ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第8話秘録 期末テスト必勝祈願の豆を撒け

-シークレットファイル 20XY/02/06- GAUMA SAIOH

 

現在、黄金期を迎えて大きく成長したトレセン学園は総生徒数2000名弱のマンモス校であり、当然ながら毎年の入学試験の受験者の人数も膨大であるため、

 

すでに夢の舞台に入れた生徒たちはまだ見ぬ未来のスターウマ娘たちを迎え入れる入試期間の前に各々の進級や卒業を懸けた期末試験を受ける必要があった。

 

そのため、『フェブラリーステークス』に出走するような一部のウマ娘でもない限りは、3月から実質的に開幕するウマ娘レースを目前に控えた2月の入試期間は多くの生徒たちにとっての安息の時であった。

 

もちろん、それには2月上旬の期末試験に合格することが第一であり、それが叶わない場合は2月にウマ娘レースの出走に力を入れて期末試験を受けることができなかった出走バたちと追試期間で追試というわけである。

 

すでに、期末試験期間が半ばを迎え、生徒たちの大半は入学した目的であるウマ娘レースのことを完全に忘れて、学業が本分である学生らしく今回の期末試験の手応えで一喜一憂していた。

 

 

その裏で、トレーナーがもっとも暇になりやすい時期に、私は数少ない協力者を得て 学校裏世界で妖怪退治に明け暮れることになった。

 

 

そして、何故に門外漢である“斎藤 展望”がトレセン学園に導かれたのか、その答えの1つが明かされることになった。

 

そう、斎藤 展望が皇宮警察の家系;正確には天皇家に代々仕えてきた由緒正しき“The Guard(近衛)”の家系であったことで、トレセン学園に巣食う妖怪退治の役目を与えられたようなのだ。

 

実際、斎藤家の血筋は 10世紀の半ば頃の村上天皇の御代に 伊勢神宮に奉仕していた未婚の皇女斎宮である伊勢斎王の一般の世話を職掌とする斎宮寮の長官:斎宮頭に任じられたことで官職名と姓に因んで“斎宮頭の藤原氏”を号した藤原 叙用(ふじわら の のぶもち)の子孫であることがわかっている。

 

これが不思議な縁で、斎藤氏の始祖:藤原 叙用(ふじわら の のぶもち)と名前の読みが一致しているのが この斎藤 展望(さいとう のぶもち)であり、

 

更に、伊勢神宮に御垣内参拝した時に見た幻覚がきっかけで斎藤家のルーツを調べると、斎藤氏の始祖:藤原 叙用(ふじわら の のぶもち)の父は坂上 田村麻呂・藤原 保昌・源 頼光とともに中世の伝説的な4人の武人に数えられる鎮守府将軍:藤原 利仁(ふじわら の としひと)でもあった。

 

その藤原 利仁(ふじわら の としひと)は坂東の国司を歴任して群盗退治で天下に名を知らしめた当代随一の武人であり、また『宇治拾遺物語』にも芥川龍之介の『芋粥』の題材になった逸話を残す徳高き人物でもあった。

 

 

――――――この藤原 利仁・叙用の親子の在り方が斎藤 展望とその父親の在り方に重なって見えた。

 

 

そして、学校裏世界の度々呼び出されること数度、メジロマックイーンの担当トレーナー:和田Tが例のライスシャワーに化けたオバケに殺されかけることもあり、

 

想像以上に深刻な事態を招くオバケ退治の準備を着々と進めていった中、紅い月が妖しく輝く世界の住人たちが少しずつ悪質なものにランクアップしていくのを肌で感じていった。

 

どうやら、トレセン学園に蟠る悪霊は年季の入った忘れ去られた残念無念怨念の生霊ばかりではなかったようなのだ。

 

こちらが学校裏世界での除霊・助霊をこなしていくのに合わせて厄介な生霊に変わっていき、途中から明らかに人間じゃない姿の別の何かと激しい戦闘を繰り広げるようになってきたのだ。

 

それが人間としての理性を失って妖怪化したトレセン学園に蟠る真の悪霊たちであり、誰かを怨み続ける一心で人間ではなくなった存在の相手をするのは非常に危険であった。

 

 

そして、どうして身体能力が圧倒的にヒトを凌駕するウマ娘がこの世界で支配種族になれずに、自身の身体能力や闘争本能を抑えながらヒトとの共生の道を歩むことになったのかも、裏側の世界の実相を見続けて理解することになった。

 

 

それは学校裏世界で妖怪化した悪霊の大半がヒトであり、ウマ娘の悪霊はそれに使われる側でいるのが大半であったからなのだ。

 

他にも、シカ娘のハーフである水鏡教官から教わった無数に存在するヒトとアジン娘の異世界では、その世界固有のアジン娘は他所のアジン娘の世界に渡ることが難しいらしく、

 

異世界に渡ることで他種族のアジン娘と接触した際に引き起こされる致命的カルチャーショックを防ぐ認識プロトコルの影響をモロに受ける中、ヒトは致命的カルチャーショックの影響を受けづらいとされている。

 

そのため、アジン娘と比べると個々の能力で劣ってはいても、ヒトはあらゆるアジン娘の異世界に適応することができる無個性(プレーン)のおかげで 一番の繁栄が約束された どこの異世界でも一定以上の文明を築き上げる特性があるとされる。

 

つまり、それは表世界と表裏一体の裏世界においてもアジン娘に対するヒトの優位性が現れるわけであり、どれだけウマ娘がヒトとは異なる身近な脅威であろうとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というわけなのだ。

