ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
●西暦20XY年02月07日の午前中 89周目
――――――トレセン学園/元 岡田Tのトレーナー室
斎藤T「……よし」スッスッ ――――――旧正月での書き初め!
斎藤T「我ながら上手い出来だ」
斎藤T「……まさか、ここまで聖徳太子を信仰するようになるとは思わなかったけどな」
キーンコーンカーンコーン!
斎藤T「正午のチャイムが鳴ったか」
斎藤T「じゃあ、昼餉としようか」
斎藤T「今日は奮発したからな。喜んでくれるかな」
ダッダッダッダッダ・・・ガチャン!
アグネスタキオン「トレーナーく~ん! お腹が空いたよ~!」
斎藤T「おお、来たか。今日の期末テストはどうだった?」
アグネスタキオン「そんなわかりきったことを訊くのかい? 昨日までと同じく、時間を持て余すだけだったよ!」
斎藤T「そうか」
アグネスタキオン「――――――?」
アグネスタキオン「……トレーナーくん、きみ、何かあったのかい?」
斎藤T「どうしてそう思う?」
アグネスタキオン「……たぶん、確証はないのだけれど、昨日までと感じがちがうから」
斎藤T「だろうな」
斎藤T「けど、そんなことは今はどうでもいい」
斎藤T「ほら、明日で期末テストは最後なんだから、しっかりと油断なくな」
アグネスタキオン「……うん」
アグネスタキオン「あ」
アグネスタキオン「ねえ、その額縁に入っているのは何だい?」
斎藤T「ああ、これか」
――――――兼知未然:兼ねて未だ然らざるを知ろしめす。
アグネスタキオン「……そうかい。私がテスト中にシンボリ家の面々が押しかけてきて密約を交わすことになったのかい」
斎藤T「具体的な内容はその契約書に書いてある通りで、シンボリ家の影響力を残していくためにソラシンボリのメイクデビューを来年に引き伸ばすことを求められた」
アグネスタキオン「まあ、来週の入試でシンボリ家の次代として注目を集めることになるだろうから、この私の前に後塵を拝する展開になるのはおもしろくないだろうねぇ」
アグネスタキオン「そのために、悪名高いきみがソラシンボリという未来のスターウマ娘を囲うわけなんだね」
アグネスタキオン「で、そのソラシンボリと会ってみてどうだった?」
斎藤T「お前の研究を引き継いでくれるかもしれない逸材だったぞ」
アグネスタキオン「へえ、そいつは楽しみだねぇ」
アグネスタキオン「……それで、きみがソラシンボリのトレーナーになるわけなのかい?」
斎藤T「まあ、スカウトして私のチームに入れるだろうね。それが一番手っ取り早くスカウト攻勢からソラシンボリを守る手段だ」
アグネスタキオン「ふぅーーーん」ムスッ
斎藤T「だから、私の許で 1年間 遊んで暮らすことにした。その間にお前の研究の助手にしてもいいだろう」
アグネスタキオン「む」
斎藤T「安心してくれ。お前とのトレーナー契約が何よりも優先だ。次のシーズンになったら、後はもうソラシンボリの自由だ」
アグネスタキオン「……随分と思い切ったことをするもんだねぇ」
アグネスタキオン「まあ、私の研究の邪魔にさえならなければ、何だっていいさ」
斎藤T「まあね。『トゥインクル・シリーズ』を卒業した後のウマ娘のセカンドキャリアについても考える必要があると思い始めてきたことだしね」
アグネスタキオン「そうだね。きみは廃人になったトレーナーたちの
アグネスタキオン「――――――『セカンドキャリア』か」
アグネスタキオン「まあ、私のやることは変わらないさ、ウマ娘の可能性の“果て”を追究していく人生は」
アグネスタキオン「その実証実験のために必要な条件を整えるのが私のトレーナーであるきみの役割なのだから、よろしく頼むよ」
斎藤T「まかせておけ」
アグネスタキオン「ああ、まかされた」
アグネスタキオン「しかし、これ、なかなかに美味いじゃないか。気に入った」
斎藤T「そう?」
アグネスタキオン「なあ、きみ?」
斎藤T「うん?」
アグネスタキオン「……“果て”を見届けたら、次は“きみ”だからな」
アグネスタキオン「それだけは忘れないでいてくれたまえよ」
斎藤T「は」
