ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-シークレットファイル 20XX/08/15- GAUMA SAIOH
正確には、日付はすでに翌日のものとすべきだが、8月15日の夜更けまでの出来事として記録する。
隕石の落下地点の確認を終えた私とヒノオマシは帰路の途中で 馬の嘶きに似た この世のものとは思えない鳴き声を聞き、命の危険を感じて全速力でその場から離れた。
そして、警察に必要な情報を渡し、近所の人たちに隕石の落ちた森には誰も入らないようにバリケードを設置して封鎖させ、
それぞれの日常に帰るために藤原さんが迎えに来るまで一眠りしに、祖母の屋敷への帰り道でそれと遭遇する事態となった。
――――――仮に“怪人:ウマ女”とでも名付けておけばいいのだろうか?
この世界にはウマ娘はいても四足歩行動物で有名なウマ:Equusは完全に存在しないため、完全な馬面をした奇怪な存在を前にしたウマ娘の妹は悲鳴を上げることなった。
23世紀の人間の私からすると パーティーグッズの馬のマスクを被っているようにしか見えない ふざけた存在にしか見えなかったのだが、
怪人:ウマ女がウマ娘と決定的に異なる点というのが、まず『衣服を着ていない』――――――それに尽きる。
あるいは、全身白タイツの可能性があったが、石膏像のような真っ白な外見は丑三つ時を過ぎた真夏の夜更けには幽霊のようにも見え、嫌な冷や汗が止まらなかった。
少なくともメスとわかる豊満な胸の輪郭はあっても秘所は見えないので最低限のドレスコードに問題はなかったのだが、怪人:ウマ女の異形はそれだけではなかった。
咄嗟に妹を突き飛ばして難を逃れたが、頬を掠めた一撃で吹き出た血が頬を伝うことになった。
恐ろしく早い手刀に思えたが、そうではなかった。
なんと、怪人:ウマ女の手は馬と同じ蹄となっており、手刀と言うよりは拳鍔や手甲鉤のような鋭い暗器に近いものになっていた。
だが、片方の手は普通に5本指となっており、何なら足の方もヒトと同じ平たい足になっている。
いきなりの奇襲と疲労からの油断で一撃を入れられたと思い、皇宮警察の両親から幼くして鍛えられた斎藤 展望の優れた動体視力を駆使して、その動きを捉えようとする。
斎藤 展望の記憶が完全に失われたとしても、宇宙船エンジニアの私も宇宙移民の一人として護身術に嗜みはある。腕っ節も強い方だとも思っていたぐらいだ。
相手は馬面のマスクを被ったようなヘンタイの2m近い巨体ではあったが、それだけ首が大きければ絞め落とすのは容易――――――。
しかし、次の瞬間には2m近い巨体の怪人:ウマ女の姿が完全に消えていたのだ。瞬きなんかしていないし、完全に視界から外さないように睨みを利かせていたはずなのに――――――。
まさかのまさか、怪人:ウマ女は人間の動体視力では完全に追えない速度を静止状態から繰り出すことができたのだ――――――。
斎藤T「う、うわああ……、あああ……」ズキズキ・・・ ――――――身体のあちこちを抉られて血を流す。
陽那「あ、兄上、兄上ぇ……」ガクガク・・・ ――――――完全に腰が抜けて呆然としている他なかった。
怪人:ウマ女「オカシイ……。タダノサルノブンザイデ ドウシテココマデヨケラレル?」
怪人:ウマ女「フム、ケイローンノシマツハゼッタイデハアルガ、コレハメズラシイサンプルトシテモチカエルトシヨウ」
怪人:ウマ女「モシカスルト、ヨゲンノ――――――」
斎藤T「く、来るなぁ……」ズキズキ・・・
陽那「兄上……!」ガクガク・・・
陽那「なさけない! 父上や母上になんとお詫びしたらよいか……!」ガクガク・・・
怪人:ウマ女「サア、カンネンスルンダナ、ケイローン!」 ――――――とどめを刺すつもりか、5本指の手から蹄の手に変える。
斎藤T「こ、これまでか……」
陽那「兄上えええええええええ!」ガクガク・・・
――――――利き足を狙うんだ!