 

もちろん、妖怪の存在は表世界の生き物ではなく裏世界の生き物なので『いないと思えばいない』程度のものだが、この表裏一体の現実世界で知らず識らずのうちに悪影響を与えて、人々に災いをもたらしてきているのだ。

 

そして、23世紀の宇宙移民である私自身はNUE退治をしたという源 頼光のような誉れ高き天皇家の忠臣というわけではないが、

 

地球の文明の継承者として冠婚葬祭を一通り執り行える祭司長であり、心の世界のバケモノに通じているので、妖怪退治に駆り出せる人材の目利きと教育ができるというわけである。

 

このことがわかった上で、ウマ娘の異世界におけるヒトの悪霊が強大化した妖怪がいかなるものなのかを、その生々しい実態を見ていこう。

 

 


 

 

――――――学校裏世界/トレセン学園/中央広場

 

 

飯守T「うぅ……、ここが学校裏世界ってやつなのか……」

 

斎藤T「大丈夫ですか?」

 

飯守T「大丈夫だ。来たばかりですぐに引き返すだなんてカッコ悪いからな……」

 

 

ドスンドスンドスン・・・!

 

 

飯守T「うおっ!?」ビクッ

 

斎藤T「おお、早速 妖怪が現れましたね」

 

飯守T「な、何だ、あれは!?」

 

 

――――――壁!? 壁が歩いてる!?

 

 

塗壁「ドッス~~~ン!」ドスンドスンドスン・・・!

 

飯守T「ぬ、妖怪:塗壁ってやつか!? 何あれぇ!?」

 

斎藤T「飯守T、早速 対象に向けてデジタル妖怪図鑑を向けるんだ」

 

飯守T「あ、ああ……」スチャ ――――――専用タブレット端末のロッドアンテナを対象に向ける。

 

飯守T「お、自動的にデータが読み込まれたみたいだ」ピッ

 

 

『妖怪:塗壁。日本の九州北部に伝えられる妖怪の一種。夜道で人間の歩行を阻む、姿の見えない壁のような妖怪といわれる』

 

 

飯守T「へえ、妖怪:塗壁って九州の妖怪なんだ」

 

飯守T「お、他にも類似する妖怪として“野襖”とかいろいろいるんだな。全国地図に分布が表示されるから便利だな。世界一有名な任天堂のゲームの図鑑を参考にしているな、これ」

 

斎藤T「それだけじゃないですよ。ロッドアンテナには怪電波受信器や集音マイクの機能だけじゃなく、広角カメラも内蔵されてますから、対象に向けた瞬間に撮影もすんでいるわけです」

 

斎藤T「その写真情報を基に妖怪の正体を自動で解析する回路が搭載されているのがデジタル妖怪図鑑です」

 

飯守T「最新の科学の力ってすげーな!」

 

斎藤T「いえ、デジタル妖怪図鑑の底本は斎藤家が収蔵していた妖怪データベースと国際日本文化研究センターなどの資料が最初にあって成り立っているものですから」

 

斎藤T「そして、種別ができたとしても個々人に起きたことを類型として一緒くたにまとめられることは誰にとっても不誠実なことですから、デジタル妖怪図鑑で正体を見破ったとしても1体1体が常に真剣勝負ですよ」

 

飯守T「ああ。妖怪の正体が人間の無念や怨念が具現化した悪霊だってわかった以上は誠実に向き合わないとだしな」

 

飯守T「でも、元が人間の霊だと思えないような心の世界のオバケになった妖怪を浄化するために、伊勢神宮の神々に教えられたものが、この金剛杵(ヴァジュラ)か」

 

斎藤T「元々は仏の教えが煩悩を滅ぼして菩提心:悟りを求める心を表す様をインド神話の主神であるインドラ――――――仏教における帝釈天の武器:雷霆に譬えて法具としたものです」

 

斎藤T「これは実際に武器として取り回しやすいように大きさを調整したもので、槍状の刃が柄の上下に一つずつ付いた独鈷杵です。この刃を伸ばしたものが独鈷剣になるわけです」

 

飯守T「まるで忍者が使うクナイみたいだな。お、持ってみると意外と軽いぞ」

 

斎藤T「使い捨てを前提にしたプラスチックの成型に金色の塗料で塗っただけですから。でも、雰囲気が出ているでしょう。イメージの世界ではこれで十分です」

 

飯守T「つまり、これを帝釈天の武器に見立てて妖怪に攻撃すればいいんだよな?」

 

斎藤T「妖怪そのものを攻撃したらいけません。銃刀法違反に抵触しないように殺傷性がないものを採用しているので、そもそも刺すことも斬ることもできないです」

 

斎藤T「ポイントは人霊が妖怪に化ける原因となった悪因縁の糸を断ち切って正しい霊体に浄化しなくてはなりません」

 

斎藤T「そして、浄化した霊体を心霊写真としてカメラに封印して、それを助霊を専門とする心霊機関に預けなくてはなりません」

 

飯守T「つまり、分析をするのがデジタル妖怪図鑑で、浄化するのに使うのがこの金剛杵で、浄化した霊体を封印するために使い捨てのフィルムカメラを使うんだな」

 

 

斎藤T「そう、これが妖怪退治の3点セットです。デジタル妖怪図鑑・金剛杵(ヴァジュラ)・フィルムカメラ」

 

 

斎藤T「フィルムカメラを使う理由はフィルムを依り代にして物理的に封印するためであると同時に、たくさんの悪霊を心霊写真として封印することでフィルムカメラそのものが呪物になっていくので、買い替えが簡単なものとして最適な封印具なんです」

 

斎藤T「それじゃあ、手始めにあの妖怪:塗壁の解析が済んだみたいなので、早速 妖怪退治をやってみましょうか」

 

斎藤T「解析が完了した状態で対象にロッドアンテナを向けてください。そうすれば悪因縁が浮き上がることでしょう」

 

飯守T「よし」スチャ ――――――専用タブレット端末のロッドアンテナを再び対象に向ける。

 

塗壁「ドッス~~~ン!」ドスンドスンドスン・・・!