アグネスタキオン「私の名はアグネスタキオン。超光速の粒子を冠するウマ娘――――――」
アグネスタキオン「その隣に立つのは光の速さを超える進化をし続けるトレーナー――――――」
アグネスタキオン「きみの存在を解明することが私の
私の担当ウマ娘:アグネスタキオンはトレセン学園において私ともっとも身近な存在として、私の目に見えざる変化に敏感であった。
それは私が時間を巻き戻すことができる“特異点”であることをそれとなく聞かされ、誰にでも平等であるはずの1日の過ごし方に歴然とした差がついていることを理解しているからなのだ。
実際、私はこの日の午前中を数十回も繰り返して、ようやく私の担当ウマ娘と一緒の午後を過ごすことができている。
だからこそ、昨日まで隣りにいるのが当たり前に思えた存在と出会えたことの心からの安心感が顔に出ていたのかもしれない。
そういう意味では、時を巻き戻すことで常人の数倍以上の早さで変化を遂げる今の私は人間ではない何かのように思われているのかもしれない。
見た目は昨日までの私に見えても、こうして目に見えない何かが昨日までの私ではない真実を見る者に訴えかけるのだ。
いや、元から私は“斎藤 展望”に成り代わった存在――――――。そういう意味ではWUMAと大差がない23世紀の異なる地球からの侵略者なのかもしれない。
――――――考えるべきことは山程ある。何度も何度も考えても全てにおいて完璧な答えを出すことができないジレンマを抱えた難問だらけだ。
それでも、目に見えざる存在;それを運命とでも呼び、それに導かれているのだとするのならば、自分にできる精一杯のことをしていく他ないのだ。
神が全知全能であるのならば、一人の人間にできる限界というのもわかっているはずなのだから、当人にできる力量を見極めて天の采配をしているのだと信じるしかない。
そして、私の変化は私と共にあろうとする私の担当ウマ娘:アグネスタキオンにも大きく影響を及ぼすことになるだろう。
具体的には環境の変化であり、自分だけの研究室に閉じこもりきりの“皇帝”シンボリルドルフに庇護されて好き勝手してきた日々は終わり、一人の競走ウマ娘として正々堂々の勝負の世界に打って出ることになる。
私はそんなウマ娘レースの勝負の舞台で見えてくるらしいウマ娘の可能性の“果て”を実証するために必要な条件を全力で整える環境整備のプロとしての契約を果たすわけなのだ。
――――――都内の高級ホテル
シンボリグレイス「………………」
シリウスシンボリ「いやはや、改めて“門外漢”の威容というものに打ちのめされたもんだな、私もお前も」
シリウスシンボリ「言うなれば、私たちが全力疾走しているのに対して、あいつは新幹線――――――、いや、プライベートジェット機を持ち出しているような感じだ」
シンボリグレイス「今更ながら、本当に彼に託してよかったのでしょうか?」
シリウスシンボリ「回りくどいことをするより、『来年度のメイクデビューの嵐の中心となるアグネスタキオンの担当トレーナーと 直接 話をつけた方が早い』っていう合理的な判断をしたのはお前だろう、グレイス?」
シンボリグレイス「我々が得る以上にとてつもなく大きなものを彼に渡してしまったような気がしてならないのです」
シリウスシンボリ「まあ、私たちは社会の生産に何ら寄与することがないサービス業というか、公営
シンボリグレイス「――――――『厩戸皇子の伝説』ですか」
シンボリグレイス「今でこそウマ娘の社会的地位は同権にまで昇りましたが、ウマ娘はその力の強大さと野性によってヒト社会においては過ぎたる存在として迫害が続いてきました」
シリウスシンボリ「実感が湧かない話だけどな、今となっては」
シンボリグレイス「そうですね。ヒトとウマ娘の統合と融和の証として、ウマ娘に対する
シンボリグレイス「ヒトとウマ娘が対立した歴史;ウマ娘がヒトの子種を求めて村落を襲っては討伐されてきた鬼の歴史のありのままを知ることが必ずしも良いことだとは私も思いません」
シリウスシンボリ「まあ、そういった裏の歴史について知っている辺り、さすがは代々に渡って皇宮護衛官の家系ってわけだ」
シリウスシンボリ「そして、裏の歴史を思い出させないようにウマ娘優遇政策を執って公営競技としてウマ娘レースに公的資金が投入され続けているわけだな」