斎藤T「え?」
斎藤T「もう、どうにでもなれええええええ!」
怪人:ウマ女「――――――」
陽那「あ――――――」
ドゴォ! ズサアアアアアアアアアアアア!
怪人:ウマ女「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
斎藤T「ぐあっ……」ドサッ
陽那「え!? いったい何が……!?」
ヒトよりも遥かに優れた身体能力を持つウマ娘の陽那の眼にすら見切ることができない怪人:ウマ女は次の瞬間には思い切りズッコケて路面に勢いよく顔面をこすり付けることになった。
あの時、私は怪人:ウマ女が攻撃する時は一瞬だけ右足から先に動くのを見て取っていたことから、
命の危機に際して聞こえてきた謎のアドバイスに耳を傾けて、怪人:ウマ女が高速移動するより早いか同時に自然と自分の左足を振り抜いていたのだ。
不思議だった。ヒトの眼では残像すら捉えることができないのに
事実、怪人:ウマ女の右脚の飛節;人間で言うところの足首や踵にあたる部位に直撃した。履いていた安全靴の鉄芯が砕ける感触もしながら。
そうか、高速移動する瞬間に怪人:ウマ女の両脚は私が知る蹄の脚に変化していたのか――――――。
それなら、自分が出した猛スピードで事故った際の衝撃を馬なんて繊細な生き物が耐えられるはずもないか――――――。
こうして怪人:ウマ女はしばらく苦痛にのたうち回った後にまったく動かなくなったのだった。
『沈黙の日曜日』に代表されるように、ヒトよりもはるかに優れた身体能力を持つウマ娘でさえも、自身のスピードに耐えきれずに致命的な故障を引き起こすのだから、
それよりも圧倒的に素早く動く怪人:ウマ女が飛節に受けた衝撃は全身の細胞を破壊し尽くすだけのカタストロフを引き起こしたにちがいない。
そのためか、ピクリとも動かなくなった怪人:ウマ女は砂粒のように崩れ去っていく石膏像のように塵となってしまったのだった。本当に全身の細胞が崩壊したようだった。
残された白い塵の山がわずか5分足らずの凄惨な事件の記憶を物語るものとなった――――――。
そして、脅威が去ったことを理解すると、私の意識はそこで途絶えた。
その結果、パトカーとほぼ同時にやってきた救急車で搬送されることになり、病院で治療を受けることになってしまった。
しかし、怪人:ウマ女の攻撃を全て紙一重で躱しきっていた奇跡で、傷口の手当と輸血だけで済み、湿布だらけの身体になったものの、その日のうちに退院することになった。
一方で、バケモノに襲われたことを私に代わって警察に訴えた妹ではあったが、
証拠になりそうな怪人:ウマ女であった灰を集めても証拠不十分として『猛獣に襲われた』とだけ処理されてしまい、信じてもらえなかった。
そうそう、予想通り、あの辺一帯に どこから嗅ぎつけたは知らないが 野次ウマが集まり出してしまい、盂蘭盆会の静かな時間が奪われてしまったそうだ。
警察も炎天下の中で規制しているが、さっさと隕石を回収してもらうために専門機関の派遣を要請し、すぐに隕石が回収されると、また元の静けさに戻ったそうだ。
――――――その後、自動車ディーラー巡り
陽那「自分の未熟さを思い知りました……」
陽那「兄上のように敢然と立ち向かう勇気と強さを身に着けるために精進いたします」
陽那「それと、兄上が捕まえた海外のカブトムシ:コーカサスオオカブト、またの名をキロンオオカブトは私が飼うことにしました。たまには顔を見せに来てくださいね」
斎藤T「そうか。ヒノオマシにも
陽那「そんな……」フフッ
斎藤T「まあ、それも大切な経験だ。しっかりと面倒を見るんだぞ」