 

飯守T「お、妖怪:塗壁の身体に線とか点が浮かび上がってきたぞ!?」

 

斎藤T「あれが悪因縁の線と点です。あそこに金剛杵でなぞったり押したりすることで徐々に妖怪化の原因となった悪因縁を分解することができるんです」

 

斎藤T「ためしに、ここから線をなぞったり点を押したりしてみてください」

 

飯守T「え、ここから届くのか?」

 

斎藤T「ここは心の世界が具現化した三次元空間の裏となる四次元空間です。この金塗りのプラスチックが帝釈天の金剛杵だと信じれば必ずそうなります。遠くにあっても近くにあると思えば近づくんです」

 

斎藤T「では、私から行きますね」ビュン! ――――――妖怪:塗壁に浮かび上がってきた悪因縁の線をなぞるように金塗りのプラスチックの独鈷杵で空を切った!

 

塗壁「ドッス~~~ン!!?!」ズドオオオオオオオオオオオン!

 

飯守T「うおおお!? 本当に離れた場所の妖怪:塗壁に雷が走った!?」

 

斎藤T「線が薄まっているのがわかりますか? あれで悪因縁が雷霆に焼き払われて浄化されているわけですね」シュウウ・・・ ――――――金塗りのプラスチックの独鈷杵が黒焦げになっている。

 

飯守T「うおわっ!? 独鈷杵が黒焦げになって煙を噴いてる!?」

 

斎藤T「だから、使い捨てなんです」

 

斎藤T「そして、当然ながら悪因縁を浄化しているわけですが、それは妖怪を妖怪足らしめている悪因縁を消し去ろうとしているわけですから、妖怪たちも自己の存在を維持するために必死の抵抗を行うわけですよ」

 

斎藤T「ほら!」

 

塗壁「ドッス~~~ン!」ドスンドスンドスン・・・! ――――――怒りの形相で地響きを立てて迫ってくる!

 

飯守T「うおおお!? こっちに妖怪:塗壁が迫ってくる!?」

 

斎藤T「だから、できるだけ遠くから一気に悪因縁の線や点を浄化できる腕前が必要になります」

 

飯守T「なら、昔とった杵柄、元甲子園球児の強肩の出番だ!」ブン! ――――――見事な投球フォームで独鈷杵を投げつけた!

 

斎藤T「お」

 

 

バチバチバチィイイイイイイイイイイイイイイイイン!

 

 

塗壁「グギャアアアアアアアアアアアア!!?!」バチバチバチ・・・

 

斎藤T「この距離からこちらに迫ってくる妖怪の悪因縁の点に――――――! み、見事ですね……!」

 

斎藤T「しかも、今のはクリティカルヒットで妖怪:塗壁がひっくり返った!」

 

飯守T「おっしゃああ! やったぜ、俺ぇ!」

 

斎藤T「今なら追撃のチャンスです! 一気呵成に攻めましょう!」

 

飯守T「ああ!」

 

 

これが飯守Tの妖怪退治デビューであった。担当ウマ娘:ライスシャワーを護るために一緒に学校裏世界に乗り込んでくれたわけなのだが、助っ人としては十分すぎる戦力になってくれた。

 

とにかく、斎藤 展望が編み出した妖怪退治は3ステップと非常にシンプル。

 

デジタル妖怪図鑑で解析することで悪因縁の線と点を浮かび上がらせて、金剛杵で悪因縁を浄化して、妖怪化が解除された悪霊を使い捨てカメラのフィルムに封印するのだ。

 

しかし、今回は図体がでかくて動きが鈍い妖怪:塗壁だったから簡単ではあったが、妖怪は多種多様の姿や形態を持っており、動きも予測不可能なものが多いため、一人で戦うにはあまりにも危険すぎた。

 

なので、最初は地上最強の生物であるスーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)に協力してもらおうとしたが、万が一にも妖怪の精神攻撃か何かでWUMAとしての本能が覚醒して敵になった場合が恐ろしすぎるのでヒトを仲間にすることにしたのだ。

 

むしろ、ヒトよりも繊細な生き物であるウマ娘に学校裏世界の強烈なプレッシャーなんて耐えられそうにないし、多感な時期のトレセン学園の生徒たちが自分たちの学び舎の裏側がこんな悍ましいものだと知ってしまった場合の悪影響も考えたくない。

 

 

となれば、いかなる世界においてももっとも繁栄を遂げるヒトがやるしかないのだ、ここは。

 

 

しかし、こうして初めて仲間を引き連れて悪因縁を浄化して妖怪化を解除した妖怪:塗壁の正体は意外なものであった。

 

実は、妖怪:塗壁の正体は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったのだ。壁が妖怪化しているのは学生寮を隔てている塀にトレーナーの煩悩がこびりついていた故だ。