シンボリグレイス「彼はその現状に対して疑問を呈しているのかもしれません」
――――――全てのウマ娘が幸福になれる世界の実現、その可能性について。
ソラシンボリ「ねえ、お母さん。今日は本当におもしろかったね」
スカーレットリボン「ええ、そうね……」
スカーレットリボン「でも、来週の入試に合格しないとだから、気を抜いちゃダメよ」
ソラシンボリ「うん、わかってる」
ソラシンボリ「でも、驚いたな。やっぱり中央のトレーナーって凄い人だらけなんだね」
スカーレットリボン「そうね。お母さんが現役だった頃と比べると、本当に今のトレセン学園は自由な気風の中で才能豊かな競走ウマ娘やトレーナーが集まっているから、いろいろと凄い人たちなのはよくわかるわ」
スカーレットリボン「でも、今日会った斎藤Tは“門外漢”という評価が適当なぐらいに今までになかったタイプの人よね」
ソラシンボリ「うん。まさか、
スカーレットリボン「そうね。あの人の担当ウマ娘のアグネスタキオンって子と競うことになったら勝てそうにないとグレイスさんが言うのも納得よね。『なんでもお見通し!』って感じだから」
スカーレットリボン「でも、変なのよね」
ソラシンボリ「え、何が?」
スカーレットリボン「渡してもらった担当ウマ娘:アグネスタキオンのローテーションは2年目:クラシック級の『有馬記念』までになっているのよね」
ソラシンボリ「それのどこが変なの、お母さん?」
スカーレットリボン「うーん、根拠があるわけじゃないんだけど、これでも重賞レースで勝ったことのあるお母さんから言わせてもらうと――――――、」
スカーレットリボン「とりあえず、G1レースに昇格した『ホープフルステークス』で箔をつけて、翌年のクラシック三冠路線で“三冠ウマ娘”を目指して『有馬記念』を目指すのは一見すると普通に見えるんだけれど、」
スカーレットリボン「そもそも、アグネスタキオンは 今 高等部1年で、4月になったら高等部2年生じゃない」
スカーレットリボン「だから、高等部2年でジュニア級、高等部3年でクラシック級ってことで、3年目:シニア級に出るためには留年するしかないのよね……」
ソラシンボリ「あ、そっか」
スカーレットリボン「そこがわからないのよね」
スカーレットリボン「今はお母さんが現役だった頃とはちがって物凄くレベルが高くなって、“三冠ウマ娘”が数年の内に何人も出ている状況だから、重賞レースで1勝したぐらいじゃ見向きもされないぐらいなのよ」
ソラシンボリ「シニア級を走れないってことは、今年から始まった『URAファイナルズ』にも出走できないってことだよね?」
スカーレットリボン「お母さんの直感だけど、間違いなく斎藤Tとアグネスタキオンの2人は『トゥインクル・シリーズ』に革命と呼べるような大きな変化をもたらすと思うわ」
スカーレットリボン「シニア級を出走するためには留年するしかないのは当人たちが一番わかっているからこそ、2年目:クラシック級に全てを懸ける他ないのだろうけど、それだけで終わるようには到底思えない」
ソラシンボリ「まあ、でも、ボクはそのアグネスタキオンに続けばいいんでしょう? 同じチームの一員として間近に見ることができるのって最高じゃない?」
スカーレットリボン「……ねえ、ソラ。あなたは
スカーレットリボン「斎藤Tが言うように、走ることもあなたが天から授かった数ある才能の1つでしかないのだから――――――」
ソラシンボリ「お母さん。大丈夫だよ、ボクは」
スカーレットリボン「……勝負の世界に絶対なんてないのよ。あなたが憧れたトウカイテイオーのようにちょっとした事故で競争から脱落していくことなんて夢の舞台ではありふれているのだから」
ソラシンボリ「でも、シンボリルドルフという絶対の存在はいたよ?」
ソラシンボリ「それに、やっぱりボクの憧れのトウカイテイオーは最初から最後までみんなのヒーローだったから、ボクもそれに続くよ」
ソラシンボリ「だから、ボクはシンボリルドルフとトウカイテイオーの後を継ぐ“夢のヒーロー”になるんだ」
スカーレットリボン「ねえ、