陽那「はい!」
藤原さん「お前さんも競走バの担当をまじめにするなら、自分のクルマぐらい持ったらどうなんだ?」
藤原さん「今まではクルマ代をケチッて可能な限り使わないで節約してきていたがよ、もう金のことを気にする必要はなくなったんじゃないのか?」
斎藤T「そうですね……、レンタカーで済ませるわけにもいかないですか?」
藤原さん「ダメに決まっているだろうが。レース当日の交通費は経費にはなるが、練習のためのクルマ代は全額負担にならないのは知っているだろう?」
藤原さん「トレーナーになるってのは『担当ウマ娘が稼いだ賞金の大半が食費とクルマ代に消える』だなんて言われているぐらいだぞ?」
斎藤T「その辺りのことを以前はどう考えていたのやら……」
藤原さん「とにかく、俺を足に使うのは今日限りだからな。今日この日に愛車を買うんだな」
藤原さん「言っとくが、天下のトレセン学園のトレーナーが中古車やお古なんてのはNGだからな。そういったところもパパラッチにチェックされるからな」
藤原さん「ただでさえ お前さんは嫌われてんだから、評判を これ以上 下げることがないように用心するんだぞ、テン坊」
斎藤T「はい」
陽那「となると、みんなリムジンなんですか?」
藤原さん「そこまでの高級車は普段遣いで求められてはいないさ。それこそ、レース場に向かう際は学園が手配したハイヤーのリムジンに乗るからな」
藤原さん「そうじゃなくて、『国民の憧れの花形職業としてプライベートもしっかり見られていることを意識しろ』って話だ」
藤原さん「クルマの中を覗かれないようにスモークだって必要だし、いろいろと気を遣うんだよ、人気者ってのは」
藤原さん「それに、お前さんだって男なんだから、トレーニング場に移動するためにトレーナーのクルマに頼るしかないウマ娘を乗せた時に恥ずかしい思いをしたくはないだろう?」
藤原さん「妹さんをヤニ臭いクルマに乗せた時のことを考えてみろ」
斎藤T「それは嫌ですね、心底」
藤原さん「だろう? 担当ウマ娘にとっても大切な移動手段として利用されるものになるんだから、お前さんがいらなくても担当には必要なもんだと割り切るんだよ」
斎藤T「わかりました」
藤原さん「まあ、いきなり複数人の面倒を見ることはないだろうし、そこまで遠出もしないだろうから、ミニバンである必要はないか」
斎藤T「もしヒノオマシだったら、どんなクルマに乗りたい?」
陽那「そうですね。大勢の人を乗せるならミニバンでいい気もしますけど、そこまで人を乗せることもないなら軽トールワゴンでいいと思います。収納性と燃費を重視すると、です」
斎藤T「そうだよな。いろいろなトレーニング機材を積む必要もあるしな。それにウマ娘の耳のことも考えると車高が高いクルマが必要不可欠か」
藤原さん「だからって、実用性重視で軽トラはやめろよ。お前さんも皇宮警察の両親の血筋なんだからさ」
斎藤T「わかってますって」
斎藤T「………………」
陽那「兄上……?」
斎藤T「そう言えば、ウマ娘に撥ねられたんだよな……」
斎藤T「自動車との並走も可能で走力は時速60キロメートルをゆうに超えるんだろう?」
斎藤T「
陽那「ああ…………」
藤原さん「たしかにな。そこは『両親が守ってくれた』と考えればいいんじゃないのか?」
陽那「そうですよ! 兄上は父上や母上の宝物なんですから!」
斎藤T「ありがとうございます」
斎藤T「……どういうことなんだろうな、実際?」
――――――ウマ娘に撥ねられて意識不明の重体に陥った斎藤 展望はなぜ怪人:ウマ女の目にも留まらぬ動きについていけたんだ?