 

そう、人の恨み辛みの妄念・妄想が向けられた無機物はこうして裏世界では人霊と合体して妖怪化しており、妖怪:塗壁は自分が味わった想いを他人にも味わわせようと通せんぼする傍迷惑な存在であった。

 

要するに、トレセン学園に跋扈する妖怪:塗壁はウマ娘とトレーナーの出会いを邪魔する存在であり、そのために学園内をうろついてはウマ娘をスカウトしようとしているトレーナーの視界からピンとくるウマ娘の姿を見えなくしたり 回り道をさせたりするのだ。

 

それができるのも妖怪:塗壁の正体が同じトレーナーの人霊だから同業者であるトレーナーや育成対象であるウマ娘の目利きができ、

 

そういう存在と定義されているが故に寝食の概念もなく長い時間をひたすら裏世界から表世界を見つめてきた圧倒的な経験の量がそれを可能にしていた。

 

もちろん、基本的に霊的存在には物理的干渉能力がなく、触ろうとしても物体をすり抜けてしまうのだが、

 

問題は 我々 生きている人間もまた“肉体を持った人霊”だという原則があることである。

 

我々はたしかに肉体に備わった五感でこの世の全てを感じ取っているように思えるが、それならば どうして“なんとなく”無表情の相手が怒っていると感じ取ることができるのか――――――。

 

それは我々の肉体を通じて我々の霊体が霊的存在の波動を感じ取っているからであり、誰かに視られているような気配を感じ取れるのも視線に乗せられた人の思念を我々の肉体に宿った霊体が敏感に察知しているからなのだ。

 

なので、妖怪:塗壁はそこに立って『ここは通してやらないぞ。見せてやらないぞ』という意志をもって立ち塞がるだけで、“なんとなく”ここは通っちゃいけない気にさせられて生者が無意識のうちに誘導されるのだ。

 

そういう意味では、入学試験に合格して夢の舞台に入ることができた夢いっぱいの新入生にとって、ウマ娘との出会いをなくすことでトレーナーからのスカウトを妨害してくる妖怪:塗壁の存在は非常に害悪であり、入試期間を目前にした時期の妖怪退治は熱が入った。

 

そのためか、学生寮に特別に入ったことがある飯守Tの目には妖怪:塗壁がたくさん写ることになった。私も学校裏世界の学生寮に進入しているので、正体がわかって以降の妖怪:塗壁に対する浄化の雷霆の威力は増していった。

 

どうやら、人によって遭遇できる妖怪に傾向があるらしく、それが悪霊が妖怪化する悪因縁に対抗できる因果を作り出しているらしい。妖怪:塗壁なんてデカくて地響きを立てて目立つ妖怪は今まで見たことがなかっただけに。

 

あるいは、退治できる妖怪としか戦わないように全ての生命のエネルギーの源である太陽神であり日本国民の祖神であり大日如来と同一視される天照大神の加護がそうさせているとも言える。

 

これが伊勢神宮の御垣内参拝で見た幻覚から得た霊智であり、全ての生命のエネルギーの源である太陽神の加護によって、適度に視える悪霊や妖怪を天照大神が階層化させて退治できるようにしてくれていた。

 

また、生物の常識を超えた悍ましい異形の悪霊や妖怪を前にして恐怖のあまりに正気を失いそうになる時も偉大なる祖神の御名を唱えることでチャクラを通じて天照大神の太陽エネルギーを引き出すことができるようになっていた。

 

しかし、無限には引き出せないので、学校裏世界に呼び出された時に与えられる目標に向かって 毎回毎回を全力で取り組めるように あえて制限してくれているようでもあった。

 

実際、いろいろな異形と裏世界で戦うことになった私が正気を保つことができているのも、全ては伊勢神宮で授かった霊智のおかげであり、裏世界での戦いの恐怖を表世界に引き摺ることなく過ごせるようにメンタルケアも完備されていた。

 

 

それでも、私一人で戦うにはあまりにも妖怪たちは奇想天外かつ強大であった――――――。

 

 

今でこそ3ステップで妖怪退治を行えるプロセスが確立しているが、その鉄則がわかるまで雑魚妖怪相手にどれだけ霊的に殺されそうになったかを思うと、命がいくつあっても足りはしない。

 

他にも、並行宇宙からの侵略者であるWUMAは肉体を持つ(生命体である)が故に生命活動を停止させられるように肉体を欠損させれば普通に死ぬのだが、

 

妖怪共は霊的存在として肉体を持たない(生命体ではない)が故に殺すことができないので、きっちりと妖怪を妖怪足らしめている悪因縁を断ち切るように浮かび上がらせた線や点を浄化しないといけないのだ。

 

そのため、無闇に一撃死を狙って頭から真っ二つにしても逆に怨みを強めて復活してしまうので、WUMAとはちがった意味で常に急所を抉る一撃を繰り出していかないとならないので、毎回毎回の真剣勝負の重みが半端ではなかったのだ。

 

 

パシャパシャ・・・

 

飯守T「よっしゃあ! 一丁上がり!」

 

斎藤T「妖怪:塗壁の退治も順調ですね」

 

飯守T「けどよ、斎藤Tからすれば妖怪:塗壁の相手は今日が初めてなんだろう? 他にはどんなのが居たんだ?」

 

斎藤T「そうですね。たとえば、妖怪:馬の足という夜道を歩いているときに遭遇するといわれる日本の妖怪の退治もしましたね」

 

飯守T「……は? 『うまのあし』? えと、どれどれ?」スチャ ――――――デジタル妖怪図鑑で『うまのあし』を検索!

