいったことかと思います」

 

水鏡I「なあ、ジュニアクラスのWUMAは完全に擬態対象に身も心も完全に同化するんだろう?」

 

斎藤T「ええ。擬態直後の擬態対象への殺人衝動が収まれば、あとは完全にもうひとりの人間となって擬態対象と共生できるのは私の担当ウマ娘:アグネスタキオンで実証済みです」

 

斎藤T「もちろん、もうひとりの自分がいることを許容できる人格である必要がありますので、もうひとりの自分がいてくれたら大助かりだと大真面目に考える変人でもないと、それは難しいでしょう」

 

斎藤T「特に、走ることが大好きで闘争本能が強い競走ウマ娘だと、もうひとりの自分が不倶戴天の敵になります」

 

水鏡I「そうだな。ウマ娘じゃなくても、もうひとりの俺がいたらどっちがシリウスをモノにできるかで絶対に自分同士で争うだろうしな」

 

水鏡I「でも、即座に見破る方法がないから、俺がシリウスに完全に擬態したWUMAと交わり続けたら、生まれる可能性は断然高いわけだよな……」

 

水鏡I「上級クラスのWUMAの命令には絶対だから――――――、閃いた!」

 

斎藤T「現逮ッ!」ガシッ

 

水鏡I「ああ こいつ、皇宮警察だから通報されるどころじゃなかった!」

 

 

――――――でも、欲しいな、もうひとりのシリウスシンボリ。

 

 

水鏡I「なあ、もらってもいいか? いいじゃねえかよ、WUMAの1つや2つ?」

 

斎藤T「生存本能が脅かされた瞬間にWUMAとしての意識が一時的に戻るので殺されかねませんよ?」

 

水鏡I「でも、代理母としては最高じゃねえかよ!」

 

斎藤T「それであなたが納得するなら、名目を付けてこちらでお好みに調整したジュニアクラスを派遣してもいいですけど、果たして命令でいくらでも人格改造を施せる愛玩動物に本物以上の魅力が出せますかね?」

 

水鏡I「……たしかに、これまで調教してきた教え子のようにひたすら俺に従順で俺への愛を叫びまくって白目をむくようなシリウスは気持ち悪いかもな。何かこれじゃない感が酷い」

 

斎藤T「でしょう? 妄想を実行に移したところであなた自身が想像してたのとちょっとちがう現実に落胆するだけですから、そういった類のロマンスは頭の中だけにしておいてください」

 

水鏡I「なあ、思ったんだけど、“宇宙移民の船長”ってそんなにも堅苦しいもんなのか? むしろ、“宇宙警察の船長”みたいにお堅いよな、その辺」

 

斎藤T「ちょっと話の規模を勘違いしているかもしれませんけれど、宇宙移民はお気楽に新天地を目指しているわけじゃないんですよ」

 

斎藤T「徹底した人口管理で最低でも4光年以上の彼方にある未開惑星に国を築き上げるために必要な人員を不用意に増やしたり減らしたりはできないから、仮想世界のアバターで夫婦生活や男女交際を疑似体験して済ませているぐらいなんですから」

 

斎藤T「いいですか? 4光年ですよ? 約9.5兆キロメートル:光が自由空間かつ重力場及び磁場の影響を受けない空間を1ユリウス年(365.25日)の間に通過する距離の4倍は進まないとプロキシマ・ケンタウリには辿り着けないんですからね」

 

斎藤T「宇宙警察の船長なんて、すでに生存圏が築かれた場所を巡回するだけでいいので、宇宙移民に課せられた厳しい環境に身を置いているわけじゃないですから、よっぽどお気楽ですよ」

 

水鏡I「はぁーーー、1光年:約9.5兆キロメートル! プロキシマ・ケンタウリまで4光年!」

 

水鏡I「光の速さで1年休むことなく進んでも4年以上かかるところに太陽系にもっとも近い恒星系があるってのか!」

 

水鏡I「無理だ! 4年も抱かないでいるのなんて、俺には耐えられん! 疑似体験(もどき)じゃなくてモノホン()がいいんだよ! そんなの 生殺しじゃねえか!」

 

斎藤T「そんなわけで、下半身にダラシないあなたは宇宙移民のメンバーには推薦できませんので、悪しからず」

 

水鏡I「ああ そう。そういうことなら、たしかに俺は“宇宙海賊の船長”にしかなれないわな……」

 

 

――――――世界一周を達成した“太陽を落とした男”の再来を自負する俺も形無しだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トボトボトボ・・・

 

トウカイテイオー’「――――――『URAファイナルズ』、始まったね」

 

トウカイテイオー’「……カイチョーもマックイーンも引退して、エアグルーヴが新しい生徒会長になって、ブライアンは上位リーグ入りして、何もかも昔のままじゃなくなっていくんだよね」

 

トウカイテイオー’「…………いつまでボクはボクでいられるのかな?」

 

 

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