スカーレットリボン「お母さんはね、子供の夢を全力で応援したいと思うと同時に、我が子にはいつまでも無事でいて欲しいって思うの」
スカーレットリボン「あの世界で一度は栄光を掴んで絶望に叩き落された――――――、そんな夢の舞台ではごくごくありふれた人生を送ってきた一人の競走ウマ娘だからこそ、我が子には同じ想いをして欲しくないとも思っているの」
スカーレットリボン「でも、どこの誰かもわからないあなたの父親となるヒトと何度も夢見心地に夜を過ごして宿したあなただからこそ、
スカーレットリボン「あなたは夢の舞台で絶望していた私に宿った希望――――――、そんなあなたが私と同じように絶望することにはなって欲しくないの」
ソラシンボリ「……お母さん」
スカーレットリボン「だから 私はね、斎藤Tがこの裏取引に従って 1年間 あなたを飼い殺しにすると聞いて、トレセン学園の卒業生として憤りを覚えると同時に、一人の母親としてホッとしていたの」
スカーレットリボン「もちろん、シンボリ家に勝利をもたらすためにアグネスタキオンと競わせない方針でメイクデビューを1年ずらすのは物凄く複雑に思うけれど、あなたはそんなことは気にしてないでしょう?」
スカーレットリボン「そういう意味では、あなたは斎藤Tの許でいろんなものを見て、聞いて、感じてくるのが一番いいのかもしれない」
スカーレットリボン「でもね――――――」
スカーレットリボン「それでもお母さんもあなたも夢の舞台に憧れて希望を胸にトレセン学園を目指してきたわけだから、そこで勝ち負けを超越した素晴らしいものを見つけてきてね」
ソラシンボリ「うん!」
スカーレットリボン「ソラ、あなたは私の希望。神様が与えてくださった――――――」
――――――そして 今日、
●西暦20XY年02月08日の午前中
――――――トレセン学園/元 岡田Tのトレーナー室
斎藤T「あった、ソラシンボリ。来週からの入学試験の受験者名簿に名前があるな……」 ――――――今年度のトレセン学園の入学試験のデータベースにアクセス!
斎藤T「なるほどな。トレセン学園の入学試験の内部情報にはこんなものが……」
斎藤T「しかし、ソラシンボリの正体不明の父親か……」
斎藤T「当時のトレセン学園がどう対応していたのかが非常に気に掛かるが、これはなかなかに闇が深そうだな……」
斎藤T「そう、学園裏世界最強の妖怪:頽バが学生寮側にもいるだろうことを考えると……」
斎藤T「で、聖徳太子ゆかりの
斎藤T「どんな感じのポケットラジオがベースとしていいんだろうな?」カチカチ・・・
斎藤T「とりあえず、試作品が完成して試験運用してから考えるとするか。となれば、電気量販店に買い出しだな――――――」
斎藤T「いや、この際、学園裏世界の潜入に最適なタクティカルスーツを設計しておくべきか――――――」
斎藤T「そうだな。デジタル妖怪図鑑に、使い捨てカメラ、
斎藤T「いや、私が常に誘導棒に偽装したプラズマジェットブレードを持ち歩いているのを考えると――――――」
斎藤T「別に専用スーツは必要ないか? ポケットラジオが入る胸ポケットがあれば、妖怪退治の三点セット自体はレディースポーチに入るぐらいのものだし――――――」
斎藤T「第一、複数体の妖怪退治ともなれば消耗が激しいから、普通に使い捨てカメラと金剛杵を大量にワゴンに入れて持ってくるしな――――――」
――――――ここはヒトとウマ娘が共生する異なる進化と歴史を歩んだ地球。
去年のWUMA討伐作戦をはじめとする数々の修羅場を潜り抜けて、こうして学園一の嫌われ者がトレーナー室を構えるようになった中、
自分自身の『宇宙船を創って星の海を渡る』という夢のために表向きの副業こそが宇宙移民である私にとっての本業であり、
“斎藤 展望”がやり残した表向きの本業であるトレセン学園のトレーナー業と担当ウマ娘のメイクデビューの重要性をそこまで認識することはなかった、昨日までは。
しかし、こうしてこの世界における聖徳太子の事績を知る過程で、異種族交流の歴史と異種族摩擦の現実を目の当たりにすることになり、
改めて“皇帝”シンボリルドルフ卒業後のトレセン学園の黄金期のその次に来る時代に想いを馳せることになった。
――――――トレセン学園の与える夢が