 

斎藤T「基本的にデジタル妖怪図鑑には解析した妖怪の個々のデータは裏世界から帰還する際に呪物化するのを防ぐ目的で即時抹消されているので、一般的なデータベースのものしか参照できませんけどね」

 

飯守T「うわっ!? なんだ、この脚しかないのに木の枝からぶら下がっているのは!? おっかねえ!?」

 

斎藤T「それが妖怪:馬の足で、校舎の桜並木にたくさんぶら下がっているのを見た時はあまりの意味不明さに血の気が引いたものです」

 

斎藤T「まあ、動かない的なので3ステップの妖怪退治のプロセスを確立するのに役に立ちましたけどね」

 

飯守T「……こいつの正体はいったい何なんだ?」

 

 

斎藤T「妖怪:馬の足の正体は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です」

 

 

斎藤T「足しかないのは夢の舞台に片足を突っ込んだ程度しかいられなかったから。桜の木にぶら下がっているのは入学シーズンの象徴で、嫉妬心から不用意に近づいたウマ娘に蹴り上げようとしているわけです」

 

飯守T「!!」

 

飯守T「つまり、来週からの入試期間の結果次第で妖怪:馬の足が再び桜並木にぶら下がってくるわけなのか!?」

 

斎藤T「こればかりはしかたがないですね。夢破れた受験生の未練の象徴ですからね。入学シーズンに不用意に桜並木に近づかなければ害はないし、実害も軽く蹴られた程度です。塗壁ほどの有害さはないです」

 

飯守T「…………本当にどうしようもないな、これは」

 

斎藤T「ただ、数が数ですからね。総生徒数2000名弱にもなるマンモス校として数多くの生徒を受け容れる努力をしても、入試倍率は凄まじいものですから」

 

斎藤T「これはこれで駆除するのも一苦労で、カメラのフィルムや金剛杵が足りなくなるので、別の意味で手強い妖怪でしたよ」

 

斎藤T「まあ、おかげで大量受注で使い捨てカメラや金剛杵の単価が安くなるメリットと妖怪退治の3ステップのプロセスを確立することができたので、良い訓練相手になりましたが」

 

飯守T「他には?」

 

斎藤T「他には、妖怪:馬鹿というオバケに襲われましたね」

 

飯守T「――――――『うましか』? 」スチャ ――――――デジタル妖怪図鑑で『うましか』を検索!

 

飯守T「ぎえええええええええ!? 何だ、このオバケぇえええええ!?」

 

斎藤T「凄いでしょう? 衣服を着て前足を左右に広げ、目ん玉が上に向かって飛び出した馬の姿で描かれていて、前足の蹄がふたつに割れて鹿の足になっているんだよね」

 

斎藤T「馬は1本指の奇蹄目で、鹿は2本指の偶蹄目ということで、馬のようでいて実際には鹿の足をしているオバケということで妖怪:馬鹿らしいです」

 

斎藤T「あ、この場合の馬というのは干支の“午”のことだけれど、イメージがつきます?」

 

飯守T「あ、ああ……。干支の“午”のことね……。てっきりWUMAのことかと思ったけど、本当にそっくりだよ……」

 

斎藤T「ええ。WUMAにそっくりです。ただ、WUMAは全身タイツに見える肌白が特徴なので、こんなふうに衣服を着ることもないですけど、目玉が飛び出ているのはさすがにビックリ仰天ですけどね」

 

斎藤T「おそらくWUMAと同じようにウマ娘がこいつと遭遇した場合は本能的な恐怖から発狂する可能性が非常に高かったわけなので、仲間に誘うことができなかったんです」

 

飯守T「ああ。というか、こんな両手を広げて迫ってくるだなんて正真正銘の変質者じゃねえか!? こいつはいったい何なんだよ!?」

 

 

斎藤T「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です」

 

 

飯守T「うわあああああああああああああああああああああ!?」

 

斎藤T「目玉が上に向かって飛び出しているのは『下を向きたくない』という報われない境遇の中での強がりと自己愛が妖怪化したもので、馬の蹄から鹿の蹄に変貌しているのは溢れんばかりの性欲によって闘争本能が萎えて蹄が割れたのがケアされていないことが具象化したものだと思われます」

 

飯守T「え、ええええええええええええ!?」

 

斎藤T「要するに、夢の舞台でスターウマ娘になるという自己実現の欲求が叶えられずに 唯一残されたものが思春期特有の情動に身を焦がして『誰かに自分を見てもらいたい』という非常にシンプルな承認欲求ですね」

 

斎藤T「つまり、夢の舞台で自己実現ができずに誰からも注目されない寂しさが生み出した承認欲求と愛欲のオバケですよ」

 

飯守T「…………俺のライスもそうなる可能性があったと考えると笑い事じゃなくなるな。あいつ、最初から自分が勝つことを前提にして話を進めるところがあったからな」

 

斎藤T「なので、とにかく自分以外のウマ娘が目立つのを嫌がり、自分が注目されるように注目を集めているウマ娘の側でアピールをしまくるわけですが、」

 

斎藤T「表世界ではまったく視えない存在であっても 当然 目玉が上に飛び出ているようなオバケの風体なので、何か変なのが一緒にいる気配を撒き散らして周囲のウマ娘の存在感を汚くする悪徳を働いているわけですよ」

 

飯守T「うわっ! 目に見えないのに目の毒になる妖怪かよ! 最悪だな!」

 

 

斎藤T「そうです。これからもトレセン学園は自己実現の欲求が叶えられずに妖怪になるウマ娘たちの無念を無限に創り上げていくわけです」

 

 

飯守T「……知りたくなかったかもしれない、そんな裏事情なんて」

 

飯守T「でも、本質はそこじゃないんだよな」

 

斎藤T「そうです。学校裏世界におけるウマ娘の無念が妖怪化したもののほとんどは大した害意をもっているわけじゃないんです」

 

斎藤T「どうも、ウマ娘は闘争本能の強さ故に白黒つけるのがハッキリしている分、勝負事での恨み辛みはあまり残さない性分らしいですね、裏世界の実態を見る限りだと」

 

斎藤T「傾向としては内向的で、自分の問題点を責める形で妖怪化しているのが大半です」

 

斎藤T「むしろ、勝負の世界で出走バ以上に熱くなって強烈な恨み辛みを残していくのが――――――」

 

飯守T「――――――『ヒトの方』だってことなんだな、妖怪:塗壁のように」

 

斎藤T「ウマ娘の塗壁はおそらくはいないはずです。トレーナー寮の出入りは可能ですからね」

 

飯守T「つまり、どこまでも本質が自分自身のことじゃないからこそ、ウマ娘レースで走る当人以上に周りの人間が外向的な傾向になって、結果として他者に積極的に害をもたらす妖怪にもなるわけなんだな」

 

 

斎藤T「そうです。ヒトをもっとも苦しめる存在は他ならぬヒト自身です」

 

 

飯守T「………………」

 

斎藤T「!」ピクッ

 

飯守T「?」

 

斎藤T「――――――どうやら、来たみたいですね」

 

飯守T「何が? 新手の妖怪か?」グッ ――――――金剛杵を握りしめる。

 

飯守T「ん、何だ!? 空に浮かんでいる玉虫色に光るアレは!?」

 

斎藤T「あれこそがウマ娘にとっての死神!」

 

 

――――――その名も妖怪:頽バ!

 

 

妖怪:塗壁 退治は一段落し、用意してきた使い捨てのフィルムカメラとプラスチックの金剛杵の数も心許なく、今日のところは飯守Tの初陣として戦果は十分として そろそろ撤収を考えていた時、やつは来た。

 

玉虫色に妖しく輝く緋色の着物と金の頭飾りを身につけた小柄なウマ娘が凍てつく波動の魔性の笑みを浮かべながら こちらに空からゆったりと降りてきたのだ。

 

最初に接触した時は心臓が凍りつくかのような恐怖に包み込まれて危うく殺されかけたのだが、そこを伊勢神宮で授かった真言を唱えることで生命の源である太陽エネルギーをチャクラから引き出すことができた。

 

それでようやくまともに戦うことが出来る学園裏世界最強の妖怪であり、今でこそ正体はヒトの悪霊であることがわかっているが、初遭遇時は見た目通りのウマ娘の妖怪だと誤認していた。

 

しかし、デジタル妖怪図鑑の完成によって正体を解析できた時、ウマ娘の異世界において最強クラスの妖怪であることを知り、ウマ娘のハーフである斎藤 展望の肉体が途方も無い絶望感に打ち震えるのを感じた。

 

 

そう、ウマ娘界最強の妖怪:頽バの正体はウマ娘という種族に対するヒトという種族が抱くコンプレックスが凝縮した妖怪であり、言うなればウマ娘に対するヒトの欲望が具現化した悪霊なのだ。

 

 

妖怪が妖怪としてその姿になるのは全て理由があるからであり、働きそのものが見た目になっていることを踏まえると、

 

玉虫色に妖しく輝く緋色の着物と金の頭飾りを身につけた小柄なウマ娘の姿になっているのはひとえにヒトのウマ娘に対するコンプレックスが可視化されたものと言える。

 

玉虫色の妖しい輝きは古来からのウマ娘に対する羨望や嫉妬が入り混じったヒトの感情が渦を巻いて乱反射しているからなのだろう。構造色:特定の波長の光同士が互いに強まったり弱まったりすることで目に見える色が変化したものに通じている。

 

また、法隆寺の玉虫厨子のように、タマムシ科の甲虫の翅は色彩が美しい上に年月を経ても色褪せないので、古くから調度品の装飾に使われていたとも言うので、仏の智慧の輝きとはちがう意味で物理世界に根を張った永遠なる輝きと言えた。

 

緋色の着物は大和朝廷時代より緋色が官人の服装の色として用いられて紫色に次ぐ高貴な色のイメージであり、やはりウマ娘に対する古来からの憧れや畏怖の色だと思われる。

 

あるいは、緋色とはスカーレット(scarlet);正しくはスカーレットレッド(茜染めの高級織物の赤色)であり、それに因んでスカー・レッド(scar red)という言葉遊びで嘲ることもある色らしい。

 

金の頭飾りもヒト社会におけるウマ娘の地位の高さ(ステイタス)の象徴であり、国民的スポーツ・エンターテインメントとして近代ウマ娘レースのスターウマ娘たちが持て囃されていることの象意であろう。

 

しかし、私からすれば『位が認められているということは位を認める存在に服従している』とも見做せるので、ヒト社会にウマ娘が服従していることの象徴にも見えた。

 