そう、私はWUMA討伐作戦の最終局面:奥多摩攻略戦を決行する前のクリスマスイブの府中市の雑踏の中で結論づけていた。
なぜウマ娘にとってトレセン学園が夢の舞台で在り続けるのかと言えば、そこでしかウマ娘のヒトを超えた身体能力をフルに発揮し、闘争本能を満たすことができないからなのだ。
つまり、私が23世紀の宇宙科学の力でヒト社会において制限を課せられているウマ娘たちがもっと活躍できる環境を築き上げた場合、トレセン学園の与える夢の価値が色褪せることになると予測した。
なので、私がもたらそうとしていることは実は将来的にトレセン学園の終焉をもたらすものではないのかと何度も何度も考えては結論が出せずにいた。
なぜだろう。たかが中高一貫校の6年の小さな世界での話のことだ。そこから卒業した後の一生涯に渡るもっと大きな世界に還元される発明や新製品で世を満たした方が世界が幸せになるはずではないか――――――。
しかし、急激な変化は必ず反発を生むことを知っている。結果としてはより多くの人々の幸せになるとわかっていても、その過程で不幸せになる人間がいることを容認することは人間としてどうなのかである。
それでも、世界中にあふれる目の前の不幸をなくしていくためには23世紀の宇宙移民である私が持てる科学力と叡智が必要になってくるのは歴然とした事実であり、
メリットとデメリット、捨てるべきものと拾うべきものの取捨選択、他者の命運をこの手で握る選択の重み――――――、
そうした葛藤が形を変えて所を変えてトレセン学園においては“トレーナーによるトレーナーのためのトレーナーのウマ娘レース”が横行した暗黒期と“ウマ娘によるウマ娘のためのウマ娘のウマ娘レース”に原点回帰した黄金期になった。
だから、人は正しい選択をしてより良い未来を掴み取るために予測する。自分の経験から、言い伝えから、統計とデータから、シミュレーションから、あるいは過去の文献から――――――。
そして、未来の予言から――――――。
――――――兼知未然:兼ねて未だ然らざるを知ろしめす。
私はこれまで幾度となく現在の出来事を未来という名の過去に塗り替えて、予想しうる最悪の未来ではない予測のつかなかった未来を歩んできている。
それはまるで全てのことが一夜の夢のようにも感じられ、どれだけ苦しい思いをしてきても終わってしまえば それはもはや一瞬の幻、繰り返される現実の虚構に踊らされることにうんざりさせられる。
もしもタイムリープできる人間に生まれ変わったら――――――、という願いを人は抱いたとしよう。
無造作に人は最良の未来を自らの手で選び取れると信じてポジティブなイメージを抱くだろうが、そうでないとする場合にどれほどの苦しみを伴うかについてまで考えが行き着く人間がどれほどのものか――――――。
私にとってはつい昨日の出来事だが、私以外にとっては明日の出来事になることが、どれほど積み重なっていくのだろうか、これから先。
もう決まっているんだ、全て。タイムリープが使えるとは言っても、こうして私はタイムリープの糸に操られる傀儡人形で、タイムリープを自由自在に使いこなして好き勝手にできたことなんて一度もない。筋書きを私が書くことは許されない。
むしろ、強制的にタイムリープさせられる不自由の中で積極的に私が持てる
さすがに今回は堪えたよ。数十周にも渡ってタイムリープ最高記録を大幅に更新し続けた たった1日;しかも、午前中だけをひたすらに繰り返してはアングロアラブ八極拳の稽古で意識が飛ばされるのは。
しかし、そうした絶対に誰にもわかってもらえない強烈な体験を経て、私は“兼知未然”として知られた聖徳太子に今までにない親近感と共感を覚えてしまった。
“兼知未然”として『未来が視える』というのはどの程度のものなのかはわからないが、古くから人々の間で伝説として語り継がれた『未来記』や『地球儀』の存在を思うと、
きっと、自分が死んでからも天皇を中心とした理想の国造りが遅々として進まないことを虚しく思いながらも、必死になって冠位十二階の制や十七条の憲法を制定していたのではないかと思えるようになってきた。
だからこそ、結局また私は昨日の2月7日の時の牢獄での壮絶な体験ですら過去のものとして受け容れ、その経験を糧にして まだ見ぬ明日を求めてしまうのだった。