そして、小柄な体格のウマ娘として具現化しているのは、どれだけ高貴な身形をしていようとも『所詮はヒト社会では不自由を強いられるだけの小娘である』という本音が形になったものだと思われる。

 

実際、ウマ娘はヒトを超越した身体能力や美貌を持っていたとしても、その身体能力の高さから何かとヒト社会では不便や不自由を強いられてきたのは確かであり、

 

どれだけウマ娘が平均的にヒトを超越した力自慢であろうとも高性能化した重機のパワーと精密さには人力では敵わなくなってきているし、

 

文明開化を果たした近代国家においてはウマ娘特有の尻尾と長い耳が工場勤めでは邪魔になっていることもあり、ウマ娘は近代革命において一時期は労働力としてヒトの女に劣るウドの大木とされた時期さえあった。

 

そうしたヒトとウマ娘が共生する異なる進化と歴史を歩んだ21世紀の地球の複雑に入り混じったコンプレックスの象徴として、今まさしく目の前にヒトが生み出した最強のウマ娘の妖怪:頽バが降り立ったのだ。

 

そのため、妖怪退治の3ステップのプロセスが完成した今となっても、存在そのものがウマ娘の異世界に住むヒトの業の化身である妖怪:頽バの悪因縁を一時的に弱らせることはできても決して断ち切ることができないので、撃退するのが精一杯であった。

 

おそらく、世界中のヒトとウマ娘が共生する進化と歴史を象徴する場所にはその土地土地の妖怪:頽バが存在しており、まだ地球規模の存在ではないからこそ、私一人でも撃退できる程度の脅威ではあったが、

 

逆に言えば、学園規模の存在でさえも撃退するので精一杯の脅威であり、これが地域規模や国家規模にまでなった場合は本当に手が付けられないことが予想された。

 

 

なので、妖怪:頽バと遭遇したら 対抗手段である金剛杵にも数に限りがある以上 一目散に逃げる他なかったのだ。

 

 

何しろ、妖怪:頽バはヒトのウマ娘に対するコンプレックスが化身した妖怪だ。切り口1つで様々な形態になるため、何が飛び出してくるかがわからないぐらいだ。

 

そして、哀しいことに、別に妖怪:頽バだけが 特別 強敵というわけではない。他にもいろいろな複雑怪奇で退治するのに骨が折れる以上の妖怪共が存在していたのだ。

 

そもそも、妖怪退治の3ステップのプロセスの欠点は、何をするにしても対象に向けてのアクションが全てなので、まず対象を捕捉できないとどうすることもできないことにある。そのための広角レンズなのだ。

 

悪因縁を浮かび上がらせるためには最初の段階でデジタル妖怪図鑑を対象に向ける必要があるし、その悪因縁を浄化するためには金剛杵を命中させる必要があり、最後の封印もフィルムカメラでベストスナップする必要があるわけなのだから。

 

なので、今回はデカくて動きも鈍い妖怪:塗壁だったので飯守Tの初陣となるチュートリアルとしては最適だったが、妖怪:頽バのように小柄なウマ娘に擬態している妖怪が俊敏に動き回った場合はとてつもない脅威になるのは理解できるだろう。

 

しかも、見た目はウマ娘だが 実態はヒトの悪霊の集合体なので、三人寄れば文殊の知恵とでも言うのか、凄まじく悪知恵が発達しているのだ。

 

 

――――――ヒトの知恵とウマ娘の肉体の悪夢のコラボレーションが学校裏世界に存在していたのだ。

 

 

 

――――――現実世界/トレセン学園/中央広場

 

 

斎藤T「……どうでしたか、初陣の感想は?」ゼエゼエ

 

飯守T「いやはや、一筋縄ではいかないよな、さすがに……」ゼエゼエ

 

飯守T「正直に言って、楽勝な相手と一緒に詰みに近い相手と戦わなくちゃならない怖さで震えが止まらないよ……」ゼエゼエ

 

斎藤T「だとしても、いずれは妖怪:頽バは必ず退治しなければならない」ゼエゼエ

 

飯守T「だな。あんなのが裏世界にいることを知ったら、何とかしなくちゃならないと思う」ゼエゼエ

 

 

斎藤T「ただ、妖怪:頽バは校舎側に現れる最強の妖怪です」

 

 

飯守T「――――――『校舎側』?」

 

飯守T「おい、ちょっと待ってくれよ。それじゃ、まるで他にも最強の妖怪がトレセン学園の裏世界に巣食っているみたいじゃないか」

 

斎藤T「そうですよ。妖怪:頽バがヒトのコンプレックスがウマ娘の形になった最強の妖怪で、その領域がトレセン学園校舎だとすれば――――――?」

 

飯守T「ま、まさか!?」

 

 

飯守T「その逆となるウマ娘のコンプレックスがヒトの形になった最強の妖怪がトレセン学園学生寮に――――――!?」

 

 

斎藤T「ええ、いるはずですよ。妖怪:頽バは学生寮の領域に侵入できませんから」

 

飯守T「妖怪:頽バの正体がヒトだから、学生以外進入禁止の学生寮に入ったヒトがほとんどいないからだな」

 

斎藤T「そうです。同じように、学生であるウマ娘のほとんどが足を踏み入れたことがない場所には、ウマ娘に由来する妖怪は入ってこれないです。それが証拠です」

 

斎藤T「ライスシャワーの死の予言は別なところで知りましたが、学校裏世界の実態を見れば その因果にも納得がいくでしょう?」

 

飯守T「ああ……」

 

飯守T「納得かも。今だって理想のトレーナーからスカウトされるのを夢見て部屋に閉じこもっている生徒がいるんだから」

 

斎藤T「それに、聞いたことがありますか?」

 

 

――――――トレセン学園学生寮に現れるという“座敷童子”の噂。

 

 

国民的スポーツ・エンターテインメントの夢の舞台であるトレセン学園の闇は深い――――――。否、それこそが異種族共生社会の現実であり、避けようがない必然でもあった。

 

しかし、そうなるのがわかっていながら何もしないでいるのが21世紀の人間の悪いところであり、

 

自分たちの悪習や悪性を理解していながら自己改革を果たそうとしないところが23世紀の人間とはまったくちがう生き物のように感じられていた。

 

つまり、歴然とした学問や教養の差であり、人と霊と神が一体となっていた太古の時代への帰還はまだまだ先のことに感じていた。

 

 

だが、それでも私は契約書のない契約を律儀に果たそうと足掻き続ける他なかった。

 

 

それが23世紀の本当に素晴らしい時代に生まれ育った人間としての誇りであり、地球の文明の継承者としての自負心がそうさせた。

 

正直に言って、もう自分ではどうしようもないほどの脅威の数々に向き合わされ続けており、23世紀の宇宙科学による文明開化を目指すためにはそれらを順番に解決しなくてはならないとあきらめてさえいた。

 

それらを無視をして自分の夢に邁進したら21世紀の地球がどうなっていくのかがわかるだけに、私は多方面に渡って孤独な戦いを続けなくてはならないだろう。

 

WUMAに人造人間に、学校裏世界の妖怪、それにトレセン学園のトレーナーとして担当ウマ娘をレースで勝たせる他に、現実世界の複雑な人間関係や権力構造とも戦っていかなくてはならないのだから。

 

ただ、そうした戦いの日々に言いようのない高揚感を抱いているのも本心であり、ここに来て『剣と惑星もの(Sword and Planet)』の冒険活劇の日々に悦びを感じているのも事実であった。

 

そのため、運命の歯車が回って冒険活劇の陶酔感に浸って流れていくように毎日を送っており、新たな発見と未知への興奮が絶えることがない。

 

そういう意味では、私はとにかくどうしようもないほどに宇宙移民として最高の資質を持っており、

 

それが当初の予定とはまったくちがった新惑星での日々に活かされているのだから、自分の運命なんてものは肯定も否定もせずに只今を生きるだけだ。

 

だから、今日の反省を踏まえて 次はどの手を使おうか どうしてやろうかと考える度に、明日の予定はもっともっと夢が詰まっていく。

 

そして、小休止の後、校内の見回りをして今日も今日とて期末テストに追われている生徒たちの勉強を風景を横目に、

 

学業が本分である子供たちのよくある恨み言である『テストなんてなくなればいい!』と喚いている生徒たちの心の叫びが妖怪に変わっていないかをロッドアンテナを向けて確かめるのであった。

 

 

――――――今日も期末テスト必勝祈願の豆撒きをする必要がありそうだ。

 

 

もっとも、豆とは言っても実際には無色透明の魔除けのお香の消臭ビーズを煎り豆に見立てて投げることでリラックス効果のある香りを拡散させて恨みの炎の初期消火を行うようなものである。

 

それを誰もいなくなった頃合いを見計らってそこら中に投げつけるわけであり、人の体温に触れてから1分以内に拡散するので速効性があり、辺りにお香が漂うので気分が非常に和らぐことだろう。

 

だからこそ、こうして校舎側の清掃ができても学生寮に撒くことができない歯痒さがあり、どうにかして生徒たち自身で学生寮の清掃をしてもらいたいところだが、迂闊なことを教えられないのが現状であった。

 

人の心の世界は無限大に拡がっているからこそ ありとあらゆる天国と地獄に感応するわけであり、面白半分に踏み込んで正気を完全に失う危険性があった。

 

そして、現実世界においては身体能力こそヒトを超越しているウマ娘だが、霊的な次元においてはヒトがウマ娘に完全に勝っていることも知ったため、霊的なことに関しては適材適所でヒトにやってもらいたかった。

 

なので、学校裏世界にある学生寮には何度か進入することはできているのだが、裏世界の生き物の糧になるものを供給し続けている表世界の改革に着手できない現状が歯痒いばかりだ。

 

こういった面でまだまだ21世紀の人間は未熟な文明の担い手であると言え、自分たちが出した悪因縁の後始末ができない赤ん坊のようなものであった。

 

だが、それが事実だからといって自分だけの世界に逃げ出すことも叶わないのなら、可愛げのないブサイクな赤ん坊の面倒を見るものだとわりきって、真心をもって接していく他ないのだ。

 

これもまた私個人の人間形成の修行の道であり、生徒たちにとっては期末テストは決まった時期に必ず訪れる季節の風物詩であるが、

 

私にとっては年中絶えず訪れる試練の数々が 今まで自分が学んできたことの全てが問われる 赤点で世界が終末を迎えてしまう 期末テストのようなものである。

 

なので、私も一夜漬けの付け焼き刃で期末テストに臨むのではなく、心を落ち着けて日々の誠心誠意の努力で成績を掴み取る堅実さを忘れないように、

 

試験期間中の生徒たちの断末魔を何度も耳にしてから無心で魔除けのお香の消臭ビーズの豆撒きをするのであった。

 

 

――――――鬼は内! 福は内! 鬼は内! 福は内!

 

 

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