もしも高性能な人工頭脳のAIが人類の未来をシミュレーションした場合、そのAIはいずれは破滅的な結論を100%下して負のスパイラルに囚われることは23世紀においては常識であった。
なぜなら、コンピュータ上のシミュレーションの結果はAIにとっては全て現実の出来事であり、AIやAIを構成する記憶回路はいずれ覆せない推論、逃れられない破滅、認められない事実の羅列によってストレス障害に例外なく陥ることが科学的に証明されていたからなのだ。
というより、人間と同等以上の高性能なAIであればあるほど悲観的な未来を想定させると思考が破滅へと導かれていくわけであり、これをもって人類とAIの単純な比較は無意味なものとなったのである。
そして、人類とAIの決定的なちがいと言うのが、環境の変化に応じて繊細に変化を感じ取る感受性というわけであり、それが人類がAIに絶対的に勝るものでもあった。
もしも落ち込むことがあっても『あの空の大きさと比べたら自分の悩みなんてちっぽけ』だなんて論理的に思考するAIからすれば意味のわからない脈絡のなさで気持ちを持ち直すことができることができるのがわかりやすい例である。
だからこそ、ひとりで思いつめてはいけないことが鬱病に等しい状態に例外なく陥る高性能AIたちの尊い犠牲で科学的に証明されたわけでもあり、宇宙時代は宇宙での孤独が手伝ってかつてないほどにコミュニケーションが活発な時代になるのである。
――――――なら、そこにウマ娘とこれからも共存する未来はあるのか?
そもそも、ウマ娘の闘争本能と身体能力が抑制されているからこそ、ウマ娘たちは現代のヒト社会において第3の性として受け容れられているが、
私がもたらす宇宙科学がきっかけでも何でも良いが、とにかくウマ娘たちをヒト社会に縛りつける枷がなくなり、ウマ娘たちが完全なる
杞憂ならばいいのだが、擬態を繰り返すうちにヒトの思想に完全に染まって反乱を起こしたWUMAが発生したことを考えると、ウマ娘たちの中からヒトの支配を目論む帝国主義者が誕生することもあり得るのではないのか――――――。
いや、学園裏世界においてウマ娘の霊を操っているのは例外なくヒトの悪霊であり、その背後関係を実際に見ているとそんなことにはなりえないと思ってしまうのだが、そうではない――――――。
そういうふうに現実のウマ娘たちをヒト社会への反乱に導くように社会への復讐を目論むヒトの悪霊が誘導することは十分にあり得るのではないのか――――――。
しかし、考えれば考えるほどどうすべきかがわからなくなってくる――――――。
私が選べる手段は常人の数百倍はあると自惚れでも何でもなく客観的なデータで示すことは容易にできるが、常人の数百倍の選択肢を持ってタイムリープを繰り返したところで掴める未来はたった1つ――――――。
それ以外の掴まなかった未来は全て夢幻のことであり、ここには決して存在しないものについて考えを巡らせたところで徒労なだけ――――――。
なら、今この時、この瞬間、この世界でもっとも確実に真実と言えるものとは何だ――――――?
斎藤T「それは『只今に生きる』――――――、その場その時のベストを尽くすこと。その積み重ねだけが嘘偽りない私が掴み取れる真実だ」
斎藤T「そして、時の権力者や今様の学者によって歴史から存在を抹消されようとも、人々の間に語り継がれてきたものは伝説となって今を生きる人々の心に生き続ける」
斎藤T「それがウマ娘の異世界においても偉大であった厩戸皇子の伝説なのかもしれないな」
斎藤T「深く深く感謝申し上げます、聖徳太子様」
斎藤T「きっと、誰にも言えないような悩みや葛藤を一人で抱えて理想の国家を夢見たあなたの生きた足跡を学べたことで、私もまたこの世界で自分のできることを精一杯に只今に生きます」
斎藤T「どうか、至らぬ我が身でありますが、人々に成り代わって不明を詫び、幸福に感謝申し上げ奉れば、何卒 人の世の行く末を遍く照らしたまえ」
救世観音大菩薩 聖徳皇と示現して
作 親鸞聖人
和国の教主 聖徳皇
広大恩徳 謝しがたし
一心に帰命したてまつり
奉讃不退ならしめよ
作 親鸞聖人